(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−ヒドロキシメチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1種もしくは2種以上のものである請求項4に記載の抗菌性印刷用シート。
ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを50:50〜10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理工程を介して、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする請求項6に記載の抗菌性印刷用シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0023】
≪印刷用シート≫
本発明の抗菌性印刷用シートは、シート状の基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成されたコート層とを備えるものであり、このコート層として、アクリル系ポリマーからなる連続相中にジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下、クレイが30質量%以上50質量%以下、炭酸カルシウムが10質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるものを有する。
【0024】
なお、本発明にかかる抗菌性印刷用シートとしては、基材の少なくとも一方の表面に上記したコート層を有する形態のものであれば、その他の構成については特に限定されるものではなく、例えば、基材とコート層の間に、なんらかの機能を有する中間層、例えば、基材とコート層との密着性を良くするためのシーラント層、印刷用シートに彩色及び柄等を与えるための内部印刷層、遮蔽層等、あるいはコート層を設けていない基材表面上への保護層、粘着層等、更にはコート層表面への保護層等を任意で設けることができる。
【0025】
(1)基材
本発明の抗菌性印刷用シートにおける基材の材質としては、特に限定されず、樹脂系材料を主成分とするプラスチックシートから構成されていても良いし、紙系の材料から構成されていても良く、合成紙から構成されていても良い。更に、基材としては、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシート、特に、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いることが、環境保全の観点から、また機械的強度、耐熱性等の特性が向上する観点から好ましい。
【0026】
(樹脂成分)
前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートを構成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、印刷用シートの用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記した様にポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであっても良い。
【0029】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン等の炭素数4〜10のα−オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良く、更に二元共重合体のみならず三元共重合体であっても良い。具体的には、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム3元共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を例示できる。
【0030】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン1共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン1共重合体、エチレン−4メチルペンテン1共重合体、エチレン−オクテン1共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0031】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
(無機物質粉末)
上記した様に、基材が無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合における、当該シート中に配合され得る無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して使用され得る。
【0033】
更に、無機物質粉末の形状としても、特に限定される訳ではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られる様な球形のものであっても、あるいは、天然鉱物を粉砕にかけることにより得られる様な不定形状のものであっても良い。
【0034】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウムが好ましい。更に炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCO
3を主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、好ましくは、重質炭酸カルシウムである。
【0035】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0036】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を予め常法に従い表面改質しておいても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0037】
無機物質粉末は、粒子であることが好ましく、平均粒子径は、0.1μm以上50.0μm以下が好ましく、1.0μm以上10.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、特記しない限りJIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。特に、その粒子径分布において、粒子径50.0μmを超える粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形体の製造が困難になる虞がある。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。
【0038】
無機物質粉末は、繊維状、粉末状、フレーク状、又は顆粒状であっても良い。
【0039】
繊維状である無機物質粉末の平均繊維長は、好ましくは、3.0μm以上20.0μm以下である。平均繊維径は、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。また、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。なお、繊維状である無機物質粉末の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡で測定したものであり、アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)である。
【0040】
基材が上述した様に無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合に、これに含まれる上記した熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との配合比(質量%)としては、前記した様に、50:50〜10:90の比率であることが望ましいが、40:60〜20:80の比率であることがより好ましく、40:60〜25:75の比率であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合比において、無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、無機物質粉末を配合したことによる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0041】
(その他の添加剤)
また、基材が、前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合には、その組成中に、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0042】
(紙系材料)
基材が紙系の材料から構成される場合の具体例として、グラシン紙、コート紙、上質紙、無塵紙、含浸紙等の紙基材、及び上記の紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0043】
(基材構成)
基材は上記した材料より構成される一層のシートにより構成されていても良いし、あるいは複数層が積層されて基材を構成していても良い。また、基材が前記プラスチックシートあるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートの場合には、当該シートは未延伸のものであっても良いし、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであっても良い。
【0044】
基材の厚さとしては、特に限定はないが、通常10μm以上400μm以下、好ましくは25μm以上350μm以下である。
【0045】
また、プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートからなる基材を用いる場合には、その表面に設けられるコート層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0046】
(2)コート層
本発明の抗菌性印刷用シートが有するコート層は、前記基材の片面のみに設けられても良く、両面に設けられても良い。このコート層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることがより好ましく、3μm以上5μm以下であることが特に好ましい。この範囲内の厚さであると、コート層が(さらにはそこに付された印刷インキ層が)十分な抗菌性を示す上、インクの受容層として十分に機能し良好な着色性、発色性等といったインク受容特性を発揮し、かつ、印刷用シートの耐水性、表面の帯電防止性、インクとの密着性等といった特性も良好となる。
【0047】
しかして、本発明においては、このコート層は、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、ジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、より好ましくは0.50質量%以上1.50質量%以下、更に好ましくは0.60質量%以上1.40質量%以下、酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下、より好ましくは0.12質量%以上0.80質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以上0.60質量%以下、クレイが30質量%以上50質量%以下、より好ましくは30質量%以上45質量%以下、更に好ましくは35質量%以上40質量%以下の割合で、炭酸カルシウムが10質量%以上30質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下、更に好ましくは20質量%以上25質量%以下の割合で添加されてなるものである。
【0048】
コート層においてアクリル系ポリマーからなる連続相中にジンクピリチオン、酸化亜鉛、クレイ、及び炭酸カルシウムがそれぞれ上記した所定量においてバランス良く存在することで、印刷用シートに優れた抗菌性が発現する上、耐水性と白色度が所望のものに維持され、さらには耐候性も向上する。また、抵抗率、特に表面抵抗率が下がり、例えばLBP印刷を行う場合に高電圧をかけなくともトナーを転写させることが可能となる。耐油性も向上し、インクの速乾性が上がり、油性オフセット印刷適性が向上する。
【0049】
このコート層において、ジンクピリチオンの配合量が上記範囲内よりも少なくなると、十分な抗菌性を得ることができない。一方、ジンクピリチオンの配合量を上記の範囲より増やしても、抗菌性は必ずしも向上せず、また、界面へのジンクピリチオンのブリードが大となって、コート層と基材及び印刷インキ層との接着性が低下する場合がある。
【0050】
また、このコート層において、酸化亜鉛、クレイ、及び炭酸カルシウムの配合量が上記範囲から外れると、ジンクピリチオンが適正量配合されてもコート層や印刷インキ層の表面に十分にブリード・移行せず、所望の抗菌性が発現しない場合がある。これら充填剤の配合量が上記範囲外の場合、コート層の基材及び印刷インキ層への接着性、トナーの転写性、耐水性、耐油オフセット適性、更には白色度等の外観に悪影響を来す場合がある。
【0051】
なお、本発明の抗菌性印刷用シートが有するコート層は、前記したようにジンクピリチオンと共に特定の充填剤を所定の配合割合で配合することにより形成されるものであるため、配合される充填剤の量及び粒子径、並びに形成されるコート層の厚さを適宜調整することによって、コート層の表面をある程度の粗度を持ってマットなものとすることも、あるいは光沢度を高めたグロスなものとすることも可能である。
【0052】
以下、本発明のコート層を形成する各成分につき詳細に説明する。
【0053】
(連続相を形成するアクリル系ポリマー)
コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物が含まれる。なお、本明細書において用いられる「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」と「メタクリル」との双方を含む意味で用いているものである。
【0054】
より具体的には、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではないが、
アクリル酸、メタクリル酸;
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;
例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステル;
例えば、アクリル酸2−ヒドロキシメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;
例えば、エチレングリコール単位を分子内に持つポリエチレングリコール(nは3以上20以下が望ましい。)ジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)トリアクリレート、フェノールEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)アクリレート、
例えば、アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル、
例えば、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;
例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;
例えば、側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基又は加水分解性アルコキシシリル基等を有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル;
例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド;
例えば、N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミド等のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;及び、
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
更に、アクリル系ポリマーに光硬化反応等により架橋構造を導入し、コート層の皮膜強度を高めようとする場合には、2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを配合することも可能である。
【0055】
これらのモノマー成分は、単独で、又は複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明でコート層の連続相を構成するアクリル系ポリマーは、上記に例示の各種のモノマー成分の内の何れかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であっても良い。
更に、本発明の一実施態様においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系ポリマーとして用い得る。
【0056】
上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニル等のビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。しかしながら、好ましくは得られるシートの耐候性の観点から、スチレンを含まないことが望ましい。
【0057】
なお、本発明の抗菌性印刷用シートにおいてコート層を形成する方法としても特に限定されるものではないが、一般的には、この様なコート層を形成する上での塗工性の観点から、水に分散/又は有機溶剤に溶解した形態で用いることが望ましく、特に、水に分散させた形態、すなわち、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの形態であることが望ましい。このため上記アクリル系ポリマーとしては、コート層を形成する原料としての段階で水性エマルジョンの形態を有するものであることが好ましい。
【0058】
アクリル系ポリマー水性エマルジョンを製造する上での乳化重合自体は当業者に周知である。その乳化重合において用いられる界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性のものを単独、又は2種以上併用することが可能である。これらのうち好ましくはノニオン性、カチオン性のものである。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等がある。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、N−2−エチルヘキシルピリジニウムクロライド等があるが、最も好ましくはノニオン性界面活性剤である。又それらのうちポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルが特に好ましい。界面活性剤の量は、特に限定される訳ではないが、通常、単量体の総量の1〜5質量%が好ましく用いられる。
【0059】
更に、保護コロイド剤としてゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを併用しても良い。
【0060】
また、乳化重合におけるラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプ等が例示されるが、水溶性のものが好ましい。重合開始剤は、特に限定される訳ではないが、例えば、単量体の総量の0.01〜0.50質量%の割合で用いることができる。
【0061】
重合反応は、特に限定されるものではないが、通常35〜90℃の温度で攪拌下に行われ、反応時間は通常3〜40時間である。また、乳化重合の開始時あるいは終了時に塩基性物質を加えてpHを調整することで、エマルジョンの放置安定性、凍結安定性、化学的安定性等を向上させることができる。この場合、得られるエマルジョンは、pHが5〜9となる様に調整することが好ましく、そのためにアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリ等の塩基性物質を使用することができる。
【0062】
特に限定されないが、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを好ましく例示できる。
【0063】
(ジンクピリチオン)
本発明においては、コート層中に、抗菌剤としてジンクピリチオンが上記の割合で配合される。ジンクピリチオンは有機亜鉛錯体で、IUPAC名はビス(2−ピリジルチオ)亜鉛1,1’−ジオキサイドである。幅広い殺菌スペクトルを有することで知られ、市販もされているが、本発明ではいずれの市販品をも使用することができる。無機粉末等の他の物質との複合材であっても良い。
【0064】
本発明においてジンクピリチオンは、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、下記の充填剤と所定の割合で組み合わせて配合される。このことによって、本発明の抗菌性印刷用シートは、ジンクピリチオンのみを含有するコート層を有するシートとは異なり、優れた抗菌性と印刷適性を発現する。
【0065】
(酸化亜鉛)
本発明においては、コート層が充填剤の一つとして、酸化亜鉛を含有する。後記する実施例でも示すように、酸化亜鉛の含有によって、ジンクピリチオンに起因する抗菌性が高められ、本発明の抗菌性印刷用シートは優れた抗菌効果を奏する。
【0066】
本発明において用いられる酸化亜鉛としては特に限定されず、公知の酸化亜鉛を適宜利用することができる。例えばJIS K 1410−1995で規定された1種(純度99.5%以上)、2種(純度99.5%以上)、3種(純度99.0%以上)の酸化亜鉛、粒径の細かい(0.1μm程度以下)活性亜鉛華等が使用できるが、これらに限定されない。上記したジンクピリチオンとの混合物の形で供給されている製品を、使用することもできる。その形状や粒子径にも特に制限はなく、例えば体積平均粒子径が0.05μm以上10μm以下、特に0.1μm以上5μm以下、更には0.5μm以上2μm以下の粉末を使用することができる。こうした粒子径の酸化亜鉛を併用することにより、ジンクピリチオンに起因する抗菌効果を、更に顕著なものとすることができる。
【0067】
(クレイ)
本発明においてはまた、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、更なる充填剤として所定の割合でクレイを配合する。
【0068】
本発明において用いられるクレイとしては特に限定されず、公知のクレイを適宜利用することができる。なお、本明細書において「クレイ」とは、層状構造を有する粘土鉱物の他、イモゴライトやアロフェン等の層状構造を有しない粘土鉱物も含むものとする。層状構造を有する粘土鉱物としては、スメクタイト、バーミキュライト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、ヘクトライト、ハロイサイト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、スメクタイト、雲母、脆雲母、セリサイト(絹雲母)、イライト、グローコナイト(海緑石)、ハイドロタルサイト等の膨潤性鉱物;カオリン鉱物(カオリナイト、高陵石)、サーペンティン、パイロフィライト、タルク(滑石)、クロライト(緑泥石)、ゼオライト(沸石)、等の非膨潤性鉱物が挙げられる。また、この様なクレイとしては、天然のクレイ、合成クレイ、有機化クレイが挙げられる。
【0069】
なお、前記有機化クレイとしては特に限定されず、公知の何れのものも包含され得るが、クレイが有機化剤により有機化されてなるものであることが好ましい。この様な有機化される前のクレイとしては特に限定されず、いわゆる粘土鉱物であれば良く、上記に例示した様な何れのものであっても良い。また、この様なクレイは天然物であっても合成物であっても良い。
【0070】
また、前記有機化剤としては特に限定されず、クレイを有機化することが可能な公知の有機化剤を適宜利用することができ、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等を用いることができる。
【0071】
本発明において用いられるクレイとしては、特に限定されるものではないが、特に、カオリンクレイが、コート層における均一分散性の観点から好ましい。
【0072】
またこのクレイの粒子径としては、特に限定されるものではなく、形成しようとするコート層の厚さによってもある程度左右されるが、例えば、体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下、より好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、更に好ましくは0.5μm以上1.0μm以下であることが好ましい。この様な粒子径範囲を有するものであると、形成されるコート層においてクレイを分散性良く配合することができ、上述した基材接着性の向上、印刷適性の向上、帯電防止性能といった所期の効果をより好適に発揮し得るものとなる上、ジンクピリチオンに起因する抗菌効果を、更に顕著なものとすることができる。
【0073】
なお、クレイの形状としては、特に限定されるものではなく、球状、楕円球状、扁平状、不定形状等の何れのものであっても良い。
【0074】
また、クレイとしては、粒子間の粒度が均一であることが、コート層の面内特性を均一にする上で望ましい。
【0075】
更に、クレイの比重としては、特に限定されるものではないが、例えば、1.5〜3.0、より好ましくは、2.0〜2.8であることが、形成されるコート層全体に均一に分散され得る上で望ましい。
【0076】
(炭酸カルシウム)
本発明において、前記コート層は充填剤として、酸化亜鉛及びクレイと共に、炭酸カルシウムを含有する。本発明においては、上記の充填剤と共に、炭酸カルシウムを用いることによって、ジンクピリチオン由来の優れた抗菌性が発現する。炭酸カルシウムの配合により、コート層の平滑化や、適度な光沢性の維持も可能となる。
【0077】
本発明において用いられる炭酸カルシウムに特に制限はなく、例えば上記の基材用の原料として例示した炭酸カルシウムを使用することができる。粒子径も特に限定されるものではないが、例えば、体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下、特に0.07μm以上1.50μm以下であることが好ましい。この様な粒子径範囲を有するものであると、ジンクピリチオンに起因する抗菌効果を、更に顕著なものとすることができる上、印刷用シートとして望まれる白色度や、コート層の平滑性及びシートの光沢性を向上できるものとなる。
【0078】
(その他の添加剤)
本発明において、前記コート層は、上記以外の添加剤等の他の成分を含有しても良い。
添加剤としては、具体的には、架橋剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インク定着剤、硬化剤、耐候剤等が挙げられる。
【0079】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0080】
また、インク定着剤として、アクリル樹脂以外のカチオン性樹脂や、多価金属塩を含有することが好ましい。カチオン性樹脂としては、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等が挙げられる。多価金属塩としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム化合物が好ましく、硝酸カルシウム四水和物がより好ましい。
【0081】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系の消泡剤が用いられ、好ましくは鉱物油系の消泡剤である。疎水性シリカタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ8034、ノプコ8034−L、SNデフォーマーAP、SNデフォーマーH−2、SNデフォーマーTP−33、SNデフォーマーVL、SNデフォーマー113、SNデフォーマー154、SNデフォーマー154S、SNデフォーマー313、SNデフォーマー314、SNデフォーマー316、SNデフォーマー317、SNデフォーマー318、SNデフォーマー319、SNデフォーマー321、SNデフォーマー323、SNデフォーマー364、SNデフォーマー414、SNデフォーマー456、SNデフォーマー474、SNデフォーマー476−L、SNデフォーマー480、SNデフォーマー777、SNデフォーマー1341、SNデフォーマー1361(以上がいずれもサンノプコ社製)、BYK−1740(BYK社製)等が市販されている。また、金属石鹸タイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコDF−122、ノプコDF−122−NS、ノプコNDW、ノプコNXZ、SNデフォーマー122−SV、SNデフォーマー269、SNデフォーマー1010(以上がいずれもサンノプコ社製)等が市販されている。また、アマイドワックスタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ267−A、ノプコDF−124−L、SNデフォーマーTP−39、SNデフォーマー477T、SNデフォーマー477−NS、SNデフォーマー479、SNデフォーマー1044、SNデフォーマー1320、SNデフォーマー1340、SNデフォーマー1360、SNデフォーマー5100(以上がいずれもサンノプコ社製)が市販されている。これらは1種のみを単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、消泡剤の使用量としては、特に限定されるわけではないが、コート層を形成する塗工液の全体に対して0.01〜0.03質量%が望ましい。
【0082】
防腐剤としては、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや2−メチル−2H−イソチアゾール−3−オン等が挙げられるが、これらに限定されない。2種以上の防腐剤を任意の比率で併用することも可能である。
【0083】
なお、本発明に係るコート層は、上記した酸化亜鉛、クレイ、及び炭酸カルシウム以外の充填剤に関しても、上述した優れた効果を阻害しない限り添加することは可能ではあるが、それらのその他充填剤は実質的に含まない、例えばコート層全質量の10質量%以下、特に5質量%以下であることが望ましい。他の充填剤の含有によって、ジンクピリチオンのブリードに基づく抗菌性が、阻害される場合がある。特に、例えば、ポリメチルメタクリレート粒子に代表される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のようなポリマー微粒子は、実質的に含まないことが望ましい。
【0084】
また、コート層を形成するための塗工液の調製は、例えば、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとして、アクリル系ポリマー水性エマルジョンを用いる場合には、上記充填剤乃至はその水等への分散体を、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの分散媒である水中に添加して、適当な攪拌乃至分散機、例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等を用いて、500〜3000rpmの回転条件で、通常1〜5分間分散させることにより行い得る。なお、充填剤をアクリル系ポリマー水性エマルジョン中にそのまま投入すると凝集を生じる虞があるため、予め、必要に応じて分散剤を配合して、水等の媒体中に充填剤を分散させた分散体を調製した上で、アクリル系ポリマー水性エマルジョン中に配合してもよい。
【0085】
<抗菌性印刷用シートの製造方法>
本発明の抗菌性印刷用シートの製造方法としては、公知の基材表面にコート層を形成する方法を使用することができ、例えば、基材の片面又は両面に、乾燥質量でジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下、クレイが30質量%以上50質量%以下、炭酸カルシウムが10質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンからなる塗工液を、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等の適当な手法により、塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。コート層の乾燥又は硬化の際の温度条件としては、特に限定されるものではないが、例えば90〜120℃の温度にて行い得る。
【0086】
なお、基材として、上記した無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いる態様においては、例えば、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50〜10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理を介して、基材シートの片面又は両面に、乾燥質量でジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下、クレイが30質量%以上50質量%以下、炭酸カルシウムが10質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンからなる塗工液を、適宜の方法により塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを成形する上での、無機物質粉末とポリオレフィン樹脂との混合は、成形機にホッパーから投入する前にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良く、成形機による成形と同時にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良い。無機物質粉末以外のその他の添加剤に関しても同様である。また、溶融混練は、ポリオレフィン樹脂に無機物質粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。上記無機物質粉末をポリオレフィン樹脂に配合する際においては、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記ポリオレフィン樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で処理する態様であることが望ましい。
なお、シート状に押出し成形する時における成形温度としては、同様の温度で成形することが好ましい。
【0087】
更に、シート状に成形する際における、延伸処理として特に限定されるものではなく、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、乃至は、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。
【0088】
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が良好なものとなる。
【実施例】
【0089】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解をより容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0091】
(抗菌性)
ISO22196(JIS Z2801)に従い、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を測定した。
後記する印刷後の又は印刷前の各試料に、大腸菌又は黄色ブドウ球菌を接種して24時間放置した後の生菌数と、同一条件で24時間放置後の参照検体(ブランク)の生菌数との差を、各試料の各菌に対する抗菌活性値とした。抗菌活性値が2以上の試料を、合格品と判定した。
【0092】
(抗ウィルス性)
ISO21702に従い、インフルエンザウィルスに対する抗菌性を測定した。
後記する印刷後の又は印刷前の各試料に、ウィルスを接種して24時間放置した後のウィルス感染価と、同一条件で24時間放置後の参照検体(ブランク)のウィルス感染価との差を、各試料の抗ウィルス活性値とした。抗ウィルス活性値が2以上の試料を、合格品と判定した。
【0093】
(LBP印刷適性)
印刷用シートのLBP印刷適性を調べるために、各シートに対して、レーザープリンター(製品名:Versant 80 Press、富士ゼロックス株式会社製)にて、カラー及びモノクロテストパターンを印刷し、トナーの定着性を目視により観察し、以下の評価基準に基づき、印刷適性を評価した。
・評価基準
○ テストパターンが綺麗に印刷され、トナーの剥離が全くない。
△ テストパターンが良好に印刷されているが、トナーの剥離がやや生じている。
× テストパターンがうまく印刷されず、トナーの剥離が著しく生じている。
【0094】
(オフセット印刷適性)
印刷用シートのオフセット印刷適性を調べるために、各シートに対して、オフセット印刷機(製品名:RMGT920、リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社製)にて、UVオフセットインクを用いてテストパターンを印刷し、着肉性、インキの定着性を目視により観察し、以下の評価基準に基づき、オフセット印刷適性を評価した。
・評価基準
○ テストパターンが綺麗に印刷され、着肉不良、インキの剥離が全くない。
△ テストパターンが良好に印刷されているが、着肉不良、インキの剥離が若干生じている。
× テストパターンがうまく印刷されず、着肉不良、インキの剥離が著しい。
【0095】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0096】
・基材
S1:ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)36.0質量部と、無機物質粉末として平均粒子径2.2μm(JIS M−1511に準じた空気透過法による平均粒子径)の炭酸カルシウム粒子60.0質量部と、更に滑剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)2.0質量部を、二軸スクリューを装備した押出成形機(Tダイ押出成形装置φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練し、混練した原料を成形温度220℃でTダイによりシート成形し、引き取り機で巻き取りながら延伸して基材となる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを作成した。なお、この様にして得られたシートの肉厚は200μmであった。
【0097】
・アクリル系ポリマー:アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸、酢酸ビニル、ロジン誘導体とを、質量比26:16:44:8:6:3の割合で含有してなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=50:50(質量比))
・ジンクピリチオン
・酸化亜鉛:体積平均粒子径0.75μm
・クレイ:カオリンクレイ(体積平均粒子径0.29μm、比重2.6)
・炭酸カルシウム粒子:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.34μm、比重2.6)
・分散剤:ポリアクリル酸ナトリウム
・増粘剤:デンプン
・消泡剤:疎水性シリカタイプの鉱物油系消泡剤
【0098】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
上記のアクリル系ポリマー水性エマルジョン、ジンクピリチオン、酸化亜鉛、クレイ、及び炭酸カルシウムをそれぞれ、下記表1に示す添加量(固形分)で配合し、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合して、コート層塗工液を調製した。なお、表1において示す各原料の添加量は、コート層塗工液の乾燥質量換算の値である。なお、何れのコート層塗工液においても、分散媒として水を用い、固形分濃度は約55質量%とした。また、何れのコート層塗工液においても、分散剤を約0.2質量%、増粘剤を約0.5質量%、及び消泡剤を約0.1質量%配合したが、これらの増粘剤及び消泡剤は必須の成分ではなく、これらを加えなくとも、コート層塗工液を調製することは可能であった。この様にして調製したコート層塗工液を、前記した基材の両面に、乾燥後の塗工量が各4g/m
2となる様にマイクログラビア法によって塗工し、110℃にて乾燥させて、印刷用シートを作成した。得られた各印刷用シートについて、上記の方法でLBP印刷適性、オフセット印刷適性を評価した。次いで、これら印刷後又は印刷前の各シートについて、抗菌性及び抗ウィルス性を、上記の方法で評価した。得られた結果を、表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例1〜3より、本発明に従い、アクリル系ポリマーからなる連続相中にジンクピリチオン、酸化亜鉛、クレイ、及び炭酸カルシウムが規定量配合されたコート層を有する抗菌性印刷用シートは、白紙の状態(印刷前)でも、各種方式での印刷後においても、優れた抗菌性及び抗ウィルス性を示すことが明らかとなった。一方、コート層がジンクピリチオン不含の比較例1では、抗菌性は発現しなかった。また、コート層がジンクピリチオンを3質量%以上含む比較例2では、抗ウィルス性は問題なかったものの、ジンクピリチオンが印刷用シート表面に過剰にブリードし、印刷適性が不良となった。一方、コート層が本発明の規定を満たす実施例1〜3の抗菌性印刷用シートは、いずれも良好な印刷適性を示した。
【0101】
[実施例3、比較例3〜6]
コート層における各充填剤の含有量を表2に示すように変動し、また、クレイの代わりにタルク(平均粒径:3.3μm)を使用して、実施例3と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。尚、表2中の含有量は、いずれも固形分に基づく質量%の値である。
【0102】
【表2】
【0103】
本発明で規定された配合のコート層を有する実施例3のシートは、抗菌・抗ウィルス性、印刷適性共に良好であったのに対し、酸化亜鉛不含の比較例3のシートでは、抗菌性・抗ウィルス性が不十分であった。クレイや炭酸カルシウムの含有量が本発明の規定外である比較例4及び5、クレイの代わりにタルクを用いた比較例6のシートにおいても、抗菌・抗ウィルス性か印刷適性のいずれかが不良であった。ジンクピリチオンだけでなく充填剤の含有率についても、本発明で規定された配合から外れると、抗菌・抗ウィルス性と印刷適性の両者に優れた抗菌性印刷用シートは得られないことが示された。
【課題】インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、抗菌・抗ウィルス性、及び印刷適性に優れ、基材とコート層の密着性が良好であり、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れた印刷用シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリル系ポリマーからなる連続相中にジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下、クレイが30質量%以上50質量%以下、炭酸カルシウムが10質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるコート層を有していることを特徴とする印刷用シートである。