(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機バインダ硬化層の形成に用いられる無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の抗ウィルス性部材。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の機能性部材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の機能性部材の他の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)〜(f)は、本発明の機能性部材の製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1で作製した機能性部材(化粧板)の断面SEM写真である。
【
図5】
図5は、比較例1で作製した機能性部材(化粧板)の断面SEM写真である。
【0025】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の機能性部材について詳細に説明する。
本発明の機能性部材は、樹脂基材と、上記樹脂基材上に形成され、機能性成分を含有する無機バインダ硬化層とからなり、上記無機バインダ硬化層には、クラックが形成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の機能性部材においては、上記機能性成分を含有する無機バインダ硬化層にクラックが形成されているので、上記無機バインダ硬化層の見かけ表面積が大きくなり、ウィルスと無機バインダ硬化層に含まれる機能性成分との接触面積が大きくなり、また、クラック内部の機能性成分は清掃用具や手による接触に対しても脱落しにくいため、抗菌活性、抗ウィルス活性に優れ、その性能を長期的に維持することが可能な機能性部材を提供することができる。
【0027】
さらに、無機バインダ硬化層にクラックが形成されているため、ウィルスを含む流体がクラックの内部に流れ込むことにより、ウィルスをトラップすることができ、抗ウィルス活性の高い機能性部材となる。
【0028】
図1は、本発明の機能性部材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の機能性部材10では、樹脂基材11の表面に、機能性成分の粒子13を含有する無機バインダ硬化層12が形成されており、無機バインダ硬化層12には、複数のクラック14が形成されている。
図1では、機能性成分の粒子13は、粒子状であるが、機能性成分は、無機バインダ硬化層12に均一に溶解されていてもよい。
【0029】
本発明の機能性部材を構成する樹脂基材は、特に限定されるものではなく、種々の樹脂からなる樹脂製シートであってもよく、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0030】
樹脂製シートの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート(DAP)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー等のオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。
【0031】
上記した化粧板は、基材と上記基材の一方の面又は両面に積層される表層樹脂層とからなるものである。
上記化粧板に使用する基材は、特に限定されるものではなく、一般的に化粧板に使用されるコア紙やマグネシアセメント等の不燃板等を使用することができる。コア紙は単独でもよく複数枚のコア紙を積層した積層体としてもよい。コア紙の枚数は特に限定されないが、1〜20枚とすることができる。コア紙としては、例えば、水酸化アルミニウム抄造紙を使用することができる。コア紙には、フェノール樹脂を含浸させることができる。また、コア紙とマグネシアセメント不燃板を積層させて基材とすることもできる。
【0032】
マグネシアセメント不燃板は、単独で使用することにより、又は、コア紙の中心部に積層して配置させることにより基材を構成することができる。マグネシアセメント不燃板は、酸化マグネシウム(MgO)と塩化マグネシウム(MgCl
2)を混合し、さらに骨材と水を加えて混練し、板状に成形することにより製造されるものである。骨材としては、ロックウール、グラスウール等の無機質繊維、ウッドチップ、パルプ等の有機質繊維を用いることができる。また、マグネシアセメント不燃板の強度を高めるため、中間層として網目状等に形成されたガラス繊維層を設けることができる。
【0033】
また、上記化粧板を構成する表層樹脂層に用いることができる樹脂としては、メラミン樹脂、ジアリルフタレート(DAP)樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。これらの中では、メラミン樹脂を用いることが望ましい。
【0034】
メラミン樹脂は、透光性などの光学的、視覚的特性を損なうことなく、寸法安定性や靭性を改善した樹脂である。メラミン樹脂としては、メラミン及びその誘導体をモノマーとする樹脂であれば公知のものを採用することができる。また、メラミン樹脂は、単一のモノマーからなる樹脂であってもよく、複数のモノマーからなる共重合体であってもよい。メラミンの誘導体としては、例えば、イミノ基やメチロール基、メトキシメチル基、ブトキシメチル基等のアルコキシメチル基などの官能基を有する誘導体が挙げられる。また、メチロール基を有するメラミン誘導体に低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物をモノマーとして用いることができる。モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメチロール基を有する誘導体(以下、「メチロール化メラミン」という。)を架橋剤としてメラミンと共重合させてなるメラミン樹脂を用いることができる。
【0035】
上記表層樹脂層は、模様や色彩が印刷された印刷紙に樹脂が含浸された化粧層であってもよく、填料の量が15%以下で樹脂を含浸した場合には透光性となるオーバーレイ紙に樹脂が含浸されたオーバーレイ層でもよい。表層樹脂層がオーバーレイ層である場合には、化粧層はオーバーレイ層の下に設けられる。
なお、填料とは紙に添加して、白色度や平滑度を調整するための無機粒子(フィラー)であり、炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、タルク、クレーおよびカオリンから選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。填料は無機粒子であるため、填料の含有量は紙の重量と紙を強熱して残存する灰分の重量から計算することができる。
【0036】
図2は、本発明の機能性部材の他の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2に示す本発明の機能性部材20では、樹脂基材21は、基材21aと基材21aの一方の面に形成された表層樹脂層21bとから構成されており、この樹脂基材21の表面に、機能性成分が均一に溶解された無機バインダ硬化層22が形成されており、無機バインダ硬化層22には、複数のクラック24が形成されている。
図2では、上記のように、機能性成分は、無機バインダ硬化層22に均一に溶解し、分散されている。
【0037】
本発明の機能性部材において、クラックの幅は、特に限定されるものではないが、0.1〜1.5μmが望ましい。
本発明の機能性部材において、クラックの幅が0.1〜1.5μmであると、インフルエンザウィルスやノロウィルス等の病原性ウィルスの大きさよりも十分に広いので、ウィルス不活性度が−3.00と同等かそれよりも抗ウィルス活性に優れた値となり、充分な抗ウィルス活性を有する機能性部材となる。
【0038】
クラックの幅が0.1μm未満であると、クラックの幅が狭すぎるため、ウィルスがクラック内部にトラップされ難くなり、一方、クラックの幅が1.5μmを超えると、意匠性が悪化するだけでなく、クラック内部に微細な異物が混入しやすくなり、ウィルスがトラップされ難くなる。
【0039】
クラックの態様は、特に限定されるものではないが、
図1に示すように、クラックが、無機バインダ硬化層の表面から樹脂基材表面まで繋がって、もしくは樹脂基材表面から無機バインダ硬化層の表面まで繋がって存在している。また、無機バインダ硬化層の表面から抗ウィルス成分の近傍もしくは抗ウィルス成分まで繋がって、または、抗ウィルス成分の近傍もしくは抗ウィルス成分から無機バインダ硬化層の表面まで繋がって存在していることが望ましい。
【0040】
なお、ウィルス不活性度とは、元のウィルスの量を1とし、ウィルス失活処理後に失活したウィルスの相対量をXとした場合に、常用対数log(1−X)で示される数値(負の値で示される)であり、絶対値が大きいほどウィルスを不活性化する能力が高い。たとえば、元のウィルスの99.9%が失活した場合、ウィルス不活性度は、log(1−0.999)=−3.00で表記される。また、ウィルス失活処理前の全ウィルス量に対するウィルス失活処理後に失活したウィルス量の割合を%で表したもの(上記の場合、99.9%)をウィルス不活度という。
【0041】
上記無機バインダ硬化層のクラックの幅は、機能性部材を厚さ方向に割った後、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した断面写真からそれぞれの平均値を算出することによって求めることができる。上記無機バインダ硬化層のクラックの幅は、任意の10箇所の無機バインダ硬化層に発生したクラックについて、クラック幅の平均値を算出することによって求められる。具体的には、1本の縦方向のクラックに着目して最大幅と最小幅を計測して、その平均を当該クラックの幅とし、同様の測定を他の9本の縦方向のクラックについても行い、合計10本のクラックについて平均を求めることで、平均クラックの幅を計測する。
【0042】
本発明の機能性部材において、上記機能性成分は、抗ウィルス成分もしくは抗ウィルス成分に加えて、抗菌成分および消臭成分からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが望ましい。
【0043】
本発明の機能性部材において、上記抗ウィルス成分として、無機系抗ウィルス剤及び有機系抗ウィルス剤からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが望ましい。
上記無機バインダ硬化層中には、上記した無機系抗ウィルス剤が1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上の無機系抗ウィルス剤が含まれていてもよく、上記した有機系抗ウィルス剤が1種類のみ含まれていてもよく、2種類以上の有機系抗ウィルス剤が含まれていてもよい。さらに、上記無機バインダ硬化層中には、上記無機系抗ウィルス剤と上記無機系抗ウィルス剤とが合計で2種類以上含まれていてもよい。
【0044】
本発明の機能性部材において、上記無機系抗ウィルス剤は、銀、銅、亜鉛、白金、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物、金属もしくは金属酸化物が担持された金属酸化物粒子、金属イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0045】
上記無機バインダ硬化層中に含まれている無機系抗ウィルス剤として、例えば、銀、銅、亜鉛及び白金の少なくとも1種からなる金属もしくは金属化合物が挙げられる。
無機バインダ硬化層中には、銀、銅、亜鉛及び白金の粒子が単独で含まれていてもよく、銀、銅、亜鉛及び白金のうち、2種類以上の金属もしくは金属化合物粒子が含まれていてもよく、例えば、銀、銅、亜鉛及び白金のうち、少なくとも2種を含む合金の金属もしくは金属化合物粒子が固定されていてもよい。
【0046】
上記無機バインダ硬化層中に含まれている金属もしくは金属酸化物が担持された金属酸化物微粒子として、例えば、酸化チタン、酸化タングステン等に白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族、鉄、銅、銀などを担持させたものなどが挙げられ、具体的には、白金担持チタニア触媒、銅担持チタニア触媒、鉄担持チタニア触媒、窒素ドープチタニア触媒、硫黄ドープチタニア触媒、炭素ドープチタニア触媒、酸化タングステン等の可視光応答型光触媒が挙げられ、上記銅担持チタニア触媒としては、例えば、特開2006−232729号公報に記載されたCuO/TiO
2(重量%比)=1.0〜3.5の範囲で銅を含有するアナターゼ型酸化チタン、特開2012−210557号公報に記載された亜酸化銅(酸化銅(I):Cu
2O)と酸化チタンとが複合化した光触媒組成物、特開2013−166705号公報に記載された一価銅化合物及び二価銅化合物を含む混合物を表面に担持した酸化チタン、並びに、国際公開第2013/094573号に記載された結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有する銅及びチタン含有組成物などが挙げられる。
【0047】
また、無機系抗ウィルス剤としては、銀、銅、亜鉛、チタン等から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物あるいは金属水和物の粒子を用いることもできる。無機系抗ウィルス剤の具体例としては、例えば、酸化銅(I)(亜酸化銅)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)、銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライト、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたアルミナ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたシリカ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化亜鉛、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化チタン、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたリン酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライトは、さらに亜鉛イオン等の他の金属イオンで交換されていてもよい。
【0048】
上記無機系抗ウィルス剤の形状は、特に限定されるものでなないが、粒子状であることが望ましく、無機バインダ硬化層の表面から粒子状の抗ウィルス剤の少なくとも一部が露出していることが望ましい。細菌やウィルスと接触し易くなり、抗菌活性や抗ウィルス活性が高くなり易いからである。
【0049】
本発明の機能性部材において、上記無機系抗ウィルス剤が粒子状である場合、上記無機系抗ウィルス剤の粒子の平均粒子径は、0.1〜10μmであることが望ましい。
無機系抗ウィルス剤の粒子の平均粒子径が小さいと、無機バインダ硬化層の膜厚を薄くしても、無機系抗ウィルス剤の粒子を無機バインダ硬化層の表面に露出させることが難しく、無機系抗ウィルス剤の粒子が無機バインダ硬化層の内部に埋没してしまうため、無機系抗ウィルス剤の粒子の本来の機能を発揮することが難しくなる。一方、無機系抗ウィルス剤の粒子の平均粒子径が大きいと、機能性部材の意匠性が悪化するだけでなく、無機バインダ硬化層へ無機系抗ウィルス剤の粒子を固定することが難しく、無機系抗ウィルス剤の粒子が無機バインダ硬化層から容易に脱落してしまうため、結果として抗ウィルス性及びその長期耐久性を発現することが難しくなる。
【0050】
本発明の化粧板において、上記無機バインダ硬化層に含まれる上記無機系抗ウィルス剤の粒子の量は、0.01〜10g/m
2であることが望ましく、0.02〜5g/m
2であることがより望ましい。
無機バインダ硬化層に含まれる無機系抗ウィルス剤の粒子の量が0.01〜10g/m
2であると、変色等による化粧板の意匠性を低下させることなく、抗ウィルス機能を発現することができる。無機バインダ硬化層に含まれる無機系抗ウィルス剤の粒子の量が0.01g/m
2未満である場合、無機系抗ウィルス剤の粒子の量が少なすぎるため、充分な抗ウィルス活性、抗菌活性が得られにくい。一方、無機バインダ硬化層に含まれる無機系抗ウィルス剤の粒子の量が10g/m
2を超えると、無機系抗ウィルス剤の粒子によって化粧板の意匠性が低下し易くなる。
【0051】
本発明の機能性部材では、上記有機系抗ウィルス剤は、抗ウィルス樹脂、スルホン酸系界面活性剤、銅のアルコキシド、及び、ビス型第四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0052】
本発明の機能性部材において、上記有機系抗ウィルス剤としては、例えば、ハロカルバン、クロロフェネシン、塩化リゾチーム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール、チモール、ヘキサクロロフェン、ベルベリン、チオキソロン、サリチル酸およびそれらの誘導体、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、パラクロルメタクレゾール、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、石炭酸、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ヘキサクロロフェン、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、チアントール、ヒノキチオール、トリクロサン、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、クロルヘキシジングルコン酸塩、フェノキシエタノール、レゾルシン、アズレン、サリチル酸、ジンクピリチオン、モノニトログアヤコールナトリウム、ウイキョウエキス、サンショウエキス、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム及びウンデシレン酸誘導体、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩等が挙げられる。これらのなかでは、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩が好ましい。
【0053】
本発明の機能性部材において、抗ウィルス樹脂は、酸性官能基と樹脂基体とからなる。酸性官能基としては、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基などが挙げられる。これらのなかでは、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基が好ましい。
【0054】
上記樹脂基体は、ビニル基を有するモノマーの重合体であることが望ましい。
ビニル基を有するモノマーの重合体は、付加重合で合成されるので水などの副生成物がなく、透明度の高い抗ウィルス樹脂を得ることができる。このため、基材の意匠性に与える影響を小さくすることができる。
【0055】
上記ビニル基を有するモノマーは、スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンから選択される1種以上のモノマーであることが望ましい。
スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンは、特に透明度の高い抗ウィルス樹脂を得ることができる。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンは、モノマーに添加することによって架橋し、三次元網目構造を形成することができる。三次元網目構造を形成することによって、分解しにくくなり、耐久性を高くすることができる。
【0056】
本発明の化粧板において、酸性官能基と樹脂基体とからなる抗ウィルス樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、陽イオン交換樹脂をそのままあるいは粉砕などして微細化して使用することができる。陽イオン交換樹脂は、同様に樹脂基体に酸性官能基を有する構成であり、本発明の抗ウィルス樹脂として利用することができる。
【0057】
上記ビス型第四級アンモニウム塩としては、例えば、下記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩、ビス型キノリニウム塩、ビス型チアゾリウム塩下記一般式(2)で表される化合物等が望ましい。
【0058】
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、同一または異なっていてもよいアルキル基、R
3はエーテル結合を含んでもよい有機基であり、X
−は、ハロゲン陰イオンを示す。)
【0059】
【化2】
(上記一般式(2)中、R
4は、官能基を有してもよいアルキル基を表し、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、アルキル基を表す。)
【0060】
まず、上記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩について説明する。
上記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩において、X
−としては、例えば、Cl
−、Br
−、I
−等が挙げられる。
R
1、R
2は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、上記アルキル基は、側鎖を有していてもよい。
上記一般式(1)中、R
3で表される有機基は、−CO−O−(CH
2)
6−O−CO−、−CONH−(CH
2)
6−CO−、−NH−CO−(CH
2)
4−CO−NH−、−S−Ph−S−、−CONH−Ph−NHCO−、―NHCO−Ph−CONH−、−O−(CH
2)
6−O−または−CH
2−O−(CH
2)
4−O−CH
2−(但し、Phは、フェニレン基を表す。)で表されるものであることが望ましい。
【0061】
具体的には、ビス型ピリジニウム塩として、下記の一般式(3)〜一般式(10)で示されるものが挙げられる。
【化3】
上記一般式(3)中、R
11は、C
nH
2n+1で表されるアルキル基であり、nは、8、10、12、14、16または18が望ましい。また、mは、3、4、6、8、10が望ましい。以下に示す化合物の置換基R
11についても、同様である。
【0062】
【化4】
【0063】
【化5】
【0064】
【化6】
【0065】
【化7】
【化8】
【0066】
【化9】
【0067】
【化10】
【0068】
また、上記ビス型ピリジニウム塩としては、下記の化学式(11)で表される1,1′−ジデシル−3,3′−[ブタン−1,4−ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミドが特に望ましい。
【化11】
【0069】
次に、上記ビス型チアゾリウム塩について説明する。
また、上記ビス型チアゾリウム塩としては、下記の一般式(12)で示されるビス型チアゾリウム塩が挙げられる。
【化12】
【0070】
次に、ビス型キノリニウム塩について説明する。
上記ビス型キノリニウム塩としては、一般式(3)〜一般式(10)で表されるビス型ピリジニウム塩を構成する下記の化学式(13)に表されるピリジニウム基を、化学式(14)に示すキノリウム基に置換した化学構造を有するビス型キノリニウム塩が挙げられる。上記ビス型キノリニウム塩において、他の置換基等は、一般式(3)〜一般式(10)で表されるビス型ピリジニウム塩と同様である。
【0071】
【化13】
【0072】
【化14】
【0073】
さらに、本発明で使用される一般式(2)で表される化合物について説明する。
【化15】
上記一般式(2)中、R
4は、官能基を有してもよいアルキル基を示す。アルキル基は、側鎖を有してもよく、その炭素数は、1〜20が望ましい。上記官能基としては、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、エーテル基等が挙げられる。また、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、アルキル基を表し、上記アルキル基は、側鎖を有してもよく、その炭素数は、1〜20が望ましい。
【0074】
上記一般式(2)で表される化合物としては、2,3−ビス(ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド)−1−プロパノール等が挙げられる。
【0075】
上記有機系抗ウィルス剤は、直接、無機バインダ中に溶解させるか、溶剤等に溶解させた後、無機バインダに添加することにより、無機バインダ硬化層に均一に溶解させることができ、高い抗菌活性、抗ウィルス活性を有する抗ウィルス性部材となる。有機系抗ウィルス剤が無機バインダ硬化層に溶解しない場合には、均一に分散させればよい。
【0076】
本発明の機能性部材では、上記消臭成分は、白金担持チタニア触媒、パラジウム担持チタニア触媒、銀担持チタニア触媒、鉄担持チタニア触媒、又は、吸着性物質と該吸着性物質に担持された光触媒とからなることが望ましい。白金担持チタニア触媒、パラジウム担持チタニア触媒、銀担持チタニア触媒、鉄担持チタニア触媒は、無機バインダ硬化層に直接担持されていてもよく、この場合、上記触媒が悪臭ガスを分解する。
【0077】
また、上記機能性部材が吸着性物質と該吸着性物質に担持された光触媒とからなる場合、上記吸着性物質は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、活性炭、ゼオライト、モルデナイト、ハイドロタルサイト及び金属フタロシアニンからなる群から選択される少なくとも1種であり、上記光触媒は、チタニア、窒素ドープチタニア触媒、硫黄ドープチタニア触媒、炭素ドープチタニア触媒、酸化タングステンであることが望ましい。
【0078】
上記吸着性物質は、多孔性材料であることが望ましく、このような多孔性材料である吸着性物質の表面に光触媒が担持された機能性部材であることが望ましい。
多孔性材料であれば、細孔内への多量の悪臭ガス吸着機能が確保されるため、悪臭ガスを吸着しやすくなり、また、この悪臭ガスを光触媒により分解することができるからである。
【0079】
本発明の機能性部材では、上記無機バインダ硬化層の形成に用いられる無機バインダは、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル及びケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
上記無機バインダにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で2〜80重量%が好ましい。
上記無機バインダは、分散媒として、水を用いたものと有機溶媒を用いたものが存在するので、添加する抗ウィルス成分の種類を考慮して、無機バインダを選択することができ、抗ウィルス成分が均一に溶解又は分散した混合組成物を得ることができる。
【0080】
本発明の機能性部材において、上記無機バインダ硬化層は、無機高分子の乾燥体もしくは硬化体をさらに含むことが望ましい。具体的には、上記無機バインダ硬化層は、シロキサンを含有する無機高分子の乾燥体もしくは硬化体をさらに含むことがより望ましい。
上記無機バインダ硬化層が、シロキサンを含有する無機高分子の乾燥体もしくは硬化体を含む場合、無機バインダ硬化層の表面の潤滑性、手触り感触を良好にし、清掃等の物理的な負荷に対する機能耐久性を高くすることができる。
【0081】
シロキサンを含有する無機高分子としては、例えば、シリコーンオイル、シランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種でもよいし、2種以上であってもよい。また、シロキサンを含有する無機高分子として、例えば、「マイブロックワコー101」(富士フィルム和光純薬社製)等の市販品を使用することもできる。この無機高分子の配合量を調整することで、無機バインダ硬化物の熱膨張係数を変化させ、無機バインダ硬化物と樹脂基板との熱膨張率差を調整して、クラックを導入することができる。
【0082】
本発明の機能性部材には、抗ウィルス成分のみが含まれていてもよく、抗ウィルス成分に加えて、抗菌成分および消臭成分からなる群から選ばれる少なくとも1種以上が含まれていてもよい。
【0083】
本発明の機能性部材は、シート状であるが、例えば、建築物内部やトイレの内装材、壁材、ドア等や、事務機器や家具等に用いることができ、これらの部材に、高い抗菌活性、抗ウィルス活性や消臭性能を付与することができる。
【0084】
次に、上記した機能性部材の製造方法について説明する。
上記機能性部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、下記の方法により製造することができる。
下記の製造方法では、まず、転写用フィルムの表面に機能性成分を含む無機バインダ硬化層となる転写用無機バインダ層を形成する。続いて樹脂基材の表面に転写を行い、樹脂基材の表面に機能性成分を含む転写用無機バインダ層を転写するとともに、必要により加熱、加圧を行って硬化させることにより樹脂基材上に機能性成分を含む無機バインダ硬化層を形成する。
【0085】
転写用フィルムの表面に機能性成分の粒子(例えば、無機系抗ウィルス剤の粒子)を含む転写用無機バインダ層を形成する際には、最初に、転写用フィルムの表面に機能性成分の粒子を付着させ、続いて機能性成分の粒子を含有する転写用無機バインダ層を形成してもよい。
なお、機能性成分が有機系抗ウィルス剤である場合等においては、樹脂基材に、機能性成分を含む無機バインダを塗布し、硬化させることにより、直接、機能性成分を含む無機バインダ硬化層を形成してもよい。
【0086】
図3(a)〜(f)は、本発明の機能性部材の製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0087】
本発明の機能性部材の製造方法においては、無機バインダ及び機能性成分を含む塗工液(混合組成物)を、転写用フィルム36(
図3(a)参照)の表面にスプレーするか、又は、バーコーター、刷毛、ロール等を用いて、上記塗工液を転写用フィルム36(
図3(a)参照)の表面に塗工する。機能性成分が粒子状である場合、機能性成分である粒子を均一に重なりが少なく塗工できる点からスプレーもしくはコートバーを用いた塗工が望ましい。この場合、転写用フィルム36の表面に吹き付ける上機能性成分の粒子の量は、0.1〜20g/m
2であることが望ましい。
上記塗工液は、無機バインダに加えて、シロキサンを含有する無機高分子をさらに含むことが望ましい。
【0088】
上記機能性成分が粒子状である場合、上記工程の後、無機バインダ及びシロキサン等を含む液を再度、塗工してもよい。粒子状の機能性成分を塗工基材から脱落しにくくするだけでなく、表面の手触りの感触を滑らかにすることができるからである。
【0089】
本発明の機能性部材の製造方法においては、上記塗工液を転写用フィルムの表面に塗工した後、上記塗工液を自然乾燥させることが望ましい。上記自然乾燥により、転写用フィルム36上に機能性成分の粒子33を含有する転写用無機バインダ層32′を形成することができる(
図3(b)参照)。
転写用無機バインダ層32′は、
図2に示すように、機能性成分が均一に溶解している層であってもよい。
【0090】
本発明の機能性部材の製造方法において、転写用フィルム36としては、例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。転写用フィルム36は、転写後に剥離除去される。
【0091】
転写用無機バインダ層を形成する側の転写用フィルムの表面には、コロナ放電処理が施されていることが望ましい。従って、転写用フィルムとしては、表面にコロナ放電処理が施されたOPPフィルム又はPETフィルムを用いることが望ましい。
【0092】
転写用無機バインダ層を形成する側の転写用フィルムの表面には、マット処理が施されていてもよいが、上記転写用フィルムの表面粗さRmaxは5μm以下であることが望ましい。転写用フィルムの表面粗さが大きいと、化粧板の表面に微細な凹凸が発生し、意匠性及び手触り感触が悪化しやすくなるからである。なお、マット処理とは、表面に凹凸を形成する処理である。
【0093】
次に、
図3(c)に示すように、基材31aの表面に表層樹脂層31bとなる樹脂含浸紙が積層された樹脂基材31上に、転写用無機バインダ層32′が表層樹脂層31bと接するように、転写用フィルム36を表層樹脂層31b上に積層する。
【0094】
なお、本発明の機能性部材の項でも説明したように、樹脂基材は、一枚の樹脂製のシートであってもよく、上述のように基材31aの表面に表層樹脂層31bとなる樹脂含浸紙を積層した樹脂基材(化粧板)31であってもよい。
【0095】
続いて、
図3(d)に示すように、基材31aと表層樹脂層31bとからなる樹脂基材31の表面に、機能性成分の粒子33を含有する転写用無機バインダ層32′が形成された転写用フィルム36を、転写用無機バインダ層32′が表層樹脂層31bと接触するように載置した後、圧着し、熱圧成形する。これにより、
図3(e)に示すように、基材31aと表層樹脂層31bとからなる樹脂基材31上に機能性成分を含む無機バインダ硬化層32を形成することができるとともに、無機バインダ硬化層32を樹脂基材31の表層樹脂層31bに接着させることができる。
【0096】
本発明で用いる樹脂基材が化粧板である場合、基材の表面上に表層樹脂層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、一般的な方法で行うことができる。具体的な表層樹脂層の形成方法としては、例えば、コア紙の積層体からなる基材の片面又は両面にメラミン樹脂等の樹脂含浸紙を積層し、メラミン樹脂等の樹脂含浸紙が積層された基材を熱圧成形する方法が挙げられる。上記方法を用いると、メラミン樹脂含浸紙のメラミン樹脂がコア紙に浸透し、そこで硬化反応が進行して、コア紙に対するメラミン樹脂含浸紙の接着力が発現する。
【0097】
熱圧成形する際の加熱条件としては、化粧板の温度を125〜150℃とすることができ、加圧条件としては、1.96〜9.80MPa(20〜100kg/cm
2)とすることができる。温度が125℃未満の場合又は圧力が1.96MPa未満の場合には、基材に対する樹脂含浸紙の密着性が不足し、剥離が発生しやすくなる。一方、温度が150℃を超える場合又は圧力が9.80MPaを超える場合には、変色及び目視できるような大きいクラックが発生するおそれがある。
本発明では、上記熱圧成形により、表層樹脂層31bが形成されるとともに、複数のクラック34が形成された無機バインダ硬化層32が形成される。
【0098】
本発明の機能性部材の製造方法において用いられる樹脂基材、塗工液に含まれる機能性成分、無機バインダ、シロキサンを含有する無機高分子については、本発明の機能性部材において詳しく説明したため、ここではその詳しい説明は省略する。
【0099】
その後、転写用フィルム36を剥離等して除去することにより、
図3(f)に示すように、樹脂基材31(基材31a及び表層樹脂層31b)と、上記樹脂基材31上に形成され、機能性成分(機能性成分の粒子33)を含有する無機バインダ硬化層32とからなり、無機バインダ硬化層32には、複数のクラック34が形成されている本発明の機能性部材30が得られる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
(実施例1)
(一次メラミン含浸工程)
厚さ0.2〜0.3mmの紙ロールを、メラミン樹脂を含む溶液中に浸漬した。溶液の温度20℃、浸漬時間2分となるように、ロール紙を溶液中に浸漬しながら通過させることにより、ロール紙にメラミン樹脂を含浸させた。なお、ロール紙の移動速度は、10〜20cm/秒であった。
【0102】
(乾燥工程)
メラミン溶液中を通過したロール紙は、乾燥機より、温度100℃、乾燥時間30秒となるように乾燥させた。
【0103】
(二次メラミン含浸工程)
乾燥工程を経た紙ロールを、メラミン樹脂からなる溶液中に浸漬させた。溶液の温度20℃、浸漬時間30分となるように、ロール紙を溶液中に浸漬しながら通過させることにより、メラミン樹脂を紙ロールに含浸させた。なお、ロール紙の移動速度は、10〜20cm/秒であった。
【0104】
(乾燥・切断工程)
メラミン溶液中を通過したロール紙は、乾燥機より、温度100℃、乾燥時間2時間となるように乾燥させた。乾燥後、300mm×300mmに切断し、メラミン樹脂含浸紙を得た。
【0105】
[転写用無機バインダ層の形成工程 その1(機能性成分の粒子を転写フィルム表面に付着させる工程)]
機能性成分の粒子として、平均粒子径2.5μmの銀イオン及び亜鉛イオン交換ゼオライト粉末(シナネンゼオミック製ゼオミックAK−10N)とシリカゾル(SiO
2濃度:30wt%)とマイブロックワコー101(固形分濃度:25wt%)とを、420:20:1の重量割合で含むメタノール混合組成物からなるスプレー液を調製した。スプレー液を常温でスプレーに充填させて、コロナ放電処理が施された300×300mmの大きさのOPPフィルムの表面に、メタノール分散媒を含んだ状態で、566.1g/m
2に相当する混合組成物を0.3MPaのエアー圧力で霧状に吹き付け、機能性成分の粒子である銀イオン及び亜鉛イオンが担持されたゼオライト粒子をOPPフィルム表面に付着させた。
【0106】
[転写用無機バインダ層の形成工程 その2(無機バインダのみを含む層の形成)]
機能性成分の粒子が付着したOPPフィルム(転写用フィルム)の表面に対し、シリカゾル(SiO
2濃度30wt%)とマイブロックワコー101(固形分濃度25wt%)とメタノールとを20:1:10の重量割合で混合した塗工液を番手4番のコートバーを用いて塗工し、その後室温で自然乾燥させることにより、OPPフィルムの表面に機能性成分の粒子を含む転写用無機バインダ層が定着した転写フィルムを作製した。
【0107】
(組合せ工程)
厚み0.3〜0.4mmのフェノール樹脂含浸コア紙を4枚積層し、その上に、メラミン樹脂含浸紙を積層させた。さらに、転写用無機バインダ層がメラミン樹脂含浸紙と接するように転写フィルムをメラミン樹脂含浸紙上に積層させ、温度143℃、プレス圧80kg/cm
2、プレス時間(昇温時間を含む)50分で熱圧着した。さらに、OPPフィルムを剥離して、基材上に表層樹脂層が積層された樹脂基材の表面に、機能性成分の粒子を含む無機バインダ硬化層が形成された機能性部材(化粧板)を作製した。
【0108】
図4は、実施例1で作製した機能性部材の断面SEM写真である。
図4より、表層樹脂層31bであるメラミン樹脂層上に、機能性成分の粒子33を含む無機バインダ硬化層32が配置されていることが確認できる。
また、
図4に示すように、無機バインダ硬化層にはクラックが形成されており、ウィルスを含む流体はクラックに流れ込んだ際、ウィルスは抗ウィルス成分近傍に存在もしくは抗ウィルス成分(機能性成分の粒子33)に繋がるクラックにトラップされ、抗ウィルス活性が高くなる。
【0109】
(比較例1)
実施例1と同様に一次メラミン含浸工程、乾燥工程、二次メラミン含浸工程及び乾燥・切断工程を行い、メラミン樹脂含浸紙を得た。
【0110】
[転写用無機バインダ層の形成工程 その1(機能性成分の粒子を転写フィルム表面に付着させる工程)]
機能性成分の粒子として、平均粒子径2.5μmの銀イオン及び亜鉛イオン交換ゼオライト粉末(シナネンゼオミック製ゼオミックAK−10N)とシリカゾル(SiO
2濃度:30wt%)とマイブロックワコー101(固形分濃度:25wt%)とを、110:10:1の重量割合で含むメタノール混合組成物からなるスプレー液を調製した。スプレー液を常温でスプレーに充填させて、コロナ放電処理が施された300×300mmの大きさのOPPフィルムの表面に、メタノール分散媒を含んだ状態で、566.6g/m
2に相当する混合組成物を0.3MPaのエアー圧力で霧状に吹き付け、機能性成分の粒子である銀イオン及び亜鉛イオンが担持されたゼオライト粒子をOPPフィルム表面に付着させた。
【0111】
[転写用無機バインダ層の形成工程 その2(無機バインダのみを含む層の形成)]
機能性成分の粒子が付着したOPPフィルム(転写用フィルム)の表面に対し、マイブロックワコー101(固形分濃度25wt%)とメタノールとを1:1の重量割合で混合した塗工液を番手9番のコートバーを用いて塗工し、その後室温で自然乾燥させることにより、OPPフィルムの表面に機能性成分の粒子を含む転写用無機バインダ層が定着した転写フィルムを作製した。
【0112】
その後、実施例1と同様に組み合わせ工程を行い、基材上に表層樹脂層が積層された樹脂基材の表面に、機能性成分の粒子を含む無機バインダ硬化層が形成された機能性部材(化粧板)を作製した。
【0113】
図5は、比較例1で作製した機能性部材の断面SEM写真である。
図5に示すように、無機バインダ硬化層には、クラックは全く形成されていない。
【0114】
(意匠性の評価)
各実施例及び比較例で作製した機能性部材(化粧板)の外観を目視で観察したところ、いずれも問題がないことが確認された。
【0115】
(抗ウィルス性評価)
各実施例及び比較例で作製した機能性部材(化粧板)の抗ウィルス性を評価するために、JIS R1756 可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法を改変した手法により抗ウィルス性に関する測定を行った。改変点は、「4時間の1000ルクス光照射」を「室内蛍光灯下(300ルクス程度)での放置」とした点である。測定結果は、大腸菌に対して不活化されたウィルス濃度で表す。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用した。ウィルス不活度とは、バクテリオファージを用いた抗ウィルス性試験で、ファージウィルスQβ濃度:830万個/ミリリットルを用いて、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度を測定することにより、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度を算出した結果である。すなわち、ウィルス不活度は、ファージウィルスQβ濃度に対して、大腸菌に感染することができない濃度の度合いであり、(ファージウィルスQβ濃度−大腸菌に感染することができるウィルスの濃度)/(ファージウィルスQβ濃度)×100で算出することができる。ウィルス不活度の値が高いほど(ウィルス不活性度の絶対値が高い程)、抗ウィルス活性が高いといえる。
【0116】
また、上記したように、ウィルス不活度からウィルス不活性度を計算することができる。
ウィルス不活性度とは、元のウィルスの量を1とし、ウィルス失活処理後に失活したウィルスの相対量をXとした場合に、常用対数log(1−X)で示される数値(負の値で示される)であり、絶対値が大きい程ウィルスを不活性化する能力が高い。例えば、元のウィルスの99.9%が失活した場合、ウィルス不活性度は、log(1−0.999)=−3.00で表記される。なお、ウィルス失活処理前の全ウィルス量に対するウィルス失活処理後に失活したウィルス量の割合を%で表したもの(上記の場合、99.9%)をウィルス不活度という。上記のようにして、ウィルス不活度からウィルス不活性度を求めた。その結果を表1に示す。
【0117】
(ネコカリシウィルスを用いた抗ウィルス性評価)
この抗ウィルス性試験は以下のように実施した。
実施例1で得られた機能性部材(化粧板)の抗ウィルス性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は実施例1で得られた機能性部材(化粧板)についてJIS L 1922付属書Bに基づき、CRFK細胞への感染能力を失ったネコカリシウィルス濃度をネコカリシウィルス不活性度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、CRFK細胞に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0118】
以下、手順を具体的に記載する。
(1) 実施例1で得られた機能性部材(化粧板)を、1辺50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>10
7PFU/mL)を0.4mL接種する。
試験ウィルス液は10
8PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用する。
(2) 対照資料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種する。
【0119】
(3) 接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で24時間反応させる。
(4) 接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流す。
(5) JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求める。
【0120】
(6) 以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出する。
Mv=Log(Vb/Vc)=Log(Vb)−Log(Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの24時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の24時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
また、試験ウィルスはFeline calcivirus; Strain :F−9 ATCC VR−782を用いた。得られた抗ウィルス活性値を表1に示す。
【0121】
(黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価)
黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価を、以下のように実施した。
(1)実施例1で得られた機能性部材(化粧板)を、50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験菌液(菌数2.5×10
5〜10×10
5/mL)を0.4mL接種する。
試験菌液は、培養器中で温度35±1℃で16〜24時間前培養した培養菌を、さらに斜面培地に移植して、培養器中で温度35±1℃で16〜20時間前培養したものを、1/500NB培地により適宜調整したものを使用する。
(2)対照資料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様に試験菌液を接種する。
(3)接種した試験菌液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、試験菌液を均等に接種させた後、温度35±1℃で24±1時間反応させる。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、試験菌液を洗い出す。
(5)洗い出し液を適宜希釈し、標準寒天培地と混合して生菌数測定用シャーレを作成し、温度35±1℃で40〜48時間培養した後、集落数を測定する。
(6)生菌数の計算
以下の計算式を用いて生菌数を求める。
N=C×D×V
N:生菌数
C:集落数
D:希釈倍率
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(mL)
(7) 以下の計算式を用いて抗菌活性値を算出する。
R=(U
tーU
0)―(A
tーU
0)=U
tーA
t
R:抗菌活性値
U
0:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
U
t:無加工試験片の 24 時間後の生菌数の対数値の平均値
A
t:抗菌加工試験片の 24 時間後の生菌数の対数値の平均値
参考規格 JIS Z 2801
試験菌はStaphylococcus aureus NBRC12732を使用した。
得られた抗菌活性値を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1、
図4及び
図5より明らかなように、実施例1については、ファージウィルスQβの不活度が99.9%以上で、(ウィルス不活性度が−3.00と同等か、それよりも抗ウィルス活性に優れた値)という結果が得られ、さらに、エンベロープを持たないネコカリシウィルスにも不活化効果があることが確認できた。一方、比較例1については、ファージウィルスQβの不活度が96.84%(ウィルス不活性度が−1.50程度)であり、実施例1と比較して抗ウィルス活性が低いことが確認された。また、クラックにトラップされにくいミクロンサイズの黄色ブドウ球菌では、実施例1と比較例1に差異はない結果となった。