特許第6894883号(P6894883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立マクセル株式会社の特許一覧

特許6894883インクジェット用インクセット、および、インクジェット記録方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894883
(24)【登録日】2021年6月8日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】インクジェット用インクセット、および、インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20210621BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20210621BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20210621BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C09D11/54
   C09D11/322
   B41M5/00 120
   B41M5/00 132
   B41M5/00 112
   B41J2/01 123
   B41J2/01 501
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-504401(P2018-504401)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007968
(87)【国際公開番号】WO2017154683
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-48698(P2016-48698)
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセルホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】魚留 勝也
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 克幸
(72)【発明者】
【氏名】北畠 香織
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−023266(JP,A)
【文献】 特開2010−023265(JP,A)
【文献】 特開2009−262549(JP,A)
【文献】 特開2009−242441(JP,A)
【文献】 特許第5862913(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクと反応液とを有するインクジェット用インクセットであって、
前記水性インクは、エマルジョンと、界面活性剤と、有機溶媒と、顔料と、水とを含み、
前記反応液は、
水溶性カチオンポリマー、カチオン性エマルジョン、および多価金属塩からなる群から選択される凝集剤と、
1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、および1,2−オクタンジオールからなる群から選択される1,2−アルカンジオールと、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択されるグリコールエーテル系溶媒と
水と
を含み、界面活性剤を含まず、
前記エマルジョンのガラス転移温度は、50℃以上である、インクジェット用インクセット。
【請求項2】
前記反応液は、記録媒体に接触してから3秒後における動的接触角が40°以下である、請求項1に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項3】
前記凝集剤は、水溶性カチオンポリマーである、請求項1または2に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一つに記載のインクジェット用インクセットを用いて、記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、
水性インクおよび反応液を、前記記録媒体上で接触させるように、インクジェットヘッドから吐出する、インクジェット記録方法。
【請求項5】
前記記録媒体は、非吸収性基材または低吸収性基材からなる、請求項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクセット、および、該インクジェット用インクセットを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを用いて、画像、文字、模様など(以下、これらをまとめて画像という)を記録媒体に記録する方法の一つとして、インクジェット方式がある。従来、インクジェット方式に用いられるインク(以下、インクジェット用インクという)としては、紙、布などのインク吸収性のある基材に画像を形成する水性インクが、数多く提案されてきた。ところが、近年では、樹脂フィルム、プラスチック、金属などのように、インク吸収性のない基材(以下、非吸収性基材という)、または、インク吸収性の低い基材(以下、低吸収性基材という)にも画像を形成することが可能な水性インクが、提案されている。なお、画像は、記録媒体の表面で、水性インクに含まれる水、有機溶媒などの溶剤が揮発することにより、形成される。
【0003】
従来の水性インクは、非吸収性基材または低吸収性基材表面上において、該基材への浸透がなく、前記基材表面上に堆積するため、乾燥速度が遅い。そのため、非吸収性基材または低吸収性基材表面に水性インクを吐出する際、該水性インク同士が基材表面上で接触するまでの時間が短いと、水性インクが充分に乾燥しないまま、前記水性インク同士が接触する可能性がある。よって、非吸収性基材または低吸収性基材表面上に形成された画像には、ビーディング(隣接したドットがつながり、不規則な隙間および濃度ムラが発生する現象)および色間滲みが発生しやすくなる。
【0004】
そこで、非吸収性基材または低吸収性基材表面上に形成された画像において、水性インクを吐出する間隔に関わらず、ビーディングおよび色間滲みの発生を抑制可能な構成として、水性インクと反応液(色止め剤)とを用いた印刷システムが種々提案されている。例えば、特許文献1には、アニオン性顔料分散剤、ラテックス(エマルジョン)、界面活性剤、助溶剤、着色剤、水などを含む水性インクと、カチオン性ポリマー、界面活性剤、水などを含む色止め剤とを用いた印刷システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8783842号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エマルジョンを含む水性インクは、一般的に、造膜性を向上させるため、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルアセテート系溶媒などの造膜助剤を含有する。水性インクが造膜助剤を含むことにより、記録媒体の表面上に形成された画像中に含まれるエマルジョンが充分に密着して被膜を形成し、エマルジョンが本来持っている膜強度を充分に発現することができる。そのため、前記画像は、擦過性などの塗膜特性が向上する。一方、造膜助剤によって、水性インク中のエマルジョンは、常温での乾燥により被膜を形成しやすくなる。そのため、インクジェットヘッドから水性インクを吐出する際、ノズル近傍では、エマルジョンの乾燥物により、ノズルが詰まりやすくなる。その結果、水性インクの不吐出、飛行曲りなどの吐出不良が生じやすくなるという問題があった。
【0007】
また、通常、水性インクは、乾燥温度(一般的に、60〜100℃)よりもエマルジョンの造膜温度が低い場合、容易に膜形成される。しかしながら、乾燥温度よりもエマルジョンの造膜温度が低いと、インクジェットヘッドから水性インクを吐出する際、ノズル近傍で水性インクに含まれるエマルジョンが固まるため、ノズルが詰まりやすくなる。そこで、一般的に、エマルジョンの造膜温度は、乾燥温度よりも高く設定される。しかしながら、乾燥温度よりもエマルジョンの造膜温度が高いと、乾燥過程でエマルジョンの粒子同士の密着が弱くなるため、膜形成が不充分となる。その結果、耐擦過性および密着性が劣るという問題があった。
【0008】
本発明は、前記現状に鑑みてなされたものであり、吐出安定性に優れた水性インクを備え、かつ、耐擦過性および密着性などの塗膜特性に優れた画像を形成することが可能なインクジェット用インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題について種々検討を行ったところ、水性インクではなく反応液が造膜助剤としてグリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒を含有し、かつ、水性インクに含まれるエマルジョンのガラス転移温度を50℃以上とすることにより、水性インクの吐出安定性が向上し、かつ、形成された画像が耐擦過性および密着性などの塗膜特性に優れるという知見を得た。
【0010】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0011】
〔1〕水性インクと反応液とを有するインクジェット用インクセットであって、
前記水性インクは、エマルジョンと、界面活性剤と、有機溶媒と、顔料と、水とを含み、
前記反応液は、凝集剤と、1,2−アルカンジオールと、グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒と、水とを含み、
前記エマルジョンのガラス転移温度は、50℃以上である、インクジェット用インクセット。
【0012】
〔2〕前記グリコールエーテル系溶媒では、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、および、トリプロピレングリコールジメチルエーテルから選択される1種以上である、前記〔1〕に記載のインクジェット用インクセット。
【0013】
〔3〕前記反応液は、界面活性剤を含まない、前記〔1〕または〔2〕に記載のインクジェット用インクセット。
【0014】
〔4〕前記反応液は、記録媒体に接触してから3秒後における動的接触角が40°以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載のインクジェット用インクセット。
【0015】
〔5〕前記凝集剤は、水溶性カチオンポリマーである、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一つに記載のインクジェット用インクセット。
【0016】
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載のインクジェット用インクセットを用いて、記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、水性インクおよび反応液を、前記記録媒体上で接触させるように、インクジェットヘッドから吐出する、インクジェット記録方法。
【0017】
〔7〕前記記録媒体は、非吸収性基材または低吸収性基材からなる、前記〔6〕に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吐出安定性に優れた水性インクを備え、耐擦過性および密着性などの塗膜特性に優れた画像を形成することが可能なインクジェット用インクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態ともいう)について詳しく説明する。本発明は、以下の内容に限定されるものではない。
【0020】
1.インクジェット用インクセット
本実施形態に係るインクジェット用インクセットは、水性インクと反応液とを有し、前記水性インクは、エマルジョンと、界面活性剤と、有機溶媒と、顔料と、水とを含み、前記反応液は、凝集剤と、1,2−アルカンジオールと、グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒と、水とを含み、前記エマルジョンのガラス転移温度は、50℃以上である。
【0021】
<水性インク>
前記水性インクは、エマルジョンと、界面活性剤と、有機溶媒と、顔料と、水とを含む。
【0022】
(エマルジョン)
エマルジョンは、水性インクの造膜性を向上させることにより、耐擦過性などの塗膜特性に優れた画像を形成する成分である。本実施形態に係るインクジェット用インクセットにおいて、水性インクは、造膜助剤を含まない。そのため、エマルジョンは、常温での乾燥によって被膜を形成しにくくなることにより、インクジェットヘッドから前記水性インクを吐出する際、ノズル近傍で被膜を形成しにくくなる。その結果、水性インクの吐出安定性を確保することができる。
【0023】
前記エマルジョンのガラス転移温度は、50℃以上である。前記エマルジョンのガラス転移温度が50℃未満であると、インクジェットヘッドからの吐出安定性が悪くなる。前記エマルジョンのガラス転移温度は、一般的なプリンターの乾燥温度(60〜100℃)よりも低くするため、120℃以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「エマルジョン」とは、エマルジョン化した樹脂を意味し、エマルジョンの分散媒は含まない。また、「エマルジョンのガラス転移温度」とは、エマルジョンを含む水溶液(エマルジョン分散体)を150℃で2時間乾燥させ、脱水させることにより、得られたエマルジョンを単独で測定したときのガラス転移温度をいう。
【0024】
前記エマルジョンを構成する樹脂としては、スチレン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(α,2,3または4)−アルキルスチレン、(α,2,3または4)−アルコキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、α−フェニルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、その他のアルキル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、プロポキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、ブトキシ基を有するジエチレングリコールまたはポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、その他のフッ素含有(メタ)アクリレート、塩素含有(メタ)アクリレート、珪素含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、(メタ)アクリル酸などの1官能の他に架橋構造を導入する場合は、(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ、トリ)(メタ)アクリレート、ビスフェノールAまたはFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0025】
前記エマルジョンの含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、3〜30重量部であることが好ましい。前記エマルジョンの含有量が3重量部未満であると、充分な膜強度を有する被膜を形成できない場合がある。一方、前記エマルジョンの含有量が30重量部を超えると、前記水性インクの粘度が高くなりすぎる場合があり、また、印刷物の凹凸が大きくなる場合がある。前記エマルジョンの含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、5重量部以上であることがより好ましく、20重量部以下であることがより好ましい。
【0026】
(界面活性剤)
界面活性剤は、記録媒体に対する濡れ性を向上させる成分である。
【0027】
前記界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類などが挙げられる。
【0028】
前記シリコン系界面活性剤は、ポリシロキサン系化合物であることが好ましい。ポリシロキサン系化合物としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性オルガノシロキサンなどが挙げられる。具体的には、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記界面活性剤の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、0.1〜5.0重量部であることが好ましい。前記界面活性剤の含有量が0.1重量部未満であると、基材に対して水性インクが充分に濡れ広がらない場合がある。一方、前記界面活性剤の含有量が5.0重量部を超えると、過剰な界面活性剤が塗膜表面上に滲む場合があり、また、基材に対する水性インクの密着性が劣る場合がある。前記界面活性剤の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、0.5重量部以上であることがより好ましく、3.0重量部以下であることがより好ましい。
【0030】
(有機溶媒)
有機溶媒は、水性インクの乾燥性および基材に対する濡れ性などを調整する成分である。
【0031】
前記有機溶媒としては、エマルジョンを可塑化させにくい有機溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒としては、多価アルコール類および/またはピロリドン誘導体であることが好ましい。多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、3,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−チオジエタノールなどが挙げられる。ピロリドン誘導体としては、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。多価アルコール類およびピロリドン誘導体以外の有機溶媒としては、例えば、3−ピリジルカルビノール、スルホランなどが挙げられる。これらの中でも、沸点および安全性を考慮すると、SP値(溶解パラメータ)が11以上の多価アルコール類であることがより好ましく、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3プロパンジオール、エチレングリコール、および、プロピレングリコールから選択される1種以上であることがさらに好ましい。
【0032】
前記有機溶媒は、エマルジョンの造膜性を向上させる成分を含まない。エマルジョンの造膜性を向上させる有機溶媒としては、例えば、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルアセテート系溶媒などが挙げられる。
【0033】
前記有機溶媒の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、5〜40重量部であることが好ましい。前記有機溶媒の含有量が5重量部未満であると、乾燥速度が速くなりすぎて、吐出安定性が劣る場合がある。一方、前記有機溶媒の含有量が40重量部を超えると、揮発性有機化合物(VOC)の排出量が多くなり、安全性に問題が生じる場合がある。また、安全性を確保しようとすると、VOC排出用の排気設備が必要となるため、設備コストが上昇する場合がある。前記有機溶媒の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、10重量部以上であることがより好ましく、30重量部以下であることがより好ましい。
【0034】
(顔料)
顔料としては、従来公知の無機顔料および有機顔料を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種を併用してもよい。
【0035】
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系等が挙げられる。また、前記有機顔料としては、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラック、架橋したアクリル樹脂の中空粒子などを用いることもできる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記顔料の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、0.1重量部以上であることが好ましく、0.3重量部以上であることがより好ましい。また、前記顔料の含有量は、前記水性インク全体100重量部に対して、15重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましい。
【0038】
(水)
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水、井戸水などが挙げられる。これらの中でも、不純物が比較的少なく、かつ、安価に入手できるという観点から、イオン交換水であることが好ましい。
【0039】
前記水性インクには、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、防カビ剤、キレート剤、pH調整剤、錆止め剤などが挙げられる。
【0040】
前記水性インクは、特に限定されるものではないが、例えば、前記エマルジョン、前記界面活性剤、前記有機溶媒、前記顔料、前記水、および、必要により、その他の添加剤を、混合攪拌装置等を用いて均一に混合することにより、製造することができる。
【0041】
このようにして製造された水性インクは、インクジェットヘッドからの吐出性を良好にする観点から、25℃における粘度が、1〜15mPa・s以下であることが好ましい。なお、水性インクの粘度の測定は、JIS Z 8803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0042】
<反応液>
前記反応液は、凝集剤と、1,2−アルカンジオールと、グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒と、水とを含む。なお、前記反応液は、界面活性剤を含まないことが好ましい。前記水性インクは界面活性剤を必須成分として含有する。そのため、前記反応液も界面活性剤を含有すると、形成された画像の密着性が劣る場合がある。
【0043】
前記反応液が含有しない界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤などが挙げられる。
【0044】
前記非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル)などのエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系界面活性剤、フッ素アルキルエステルなどの含フッ素系界面活性剤、ポリエーテルシリコーンなどの含シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0045】
前記カチオン性界面活性剤としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのアルキルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどのアミンオキサイドなどが挙げられる。
【0046】
前記両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体などが挙げられる。
【0047】
(凝集剤)
凝集剤は、前記水性インク中に含まれる、前記エマルジョンおよび前記顔料を凝集させる成分である。前記凝集剤としては、例えば、水溶性カチオンポリマー、カチオン性エマルジョン、多価金属塩などが挙げられる。これらの中でも、価格、分子量、分子構造等を考慮した材料選択性の観点から、水溶性カチオンポリマーであることが好ましい。なお、前記凝集剤には、界面活性剤は含まれない。
【0048】
前記水溶性カチオンポリマーとしては、例えば、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン共重合物、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン、ジジアンジアミド−ジエチレントリアミン共重合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記凝集剤の含有量は、前記反応液全体100重量部に対して、0.5〜10重量部であることが好ましい。前記凝集剤の含有量が0.5重量部未満であると、凝集力が弱く、充分な滲み止め効果を得られない場合がある。一方、前記凝集剤の含有量が10重量部を超えると、塗膜の耐水性、耐溶剤性などの塗膜特性が劣る場合がある。前記凝集剤の含有量は、前記反応液全体100重量部に対して、2重量部以上であることがより好ましく、6重量部以下であることがより好ましい。
【0050】
(1,2−アルカンジオール)
1,2−アルカンジオールは、反応液の乾燥速度を調整し、かつ、基材に対する濡れ性を高める成分である。前記1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、沸点、および、基材に対する濡れ性を向上させる観点から、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールであることが好ましい。
【0051】
前記1,2−アルカンジオールの含有量は、前記反応液全体100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましい。前記1,2−アルカンジオールの含有量が0.1重量部未満であると、前記反応液が充分な濡れ性を有さない場合がある。一方、前記1,2−アルカンジオールの含有量が10重量部を超えると、前記1,2−アルカンジオールが反応液を不安定化させ、液分離を起こす場合がある。また、揮発性有機化合物(VOC)の排出量が多くなり、安全性に問題が生じる場合がある。また、安全性を確保しようとすると、VOC排出用の排気設備が必要となるため、設備コストが上昇する場合がある。前記1,2−アルカンジオールの含有量は、前記反応液全体100重量部に対して、1重量部以上であることがより好ましく、3重量部以下であることがより好ましい。
【0052】
(グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒)
グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒は、エマルジョンの造膜性を向上させ、かつ、耐擦過性および基材との密着性に優れた画像を形成させる成分である。前記グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。前記グリコールエーテルアセテート系溶媒としては、例えば、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、沸点の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、および、トリプロピレングリコールジメチルエーテルから選択される1種以上であることが好ましい。
【0053】
前記グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒の含有量は、前記反応液全体100重量部に対して、合計1〜40重量部であることが好ましい。前記グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒の含有量の合計が1重量部未満であると、エマルジョンの造膜効果を充分に得られない場合がある。一方、前記グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒の含有量の合計が40重量部を超えると、揮発性有機化合物(VOC)の排出量が多くなり、安全性に問題が生じる場合がある。また、安全性を確保しようとすると、VOC排出用の排気設備が必要となるため、設備コストが上昇する場合がある。前記グリコールエーテル系溶媒および/またはグリコールエーテルアセテート系溶媒の含有量は、反応液全体100重量部に対して、合計5重量部以上であることがより好ましく、合計20重量部以下であることがより好ましい。
【0054】
(水)
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水、井戸水などが挙げられる。これらの中でも、不純物が比較的少なく、かつ、安価に入手できるという観点から、イオン交換水であることが好ましい。
【0055】
前記反応液には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、防カビ剤、キレート剤、pH調整剤、錆止め剤などが挙げられる。
【0056】
前記反応液は、特に限定されるものではないが、例えば、前記凝集剤、前記1,2−アルカンジオール、前記グリコールエーテル系溶媒および/または前記グリコールエーテルアセテート系溶媒、前記水、および、必要により、その他の添加剤を、混合攪拌装置等を用いて均一に混合することにより、製造することができる。
【0057】
このようにして製造された反応液は、インクジェットヘッドからの吐出性を良好にする観点から、25℃における粘度が、1〜15mPa・s以下であることが好ましい。なお、反応液の粘度の測定は、JIS Z 8803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0058】
前記反応液は、基材に対する濡れ性を向上させ、かつ、インクジェットヘッド適性を良好にする観点から、静的表面張力が15〜40mN/mであることが好ましい。なお、静的表面張力は、全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−V(協和科学社製)を用いて、25℃において測定した。
【0059】
前記反応液は、該反応液による滲み止め効果を充分に発揮させる観点から、記録媒体に接触してから3秒後における動的接触角が10°以上であることが好ましく、40°以下であることが好ましい。なお、動的接触角は、携帯式接触角計PG-X(マツボー社製)を用いて、40℃に保った対象基材上に、動的モードで前記反応液を1μL滴下することにより測定した。
【0060】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、本実施形態に係るインクジェット用インクセットを用いて、記録媒体上に画像を形成する方法であって、水性インクおよび反応液を、前記記録媒体上で接触させるように、インクジェットヘッドから吐出する。これにより、塗膜特性に優れた画像を前記記録媒体上に形成することができる。
【0061】
本実施形態に係るインクジェット記録方法では、前記水性インクおよび前記反応液が充填されたインクジェットヘッドを、前記記録媒体に対して相対的な位置に移動させながら、前記インクジェットヘッドから前記水性インクおよび前記反応液を前記記録媒体に吐出させる。前記水性インクおよび前記反応液は、前記インクジェットヘッドから同時に吐出させてもよいし、前記反応液を吐出後、前記水性インクを吐出させてもよい。
【0062】
本実施形態に係るインクジェット記録方法では、20〜40℃の温度範囲において、前記インクジェットヘッドから前記水性インクおよび前記反応液を吐出させることが好ましい。また、前記水性インクおよび前記反応液を吐出させる時の記録媒体の温度は、10〜50℃であることが好ましい。さらに、前記反応液の単位面積当たりの滴下量は、前記水性インクの前記滴下量に対して、10〜60wt%であることが好ましい。
【0063】
前記記録媒体は、非吸収性基材または低吸収性基材からなることが好ましい。前記非吸収性基材としては、例えば、インクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、ならびに、紙などの基材上にプラスチックがコーティングされているもの、および、プラスチックフィルムが接着されているものなどが挙げられる。なお、プラスチックとは、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。前記低吸収性基材としては、アート紙、コート紙、マット紙などの印刷本紙が挙げられる。他にも、金属、ガラスなどの非吸収性基材または低吸収性基材を用いてもよい。
【0064】
以下、本実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
<水性インク>
(水性インクの調整)
表1に示す配合で、エマルジョン、界面活性剤、有機溶媒、顔料および水を、混合攪拌装置を用いて均一に混合した。その後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引濾過することにより、A1〜A4の水性インクを調整した。
【0066】
(水性インクの吐出安定性の評価)
A1〜A4の水性インクの吐出安定性の評価は、産業用インクジェットプリンターDMP−2831(富士フィルム社製)を用いて、カートリッジDMC−11610に前記水性インクを充填し、ドットスペースを100μm、ヘッドギャップを500μm、ステージ温度を40℃に設定し、150mm×150mmのベタ印刷を行い、印刷前後のノズル抜けの個数を数えることにより行った。なお、全ノズル16個中、ノズル抜けの個数が3個以下の水性インクを○、ノズル抜けの個数が4個以上の水性インクを×とした。結果を表1に示す。
【0067】
本発明の要件を全て満たすA2〜A4の水性インクは、吐出安定性が良好であった。一方、エマルジョンのガラス転移温度が50℃未満であるA1の水性インクは、吐出安定性が劣った。
【0068】
【表1】
【0069】
モビニール6969D:アクリルエマルジョン[日本合成化学社製]
モビニール7980:アクリルエマルジョン[日本合成化学社製]
モビニール5450:アクリル/スチレンエマルジョン[日本合成化学社製]
モビニール6530:アクリルエマルジョン[日本合成化学社製]
BYK−348:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン[ビックケミー社製]
1,3−BD:1,3−ブタンジオール[KHネオケム社製]
CAB−O−JET 352K:カーボンブラック[CABOT社製]
【0070】
<反応液>
(反応液の調整)
表2に示す配合で、凝集剤、1,2−アルカンジオール、グリコールエーテル系溶媒、水、1,3−ブタンジオールおよび界面活性剤を、混合攪拌装置を用いて均一に混合し、B1〜B17の反応液を調整した。
【0071】
(反応液の物性の評価)
まず、静的表面張力を、表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、白金プレートを用いたウィルヘルミ法により測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(動的接触角の測定)
次に、動的接触角を、接触角計PG−X(マツボー社製)を用いて、塩ビメディアNM−SGFの基材上に前記反応液1.0μLを動的モードで滴下し、前記基材に接触してから3秒後の動的接触角を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
PAA−08:ポリアリルアミン[ニットーボーメディカル社製]
1,2−HD:1,2−ヘキサンジオール[和光純薬社製]
1,2−OD:1,2−オクタンジオール[和光純薬社製]
1,3−BD:1,3−ブタンジオール[KHネオケム社製]
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル[日本乳化剤社製]
MEDG:ジエチレングリコールメチルエチルエーテル[日本乳化剤社製]
BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル[日本乳化剤社製]
DMTG:トリエチレングリコールジメチルエーテル[日本乳化剤社製]
BFDG:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル[日本乳化剤社製]
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル[日本乳化剤社製]
MFTG:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル[日本乳化剤社製]
DMFTG:トリプロピレングリコールジメチルエーテル[和光純薬社製]
BYK−348:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン[ビックケミー社製]
【0075】
<インクセット>
表3に示すように、A1〜A4の各水性インク、および、B1〜B17の各反応液を用いて、実施例1〜16および比較例1〜4のインクセットを作製した。実施例1〜16および比較例1〜4のインクセットを備えたプリンターUJF−3042HG(ミマキエンジニアリング社製)を用いて、塩ビメディアNM−SGF上に、水性インク100%、反応液30%の印刷濃度で、150mm×100mmサイズの画像サンプルを形成した。画像サンプルは、反応液の後に水性インクを印刷し、その後、乾燥機FV−320(アドバンテック東洋社製)を用いて、40℃30min、60℃10minまたは90℃5minの追加乾燥を行うことにより、形成した。なお、ステージ温度は40℃とした。各画像サンプルの塗膜特性の評価は、以下のようにして行った。
【0076】
(耐擦過性の評価)
断面7φの消しゴムに1.0kgfの荷重を加えて、各画像サンプルの印刷面を30往復させた後、塗膜のはがれ度合いを評価した。そして、この評価は、擦過性の高い方から順に、10(擦過性が高い)〜1(擦過性が低い)の数値を評点として表した。結果を表3に示す。なお、評点が4以上の画像を合格とした。
【0077】
(密着性)
各画像サンプルの印刷面に、粘着シート[セロテープ(登録商標)(ニチバン社製)]の粘着層側の面を貼り付け、引き剥がす操作を行った。密着性は、下記基準により評価した。結果を表3に示す。
○(良好):印刷物が全く剥離しなかった。
△(良):印刷物が一部剥離した。
×(不良):粘着シートを貼りつけた部分の印刷物の全面が剥離した。
【0078】
(外観)
各画像サンプルの印刷面を目視で確認し、色ムラおよびビーディングの有無を観察した。外観は、色ムラ、ビーディング、または、その他外観不良が無かった場合を○、有った場合を×とした。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3の結果から分かるように、本発明の要件をすべて満たす実施例1〜16のインクセットは、作成された画像の耐擦過性、密着性および外観が良好であった。
【0081】
一方、比較例1のインクセットは、水性インクに含まれるエマルジョンのガラス転移温度が50℃未満であるため、形成された画像の耐擦過性が劣った。
【0082】
比較例2のインクセットは、反応液にグリコールエーテル系溶媒を含まないため、低温乾燥で形成された画像の耐擦過性および密着性が劣った。
【0083】
比較例3のインクセットは、反応液に界面活性剤を含むため、形成された画像の密着性が劣った。
【0084】
比較例4のインクセットは、反応液に1,2−アルカンジオールを含まないため、形成された画像の外観が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のインクセットは、吐出安定性に優れた水性インクを備え、耐擦過性および密着性などの塗膜特性に優れた画像を形成することができる。よって、本発明のインクセットは、インクジェット用のインクセットとして好適に用いることができる。