特許第6894889号(P6894889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アモーレパシフィックの特許一覧

特許6894889アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物
<>
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000003
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000004
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000005
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000006
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000007
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000008
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000009
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000010
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000011
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000012
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000013
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000014
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000015
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000016
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000017
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000018
  • 特許6894889-アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894889
(24)【登録日】2021年6月8日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】アミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20210621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20210621BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20210621BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61P43/00 121
   A61P21/00
   A23L33/175
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-513476(P2018-513476)
(86)(22)【出願日】2016年9月13日
(65)【公表番号】特表2018-527364(P2018-527364A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】KR2016010371
(87)【国際公開番号】WO2017048072
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0130265
(32)【優先日】2015年9月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ ヒュン ウ
(72)【発明者】
【氏名】ラ チャン スウ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヨン ヒイ
(72)【発明者】
【氏名】キム ワン ギ
(72)【発明者】
【氏名】シン ソン セオ
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 British Journal of Nutrition,2014年,Vol.111,p.201-206
【文献】 J. Nutr.,1998年,Vol.128,p.251-256
【文献】 J. Am. Geriatr. Soc.,2012年,Vol.60,p.16-23
【文献】 医学のあゆみ,2014年,Vol.248, No.9,p.747-752
【文献】 外科と代謝・栄養,2013年,Vol.47, No.2,p.71-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61P 1/00−43/00
A23L 33/00−33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)からなる筋細胞分化促進剤。
【請求項2】
請求項1において、前記フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)は1:4〜4:1の重量比で混合されることを特徴とする、筋細胞分化促進剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2の筋細胞分化促進剤を有効成分として含有し、薬学的又は食品学的に許容される添加剤を補助成分としてさらに含有する、筋細胞分化促進用組成物(但し、フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)以外の必須アミノ酸を含む場合を除く)。
【請求項4】
請求項1または請求項2の筋細胞分化促進剤を有効成分として含有する、老人性筋損失予防または治療用薬学組成物(但し、フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)以外の必須アミノ酸を含む場合を除く)。
【請求項5】
請求項1または請求項2の筋細胞分化促進剤を有効成分として含有する、老人性筋損失予防または改善用健康機能食品組成物(但し、フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)以外の必須アミノ酸を含む場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミノ酸を含有する筋細胞分化促進用組成物に関し、より具体的には、フェニルアラニン及びメチオニンからなる筋細胞分化促進剤と、これを含有する老人性筋損失予防または治療用薬学組成物及び老人性筋損失予防または改善用健康機能食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の体の筋肉は骨に付いて骨を保護し、体形を正しく保持するなど様々な機能を果たす。また、筋肉はカルシウムの流入を促進して骨密度を高めたりする。しかし、体は老化しながら構成成分の変化で体脂肪と体タンパク質の再分布が発生し、約50歳になると筋細胞内のタンパク質の合成速度が分解速度より遅くなって筋肉が急激に退化を始めるようになって、筋肉減少疾患に露出される虞がある。
【0003】
筋肉減少の疾患の一つである筋肉減少症は普段自分の体質量の約13〜24%が減少した状態を言い、筋肉減少症があれば行動量が格段と減って精神健康を損なうだけでなく、生活の満足度も下がって、簡単な日常生活でも容易に負傷を負い、深刻な重傷に至ったりする。
【0004】
筋肉減少症の原因は老化が進行するにつれて発生する骨格筋の量と質の漸進的減少及び不適切な食餌エネルギーの攝取による脂肪と体脂肪成分を含む体重減少などを原因として挙げることができ、よく老化によるもので、年齢との係わり合いが深い。それ故、老化による筋肉減少症または筋損失を防止するための研究が必要な実情である。
【0005】
ロイシン(leucine)を含む分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid)がmTOR(Mammalian Target of Rapamycin)信号伝逹を通じて筋肉細胞でタンパク質を合成するメカニズムを通じた筋肉強化効果は90年代末から報告されており、大きく二つの部分で研究方向が行われて来た。第一は、ある特定アミノ酸がmTORを通じた筋肉強化効果があるかに関する研究であり、これに対して個別アミノ酸を取り除いた状態で筋肉強化効果を測定した結果、分岐鎖アミノ酸が効果がよく、その中でもロイシン(leucine)が最も効果が優れるという報告があった。また、多くのアミノ酸の間のシナジー効果においては、グルタミン(glutamine)がロイシン(leucine)の細胞内の吸収を促進してmTOR信号伝逹を通じた筋肉強化効果が増加されるという報告があった。第二は、アミノ酸がどのように細胞内で認識されてmTOR信号伝逹を活性化させるかに関する研究であり、これに対して2000年代後半から報告され始めたが、Vps34、MAP4K3、Rag GTPaseが中間媒介体に提示されて来た。その後、本発明者はロイシン−tRNA合成酵素(leucyl-tRNA synthase)がロイシン(leucine)を直接認識してRag GTPaseを活性化させることによりmTORが活性化されるということを明かした事がある。
【0006】
しかしながら、mTOR信号伝逹関連機作は何れも筋肉内のタンパク質の合成を増加させることにより筋肉強化効果を現わすだけで、筋芽細胞を筋細胞に分化させて筋細胞の数自体を増加させることにより、減少されたり損失された筋肉量を根本的に回復させるメカニズムとは差がある。
【0007】
ここで、本発明者等は筋肉内タンパク質の合成ではない、筋細胞の分化形成を増加させるための方法を見つけるために鋭意努力した結果、アミノ酸の中でフェニルアラニン(phenylalanine)とメチオニン(methionine)が一緒に作用して筋芽細胞が筋肉細胞に分化されることを促進することにより老人性筋損失を予防したり、改善、治療することができることを確認して、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)からなる筋細胞分化促進剤と、ここに薬剤学的または食品学的に許容される添加剤をさらに含有する筋細胞分化促進用組成物を提供することにある。
【0009】
即ち、本発明の目的は、前記筋細胞分化促進剤を有効成分として含有する、老人性筋損失予防または治療用薬学組成物、または予防または改善用健康機能食品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達するために、本発明はフェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)からなる筋細胞分化促進剤を提供する。
【0011】
本発明はまた、本発明による筋細胞分化促進剤を主成分として含有し、薬剤学的または食品学的に許容される添加剤を補助成分としてさらに含有する、筋細胞分化促進用組成物を提供する。
【0012】
本発明はまた、本発明による筋細胞分化促進用組成物を含有する、老人性筋損失予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、本発明による筋細胞分化促進用組成物を含有する、老人性筋損失予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の筋細胞分化促進用組成物及びこれを含有する薬学組成物または健康機能食品組成物は、筋芽細胞が筋肉細胞に分化されることを促進して筋肉減少症や筋損失を予防、改善及び治療することができ、特に老人性筋損失に効果的であり、筋細胞数の増加により基礎代謝量が増加して体内脂肪酸を酸化させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アミノ酸の欠乏状況でC2C12細胞の分化による細胞模様変化を顕微鏡で観測した図である。
【0016】
図2】アミノ酸の欠乏状況でL6細胞の分化による細胞模様変化を顕微鏡で観測した図である。
【0017】
図3】各種必須アミノ酸の欠乏状況でC2C12細胞の分化マーカータンパク質(MyoDとMyogenin)の発現パターンをウェスタンブロットを通じて分析した図である。
【0018】
図4】アミノ酸の中でフェニルアラニンの欠乏状況でタイロシン(Tyr)またはフェニルアラニンをC2C12細胞に処理する場合、C2C12細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのか実験して観測した図である。
【0019】
図5】アミノ酸の中でフェニルアラニンの欠乏状況でタイロシン或はフェニルアラニンをL6細胞に処理する場合、L6細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのか実験して観測した図である。
【0020】
図6】アミノ酸の中でフェニルアラニンの欠乏状況でタイロシンまたはフェニルアラニンをC2C12細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0021】
図7】アミノ酸の中でフェニルアラニンの欠乏状況でタイロシン或はフェニルアラニンをL6細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0022】
図8】アミノ酸全体の欠乏状況でタイロシンまたはフェニルアラニンをC2C12細胞に処理する場合、C2C12細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのかを実験して観測した図である。
【0023】
図9】アミノ酸全体の欠乏状況でタイロシンまたはフェニルアラニンをL6細胞に処理する場合、L6細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのかを実験して観測した図である。
【0024】
図10】アミノ酸全体の欠乏状況でタイロシンまたはフェニルアラニンをC2C12細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0025】
図11】アミノ酸全体の欠乏状況でタイロシンまたはフェニルアラニンをL6細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0026】
図12】アミノ酸全体の欠乏状況でメチオニンをC2C12細胞に処理する場合、C2C12細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのか実験して観測した図である。
【0027】
図13】アミノ酸全体の欠乏状況でメチオニンをL6細胞に処理する場合、L6細胞の分化に濃度依存的に影響を及ぼすのか実験して観測した図である。
【0028】
図14】アミノ酸全体の欠乏状況でメチオニンをC2C12細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0029】
図15】アミノ酸全体の欠乏状況でメチオニンをL6細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現に濃度依存的に影響を及ぼすのか分析した図である。
【0030】
図16】アミノ酸全体の欠乏状況でフェニルアラニン、メチオニン或は多様な比率のフェニルアラニン+メチオニンをC2C12細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現様相変化を観測した図である。
【0031】
図17】アミノ酸全体の欠乏状況でフェニルアラニン、メチオニン或は多様な比率のフェニルアラニン+メチオニンをL6細胞に処理する場合、筋細胞マーカー遺伝子の発現様相変化を観測した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
他の式で定義されない限り、本明細書で用いられた全ての技術的及び科学的用語は本発明が属する技術分野において熟練された専門家によって通常的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で用いられた命名法は本技術分野で周知の通常的に用いられるのである。
【0033】
本発明で用いられる「筋芽細胞(myoblast)」とは筋肉細胞への分化能力を有する幹細胞を意味する。これら筋芽細胞は特異的に衛星細胞(satellite cells)に逆分化されることもあるが、長期間筋肉細胞への転換が発生しない一部筋芽細胞で起きる現象である。しかし、このような衛星細胞でも適切な刺激(運動など)が与えられると、いつでも筋芽細胞から筋肉細胞への分化が可能である。
【0034】
本発明で用いられる「筋芽細胞分化」とは単核の筋芽細胞が融合を通じて多核の筋管(myotube)を形成する過程である。筋芽細胞から筋管への分化過程で、ミオシンD(MyoD)、ミオゲニン(myogenin)などの遺伝子の発現が増加する。従って、筋芽細胞分化マーカー遺伝子としてミオシンDとミオゲニンを利用すれば筋細胞の分化有無を確認することができる。
【0035】
本発明で用いられる「筋肉細胞分化形成」とは、筋芽細胞が分化されて長い模様への変化と共に筋纎維及び多数のミトコンドリア含有など筋肉の特性を有する筋肉細胞が形成されることを意味し、形成された筋肉細胞が融合を経て多核の筋管(myotube)を形成することを意味する。ただし、細胞融合を通じた筋管形成は骨格筋のみで起きる現象であり、心筋及び平滑筋では起きない。
【0036】
本発明で用いられる幹細胞「分化」は幹細胞で特定細胞に完全に分化された場合だけでなく、幹細胞で特定細胞へ完全に分化される前の中間段階も含む。
【0037】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0038】
本発明ではフェニルアラニン及びメチオニンを含む9種のアミノ酸(Leu、Ile、Met、Val、Lys、Trp、Phe、Thr、Gln)の中でどのアミノ酸が筋肉細胞の分化形成に影響を及ぼすのか確認するための実験を行った。その結果、特にフェニルアラニン(Phe)とメチオニン(Met)が欠乏された場合、筋肉細胞の分化形成が大きく阻害されることが分かり、フェニルアラニンとメチオニンの混合比率が重量比で2:1の場合、筋肉細胞の分化形成が最も大きく起きることを確認することができた。
【0039】
従って、本発明は一観点で、フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)からなる筋細胞分化促進剤に関する。
【0040】
本発明において、前記筋細胞分化促進剤の前記フェニルアラニン(Phe)及びメチオニン(Met)は1:4〜4:1、好ましくは2:1の重量比で混合することを特徴とすることができる。前記重量比で含まれる場合、筋肉細胞の分化形成効果を現わすのに適切であるだけでなく、組成物の安定性及び安全性を全部満足することができ、費用対比効果の側面でも上記の範囲で含むことが適切である。
【0041】
また、前記フェニルアラニン及び/またはメチオニンは単量体、オリゴマー、重合体などで存在することができる。
【0042】
本発明は他の観点で、本発明による筋細胞分化促進剤を主成分として含有し、薬剤学的または食品学的に許容される添加剤を補助成分としてさらに含有する、筋細胞分化促進用組成物に関する。
【0043】
また、本発明において、前記筋細胞分化促進用組成物はトレオニン(Thr)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)、グルタミン(Gln)及びリシン(Lys)からなる群で選択された何れか1種以上のアミノ酸を補助成分としてさらに含有することを特徴とすることができる。
【0044】
また、前記フェニルアラニン(Phe)は組成物総重量に対して0.02〜64重量%、好ましくは0.05〜54重量%で含有され、メチオニン(Met)も0.02〜64重量%、好ましくは0.05〜27重量%で含有されることを特徴とすることができる。前記二つのアミノ酸含量の総和が0.1重量%未満である場合効果が微弱であり、80重量%を超える場合、アミノ酸の代謝に問題のある患者は高フェニルアラニン血症(フェニルケトン尿症外)や高メチオニン血症(高ホモシステイン血症外)が発生する可能性がある。従って、正常人の場合は問題がないが、アミノ酸代謝異常患者を考慮した場合、フェニルアラニン/メチオニン混合製剤の量を組成物総重量に対して0.1〜80重量%の間で用いることが好ましい。
【0045】
本発明は他の観点で、本発明による筋細胞分化促進剤を有効成分として含有する老人性筋損失予防または治療用薬学組成物に関する。
【0046】
本発明による組成物を薬学組成物に適用する場合には、前記組成物を有効成分として常用される無機または有機担体を加えて、固体、半固体または液状の形態で製剤化することができる。本発明の有効成分を常法によって実施すれば容易に製剤化することができ、界面活性剤、賦形剤、着色剤、香辛料、安定化剤、防腐剤、保存剤、水和剤、乳化促進剤、懸濁剤、滲透圧を調節するための塩及び/または緩衝剤、その他常用の補助剤を適当に用いることができる。
【0047】
前記経口投与のための製剤としては錠剤、丸剤、顆粒剤、軟硬質カプセル剤、散剤、細粒剤、粉剤、液剤、懸濁剤、乳濁剤、シロップ剤、ペレット剤などを挙げることができる。これら剤形は有効成分以外に希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及びグリシン)、滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸及びそのマグネシウムまたはカルシウム塩及びポリエチレングリコール)を含有することができる。錠剤はまたマグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドンのような結合剤を含有することができ、場合によっては、澱粉、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩のような崩壊剤、吸収剤、着色剤、香味剤または甘味剤などの薬剤学的添加剤を含有することができる。前記錠剤は通常的な混合、顆粒化またはコーティング方法によって製造されることができる。
【0048】
本発明による前記薬学組成物は経口、非経口、直腸、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下などに投与されることができる。
【0049】
また、前記有効成分の投与量は治療を受ける対象の年齢、性別、体重または治療する特定疾患または病理状態、疾患または病理状態の深刻度、投与経路または処方者の判断によって変わることができる。このような因子に基づいた投与量の決定は当業者の水準内にある。一般的な投与量は、好ましくは1.375mg/kg/日〜1100mg/kg/日になることがあるが、前記投与量はいかなる方法でも本発明の範囲を限定するのではない。
【0050】
本発明はまた他の観点で、本発明による筋細胞分化促進剤を有効成分として含有する老人性筋損失予防または改善用健康機能食品組成物に関する。
【0051】
前記健康機能食品組成物の剤形は特に限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤、キャラメル、ダイエットバー、飲み物などに剤形化されることができる。各剤形の食品組成物は有効成分以外に当該分野で通常用いられる各種成分を剤形または使用目的によって当業者が困難なく簡単に適宜選定して配合することができ、他の原料と同時に適用する場合上昇効果を奏することができる。
【0052】
前記有効成分の投与量の決定は当業者の水準内にあり、この1日投与用量は投与しようとする対象の年齢、健康状態、合併症などの多様な要因によって変わることがある。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を通じて本発明についてより詳しく説明する。これら実施例はただ本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されることに解釈されないことは本技術分野において通常の知識を有する者にとって自明である。従って、本発明の実質的な範囲は添付される特許請求範囲及びそれらの等価物によって定義されると言える。
【0054】
[試験例1]必須アミノ酸欠乏による筋肉細胞分化形成効果確認
9種のアミノ酸(Leu、Ile、Met、Val、Lys、Trp、Phe、Thr、Gln)中の何れか一つの欠乏状況でそれぞれC2C12筋肉細胞の分化形成過程をオリンパス社のCK40光学顕微鏡(40x)を利用して観察した結果、図1に示すように、9種のアミノ酸の中でフェニルアラニン(Phe)の欠乏状況は筋肉細胞の分化形成を深刻に阻害していることが分かり、メチオニン(Met)の欠乏がフェニルアラニンの次に筋肉細胞の分化形成をたくさん阻害していることを確認することができた。よって、フェニルアラニン及びメチオニンの十分な提供が筋肉細胞の形成に重要であることを確認することができた。
【0055】
他種の筋肉細胞であるL6の細胞でも上記と同じ方法で分化形成過程を観察した結果、図2に示すように、C2C12と同様にフェニルアラニン欠乏が筋肉細胞の分化形成に及ぶす影響が最も大きく、メチオニン欠乏も大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0056】
前記二つの実験結果により、9種のアミノ酸が筋肉細胞分化形成に及ぶす影響を次のような手順で整理することができた。
【0057】
総必須アミノ酸>Phe>Met>Thr=Val=Ile=Gln=Lys>Leu=Trp
【0058】
総アミノ酸が欠乏された状況で筋肉細胞の分化形成に最も大きい影響を及ぼし(分化が最も遅い)、その次はフェニルアラニンの欠乏、その次はメチオニンの欠乏が大きな影響を及ぼした。トリプトファンの欠乏状況は筋肉細胞の分化形成に及ぶす影響が最も少ないことを確認することができた。
【0059】
筋肉細胞の分化形成時に細胞の模様変化を観測するとともに、分化マーカータンパク質(ミオシンDとミオゲニン)の発現パターンを調べるために分化された筋肉細胞からタンパク質を抽出した後、ミオシンDとミオゲニン特異抗体を当該技術分野で通常用いられるウエスタンブロッティング方法に利用して比較分析した。図3に示すように、前記光学顕微鏡による観察結果と同様にフェニルアラニンが欠乏された状況で分化マーカータンパク質の発現も著しく減少されることを確認することができ、フェニルアラニンよりは影響が些細であるが、メチオニン欠乏も分化マーカータンパク質の発現を減少させることを確認することができた。
【0060】
[試験例2]フェニルアラニンの筋肉細胞分化形成効果確認
試験例1によれば、必須アミノ酸の中でフェニルアラニンが筋肉細胞分化形成に及ぶす影響が最も大きく現われ、フェニルアラニンの添加により筋肉細胞分化形成が促進されることができるのかを調べるために後続の実験を用意した。また、アミノ酸代謝経路でフェニルアラニンはタイロシン(Tyr)に転換されるという点を考慮して、筋肉細胞の形成にタイロシン欠乏が影響を及ぼすのか調べるための実験を一緒に行った。フェニルアラニンが欠乏された細胞培養液にタイロシンまたはフェニルアラニンをそれぞれ濃度別(0.2mM、0.4mM、0.8mM)添加した後、C2C12細胞とL6細胞それぞれの分化形成能力を試験例1と同じ方法で光学顕微鏡を利用して測定した。
【0061】
その結果、図4(C2C12)及び図5(L6)に示すように、タイロシンではなくフェニルアラニンが筋肉細胞の形成に濃度依存的に影響を及ぼすということが分かった。
【0062】
また、それぞれの場合、筋肉細胞マーカー遺伝子の発現を確認するために、当該技術分野において通常用いられるqRT−PCR方法のように、分化された筋細胞でRNAを抽出し、これに基づいて相補的DNA(cDNA)を合成した後、qRT−PCR(quantitative real-time polymerase chain reaction)にミオシンD及びミオゲニンのPCRプライマーを利用してマーカー遺伝子のmRNA発現変化を観察した。
【0063】
その結果、図6(C2C12)及び図7(L6)に示すように、分化マーカー遺伝子であるMyo DのmRNA発現程度も濃度依存的に現われることを確認することができた。
【0064】
さらに、フェニルアラニンとタイロシンの筋肉細胞形成に対する影響を確認するために、アミノ酸が全部欠乏された細胞培養液にフェニルアラニンまたはタイロシンをそれぞれ濃度別(0.2mM、0.4mM、0.8mM)添加した後、C2C12細胞及びL6筋肉細胞の分化形成能力を前記と同じ方法でそれぞれ測定した。
【0065】
その結果、図8(C2C12)及び図9(L6)に示すように、タイロシンではないフェニルアラニンが添加された時、筋肉形成能力が増大されるという結果をもう一度確認することができた。また、図10(C2C12)及び図11(L6)に示すように、各筋肉細胞内マーカー遺伝子の発現もフェニルアラニンの添加のみによって増加することを確認することができた。
【0066】
[試験例3]メチオニンの筋肉細胞分化形成効果確認
試験例1の結果を通じて、メチオニンはフェニルアラニンほどではないが、その外他の必須アミノ酸に比べて筋肉細胞分化形成に及ぶす影響が大きいことを類推することができた。これと関連して、メチオニンの添加によっても筋肉細胞の分化形成が可能であるか調べるために、アミノ酸が欠乏されたC2C12及びL6細胞にメチオニンを添加した後、筋肉細胞への分化の有無をそれぞれ観察した。
【0067】
その結果、図12(C2C12)及び図13(L6)に示すように、メチオニン単独でも筋肉細胞分化形成に影響を与えることを確認することができ、図14(C2C12)及び図15(L6)に示すように、筋肉細胞マーカー遺伝子の発現が増加することを通じてもメチオニンの筋肉細胞分化形成に影響を及ぼすことをもう一度確認することができた。
【0068】
[実施例]フェニルアラニン及びメチオニンの混合比率による筋肉細胞形成効果確認
前記試験例1〜3でアミノ酸の中でフェニルアラニン及びメチオニンが筋肉細胞分化形成に最も効果が良かった点に着眼して、最適な効果を現わすフェニルアラニン及びメチオニンの混合比率を調べるために実施例1〜7を以下の表1の成分及び含量で製造した。比較例1はメチオニンを全く含まないように製造し、比較例2はフェニルアラニンを全く含まないようにして製造した。また筋肉細胞分化には些細な影響を及ぼすが、筋肉内タンパク質の合成を誘導すると知られた分岐鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)も少量添加した。
【0069】
【表1】
【0070】
前記実施例1〜7と比較例1及び2を、試験例1〜3に記載されたのと同じ方法でC2C12細胞及びL6細胞に処理し、筋肉細胞の分化形成を観測及び測定した。その結果、図16(C2C12)及び図17(L6)に示すように、フェニルアラニンとメチオニンを2:1の重量比で混合した実施例3の筋肉細胞分化形成効果が最も優れることを確認することができた。
【0071】
以上、本発明内容の特定部分を詳しく記述したが、本技術分野における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な技術はただ好ましい実施態様であるだけであり、それにより本発明の範囲が制限されるのではない点は明白であろう。従って、本発明の実質的な範囲は添付される特許請求範囲とそれらの等価物によって定義される。
【0072】
また、以下本発明の組成物を含む薬学組成物及び健康機能食品組成物の剤形例をより詳しく説明するが、それによって本発明の範囲が制限されるのではないことは明白である。
【0073】
[剤形例1]錠剤の製造
実施例3.............50mg
とうもろこし澱粉..........100mg
乳糖................100mg
ステアリン酸マグネシウム........2mg
ビタミンC...............50mg
【0074】
前記成分を混合した後、通常の錠剤製造方法によって打錠して錠剤を製造する。
【0075】
[剤形例2]カプセル剤の製造
実施例3...............50mg
とうもろこし澱粉..........100mg
乳糖................100mg
ステアリン酸マグネシウム.......2mg
ビタミンC..............50mg
セリン................50mg
【0076】
通常のカプセル剤の製造方法によって前記成分を混合してゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。
【0077】
[剤形例3]液剤の製造
実施例3..............100mg
異性化糖................10g
マンニト−ル................5g
ビタミンC...............50mg
セリン.................50mg
油脂....................適量
精製水...................残量
【0078】
通常の液剤製造方法によって精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモン香を適量加えた後、前記成分を混合し、その後精製水を加えて全体100mlに調節した後、遮光ビンに充填し且つ滅菌して液剤を製造する。
【0079】
[剤形例4]健康機能食品の製造
実施例3..............1000mg
ビタミン混合物
ビタミンA アセテート.........70μg
ビタミンE..............1.0mg
ビタミンB1.............0.13mg
ビタミンB2............0.15mg
ビタミンB6..............0.5mg
ビタミンB12.............0.2μg
ビタミンC...............10mg
ビオチン.................10μg
ニコチン酸アミド............1.7mg
葉酸....................50μg
パントテン酸カルシウム..........0.5mg
無機質混合物
硫酸第一鉄...............1.75mg
酸化亜鉛................0.82mg
炭酸マグネシウム............25.3mg
第1リン酸カルシウム............15mg
第2リン酸カルシウム............55mg
クエン酸カリウム..............90mg
炭酸カルシウム..............100mg
塩化マグネシウム.............24.8mg
【0080】
前記ビタミン及びミネラル混合物の組成比は比較的健康食品に相応しい成分を好ましい実施例で混合したが、その配合比を任意に変形実施しても構わなく、通常の健康食品の製造方法によって前記成分を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法によって健康機能食品組成物の製造に用いることができる。
【0081】
[剤形例5]飲み物の製造
実施例3..............1000mg
クエン酸..............1000mg
オリゴ糖................100g
梅濃縮液..................2g
タウリン..................1g
精製水を加えて全体...........1000ml
【0082】
通常の飲み物の製造方法によって前記成分を混合した後、約1時間85℃で撹拌加熱する。作られた溶液を濾過して滅菌された2Lの容器に取得し、その後密封滅菌した後、冷蔵保管して本発明の飲み物組成物の製造に用いる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17