(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体基板の上に、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を成長させてHVPE層を形成するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のIII族窒化物半導体基板、及び、III族窒化物半導体基板の製造方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0011】
まず、本実施形態の概要について説明する。特徴的な複数の工程を含む本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、サファイア基板上に、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させることができる。結果、露出面がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体層がサファイア基板上に位置するIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板)が得られる。また、当該テンプレート基板から、又は、当該テンプレート基板の上にIII族窒化物半導体を厚膜成長した積層体からサファイア基板を剥離することで、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させることで得られたIII族窒化物半導体層からなるIII族窒化物半導体基板(自立基板)が得られる。
【0012】
なお、本実施形態では、「半極性面であって、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える面」を、「Ga極性側の半極性面」と呼ぶ場合がある。また、「半極性面であって、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の面」を、「N極性側の半極性面」と呼ぶ場合がある。
【0013】
また、特徴的な本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法の中の一部を調整することで、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅が500arcsec以下となるIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板)が得られる。
【0014】
さらに、特徴的な本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法の中の一部を調整することで、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅が500arcsec以下となるIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板)が得られる。
【0015】
このようなIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板、自立基板)上にデバイスを形成することで、内部量子効率の向上が実現される。以下、詳細に説明する。
【0016】
まず、III族窒化物半導体基板(テンプレート基板)の製造方法を説明する。
図3は、III族窒化物半導体基板(テンプレート基板)の製造方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図示するように、III族窒化物半導体基板(テンプレート基板)の製造方法は、基板準備工程S10と、熱処理工程S20と、先流し工程S30と、バッファ層形成工程S40と、成長工程S50とを有する。
【0017】
基板準備工程S10では、サファイア基板を準備する。サファイア基板の直径は、例えば、1インチ以上である。また、サファイア基板の厚さは、例えば、250μm以上である。
【0018】
サファイア基板の主面の面方位は、その上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つである。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。基板準備工程S10では、主面が所望の面方位であるサファイア基板を準備する。
【0019】
サファイア基板の主面は、例えば{10−10}面、又は、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面である。
【0020】
{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、例えば、{10−10}面を任意の方向に0°より大0.5°以下の中の何れかの角度で傾斜した面であってもよい。
【0021】
また、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0°より大10.5°未満の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。または、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0°より大10.5°以下の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。例えば、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0.5°以上1.5°以下、1.5°以上2.5°以下、4.5°以上5.5°以下、6.5°以上7.5°以下、9.5°以上10.5°以下の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。
【0022】
熱処理工程S20は、基板準備工程S10の後に行われる。熱処理工程S20では、サファイア基板に対して、以下の条件で熱処理を行う。
【0023】
温度:800℃以上1200℃以下、好ましくは800℃以上930℃以下
圧力:30torr以上760torr以下
熱処理時間:5分以上20分以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただし、成長装置のサイズにより供給量は変動する為、これに限定されない。)
【0024】
なお、サファイア基板に対する熱処理は、窒化処理を行いながら行う場合と、窒化処理を行わずに行う場合とがある。窒化処理を行いながら熱処理を行う場合、熱処理時に0.5slm以上20slm以下のNH
3がサファイア基板上に供給される(ただし成長装置のサイズにより供給量は変動する為、これに限定されない。)。また、窒化処理を行わずに熱処理を行う場合、熱処理時にNH
3が供給されない。
【0025】
熱処理時の窒化処理の有無は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つとなる場合がある。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。
【0026】
熱処理時の温度800℃以上1200℃以下は、上述した主面がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体層を有する本実施形態のテンプレート基板や自立基板を製造するための温度条件である。そして、熱処理時の温度800℃以上930℃は、上述した{11−22}面に対するXRCの半値幅が500arcsec以下となる本実施形態のテンプレート基板を製造するための温度条件である。
【0027】
先流し工程S30は、熱処理工程S20の後に行われる。先流し工程S30では、サファイア基板の主面上に以下の条件で金属含有ガスを供給する。先流し工程S30は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内で行われてもよい。
【0028】
温度:500℃以上1000℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:20ccm以上500ccm以下、1秒
以上60秒以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
【0029】
上記条件は、金属含有ガスとして有機金属原料であるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムを供給する場合のものである。当該工程では、トリメチルアルミニウムトリエチルアルミニウムに代えて他の金属を含有する金属含有ガスを供給し、アルミニウム膜に代えて、チタン膜、バナジウム膜や銅膜等の他の金属膜をサファイア基板の主面上に形成してもよい。また、有機金属原料から生成するメタン、エチレン、エタン等の炭化水素化合物との反応膜である炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化バナジウムや炭化銅等の他の炭化金属膜をサファイア基板の主面上に形成してもよい。
【0030】
先流し工程S30により、サファイア基板の主面上に金属膜及び炭化金属膜が形成される。当該金属膜の存在が、その上に成長させる結晶の極性を反転させるための条件となる。すなわち、先流し工程S30の実施は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素の中の1つである。
【0031】
バッファ層形成工程S40は、先流し工程S30の後に行われる。バッファ層形成工程S40では、サファイア基板の主面上にバッファ層を形成する。バッファ層の厚さは、例えば、20nm以上300nm以下である。
【0032】
バッファ層は、例えば、AlN層である。例えば、以下の条件でAlN結晶をエピタキシャル成長させ、バッファ層を形成してもよい。
【0033】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800℃以上950℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
トリメチルアルミニウム供給量:20ccm以上500ccm以下
NH
3供給量:0.5slm以上10slm以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
【0034】
バッファ層形成工程S40の成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つとなる場合がある。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。
【0035】
また、バッファ層形成工程S40における成長条件(比較的低めの所定の成長温度、具体的には800〜950℃、および比較的低い圧力)は、N極性側を維持しながらAlNを成長させるための条件となる。すなわち、バッファ層形成工程S40における成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素の中の1つである。
【0036】
成長工程S50は、バッファ層形成工程S40の後に行われる。成長工程S50では、バッファ層の上に、以下の成長条件でIII族窒化物半導体結晶(例:GaN結晶)をエピタキシャル成長させ、成長面が所定の面方位(N極性側の半極性面)となっているIII族窒化物半導体層を形成する。III族窒化物半導体層30の厚さは、例えば、1μm以上20μm以下である。
【0037】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800℃以上1025℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
TMGa供給量:25sccm以上1000sccm以下
NH3供給量:1slm以上20slm以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
成長速度:10μm/h以上
【0038】
成長工程S50における成長条件(比較的低い成長温度、比較的低い圧力、比較的速い成長速度)は、N極性側を維持しながらGaNを成長させるための条件となる。すなわち、成長工程S50における成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素の中の1つである。
【0039】
以上の条件で製造することで、
図4に示すような、サファイア基板21と、バッファ層22と、III族窒化物半導体層23とがこの順に積層し、III族窒化物半導体層23の成長面24の面方位がN極性側の半極性面となっているIII族窒化物半導体基板20を製造することができる。また、製造条件を上記条件の範囲で調整することで、成長面24の面方位を所望の半極性面とすることができる。
【0040】
次に、III族窒化物半導体基板(自立基板)の製造方法を説明する。
【0041】
例えば、
図3に示すフローで
図4に示すような積層体(テンプレート基板)を製造した後、当該積層体からサファイア基板21及びバッファ層22を除去する(剥離工程)ことで、
図5に示すようなIII族窒化物半導体層23からなるIII族窒化物半導体基板10(自立基板)を製造することができる。サファイア基板21及びバッファ層22を除去する手段は特段制限されない。例えば、サファイア基板21とIII族窒化物半導体層23との間の線膨張係数差に起因する応力を利用して、これらを分離してもよい。そして、バッファ層22を研磨やエッチング等で除去してもよい。
【0042】
その他の除去例として、サファイア基板21とバッファ層22との間に剥離層を形成してもよい。例えば、炭化物(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層、及び、炭化物(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層の積層体をサファイア基板21上に形成した後に、窒化処理を行った層を剥離層として形成してもよい。
【0043】
このような剥離層の上にバッファ層22及びIII族窒化物半導体層23を形成した後、当該積層体を、III族窒化物半導体層23を形成する際の加熱温度よりも高い温度で加熱すると、剥離層の部分を境界にして、サファイア基板21側の部分と、III族窒化物半導体層23側の部分とに分離することができる。III族窒化物半導体層23側の部分から、バッファ層22等を研磨やエッチング等で除去することで、
図5に示すようなIII族窒化物半導体層23からなるIII族窒化物半導体基板10(自立基板)を得ることができる。
【0044】
自立基板のその他の製造方法の例として、
図3に示すフローで
図4に示すような積層体(テンプレート基板)を製造した後、当該テンプレート基板の上に(III族窒化物半導体層23の上に)、例えばHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を厚膜成長させてHVPE層を形成してもよい。結果、テンプレート基板の上に(III族窒化物半導体層23の上に)、露出面がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体のHVPE層が得られる。HVPE法でIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる成長条件は特段制限されず、従来技術に準じたものを採用すれば、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を厚膜成長させることができる。そして、HVPE層からスライスなどして、III族窒化物半導体基板10(自立基板)を得てもよい。
【0045】
次に、上記製造方法で得られたIII族窒化物半導体基板20(テンプレート基板)及びIII族窒化物半導体基板10(自立基板)の構成及び特徴を説明する。
【0046】
図4に示すように、III族窒化物半導体基板20(テンプレート基板)は、サファイア基板21と、サファイア基板21の上に形成されたバッファ層22と、バッファ層22の上に形成されたIII族窒化物半導体層23とを有する。III族窒化物半導体層23の主面(成長面24)は、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の面である。
【0047】
III族窒化物半導体層23の膜厚は、1μm以上20μm以下である。そして、III族窒化物半導体層23の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は、500arcsec以下である。
【0048】
また、III族窒化物半導体層23の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を上記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は、500arcsec以下である。
【0049】
以下の実施例で示すが、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長した場合、III族窒化物半導体層の厚さが厚くなるほど結晶性が悪化する。結果、III族窒化物半導体層の厚さが厚くなるほど{11−22}面に対するXRCの半値幅は大きくなる。このため、成長面が半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える面の場合、結晶性が良好で、かつ、厚膜なIII族窒化物半導体層を製造することが困難である。
【0050】
一方、以下の実施例で示すが、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長した場合、III族窒化物半導体層の厚さが厚くなっても結晶性がほとんど変化しない。半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長する本実施形態の場合、結晶性が上述のように良好で、かつ、上述のように厚膜(例えば100μm以上)なIII族窒化物半導体層を製造することができる。
【0051】
図5に示すように、III族窒化物半導体基板10(自立基板)は、III族窒化物半導体結晶で構成されたIII族窒化物半導体層23からなる。III族窒化物半導体基板10(自立基板)の膜厚は100μm以上である。
【0052】
自立基板は、III族窒化物半導体結晶で構成され、表裏の関係にある露出した第1の主面11及び第2の主面12はいずれも半極性面である。第1の主面11及び第2の主面12各々に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は、500arcsec以下である。また、第1の主面11及び第2の主面12各々に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を上記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は、500arcsec以下である。
【0053】
なお、サファイア基板上に、成長面が半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超えるIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長した後、III族窒化物半導体層からサファイア基板を除去すると、外観は、
図5に示す本実施形態のIII族窒化物半導体基板10(自立基板)と同じになる。しかし、このような基板と、本実施形態のIII族窒化物半導体基板10(自立基板)とは、III族窒化物半導体をエピタキシャル成長する際の成長面が「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える」か「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満」かにおいて、相違する。
【0054】
当該違いは、膜厚と、表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差との関係をみることで確認できる。
【0055】
上述の通り、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長した場合、III族窒化物半導体層の厚さが厚くなるほど結晶性が悪化し、XRCの半値幅は大きくなる。すなわち、膜厚が大きくなるほど、表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差は大きくなる。
【0056】
一方、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長した場合、III族窒化物半導体層の厚さが厚くなっても結晶性がほとんど変化しない。すなわち、膜厚が大きくなっても、表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差は所定レベル以下となる。
【0057】
以上より、膜厚が所定範囲である際の表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差を確認することで、そのIII族窒化物半導体基板が「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える」成長面上にエピタキシャル成長してできたものか、それとも、「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満」の成長面上にエピタキシャル成長してできたものかを確認することができる。
【0058】
具体的には、「膜厚が300μm以上である場合、表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差が100arcsec以下」を満たす場合、「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満」の成長面上にエピタキシャル成長してできたIII族窒化物半導体基板であるといえる。そして、「膜厚が300μm以上である場合、表裏の関係にある主面のXRCの半値幅の差が100arcsecより大」を満たす場合、「半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える」成長面上にエピタキシャル成長してできたIII族窒化物半導体基板であるといえる。
【0059】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0060】
本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、サファイア基板上に、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させることができる。結果、
図4に示すように、露出面(成長面24)がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体層23がサファイア基板21上に位置するIII族窒化物半導体基板20(テンプレート基板)が得られる。また、
図5に示すように、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させることで得られたIII族窒化物半導体層23からなるIII族窒化物半導体基板10(自立基板)が得られる。
【0061】
このようなIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板、自立基板)上にデバイスを形成することで、内部量子効率の向上が実現される。
【0062】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板、自立基板)を用いれば、面方位がN極性側の半極性面である主面上にデバイスを形成することができる。かかる場合、半極性面の効果によるピエゾ分極の低減だけでなく、自発分極の低減も実現される。このため、内部電界によっておこるシュタルク効果が抑制できる。
【0063】
また、本発明者らは、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合、Ga極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合に比べて、表面状態が平坦になりやすいことを確認している。Ga極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合、ピットや、m面成分由来のファセットが発生しやすい。このような点においても、本実施形態のIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板、自立基板)は優れる。
【0064】
また、本発明者らは、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合、Ga極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合に比べて、不純物の取り込みが小さいことを確認している。具体的には、同じ装置及び同じ成長条件で成長させた2種類の極性面(N極性側の半極性面及びGa極性側の半極性面)のHaLL測定を行ったところ、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合、Ga極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させた場合に比べて、キャリア濃度が1ケタ小さいことを確認した。これは、Oの取り込みが低減できたためと推測される。このような点においても、本実施形態のIII族窒化物半導体基板(テンプレート基板、自立基板)は優れる。
【0065】
また、本実施形態によれば、サファイア基板上に形成され、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の露出した主面を有するIII族窒化物半導体層と、下地基板としてサファイア基板を有するIII族窒化物半導体基板が提供される。また、上記III族窒化物半導体基板上に結晶成長を行うことにより、表裏の関係にある露出した第1及び第2の主面はいずれも半極性面であるIII族窒化物半導体自立基板が提供される。
【0066】
本実施形態により提供されるIII族窒化物半導体自立基板の表裏の関係にある露出した第1及び第2の主面は、例えば、一方が、c面からa面方向へ38.0°以上53.0°以下かつ、m面方向に−16.0°以上16.0°以下傾いた半極性面であり、もう一方は、−c面から−a面方向へ38.0°以上53.0°以下かつ、m面方向に−16.0°以上16.0°以下傾いた半極性面である。また、下地基板としてサファイア基板を有するIII族窒化物半導体基板の主面は、例えば−c面からa面方向へ38.0°以上53.0°以下かつ、m面方向に−16.0°以上16.0°以下傾いた半極性面である。
【0067】
特に主面上に発光デバイス(LED、LD)を形成した場合、c面からa面方向へ39.1°傾いた面((11−24)面)は、Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 39 (2000) pp. 413-416にて報告されている
図1に示すように、ピエゾ電界が0となる為、無極性面のm面及び、a面と同等のシュタルク効果による内部量子効率の低下の抑制効果によって消費電力の低減、発光効率の向上が得られる。また、−c面から−a面方向へ39.1°傾いた主面((−1−12−4)面)は、半極性面の効果によるピエゾ分極の低減だけでなく、窒素原子からガリウム原子の向きに発生している自発分極の低減も実現される。このため、発光デバイス(LED、LD)の活性層に生じる内部電界によっておこるシュタルク効果を更に抑制できるので、更なる発光デバイス(LED、LD)の性能向上が得られる。
【0068】
特許文献1と特許文献2で提供されるIII族窒化物半導体層は共に半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える主面を有しており、本実施形態により提供される半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の主面を有するIII族窒化物半導体層及びサファイア基板を有するIII族窒化物半導体基板と比較して、デバイスの内部量子効率は低い。
【0069】
本実施形態により提供される、下地基板としてサファイア基板を有するIII族窒化物半導体基板を用いれば、サファイア基板を周知技術、慣用技術を含む何らかの方法で除去すれば、用いたサファイア基板の大きさと同等の大口径かつ、基板面内の結晶性、表面平坦性、不純物濃度、面方位の軸ブレが均一かつ、緻密な製造技術を必要としないIII族窒化物半導体自立基板の製造が可能となる。ここでいう周知技術、慣用技術とは、例えば、化学的エッチングや機械研磨、熱応力を利用した結晶剥離などである。
【0070】
特許文献3と特許文献4の方法で提供されるIII族窒化物半導体自立基板は、c面を主面としたIII族窒化物半導体自立基板から任意の面方位に切出した結晶片を接合して作製した、半極性面を主面としたIII族窒化物半導体自立基板である。これを実現するためには、バルク結晶から結晶片を大量に切出す工程や、結晶片を高同じ結晶軸方向に高い精度で揃えた上で接合する工程が必要となる為、高い歩留りを実現するための緻密な技術が必要となる。また、結晶片を接合して基板の口径を大きくする為、接合部に原子位置のずれが生じ、当該部では高密度の転位が発生する。このため、基板の結晶性の低下と転位密度の面内分布むらが発生してしまう。また、接合面がc面、m面、及び、m面からc面方向へ傾斜した面である場合には{11−22}面や{10−11}面などのファセット面が出現し、
図2に示すように大きな窪みや結晶成長異常が発生してしまうため、表面平坦性の顕著な悪化と接合強度不足が生じ、基板のハンドリングに困難が生じる。
【0071】
また、
図2に示すような大きな窪みや結晶成長異常に起因する表面平坦性の顕著な悪化と接合強度不足による基板のハンドリングの困難を解決する為、特許文献3と特許文献4の方法を用いて、接合面をa面及びa面からの傾斜面のみにする事が容易に考えられるが、この場合も、接合面での原子位置のずれによる転位発生と、これに伴う転位密度の面内分布むらは解決できない。また、a面またはa面を傾斜させた面で結晶の接合を行うことから、本実施形態により提供される、a面の傾斜面を主面としたIII族窒化物半導体自立基板の製造はできない。
【0072】
本実施形態により提供されるIII族窒化物半導体自立基板の第1および第2の主面はいずれも例えばa面の傾斜面である為、側面に劈開面(m面)を有している。劈開面を有した基板を提供することにより、半導体レーザー(LD)において光共振に必要不可欠な、原子が規則的きれいに並んだ、平坦性に優れた反射鏡面を容易に得る事が可能となる。
【0073】
特許文献5で提供される(20−21)面及び(20−2−1)面を主面としたGaN系半導体レーザー素子は、主面がm面の傾斜面である為に、側面に劈開面を有していない。したがって、光共振が得られる平坦性の高い反射鏡面を得る事が出来ない。よって、製品の製造にあたり側面を平坦化するための高度かつ緻密な技術が必要となり、製造工程が煩雑化している。また、平坦性が劣る反射鏡面を用いる為、劈開面を利用しミラー構造を作製したGaN系半導体光レーザー素子に比べ、性能がおとる。
【実施例】
【0074】
<第1の評価>
第1の評価では、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」のすべてを満たすことで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位をN極性側の半極性面にできることを確認した。また、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」の中の少なくとも1つを満たさなかった場合、III族窒化物半導体層の成長面の面方位がGa極性側の半極性面になることを確認した。
【0075】
まず、主面の面方位がm面((10−10)面)からa面と平行になる方向に2°傾斜した面であるサファイア基板を用意した。サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は2インチであった。
【0076】
そして、用意したサファイア基板に対して、以下の条件で熱処理工程S20を実施した。
【0077】
温度:1000〜1050℃
圧力:100torr
キャリアガス:H
2、N
2
熱処理時間:10分または15分
キャリアガス供給量:15slm
【0078】
なお、熱処理工程S20の際に、20slmのNH
3を供給し、窒化処理を行った。
【0079】
その後、以下の条件で先流し工程S30を行った。
温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:90sccm、10秒
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0080】
その後、以下の条件でバッファ層形成工程S40を行い、AlN層を形成した。
【0081】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量:90sccm
NH
3供給量:5slm
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0082】
その後、以下の条件で成長工程S50を行い、III族窒化物半導体層を形成した。
【0083】
成長方法:MOCVD法
圧力:100torr
TMGa供給量:50〜500sccm(連続変化)
NH
3供給量:5〜10slm(連続変化)
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
成長速度:10μm/h以上
【0084】
なお、第1のサンプルの成長温度は900℃±25℃に制御し、第2のサンプルの成長温度は1050℃±25℃に制御した。すなわち、第1のサンプルは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」のすべてを満たすサンプルである。第2のサンプルは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」の中の一部(成長工程S50における成長温度)を満たさないサンプルである。
【0085】
第1のサンプルのIII族窒化物半導体層の成長面の面方位は、(−1−12−4)面から−a面方向5.0°傾斜かつ、m面と平行になる方向に8.5°以下傾斜した面であった。一方、第2のサンプルのIII族窒化物半導体層の成長面の面方位は、(11−24)面からa面方向5.0°傾斜かつ、m面と平行になる方向に8.5°以下傾斜した面であった。すなわち、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」を満たすか否かにより、成長面の面方位がGa極性となるかN極性となるかを調整できることが分かる。
【0086】
図6に第1のサンプルにおける、(−1−12−4)面、又は、(11−24)面のXRD極点測定結果を示す。回折ピークは極点の中心点から数度ずれた位置であることが確認できる。角度のずれを詳細に測定すると−a面方向5.0°かつ、m面と平行になる方向に8.5°又は、a面方向5.0°かつ、m面と平行になる方向に8.5°の位置であることが確認できる。
【0087】
図7に第1のサンプルにおける、
図4に示す露出面(成長面24)がN極性であることを確認した結果を示す。また、比較として
図8に+c面の厚膜成長GaN自立基板から第1のサンプルと同等の面方位になるようにスライスを行って作製したIII族窒化物半導体自立基板の結果を示す。第1のサンプル及び、+c面 GaN自立基板からスライスして作製した半極性自立基板ともに、両面(基板の表と裏)に1.5μmダイヤ研磨を施し、りん酸硫酸混合液を150℃に保ち30分間のエッチングを行った。
【0088】
図7及び
図8より、第1のサンプルの露出面(成長面24)と+c面GaN自立基板からスライスして作製した半極性自立基板の裏面(N極性面)のエッチング表面状態が同等であることが確認できる。また、第1のサンプルの剥離面と+c面GaN自立基板からスライスして作製した半極性自立基板の表面(Ga極性面)のエッチング表面状態が同等であることが確認できるので、
図4に示す露出面(成長面24)がN極性であることが確認できる。
【0089】
なお、本発明者らは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」の中のその他の一部を満たさない場合、また、全部を満たさない場合においても、成長面の面方位がGa極性となることを確認している。
【0090】
<第2の評価>
第2の評価では、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整できることを確認した。
【0091】
まず、主面の面方位が様々なサファイア基板を複数用意した。サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は2インチであった。
【0092】
そして、用意したサファイア基板各々に対して、以下の条件で熱処理工程S20を行った。
【0093】
温度:1000〜1050℃
圧力:200torr
熱処理時間:10分
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0094】
なお、熱処理時の窒化処理の有無を異ならせたサンプルを作成した。具体的には、熱処理時に20slmのNH
3を供給し、窒化処理を行うサンプルと、熱処理時にNH
3を供給せず、窒化処理を行わないサンプルの両方を作成した。
【0095】
その後、以下の条件で先流し工程S30を行った。
温度:880〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:90sccm、10秒
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0096】
なお、先流し工程S30を行うサンプルと、行わないサンプルの両方を作成した。
【0097】
その後、サファイア基板の主面(露出面)上に、以下の条件で、約150nmの厚さのバッファ層(AlNバッファ層)を形成した。
【0098】
成長方法:MOCVD法
圧力:100torr
V/III比:5184
TMAl供給量:90ccm
NH
3供給量:5slm
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0099】
なお、成長温度は、サンプルごとに、700℃以上1110℃以下の範囲で異ならせた。
【0100】
その後、バッファ層の上に、以下の条件で、約15μmの厚さのIII族窒化物半導体層(GaN層)を形成した。
【0101】
成長方法:MOCVD法
成長温度:900〜1100℃
圧力:100torr
V/III比:321
TMGa供給量:50〜500ccm(ランプアップ)
NH
3供給量:5〜10slm(ランプアップ)
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0102】
以上のようにして、サファイア基板と、バッファ層と、III族窒化物半導体層とがこの順に積層したIII族窒化物半導体基板1を製造した。
【0103】
表1乃至7に、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」と、III族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
表中の「サファイア主面」の欄には、サファイア基板の主面の面方位が示されている。「昇温時の窒化処理」の欄には、熱処理工程S20の際の昇温時の窒化処理の有無(「有り」または「無し」)が示されている。「トリメチルアルミニウム先流し工程の有無」の欄には、トリメチルアルミニウム先流し工程の有無(「有り」または「無し」)が示されている。「AlNバッファ成長温度」の欄には、バッファ層形成工程における成長温度が示されている。「GaN成長温度」の欄には、GaN層形成工程における成長温度が示されている。「III族窒化物半導体層の成長面」の欄には、III族窒化物半導体層の成長面の面方位が示されている。
【0112】
当該結果によれば、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面を半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0を超える面の中で調整できることが分かる。そして、第1の評価の結果と第2の評価の結果とに基づけば、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の半極性面とするための複数の要素」のすべてを満たしたうえで、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面を、半極性面であり、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の中で調整できることが分かる。
【0113】
<第3の評価>
本手法により作製したサンプルの結晶性について評価した。試料は3種類を準備した。サンプルAは、本明細記載の手法により作製したものであり、{11−23}面を成長面としている。サンプルB、Cは比較用サンプルであり、サンプルBは{10−10}面を成長面とした。また、サンプルCは{11−22}面を成長面とした。なお、{11−23}面は{−1−12−4}面から10°以内のオフ角を有する面に該当する。
【0114】
図9に、各サンプルに対し、複数のGaN膜厚時にエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸の投影軸に平行に入射し測定した場合の{11−22}面に対するXRC半値幅を示す。 但し、主面が{11−23}面であるサンプルCは、消滅則により{11−23}面のエックス線回折が得られないため、{11−22}面のXRC半値幅を測定した。
【0115】
図9より、サンプルAはGaN層の膜厚が大きくなっても、{11−22}面に対するXRC半値幅がほとんど変化しないことが分かる。これに対し、サンプルB及びCは、GaN層の膜厚が大きくなるにつれて、{11−22}面に対するXRC半値幅が大きくなる傾向が読み取れる。
【0116】
<第4の評価>
本手法により作製したサンプルの結晶性について評価した。サンプルD(実施例)は、本明細記載の手法により作製したものであり、その詳細は以下の通りである。
【0117】
まず、主面の面方位がm面((10−10)面)からa面と平行になる方向に2°傾斜した面であるサファイア基板を用意した。サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は2インチであった。
【0118】
そして、用意したサファイア基板に対して、以下の条件で熱処理工程S20を実施した。
【0119】
温度:800〜930℃
圧力:100torr
キャリアガス:H
2、N
2
熱処理時間:10分
キャリアガス供給量:4slm
【0120】
なお、熱処理工程S20の際に、2slmのNH
3を供給し、窒化処理を行った。
【0121】
その後、以下の条件で先流し工程S30を行った。
温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:50sccm、10秒
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:4slm
【0122】
その後、以下の条件でバッファ層形成工程S40を行い、AlN層を形成した。
【0123】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量:50sccm
NH
3供給量:2slm
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0124】
その後、以下の条件で成長工程S50を行い、III族窒化物半導体層を形成した。
【0125】
成長方法:MOCVD法
成長温度:900℃±25℃
圧力:100torr
TMGa供給量:50〜500sccm(連続変化)
NH
3供給量:5〜10slm(連続変化)
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
成長速度:10μm/h以上
【0126】
サンプルE(比較例)は、サンプルDと同様の手法により作製したものであるが、下記の点が異なる。
【0127】
熱処理工程S20では、熱処理温度を1000℃〜1050℃とし、キャリアガス流量を15slmとした。また、NH
3供給量は20slmとした。
【0128】
先流し工程S30では、トリメチルアルミニウム供給量を90sccmとし、キャリアガス流量を15slmとした。
【0129】
バッファ層形成工程S40では、トリメチルアルミニウム供給量を90sccmとし、NH
3供給量を5slmとした。
【0130】
テンプレート基板の試作後、サンプルD、サンプルEのそれぞれについてX線極点図を測定した。測定の結果、サンプルDの主面、サンプルEの主面のいずれも{−1−12−4}面から10°以内のオフ角を有する面となっていることを確認した。
【0131】
そして、サンプルD及びサンプルE各々について、{11−22}面に対するXRCの半値幅を測定した。具体的には以下の手順で測定した(
図12参照)。
【0132】
(1) 試作したテンプレート基板(サンプルD及びサンプルE各々)の中心部にX線を照射し、(000−2)面回折XRCを測定する。具体的には、テンプレート基板をX線回折装置にセットし、入射X線に対し、ディテクタとテンプレート基板を(000−2)面の回折が得られうる理論角度に設定する。その上で、テンプレート基板を鉛直方向に40°以上50°以下の角度で傾ける。更に、テンプレート基板を面内方向に回転させて(000−2)面回折ピークが得られる回転角を探索する。最後に、(000−2)面回折ピークが最も良好に得られるよう、基板面内回転方向以外の各種角度を調整し、測定を行う。本明細に記載の方法で作製したテンプレート基板を上記の手順で測定した場合、(000−2)面回折ピークは、X線をm軸に平行に入射した場合にのみ得られる。つまり、この測定は、m軸方向の軸合わせを兼ねる。
(2) m軸入射XRCの測定を行う。具体的には、(000−2)面XRCを測定した部分(テンプレート基板の中心部)で{11−22}面の軸立(最も良好な回折が得られるよう、基板面内回転方向以外の各種角度を調整する)を行う。その後、中心部と、中心部からm軸方向に20mm離れた2点との合計3点について、{11−22}面XRCの測定を行う。
(3) c投影軸入射XRCの測定を行う。具体的には、(2)記載の測定終了後、テンプレート基板を面内方向に90°回転する。これにより、X線はc投影軸(c軸を主面に投影した投影軸)に対して入射する形になる。その後、中心部で{11−22}面の軸立を行い、中心部と、中心部からc投影軸方向に20mm離れた2点との合計3点について、{11−22}面XRCの測定を行う。
【0133】
サンプルDの測定結果を
図11に、サンプルEの測定結果を
図10に示す。(m)に対応付する値は、エックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であり、「m軸入射」に対応する値は測定点3点の平均値である。(c)に対応する値は、エックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を上記主面に投影した投影軸に平行に入射して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であり、「c軸投影軸入射」に対応する値は測定点3点の平均値である。測定点の概略は図示の通りである。
【0134】
図11より、本実施形態の製造方法で作製されたIII族窒化物半導体基板は、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は500arcsec以下となることが分かる。また、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を上記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅も500arcsec以下となることが分かる。
【0135】
さらに、「III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であって、m軸方向に20mmずつ離れた3点での測定値」、及び、「III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であって、c軸を主面に投影した投影軸方向に20mmずつ離れた3点での測定値」、における最大値と最小値の差が50arcsec.以内であることがわかる。すなわち、両者間の異方性が小さいことがわかる。
【0136】
一方、
図10より、本実施形態の製造方法で作製されなかったIII族窒化物半導体基板は、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は500arcsecを超えることが分かる。また、III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を上記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と上記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅も500arcsecを超えることが分かる。
【0137】
m面サファイア基板上に窒化物半導体を結晶成長した場合、その窒化の有無や窒化温度、成膜温度の違いにより窒化物半導体の成長面や結晶性、結晶軸の配向性が異なることが知られている。実施例と比較例はバッファ層の成膜温度が同じであることから、製造条件のうち、最も大きな影響を与えているのは熱処理工程S20の温度であると考えられる。
【0138】
実施例の結果から、熱処理工程S20の温度を800℃以上930℃以下に調整することにより、{11−22}面に対するXRCの半値幅が良好となることが分かる。熱処理工程の温度がバッファ層およびIII族窒化物半導体結晶の結晶性および結晶軸の配向性に大きな影響を与えていることが分かる。
【0139】
以下、参考形態の例を付記する。
1. サファイア基板と、
前記サファイア基板上に位置し、主面が半極性面であって、ミラー指数(hkml)で表され、lが0未満の面であるIII族窒化物半導体層と、
を有し、
前記III族窒化物半導体層の前記主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と前記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRC(X-ray Rocking Curve)の半値幅は、500arcsec以下であるIII族窒化物半導体基板。
2. 1に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記III族窒化物半導体層の前記主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を前記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と前記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅は、500arcsec以下であるIII族窒化物半導体基板。
3. 1または2に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記III族窒化物半導体層の前記主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のm軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と前記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であって、m軸方向に20mmずつ離れた3点での測定値、及び、
前記III族窒化物半導体層の主面に対してエックス線をIII族窒化物半導体結晶のc軸を前記主面に投影した投影軸に平行に入射し、エックス線の入射方向と前記主面のなす角度を走査して測定した{11−22}面に対するXRCの半値幅であって、c軸を前記主面に投影した投影軸方向に20mmずつ離れた3点での測定値、
における最大値と最小値の差が50arcsec.以内であるIII族窒化物半導体基板。
4. 1から3のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記III族窒化物半導体層の厚さは、1μm以上20μm以下であるIII族窒化物半導体基板。
5. 1から4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の上に、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法でIII族窒化物半導体を成長させてHVPE層を形成するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
6. 5に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記HVPE層からIII族窒化物半導体基板を切り出すIII族窒化物半導体基板の製造方法。