特許第6894855号(P6894855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894855
(24)【登録日】2021年6月8日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/24 20060101AFI20210621BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20210621BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20210621BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20210621BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C01B33/24 101
   A61L27/10
   A61L27/58
   A61L27/50
   A61L27/54
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-9728(P2018-9728)
(22)【出願日】2018年1月24日
(65)【公開番号】特開2019-127413(P2019-127413A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】野中 恭子
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/151997(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0305027(US,A1)
【文献】 特開2016−047873(JP,A)
【文献】 特開2000−219547(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/168245(WO,A1)
【文献】 特開2013−244466(JP,A)
【文献】 特開2015−171696(JP,A)
【文献】 特表2005−526677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 − 39/54
A61L 27/02 − 27/12
A61L 27/50 − 27/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムとケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとを水中で反応させ、反応液のpHを8〜11に調整することを特徴とする非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
【請求項2】
水酸化カルシウムとケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとの反応が、CaとSi換算で等モル量反応させる請求項1記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
【請求項3】
pHの調整が、無機酸又は有機酸の添加により行なわれる請求項1又は2記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
【請求項4】
反応液のpHを9〜10.5に調整する請求項1〜3のいずれか1項記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料として有用な非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療を目的として、人体の組織・器官の形態および機能を回復するために用いられる代替材料を総称して生体材料と呼び、人体へ為害作用を及ぼすことのない物質が用いられている。
生体材料のうち、無機材料は、結晶、ガラスに大別される。また、生体との係わり合いから生体に不活性な材料と活性な材料に分類される。前者は生体内で周囲組織との間にほとんど化学反応を示さず比較的長期間安定性が保持される。一方、後者は生体内で反応を示し、骨組織と結合したり、生体内に吸収されたりする。近年、注目されている無機材料は後者であり、ケイ酸カルシウム等が知られている(特許文献1、2、非特許文献1)。
【0003】
ケイ酸カルシウムの製造法としては、ケイ酸ナトリウムと消石灰を常温、常圧で反応させる方法、硝酸カルシウム水溶液とケイ酸ナトリウム水溶液を反応させる方法(特許文献1)、石膏とケイ酸ナトリウムをスラリー中で反応させる方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−506391号公報
【特許文献2】特開2013−227205号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】化学と生物 Vol.31,No.5,1993,p323−330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法により得られるケイ酸カルシウムは、強アルカリ性になり、生体への適用が困難であった。また、原料に含まれるナトリウム成分がケイ酸カルシウムに残留し、歯科金属材料を腐食させるという問題もあった。また、歯科材料としてのケイ酸カルシウムとしては、アパタイト層形成のためには、カルシウムイオンだけでなく、ケイ酸イオンも多量に溶出する必要性があるところ(非特許文献1参照)、これらの両成分の溶出性に優れるケイ酸カルシウムは得られていなかった。
従って、本発明の課題は、生体への安全性が高く、かつケイ酸及びカルシウムイオンの溶出性に優れるケイ酸カルシウムの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、ケイ酸カルシウムの製造工程について検討し得られたケイ酸カルシウムの特性を評価してきたところ、水酸化カルシウムと、ケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとを水中で反応させ、反応液のpHを8〜11に調整すれば、強アルカリ性でなく、かつカルシウムイオンだけでなくケイ酸イオンの溶出性が飛躍的に向上した非晶質ケイ酸カルシウム水和物が効率良く得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕水酸化カルシウムとケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとを水中で反応させ、反応液のpHを8〜11に調整することを特徴とする非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
〔2〕水酸化カルシウムとケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとの反応が、CaとSi換算で等モル量反応させる〔1〕記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
〔3〕pHの調整が、無機酸又は有機酸の添加により行なわれる〔1〕又は〔2〕記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
〔4〕反応液のpHを9〜10.5に調整する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、強アルカリ性でなく、カルシウムイオン及びケイ酸イオンの両成分の溶出性に優れ、歯科用等の生体材料として有用な非晶質ケイ酸カルシウムが効率良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】水準1で得られる非晶質ケイ酸カルシウム粉末(CSH)のX線回折スペクトルを示す。
図2】水準2で得られる非晶質ケイ酸カルシウム粉末(CSH)のX線回折スペクトルを示す。
図3】水準3で得られる非晶質ケイ酸カルシウム粉末(CSH)のX線回折スペクトルを示す。
図4】水準4で得られる非晶質ケイ酸カルシウム粉末(CSH)のX線回折スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非晶質ケイ酸カルシウム水和物の製造法は、水酸化カルシウムと、ケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとを水中で反応させ、反応液のpHを8〜11に調整することを特徴とする。
【0013】
原料として用いられる水酸化カルシウムは、通常消石灰として市販されているものを使用することができる。水酸化カルシウムは水スラリーとして使用するのが好ましい。水スラリー中の水酸化カルシウム量は、スラリーのハンドリング性や分散性などの点から、水100質量部に対して1〜13質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましく、2〜7質量部がさらに好ましい。
【0014】
他方の原料であるケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとしては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、又はケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムの混合物のいずれでもよい。経済性の点からケイ酸ナトリウムが好ましい。ケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムもまた、水スラリーとして使用するのが好ましい。水スラリー中のケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムの量は、スラリーのハンドリング性や粘性などの点から、水100質量部に対して1〜25質量部が好ましく、2〜22質量部がより好ましく、2〜20質量部がさらに好ましい。
【0015】
水酸化カルシウムとケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとの混合比は、カルシウムイオン及びケイ酸イオンの溶出やpH調整などから、設定することができる。CaとSi換算で等モルに限定するものではないが、等モルであるのが、純度の高く、カルシウムイオン及びケイ酸イオンの両成分の溶出性に優れた非晶質ケイ酸カルシウム水和物を得る点で望ましい。
【0016】
反応は、常温、すなわち5〜35℃で、常圧下に行うのが経済性の点で好ましい。反応は、前記2種の原料スラリーを混合して撹拌すればよい。撹拌手段としては、攪拌羽根などを用いた一方向回転型攪拌装置等の通常の手段であればよい。
【0017】
本発明においては、反応液、すなわち、2種の原料スラリーを混合した混合スラリーのpHを8〜11に調整する。pHを調整しない場合反応液のpHは13程度の強アルカリ性となるので、これをpH8〜11に低下させる。好ましいpHは8〜10.5であり、より好ましくは9〜10.5であり、さらに好ましくは9.5〜10.5である。
pHの調整は、無機酸又は有機酸を添加することにより行なわれる。用いる酸としては、生成するナトリウム塩又はカリウム塩が水に溶解する酸であるのが、得られるケイ酸カルシウムとの分離性の点で望ましい。無機酸としては、塩酸、硝酸、ホウ酸等が用いられる。有機酸としては、酢酸、クエン酸、ギ酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等が用いられる。
【0018】
pH調整後は、生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物粉末を水洗及びろ過して乾燥すればよい。
【0019】
得られるケイ酸カルシウム水和物は、非晶質である。非晶質であることは、X線回折により確認できる。
pH調整することにより、ケイ酸カルシウム水和物を非晶質化することができる。
【0020】
本発明における非晶質ケイ酸カルシウム水和物とは、ケイ酸カルシウム水和物の内、結晶性とされるトバモライト(tobermorite)やゾノライト(xonotlite)を除いたものをいい、例えば、図1に示す、2θ=29.2°(CuKα)に大ピークを示す結晶性の良好でないケイ酸カルシウム水和物が挙げられる。
【0021】
本発明で得られる非晶質ケイ酸カルシウムの平均粒子径(メジアン径)は、100μm以下である。平均粒子径は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準じて測定を行った。
【0022】
また、得られる非晶質ケイ酸カルシウム水和物粉末は、水洗によりナトリウムやカリウムがほぼ除去されており、それらの含有量は1質量%未満である。従って、安全であり、苦みを感じない。
また、得られる非晶質ケイ酸カルシウム水和物粉末は、水に懸濁するとSi及びCaの両成分が溶出しやすいという性質を有するため、アパタイト生成能に優れる。
従って、本発明方法により得られる非晶質ケイ酸カルシウム粉末は、生体材料、特に歯科用材料として有用である。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されない。
【0024】
(1)原料
水酸化カルシウム(特級、関東化学)
硝酸カルシウム四水和物(1級、和光純薬工業)
ケイ酸ナトリウム:水ガラス3号(東曹産業)
ケイ酸カリウム:1号ケイ酸カリ(富士化学)
塩酸(特級、和光純薬工業)
酢酸(特級、和光純薬工業)
クエン酸(特級、和光純薬工業、粉末)
【0025】
(2)非晶質ケイ酸カルシウム水和物(CSH)の合成方法
水準1(比較例)
蒸留水に水酸化カルシウムを加えて15分攪拌したスラリーAと、蒸留水に水ガラス3号を加えて15分攪拌したスラリーBを準備した。スラリーAにスラリーBを加えて1時間攪拌した混合スラリーをろ過、洗浄し、得られたケーキを100℃で乾燥して、CSHを得た。
【0026】
水準2〜4(実施例)
蒸留水に水酸化カルシウムを加えて15分攪拌したスラリーAと、蒸留水に水ガラス3号を加えて15分攪拌したスラリーBを準備した。スラリーAにスラリーBを加えて1時間攪拌した混合スラリーを中和剤として塩酸(35%)を用いて、pHを13から9に中和した後にろ過、洗浄し、得られたケーキを100℃で乾燥して、水準2のCSHを得た。
水準3は中和剤として酢酸(99.7%)、水準4は中和剤としてクエン酸(粉末)を用いる以外は、水準2と同様にCSHを合成した。
【0027】
水準5(実施例)
蒸留水に水酸化カルシウムを加えて15分攪拌したスラリーAと、蒸留水に水ガラス3号と1号ケイ酸カリを加えて15分攪拌したスラリーBを準備した。スラリーAにスラリーBを加えて1時間攪拌した混合スラリーを中和剤としてクエン酸(粉末)を用いて、pHを13から9に中和した後にろ過、洗浄し、得られたケーキを100℃で乾燥して、水準5のCSHを得た。
【0028】
水準6(比較例)
水酸化カルシウムの代わりに硝酸カルシウムを用いた以外は、水準1と同様にCSHを合成した。
【0029】
【表1】
【0030】
(3)試験方法
(CSHの化学成分)
蛍光X線により酸化物換算で測定し、強熱減量で補正し、CSHの化学成分を算出した。
(強熱減量(ig.loss))
「JIS R 5202:セメントの化学分析方法」に準じて測定
(ろ液中のpH、SiとCa濃度)
蒸留水100mLにCSH10gを加えて10分間攪拌する。その後、速やかにスラリーを吸引ろ過して、ろ液のpHの測定、ろ液中のSi濃度とCa濃度をICPで分析した。
(4)結果
結果を表2及び表3に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
水準2〜6は、pHが10〜10.5と弱アルカリ性となり、苦味を抑制できる。また、歯科用金属材料の腐食が抑えられる。
水準2〜5は、水準1より、Si濃度とCa濃度が高く、溶出量が多い。
水準2〜5は、水準6よりCa濃度が高く、溶出量が多い。Si濃度は、水準2は水準6と同程度であったが、水準3〜5は、濃度が高く、溶出量が多い。
水準2〜5は、Ca濃度が高いことから、再石灰化が促進される。また、ハイドロキシアパタイトの生成も多くなる。
水準2〜5は、水和ケイ酸イオンはアパタイトの核形成を誘起するため、Si濃度が高いことから、アパタイトの生成が促進される。
水準1のX線回折スペクトルを図1、pH調整して得られた水準2、3、4のX線回折スペクトルをそれぞれ図2、3、4に示す。pH調整して得られた水準2、3、4のケイ酸カルシウム水和物は、pH調整していない水準1のケイ酸カルシウム水和物より、ピーク強度が弱く、ブロードになっていることから、非晶質化されていることがわかる。
図1
図2
図3
図4