(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である血液回路10の概略構成図である。また、
図2は、当該血液回路10を利用して透析治療を行う様子を、
図3は、当該血液回路10を利用してプライミング処理を行う様子を示す図である。また、
図4、
図5は、シャントコネクタ18に取り付けられるアダプタ20a,20vの一例を示す図である。
【0016】
血液回路10は、血液やプライミング液等の液体が流れる流路で、血液透析等の血液浄化法を実行する際に使用される。血液回路10は、後述するダイアライザ等の血液浄化器とともに、使用の度に廃棄・交換されるディスポーザブル部材である。この血液回路10は、滅菌された後、滅菌バッグ(図示せず)に封止された状態で、出荷される。使用する際、作業者は、滅菌バッグを開封して、血液回路10を取り出し、当該血液回路10を、ダイアライザとともに、透析装置に組み付ける。
【0017】
本実施形態の血液回路10は、動脈側血液ライン12aと、静脈側血液ライン12vと、を有している。なお、以下の説明では、動脈側と静脈側を区別しない場合は、添字a,vを省略して、単に「血液ライン12」と呼ぶ。他部材についても同様である。また、本明細書では、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を、「動脈側」といい、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」という。したがって、「動脈側」、「静脈側」とは、穿刺の対象となる血管が動脈および静脈のいずれかによって定められるものではない。治療時、動脈側血液ライン12aは、脱血用のラインであり、患者から採取した血液が流れる。静脈側血液ライン12vは、返血用のラインであり、血液浄化器を通過した血液が流れる。動脈側血液ライン12aおよび静脈側血液ライン12vは、いずれも、可撓性のチューブからなる。動脈側血液ライン12aの一端には、穿刺針100が接続可能な動脈側シャントコネクタ18a(第一コネクタ)が、他端には、ダイアライザ30の血液入口32に接続可能な動脈側ダイアライザコネクタ16aが固着されている。また、動脈側血液ライン12aの途中には、血液を一時的に貯留して、気泡を排除するためのエアトラップチャンバ14aが設けられている。
【0018】
静脈側血液ライン12vも類似の構成を有しており、その一端には、穿刺針100が接続可能な静脈側シャントコネクタ18v(第二コネクタ)が、他端には、ダイアライザ30の血液出口34に接続可能な静脈側ダイアライザコネクタ16vが固着されている。また、静脈側血液ライン12vの途中にも、血液を一時的に貯留して、気泡を排除するためのエアトラップチャンバ14vが設けられている。ダイアライザコネクタ16およびエアトラップチャンバ14は、周知の公知技術を利用できるため、ここでの詳説は省略する。なお、本実施形態では、静脈側、動脈側の双方にエアトラップチャンバ14を設けているが、これらの少なくとも一方は、省略されてもよい。また、動脈側シャントコネクタ18aおよび静脈側シャントコネクタ18vは、いずれも、規格に沿った汎用の穿刺針100が接続可能な構造を有しており、互いに同一の形状を有している。
【0019】
血液回路10は、さらに、動脈側アダプタ20a(第一アダプタ)および静脈側アダプタ20v(第二アダプタ)からなるアダプタセットを有している。動脈側アダプタ20aは、動脈側シャントコネクタ18aに、静脈側アダプタ20vは、静脈側シャントコネクタ18vに、それぞれ着脱可能に接続されている。なお、
図1では、見易さのために、シャントコネクタ18とアダプタ20とを分離して図示しているが、実際には、血液回路10は、各シャントコネクタ18に、対応するアダプタ20を装着した状態で出荷される。換言すれば、作業者が血液回路10を使用開始する時点で、各シャントコネクタ18には、適切なアダプタ20が装着されているため、作業者が、いずれのシャントコネクタ18に、いずれのアダプタ20を装着するべきかを考える必要はなく、シャントコネクタ18とアダプタ20との誤接続は、ほぼ無いとみなせる。
【0020】
動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vは、いずれも、その軸方向に貫通する流路が形成された略管体である。動脈側アダプタ20aの一端は、動脈側シャントコネクタ18aに接続されており、他端は、後述する排出ポート56d(第一ポート)に接続可能となっている(
図2、
図3参照)。そして、動脈側シャントコネクタ18aに装着された動脈側アダプタ20aの他端に、排出ポート56dを接続することで、動脈側シャントコネクタ18aと排出ポート56d、ひいては、動脈側血液ライン12aと排出ライン54dとが液密に連通される。同様に、静脈側アダプタ20vの一端は、静脈側シャントコネクタ18vに接続されており、他端は、後述する供給ポート56s(第二ポート)に接続可能となっている。そして、静脈側シャントコネクタ18vに装着された静脈側アダプタ20vの他端に、供給ポート56sを接続することで、静脈側シャントコネクタ18vと供給ポート56s、ひいては、静脈側血液ライン12vと供給ライン54sとが液密に連通される。
【0021】
ここで、各アダプタ20は、対応するシャントコネクタ18に接続されるコネクタ接続部Ccと、対応する給排ポート56に接続されるポート接続部Cpと、を有している。本実施形態では、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vそれぞれのコネクタ接続部Ccを同一構成にする一方で、それぞれのポート接続部Cpa,Cpvの構成を互いに異ならせている。具体的には、動脈側アダプタ20aのポート接続部Cpaを、静脈側アダプタ20vのポート接続部Cpaよりも大径としている。かかる構成とするのは、血液回路10と、透析装置に設けられたラインとを接続する際の誤接続を防止するためである。以下、これについて詳説していく。
【0022】
はじめに、当該血液回路10を利用して、透析治療を行う様子について
図2を参照して説明する。透析治療を行う場合には、予め、透析装置に、当該血液回路10およびダイアライザ30を取り付けておく。透析装置は、作業者の指示に応じて、血液を体外循環させるとともに、透析液を供給および排出する。透析装置には、動脈側血液ライン12aの途中に設けられ、血液をダイアライザ30側に送り出す血液ポンプPBが設けられている。この血液ポンプPBが正駆動することで、血液が、下流側(ダイアライザ30側)に送られる。また、後に詳説するように、血液ポンプPBは、プライミング処理時には、逆駆動して、プライミング液(例えば透析液)を流す役割も果たす。血液ポンプPBの構成は、特に限定されないが、本実施形態において、血液ポンプPBは、しごき型のチューブポンプである。血液ポンプPBは、可撓性チューブからなる動脈側血液ライン12aをしごくことで、血液やプライミング液等を送り出す。なお、
図2において血液ポンプPBの近傍に付した矢印は、血液ポンプPBの正駆動の向きを示している。
【0023】
透析装置には、さらに、透析液を供給および排出する透析液給排装置50も設けられている。この透析液給排装置50には、導入ライン52iおよび導出ライン52oが接続されている。導入ライン52iは、透析液給排装置50から透析液をダイアライザ30に供給するラインで、その途中には、導入ポンプPIが設けられている。導出ライン52oは、ダイアライザ30から透析液を透析液給排装置50に排出するラインで、その途中には導出ポンプPOが設けられている。導入ポンプPIおよび導出ポンプPOは、それぞれ透析液を送り出せるのであれば、その構成は、限定されない。したがって、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOは、互いに独立して駆動できるポンプ、例えば、チューブポンプ等でもよいし、互いに連動して駆動する複式ポンプでもよい。なお、
図2において、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOの近傍に付した矢印は、これらポンプの正駆動の向きを示している。
【0024】
導入ライン52iは、その途中の分岐点Pで分岐し、供給ライン54sを構成する。また、導出ライン52oの途中には、排出ライン54dが合流している。なお、以下では、供給および排出を区別しない場合には、添字s,eを省略して「給排ライン54」と呼ぶ。他部材についても同様とする。供給ライン54sおよび排出ライン54dは、いずれも、後述するプライミング処理において利用されるラインである。この供給ライン54sおよび排出ライン54dの端部には、供給ポート56sおよび排出ポート56dが設けられている。供給ポート56sは、プライミング液が供給されるポートで、既述した静脈側アダプタ20vが接続可能となっている。また、排出ポート56dは、使用済みのプライミング液が入力されるポートで、既述した動脈側アダプタ20aが接続可能となっている(
図3参照)。ただし、
図2に示す通り、透析治療の際には、これら給排ポート56s,56dには、何も接続されない。ここで、既述した通り、静脈側アダプタ20vおよび動脈側アダプタ20aそれぞれのポート接続部Cpa,Cpvは、互いに異なる形状を有しているため、これらアダプタ20に対応する給排ポート56も互いに異なる形状を有している。具体的には、動脈側アダプタ20aが接続される排出ポート56dの挿入口は、静脈側アダプタ20vが接続される供給ポート56sよりも大径となっている。
【0025】
透析装置は、さらに、透析液給排装置50から供給された透析液の供給先を切り替えるための導入バルブVIおよび供給バルブVSを有している。導入バルブVIは、導入ライン52iのうち分岐点Pよりも下流側(ダイアライザ30側)に設けられており、供給バルブVSは、供給ライン54sの途中に設けられている。透析液給排装置50から供給された透析液は、導入バルブVIを開放、供給バルブVSを閉鎖することで、ダイアライザ30に供給され、導入バルブVIを閉鎖、供給バルブVSを開放することで、供給ポート56sに供給される。なお、透析液の供給先を切り替えることができるのであれば、導入バルブVIおよび供給バルブVSは、省略、または、変更されてもよい。例えば、導入バルブVIおよび供給バルブVSに替えて、分岐点Pに三方弁を設けてもよい。また、しごき型のチューブポンプは、駆動停止している場合には、チューブを閉鎖できるため、導入ポンプPIとして、しごき型のチューブポンプを採用し、当該導入ポンプPIを導入バルブVIとして機能させてもよい。
【0026】
以上の透析装置には、血液回路10およびダイアライザ30がセットされる。血液回路10は、既述した通り、動脈側血液ライン12aおよび静脈側血液ライン12vを有した流路であり、その途中には、気泡を排出するためのエアトラップチャンバ14が設けられている。この血液回路10は、動脈側血液ライン12aの途中に血液ポンプPBが位置するように、透析装置にセットされる。
【0027】
ダイアライザ30は、血液を浄化する血液浄化器である。ダイアライザ30は、略円筒形の容器を有しており、当該容器の内部には、中空糸膜が設けられている。ダイアライザ30の軸方向両端には、血液入口32および血液出口34が設けられている。この血液入口32には、動脈側血液ライン12aが、血液出口34には、静脈側血液ライン12vが、それぞれ接続される。また、ダイアライザ30の周面には、導入口36および導出口38が設けられている。この導入口36には、導入ライン52iが、導出口38には、導出ライン52oが、それぞれ接続される。
【0028】
図2に示す通り、透析治療の際には、シャントコネクタ18に取り付けられていたアダプタ20は、取り外され、替わりに穿刺針100がシャントコネクタ18に取り付けられる。動脈側および静脈側の穿刺針100は、いずれも、規定の規格に沿った汎用品であり、その接続部は、互いに同じ形状を有している。
【0029】
透析治療の際には、この穿刺針100を患者の血管に穿刺したうえで、血液ポンプPBを正駆動する。また、導入バルブVIを開放かつ供給バルブVSを閉鎖するとともに、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOを正駆動して、透析液をダイアライザ30に給排する。患者の血液は、穿刺針100から動脈側血液ライン12aに送られ、その後、ダイアライザ30を通過して、静脈側血液ライン12vに送られる。静脈側血液ライン12vに流れる浄化済みの血液は、穿刺針100を介して、患者の体内に戻される。また、ダイアライザ30内では、患者の血液から不要成分が除去されるとともに不足する成分が補給される。
【0030】
ところで、通常、こうした透析治療に先だって、血液回路10およびダイアライザ30に液体(プライミング液)を流して、空気を排除するプライミング処理が行われる。このプライミング処理について
図3を参照して説明する。本実施形態では、プライミング処理の際には、
図3に示す通り、静脈側血液ライン12vを、供給ライン54sに、動脈側血液ライン12aを排出ライン54dにそれぞれ接続する。そして、この接続状態になれば、本実施形態では、ダイアライザ30の軸方向にプライミング液を流す第一プライミング処理と、ダイアライザ30の周方向にプライミング液を流す第二プライミング処理とを順番に実行する。第一プライミング処理では、導入バルブVIを閉鎖かつ供給バルブVSを開放して、血液ポンプPBを逆駆動する。これにより、プライミング液として機能する透析液は、
図3の矢印Aの方向に流れる。すなわち、透析液給排装置50から供給された透析液(プライミング液)は、供給ライン54s、静脈側血液ライン12v、ダイアライザ30、動脈側血液ライン12a、排出ライン54dの順に流れていき、最終的に透析液給排装置50において排出される。このとき、透析液は、ダイアライザ30の軸方向に流れており、主に、ダイアライザ30の内部に設けられた中空糸膜の内側を通る。
【0031】
第二プライミング処理では、導入バルブVIを開放かつ供給バルブVSを閉鎖して、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOを正駆動させる。これにより、プライミング液として機能する透析液は、
図3の矢印Bの方向に流れる。すなわち、透析液給排装置50から供給された透析液は、導入ライン52i、ダイアライザ30、導出ライン52oの順に流れていき、最終的に透析液給排装置50において排出される。このとき、透析液は、ダイアライザ30の側方から供給されており、主に、ダイアライザ30内の中空糸膜の外周囲を通る。つまり、第一プライミング処理および第二プライミング処理を行うことにより、中空糸膜の内外に透析液(プライミング液)を流すことができるため、ダイアライザ30内部の空気をより確実に排除できる。
【0032】
ところで、こうしたプライミング処理を行う場合には、既述した通り、静脈側血液ライン12vを供給ライン54sに、動脈側血液ライン12aを排出ライン54dに接続する必要がある。この接続を可能にするために、透析装置には、供給ライン54sに固着された供給ポート56sと、排出ライン54dに固着された排出ポート56dとが設けられている。シャントコネクタ18を、この給排ポート56に直接、接続することも考えられるが、この場合、誤接続が生じやすいという問題があった。
【0033】
すなわち、これまで説明した通り、二つのシャントコネクタ18は、汎用の穿刺針100に対応するべく、同一形状を有している。そのため、給排ポート56を、当該シャントコネクタ18と接続可能な構成とした場合、供給ポート56sおよび排出ポート56dも互いに同一形状となる。このように形状が同じ場合、本来とは逆の組み合わせでの接続、すなわち、静脈側シャントコネクタ18vと排出ポート56dとの接続、および、動脈側シャントコネクタ18aと供給ポート56sとの接続も可能となる。このように本来とは逆の組み合わせでの接続(誤接続)が生じると、プライミング液を適切に流すことができない。
【0034】
誤接続を防止するために、シャントコネクタ18を特殊形状として、対応する給排ポート56にしか接続できないようにすることも考えられる。しかし、この場合、汎用の穿刺針100に対応できなくなり、血液回路10の汎用性が低下する。また、別の対策として、シャントコネクタ18の周囲に、鍔状部材を設け、当該鍔状部材を対応する給排ポート56にしか接続できないような形状にすることも考えられる。かかる構成とすれば、シャントコネクタ18の汎用性を保ちつつ、誤接続を防止できる。しかし、シャントコネクタ18の近傍に、鍔状部材等の嵩張る部材を設けた場合、血液ライン12を取りまわす際に、当該鍔状部材が邪魔になり、作業性を低下させる。
【0035】
そこで、本実施形態では、シャントコネクタ18に、予め、アダプタ20を取り付けている。アダプタ20は、既述した通り、シャントコネクタ18に接続されるとともに、対応する給排ポート56に接続可能で、対応する給排ポート56に接続されることでシャントコネクタ18と対応する給排ポート56とを連通させる部材である。このアダプタ20のうち、給排ポート56と接続されるポート接続部Cpa,Cpvの形状は、互いに異なっている。具体的には、静脈側アダプタ20vのポート接続部Cpvの外径は、動脈側アダプタ20aのポート接続部Cpaの外径よりも小さくなっている。そして、このアダプタ20の形状に合わせるように、給排ポート56の形状も互いに異なっている。具体的には、供給ポート56sの挿入口の径は、排出ポート56dの挿入口の径よりも小さくなっている。そのため、排出ポート56dに静脈側アダプタ20vを挿し込もうとしても、静脈側アダプタ20vの外径が排出ポート56dよりも小さいため、静脈側アダプタ20vを排出ポート56dに嵌合(液密に連結)出来ない。また、供給ポート56sに動脈側アダプタ20aを挿し込もうとすると、動脈側アダプタ20aの外径が供給ポート56sよりも大きいため、挿し込めない。つまり、各アダプタ20は、対応する給排ポート56にしか挿し込めないようになっている。
【0036】
血液回路10は、かかるアダプタ20を、シャントコネクタ18に接続した状態で出荷される。そして、作業者は、この血液回路10を使用する際には、当該アダプタ20をシャントコネクタ18に取り付けた状態のまま、透析装置にセットする。通常、透析治療に先だってプライミング処理を行うため、血液回路10の血液ライン12は、当初、
図3に示すように、対応する給排ライン54に接続される。このとき、動脈側シャントコネクタ18aには、動脈側アダプタ20aが取り付けられており、排出ポート56dにしか接続できないようになっている。また、静脈側シャントコネクタ18vには、静脈側アダプタ20vが取り付けられており、供給ポート56sにしか接続できないようになっている。その結果、各血液ライン12の誤接続が確実に防止される。
【0037】
プライミング処理が完了すれば、作業者は、給排ポート56からアダプタ20を抜き取り、血液ライン12と給排ライン54との接続を解除する。その後、透析治療を行うために、シャントコネクタ18からアダプタ20を取り外し、替わりに、穿刺針100を取り付ける。このとき、シャントコネクタ18は、規定の規格に沿った形状であるため、汎用の穿刺針100を取り付けることができる。また、シャントコネクタ18の近傍には、誤接続防止のための部材等が設けられていないため、高い作業性を保つことができる。つまり、本実施形態によれば、血液回路10の汎用性と作業性を維持しつつ、血液ライン12の誤接続を確実に防止できる。
【0038】
図4、
図5は、アダプタセットの一例を示す図であり、
図4は、アダプタセットの正面図であり、
図5は、アダプタセットをポート接続部Cpa,Cpv側から見た図である。
図4、
図5に示す通り、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vは、いずれも、略直方体のブロック状部材で、その中央には、プライミング液が流れる流路40が形成されている。流路40の一端には、シャントコネクタ18の先端が挿し込まれるコネクタ接続部Ccが形成されている。このコネクタ接続部Ccは、規格に沿った形状であり、静脈側および動脈側で互いに同じとなっている。
【0039】
流路40の他端には、給排ポート56に挿しこまれるポート接続部Cpa,Cpvとなっている。このポート接続部Cpa,Cpvの内径は、静脈側および動脈側で互いに同じであるが、静脈側アダプタ20vのポート接続部Cpvの外径は、動脈側アダプタ20aのポート接続部Cpaの外径よりも小さくなっている。このようにポート接続部Cpa,Cpvの外径を互いに異ならせることで、対応する給排ポート56にしか接続できなくなり、血液ライン12の誤接続を防止できる。
【0040】
また、本実施形態の動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vは、互いに連結出来るようになっている。すなわち、動脈側アダプタ20aの一側面の四隅からは、爪部材42が突出形成されており、さらに、当該一側面の中央には、略矩形の凹部44が形成されている。また、静脈側アダプタ20vの一側面の中央には、当該凹部44に対応した形状の凸部46が形成されている。さらに、静脈側アダプタ20vの前面および背面には、動脈側アダプタ20aの爪部材42が係止可能な段差48が形成されている。かかる静脈側アダプタ20vを、凸部46が凹部44に嵌るように動脈側アダプタ20aに押し付け、爪部材42を段差48に係止させることで、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vが連結され、一体化される。このように二つのアダプタ20a,20vを一体化した場合、当該一体化した一体化部品を給排ポート56に挿し込むという1ステップだけで、二つの血液ライン12を、二つの給排ライン54に接続することができる。
【0041】
また、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vの側方には、両者を一体化したときに、作業者により把持される把持部49が設けられている。把持部49は、各アダプタ20の他側面から片持ち梁状に延びた板バネ状部位である。作業者は、この把持部49を指で把持して、一体化部品を、給排ポート56に挿し込む。
【0042】
なお、これまで説明した血液回路10、アダプタセットの構成は、一例であり、二つのシャントコネクタ18それぞれにアダプタ20が取り付けられており、二つのアダプタ20のうち少なくとも一方が、対応する給排ポート56にしか接続できないようになっているのであれば、その他の構成は、適宜、変更されもよい。例えば、動脈側および静脈側で、ポート接続部Cpa,Cpvの外径ではなく、外形状を異ならせてもよい。例えば、動脈側アダプタ20aのポート接続部Cpaを断面略四角形状にする一方で、静脈側アダプタ20vのポート接続部Cpvを断面略三角形状にしてもよい。また、アダプタおよび給排ポートの一方に他方に突出する羽部材を、他方に当該羽部材を受け入れる穴部を設けておき、この羽部材および穴部の形状を、静脈側(供給側)と、動脈側(排出側)とで互いに異ならせてもよい。
【0043】
また、これまでの説明では、動脈側と静脈側で、アダプタ20の形状を異ならせているが、対応する給排ポート56にしか接続できないようになっているのであれば、形状以外の要素を異ならせてもよい。例えば、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vに、互いに磁極の向きが逆になるような磁石を埋め込んでおいてもよい。例えば、動脈側アダプタ20aのポート接続部Cpaの端面に、N極が外部に露出するように磁石を配置し、静脈側アダプタ20vのポート接続部Cpvの端面に、S極が外部に露出するように磁石を配置する。そして、供給ポート56sの端面には、N極が外部に露出するように、排出ポート56dの端面には、S極が外部に露出するように、磁石を配しておく。かかる構成とすることで、アダプタ20を、対応しない給排ポート56に接続しようとした場合には、磁気反発力による抵抗が生じるため、容易に誤接続に気付くことができる。結果として、血液ライン12の誤接続をより確実に防止できる。また、
図4の例では、別部材として形成された動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vを、嵌合させて一体化しているが、動脈側アダプタ20aおよび静脈側アダプタ20vを、分離不可能な単一部品として構成してもよい。
【0044】
また、例示した血液回路10は、血液ライン12の途中にエアトラップチャンバ14のみが設けられているが、使用する用途等に応じて、血液回路10の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、血液ライン12の途中には、エアトラップチャンバ14の他に、さらに抗凝固剤等の薬剤を注入するためのアクセスポートが設けられてもよい。また、血液回路10は、さらに、血液ライン12の途中に合流し、血液に追加すべき補液が流れる補液ラインを有してもよい。さらに、血液回路10は、圧力を検出するための圧モニタライン等を有していてもよい。
【0045】
また、本実施形態の血液回路10は、血液浄化法に利用されるのであれば、血液透析以外の治療法に適用されてもよい。例えば、血液回路10は、血液浄化器として濾過器(ヘモフィルタ)を用いる血液濾過や、血液浄化器として血漿分離器を用いる単純血漿交換、血液浄化器として血液浄化カラムを用いる直接血液灌流等に適用されてもよい。これらの治療法では、血液に補液を追加供給する必要があるため、これらの治療法に用いる場合、動脈側血液ライン12a、静脈側血液ライン12vの一方には、補液ラインが接続される。また、これらの治療法では、透析液を供給する必要はないため、血液浄化器は、導入ライン52iには接続されない。そのため、この場合、プライミングの際には、導入ライン52iおよび導出ライン52oを利用した第二プライミング処理は、行わない。
【0046】
また、これまでは、給排ポート56が、透析装置に設けられた例のみを説明したが、給排ポート56は、透析装置の外部に設けられてもよい。例えば、プライミング液として、生理食塩液を用いる場合、供給ポート56sは、生理食塩液を充填した可撓性バッグに設けられてもよい。また、使用済みのプライミング液を、透析装置の外部に設けられたタンクやボトル等の容器に排出する場合、排出ポート56dは、当該容器に設けられてもよい。
【0047】
図6は、給排ポート56を、透析装置の外部に設けた一例を示す図である。この透析装置は、
図2に示した透析装置と同様に、血液ポンプPB、導入ポンプPI、導出ポンプPO、導入ライン52i、導出ライン52oを有している。一方、この透析装置は、
図2に示した透析装置と異なり、透析液給排装置50や供給ライン54s、排出ライン54dを有さず、替わりに、透析液タンク61および透析液再生カラム60を有している。透析液タンク61には、透析液が貯留される。また、透析液再生カラム60は、導出ポンプPOと透析液タンク61との間に設けられ、ダイアライザ30から回収された使用済みの透析液を、再利用可能な状態に浄化する。透析液再生カラム60で再生された透析液は、透析液タンク61に送られ、再び、血液浄化に利用される。
【0048】
かかる透析装置において、透析治療に先だって、血液回路10およびダイアライザ30に液体(プライミング液)を流して、空気を排除するプライミング処理を行う。プライミング処理を行う場合には、血液回路10を、プライミング液を充填した供給容器62および使用済みのプライミング液を貯留する排出容器64に接続する。
【0049】
供給容器62は、プライミング液を充填した容器であれば、特に限定されないが、例えば、生理食塩液を充填した可撓性バッグ、いわゆる、生理食塩液バッグを用いることができる。生理食塩液バッグは、一般に、市販されており、その口には、ゴム栓を有したキャップが取り付けられている。ゴム栓は、針の穿刺を受け付ける穿刺ポートを1以上有しており、この穿刺ポートが、プライミング液を供給する供給ポート56sとして機能する。
【0050】
排出容器64は、使用済みのプライミング液を貯留できるのであれば特に限定されず、例えば、タンク、可撓性バッグ、ボトル等を用いることができる。ただし、いずれの形態の容器を用いる場合でも、排出容器64は、供給ポート56sと異なる形態の排出ポート56dを有している。
図6の例では、排出容器64の排出ポート56dは、ルアーテーパー形状となっている。
【0051】
血液回路10は、この穿刺式の供給ポート56sに対応する静脈側アダプタ20v(第二アダプタ)と、ルアーテーパー形状の排出ポート56dに対応する動脈側アダプタ20a(第一アダプタ)と、で構成されるアダプタセットを有している。動脈側アダプタ20aは、動脈側シャントコネクタ18aに、静脈側アダプタ20vは、静脈側シャントコネクタ18vに、それぞれ着脱可能に接続されている。なお、
図6では、見易さのために、シャントコネクタ18とアダプタ20とを分離して図示しているが、
図1に示した血液回路10と同様に、実際には、血液回路10は、各シャントコネクタ18に、対応するアダプタ20を装着した状態で出荷される。
【0052】
二つのアダプタ20a,20vは、いずれも、その軸方向に貫通する流路が形成された略管体である。二つのアダプタ20a,20vは、いずれも、一端にコネクタ接続部Ccが、他端にポート接続部Cpが、設けられている。コネクタ接続部Ccは、動脈側および静脈側で同じ形状をしており、規定の規格に沿った形状のシャントコネクタ18v,18aに接続可能となっている。
【0053】
一方、ポート接続部Cpは、動脈側および静脈側で互いに異なる形状をしている。具体的には、静脈側のポート接続部Cpvは、穿刺式の供給ポート56sに接続可能な針形状となっている。一方、動脈側のポート接続部Cpaは、ルアーテーパー形状の排出ポート56dに接続可能なルアーテーパー形状となっている。したがって、静脈側のポート接続部Cpv(針形状)は、ルアーテーパー形状の排出ポート56dに接続できず、動脈側のポート接続部Cpa(ルアーテーパー形状)は、穿刺式の供給ポート56sに接続できない。その結果、プライミング処理における、ポート接続部Cpの誤接続を効果的に防止できる。
【0054】
次に、この透析装置でのプライミング処理について説明する。プライミング処理の際には、
図6に示す通り、静脈側血液ライン12vを、供給容器62に、動脈側血液ライン12aを排出容器64にそれぞれ接続する。具体的には、静脈側血液ライン12vの先端に取り付けられた静脈側アダプタ20vを供給容器62に設けられた供給ポート56sに接続する。また、動脈側血液ライン12aの先端に取り付けられた動脈側アダプタ20aを排出容器64に設けられた排出ポート56dに接続する。このとき、上述した通り、ポート接続部Cpの形状が、動脈側および静脈側で互いに異なるため、ポート接続部Cpの誤接続を効果的に防止できる。
【0055】
適切に接続できれば、ダイアライザ30の軸方向にプライミング液を流す第一プライミング処理と、ダイアライザ30の周方向にプライミング液を流す第二プライミング処理とを順番に実行する。第一プライミング処理では、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOを停止した状態で血液ポンプPBを逆駆動する。これにより、プライミング液として機能する生理食塩液は、
図6の矢印Aの方向に流れる。すなわち、供給容器62から供給された生理食塩液(プライミング液)は、供給容器62、静脈側血液ライン12v、ダイアライザ30、動脈側血液ライン12a、排出容器64の順に流れていく。このとき、透析液は、ダイアライザ30の軸方向に流れており、主に、ダイアライザ30の内部に設けられた中空糸膜の内側を通る。
【0056】
第二プライミング処理では、血液ポンプPBを停止した状態で、導入ポンプPIを逆駆動および導出ポンプPOを正駆動させる。これにより、プライミング液として機能する生理食塩液は、
図6の矢印Bの方向に流れる。すなわち、供給容器62から供給された生理食塩液は、静脈側血液ライン12v、ダイアライザ30、導入ライン52iおよび導出ライン52o(透析液再生カラム)、透析液タンク61の順に流れていき、最終的に透析液タンク61に貯留される。この透析液タンク61に貯留された生理食塩液は、プライミング処理の後、廃棄すればよい。このとき、透析液は、ダイアライザ30の側方から供給されており、主に、ダイアライザ30内の中空糸膜の外周囲を通る。つまり、第一プライミング処理および第二プライミング処理を行うことにより、中空糸膜の内外に透析液(プライミング液)を流すことができるため、ダイアライザ30内部の空気をより確実に排除できる。
【0057】
いずれにしても、血液回路10に、シャントコネクタ18および給排ポート56を連通させるとともに、静脈側および動脈側で構成が異なるアダプタセットを設けることで、血液回路10の汎用性と作業性を損なうことなく、プライミング処理時の誤接続を効果的に防止できる。
【0058】
補足として、参考例について
図7を参照して説明する。
図7に示す血液回路10は、
図6に示す血液回路10と類似している。ただし
図7に示す血液回路10は、プライミング処理の際、供給容器と排出容器を一体化して一つの給排容器66を用いる。給排容器66は、プライミング液が充填された容器であれば、特に限定されないが、
図7の例では、ゴム栓が取り付けられた生理食塩液バッグを給排容器66として用いている。この給排容器66には、穿刺式のポートを複数有したゴム栓が取り付けられている。このポートの一つが、供給ポート56sとして機能し、他の一つのが、排出ポート56dとして機能する。ただし、ゴム栓に設けられた複数の穿刺式ポートは、全て、同一構成であるため、複数の穿刺式ポートのうちいずれを供給ポート56sまたは排出ポート56dとして使用してもよい。
【0059】
血液回路10は、穿刺式の供給ポート56sに対応する動脈側アダプタ20a(第一アダプタ)と、同じく穿刺式の排出ポート56dに対応する静脈側アダプタ20v(第二アダプタ)と、で構成されるアダプタセットを有している。この二つのアダプタ20a,20vは、それぞれ、コネクタ接続部Ccとポート接続部Cpとを有している。また、コネクタ接続部Ccは、動脈側および静脈側で同一形状となっている。一方、ポート接続部Cpは、動脈側および静脈側ともに、同径の針形状であるが、動脈側ポート接続部Cpaのほうが、静脈側ポート接続部Cpvよりも長くなっている。
【0060】
透析治療に先だって、プライミング処理を行う場合には、動脈側ポート接続部Cpaおよび静脈側ポート接続部Cpvを、ゴム栓に設けられた穿刺式ポートに接続する。繰り返すが、複数の穿刺式ポートは、全て同一形状であるため、動脈側ポート接続部Cpaおよび静脈側ポート接続部Cpvは、いずれの、穿刺式ポートに接続されてもよい。結果的に、動脈側ポート接続部Cpaが穿刺されたポートが、排出ポート56dとして機能し、静脈側ポート接続部Cpvが穿刺されたポートが、供給ポート56sとして機能する。
【0061】
図7では、給排ポート56s,56dに穿刺されたポート接続部Cpを破線で示している。この
図7に示す通り、ポート接続部Cpを、根元までしっかりと給排ポート56s,56dに挿し込むと、動脈側・静脈側のポート接続部Cpa,Cpvの長さの違いに起因して、ポート接続部Cpa,Cpvの先端高さに違いが生じる。具体的には、給排容器66の下端に設けられたゴム栓の下側から穿刺した場合、動脈側ポート接続部Cpaの先端ほうが、静脈側ポート接続部Cpvの先端より、高い位置にくる。換言すれば、動脈側と静脈側とでポート接続部Cpvの形状(長さ)を変えることで、プライミング液の吸引口(静脈側ポート接続部Cpvの先端)、排出口(動脈側ポート接続部Cpaの先端)の位置を確実に変えることができる。
【0062】
このようにプライミング液の吸引口と排出口の位置を変える理由について説明する。プライミング処理をする場合には、ダイアライザ30の軸方向にプライミング液を流す第一プライミング処理と、ダイアライザ30の周方向にプライミング液を流す第二プライミング処理とを順番に実行する。第一プライミング処理では、導入ポンプPIおよび導出ポンプPOを停止した状態で血液ポンプPBを逆駆動する。これにより、プライミング液として機能する生理食塩液は、
図6の矢印Aの方向に流れる。すなわち、給排容器66から供給された生理食塩液(プライミング液)は、給排容器66、静脈側血液ライン12v、ダイアライザ30、動脈側血液ライン12a、給排容器66の順に流れていく。このとき、透析液は、ダイアライザ30の軸方向に流れており、主に、ダイアライザ30の内部に設けられた中空糸膜の内側を通る。第二プライミング処理の手順は、上述した実施形態と同じであるため、説明を省略する。このようにプライミング液の供給部と排出部とを一体化した給排容器66を用いることで、プライミングに使用する容器の数を低減でき、構成をより簡易化できる。
【0063】
ここで、動脈側ポート接続部Cpaの先端から排出されるプライミング液には、血液回路10やダイアライザ30を通る過程で回収した空気(気泡70)が混入している。かかる空気が、静脈側ポート接続部Cpvを介して、再び、血液回路10に流れると、血液回路から十分に空気を排出できず、プライミング処理が不十分になったり、プライミング処理に時間がかかったりする。
【0064】
図7に示す血液回路10では、既述した通り、動脈側ポート接続部Cpaを、静脈側ポート接続部Cpvよりも長くしており、プライミング液の排出口を吸引口よりも高くしている。この場合、動脈側ポート接続部Cpaから吐出された気泡70は、上方に浮上する過程で、静脈側ポート接続部Cpvの近傍を通らない。結果として、静脈側ポート接続部Cpvによる気泡70の吸い込みが効果的に防止され、プライミング処理をより適切に行うことができる。