【文献】
SHITANDA ISAO,Screen-printed Enzyme Electrodes Using Microcapsules Containing Glucose Oxidase and Mediator,Electrochemistry,2008年,Vol.76 No.8,p.569-572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
0.本開示に係る技術に至った背景
1.第1の実施形態
1.1.酵素センサのセンサ部の構造例
1.2.酵素センサの制御の構成例
1.3.酵素センサの動作例
1.4.酵素センサの製造方法
2.第2の実施形態
3.具体例
3.1.第1の具体例
3.2.第2の具体例
3.3.第3の具体例
4.まとめ
【0016】
<0.本開示に係る技術に至った背景>
まず、
図2を参照して、本発明者らが本開示に係る技術を想到するに至った背景について説明する。
【0017】
近年、医学的研究の進展により、生体では、精神的または肉体的状態によって、体液中に含まれる酵素の量が変化することが明らかになっている。例えば、唾液中に含まれる酵素であるアミラーゼは、精神的ストレスによって増加することが明らかになっている。
【0018】
精神的ストレスは、現代社会において、健康に対して重大な影響を及ぼす因子として知られている。例えば、多大な精神的ストレスによって引き起こされるうつ病は、不眠、過眠、食欲不振、過食、頭痛、および倦怠感などの身体症状を伴い、労働意欲の低下、およびさらなる病気への発展等を招いてしまう。また、一度、うつ病を発症した場合、治療によって症状を軽減することは可能であるものの、完治することは難しい。したがって、うつ病を未然に防ぎ、健康を維持および管理するために、原因となる精神的ストレスを検出し、曝される精神的ストレスの量を制御することが、社会的に求められている。
【0019】
ここで、酵素は、酸素等によって失活しやすいため、酵素の量を測定する場合は、酵素が分泌されるその場で、かつリアルタイムで検出を行うことが望ましい。例えば、アミラーゼの量を検出する場合には、口腔内で、唾液に含まれるアミラーゼの量をリアルタイムで検出することが望ましい。
【0020】
具体的には、
図2に示す光学的手法を用いたアミラーゼセンサが検討されている。
図2は、光学的手法を用いたアミラーゼセンサ10の概要を示す模式図である。
【0021】
図2に示すように、アミラーゼセンサ10は、フォトダイオード15、カラーフィルタ13、およびクロモゲン層11を順に積層した構造を備える。
【0022】
クロモゲン層11は、アミラーゼ21との酵素反応によって色素を生成する物質を含む層である。例えば、クロモゲン層11は、Gal−G2−CNP(2−chloro−4−nitrophenyl−4−galactopyranosylmaltoside)含む層である。クロモゲン層11に含まれるGal−G2−CNPは、アミラーゼ21によって加水分解されることで、黄色を呈するCNP(2−chloro−4−nitrophenol)を遊離する。したがって、アミラーゼセンサ10は、フォトダイオード15を用いた光学的手法によってCNPの単位時間当たりの変化量を測定することで、アミラーゼ21の量を推定することができる。
【0023】
カラーフィルタ13は、特定の色に対応する波長帯域の光のみを透過させる膜である。例えば、カラーフィルタ13は、黄色の光を透過させ、他の色の光を吸収する膜である。これにより、カラーフィルタ13は、背景光23から、遊離したCNPが呈する黄色に対応した波長帯域の光を分離する。
【0024】
フォトダイオード15は、カラーフィルタ13を透過した光を電子25に変換する光電変換素子である。例えば、フォトダイオード15は、不純物をドーピングされたシリコン(Si)で構成されるフォトダイオードである。なお、フォトダイオード15には、フォトダイオード15によって生成されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD(Analog−to−Didital)コンバータ、および変換されたデジタル信号を増幅するアンプなどが備えられる。
【0025】
このような構成により、アミラーゼセンサ10では、まず、クロモゲン層11に含まれるGal−G2−CNPがアミラーゼ21によって加水分解され、CNPが遊離することで、白色であったクロモゲン層11が黄色に変化する。次に、フォトダイオード15によって、背景光23の下でクロモゲン層11が呈する黄色の強度に応じて光電変換が行われ、光子が電子25に変換される。したがって、アミラーゼセンサ10は、クロモゲン層11が呈する黄色の強度の単位時間当たりの変化量を測定することができるため、アミラーゼ21の量を測定することができる。
【0026】
しかしながら、
図2で示したアミラーゼセンサ10では、アミラーゼ21と、Gal−G2−CNPとの反応は不可逆的な反応であるため、測定を続けることで、クロモゲン層11にはCNPが蓄積してしまう。したがって、
図2で示したアミラーゼセンサ10では、アミラーゼ21の量の減少を正確に測定することは困難であった。
【0027】
また、CNPは自発光しないため、暗い口腔内でCNPの黄色光をフォトダイオード15によって検出するには、発光素子等が発する背景光23が必要であった。そのため、発光素子を設けることで、アミラーゼセンサ10は、装置として大きくなってしまうため、口腔内で違和感なく長時間装着することが困難であった。
【0028】
したがって、酵素が分泌されるその場で、かつリアルタイムで、酵素の量を測定することが可能な小型かつ簡易な構造の酵素センサが求められていた。また、酵素の量を精密に測定するために、酵素センサにて酵素の量を検出信号に変換する機構は、可逆的とすることが望まれていた。
【0029】
本発明者らは、上記の要請等を鋭意検討することで、本開示に係る技術を想到するに至った。本開示では、簡易な構造であり、かつ酵素の量をより精密に測定することが可能な酵素センサ、および該酵素センサによって測定された情報に基づいて駆動する電子機器を提案する。
【0030】
<1.第1の実施形態>
(1.1.酵素センサのセンサ部の構造)
まず、
図1を参照して、本開示の第1の実施形態に係る酵素センサが備えるセンサ部の構造例について説明する。
図1は、本開示の第1の実施形態に係る酵素センサのセンサ部100の構造例を示す斜視図である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態に係る酵素センサのセンサ部100は、一対の電極110、120と、一対の電極110、120で挟持された電子伝達層130と、電子伝達層130の凹構造の内部に保持された電子発生カプセル140と、を備える。
【0032】
一対の電極110、120は、検出対象の酵素との反応によって生成された電子を検出信号として取り出す出力部として機能する。具体的には、一対の電極110、120は、電極間に電圧を印加することによって、電子伝達層130を介して、電子発生カプセル140にて生成された電子を取り出すことができる。
【0033】
例えば、一対の電極110、120は、導電性を有する材料を用いて、電子伝達層130を挟持する一対の平行な平板として設けられてもよい。具体的には、一対の電極110、120は、銅(Cu)、銀(Ag)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、またはチタン(Ti)などの金属の単体または合金にて形成されてもよく、グラファイト、または無定形炭素などの炭素材料にて形成されてもよい。ただし、酵素センサのセンサ部100は、生体の体液と接触するように装着されるため、一対の電極110、120は、錆等の腐食が発生しにくい金属、または炭素材料にて形成されてもよい。
【0034】
なお、一対の電極110、120は、一方がアノードとして機能し、他方がカソードとして機能するが、一対の電極110、120の極性は、検出信号の取り出しの方向によって、適宜設定することが可能である。
【0035】
電子伝達層130は、電子発生カプセル140と接触し、かつ一対の電極110、120にて挟持されており、電子発生カプセル140にて生成された電子を電極110、120のいずれか(すなわち、アノード)に伝達する。具体的には、電子伝達層130は、電子を受容可能な電解質を含み、該電解質によって電子を電極110、120のアノード側に伝達する。例えば、電子伝達層130は、電解質を含む溶液をゲル化することによって形成されてもよい。
【0036】
電子伝達層130に含まれる電解質は、可逆的に電子の受容および放出を行うことが可能な物質であれば特に限定されず、公知の物質を用いることができるが、例えば、フェリシアン化物イオンを用いてもよい。フェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3−)は、酸化還元反応によって、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
4−)に可逆的に変化することが可能な電解質である。すなわち、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3−)は、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
4−)に変化することで電子を受容し、電極110、120のいずれかでフェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3−)に戻ることで電子を放出することができる。なお、電子伝達層130に含まれる電解質としては、フェリシアン化物イオン以外では、ベンゾキノン等を用いることができる。
【0037】
また、電子伝達層130では、一対の電極110、120に挟持されていない面に少なくとも1つ以上の凹構造が設けられ、該凹構造中に電子発生カプセル140が保持されてもよい。電子伝達層130に凹構造を設けることにより、電子伝達層130は、電子発生カプセル140を確実に保持することができる。また、電子伝達層130は、電子発生カプセル140との接触面積を増加させることができる。
【0038】
なお、凹構造は、電子伝達層130に複数設けられてもよく、凹構造中には、複数の電子発生カプセル140が保持されてもよい。例えば、凹構造の数を増やした場合、電子伝達層130と、電子発生カプセル140との接触面積を増加させることができる。また、凹構造中の電子発生カプセル140の数を増やした場合、アミラーゼと、電子発生カプセル140との反応サイトを増加させることができる。電子伝達層130に設けられる凹構造の数、および該凹構造の内部に設けられる電子発生カプセル140の数は、適宜、設定することが可能である。
【0039】
電子発生カプセル140は、検出対象の酵素との酵素反応によって電子を発生させる反応サイトを有し、検出対象の酵素の量に応じて、電子を発生させる。具体的には、電子発生カプセル140は、検出対象の酵素の基質を少なくとも含む外膜141で、検出対象以外の酵素を少なくとも1種以上含む内溶液143を内包した構造を有する。
【0040】
外膜141は、検出対象の酵素の基質を含み、検出対象の酵素と、酵素センサのセンサ部100との反応サイトとして機能する。したがって、外膜141によって形成される電子発生カプセル140の形状は、検出対象の酵素との反応サイトである表面の面積がより大きくなるように、略球形としてもよい。
【0041】
また、外膜141は、内溶液143がセンサ部100の外部に漏出しないように、内溶液143を電子発生カプセル140の内部に留める機能を果たす。そのため、外膜141には、膜としての強度を高めるために、検出対象の酵素の基質以外にも、脂質、タンパク質、または炭水化物等が膜構成成分として含まれていてもよい。
【0042】
内溶液143に含まれる酵素は、酸化酵素を少なくとも含む。また、酸化酵素の基質は、外膜141に含まれる基質の少なくとも1段階以上の酵素反応によって生成される生成物である。これにより、酸化酵素は、検出対象の酵素の反応によって生成された生成物を酸化することで、生成物から電子を取り出すことができる。また、内溶液143に含まれる酵素は、検出対象の酵素と、外膜141に含まれる基質との反応の生成物をさらに基質とする酵素を含んでもよい。このとき、内溶液143に含まれる酸化酵素は、検出対象の酵素、および内溶液143に含まれる酵素による複数段階の反応の最終的な生成物を基質とすることになる。
【0043】
また、内溶液143には、酵素を溶解する溶媒(例えば、水など)、および酵素を安定させる機能性高分子等がさらに含まれていてもよい。例えば、内溶液143には、生体適合性が高いPMEH(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、2−エチルヘキシルメタクリレートとの共重合体)の水分散溶液がさらに含まれていてもよい。
【0044】
具体的には、電子発生カプセル140と、検出対象の酵素との反応は、次のように進行する。まず、検出対象の酵素と、外膜141に含まれる基質とが反応し、基質の酵素反応生成物が生成される。続いて、生成された酵素反応生成物は、浸透圧の差によって内部からにじみ出た内溶液143に含まれる酸化酵素によって酸化され、電子を放出する。放出された電子は、電子伝達層130に含まれる電解質によって受容され、前述したように電極110、120のいずれかから取り出される。
【0045】
例えば、検出対象の酵素がアミラーゼである場合、電子発生カプセル140の外膜141は、アミラーゼの基質であるでんぷんを少なくとも含んで構成されてもよく、内溶液143は、マルターゼ、およびグルコースオキシダーゼを少なくとも含んで構成されてもよい。
【0046】
このような場合、まず、検出対象であるアミラーゼと、外膜141に含まれるでんぷんとが反応し、マルトースが生成される。次に、浸透圧の差によって外膜141ににじみ出した内溶液143に含まれるマルターゼと、マルトースとが反応することで、グルコースが生成される。続いて、内溶液143に含まれるグルコースオキシダーゼと、グルコースとが反応することで、グルコースから電子が取り出される。また、グルコースから取り出された電子は、電子伝達層130に含まれるフェリシアン化物イオン等によって受容される。これにより、フェリシアン化物イオンは、フェロシアン化物イオンに変化する。
【0047】
上記の反応を化学式で記述すると、以下の化学式1〜2のようになる。
【0049】
以上のような構造を有するセンサ部100を備える酵素センサによれば、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質が検出対象の酵素の反応によって消費されるまで、検出対象の酵素を検出することが可能である。
【0050】
また、センサ部100は、少なくとも電子伝達層130の凹構造の開口を覆うイオン交換膜をさらに備えていてもよい。イオン交換膜は、電子発生カプセル140の内溶液143、または電子伝達層130に含まれる電解質等がセンサ部100から体液中に漏出することを防止する。
【0051】
センサ部100では、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質の消費によって、外膜141に内包される内溶液143が漏出したり、体液に含まれる水分によって、電子伝達層130に含まれる電解質が溶出したりする可能性がある。そこで、体液と接触するセンサ部100は、これらの内溶液143および電解質を体液中に漏出させないように、電子伝達層130を覆うイオン交換膜をさらに備えていてもよい。イオン交換膜を備える場合でも、センサ部100は、イオン交換膜を介して、検出対象の酵素と、電子発生カプセル140との反応を行うことが可能である。
【0052】
なお、電子伝達層130に含まれる電解質が陰イオン(例えば、フェリシアン化物イオン)である場合、電子伝達層130に含まれる電解質の漏出を防止するためには、イオン交換膜は、陽イオン交換膜としてもよい。また、電子伝達層130に含まれる電解質が陽イオンである場合、イオン交換膜は、陰イオン交換膜であってもよい。
【0053】
(1.2.酵素センサの制御の構成例)
次に、
図3〜
図5を参照して、本実施形態に係る酵素センサの制御の構成例について説明する。
図3は、本実施形態に係る酵素センサ1の制御の構成例を示すブロック図である。
【0054】
図3に示すように、酵素センサ1は、
図1で示したセンサ部100と、センサ部100を制御するロジック部150と、を備える。また、ロジック部150は、電圧制御部151と、検出部153と、アラート部155と、出力部157と、を備える。
【0055】
センサ部100については、
図1を参照して上述したとおりであるため、以下では、ロジック部150の各構成について説明する。なお、ロジック部150は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)などのハードウェアと、各構成の動作を制御するソフトウェアとの協働によって実現される。
【0056】
電圧制御部151は、検出対象の酵素の量を測定するために、センサ部100の一対の電極110、120の間に印加される電圧を制御する。具体的には、電圧制御部151は、一対の電極110、120の間に矩形のパルス電圧を印加するように電圧を制御する。
【0057】
検出部153は、センサ部100の一対の電極110、120の間に流れる電流を測定することで、検出対象の酵素の量を検出する。具体的には、電圧制御部151によって電極110、120の間に矩形のパルス電圧が印加された場合、電子伝達層130の電子を受容した電解質(例えば、フェロシアン化物イオン)は、アノード側の電極に電子を放出し、電子を受容していない電解質(例えば、フェリシアン化物イオン)に戻る。このとき、放出された電子によって一対の電極110、120の間に電流が流れる。
【0058】
そのため、検出部153は、一対の電極110、120の間に流れる電流の大きさを検出することで、電子を受容した電解質(例えば、フェロシアン化物イオン)の量を検出することができる。さらに、電子を受容した電解質(例えば、フェロシアン化物イオン)の量は、検出対象の酵素と電子発生カプセル140との反応量に依存するため、検出部153は、一対の電極110、120の間に流れる電流の大きさから、検出対象の酵素の量を算出することができる。
【0059】
ここで、
図4を参照して、電圧制御部151による電圧の印加と、検出部153による電流の検出とについて、より具体的に説明する。
図4は、センサ部100の一対の電極110、120に印加される電圧と、電流との関係を示すグラフ図である。なお、以下では、簡略化のため、電子伝達層130に含まれる電解質は、フェリシアン化物イオンであるとして説明する。
【0060】
図4に示すように、まず、検出対象の酵素と、電子発生カプセル140との反応のために、時間t
r(例えば、30秒程度)をあけた後、電圧制御部151は、一対の電極110、120の間に、時間幅t
p(例えば、1μ秒程度)、および電圧V
p(例えば、100mV程度)の正の矩形パルス電圧を印加する。これにより、電子伝達層130に含まれるフェロシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
4−)は、素早くアノード側の電極に引き寄せられて、電子を放出し、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3−)に変化する。したがって、検出部153は、アノード側の電極に放出された電子によって、I
sの大きさの測定電流を得ることができる。
【0061】
さらに、電圧制御部151は、測定電流を得たパルス電圧と対称の負のパルス電圧を一対の電極110、120の間に印加する。すなわち、負のパルス電圧は、時間幅t
p(例えば、1秒程度)、および電圧−V
p(例えば、100mV程度)の負の矩形パルス電圧である。電子伝達層130では、正の矩形パルス電圧の印加によって、フェリシアン化物イオンがアノード側に引き寄せられるため、対称の負の矩形パルス電圧を印加することで、電子伝達層130におけるフェリシアン化物イオンの分布を元に戻すことができる。
【0062】
このように、酵素センサ1は、電圧制御部151にて、周期t
d(t
d=t
r+2t
p)の正負の矩形のパルス電圧をセンサ部100の一対の電極110、120に印加することで、検出部153にて検出対象の酵素の量に応じた測定電流を得ることができる。
【0063】
なお、電圧制御部151によって印加されるパルス電圧は、上述したような短時間のパルス電圧で問題ない。具体的には、電圧Vの印加中のフェロシアン化物イオン(電荷Q、質量M)の運動方程式は、以下の数式1および2のとおりであるから、これらを解くことでフェロシアン化物イオンの加速度aが求められる。この結果から、フェロシアン化物イオンがアノード側の電極までの距離Lを移動する時間tを数式3から算出すると、1マイクロ秒となる。よって、電圧制御部151によって印加されるパルス電圧は、上述したような短時間のパルス電圧で問題ない。なお、μは、電子伝達層130を移動中のフェロシアン化物イオンの実効的な摩擦係数である。
【0065】
上記の数式1〜3において、各変数は、以下のように仮定した。
V=0.4(V)、Q=4e(C)、M=212M
p、L=10(μm)、μ=0.01
【0066】
アラート部155は、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質の消費量を監視し、酵素センサ1の交換のタイミングを判断する。電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質は、検出対象の酵素との反応によって消費されるため、酵素センサ1による測定の進行に伴って減少する。
【0067】
そのため、酵素センサ1による測定を続行するためには、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質がすべて消費される前に、酵素センサ1を交換することが求められる。具体的には、アラート部155は、検出部153が検出した測定電流の積算値に基づいて、酵素センサ1の交換のタイミングを判断する。また、アラート部155は、出力部157を介して、表示、音声、または信号によって、酵素センサ1を交換するようにユーザに通知してもよい。
【0068】
ここで、
図5を参照して、アラート部155による酵素センサ1の交換のタイミングの判断について、より具体的に説明する。
図5は、検出部153によって検出された電流の測定値および積算値を模式的に示したグラフ図である。
【0069】
図5に示すように、検出部153は、時間t
dの周期で検出対象の酵素の量に応じた電流を検出している場合、アラート部155は、検出部153が測定した電流値を積算し、積算値が閾値I
shを超えた際に、酵素センサ1を交換するようにユーザに通知を行ってもよい。
【0070】
検出部153が検出する電流値は、電子伝達層130に含まれる電子を受容した電解質の量、すなわち、検出対象の酵素と電子発生カプセル140との反応量に比例している。したがって、検出部153が測定した電流の積算値は、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質の消費量と比例している。そのため、アラート部155は、検出部153が測定した電流の積算値を判断に用いることで、酵素センサ1の交換のタイミング(
図4では、時間軸にて矢印で示したタイミング)を適切に判断することが可能である。
【0071】
出力部157は、ユーザまたは外部機器に、検出部153によって検出された電流値に基づいた情報を出力する。例えば、出力部157は、検出部153によって検出された電流値に基づいて、酵素の活性度に関する情報を出力してもよい。具体的には、出力部157は、平時の酵素の量に対応した電流値を「基準電流値」として測定しておき、以下の数式4に基づいて計算を行うことで、検出された「測定電流値」から「酵素の活性度」を算出し、算出した「酵素の活性度」を出力してもよい。
【0073】
分泌される酵素の量は、生体ごとに固体差があるため、上述のように平時の酵素の量に対する割合の増減にて、酵素の活性度を示すことで、対象となる生体における酵素の分泌量の程度をより正確に示すことが可能である。
【0074】
ここで、検出対象の酵素がアミラーゼである場合、生体におけるアミラーゼの分泌量は、該生体に対する精神的ストレスの量に対応する。そのため、例えば、酵素センサ1を用いてアミラーゼの活性度を測定することで、酵素センサ1を装着した対象における精神的ストレスの度合いを見積もることが可能である。
【0075】
なお、出力部157は、検出対象の酵素の活性度ではなく、検出部153によって検出された電流値を出力してもよい。このような場合、検出対象の酵素の活性度の算出は、出力された電流値を取得した外部機器(例えば、スマートフォン、またはパーソナルコンピュータ等の情報処理装置)にて行われてもよい。
【0076】
また、出力部157は、ユーザまたは外部機器に、酵素の活性度に関する情報以外の他の情報を出力してもよい。具体的には、出力部157は、アラート部155によって発行された酵素センサ1を交換することをユーザに求める通知を出力してもよい。
【0077】
例えば、出力部157は、LCD(Liquid Crystal Display)装置などの表示装置にて情報を出力してもよく、スピーカなどの音声出力装置にて情報を出力してもよい。また、出力部157は、有線もしくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWi−Fi(登録商標)などを介して、外部の表示装置または音声出力装置に対して、情報を出力してもよい。
【0078】
以上の構成によれば、本実施形態に係る酵素センサ1は、非侵襲、かつリアルタイムで、酵素センサ1を装着した対象の体液に含まれる酵素の活性度、および精神的または肉体的状態を測定することが可能である。
【0079】
(1.3.酵素センサの動作例)
次に、
図6を参照して、本実施形態に係る酵素センサ1の動作例について説明する。
図6は、本実施形態に係る酵素センサ1の動作の一例を示すフローチャート図である。
【0080】
図6に示すように、酵素センサ1では、まず、測定開始後の経過時間がt
dに達したか否かが判断される(S101)。経過時間がt
dに達していない場合(S101/No)、経過時間のカウントを増加させて(S117)、再度、経過時間がt
dに達したか否かの判断を行う。一方、経過時間がt
dに達した場合(S101/Yes)、まず、経過時間がリセットされる(S103)。その後、電圧制御部151によってセンサ部100の一対の電極110、120の間に正のパルス電圧が印加される(S105)。
【0081】
次に、検出部153によってセンサ部100の電子伝達層130に含まれる電解質に受容された電子の量に基づいた電流値変化が検出される(S107)。その後、電圧制御部151によってセンサ部100の一対の電極110、120の間に負のパルス電圧が印加される(S109)。これにより、アノード側の電極に引き寄せられていた電解質が再び電子伝達層130に均一に分布するようになる。
【0082】
続いて、アラート部155によって電流の積算値が算出される(S111)。また、アラート部155によって電流の積算値が閾値に達したか否かが判断される(S113)。電流の積算値が閾値に達していない場合(S113/No)、酵素センサ1による測定が続行される。具体的には、経過時間のカウントを増加させた後(S117)、再度、経過時間がt
dに達したか否かの判断が行われ、検出対象の酵素の量の測定が行われる。一方、電流の積算値が閾値に達した場合(S113/Yes)、アラート部155によって酵素センサ1の交換を通知するアラートが発行される(S115)。アラート部155によって発行されたアラートは、例えば、出力部157を介して、酵素センサ1の装着者、またはユーザに通知される。
【0083】
以上の動作によれば、本実施形態に係る酵素センサ1は、酵素センサ1を装着した対象の体液に含まれる酵素の量を測定することが可能である。また、酵素センサ1は、酵素センサ1の適切な交換のタイミングをユーザに通知することが可能である。
【0084】
(1.4.酵素センサの製造方法)
次に、
図7A〜
図8Cを参照して、本実施形態に係る酵素センサ1の製造方法について説明する。
図7A〜
図7Fは、本実施形態に係る酵素センサ1の製造の各工程を示す斜視図である。
【0085】
図7Aに示すように、まず、ビアおよびトランジスタ等で構成されたロジック回路が形成された基板(図示せず)の上に、スパッタ等を用いて、電極120が形成される。電極120は、例えば、銀(Ag)、または炭素(C)にて形成することができる。また、電極120は、数百μA〜1mA程度の電流の出力を検出できるように、界面欠陥が生じにくい成膜プロセスで形成されてもよい。
【0086】
続いて、
図7Bに示すように、電極120の上に、電子伝達材料層131が形成される。電子伝達材料層131は、例えば、フェリシアン化カリウム溶液を電極120の上に塗布した後、該溶液をゲル化することで形成することができる。
【0087】
次に、
図7Cに示すように、電子伝達材料層131の上に、スパッタ等を用いて、電極110が形成される。電極110は、例えば、電極120と同様の材料で形成することができる。
【0088】
続いて、
図7Dに示すように、電極110、120で挟持されていない電子伝達材料層131の一面に、ナノインプリント法等を用いて、複数の凹構造が形成され、電子伝達層130が形成される。
【0089】
次に、
図7Eに示すように、電子伝達層130の凹構造の内部に、複数の電子発生カプセル140が配置される。電子発生カプセル140の形成方法については、
図8A〜
図8Cを参照して、後述する。
【0090】
さらに、
図7Fに示すように、電子伝達層130の凹構造の内部に、複数の電子発生カプセル140を半ばまで浸すように電子伝達層130を構成する溶液が流し込まれる。また、電子伝達層130の凹構造の内部に流し込まれた溶液は、ゲル化される。電子伝達層130を構成する溶液は、例えば、フェリシアン化カリウム溶液を用いることができる。
【0091】
ここで、
図8A〜
図8Cを参照して、酵素センサ1に用いられる電子発生カプセル140の製造方法について説明する。
図8A〜
図8Cは、酵素センサ1に用いられる電子発生カプセル140の製造の各工程を示す断面図である。
【0092】
図8Aに示すように、電子発生カプセル140を形成するために、まず、半球形状を有する鋳型146に外膜141の材料を塗布する。外膜141の材料としては、でんぷんを用いることができる。でんぷんは、加水後、加熱または冷却することによって、糊化状態と老化状態とを可逆的に変化させることができるため、でんぷんの状態を適宜調整し、粘度を最適化することによって、鋳型146にでんぷんを塗布することができる。
【0093】
次に、
図8Bに示すように、外膜141の材料を塗布した鋳型146の中に内溶液143を塗布し、乾燥させる。内溶液143は、例えば、グルコースオキシダーゼ、およびマルターゼをPMEHによって安定化させた水分散溶液であってもよい。PMEHにより、グルコースオキシダーゼ、およびマルターゼは、電子発生カプセル140の内部に安定して固定化されうる。
【0094】
続いて、
図8Cに示すように、内溶液143を塗布した後の鋳型146の上に、さらに外膜141の材料を塗布することで、外膜141の内部に内溶液143を封止する。さらに、
図8Cにて形成した半球形状の電子発生カプセル140を鋳型146から取り出し、互いに平面同士を貼り合せることで、略球形状の電子発生カプセル140を形成することができる。なお、電子発生カプセル140の形状を略球形状としない場合、
図8Cにて形成した半球形状のままでも、電子発生カプセル140として用いることが可能である。
【0095】
以上の工程によって、本実施形態に係る酵素センサ1を製造することができる。なお、上記の製造方法は、あくまでも一例であって、本実施形態に係る酵素センサ1の製造方法が上記に限定されるものではない。
【0096】
<2.第2の実施形態>
次に、
図9を参照して、本開示の第2の実施形態に係る電子機器1000について説明する。
図9は、本開示の第2の実施形態に係る電子機器1000の構成を説明するブロック図である。
【0097】
図9に示すように、電子機器1000は、本開示の第1の実施形態に係る酵素センサ1と、判断部160と、駆動部170と、を備える。すなわち、本開示の第2の実施形態に係る電子機器1000は、本開示の第1の実施形態に係る酵素センサ1から得られる検出対象の酵素の量に基づいて、酵素センサ1を装着した対象の状態を判断し、判断した対象の状態に対応した駆動を行う電子機器である。なお、酵素センサ1については、第1の実施形態で説明したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0098】
判断部160は、酵素センサ1の測定結果に基づいて、酵素センサ1を装着した対象の状態を判断する判断回路、またはプログラムである。判断部160は、例えば、酵素の活性度に基づいて、酵素センサ1を装着した対象の病気の有無を判断してもよく、酵素センサ1を装着した対象の精神的ストレスの度合いを判断してもよい。
【0099】
駆動部170は、判断部160の判断に基づいて、酵素センサ1を装着した対象の状態に応じた動作を行う駆動回路、またはプログラムである。具体的には、駆動部170は、酵素センサ1を装着した対象の状態を平時の状態に戻すように動作してもよく、酵素センサ1を装着した対象の状態を特定の状態に誘導するように動作してもよい。駆動部170による出力は、例えば、テキストもしくは映像の表示、発光、音声もしくは音楽等の再生、香り(匂い)の放出、またはロボット等の機械動作などであってもよい。
【0100】
このような電子機器1000は、医療、ヘルスケア、エンターテイメント、セキュリティ、ペットまたは動物、ロボティクス、店頭販売、および一般業務などの幅広い応用が可能である。
【0101】
例えば、電子機器1000によれば、ストレス度合いに基づいて、麻酔で動けない患者の苦痛度を表示することで、経時的な抗鬱剤の効果を客観的に表示することが可能である。また、電子機器1000によれば、対象のストレス度合いに基づいて、ストレス度合いを低減するパターンマッチングによる音楽の選曲もしくは配信、または香りの放出を行うことで、対象をストレス低減状態に誘導することが可能である。また、電子機器1000によれば、対象のストレス度合いに基づいて、ゲームの難易度を切り替えたり、映画、またはアミューズメントのシーンを切り替えたりすることが可能である。
【0102】
また、電子機器1000によれば、対象の状態に基づいて、乗り物または工場装置の安全レベルを自動的に設定することが可能である。また、電子機器1000によれば、ペット等の精神的状態に基づいた色の発光を行うことで、ペットの感情を飼い主に共有させることが可能である。また、電子機器1000によれば、対象の精神的状態に基づいて、該精神的状態を緩和するようにロボット等の動作を制御することが可能である。また、電子機器1000によれば、顧客の精神的状態を把握することで、顧客の精神的状態に対応したおすすめ商品を表示することが可能である。さらには、電子機器1000によれば、社員の精神的状態を発光デバイス等で表示することで、効率的な業務の遂行を促すことが可能である。
【0103】
なお、判断部160、および駆動部170は、例えば、CPU、RAM、およびROMなどのハードウェアと、各構成の動作を制御するソフトウェアとの協働によって実現されてもよい。また、判断部160、および駆動部170は、酵素センサ1とは別体のスマートフォン、またはパーソナルコンピュータ等の情報処理装置であってもよい。
【0104】
<3.具体例>
続いて、
図10〜
図18を参照して、本開示の各実施形態に対応する具体例について説明する。
【0105】
本開示の第1の実施形態に係る酵素センサ1は、電子発生カプセル140の外膜141に含まれる基質と、内溶液143に含まれる酵素とを変更することで、種々の酵素を検出することが可能である。以下では、アミラーゼを検出対象の酵素とする場合の酵素センサの例を第1の具体例として示し、リパーゼを検出対象の酵素とする場合の酵素センサの例を第2の具体例として示し、スクラーゼを検出対象の酵素とする場合の酵素センサの例を第3の具体例として示す。
【0106】
なお、第1〜第3の具体例において、第1の実施形態で説明した各構成と同名の構成の機能等については、実質的に同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0107】
(3.1.第1の具体例)
まず、
図10〜
図15を参照して、第1の具体例に係る酵素センサ2について説明する。
図10は、第1の具体例に係る酵素センサ2の構造を示す斜視図であり、
図11は、第1の具体例に係る酵素センサ2の変形例を示す斜視図である。
【0108】
図10に示すように、第1の具体例に係る酵素センサ2は、ロジック部250と、一対の電極210、220と、電子伝達層230と、電子発生カプセル240と、を備える。第1の具体例に係る酵素センサ2は、例えば、唾液中のアミラーゼの量を検出することによって、酵素センサ2を装着する対象の精神的ストレスの度合いを見積もるセンサである。
【0109】
ロジック部250は、一対の電極210、220のアノード側と電気的に接続するように設けられる。ロジック部250は、例えば、ビアおよびトランジスタ等が形成されたシリコン基板であってもよい。
【0110】
一対の電極210、220は、電子伝達層230を挟持する平行の平板であり、例えば、銀(Ag)等で形成されてもよい。一対の電極210、220の長手方向の長さは、例えば、500μm程度であってもよい。
【0111】
電子伝達層230は、電子を受容可能な電解質を含む溶液をゲル化した層であり、一対の電極210、220によって挟持される。また、電子伝達層230の一対の電極210、220によって挟持されない一面には、3つの凹構造が形成されてもよい。電子伝達層230は、例えば、ゲル化したフェリシアン化カリウム溶液にて形成されてもよい。
【0112】
電子発生カプセル240は、例えば、直径が100μmの略球形状であり、でんぷんからなる外膜241で、グルコースオキシダーゼ、マルターゼ、およびPMEHを含む内溶液243を内包する構造を有する。例えば、電子伝達層230の3つの凹構造の内部には、それぞれ2個ずつの電子発生カプセル240が保持されていてもよい。
【0113】
さらに、電子伝達層230の凹構造を含む反応領域は、陽イオン交換膜で覆われていてもよい。陽イオン交換膜によれば、アミラーゼを含む唾液等の水分によって電子伝達層230に含まれるフェリシアン化物イオンが溶出することを防止することができる。
【0114】
このような酵素センサ2では、一対の電極210、220の間に400mVの正負のパルス電圧を1秒程度印加することで、アミラーゼの量に対応した電流値をロジック部250にて読み取ることが可能である。なお、酵素センサ2では、アミラーゼによる酵素反応に掛かる時間を30秒程度とし、32秒周期でアミラーゼの量を検出してもよい。
【0115】
続いて、
図11を参照して、第1の具体例に係る酵素センサ2の変形例について説明する。第1の具体例に係る酵素センサ2の変形例は、電子伝達層231にアミラーゼとの反応領域が複数設けられており、機械的制御によってアミラーゼと反応する電子伝達層231の反応領域を切り替える例である。
【0116】
図11に示すように、変形例に係る酵素センサ2Aでは、一対の電極211、221、および電子伝達層231が一方向に延伸して設けられており、電子伝達層231に設けられた複数の凹構造の一部の開口は、遮蔽板280で覆われている。
【0117】
遮蔽板280は、電子伝達層231の凹構造に保持された電子発生カプセル240と、アミラーゼが含まれる唾液とを離隔する。また、遮蔽板280は、可動するように設けられており、電子発生カプセル240の外膜に含まれるでんぷんの消費量に応じて、遮蔽していた電子伝達層231の凹構造の開口を開放する。例えば、ロジック部251は、遮蔽板280を制御するMEMS(Micro Electro Mechanical System)素子を含み、電子発生カプセル240の外膜に含まれるでんぷんの消費量(すなわち、測定電流の積算値)に応じて、遮蔽板280の開閉を制御してもよい。
【0118】
これによれば、酵素センサ2Aは、電子発生カプセル240の外膜に含まれるでんぷんが消費された場合でも、酵素センサ2A自体を交換することなく、遮蔽板280を動かすことで、新たな反応領域を開放し、測定を続行することができる。
【0119】
なお、遮蔽板280は、平面上を一対の電極211、221に沿って動くように制御されてもよい。このような場合、アミラーゼが含まれる唾液と、接触可能な反応領域の大きさを常に同じにすることができる。
【0120】
遮蔽板280の材質は、特に限定されず、例えば、腐食等が少なく、耐久性がある材料であれば、いかなる材料を用いることも可能である。例えば、遮蔽板280は、金属、または樹脂で形成されていてもよい。
【0121】
次に、
図12〜
図14を参照して、上述した酵素センサ2の装着時の様態について説明する。
図12〜
図14は、酵素センサ2の装着時の様態を示す斜視図である。
【0122】
第1の具体例に係る酵素センサ2は、口腔内で、唾液に含まれるアミラーゼの量を検出するセンサであるため、口腔内に装着可能な様態にて実装される。
【0123】
例えば、
図12に示すように、酵素センサ2は、マウスピース2000Aに実装されてもよい。また、マウスピース2000Aには、他にも、加速度センサ、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ、RF(Radio Frequency)モジュール、発電モジュール、および蓄電モジュールなどの各種モジュールが実装されていてもよい。なお、マウスピース2000Aには、酵素センサ2と唾液とが接触可能なように、オリフィス(すなわち、開口)が形成されていてもよい。
【0124】
また、例えば、
図13に示すように、酵素センサ2は、入れ歯2000Bに実装されてもよい。なお、入れ歯2000Bには、同様に、加速度センサ、GNSSセンサ、RFモジュール、発電モジュール、および蓄電モジュールなどの各種モジュールが実装されていてもよい。各種モジュールを入れ歯2000Bに実装する場合、歯の各々に各種モジュールを実装することで、モジュールの交換を歯の交換にて容易に行うことが可能となる。なお、入れ歯2000Bには、酵素センサ2と唾液とが接触可能なように、同様にオリフィスが形成されていてもよい。
【0125】
さらに、例えば、
図14に示すように、酵素センサ2は、差し歯2000Cに実装されてもよい。なお、差し歯2000Cには、酵素センサ2と唾液とが接触可能なように、同様にオリフィスが形成されていてもよい。
【0126】
さらに、
図15を参照して、第1の具体例に係る酵素センサ2(すなわち、アミラーゼセンサ)の測定結果に基づいて動作する電子機器2100について説明する。
図15は、第1の具体例に係る電子機器2100の構成を説明するブロック図である。
【0127】
図15に示すように、第1の具体例に係る電子機器2100は、通信部293と、判断部260と、駆動部270と、を備える。また、電子機器2100は、酵素センサ2と通信部291とを備えるセンサ2000から受信したアミラーゼの量に関する情報に基づいて、判断および駆動を行う。
【0128】
センサ2000は、アミラーゼを含む唾液と接触するために、例えば、口腔内に装着される。したがって、センサ2000と、電子機器2100とは、無線通信を介して、情報の送受信を行うことが望ましい。通信部291、および通信部293は、例えば、Bluetooth(登録商標)、またはWi−Fi(登録商標)に対応したアンテナ、および通信回路であってもよい。
【0129】
例えば、電子機器2100は、VR(Virtual Reality)を実現するゲーム機等の電子機器であってもよい。具体的には、センサ2000は、ユーザの精神的ストレスに応じたアミラーゼの量を酵素センサ2によって検出し、検出したアミラーゼの量を電子機器2100に送信する。電子機器2100は、受信したアミラーゼの量からアミラーゼの活性度を算出し、アミラーゼの活性度に応じた応答を判断部260によって判断する。また、判断部260によって判断された応答は、駆動部270によって出力される。例えば、判断部260によって判断された応答は、駆動部270によってVR上に表示される人物の行動または動作として出力されてもよい。
【0130】
この動作の繰り返しによって、電子機器2100は、ユーザを無意識のうちに特定の精神的状態に誘導することが可能である。例えば、電子機器2100は、VR上でのユーザと人物とのやり取りによって、ユーザの精神的状態をリラックス状態に誘導してもよい。また、電子機器2100は、VR上でのユーザと人物との応答によってユーザの精神的状態を恐怖が増長される方向に誘導してもよい。
【0131】
なお、電子機器2100の駆動部270による出力は、上記のVR上の表示に限らず、ユーザが知覚可能な種々の出力を用いることが可能である。例えば、駆動部270による出力は、テキスト表示、音声再生、音楽演奏、映像表示、発光動作、化合物の放出、または機械的動作のいずれであってもよい。また、電子機器2100についても、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、ウェアラブル端末、またはテレビジョン装置などの種々の様態の電子機器であってもよい。
【0132】
(3.2.第2の具体例)
続いて、
図16〜
図17を参照して、第2の具体例に係る酵素センサについて説明する。
図16は、第2の具体例に係る酵素センサの構造の一例を示す斜視図であり、
図17は、第2の具体例に係る酵素センサの構造の他の例を示す斜視図である。
【0133】
図16に示すように、第2の具体例に係る酵素センサ3Aは、ロジック部350と、一対の電極310、320と、電子伝達層331と、電子発生カプセル340と、を備える。第2の具体例に係る酵素センサ3Aは、例えば、唾液中のリパーゼの量を検出することによって、酵素センサ3Aを装着する対象の膵臓の病気の有無を予測するセンサである。
【0134】
ロジック部350は、一対の電極310、320のアノード側と電気的に接続するように設けられる。ロジック部350は、例えば、ビアおよびトランジスタ等が形成されたシリコン基板であってもよい。
【0135】
一対の電極310、320は、電子伝達層330を挟持する平行の平板であり、例えば、炭素(C)等で形成されてもよい。一対の電極310、320の長手方向の長さは、例えば、1000μm程度であってもよい。
【0136】
電子伝達層331は、電子を受容可能な電解質を含む溶液をゲル化した層であり、一対の電極310、320によって挟持される。また、電子伝達層331の一対の電極310、320によって挟持されない一面には、1つの凹構造が形成されてもよい。電子伝達層331は、例えば、ゲル化したフェリシアン化カリウム溶液にて形成されてもよい。
【0137】
電子発生カプセル340は、例えば、直径が200μmの略球形状であり、中性脂肪(すなわち、トリグリセリド)からなる外膜341で、アシルCoAデヒドロゲナーゼ、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、脂肪酸チオキナーゼ、およびPMEHを含む内溶液343を内包する構造を有する。例えば、電子伝達層331の凹構造の内部には、複数の電子発生カプセル340が保持されていてもよい。
【0138】
さらに、電子伝達層331の凹構造を含む反応領域は、陽イオン交換膜で覆われていてもよい。陽イオン交換膜によれば、リパーゼを含む唾液等の水分によって電子伝達層331に含まれるフェリシアン化物イオンが溶出することを防止することができる。
【0139】
このような酵素センサ3Aでは、まず、検出対象であるリパーゼと、外膜341に含まれる中性脂肪とが反応し、脂肪酸が生成される。次に、浸透圧の差によって外膜341ににじみ出した内溶液343に含まれる脂肪酸チオキナーゼと、脂肪酸とが反応することで、アミルCoAが生成される。続いて、内溶液343に含まれるアシルCoAデヒドロゲナーゼおよびFADと、アミルCoAとが反応することで、アミルCoAから電子が取り出される。また、アミルCoAから取り出された電子は、電子伝達層331に含まれるフェリシアン化物イオン等によって受容される。これにより、フェリシアン化物イオンは、フェロシアン化物イオンに変化する。
【0140】
上記の反応を化学式で記述すると、以下の化学式3〜4のようになる。
【0142】
したがって、酵素センサ3Aでは、一対の電極310、320の間に400mVの正負のパルス電圧を1秒程度印加することで、リパーゼの量に対応した電流値をロジック部350にて読み取ることが可能である。なお、酵素センサ3Aでは、リパーゼによる酵素反応に掛かる時間を30秒程度とし、32秒周期でリパーゼの量を検出してもよい。
【0143】
また、第2の具体例に係る酵素センサは、上述した構造以外の構造を採ることも可能である。例えば、
図17に示すように、第2の具体例に係る酵素センサ3Bは、複数の凹構造が設けられた電子伝達層333を備えていてもよい。
図17に示す酵素センサ3Bでは、電子伝達層333には、3つの凹構造が設けられ、各凹構造には、2つずつ電子発生カプセル340が保持される。このような場合でも、酵素センサ3Bは、リパーゼの量を検出することが可能である。
【0144】
すなわち、電子伝達層に設けられる凹構造の数、および電子発生カプセルの数は、検出対象の酵素を適切に検出することが可能な任意の数を選択可能であり、特に限定されない。
【0145】
(3.3.第3の具体例)
続いて、
図18を参照して、第3の具体例に係る酵素センサ4について説明する。
図18は、第3の具体例に係る酵素センサ4の構造の一例を示す斜視図である。
【0146】
図18に示すように、第3の具体例に係る酵素センサ4は、ロジック部450と、一対の電極410、420と、電子伝達層430と、電子発生カプセル440と、を備える。第3の具体例に係る酵素センサ4は、例えば、腸液中のスクラーゼの量を検出することによって、酵素センサ4を装着する対象の小腸の状態、および小腸の病気の有無を予測するセンサである。
【0147】
ロジック部450は、一対の電極410、420のアノード側と電気的に接続するように設けられる。ロジック部450は、例えば、ビアおよびトランジスタ等が形成されたシリコン基板であってもよい。
【0148】
一対の電極410、420は、電子伝達層430を挟持する平行の平板であり、例えば、銀(Ag)等で形成されてもよい。一対の電極410、420の長手方向の長さは、例えば、1000μm程度であってもよい。
【0149】
電子伝達層430は、電子を受容可能な電解質を含む溶液をゲル化した層であり、一対の電極410、420によって挟持される。また、電子伝達層430の一対の電極410、420によって挟持されない一面には、3つの凹構造が形成されてもよい。電子伝達層430は、例えば、ゲル化したフェリシアン化カリウム溶液にて形成されてもよい。
【0150】
電子発生カプセル440は、例えば、直径が200μmの略球形状であり、ショ糖(すなわち、スクロース)からなる外膜441で、グルコースオキシダーゼ、およびPMEHを含む内溶液443を内包する構造を有する。例えば、電子伝達層430の3つの凹構造の内部には、それぞれ1個ずつの電子発生カプセル440が保持されていてもよい。
【0151】
このような酵素センサ4では、まず、検出対象であるスクラーゼと、外膜441に含まれるショ糖とが反応し、グルコースおよびフルクトースが生成される。次に、浸透圧の差によって外膜441ににじみ出した内溶液443に含まれるグルコースオキシダーゼと、グルコースとが反応することで、グルコースから電子が取り出される。また、グルコースから取り出された電子は、電子伝達層430に含まれるフェリシアン化物イオン等によって受容される。これにより、フェリシアン化物イオンは、フェロシアン化物イオンに変化する。
【0152】
上記の反応を化学式で記述すると、以下の化学式5〜6のようになる。
【0154】
したがって、酵素センサ4では、一対の電極410、420の間に400mVの正負のパルス電圧を1秒程度印加することで、スクラーゼの量に対応した電流値をロジック部450にて読み取ることが可能である。なお、酵素センサ4では、スクラーゼによる酵素反応に掛かる時間を30秒程度とし、32秒周期でスクラーゼの量を検出してもよい。
【0155】
<4.まとめ>
以上にて説明したように、本開示の第1の実施形態に係る酵素センサでは、検出対象の酵素の存在を電解質への電子の受容および放出という可逆的な機構によって電流に変換しているため、検出対象の酵素の量をより正確に測定することが可能である。
【0156】
また、本開示の第2の実施形態に係る電子機器は、酵素センサによって測定された酵素の量に基づいて、酵素センサが装着された対象の精神的または肉体的状態を判断することで、対象の精神的または肉体的状態に対応した駆動を出力することが可能である。
【0157】
なお、上記では、検出対象の酵素の具体例として、アミラーゼ、リパーゼ、およびスクラーゼを例示したが、本開示に係る技術は、かかる例示に限定されない。本開示の一実施形態に係る酵素センサは、電子発生カプセルの外膜に含まれる基質を変更することで、他の酵素の検出にも用いることが可能である。
【0158】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0159】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0160】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)
一対の電極と、
前記一対の電極で挟持された電子伝達層と、
検出対象の酵素の基質を少なくとも含む膜にて、前記検出対象の酵素以外の酵素を少なくとも1種以上内包し、前記電子伝達層と接する電子発生カプセルと、
を備える、酵素センサ。
(2)
前記電子発生カプセルは、前記基質の少なくとも1段階以上の酵素反応生成物を酸化する酵素を内包する、前記(1)に記載の酵素センサ。
(3)
前記電子発生カプセルの形状は、略球形である、前記(1)または(2)に記載の酵素センサ。
(4)
前記電子伝達層は、電子を受容可能な電解質を含む、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の酵素センサ。
(5)
前記電子伝達層は、前記電解質を含む溶液をゲル化させた層である、前記(4)に記載の酵素センサ。
(6)
前記電子伝達層には、凹構造が設けられ、
前記電子発生カプセルは、前記凹構造の内部に保持される、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の酵素センサ。
(7)
少なくとも前記凹構造の開口は、イオン交換膜にて覆われている、前記(6)に記載の酵素センサ。
(8)
前記凹構造は、前記電子伝達層の一面に複数設けられ、かつ前記凹構造の各々の開口は、可動式の遮蔽板によって閉鎖されており、
前記遮蔽板は、前記電子発生カプセルの状態に基づいて、前記凹構造の各々の開口を開放する、前記(6)または(7)に記載の酵素センサ。
(9)
前記検出対象の酵素の検出信号を取得する検出部をさらに備え、
前記検出部は、前記一対の電極の間にパルス電圧を印加することで、前記検出信号を取得する、前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の酵素センサ。
(10)
前記パルス電圧は、互いに対称な矩形波形の正負のパルス電圧である、前記(9)に記載の酵素センサ。
(11)
前記検出信号は、所定の時間ごとに取得され、
前記検出信号は、前記検出対象の酵素の量に応じた大きさの電流である、前記(9)または(10)に記載の酵素センサ。
(12)
前記検出対象の酵素は、アミラーゼであり、
前記電子発生カプセルの膜に含まれる基質は、でんぷんであり、
前記電子発生カプセルに内包される酵素は、マルターゼおよびグルコースオキシターゼを少なくとも含む、前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の酵素センサ。
(13)
一対の電極、前記一対の電極で挟持された電子伝達層、および検出対象の酵素の基質を少なくとも含む膜にて、前記検出対象の酵素以外の酵素を少なくとも1種以上内包し、前記電子伝達層と接する電子発生カプセルを備える酵素センサと、
前記酵素センサにて検出した酵素の量から、前記酵素センサを装着した装着対象の状態を判断する判断部と、
判断された前記装着対象の状態に基づいて駆動する駆動部と、
を備える電子機器。
(14)
前記駆動部による駆動は、テキスト表示、画像表示、音声再生、音楽再生、発光動作、化合物の放出、または機械的動作のいずれかを少なくとも含む、前記(13)に記載の電子機器。
(15)
前記駆動部は、駆動によって前記装着対象の状態を特定の状態に誘導する、前記(13)または(14)に記載の電子機器。