(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IMSセル用のイオンシャッターであって、第1シャッター電極および第2シャッター電極を備えており、前記第1および第2シャッター電極は、それぞれ、細長い導電性要素を備え、前記第1シャッター電極は、前記IMSセルのドリフト方向に前記第2シャッター電極から離間しており、前記第1シャッター電極の細長い導電性要素は、ドリフト方向に前記第2シャッター電極の細長い導電性要素に整列されている、イオンシャッター。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面では、同様の要素を示すのに同様の参照番号を使用する。
【0009】
IMSセル100の部分断面図である。IMSセルは、第1シャッター電極106および第2シャッター電極107を含むイオンシャッター105を備える。第1シャッター電圧プロバイダ206は、第1シャッター電極の電圧を変化させるように構成されており、また第2シャッター電圧プロバイダ204は、第2シャッター電極の電圧を変化させるように構成されている。これにより、第1シャッター電極106と第2シャッター電極107との間の壁電圧を、第1シャッター電極の電圧および第2シャッター電極の電圧の両方を変化させることによって制御することができる。これは、シャッター105を開閉して、シャッターを通じたイオンの進入を制御するゲーティング機能を付与するのに使用することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、シャッター電極105は、イオンの移動方向に分離することができる。これらの実施形態では、対象イオン(例えば、シャッターの開口前の反応領域102におけるイオンおよびシャッターの閉口後のドリフト領域104におけるイオン)に最も近いシャッターの電圧を制御して、IMSセル100の電圧プロファイルに適合させることができる。これにより、シャッター105の開口前に、反応領域におけるイオンをシャッター105により接近させることができ、シャッターの閉口による、ドリフトチャンバ104の電圧プロファイルの妨害を減少させることができる。
【0011】
シャッター電極105に別の電圧制御方式を適用してもよい。一部の方式では、第1シャッター電極106および第2シャッター電極107の電圧に対向する(逆向きの)変化(変動)を使用して、壁電圧を変化させる。このような実施形態では、シャッター105の開閉動作によるシャッターの平均電圧の変化を、少なくとも部分的に回避することができる。例えば、シャッターの導体間の間隔よりもシャッターからより離れた地点におけるシャッター105による電界は、1つの固定電圧電極および1つの移動電圧電極を利用する従来のケースにおいて、壁電圧により生じ得る変化よりも僅かに変化し、例えば、シャッターの平均電圧は一定した状態を維持し、例えば、電圧プロファイルの妨害を回避するのに十分に一定となる。シャッター電極は、同一平面上または非同一平面上のいずれでもよい。
【0012】
シャッター電極106,107は、それぞれ、細長い導体を備えることができ、第1シャッター電極106の細長い導体は、ドリフト方向に、第2シャッター電極107の細長い導体に整列させることができる。各シャッター電極106,107の細長い導体は、メッシュ、例えば三角形、四角形、六角形、またはその他の規則的あるいは不規則なメッシュのようなグリッドとして配置することができる。後述するように、シャッター電極106,107は、ドリフト方向に分離している必要はない。例えば、シャッター電極106,107は、同一平面上にあってもよく、この場合、細長い導体は交互嵌合されていてもよく、例えば、それらは織り交ぜられていてもよい。
【0013】
図1のIMSセルは、イオンをIMSセルに供給するための反応領域102を含む。図示するように、IMSセル100は、材料を対象サンプルから反応領域102に導入することができる入口108を含む。反応領域102は、イオンシャッター105によってドリフト領域104から分離している。
図1に示されている実施例では、ドリフト領域104は、反応領域102と、例えばイオンの到達を検出するためのファラデーカップ等のコレクタまたは質量分析計のような別のタイプの検出器118のような検出器118との間に配置されている。
【0014】
図示するように、電圧プロファイルプロバイダ202を配置して、IMSセル100に沿って、空間的に変化する電圧プロファイルを提供する。ドリフト領域104における電圧プロファイルは、ドリフト領域104に沿って離間している一連のドリフト電極120a,120b,120cおよび120dを使用して適用可能である。
図1には示さないが、この電圧プロファイルを反応領域102に延在させるために、反発プレートまたは他の電極をプロファイルプロバイダ202に連結させ、配置することができる。反応領域102と検出器118との間では、電圧プロファイルが(例えば、ドリフト方向のセルに沿って変位する機能として)空間的に変化することで、検出器118に向けてセル100に沿ってイオンを移動させる電界を供給する。
【0015】
シャッター105は、2つの閉状態を有する。閉状態のうちの最初の1つでは、第1シャッター電極106の電圧は、第1シャッター電極の位置の電圧プロファイルに適合するように制御されている。第2の閉状態では、第2シャッター電極107の電圧は、第2シャッター電極の位置の電圧プロファイルに適合するように制御されている。これにより、シャッター105を通過する対象イオンの通路を選択された方法で制御することで、(a)第1閉状態の反応領域および(b)第2閉状態のドリフトチャンバにおけるイオンシャッター105の周囲の電圧プロファイルの妨害を減少させることができる。以下に説明するように、シャッターは、いずれのシャッター電極の電圧も電圧プロファイルに適合しないリセット状態を有してもよい。
【0016】
操作において、対象物質をイオン化することができる反応領域に対象物質を導入する。イオンを反応領域に有しながら、シャッター105を第1閉状態に維持する。シャッター105を開口して、イオンを反応領域102から解放するために、続いて、第2シャッター電圧プロバイダ204により、第2シャッター電極107の電圧を電圧プロファイルに適合させる。対象イオンがドリフトチャンバを通過した後にシャッターを閉口するために、シャッター105を第2閉状態に切り替える。このような操作例は、
図2および
図3を参照して、以下により詳細に記載する。
【0017】
まだ言及していないが、本開示の文脈において、IMSセル100が検出器118へのイオンの移動経路とは全体的に対向する方向にドリフトガス流を供給するように構成することができることを理解されよう。例えば、ドリフトガスを検出器118の近隣からシャッター106に向けて流すことができる。図示するように、ドリフトガス入口122およびドリフトガス出口124を使用して、ドリフトガスをドリフト領域に通過させることができる。ドリフトガスの例としては、限定しないが、窒素、ヘリウム、空気、再循環される空気(例えば、浄化および/または乾燥化した空気)等がある。ドリフト電極120a,120b,120cおよび120dは、イオンを検出器118に向けて誘導するように配置し、例えば、ドリフト電極120a,120b,120cおよび120dは、イオンを検出器118に向けて移動させるようドリフト領域104の周囲に配置されるリングを備えることができる。
図1の実施例は、4個のみのドリフト電極120a,120b,120cおよび120dを含むが、いくつかの実施例においては、より多く、またはより少ない数量のドリフト電極を使用することができ、例えば、1個のドリフト電極を検出器118と組み合わせて使用し、イオンを検出器118に向けて誘導する電界を印加することができる。
図2は、第1ドリフト電極120a,第2ドリフト電極120b,第3ドリフト電極120cおよび第4ドリフト電極120dに連結されている電圧プロファイルプロバイダの実施例を示している。一実施例では、ドリフト電極120a,120b,120cおよび120dの電圧は、電圧プロファイルがIMSセルに沿った距離に直線的に変化するように、例えば、ドリフト領域におけるイオンシャッターから検出器118までの距離に対して一定の勾配の電圧を有するようにする。電圧プロファイルの別の例を使用することもできる。
図2に示す実施例では、プロファイルプロバイダは、分圧器を備えている。
図2に示す実施例では、プロファイルプロバイダの分圧器は、電力プロバイダ140と、第1ドリフト電極120aおよび第2ドリフト電極120bを連結する第1抵抗器134と、第2ドリフト電極120bおよび第3ドリフト電極120cを連結する第2抵抗器136と、第3ドリフト電極120cおよび第4ドリフト電極120dを連結する第3抵抗器138と、を備える。第1抵抗器134、第2抵抗器136、および第3抵抗器138を電力プロバイダ140に直列に連結して、分圧器を形成している。電圧プロバイダの別の例を使用することもでき、例えば、受動的ではなく能動的な、耐性部品を配置して、ドリフト電極の電圧を制御することができる。
【0018】
図2は、非同一平面上にある第1シャッター電極106および第2シャッター電極107を有するIMSセルの実施例も示す。例えば、それらは、IMSセルのドリフト方向に、例えば、反応領域から検出器118に向かうイオンの移動方向に離間している。
【0019】
図示するように、第1シャッター電極106は、第1シャッター電圧プロバイダ206に連結されており、第2シャッター電極107は、第2シャッター電圧プロバイダ204に連結されている。
図2に示す実施例では、イオンシャッター105は閉口しており、対象イオン134は、反応領域102に配置されている。シャッターを閉状態に維持するために、第2シャッター電圧プロバイダ204は、第2シャッター電極を電圧プロファイルとは異なるように制御することで、第1シャッター電極と第2シャッター電極との間の壁電圧がシャッター105を通過するイオンの経路を阻止するように構成する。しかしながら、第1シャッター電圧プロバイダ206は、第1シャッター電極の電圧を第1シャッター電極106の位置における電圧プロファイルに適合するように構成する。これは、シャッターの開口前に、対象イオン134を第1シャッター電極106によって第2シャッター電極107から遮断することができる故に重要である。これにより、シャッターの閉口時において、シャッターの近隣の領域のイオンを枯渇させる状況を回避することができる。これにより、シャッターの開状態を維持してシャッターを通過するイオンの経路を確保すべき時間間隔を減少させることができる。
【0020】
図3a,
図3b,
図3c,
図3dおよび
図3eは、イオン134を
図1および
図2に示すようなIMSセル100の反応領域102からドリフト領域104に解放する方法の順序ステップを示している。
【0021】
図3aは、イオンがドリフト領域104に解放される間のIMSセル100を示しており、これは、
図2に示す状況の一実施例である。
図3aでは、イオン134は、シャッター105によって反応領域に保持されている。
図2を参照して上述したように、この第1の閉状態では、第1シャッター電極106は、電圧プロファイルに適合しており、対象イオンを第2シャッター電極107から遮断している。一方、第2シャッター電極は、壁電圧を供給している。
【0022】
図3aに示す実施例では、第2シャッター電極107の電圧が、電圧プロファイルの第2シャッター電極107の位置における電圧とは異なることで、壁電圧を発生させてイオンがシャッター105を通過するのを防いでいる。この構成における壁電圧は、対象イオン134が第1シャッター電極と第2シャッター電極との間の領域に進入するのも阻止している。
【0023】
図3aに示すこの状況において、第1シャッター電極106は、第2シャッター電極107の電圧から反応領域を遮断している。従って、第1シャッター電極106に電圧プロファイルに適合する電圧を印加することで、第2シャッター電極107に印加される電圧に関わらず、反応領域における電圧プロファイルを維持することができる。これにより、反応領域における電界の摂動を減少させ、かつ反応領域102におけるイオンシャッター105付近のイオンの枯渇を減少させる。
【0024】
図3bは、イオンが反応領域102からドリフト領域104に移動できるようイオンシャッター105を開口したIMSセル100を示す。イオンシャッターは、第1シャッター電極106および第2シャッター電極107に、各シャッター電極の位置における電圧プロファイルに適合する電圧を印加することによって開口される。
【0025】
イオンシャッターは、
図3bに示される開状態を短時間だけ維持して、イオンのパケットを解放する。イオンシャッターが開口し続ける時間は、イオン群の開始時間(例えば、グループ内の各イオンが実際にシャッターを通過する時間)の広がりを決定する。例えば、イオンシャッターが一定時間だけ開口し続けた場合、一部のイオンは、シャッターの開口直後にシャッターを通過し、一部のイオンはシャッターが閉鎖する直前に通過し、結果として得られるイオン群は、開始時間が分布しており、飛行時間の差異を解決するためのIMSセルの能力は、結果として低下する。発明者は、壁電圧が反応領域に進入する場合(例えば、壁電圧の存在により、反応領域に電圧プロファイルとは異なる電圧を生じさせる場合)、シャッター近隣の空間においてイオンを枯渇させることを認めた。この枯渇領域では、シャッターは、他で必要とされるよりも更に長い時間だけ開口している必要がある。何故なら、反応領域のイオンは、枯渇領域も移動しなければならないからである。
【0026】
しかしながら、
図3aに示す第1の閉状態では、第1シャッター電極は、電圧プロファイルに適合しており、第2シャッター電極から反応領域を遮断している。
図3bに示す開状態では、第1シャッター電極106の電圧は、
図3aに示す第1の閉状態における第1シャッター電極106の電圧と同一である。従って、イオンシャッターの開口に関連して反応領域102の電界に僅かな摂動が起きるかまたは摂動が全く起きない。反応領域102は、第2シャッター電極の影響から遮断されている。これは、壁電圧が反応領域に進入する程度を減少させる故に重要である。実施形態により、反応領域のシャッター近隣の空間におけるイオンの数量の枯渇を回避することができる。これにより、イオンがドリフト領域内を通過する前に、先ずシャッターに隣接する枯渇領域を横断しなければならない場合よりも、シャッターをより短い時間間隔だけ開口することができる。
【0027】
図3cに示すように、一旦イオン群がドリフト領域104内に進入すると、イオンシャッターを閉口することができる。これは、第2シャッター電極が電圧プロファイルに適合している一方で、第1シャッター電極106の電圧を変更することで、第1シャッター電極106の電圧が電圧プロファイルと異なるようにすることによって達成することができる。これにより、壁電圧を供給して、反応領域102からドリフト領域104への更なるイオンの移動を停止する。この第2の閉状態では、第2シャッター電極107は、ドリフトチャンバのイオン群を第1シャッター電極106から遮断し、自身の配置における電圧プロファイルに適合する。従って、ドリフト領域104の電圧プロファイルは、シャッター106,107の閉口動作によってより僅かな摂動を加えられ、これにより、異なるイオンが、ドリフト領域104の同一部分における異なる電界を通過する可能性を減らすことができる。
【0028】
この第2の閉状態における選択された時間間隔の後、イオンシャッターはリセットされる。この時間間隔は、移動度の低いイオンが、電界が電圧プロファイルに適合するドリフトチャンバの一部に、例えば、第2シャッターによる電圧プロファイルとの差異が電圧プロファイルよりも極めて低く、例えば、イオンの飛行時間におけるこの差異の効果が、IMSセルの操作解決において測定不能であるドリフトチャンバの一部に移動するのに十分な量の時間を提供するように選択することができる。この時間は、第2シャッターに最も近接するドリフト電極120aへの飛行時間に基づいて選択することができる。他の、より長い時間を使用することもでき、例えば、対象イオンがドリフトチャンバの長さに亘って移動するのに十分に長くてもよい。例えば、時間間隔は、IMSセルのサイクル時間に基づいて、および/または対象イオンが検出器118に到達するのに要する最長の想定時間に基づいて選択することができる。
【0029】
図3dに示すように、続いて、第2シャッター電極の電圧を、
図3cに示す第2の閉口構成において印加される電圧に対して増加させることによって、シャッター105をリセットすることができる。結果として、第2シャッター電極107の電圧は、第2シャッター電極の位置における電圧プロファイルよりも高い。リセット操作におけるこの第1ステップでは、第1シャッター電極106の電圧は、第1シャッター電極の位置において、
図3cに示す第2の閉状態の電圧、例えば、電圧プロファイルからずれた(例えば、電圧プロファイルよりも低い)電圧を維持する。
【0030】
図3eは、イオンシャッターのリセットの第2ステップを示している。リセットプロセスのこの第2のステップにおいて、第1シャッター電極106の電圧は、第1シャッター電極106の位置における電圧プロファイルに適合される。第2シャッター電極107の電圧は、電圧プロファイルの第2のシャッター電極の位置における電圧よりも高い電圧である、
図3dに示した電圧を維持する。これにより、壁電圧を減少させることなく、シャッターを第1の閉状態に戻し、例えば、第1の閉状態にシャッターを戻す工程の間、壁電圧は増加する。実施形態により、シャッターをその第1の閉状態に戻す際にシャッターの不慮の開口を回避することができる。リセットにおけるこの第2ステップの後のIMSセルにおいて結果的に得られる電圧プロファイルは、
図3aに示すのと同一であり、IMSセルでは別のパケットのイオンをドリフト領域内に解放する準備が整う。
【0031】
図4aおよび
図4bは、イオンシャッターの制御方法の一実施例を提供する電圧プロット4000,4002を示す。この方法は、第1シャッター電極と第2シャッター電極との間の壁電圧を、第1シャッター電極の電圧および第2シャッター電極の電圧の両方を変化させることによって制御するステップを含む。
【0032】
図4aは、
図1、
図2、または
図3に示されるようなシャッターのための第1シャッター電極の時間に対する電圧プロット4000を示す。
図4bは、そのような第2シャッター電極のための時間に対する電圧プロット4002を示す。
図4aおよび
図4bは、点線4005,4006として電圧プロファイルを表す点線を示している。この点線4005,4006は、第1シャッター電極4005および第2シャッター電極4006のそれぞれの位置における空間的に変化する電圧プロファイルを示している(第1を4a、第2を4b)。各ケースにおいて、シャッター電極の電圧(第1の106を4a、第2の107を4b)を太い実線4003,4004として示す。
【0033】
図4aおよび
図4bに示される実施例は、第1シャッター電極および第2シャッター電極がドリフト方向に離間している方法の一例であり、対象イオンに最も近いシャッター電極の電圧が電圧プロファイルに適合するように制御されている。適合には、同一の電圧に設定することを含み、例えば、適合には、選択された電圧公差未満だけオフセットすることを含み、例えば、適合には、イオンの不所望な摂動が測定不能な電圧プロファイルに十分に等しいことを含む。
【0034】
図4aおよび
図4bに示す方法は、対象イオンから最も離れたシャッター電極の電圧を電圧プロファイルとは異なるように制御して、壁電圧を供給するステップを含む。例えば、対象イオンが反応領域にある場合(t
0からt
1までの期間)、第1シャッター電極の電圧は、電圧プロファイルに適合している。この期間中、第2シャッター電極の電圧を電圧プロファイルとは異なるように制御することによって、壁電圧が供給される。これがシャッターの第1の閉状態である。
図4bに示すように、第2シャッター電極は、電圧プロファイルに適合している。これにより、シャッターを開口し、イオンを通過可能とする。なぜなら、両シャッター電極は、電圧プロファイルに適合し、壁電圧が除去されるからである。
【0035】
続いて、対象イオン群は、反応領域から解放されて、反応領域から開口しているシャッターを通じて移動する。このグループの後に再度シャッターを閉口するために、時刻t
2において、第2シャッターを電圧プロファイルに保持しつつ、第1シャッター電極を電圧プロファイルから変更する。シャッターは、対象イオンが、電界が電圧プロファイルに適合するドリフトチャンバの一部に、例えば第2シャッターによる電圧プロファイルとの差異が電圧プロファイルよりも極めて低く、例えば、イオンの飛行時間におけるこの差異の効果が測定不能であるドリフトチャンバの一部に移動可能となるのに十分に長くなるよう選択されたt
2からt
3までの間隔だけ、この第2の閉状態に維持することができる。この時間は、第2シャッターに最も近いドリフト電極120aまでの飛行時間に基づいて選択することができる。その他のより長い時間を使用することも可能であり、例えば、対象イオンがドリフトチャンバの長さを移動するのに十分に長くてもよい。
【0036】
続いて、シャッターは、時間t
3において、壁電圧を増加させることによって第2の閉状態からリセットされる。例えば、第2シャッター電極の電圧は、壁電圧を増加させるように変更することができる。第1シャッター電極の電圧は、これをしつつ、第2電極の電圧よりも僅かに変更することができ、例えば、
図4aに示される期間t
3からt
4までの間に示されるように、一定に維持することができる。
【0037】
図4は、
図3に示すイベントの順序を提供することができる、可能な電圧制御方式の1つを示していることを理解されよう。例えば、
図3aにおける構成は、t
0からt
1までの時間間隔に対応している。
図3bに示す構成は、時間間隔t
1〜t
2に対応している。
図3cに示す構成は、時間間隔t
2〜t
3に対応している。
図3dに示す構成は、時間間隔t
3〜t
4に対応している。また、
図3eに示す構成は、時間t
4以降に対応している。しかしながら、
図4には角端型のパルス(ボックスカー波形)が示されているが、より徐々に変化する電圧を使用することもできることを理解されよう。例えば、電圧遷移は、緩やかであってもよく、例えば傾斜していても、例えばロールオフされてもよい。この描写には方形波パルスが使用されている故にシャッター電極の電圧は、遷移中に一定に保持されているが、これは必ずしも必要なケースではないことも理解されよう。結果として、電極上の電圧波形は、台形パルス、方形波パルス、三角波パルス、および準正弦波パルスのうち少なくとも1つの少なくとも部分的な混合を含むことができる。電圧パルスは、対称的である必要はなく、例えば、第1シャッター電極の電圧エクスカーションは、第2シャッター電極の電圧エクスカーションよりも高くても低くてもよい。
【0038】
図5は、例えば第1シャッター電極がIMSセルのドリフト方向に第2シャッター電極から離間しているか、または第1シャッター電極が第2シャッター電極と同一平面上にある、多様なシャッター配置と共に使用可能な代替的な電圧制御方式を示している。
図5に示す実施例では、壁電圧は、第1シャッター電極および第2シャッター電極の電圧に対向する変化を付与することによって制御されている。即ち、第1シャッター電極の電圧が増加した場合、第2シャッター電極の電圧は減少し、またこの逆も可である。2つのシャッターの電圧エクスカーションの相対サイズは、それらが少なくとも部分的に互いに打ち消すように選択することができる。これにより、シャッターの開口および/または閉口時において、全体としてのシャッターの平均電圧における変化を減少させる(例えば回避する)ことができる。これらの対向する変化は、シャッターの位置における電圧プロファイルの中心におくことができる。
【0039】
図5aおよび
図5bにおけるプロットは、
図4と同じく、各シャッター電極の位置における電圧プロファイルを、点線5005,5006として示しており、関連するシャッター電極の電圧を太い実線で示している。
【0040】
図5aおよび
図5bに示すように、時刻t
0からt
1までシャッターが閉口している間、第1シャッター電極の電圧は、局所的な電圧プロファイルよりも高く、第2シャッター電極の電圧は、局所的な電圧プロファイルよりも低い。これにより、2つの電極間に壁電圧を供給するが、2つの電極の平均電圧は、壁電圧未満だけ電圧プロファイルとは異なる。例えば、電圧プロファイルとの差異が同一かつ対向している場合、シャッターの平均電圧は、電圧プロファイルと等しい。シャッターを開口するために、両電極の電圧を変化させて、壁電圧を低下させることができ、例えば、両シャッター電極の電圧を局所的な電圧プロファイルに向けて移動させることができる。後に、シャッターを再度閉口するために、第1シャッター電圧を増加させ、第2シャッター電極の電圧を低下させる。
【0041】
この方法により対向する変化を付与することによって、シャッターの開閉時において、シャッターの平均電圧は、壁電圧における変化よりも僅かに変化する。例えば、個々のシャッター電極における変化は、少なくとも部分的に互いに打ち消すことができる。
【0042】
これらの異なる電圧制御方式は、多様な異なる構成のシャッターと共に使用することができる。
図6は、IMSセル用のイオンシャッターを示す。
図6Aに示すシャッターは、第1シャッター電極106および第2シャッター電極107を含む。図示するように、第1シャッター電極106および第2シャッター電極107はそれぞれ、細長い導電性要素を含む。明白にするために、この概略図では、シャッター電極の導体は、それらが交錯しているかのように示しており、シャッター面において見た際に、例えば、ドリフト方向に沿ってシャッターを見た際に、両方を明白に見ることができるようにしている。しかしながら、他の配置のシャッター電極も可能であることを理解されよう。実際、導電性要素だけでなく、シャッター電極自体を多様な異なる方法にて配置することができる。
【0043】
図6b,
図6cおよび
図6dは、異なる可能な配置を示している。これらはそれぞれ、導体を横切る、
図6Aに示されるようなシャッターを通る断面を代表するものである。これらのうち1つ目の
図6Bでは、第1シャッター電極は、IMSセルのドリフト方向に(例えば、主要寸法を横切る)第2シャッター電極から離間していることが分かる。第1シャッター電極を製造する細長い導電性要素は、ドリフト方向に沿った第2シャッター電極の導電性要素に整列させることができる(即ち、ドリフト方向に横方向にオフセットされていない)。この構成では、IMSセルの軸線に沿って見た際に、第1および第2シャッター電極の導体は、他の導体によって一導体が隠れるように整列している。
【0044】
図6に示すように、シャッター電極106,107の細長い導体は、直線的である。しかしながら、このような導体は他の構成で配置され得ることを理解されよう。例えば、各シャッター電極106,107の細長い導体は、メッシュ、例えば三角形、四角形、六角形、またはその他の規則的あるいは不規則なメッシュのようなグリッドとして配置することができる。
【0045】
しかしながら、必ずしも、本開示の全てのシャッターがこの配置を有するとは限らない。例えば、
図1,
図2,
図3および
図4を参照して上述した方法および装置は、シャッター電極がオフセットされているが、細長い導体は整列していない、例えば
図6cに示すようなシャッターを使用して実施することもできる。例えば、それらは、交錯しており、かつ少なくとも部分的に同一平面上になくてもよく、例えばドリフト方向に離間していてもよい。
【0046】
図6dに示すように、第1シャッター電極および第2シャッター電極は、同一平面上にあってもよく、これは、必須ではないが、
図5aおよび
図5bに示されるような制御方式が使用される場合に特に実用的であり得る。
【0047】
図面全体を参照すると、当然であるが、概略的な機能ブロック図は本明細書中で説明されるシステムと装置との機能を示すために用いられている。しかしながら、当然であるが、機能は、そのように分割する必要がなく、以下に記述および請求するもの以外のハードウェアのいかなる特定の構造をも意味するものではない。図面に示された要素のうちの1つ以上の要素の機能は、更に細分化され、および/または本開示の装置全体に分布されてもよい。いくつかの実施形態では、図面に示された1つ以上の要素の機能は、単一の機能単位に一体化されてもよい。例えば、電圧プロバイダは、複数の出力チャネルを有する単一の駆動回路によって提供することができ、または、別個の駆動回路をそれぞれに設けてもよい。電圧プロバイダは、固定または特定の基準電圧に対して変化するように配置することができる、切り替え可能な電圧を供給するように配置される増幅器を含むことができる。例えば、IMSセルの電圧プロファイルは、シャッター電極を駆動する電圧プロバイダの基準電圧として使用することができる。本明細書に記載の電圧プロバイダは、1つまたはそれ以上の昇圧器または降圧器を有し得るAC電源を有することができ、また電圧プロバイダはバッテリまたは容量性電力貯蔵設備のようなDC電源を有することもできる。AC電源およびDC電源の組合せを使用することができ、また電圧供給器はDC電源に基づいてAC電圧を供給するインバータを有することができる。いくつかの実施形態において、電圧プロバイダは、AC電源に基づいてDC電圧を供給する整流器を有することができる。AC電源およびDC電源並びに電圧プロバイダコンポーネントの任意な組合せを使用することができる。いくつかの実施形態において、電圧プロバイダは、電流源としても動作することができる。
【0048】
上記の実施例において、イオンシャッターを反応領域とドリフトチャンバとの間に示したが、シャッターはIMSセルの位置に設けるか、またはIMSセルを検出器に連結するように設けることもできる。これにより、特定の移動度の(例えば、セルに沿って特定の飛行時間を有する)イオンを選択するシャッターの操作が可能となる。これにより、イオンが質量分析計のような検出器に供給される前に、イオンをフィルタリングすることができる。
【0049】
電極につき説明する場合、当然のことながら、導体の任意な構成を使用することができ、例えば、電極は金属または他の導体を有することができ、また少なくとも部分的に露出するおよび/または部分的に絶縁することができる。
【0050】
前述の実施形態は、典型例として理解されるべきである。更なる実施形態も想定される。なお、任意の一実施形態に関連して説明されるいかなる特徴事項は、単独で、または記載されている他の特徴事項と組み合わせて使用されてもよく、また、他の実施形態の1つ以上の特徴事項と組み合わせて使用されてもよく、あるいは他の実施形態と組み合わせて使用されてもよい。更に、添付の特許請求の範囲に規定されている本発明の範囲から逸脱しなければ、前述されていない均等物と修正物とを使用することもできる。
【0051】
いくつかの実施例において、1つ以上のメモリ要素は、本明細書中で説明される動作を実行するために使用されるデータおよび/またはプログラム命令を格納することができる。本開示の実施形態は、本明細書中で説明および/または請求される方法のうちのいずれか1つ以上を実行するようにプロセッサをプログラムするよう動作可能なプログラム命令および/または、本明細書中で説明および/または請求されるデータ処理装置を提供するように動作可能なプログラム命令を含む有形の非一時的な格納媒体を提供する。
【0052】
本明細書中で概略を示す動作および制御部などの装置は、論理ゲートのアセンブリなどの固定論理、あるいはプロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令のなどのプログラム可能論理により実現されてもよい。他の種類のプログラム可能論理としては、プログラム可能プロセッサ、プログラム可能デジタル論理(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、消去可能プログラム可能読み出し専用メモリ(EPROM))、電気的消去可能プログラム可能読み出し専用メモリ(EEPROM)、特定用途向け集積回路(ASIC)、あるいは他の任意の種類のデジタル論理、ソフトウェア、コード、電子命令、フラッシュメモリ、光ディスク、CD−ROM、DVD ROM、磁気カードまたは光カード、電子命令を格納するのに適した他の種類の機械可読媒体、あるいはそれらの任意の適切な組み合わせが挙げられる。