(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂基材の表面上に、有彩色で着色された少なくとも1層の下地塗膜層が形成され、前記下地塗膜層上に、前記下地塗膜層よりも明度が低い色で着色された表層塗膜層が形成され、前記表層塗膜層に対するレーザ照射により部品表面に微細な装飾が施された加飾部品を製造する方法であって、
明度が70以上の高明度色で着色された樹脂基材または無色透明の樹脂基材を準備するとともに、その樹脂基材の表面上に少なくとも1層の前記下地塗膜層を形成する下地塗膜層形成工程と、
前記下地塗膜層上に、明度が20以下の低明度色で着色された前記表層塗膜層を形成する表層塗膜層形成工程と、
前記表層塗膜層に対する赤外線レーザの照射によって、前記表層塗膜層を貫通して前記下地塗膜層を部分的に露出させる第1のレーザ加工溝を形成することにより、前記部品表面に微細な装飾を施すレーザ加飾工程と
を含むことを特徴とする加飾部品の製造方法。
前記下地塗膜層形成工程では、明度が70以上の白色、乳白色、灰白色または象牙色で着色された樹脂基材を準備することを特徴とする請求項1に記載の加飾部品の製造方法。
前記レーザ加飾工程では、前記表層塗膜層の表面に、前記第1のレーザ加工溝よりも深さが浅く、前記表層塗膜層を貫通してない第2のレーザ加工溝をさらに形成することを特徴とする請求項1または2に記載の加飾部品の製造方法。
前記下地塗膜層において前記第1のレーザ加工溝の直下に位置していない非露出領域が存在するとともに、前記樹脂基材の表面を基準とする前記非露出領域の表面までの高さの平均値を100としたとき、前記樹脂基材の表面を基準とする前記露出領域の表面までの高さの平均値が、100以上130以下であることを特徴とする請求項6に記載の加飾部品。
前記第1のレーザ加工溝よりも深さが浅く、前記表層塗膜層を貫通していない第2のレーザ加工溝をさらに有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の加飾部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車用の内装部品の場合、デザイン性やコスト性などを考慮して樹脂基材を黒色等の濃色とすることが多く、表層塗膜層についてもそれに合わせて同系色(通常は黒色)とするのが一般的である。そしてこのような構成を採用した場合、黒色の表層塗膜層の表面に微細なレーザ加工を施して、部品表面を加飾することが行われている。なお、黒色の表層塗膜層に対する赤外線レーザ加工には、黒色であるため加工が容易というメリットがある反面、有彩色を表現できないというデメリットがある。そこで、本願発明者らは、黒色の表層塗膜層の下層に例えば赤色などの有彩色で着色された明度・彩度が高い下地塗膜層を配しておき、表層塗膜層のみにレーザ加工溝を形成して、有彩色の下地塗膜層を露出させることで、黒地に部分的に鮮やかなアクセントを与える加飾法を検討している。
【0006】
しかしながら、黒色の表層塗膜層をレーザ加工で除去すると、黒色などの濃色で着色された樹脂基材がレーザ光のエネルギーを吸収し、基材表面の樹脂がガス化して気泡を生じる結果、下地塗膜層の表面が膨らんでしまうという問題があった。この場合、下地塗膜層の平坦度低下による反射率の低下や、気泡混入による白濁等といった理由により、色が不鮮明になりコントラストが弱くなるため、意匠品質のよい加飾部品を得ることが困難になることが予想される。また、樹脂基材に対する下地塗膜層の密着性が低下することから、信頼性の高い加飾部品を得ることが困難になることが予想される。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、表層塗膜層から露出している下地塗膜層に膨らみがなくて色が鮮明になるため、意匠品質及び信頼性に優れた加飾部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、樹脂基材の表面上に、有彩色で着色された少なくとも1層の下地塗膜層が形成され、前記下地塗膜層上に、前記下地塗膜層よりも明度が低い色で着色された表層塗膜層が形成され、前記表層塗膜層に対するレーザ照射により部品表面に微細な装飾が施された加飾部品を製造する方法であって、明度が70以上の高明度色で着色された樹脂基材または無色透明の樹脂基材を準備するとともに、その樹脂基材の表面上に少なくとも1層の前記下地塗膜層を形成する下地塗膜層形成工程と、前記下地塗膜層上に、明度が20以下の低明度色で着色された前記表層塗膜層を形成する表層塗膜層形成工程と、前記表層塗膜層に対する赤外線レーザの照射によって、前記表層塗膜層を貫通して前記下地塗膜層を部分的に露出させる第1のレーザ加工溝を形成することにより、前記部品表面に微細な装飾を施すレーザ加飾工程とを含むことを特徴とする加飾部品の製造方法をその要旨とする。
【0009】
従って、手段1に記載の発明によると、レーザ加飾工程において表層塗膜層に対して赤外線レーザを照射すると、表層塗膜層が部分的に除去されて第1のレーザ加工溝が形成され、その第1のレーザ加工溝に対応した箇所にて下地塗膜層が露出する。ここでは、明度が70以上の高明度色で着色された樹脂基材または無色透明の樹脂基材を用いていることから、レーザ加飾工程において当該樹脂基材が熱を吸収しにくく、樹脂がガス化しないので、気泡の発生による膨れが生じにくい。ゆえに、第1のレーザ加工溝から露出している下地塗膜層の露出領域の平坦度が高くなる結果、色が鮮明でコントラストが強い露出領域とすることができ、意匠品質のよい加飾部品を得ることが可能となる。また、樹脂基材に対する下地塗膜層の密着性の低下も来さないことから、信頼性の高い加飾部品を得ることが可能となる。
【0010】
手段2に記載の発明は、上記手段1において、前記下地塗膜層形成工程では、明度が70以上の白色、乳白色、灰白色または象牙色で着色された樹脂基材を準備することをその要旨とする。
【0011】
手段3に記載の発明は、上記手段1または2において、前記レーザ加飾工程では、前記表層塗膜層の表面に、前記第1のレーザ加工溝よりも深さが浅く、前記表層塗膜層を貫通してない第2のレーザ加工溝をさらに形成することをその要旨とする。
【0012】
従って、手段3に記載の発明によると、第2のレーザ加工溝を追加することによって、より複雑かつ精緻な意匠を表現できるため、意匠品質をよりいっそう向上させることができる。
【0013】
手段4に記載の発明は、上記手段3において、前記レーザ加飾工程では、前記第1のレーザ加工溝の形成を行った後に前記第2のレーザ加工溝の形成を行うことをその要旨とする。
【0014】
仮に相対的に深い第1のレーザ加工溝の形成を後で行い、相対的に浅い第2のレーザ加工溝の形成を先に行うと、第1のレーザ加工溝の加工時に多くのガスが発生することで第2のレーザ加工溝が煤を被ってしまい、光沢の低下を来すおそれがある。これに対して、手段4に記載の発明によると、第1のレーザ加工溝の形成を先に行ってしまうことで、第2のレーザ加工溝が煤を被ることがなくなり、光沢の低下を来すおそれがなくなる。よって、第2のレーザ加工溝がくっきりと表れた意匠品質の高い加飾部品を得ることができる。
【0015】
手段5に記載の発明は、レーザ加工溝により部品表面に微細な装飾が施された加飾部品であって、明度が70以上の高明度色で着色された樹脂基材または無色透明の樹脂基材と、前記樹脂基材の表面上に形成され、有彩色で着色された少なくとも1層の下地塗膜層と、前記下地塗膜層上に形成され、明度が20以下の低明度色で着色された表層塗膜層とを備え、前記表層塗膜層を貫通し、前記下地塗膜層を部分的に露出させる第1のレーザ加工溝を有するとともに、前記下地塗膜層において前記第1のレーザ加工溝の直下に位置する露出領域の粗さ(Ra)が、2μm以下であることを特徴とする加飾部品をその要旨とする。
【0016】
従って、手段5に記載の発明によると、第1のレーザ加工溝から露出している下地塗膜層の露出領域の粗さ(Ra)が2μm以下であることから、露出領域の平坦度が高くなっている。ゆえに、色が鮮明でコントラストが強い露出領域とすることができ、意匠品質のよい加飾部品を得ることが可能となる。また、樹脂基材に対する下地塗膜層の密着性の低下も来さないことから、信頼性の高い加飾部品を得ることが可能となる。
【0017】
ここで、「下地塗膜層の露出領域の粗さ(Ra)が2μm以下」とは、第1のレーザ加工溝の短手方向に沿って下地塗膜層の露出領域をレーザ顕微鏡で100μmの長さ分を測ったときの算術平均粗さ(Ra)が、2μm以下であることであると定義する。なお、下地塗膜層における露出領域の最大高さ(Ry)が、7μm以下であってもよい。また、下地塗膜層における露出領域の十点平均粗さ(Rz)が、8μm以下であってもよい。その理由は、Ra、Ry、Rzの値が上記範囲を超えると、露出領域の平坦度が低くなってしまい、色が鮮明でコントラストが強い露出領域となりにくくなるからである。
【0018】
手段6に記載の発明は、上記手段5において、前記樹脂基材は、明度が70以上の白色、乳白色、灰白色または象牙色で着色されていることをその要旨とする。
【0019】
手段7に記載の発明は、上記手段5または6において、前記下地塗膜層において前記第1のレーザ加工溝の直下に位置していない非露出領域が存在するとともに、前記樹脂基材の表面を基準とする前記非露出領域の表面までの高さの平均値を100としたとき、前記樹脂基材の表面を基準とする前記露出領域の表面までの高さの平均値が、100以上130以下であることをその要旨とする。
【0020】
従って、手段7に記載の発明によると、非露出領域の表面までの高さの平均値を100としたときの、露出領域の表面までの高さの平均値が上記範囲内であるものは、露出領域における膨らみの度合いが小さいと言えるため、露出領域の平坦度が高くなっている。ゆえに、色が鮮明でコントラストが強い露出領域とすることができ、意匠品質のよい加飾部品を得ることが可能となる。また、樹脂基材に対する下地塗膜層の密着性の低下も来さないことから、信頼性の高い加飾部品を得ることが可能となる。
【0021】
手段8に記載の発明は、上記手段6または7において、前記下地塗膜層は、明度が30以上かつ彩度が40以上の有彩色で着色されていることをその要旨とする。
【0022】
従って、手段8に記載の発明によると、下地塗膜層の明度及び彩度を上記範囲内としていることから、色が鮮明でコントラストが強い露出領域を確実に形成することができる。なお、下地塗膜層は、明度が30以上かつ彩度が45以上の有彩色で着色されていることがよりよく、明度が35以上かつ彩度が50以上の有彩色で着色されていることが最もよい。
【0023】
手段9に記載の発明は、上記手段6乃至8のいずれか1項において、前記表層塗膜層の厚さは、前記下地塗膜層よりも厚いことをその要旨とする。
【0024】
仮に表層塗膜層の厚さを下地塗膜層よりも薄くしてしまうと、表層塗膜層に最表における保護層としての機能を十分に付与できなくなるおそれがある。加えて、下地塗膜層はコントラストの付与を目的とするものであることから必要最小限の厚さでよいが、不必要な厚さ分が増加することにより、結果的に製造コスト高などを招くおそれがある。これに対して、手段9に記載の発明によると、表層塗膜層の厚さを下地塗膜層よりも厚くしているため、表層塗膜層に最表における保護層としての機能を付与できるとともに、下地塗膜層の不必要な厚さ分の増加を防止することで製造コスト高を回避することができる。ここで、前記表層塗膜層の厚さは20μm〜40μm、前記下地塗膜層の厚さは10μm〜20μmであることが好ましい。
【0025】
手段10に記載の発明は、上記手段6乃至9のいずれか1項において、前記第1のレーザ加工溝よりも深さが浅く、前記表層塗膜層を貫通していない第2のレーザ加工溝をさらに有することをその要旨とする。
【0026】
従って、手段10に記載の発明によると、第2のレーザ加工溝を追加することによって、より複雑かつ精緻な意匠を表現できるため、意匠品質をよりいっそう向上させることができる。
【0027】
手段11に記載の発明は、上記手段10において、前記第1のレーザ加工溝の幅は、前記第2のレーザ加工溝の幅よりも広いことをその要旨とする。
【0028】
第1及び第2のレーザ加工溝の両方を形成するにあたり、第1のレーザ加工溝の幅を第2のレーザ加工溝の幅よりも狭くしようとすると、第1のレーザ加工溝の形成が困難になるばかりでなく、下層塗膜層によりコントラストを十分に付与できなくなるおそれがある。これに対し、手段9に記載の発明によると、第1及び第2のレーザ加工溝の形成を各々容易に行うことができるとともに、下層塗膜層によりコントラストを十分に付与することができ意匠品質も向上する。
【発明の効果】
【0029】
以上詳述したように、請求項1〜4に記載の発明によると、表層塗膜層から露出している下地塗膜層に膨らみがなくて色が鮮明になるため、意匠品質及び信頼性に優れた加飾部品を比較的容易にかつ安価に製造できる方法を提供することができる。また、請求項5〜11に記載の発明によると、表層塗膜層から露出している下地塗膜層に膨らみがなくて色が鮮明になるため、意匠品質及び信頼性に優れた加飾部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を自動車用内装部品及びその製造方法に具体化した一実施の形態を
図1〜
図10に基づき詳細に説明する。
【0032】
図2、
図3に示されるように、本実施形態の自動車用内装部品11(加飾部品)は、立体形状をなす樹脂基材12と、その樹脂基材12の表面13を被覆するように積層形成された複数の塗膜層(下地塗膜層21、表層塗膜層31)とを備えている。本実施形態の樹脂基材12は、平坦な形状の主部14とそれに連続して配置された一対の側部15とを備えるものとして描かれている(
図1参照)。主部14と一対の側部15とがなす角度は約90°であることから、この樹脂基材12は断面略コ字状を呈している。本実施形態の自動車用内装部品11は、例えば自動車のドアのアームレストを構成する部品である。
【0033】
本実施形態における樹脂基材12は、明度が70以上の高明度色(具体的には、明度が80以上の白色の樹脂材料、明度が70以上の乳白色の樹脂材料、明度が70以上の灰白色の樹脂材料、若しくは明度が70以上の象牙色(いわゆるアイボリー)など)で着色された樹脂材料、または無色透明の樹脂材料からなる。つまり、この樹脂基材12は、カーボンブラック等のような濃い色の顔料が殆どあるいは全く含有されていない樹脂材料からなる。ここでは、顔料を全く含有していないナチュラルのABS樹脂(明度が90以上の乳白色)を用いて成形された樹脂基材12を使用している。なお、このほかにも、例えば顔料を全く含有していないナチュラルのPC樹脂(無色透明)を使用することも可能である。あるいは、上記ABS樹脂と上記PC樹脂との混合物である樹脂材料(乳白色〜無色透明の間の色合い)を使用することも可能である。ちなみに、前記樹脂基材12を着色するときの「明度が70以上の高明度色」としては、全く彩度を有しない色のみの選択に限定されるわけでなく、僅かに彩度を有する色を選択しても差し支えない。
【0034】
樹脂基材12の表面13上には、白黒以外の色であって有彩色で着色された下地塗膜層21が形成されており、具体的には、赤色の顔料の添加によって赤色で着色された下地塗膜層21が形成されている。本実施形態の下地塗膜層21は、明度が約90かつ彩度が約90の赤色に着色されている。
【0035】
下地塗膜層21上には、明度が20以下の低明度色で着色された表層塗膜層31が形成されており、具体的には、黒色顔料であるカーボンブラックの添加(ここでは4体積%以上の含有量で添加)によって、明度が約18かつ彩度が約2の黒色で着色された表層塗膜層31が形成されている。なお、本実施形態では黒色の顔料を用いて表層塗膜層31を着色しているが、明度が20以下という条件を満たすことができるのであれば、黒以外の濃色(例えば黒緑色や黒茶色など)で着色してもよい。具体的には、黒色の顔料と黒色以外の濃い有彩色の顔料とを適宜混合して添加することで、表層塗膜層31を着色してもよい。
【0036】
表層塗膜層31の厚さは下地塗膜層21の厚さよりも厚くなるように設定され、具体的には前者が20μm〜40μm(本実施形態では約30μm)、後者が10μm〜20μm(本実施形態では約15μm)となるように設定されている。仮に表層塗膜層31の厚さを下地塗膜層21よりも薄くしてしまうと、表層塗膜層31に最表における保護層としての機能を十分に付与できなくなるおそれがあるほか、第2のレーザ加工溝32の形成が困難になるおそれがあるからである。加えて、下地塗膜層21はコントラストの付与を目的とするものであることから必要最小限の厚さでよいが、不必要な厚さ分が増加することにより、結果的に製造コスト高などを招くおそれがあるからである。
【0037】
図2、
図3に示されるように、本実施形態の表層塗膜層31には、2種類のレーザ加工溝22、32がそれぞれ多数形成されている。より詳しく言うと、
図2に示されるように、表層塗膜層31の表面には矩形状をした2つの描画パターンが設定されている。そのうちの一方の描画パターンには、2種類のレーザ加工溝22、32が含まれており、これに属する複数の第2のレーザ加工溝32は右斜め上方向に向かって平行に描画されている。他方の描画パターンには1種類のレーザ加工溝32のみが含まれており、これに属する複数の第2のレーザ加工溝32は左斜め上方向に向かって平行に描画されている。なお、これら2つの描画パターンは1つおきにレイアウトされている。
【0038】
図3に示されるように、第1のレーザ加工溝22は、表層塗膜層31を完全に貫通し、赤色を呈する下地塗膜層21の表面を部分的に露出させている。本実施形態における第1のレーザ加工溝22は、平面視でL字状となるように形成されている。一方、第2のレーザ加工溝32は、第1のレーザ加工溝22よりも深さが浅く、表層塗膜層31を貫通しない状態で形成されている。具体的には、第1のレーザ加工溝32の深さが20μm〜40μm(本実施形態では約30μm)であるのに対し、第2のレーザ加工溝32の深さは5μm〜15μm(本実施形態では約10μm)とされている。また、第1のレーザ加工溝22の幅w1は第2のレーザ加工溝32の幅w2よりも広くなっており、具体的には前者が80μm〜150μm(本実施形態では約100μm)、後者が50μm〜100μm(本実施形態では約70μm)となるように設定されている。
【0039】
ここで、下地塗膜層21において第1のレーザ加工溝22の直下に位置する露出領域26は、比較的平坦な表面を有しており、算術平均粗さ(Ra)が2μm以下となっている。また、露出領域26の最大高さ(Ry)は7μm以下、十点平均粗さ(Rz)は8μm以下となっている。さらに、下地塗膜層21において第1のレーザ加工溝22の直下に位置していない非露出領域27が存在するとともに、樹脂基材12の表面13を基準とする非露出領域27の表面までの高さh2の平均値を100としたとき、樹脂基材12の表面13を基準とする露出領域26の表面までの高さh1の平均値は、100以上130以下となっている。
【0040】
図1には、加飾前の自動車用内装部品11に柄を付与する際に用いるレーザ加飾装置41が示されている。本実施形態のレーザ加飾装置41は、自動車用内装部品11を支持する支持台42と、支持台42を移動させて自動車用内装部品11の姿勢等を変更するワーク変位ロボット43と、自動車用内装部品11の加飾面に赤外線レーザL1を照射するレーザ照射装置44と、ワーク変位ロボット43及びレーザ照射装置44を駆動制御する制御装置45とを備えている。
【0041】
ワーク変位ロボット43は、ロボットアーム46を備え、その先端に支持台42が支持されている。ワーク変位ロボット43は、ロボットアーム46を駆動することで、支持台42を上下方向、左右方向及び回転方向に移動させ、自動車用内装部品11の位置や姿勢を変更する。その結果、自動車用内装部品11の加飾面に対する赤外線レーザL1の照射位置や照射角度が変更されるようになっている。
【0042】
レーザ照射装置44は、所定波長の赤外線レーザL1(例えば波長が1064nmのYVO
4レーザ)を発生させるレーザ発生部51と、赤外線レーザL1を偏向させるレーザ偏向部52と、レーザ発生部51及びレーザ偏向部52を制御するレーザ制御部53とを備えている。レーザ偏向部52は、レンズ54と反射ミラー55とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ54及び反射ミラー55の位置を変更することにより、赤外線レーザL1の照射位置や焦点位置を調整するようになっている。レーザ制御部53は、レーザ発生部51及びレーザ偏向部52を制御することで、赤外線レーザL1の照射強度、赤外線レーザL1の走査速度などのレーザ照射条件を調整する。
【0043】
制御装置45は、CPU61、メモリ62及び入出力ポート63等からなる周知のコンピュータにより構成されている。制御装置45は、ワーク変位ロボット43及びレーザ照射装置44に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってワーク変位ロボット43及びレーザ照射装置44を駆動制御する。
【0044】
制御装置45のメモリ62には、自動車用内装部品11の加飾面に柄を描画するためのプログラムやデータが記憶されている。具体的には、自動車用内装部品11の三次元形状を示す形状データ、自動車用内装部品11に描画する柄に応じた柄データなどのデータが記憶されている。また、メモリ62には、ワーク変位ロボット43及びレーザ照射装置44を制御するためのプログラムやデータが記憶されている。
【0045】
次に、自動車用内装部品11の製造方法を
図4〜
図7に基づいて説明する。
【0046】
まず、ABS樹脂を用いて成形されたものであって、明度が80以上の白色、明度が70以上の乳白色、灰白色若しくは象牙色で着色された樹脂基材、または無色透明の樹脂基材を準備する(
図4参照)。そして、この樹脂基材12の表面13に、従来公知の手法によってまず下地塗膜層21を形成する(下地塗膜層形成工程;
図5)。次に、形成された下地塗膜層21上に、明度が20以下の低明度色で着色された表層塗膜層31を形成する(表層塗膜層形成工程;
図5)。その結果、立体形状をなす樹脂基材12(主部14及び側部15)の表面13側の全体が加飾面となる。
【0047】
続くレーザ加飾工程では、まず、樹脂基材12をワーク変位ロボット61の支持台42(
図1参照)にセットする。次に、CPU61は、レーザ照射を行うためのレーザ照射データをメモリ62から読み出す。そして、CPU61は、レーザ照射データに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザ照射装置44に出力する。レーザ照射装置44は、CPU61から出力された駆動信号に基づいて赤外線レーザL1を照射する。なお、レーザ照射装置44のレーザ制御部53は、レーザ発生部51からレーザL1を照射させ、所定の画像データのパターンに応じてレーザ偏向部52を制御する。この制御によって、赤外線レーザL1の照射位置及び焦点位置が決定される。以上の制御の結果、所定のレーザ照射がなされ、多数のレーザ加工溝22,32からなるレーザ加工溝群が形成される。これにより、
図2に示したような所定の柄が付与され、部品表面に微細な装飾が施される。
【0048】
レーザ加飾工程において、より具体的には以下のような順序でレーザ照射を行う。まず、表層塗膜層31に対する赤外線レーザL1の照射によって、表層塗膜層31を貫通して下地塗膜層21を部分的に露出させる第1のレーザ加工溝22を形成する(
図6参照)。そしてこの後、同じく表層塗膜層31に対する赤外線レーザL1の照射によって、表層塗膜層31の表面に第1のレーザ加工溝22よりも深さが浅く、表層塗膜層31を貫通しない第2のレーザ加工溝32の形成を行う(
図7参照)。このような順序で加工を行えば、第1のレーザ加工溝22の形成時に発生する煤を第2のレーザ加工溝32が被ることがなくなり、光沢の低下を来すおそれがなくなるというメリットがある。
【0049】
そして、本実施形態の自動車用内装部品11と、比較例である従来の自動車用内装部品とをそれぞれ実際に作製し、観察を行った結果を以下に述べる。
図8において、(a)は従来の自動車用内装部品における第1のレーザ加工溝22の切断面を拡大して示す写真、(b)は実施形態の自動車用内装部品11における第1のレーザ加工溝22の切断面を拡大して示す写真である。
図9の左欄は従来の自動車用内装部品における第1のレーザ加工溝22の平面拡大写真及び3Dイメージ図、右欄は実施形態の自動車用内装部品11における第1のレーザ加工溝22の平面拡大写真及び3Dイメージ図である。
図10は、比較例である従来の自動車用内装部品を示す要部拡大断面図であり、これにおいては樹脂基材12の色が黒色である点のみにおいて実施形態と相違している。
【0050】
図8(a)、
図10に示されるように、比較例の自動車用内装部品では、下地塗膜層21において第1のレーザ加工溝22の直下に位置する露出領域26の表面が膨らんでしまい、露出領域26の平坦性も低下していることが確認された。また、樹脂基材12において露出領域26の直下となる部分には気泡B1が発生していることが確認され、樹脂基材12と下地塗膜層21との密着性の低下が示唆される結果となった。そして、下地塗膜層21の露出領域26における表面粗さ(即ち、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz))をレーザ顕微鏡で測定したところ、Ra=2.773μm、Ry=10.749μm、Rz=11.569μmとなった。なお、露出領域26を平面視で顕微鏡観察したところ、気泡B1の発生等に起因して表面状態が悪化していることがわかった(
図9の左欄参照)。また、比較例の自動車用内装部品を平面視で肉眼観察したところ、露出領域26の赤色が不鮮明でコントラストがあまり強くなっていないという印象を受けた。
【0051】
これに対し、
図2、
図3、
図8(b)に示されるように、本実施形態の自動車用内装部品11では、下地塗膜層21において第1のレーザ加工溝22の直下に位置する露出領域26の表面が膨らむことはなく、露出領域26の平坦性が高い状態を維持していることが確認された。また、樹脂基材12において露出領域26の直下となる部分に気泡B1が全く発生しておらず、樹脂基材12と下地塗膜層21との密着性も好適な状態に維持されていた。そして、下地塗膜層21の露出領域26における表面粗さRa、Ry、Rzをレーザ顕微鏡で測定したところ、Ra=0.814μm、Ry=2.768μm、Rz=3.207μmとなり、明らかに比較例の数値よりも小さくなっていた。なお、露出領域26を平面視で顕微鏡観察したところ、表面状態が極めて良いことがわかった(
図9の右欄参照)。また、本実施形態の自動車用内装部品11を平面視で肉眼観察したところ、露出領域26の赤色が鮮明でコントラストが強いという印象を受けた。
【0052】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)本実施形態の自動車用内装部品11の製造方法では、明度が70以上の高明度色で着色された樹脂基材12または無色透明の樹脂基材12を用いている。このため、レーザ加飾工程において当該樹脂基材12が熱を吸収しにくい。つまり、明度が70以上の白色、乳白色、灰白色、象牙色などで着色された樹脂材料からなる樹脂基材12であれば、照射された赤外線レーザL1を吸収せず反射してしまうからである。また、無色透明の樹脂材料からなる樹脂基材12であれば、照射された赤外線レーザL1を吸収せず通過させてしまうからである。よって、この種の樹脂基材12においては樹脂がガス化せず、表面13に気泡の発生による膨れが生じにくい。ゆえに、第1のレーザ加工溝22から露出している下地塗膜層21の露出領域26の平坦度が高くなる。その結果、色が鮮明でコントラストが強い露出領域26とすることができ、意匠品質のよい自動車用内装部品11を得ることができる。また、樹脂基材12に対する下地塗膜層21の密着性の低下も来さないことから、信頼性の高い自動車用内装部品11を得ることができる。
【0054】
(2)本実施形態の製造方法におけるレーザ加飾工程では、第1のレーザ加工溝22に加えて第2のレーザ加工溝32が形成されるため、より複雑かつ精緻な意匠を表現できる。ゆえに、意匠品質をよりいっそう向上させることができる。
【0055】
(3)本実施形態の製造方法におけるレーザ加飾工程では、第1のレーザ加工溝22の形成を行った後に第2のレーザ加工溝32の形成を行っている。仮に相対的に深い第1のレーザ加工溝22の形成を後で行い、相対的に浅い第2のレーザ加工溝32の形成を先に行うと、第1のレーザ加工溝22の加工時に多くのガスが発生する。その結果、第2のレーザ加工溝32が煤を被ってしまい、光沢の低下を来すおそれがある。これに対して、第1のレーザ加工溝22の形成を先に行ってしまう本実施形態によると、第2のレーザ加工溝32が煤を被ることがなくなり、光沢の低下を来すおそれがなくなる。よって、第2のレーザ加工溝32がくっきりと表れた意匠品質の高い自動車用内装部品11を得ることができる。
【0056】
(4)本実施形態の自動車用内装部品11は、有彩色である赤色で着色された下地塗膜層21と、下地塗膜層21上に形成され黒色で着色された表層塗膜層31とを備えている。また、この自動車用内装部品11には、表層塗膜層31を貫通して下地塗膜層21を部分的に露出させる第1のレーザ加工溝22と、第1のレーザ加工溝22よりも深さが浅く表層塗膜層31を貫通していない第2のレーザ加工溝32とが形成されている。また、下地塗膜層における露出領域の算術平均粗さ(Ra)が2μm以下、最大高さ(Ry)が7μm以下、十点平均粗さ(Rz)が8μm以下であるため、露出領域26の平坦度が高くなっている。ゆえに、色が鮮明でコントラストが強い露出領域26とすることができる。
【0057】
(5)本実施形態の自動車用内装部品11は、樹脂基材12の表面13を基準とする非露出領域27の表面までの高さh2の平均値を100としたとき、樹脂基材12の表面13を基準とする露出領域26の表面までの高さh1の平均値が、好適範囲である100以上130以下(具体的には約100)となっている。これに対し、比較例の自動車用内装部品ではh1が上記好適範囲を大きく超える(具体的には約150超)ものとなっている。従って、本実施形態の自動車用内装部品11は、比較例と比べて露出領域26における膨らみの度合いが明らかに小さく、その部分の表面の平坦度が高くなっている。ゆえに、色が鮮明でコントラストが強い露出領域とすることができる。
【0058】
(6)本実施形態の自動車用内装部品11は、表層塗膜層31の厚さD1は、下地塗膜層21の厚さD2よりも厚くなっている。仮に表層塗膜層31の厚さD1を下地塗膜層21の厚さD2よりも薄くしてしまうと、表層塗膜層31に最表における保護層としての機能を十分に付与できなくなるおそれがある。加えて、下地塗膜層21はコントラストの付与を目的とするものであることから必要最小限の厚さでよいが、不必要な厚さ分が増加することにより、結果的に製造コスト高などを招くおそれがある。これに対して、表層塗膜層31の厚さD1を下地塗膜層21の厚さD2よりも厚くした本実施形態によると、表層塗膜層31に最表における保護層としての機能を付与できるとともに、下地塗膜層21の不必要な厚さ分の増加を防止することで製造コスト高を回避することができる。また、第1のレーザ加工溝22及び第2のレーザ加工溝32を各々容易に形成することができ、ひいては製造コスト高も回避することができる。
【0059】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、下地塗膜層21は赤色であったが、別の有彩色(例えば、青色、緑色、茶色、橙色、紫色、黄色など)にしてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、下地塗膜層21は赤色の塗膜層1層のみであったが、
図11に示す別の実施形態の自動車用内装部品11Aのように2層にしてもよい。即ち、この自動車用内装部品11Aでは、具体的には2層ある下地塗膜層21、21Aのうち、下層に位置する下地塗膜層21が赤色で着色され、上層に位置する下地塗膜層21Aが青色で着色されている。ちなみに、赤色の下地塗膜層21は青色の下地塗膜層21Aに比べて赤外線レーザL1のエネルギーを吸収しにくい性質がある。そして、この自動車用内装部品11Aにおいては、2種類の第1のレーザ加工溝22、22Aと、1種類の第2のレーザ加工溝32とが形成されている。一方の第1のレーザ加工溝22は、表層塗膜層31を貫通して青色の下地塗膜層21Aを部分的に露出させている。それに対し、他方のレーザ加工溝22は、表層塗膜層31及び青色の下地塗膜層21Aを貫通して赤色の下地塗膜層21を部分的に露出させている。なお、下地塗膜層21における露出領域26A及び下地塗膜層21Aにおける露出領域26は、いずれもRaが2μm以下、Ryが7μm以下、Rzが8μm以下となっており、平坦度が高くなっている。従って、この自動車用内装部品11Aは、色が鮮明でコントラストが強い2色の露出領域26、26Aを備えたものとなっている。なお、青色の下地塗膜層21Aの代わりに、例えば、赤色よりも赤外線レーザL1のエネルギーを吸収しやすい性質の色であって、青色以外の有彩色の顔料を含む下地塗膜層21Aとしてもよい。あるいは、銀色の顔料と黒色の顔料とを所定割合で混ぜたものを含有させた下地塗膜層21Aとしてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、YVO
4レーザを用いたが、これに限定されず、赤外線レーザを発生しうる他の固体レーザ(例えば、YAGレーザやルビーレーザ等)を用いてレーザ加工を行うようにしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、本発明の加飾部品の製造方法を自動車用の内装部品の一種であるドアのアームレストの構成部品の製造方法に具体化したが、これ以外の内装部品、例えばコンソールボックス、インストルメントパネル、センタークラスタ、カップホルダ、グローブボックス、アッパーボックス、アシストグリップなどの構成部品の製造方法に具体化してもよい。勿論、自動車用の内装部品以外に、自動車用の外装部品(ラジエータグリル、エンブレム、マッドガードなど)や、家具や家電などの化粧パネルなどの加飾部品の製造方法に本発明を具体化してもよい。ちなみに、本発明が自動車用内装部品である場合、例えば、発光手段を覆う位置に設けられるものであることが好ましく、具体的にはパワーウィンドウのスイッチの周りのカバー部品(アームレスト)などであることが好ましい。ここで、樹脂基材12が無色透明であるような場合、部品裏面側に配置された発光手段の発する光が露出領域26を通過しうるので、その光を部品表面側から視認することができ、面白い意匠効果を与えることができる。それとは逆に、樹脂基材12の明度が70以上の白色、乳白色、灰白色若しくは象牙色、つまり非透明色である場合、部品裏面側に配置された発光手段の発する光を遮ることができる。従って、発光手段の光の漏れを防止したいような場所に使用するのに適したものとすることができる。
【0064】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0065】
(1)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記下地塗膜層において、前記第1のレーザ加工溝の直下にて露出している領域の表面粗さ(Ry)が、7μm以下であること。
(2)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記下地塗膜層において、前記第1のレーザ加工溝の直下にて露出している領域の表面粗さ(Rz)が、8μm以下であること。
(3)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記樹脂基材表面と最下層の前記下地塗膜層との間に膨れが生じていないこと。
(4)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記着色下地層において、前記第1のレーザ加工溝の直下に位置する領域と、直下に位置していない領域とで、密着強度が等しいこと。
(5)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記下地塗膜層は、赤色であること。
(6)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記下地塗膜層は2層であり、下層に位置するものが赤色で着色され、上層に位置するものが青色で着色されていること。
(7)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記表層塗膜層の厚さは20μm〜40μm、前記下地塗膜層の厚さは10μm〜20μmであること。
(8)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記加飾部品は、発光手段を覆う位置に設けられるものであること。
(9)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記加飾部品は、主面が凸面状に湾曲している自動車用内装部品であること。
(10)上記手段1乃至11のいずれかにおいて、前記加飾部品は、パワーウィンドウのスイッチの周りのカバー部品であること。