特許第6894940号(P6894940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6894940軽度および中等度アルツハイマー病の処置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894940
(24)【登録日】2021年6月8日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】軽度および中等度アルツハイマー病の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4164 20060101AFI20210621BHJP
   A61K 31/451 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 31/325 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   A61K31/4164ZMD
   A61K31/451
   A61K31/55
   A61K31/325
   A61K31/473
   A61K31/13
   A61K45/00
   A61P25/28
   A61P3/10
【請求項の数】22
【外国語出願】
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-96786(P2019-96786)
(22)【出願日】2019年5月23日
(62)【分割の表示】特願2015-535750(P2015-535750)の分割
【原出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2019-163301(P2019-163301A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2019年6月17日
(31)【優先権主張番号】61/710,229
(32)【優先日】2012年10月5日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515293333
【氏名又は名称】ブイティーブイ・セラピューティクス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】オルランディ,チェーザレ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,デヴィッド・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】グライムズ,イモジェン・エム
(72)【発明者】
【氏名】バルカルセ・ロペス,マリア・カルメン
(72)【発明者】
【氏名】コステュラ,マシュー・ジェイ
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−503469(JP,A)
【文献】 特表2010−523559(JP,A)
【文献】 特表2011−513200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 45/00−45/08
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を含む、
−軽度アルツハイマー病の処置;または
−軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における不眠症の処置;または
−軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における入眠潜時の短縮;または
−軽度アルツハイマー病を伴う対象における有害事象の頻度の低減;の方法に使用するための、経口投与のための組成物であって、該方法は、投与を必要とするヒトである対象に1日5〜7mgの量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を経口投与することを含み、ここで、ヒトである対象は軽度アルツハイマー病に罹患している、前記組成物。
【請求項2】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を約5mg/日の用量で投与する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
方法がさらに、ヒトである対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を経口投与することを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
投与される塩酸ドネペジルの量が5〜23mg/日、投与される塩酸ガランタミンの量が16〜24mg/日、投与される酒石酸リバスチグミンの量が6〜12mg/日、または投与される塩酸タクリンの量が40mg/日である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
方法がさらに、ヒトである対象に塩酸メマンチンを経口投与することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
投与される塩酸メマンチンの量が5〜20mg/日である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩が請求項1に記載の軽度アルツハイマー病を処置する方法に使用され、アルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale)(ADAS−cog)、臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)(CDR−sb)、アルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living Scale)(ADCS−ADL);神経精神症状評価(Neuropsychiatric Inventory)(NPI)、およびミニメンタルステート査定(Mini-Mental State Evaluation)(MMSE)からなる群から選択される少なくとも1つの評価法における改善、または悪化なし、または悪化速度の低下により処置を判定する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
処置の結果、ADAS−cogスコアにおける悪化速度に低下が生じる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
処置の結果、ADAS−cogスコアの悪化速度に2〜5ポイントのメディアン低下が生じる、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
方法により軽度アルツハイマー病を処置し、軽度アルツハイマー病に罹患しているヒトである対象が、21以上のミニメンタルステート検査スコアにより症状が確認されるヒトである対象として定義される,請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
方法により軽度アルツハイマー病を処置し、軽度アルツハイマー病に罹患したヒトである対象が、23以下のADAS−cogスコアにより症状が確認されるヒトである対象として定義される、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項13】
軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象において有害事象の頻度を低下させる方法に使用するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物であって、有害事象が、転倒、めまい、錯乱状態および傾眠からなる群から、または興奮、抑うつ、不安、攻撃性および情動不安からなる群から選択される、前記組成物。
【請求項14】
軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象において、不眠症を処置する方法、または入眠潜時を短縮する方法に使用するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
入眠潜時が1〜5分、または5〜10分短縮される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩;およびアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を含む、軽度アルツハイマー病の処置;軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における不眠症の処置;軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における入眠潜時の短縮;または軽度アルツハイマー病を伴う対象における有害事象の頻度の低減に使用するための、経口投与のための医薬組成物であって、[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩が5mg〜7mg/日の量で経口投与される医薬組成物。
【請求項17】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を約5mg/日の用量で経口投与する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンからなる群から選択される、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
AChEIが、
−塩酸ドネペジルであり、5〜23mg/日の量で経口投与される、または
−塩酸ガランタミンであり、16〜24mg/日の量で経口投与される、または
−酒石酸リバスチグミンであり、6〜12mg/日の量で経口投与される、または
−塩酸タクリンであり、40mg/日の量で経口投与される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩;および塩酸メマンチンを含む、軽度アルツハイマー病の処置;軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における不眠症の処置;軽度アルツハイマー病を伴うヒトである対象における入眠潜時の短縮;または軽度アルツハイマー病を伴う対象における有害事象の頻度の低減に使用するための医薬組成物であって、[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩が5mg〜7mg/日の量で経口投与される、経口投与のための医薬組成物。
【請求項21】
[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を約5mg/日の用量で経口投与する、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
メマンチンが5mg〜20mg/日の量で経口投与される、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミン(“化合物I”)を投与することにより、軽度〜中等度のアルツハイマー型認知症に罹患している個体を処置する方法に関する。本発明はまた、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう個体において終末糖化産物受容体(receptor for advanced glycation end product)(RAGE)とRAGEリガンドの相互作用を阻害する方法に関する。本発明はまた、軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している個体を含めて、糖尿病およびグルコース代謝低下を処置するための方法に関する。さらに本発明は、軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している個体を含めて、不眠症または入眠潜時(sleep onset latency)を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RAGEおよび疾患処置
終末糖化産物受容体(RAGE)は免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面分子のメンバーである。RAGEの細胞外(N末端)ドメインは、3つの免疫グロブリンタイプ領域、すなわち1つのV(可変)タイプドメイン、続いて2つのCタイプ(定常)ドメインを含む(Neeper et al., J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992))。この細胞外ド
メインに続いて、1つの膜貫通ドメインおよび短い高電荷細胞質ゾル内テイルがある。N末端細胞外ドメインは、RAGEをタンパク質分解してVおよびCドメインからなる可溶性RAGE(soluble RAGE)(sRAGE)を生成させることにより単離できる。
【0003】
RAGEは大部分の組織で発現し、特に胚形成に際して皮質ニューロン中にみられる(Hori et al. (1995))。RAGEレベルの増大は、老化組織(Schleicher et al., J. Clin. Invest. 99 (3): 457-468 (1997))、ならびに糖尿病性の網膜、血管および腎臓にもみられる(Schmidt et al., Nature Med. 1: 1002-1004 (1995))。種々の組織および臓器におけるRAGEの活性化は、多くの病態生理学的結果をもたらす。RAGEは下記のものを含めた多様な状態に関与することが示唆されている:急性および慢性炎症(Hofmann et al., Cell 97: 889-901 (1999))、糖尿病後期合併症の発生、たとえば血管透過性増大(Wautier et al., J. Clin. Invest. 97: 238-243 (1996))、神経障害(Teillet et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1488-1497 (2000))、アテローム性硬化症(Vlassara et. al., The Finnish Medical Society DUODECIM, Ann. Med. 28: 419-426 (1996))、および網膜障害(Hammes et al, Diabetologia 42: 603-607 (1999))。RAGEは下記のものにも関与することが示唆されている:アルツハイマー病(Yan et al. Nature 382: 685-691 (1996))、勃起機能障害、ならびに腫瘍の浸潤および転移(Taguchi et al. Nature 405: 354-357 (2000))。
【0004】
終末糖化産物(AGE)は、糖尿病関連の合併症を含めた多様な障害および正常な老化に関与することが示唆されている。タンパク質または脂質をアルドース糖と共にインキュベートすると、タンパク質上のアミノ基の非酵素的糖化および酸化が生じてアマドリ付加物(Amadori adduct)が形成される。経時的にこれらの付加物はさらに再配位、脱水、および他のタンパク質との架橋を行なって、AGEとして知られる複合体になる。AGEの形成を促進する要因には、タンパク質ターンオーバーの遅延(たとえば、アミロイドーシスの場合のように)、高リジン含量をもつ高分子の蓄積、および高い血糖値(たとえば、糖尿病の場合にように)が含まれる(Hori et al, J. Biol. Chem. 270: 25752-761 , (1995))。
【0005】
AGEは、微小血管の内皮細胞、単球およびマクロファージ、平滑筋細胞、メサンギウム細胞、およびニューロンの細胞表面受容体に、特異的な飽和性(saturable)結合を示す
【0006】
AGEのほかに、他の化合物がRAGEに結合してそれと生理的リガンドとの相互作用を阻害する可能性がある。正常な発達に際して、RAGEはアンホテリン(amphoterin)、すなわち培養胚ニューロンの神経突起伸長を仲介するポリペプチドと相互作用する(Hori et al, (1995))。RAGEはEN−RAGE、すなわちカルグラニュリン(calgranulin)
と実質的に類似するタンパク質と相互作用することも示された(Hofmann et al. (1999))
。RAGEはβ−アミロイドと相互作用することも示された(Yan et al. Nature 389: 689-695 (1997); Yan et al. Nature 382: 685-691 (1996); Yan et al, Proc. Natl. Acad. Sci, 94: 5296-5301 (1997))。
【0007】
RAGEへのAGE、S100/カルグラニュリン/EN−RAGE、β−アミロイド、CML(Νε−カルボキシメチルリジン)、HMGB1(high mobility group box 1)(高移動度グループボックス1)およびアンホテリンなどのリガンドの結合は多様な遺伝子の発現を変更することが示された。たとえば、多くの細胞タイプにおいて、RAGEとそれのリガンドとの相互作用は酸化的ストレスを発生し、その結果、フリーラジカル感受性転写因子NF−κBが活性化され、そしてNF−κBにより制御される遺伝子、たとえばサイトカイン類IL−Ιβ、TNF−aなどが活性化される。
【0008】
前記のように、RAGEアンタゴニストは糖尿病合併症の処置に有用である。最終的に終末糖化産物(AGE)の形成をもたらす高分子の非酵素的なグリコキシデーション(glycoxidation)は、炎症部位で、腎不全において、高血糖症および全身性または局所性のオキシダントストレスに関連する他の状態の存在下で、増大することが示された(Dyer, D, et al., J. Clin. Invest., 91: 2463-2469 (1993); Reddy, S., et al., Biochem., 34: 10872-10878 (1995); Dyer, D., et al., J. Biol . Chem., 266: 11654-1 1660 (1991); Degenhardt, T., et al., Cell Mol. Biol, 44: 1139-1 145 (1998))。血管におけるAGE蓄積は、透析関連アミロイドーシス患者にみられるAGE−B2−ミクログロブリンから構成される関節アミロイドの場合のように局所に(Miyata, T, et al , J. Clin. Invest, 92: 1243-1252 (1993); Miyata, T, et al , J. Clin. Invest, 98: 1088-1094 (1996))、または糖尿病患者の血管および組織により例示されるように全身に(Schmidt, A-M, et al. Nature Med, 1: 1002-1004 (1995))起きる可能性がある。糖尿病患者におけるAGEの経時的な漸増蓄積は、内因性クリアランス機序がAGE沈着部位では有効に機能できないことを示唆する。そのようなAGE蓄積は、多数の機序により細胞特性を変化させる能力をもつ。RAGEは正常な組織および血管では低レベルで発現するが、この受容体のリガンドが蓄積している環境ではRAGEがアップレギュレートされることが示された(Li, J. et al., J. Biol. Chem., 272: 16498-16506 (1997); Li, J., et al., J. Biol. Chem., 273: 30870-30878 (1998); Tanaka, N., et al., J. Biol . Chem,. 275: 25781-25790(2000))。RAGE発現は、糖尿病性血管の内皮、平滑筋細胞ならびに浸潤性の単核食細胞において増大する。同様に、細胞培養における研究により、AGE−RAGE相互作用が血管ホメオスタシスに重要な細胞特性の変化を引き起こすことが証明された。
【0009】
RAGEアンタゴニストはアミロイドーシスおよび/またはアルツハイマー病の処置にも有用である。RAGEは、β−シート微細線維物質をサブユニットの組成(アミロイド−βペプチド、Αβ、アミリン、血清アミロイドA、プリオン由来ペプチド)に関係なく結合する細胞表面受容体であると思われる(Yan, S. -D., et al., Nature, 382: 685-691
(1996); Yan, S-D, et al, Nat. Med, 6: 643-651 (2000))。アミロイドの沈着はRAGEの発現増大をもたらすことが示された。たとえば、アルツハイマー病患者の脳では、ニューロンおよびグリアにおいてRAGE発現が増大する(Yan, S. -D, et al. Nature 382: 685-691 (1996))。ΑβとRAGEの相互作用の結果はニューロンとミクログリアではかなり異なると思われる。ミクログリアは運動性およびサイトカイン発現の増大に反映されるようにΑβ−RAGE相互作用の結果として活性化状態になるのに対し、RAGE仲介による初期のニューロン活性化に代わって後には細胞傷害性が生じる。Αβの細胞相互作用におけるRAGEの役割のさらなる証拠は、この受容体が遮断された際に、Αβ誘発性脳血管収縮が阻害されること、およびこのペプチドが血液脳関門を通過して脳実質へ伝達されることに関係する(Kumar, S, et al, Neurosci. Program, p141 (2000))。RAGE−アミロイド相互作用の阻害は、細胞RAGEおよび細胞ストレスマーカーの発現(およびNF−kB活性化)を低下させ、アミロイド沈着を減少させることが示され(Yan, S-D, et al, Nat. Med, 6: 643-651 (2000))、これは、アミロイドに富む環境での細胞特性の攪乱(早期においてすら)およびアミロイド蓄積の両方における、RAGE−アミロイド相互作用の役割を示唆する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Neeper et al., J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992)
【非特許文献2】Schleicher et al., J. Clin. Invest. 99 (3): 457-468 (1997)
【非特許文献3】Schmidt et al., Nature Med. 1: 1002-1004 (1995)
【非特許文献4】Hofmann et al., Cell 97: 889-901 (1999)
【非特許文献5】Wautier et al., J. Clin. Invest. 97: 238-243 (1996)
【非特許文献6】Teillet et al., J. Am. Soc. Nephrol. 11: 1488-1497 (2000)
【非特許文献7】Vlassara et. al., The Finnish Medical Society DUODECIM, Ann. Med. 28: 419-426 (1996)
【非特許文献8】Hammes et al, Diabetologia 42: 603-607 (1999)
【非特許文献9】Yan et al. Nature 382: 685-691 (1996)
【非特許文献10】Taguchi et al. Nature 405: 354-357 (2000)
【非特許文献11】Hori et al, J. Biol. Chem. 270: 25752-761 , (1995)
【非特許文献12】Yan et al. Nature 389: 689-695 (1997)
【非特許文献13】Yan et al, Proc. Natl. Acad. Sci, 94: 5296-5301 (1997)
【非特許文献14】Dyer, D, et al., J. Clin. Invest., 91: 2463-2469 (1993)
【非特許文献15】Reddy, S., et al., Biochem., 34: 10872-10878 (1995)
【非特許文献16】Dyer, D., et al., J. Biol . Chem., 266: 11654-1 1660 (1991)
【非特許文献17】Degenhardt, T., et al., Cell Mol. Biol, 44: 1139-1 145 (1998)
【非特許文献18】Miyata, T, et al , J. Clin. Invest, 92: 1243-1252 (1993)
【非特許文献19】Miyata, T, et al , J. Clin. Invest, 98: 1088-1094 (1996)
【非特許文献20】Li, J. et al., J. Biol. Chem., 272: 16498-16506 (1997)
【非特許文献21】Li, J., et al., J. Biol. Chem., 273: 30870-30878 (1998)
【非特許文献22】Tanaka, N., et al., J. Biol . Chem,. 275: 25781-25790(2000)
【非特許文献23】Yan, S-D, et al, Nat. Med, 6: 643-651 (2000)
【非特許文献24】Kumar, S, et al, Neurosci. Program, p141 (2000)
【発明の概要】
【0011】
本発明は、その必要がある対象に、有効量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミン(“化合物I”)またはその医薬的に許容できる塩を投与することにより軽度〜中等度アルツハイマー病を処置する方法を提供する。
【0012】
1態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は20mg/日未満の量で投与される。
【0013】
他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は1mg/5kg(対象の体重)/日〜1mg/50kg(対象の体重)/日の量で投与される。
【0014】
さらに他の態様において、本発明は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において終末糖化産物受容体(RAGE)とRAGEリガンドの相互作用を阻害する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、糖尿病を処置する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象の退行(regression)に関連するグルコース代謝低下を阻害する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0017】
他の態様において、本発明は、対象において血糖値を低下させる方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0018】
さらに他の態様において、本発明はまた、不眠症を処置する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
他の態様において、不眠症の処置は軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象におけるものである。
【0020】
本発明はまた、入眠潜時を短縮する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0021】
さらに他の態様において、入眠潜時を短縮する方法は軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象におけるものである。
【0022】
他の態様において、本発明は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において有害事象の頻度を低下させる方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法を提供する。
【0023】
前記態様のいずれかの他の態様において、適切な量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)またはメマンチン(memantine)をも投与することができる。
【0024】
本発明はまた、1mg〜20mgの化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
他の態様において、医薬組成物はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を含有する。
【0026】
さらにまた他の態様において、医薬組成物はメマンチンを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1−プラセボと5mgの化合物Iによる処置との間でベースラインにおいて22.8以下のADAS−cogスコアを提示するADAS−cogサブグループの対象について、ベースラインからのADAS−cogの変化を示すグラフ。
図2図2−プラセボを投与したグループおよび5mgの化合物Iを投与したグループについてのカプラン−マイヤー(Kaplan-Meier)曲線;診察時に低いベースラインADAS−cogをもつサブグループの対象について、いずれかの時点でADAS−cogにおける7ポイント以上の増大到達として事象を定義し、その際、低は対象集団の最低25%におけるものである。
図3図3−化合物Iの投与量に関係なく、濃度駆動型(concentration-driven)の対象分類を示すグラフ。
図4図4−プラセボ処置した対象と測定したメディアンpk濃度が8〜15ng/mlの範囲の化合物Iであった試験対象とを比較した経時プロフィールを示すグラフ。
図5a図5a−5mg用量グループについて濃度(ng/ml)をBMI(kg/m)に回帰する回帰分析を示すグラフ。
図5b図5b−20mg用量グループについて濃度(ng/ml)をBMI(kg/m)に回帰する回帰分析を示すグラフ。
図5c図5c−5mg用量グループについて濃度(ng/ml)を体重(kg)に回帰する回帰分析を示すグラフ。
図5d図5d−20mg用量グループについて濃度(ng/ml)を体重(kg)に回帰する回帰分析を示すグラフ。
図6a図6a−高いとはベースラインで100mg/ml以上であると定義した場合に、高い血糖値を呈する対象についてベースラインからのグルコースの平均変化を示すグラフ。プラセボとの比較は平均への回帰を除外することを留意する。
図6b図6b−高いとはベースラインで最高1/3(33%)の血糖値にあると定義した場合に、高い血糖値を呈する対象についてベースラインからのグルコースの平均変化を示すグラフ。プラセボとの比較は平均への回帰を除外することを留意する。
図6c図6c−高いとはベースラインで最高25%の血糖値にあると定義した場合に、高い血糖値を呈する対象についてベースラインからのグルコースの平均変化を示すグラフ。プラセボとの比較は平均への回帰を除外することを留意する。
図6d図6d−サブグループをベースラインで下半分(50%)の血糖値にあるすべての対象とした場合に(サブグループをメディアンカット(median cut)で定義する)、正常または低い血糖値を呈する対象についての平均血糖値を示すグラフ。
図7図7−用量グループによる、有害事象についての時間のカプラン−マイヤー曲線を示す。
図8図8−濃度グループによる、有害事象についての時間のカプラン−マイヤー曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象がプラセボと比較して化合物Iによる用量依存性処置から有益性を得ることができることを証明する。さらに、本発明は、化合物Iによる処置が血糖値を低下させることができ、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象の退行に関連するグルコース代謝低下を阻害できることを証明する。さらに本発明は、対象に有効量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することにより、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象を含む対象における不眠症または入眠潜時の処置を提供する。
【0029】
本発明は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象においてプラセボと比較した2種類の用量の化合物Iの安全性、忍容性、および有効性を査定するためのパラレルスリーアーム(parallel three-arm)第2相試験からの結果に基づく。この試験は米国全体の40の異なる試験サイトで実施された。
【0030】
本発明の試験には399人の対象(グループ当たり133人)があり、彼らをプラセボ、または毎日20mg(60mgの負荷量後に、毎日、6日間)で投与される化合物I、もしくは毎日5mg(15mgの負荷量後に、毎日、6日間)で投与される化合物Iにランダム化した。
【0031】
試験来院はスクリーニング時、ベースライン(スクリーニング後、4週間以内)、次いで4週目、3、6、9、12、15、18か月目に行なわれ、安全性経過観察来院は21か月目に行なわれた。来院には、臨床査定および安全性査定、血漿バイオマーカーおよび薬物動態の分析のための採血、ならびにコンプライアンス(服薬遵守)評価のための丸剤計数が含まれた。主要(臨床)転帰尺度はベースラインおよびその後3か月毎の来院時に入手され、副次的臨床転帰尺度はベースラインおよびその後6か月間隔で入手された。脳MRIは、ベースライン、12および18か月目に得られた。CSFバイオマーカーのための腰椎穿刺をベースラインおよび12か月目に、あるサブグループの対象において実施した。
【0032】
主な適格性基準(eligibility criteria)には下記の対象が含まれた:50歳以上である;ほぼ確実な(probable)アルツハイマー病であると診断されている;Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)(MMSE)スコア14〜26をもつ;かつ良好な全般的健康状態である。対象は認知症を助長する発作の証拠があってはならない。さらなる組み入れ基準(選択基準)(inclusion criteria)には、ランダム化の前に安定用量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬および/またはメマンチンで少なくとも4か月間治療されていること、ならびにインフォーマントとして活動しかつ治験薬投与を監視する介助者がいることが含まれた。除外基準(exclusion criteria)には、管理されていない高血圧症、不安定な心疾患または肺疾患、糖尿病、過去2年以内の40kg未満または100kg以上の体重、非ステロイド系抗炎症薬または免疫抑制薬、QTcを増大させるかまたはCYP 34Aを阻害する薬物の長期使用、顕著に異常なECGもしくはQTc(QTcBまたはQTcF)または、女性について450ミリ秒を超える、もしくは男性について430ミリ秒を超える、何らかのスクリーニング12導出ECGが含まれた。過去5年以内の癌の治療歴、薬物もしくはアルコールの乱用、または重症の精神疾患もあってはならない。女性は妊娠の可能性があってはならない。対象はスクリーニングの前3か月間に他の治験薬を摂取していてはならない。
【0033】
主要有効性尺度は70ポイントのADAS−cogであった。ADAS−cogは、選択した領域の認知障害(記憶、言語、見当識、理性および行為(praxis))の重症度を評価するために用いられる。スコアは0から70までの範囲であり、より低いスコアはより低い重症度を示し、70のスコアは最悪の認知障害を表わす。軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう患者における変化を評価および追跡する際のそれの使用は十分に検証されている。主要安全性尺度には、有害事象の報告、血液および尿の検査、ならびにECG尺度が含まれた。副次的臨床尺度には、臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)(CDR−sb);アルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living Scale)(ADCS−ADL);神経精神症状評価(Neuropsychiatric Inventory)(NPI);およびMMSEが含まれた。対象は、下記を含む神経心理学的検査バッテリーも受けた:数字符号置換検査(Digit Symbol Substitution Test)、数唱の順唱と逆唱の検査(Forward and Backward Digit Span Test)、言語流暢性検査(Controlled Oral Word Association Test)、ストループ色彩−言語干渉検査(Stroop Color Word interference Test)、トレイルメイキングテスト(Trail-Making Test)(パートAおよびB)。介助者はクオリティーオブライフ質問票およびリソース使用計画書を受け取った。
【0034】
脳MRIをベースラインおよび12か月目に、1.5Tスキャナーで、ADNI試験におけるものに基づく標準取得パラメーター(standardized acquisition parameter)を用い、かつ容量分析法を用いて実施した。アルツハイマー病関連バイオマーカーの分析のために、脳脊髄液を腰椎穿刺によりベースラインおよび12か月後に採取した。アポリポタンパク質E(APO−E)遺伝子型判定を実施し、同意した対象においてファーマコゲノミクス研究のためにDNAを寄託した。各来院時に血漿を治験薬レベルについてアッセイし、バイオマーカー試験のために保存した。さらに、完全な身体検査および神経学的検査をベースラインで実施し、生命徴候検査および簡易検査をその後の来院時に実施した。臨床検査室試験おらび尿分析を各来院時に実施した。心電図(ECG)をすべての来院時に取得し、中央で解読した(心臓病専門医によるQTc分析)。有害事象は標準法を用いてサイト研究者により重症度および因果関係に従って分類され、ADCSおよびスポンサーに報告された。対象が試験から離脱することを決めた場合、またはサイト研究者により中止させられた場合、ベースライン来院時と同様な臨床査定および安全性査定を含む14日以内の早期中止来院を計画した。
【0035】
定義
本発明の広い範囲を述べる数値範囲およびパラメーターは概数であるが、具体例に述べる数値は可能な限り厳密に報告されている。ただし、数値はいずれも、本来それらの各検査測定値にみられる標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を含む。
【0036】
重量%とは、組成物中の1成分の特定の重量をその組成物中の成分の総重量で割ったものを意味する。重量%は、重量/重量パーセントまたは%(重量/重量)または質量パーセント(percent by massまたはmass percent)と互換性をもって使用でき、それらとほぼ
同じ意味をもつ。
【0037】
さらに、本明細書中で用いる単数形“a”、“an”および“the”は明確かつ明白に1つの指示物に限定されない限り複数の指示物を含むことを留意する。
【0038】
他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与量または血中レベルおよび投与は、アルツハイマー病を処置するのに十分なレベルに十分な時間、RAGEの生物学的機能を阻害するのに十分なものであってよい。
【0039】
化合物Iは[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンを表わす。化合物IはU.S. Patent No. 7,361,678および7,884,219の主題である。
【0040】
化合物Iの多様な塩類および異性体を使用できる。用語“塩類”は、酸付加塩または遊離塩基の付加塩を含むことができる。医薬的に許容できる酸付加塩を形成するために使用できる酸の例には、無機酸、たとえば塩酸、硫酸またはリン酸、および有機酸、たとえば酢酸、マレイン酸、コハク酸またはクエン酸などが含まれる。これらの塩類(または類似する他の塩類)はすべて、常法により製造できる。無毒性であり、目的とする薬理活性を実質的に妨げない限り、塩の性質は厳密ではない。本発明の方法に好ましい塩は塩酸塩である。
【0041】
本発明の組成物に関して用いる句“医薬的に許容できる”は、そのような組成物の分子および他の成分であって、哺乳動物(たとえば、ヒト)に投与した際に生理的に忍容でき
、かつ一般に不都合な反応(毒性または副作用)を生じないものを表わす。好ましくは、本明細書中で用いる用語“医薬的に許容できる”は、哺乳動物、より特別にはヒトに使用するものとして、連邦政府または州政府の規制当局により承認されていること、または米国局方その他の一般的に認められている局方に掲載されていることを意味する。Berge, et al. Journal of Pharmaceutical Science, Vol. 66(1), pp. 1-19 (1977)。
【0042】
本発明の組成物に適用する用語“キャリヤー”は、それと共に有効化合物(たとえば、1−アミノシクロヘキサン誘導体)を投与する希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを表わす。そのような医薬用キャリヤーは、無菌液体、たとえば水、塩類溶液、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、および石油、動物、植物または合成に由来するものを含めた油類、たとえばラッカセイ油、鉱油、ゴマ油などであってもよい。適切な医薬用キャリヤーは、“Remington's Pharmaceutical Sciences” by E. W. Martin, 18th Editionに記載されている。
【0043】
本明細書中で用いる用語“対象”または“その必要がある対象”は、哺乳動物を表わす。ある態様において、この用語は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なうと診断されたヒトを表わす。
【0044】
“軽度〜中等度アルツハイマー病”は、国立神経障害・脳卒中研究所/アルツハイマー病・関連障害教会(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke/the Alzheimer's Disease and Related Disorders Associations)(NINCDS−ADRDA)基準に従って“ほぼ確実な(probable)アルツハイマー病”と診断評価できる。
【0045】
“軽度〜中等度(mild-to-moderate)”の診断は、前記および後記に開示する臨床評価スケールを含めた標準的な基準を用いて普通の医師が十分になしうる範囲にある。たとえば、標準化されたミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination)(MMSE;0〜30のスケール)における下記の数値範囲を用いて、軽度〜中等度、中等度、および中等度〜重度アルツハイマー病を診断した。
【0046】
軽度〜中等度アルツハイマー病は、本発明の試験において10〜22、また軽度〜中等度アルツハイマー病を治療するための他の療法薬(たとえば、ドネペジル(donepezil))
を用いる試験において10〜26のMMSEスコアにより判定したものとして診断された。重度のアルツハイマー病は、10未満のMMSEスコアをもつ対象に診断された。
【0047】
したがって、“軽度”アルツハイマー病の診断は、上記範囲内の高い方のスコア、たとえば約21〜26のMMSEスコアをもつ対象について行なうことができる。
【0048】
MMSEスケールが軽度アルツハイマー病を診断するための唯一の方法ではなく便宜的なものであることを留意すべきである。また、特許請求の範囲は“対象”をMMSEスケールで“等級づける”工程の実施が要求されると解釈すべきでない。ある態様において、軽度アルツハイマー病を伴なう患者は、その患者をMMSEスケールに従って採点した場合に21以上のスコアを示す患者である。別のスケールを用いれば、“軽度”アルツハイマー病は、その同じスケールで確立された中等度〜重度アルツハイマー病のスコア範囲とオーバーラップしないことが明らかなスコアに基づいてなされるアルツハイマー病またはほぼ確実なアルツハイマー病の診断として定義されるであろう。
【0049】
ある態様において、軽度アルツハイマーは23以下のADAS−cogスコアをもつ個体として定義される。
【0050】
用語“治療しようとする意図の原則(intent to treat principle)”は、治療方針の効
果は施した実際の治療よりむしろ対象を治療しようとする意図(すなわち、計画した治療方法)に基づいて査定することによって最も良く評価できると主張する原則を表わす。それは、治療グループに配属された対象は、計画した治療コースに対する彼らのコンプライアンスに関係なくそのグループのメンバーとして経過観察、評価および解析されるべきであるという帰結をもつ。このITT原則は解析集団(誰)ではなく方法(どのようにして)を表わすことを留意する。ITT解析はランダム化により支持されているという点で一般に最も有効な解析として受け入れられており、対象の行動特性(たとえば、治験薬投与とのコンプライアンス)に基づいて対象を除外するのはランダム化により支持されないのでITT原則と矛盾するということも留意する。集団特性(たとえば、ベースラインでのアルツハイマー病の重症度)に基づくサブグループ解析はランダム化により支持されており、有効とみなされるということも留意する。
【0051】
用語“完全解析セット(Full Analysis Set)(FAS)”は、治療しようとする意図の
原則(intent to treat principle)が示す理想に可能な限り近いセットの対象を表わす。
それはランダム化されたすべての対象のセットから最小限の正当な対象の排除により導かれる。FASは、少なくとも1回の治験薬投与を受け、かつ少なくとも1回のベースライン後評価を受けたすべての対象を含む。FASのデータセットは、治療継続(on treatment)または治療中止(off treatment)のいずれであっても収集されたすべてのデータを含む
(治療コンプライアンスに関係なく)。受けた治療(特に長い半減期の化合物によるもの)は治療後に収集した評価に影響を及ぼすことを認識して、その対象がまだ実際の治療を受けているかどうかに関係なく、治療を中止した後の対象の所見もなお純ITT解析に含まれることを留意する。
【0052】
用語“治療継続(on treatment)”は、最終投与の28日以内に収集したデータを表わす。初回の治験薬投与から最終回の治験薬投与までの間に収集したすべてのデータ、および最終回の治験薬投与の28日以内に収集したすべてのデータが“治療継続”とみなされる。
【0053】
用語“治療中止(off treatment)”は、最終回の治験薬投与後、29日目以後のデータ
収集を表わす。
【0054】
用語“治験薬投与(trial medication)”は、有効またはプラセボのいずれであっても臨床試験内のすべての盲検付き投薬を表わす。
【0055】
用語“ベースライン後(post baseline)”は、治療継続または治療中止のいずれである
かに関係なく、ベースライン後に収集したすべてのデータを表わす。
【0056】
用語“パープロトコル(Per Protocol)セット(有効症例、有効サンプル、評価可能対象サンプル)”または“パートリートメント(per-treatment)セット”は、基礎となる科学
的モデルに従ってこれらのデータが治療の効果を示す可能性があることを保証するのに十分なほどプロトコルを遵守した対象のサブセットにより作成されるデータのセットを表わす。コンプライアンス(遵守)は、治療に曝露されること、測定値を入手できること、および大きなプロトコル違反が無いことなどの考慮事項を含む。パートリートメント解析は行動特性に基づいて対象を除外するので一般にランダム化によって支持されないことを留意する。そのような解析は有用となる可能性はあるが、一般にITT解析ほど有効ではない。
【0057】
用語“統計解析計画書(Statistical Analysis Plan)(SAP)”は、アルファ(alpha)を保護するために盲検解除の前に計画した解析を含む文書を表わす。それはプロトコルに
記載された解析の主な特色をより技術的かつ詳細に推敲したものであり、主要変数および副次的変数ならびに他のデータの統計解析を実施するための詳細な手順を含む。SAPは一般に盲検解除の前に署名され、盲検解除の後のSAPに対する修正、たとえば対象の事後(post-hoc)行動(たとえば、治療コンプライアンス)に基づく計画外の解析。
【0058】
用語“脱落者(dropout)”は、臨床試験において何らかの理由で試験プロトコルにより
彼/彼女に要求された最終来院まで試験を継続できなかった対象を表わす。特に、これらの試験において、対象の最終来院が18か月目より前に行なわれた場合、その対象は脱落者である。
【0059】
用語“治療効果(Treatment Effect)”は、臨床試験における治療に起因する効果を表わす。大部分の臨床試験において、目的とする治療効果は2以上の治療の比較(または対比)である。治療効果はプラセボ効果を含まないことを留意する。ランダム化した有効治療グループとプラセボグループの差は、一般に対照付き臨床試験における治療効果と認められる。
【0060】
用語“試験治療下で発現した(treatment-emergent)”は、治療前には存在せずに治療中に発現した、または治療前状態と対比して悪化した、所見または事象を表わす。
【0061】
用語“試験治療下で発現した有害事象”は、治験薬投与の初回投与前には存在せずに治験薬投与の初回投与後に観察もしくは報告された何らかの不都合な事象、または既存状態の増悪を示す何らかの不都合な事象を表わす。増悪には、重症度または頻度の何らかの増大が含まれる。
【0062】
用語“一般化可能性(Generalisability)、一般化(Generalisation)”は、臨床試験の所見をその試験に参加した対象からより広範な患者集団およびより広範な臨床設定にまで信頼性をもって外挿できる程度を表わす。
【0063】
本明細書中で用いる用語“処置(治療)”は、対象が罹患している特定の状態または障害に対する全範囲の処置(その障害から生じる1以上の症状を軽減または改善することを含む)、その障害の発症または進行を遅延させることを表わす。
【0064】
用語“処置(治療)する”は、本明細書中で、対象において疾患の少なくとも1つの症状を鎮静または軽減することを意味するために用いられる。たとえば、用語“処置(治療)する”は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう個体において認知障害(たとえば、記憶および/または見当識の障害)もしくは全体機能(日常生活動作(activities of daily life))の障害を鎮静または軽減すること、および/またはADL(日常生活動作)もしくは認知障害の漸進悪化を遅延もしくは反転させることを意味することができる。
【0065】
本発明の趣意において、用語“処置(治療)”は、アルツハイマー病に関連する追加症状を呈している患者、たとえば前記に定義したADAS−cog、MMSE、ADCS−ADL基準、CDR−sbまたはNPI総合基準(これらに限定されない)のうち1以上を用いて同定された者において、疾患の進行を遅延させることを意味することもできる。用語“疾患の進行を遅延させる”は、本明細書中で、非処置対象と比較してある対象において疾患の発現または継続または増悪が予想より遅いことを意味するために用いられる。これは、たとえばアルツハイマー病について、認知性能などの尺度において非処置患者(予想した疾患進行を示す者)における尺度と比較して処置患者では予想より遅い悪化が得られることにより判定できる。認知性能は、たとえばアルツハイマー病評価尺度(ADAS−cog)またはアルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(ADCS−ADL)を用いて測定できる。たとえば、軽度アルツハイマー病を伴なう対象における典型的な疾患進行は、約6か月の期間で約1〜約3ポイントのADAS−cog増大である。しかし、疾患進行は著しく個体差があり、かつ患者の初期状態などの要因にも依存する。
【0066】
特定の態様において、用語“処置(治療)”は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう患者においてグルコース代謝速度を増大させること、または退行に関連するさらなる低下を阻害することを意味することもできる。これも、処置患者におけるグルコース代謝と非処置患者における代謝との比較により評価することができる。処置患者におけるグルコース代謝の低下、もしくは予想した低下より遅い低下、または非処置患者と比較した処置患者におけるグルコース代謝の安定は、その処置に付随する有益性の指標である。
【0067】
他の特定の態様において、用語“処置(治療)”は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう患者において、退行に関連する不眠症関連症状を改善し、あるいは入眠潜時を短縮することを意味することもできる。
【0068】
用語“療法有効量”は、本明細書中で、軽度〜中等度アルツハイマー病に関連する症状、行動または事象を改善または遅延するのに有効な化合物Iの量または用量を意味するために用いられる。あるいは、療法有効量は、その必要がある個体においてアルツハイマー病に関連する状態またはパラメーターの臨床的に有意の改善(担当医に従って前記セットの基準のうち1以上を使用)を引き起こすのに十分なものである。さらにまた他の態様において、療法有効量は、本明細書中で、目標とする対象の療法応答を誘発する化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の量を表わすために用いられる。ある態様において、療法応答はRAGEに拮抗することであってもよい。
【0069】
“レスポンダー”は、進行しなかった患者であって、その患者についてベースラインから18か月目までのADAS−cogの変化が7以下である患者として定義される。
【0070】
用語“約(about)”および“ほぼ(approximately)”は、一般に、測定の性質または精度を考慮して、測定量について許容できる程度の誤差または変動を意味する。一般に、誤差または変動の程度は、示した数値または範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。本明細書中に示す数量は、別途記載しない限り概数であり、これは明確に記載されていない場合に用語“約”および“おおよそ”であると推定できることを意味する。
【0071】
配合、投与量および投与
本発明はさらに、化合物Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩および医薬的に許容できるキャリヤーを含む医薬組成物を提供する。用語“医薬組成物”は、本明細書中で、哺乳動物ホストに、たとえば経口的に、局所に、非経口的に、吸入スプレーにより、または直腸に、一般的な無毒性のキャリヤー、希釈剤、佐剤、ビヒクルなどを含有する単位量配合物で投与できる組成物を表わすために用いられる。本明細書中で用いる用語“非経口”は、皮下注射、静脈内、筋肉内、嚢内への注射、または注入法によるものを含む。
【0072】
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、経口使用に適した形態、たとえば錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁液剤、分散性の散剤もしくは顆粒剤、乳剤、ハードもしくはソフトカプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤であってもよい。経口使用を意図した組成物は、いずれか既知の方法に従って調製でき、そのような組成物は、医薬として洗練された美味な製剤を提供するために、甘味剤、着香剤、着色剤および保存剤からなる群から選択される1種類以上の作用剤を含有することができる。錠剤は、有効成分を錠剤の製造に適した無毒性の医薬的に許容できる賦形剤との混合物として含有することができる。これらの賦形剤は、たとえば不活性希釈剤、たとえば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム;造粒剤および
崩壊剤、たとえばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸;結合剤、たとえばデンプン、ゼラチンまたはアラビアゴム;ならびに滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであってもよい。錠剤はコーティングされていなくてもよく、あるいはそれらを既知の手法でコーティングして、胃腸管における崩壊および吸収を遅延させ、それによってより長期間にわたる持続作用を付与することもできる。たとえば、遅延剤、たとえばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルを使用できる。それらをU.S. Patent No. 4,356,108;および4,265,874に記載される手法によりコーティングして、制御放出のための浸透圧療法錠を形成してもよい。
【0073】
経口用配合物は、有効成分を不活性固体希釈剤、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合したハードゼラチンカプセル剤、または有効成分を水、もしくは油性媒体、たとえば、ラッカセイ油、流動パラフィンもしくはオリーブ油と混合したソフトゼラチンカプセルとしても提供できる。
【0074】
水性懸濁液剤は、有効化合物を水性懸濁液剤の調製に適した賦形剤との混合物として含有することができる。そのような賦形剤は、懸濁化剤、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガントゴムおよびアラビアゴムである;分散剤または湿潤剤は、天然ホスファチド、たとえばレシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸の縮合物、たとえばポリオキシエチレンステアレート、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合物、たとえばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合物、たとえばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合物、たとえばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。水性懸濁液剤は、1種類以上の着色剤、1種類以上の着香剤、および1種類以上の甘味剤、たとえばショ糖またはサッカリンを含有してもよい。
【0075】
油性懸濁液剤は、有効成分を植物油、たとえばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油、または鉱油、たとえば流動パラフィンに懸濁することにより配合できる。油性懸濁液剤は、増粘剤、たとえば密ろう、固形パラフィンまたはセチルアルコールを含有してもよい。美味な経口製剤を提供するために、甘味剤、たとえば前記に述べたもの、および着香剤を添加することができる。これらの組成物は、抗酸化剤、たとえばアスコルビン酸の添加により保存処理できる。
【0076】
水の添加により水性懸濁液剤を調製するのに適した分散性の散剤および顆粒剤は、有効化合物を分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および1種類以上の保存剤との混合物として提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤は、前記に既に述べたものにより例示される。追加の賦形剤、たとえば甘味剤、着香剤および着色剤が存在してもよい。
【0077】
本発明の医薬組成物は、水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油、たとえばオリーブ油もしくはラッカセイ油、または鉱油、たとえば流動パラフィン、またはその混合物であってもよい。適切な乳化剤は、天然ゴム、たとえばアラビアゴムまたはトラガントゴム、天然ホスファチド、たとえばダイズ、レシチン、ならびに脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導されたエステルまたは部分エステル、たとえばソルビタンモノオレエート、ならびにそれらの部分エステルとエチレンオキシドの縮合物、たとえばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。乳剤は甘味剤および着香剤を含有してもよい。
【0078】
シロップ剤およびエリキシル剤には、甘味剤、たとえばグリセロール、プロピレングリ
コール、ソルビトールまたはショ糖を配合できる。そのような配合物は、粘滑剤、保存剤ならびに着香剤および着色剤を含有してもよい。医薬組成物は、無菌の注射用水性または油性懸濁液剤の形態であってもよい。この懸濁液剤は、既知の方法に従って、前記の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて配合できる。無菌の注射用製剤は、非経口用として許容できる無毒性の希釈剤または溶剤中における無菌の注射用液剤または懸濁液剤、たとえば1,3−ブタンジオール中の液剤であってもよい。使用してもよい許容できるビヒクルおよび溶剤には、水、リンガー液、および等張塩化ナトリウム溶液が含まれる。さらに、無菌の固定油を溶剤または懸濁媒体として用いるのが好都合である。この目的には、合成モノ−またはジグリセリドを用いたいずれか無刺激性の固定油を使用できる。さらに、脂肪酸、たとえばオレイン酸を、注射剤の調製に使用できる。
【0079】
組成物は、本発明化合物を直腸投与するための坐剤の形態であってもよい。これらの坐剤は、薬物を、常温では固体であるが直腸温度では液体であるので直腸内で融解して薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と混合することにより調製できる。そのような材料には、たとえばカカオ脂およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0080】
局所用としては、本発明の化合物を含有するクリーム剤、軟膏剤、ゼリー剤、液剤または懸濁液剤、ローション剤、眼軟膏、および点眼剤および点耳剤、含浸包帯およびエアゾール剤などが考慮される。これらの局所配合物は、適切な一般的添加剤、たとえば保存剤、薬物透過を補助する溶剤、および皮膚軟化剤を、軟膏剤およびクリーム剤中に含有することができる。これらの配合物は、適合性である一般的キャリヤー、たとえばクリーム基剤または軟膏基剤、およびローション剤のためのエタノールまたはオレイルアルコールを含有することもできる。そのようなキャリヤーは、配合物の約.1%から約99%まで存在することができる。より普通には、それらは配合物の約80%を形成するであろう。本出願の目的について、局所適用剤はマウスウォッシュおよびうがい剤を含む。
【0081】
吸入による投与のために、本発明による化合物を加圧パックまたは噴霧器から、適切な噴射剤、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ヘプタフルオロプロパン、二酸化炭素、または他の適切なガスの使用により、エアゾールスプレー噴射の形で送達するのが好都合である。
【0082】
加圧エアゾール剤の場合、投与単位は計量された量を送達する弁を取り付けることにより決定できる。吸入器または注入器に使用するために、本発明化合物と適切な粉末基剤、たとえば乳糖またはデンプンとの粉末ミックスを収容した、たとえばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0083】
下記の製造の記載中に挙げる装置およびパラメーターは、医薬配合物を調製するために使用できる装置およびパラメーターの代表例である。医薬配合物の製造に用いる実際の装置およびパラメーターは変更できる。
【0084】
本発明の化合物(遊離塩基形のもの)をふるいにかけ、ほぼ等量の微結晶性セルロースと共に秤量することができる。この混合物を微結晶性セルロースで幾何学的希釈することができる。この混合物、残りがあれば微結晶性セルロース、乳糖1水和物、クロスカルメロースナトリウム、コロイド状二酸化ケイ素、およびStarch 1500をブレンダーに添加し、混合することができる。小部分の混合物を取り出し、ステアリン酸マグネシウムと混和し、ブレンダーに戻して混合することができる。得られた混合物をカプセルに封入して投与することができる。化合物、微結晶性セルロース、および/または乳糖1水和物の重量パーセントを調整して、より多量または少量の化合物を含む剤形を製造できる。たとえば、次表の配合物Aは1回当たり5mgのカプセル配合物を製造するために使用でき、配合物Bは1回当たり20mgのカプセル配合物を製造するために使用できる。
【0085】
【表A】
【0086】
1態様において、アルツハイマー病の処置方法は、その必要がある対象に20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む。化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。若干の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mgである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。
【0087】
若干の態様において、対象における化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の血清濃度は、約1ng/ml〜約65ng/ml、または約1ng/ml〜約60ng/ml、または約1ng/ml〜約55ng/ml、または約1ng/ml〜約50ng/ml、または約1ng/ml〜約45ng/ml、または約1ng/ml〜約40ng/ml、または約1ng/ml〜約35ng/ml、または約1ng/ml〜約30ng/ml、または約1ng/ml〜約25ng/ml、または約1ng/ml〜約20ng/ml、または約1ng/ml〜約15ng/ml、または約1ng/ml〜約10ng/mlである。他の態様において、対象における血清濃度は8〜約15ng/mlである。さらにまた他の態様において、対象における血清濃度は約12.5ng/mlである。
【0088】
他の態様において、アルツハイマー病の処置方法は、アルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale)(ADAS−cog)、臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)(CDR−sb)、アルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living Scale)(ADCS−ADL)、神経精神症状評価(Neuropsychiatric Inventory)(NPI)、およびミニメンタルステート査定(Mini-Mental State Evaluation)(MMSE)からなる群から選択される少なくとも1つの評価における改善、または悪化なし、または悪化速度の低下により判定される。若干の態様において、処置の結果、ADAS−cogスコアにおける悪化速度の低下が生じる。他の態様において、処置の結果、ADAS−cogスコアにおける悪化速度のメディアン低下(median reduction)が2〜5ポイントになる。
【0089】
他の態様において、アルツハイマー病の処置方法は、その必要がある対象に1mg/5kg(対象の体重)/日〜1mg/50kg(対象の体重)/日の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む。化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、約1mg/10kg/日、または1mg/15kg/日、または1mg/20kg/日、または1mg/25kg/日、または1mg/30kg/日、または1mg/35kg/日、または1mg/40kg/日、または1mg/45kg/日の量で行なうことができる。さらに他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を、1mg/20kg/日の量で投与する。さらに他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を、約0.2mg/kg/日〜0.02mg/kg/日の量で投与する。さらに他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を、約0.1mg/kg/日、または約0.09mg/kg/日、または約0.08mg/kg/日、または約0.07mg/kg/日、または約0.06mg/kg/日、または約0.05mg/kg/日、または約0.04mg/kg/日、または約0.03mg/kg/日の量で投与する。
【0090】
若干の態様において、その必要がある対象に20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することにより、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において終末糖化産物受容体(RAGE)とRAGEリガンドの相互作用を阻害する方法を提供する。ある態様において、RAGEリガンドは、可溶性β−アミロイド、不溶性β−アミロイド、s100b、カルグラニュリン、EN−RAGE、HMGB1(高移動度グループボックス1)、アンホテリン、およびカルボキシメチルリジンのうちのひとつであってもよい。化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。若干の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日までである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。
【0091】
ある態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与により、軽度アルツハイマー病を処置する。若干の態様において、軽度アルツハイマー病は23以下のADAS−cogスコアを提示する対象として定義できる。
【0092】
他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩による処置は、糖尿病を処置するために、その必要がある対象に20mg/日未満の量のを投与することにより用いられる。他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を約1mg/日から約20mg/日までの用量で投与する。化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。若干の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日までである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。さらにまた他の態様において、この方法は軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう患者において糖尿病を処置することを含む。
【0093】
若干の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、その必要がある対象においてHbA1Cのレベルを低下させることができる。他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、その必要がある対象においてHbA1Cのレベルを少なくとも0.1パーセントポイント、または0.2パーセントポイント、または0.3パーセントポイント、または0.4パーセントポイント、または0.5パーセントポイント、または0.6パーセントポイント、または0.7パーセントポイント、または0.8パーセントポイント、または0.9パーセントポイント、または1パーセントポイント、低下させることができる。さらにまた他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、その必要がある対象においてHbA1Cのレベルを7%未満に低下させることができる。他の態様において、HbA1Cのレベルを5〜6.5%のレベルに低下させることができる。
【0094】
若干の態様において、本発明は、その必要がある対象に20mg/日未満の量の化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩を投与することにより、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象の退行に関連するグルコース代謝低下を阻害するための方法を提供する。化合物Iは、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。若干の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日までである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、血糖値を低下させるために用いられる。さらにまた他の態様において、対象は軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している。他の態様において、対象の血糖値は少なくとも5mg/dl、または少なくとも10mg/dl、または少なくとも15mg/dl、または少なくとも20mg/dl、または5mg/dl〜20mg/dl、低下する。他の態様において、対象の未処置血糖値は100ng/dlを超える。
【0095】
他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、不眠症を処置するために、その必要がある対象に20mg/日未満の量のを投与することにより用いら
れる。化合物Iは、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。若干の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日までである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。他の態様において、不眠症を伴なう対象は軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している。他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は入眠潜時を短縮するために用いられる。さらに他の態様において、入眠潜時を伴なう対象は軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している。他の態様において、入眠潜時は1〜5分、または5〜10分、短縮される。
【0096】
若干の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩による処置は、軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象における有害事象の頻度を低下させる。若干の態様において、有害事象には転倒、めまい、錯乱状態および傾眠を含めることができる。他の態様において、有害事象は精神的有害事象であってもよい。精神的有害事象には興奮、抑うつ、不安、攻撃性および情動不安を含めることができる。化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩は、約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与できる。他の態様において、用量は約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日までである。他の態様において、用量は約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である。
【0097】
以上の態様のいずれにおいても、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、さらにアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)による処置を含むことができる。AChEIには、塩酸ドネペジル(donepezil hydrochloride)、塩酸ガランタミン(galantamine hydrochloride)、酒石酸リバスチグミン(リバスチグミン酒石酸塩)(rivastigmine tartrate)、または塩酸タクリン(tacrine hydrochloride)を含めることができる。さらにまた他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与は、さらにメマンチンによる処置を含むことができる。若干の態様において、対象は化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩の投与の前に少なくとも4か月間、AChEIまたはメマンチンによる処置を受けていてもよい。
【0098】
本発明の他の態様は、1mg〜20mgの化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩、およびAChEIを含有する医薬組成物を含む。他の態様において、医薬組成物は、1mg〜20mgの化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩、およびメマンチンを含有することができる。AChEIには、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグ
ミン、または塩酸タクリンを含めることができる。若干の態様において、AChEIは5mg〜23mg存在する塩酸ドネペジルである。他の態様において、AChEIは16mg〜24mg存在する塩酸ガランタミンである。さらに他の態様において、AChEIは6mg〜12mg存在する酒石酸リバスチグミンである。さらにまた他の態様において、AChEIは40mg存在する塩酸タクリンである。さらにまた他の態様において、メマンチンは5mg〜20mg存在する。この医薬組成物は、化合物Iを約1mg/日から約19mg/日まで、または約1mg/日から約18mg/日まで、または約1mg/日から約17mg/日まで、または約1mg/日から約16mg/日まで、または約1mg/日から約15mg/日まで、または約1mg/日から約14mg/日まで、または約1mg/日から約13mg/日まで、または約1mg/日から約12mg/日まで、または約1mg/日から約11mg/日まで、または約1mg/日から約10mg/日まで、または約1mg/日から約9mg/日まで、または約1mg/日から約8mg/日まで、または約1mg/日から約7mg/日まで、または約1mg/日から約6mg/日まで、または約1mg/日から約5mg/日まで、または約1mg/日から約4mg/日まで、または約1mg/日から約3mg/日まで、または約1mg/日から約2mg/日まで含有することができる。
【0099】
他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩による処置は、脳脊髄液(CSF)中にみられる可溶性Aβの量を減少させる。若干の態様において、可溶性形態のAβはイソ型1−40である。他の態様において、可溶性形態のAβはイソ型1−42である。さらにまた他の態様において、可溶性形態のAβはイソ型1−38である。さらにまた他の態様において、化合物Iまたはその医薬的に許容できる塩による処置はCSF中のイソ型1−40対イソ型1−42の量の比を変化させる。
【0100】
若干の態様において、20mg用量グループの対象の処置を停止すると、彼らのADAS−cogスコアが改善を示したという所見があった。アルツハイマー病は変性性疾患であり、患者が自然寛解しないことは周知である。探索的解析により、20mgの化合物Iで処置した対象はエンドポイント来院時に(処置を停止した後)、プラセボグループにおけるベースラインからの変化に優る、ベースラインからの変化を示したことが確認された。この所見は、化合物Iが患者の原疾患状態に対して有益な効果をもっていたという仮説と一致する。高濃度の化合物Iに関連する症状が改善を遮蔽し、薬物濃度がより有益な範囲にまで低下した際にその処置の有益な効果が現われたという可能性がある。
【実施例】
【0101】
実施例1
軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう患者における化合物Iによる18か月間の治療の有効性および安全性を査定する二重盲検プラセボ対照ランダム化多施設試験
この試験は3つのアームでデザインされた:6日間の初期負荷量60mg/日の後に20mg/日;6日間の初期負荷量15mg/日の後に5mg/日、およびプラセボ。試験は軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なうN=399の患者にバランスのとれた比率(1:1:1)でランダム化された。20mg用量グループは中間解析(interim analysis)時点で終了した。その後、元のプロトコルで計画していた無益性解析(futility analysis)に基づいて試験を早期に終了した。
【0102】
試験の統計解析には、プロトコルおよび統計解析計画書で計画した解析ならびに探索的解析および調査解析が含まれた。患者の試験治療の終了後、患者に通院試験を継続するように指示し、データを収集し続けた。統計解析には、入手できるすべてのデータ(治療継続および治療停止)および治療継続データを含むデータセットが含まれた;その際、“治療継続”は、最終投与日の28日以内であると定義された。治療中止データは、ランダム化スケジュールに従って施された治療を反映する;したがって、ランダム化集団に基づい
た、かつ治療しようとする意図の原則(intent-to-treat principle)に従った、治療継続
および治療中止の解析は有効である。
【0103】
統計解析は、5mg用量グループ(n=131;平均年齢=74歳;53%が女性)をプラセボグループ(n=132;平均年齢72歳;57%が女性)と比較した。試験非完了における脱落率は、化合物Iおよびプラセボについてそれぞれ48%および52%であった。治療継続データがあるすべてのランダム化患者について、最終観察繰越法(last-observation-carried-forward)を用いたADAS−cogにおけるベースラインからエンドポイントまでの変化に関して、治療しようとする意図(intent-to-treat)による標準的な共分散分析(ベースラインに対して調整)の実施により、最小二乗平均6.4および8.7(名目p=0.03)が得られた。ベースラインからの実際の平均変化は、5mgの化合物Iおよびプラセボを投与したグループについてそれぞれ6.59(SD=7.91)および9.00(SD=9.21)であった。未調整解析により、同様に5mgの化合物Iによる処置の方が有利である名目p=0.03が得られた。
【0104】
来院により観察した症例、ADAS−cogにおけるベースラインからの変化率、およびADAS−cogにおける7ポイント以上の増大を示す患者の割合(レスポンダー解析)に関する追加解析も、同様にプラセボより5mgの化合物Iの方が有利であるトレンドレベルまたはより良好な名目p値をもっていた。
【0105】
次表に、主解析の結論の堅実さを保証するための主解析および支持解析としてデザインした有効性解析計画をまとめる。これらの解析は試験プロトコルにおいて計画され、統計解析計画書に計画され、ICH E9に示される治療しようとする意図の原則に従う。18か月目のADAS−cogについての主要な結果のまとめは下記のとおりである:
【0106】
【表1】
【0107】
実施例2
ベースラインでADAS−cogに基づいてより軽度のアルツハイマー病を呈する患者では、より重度のアルツハイマー病を呈する患者より薬物効果が顕著であった。
【0108】
試験への参加はMMSEに基づいた;ADAS−cogに基づく適格性基準はなかった。他より顕著な有益性をもつ可能性がある個体の特徴を事後(Post-hoc)解析により調べた。判別解析は若干のサブグループの患者が他より良好に化合物Iに応答する可能性があることを示唆した。
【0109】
解析の所見によって、参加時点でADAS−cogに基づいてより軽度のアルツハイマー病を呈する試験患者はより重度の疾患を伴なう患者よりプラセボからの良好な線引きを示すことが明らかになった。
【0110】
図1は、ベースラインで23以下のADAS−cogスコアを提示するADAS−cogサブグループの対象について、ベースラインからのADAS−cogの変化を示す。軽度の認知症を呈するプラセボ処置対象(破線)は、ADAS−cogにおいてベースラインからのより大きな増大を示す;これは、5mgの化合物Iで処置した軽度のアルツハイマー病を呈する対象(実線)より大きな速度でアルツハイマー病が悪化したことを指摘する。サンプルサイズは患者が試験を離脱するのに伴なって経時変動する。この解析はすべての治療継続データを含む;その際、治療継続は最終投与日プラス28日であると定義される。プラセボグループと5mgの化合物Iで処置したグループとの差は、欠損データを収容する最終観察繰越法(last-observation-carried-forward)を用いて18か月目に統計学的に有意である。
【0111】
レスポンダーは進行しなかった者であり、進行は18か月以内にADAS−cogにおける7ポイント以上の増大である。
【0112】
図2は、プラセボを投与したグループおよび5mgの化合物Iを投与したグループについてのカプラン−マイヤー曲線を示す;その際、いずれかの時点でADAS−cogにおける7ポイント以上の増大到達として事象を定義する。図2のカプラン−マイヤー曲線は、ADAS−cogにより測定して対象をADAS−cogの7ポイント増大の時点で“事象”をもつと分類することにより、アルツハイマー病が衰退している対象の割合を示す(7ポイントが進行であるとする基準: Vellas, et al.による発表, “Long-term changes in ADAS-cog: What is clinically relevant for disease modifying trails in Alzheimer?” (Volume 11, Number 4, 2007; Journal of Nutrition, Health & Aging))。この解析は、事象到達を吸収状態(absorbing state)とするマルコフ連鎖モデル取決め(Markov-Chain model convention)を用いる。低用量グループ(5mg;実線で示す)はすべての時点でプラセボグループ(点線で示す)より優勢であり、線間の距離は、ベースラインで軽度のアルツハイマー病を呈する患者においてアルツハイマー病の進行を遅延させる、プラセボと対比した化合物I処置の優位性の指標となる。
【0113】
実施例3
薬物効果は、同定した範囲内の濃度をもつ患者においてより顕著であった。濃度レベルは体重およびBMIとの相関性が高かった。最適投薬パラダイムは濃度駆動型である。
【0114】
血液試料をそれぞれの試験来院時に採取して、薬物レベルのトラフ濃度を測定した。薬物濃度の分析はADAS−cogにより評価した応答と相関していた。トラフ濃度およびベースラインからのADAS−cogの変化を用いて、化合物の有効性を最適化する濃度範囲を同定するための統計学的モデリングを行なった。予備結果は、他のすべての試験グ
ループのうち化合物I処置対象が最大応答(ADAS−cogにおいてベースラインからの最小変化)をもつ7〜20ng/mlの範囲を示した。他の解析は8〜15ng/mlの範囲になった。ADAS−cogに加えて4種類の支持的な有効性尺度(MMSE、ADL、CDR−sb、およびNPI)を含むように解析を拡大した場合、同定された範囲は8〜13ng/mlであった。
【0115】
解析のために、対象を18か月の試験期間内の最大トラフレベルにより曝露グループに分類した。三分位数カット、四分位数カット、五分位数カット、および十分位数カットを用いる解析は一貫性があった。最適投薬パラダイムを同定するためのPK/PDモデリングを現在行なっている。
【0116】
図3は、化合物Iの投与量に関係なく、濃度駆動型の対象分類を示す棒グラフである。図3には、0.7〜12.8ng/mlの範囲の濃度がADAS−cogにおけるベースラインからのLOCF LSMEAN変化においてプラセボからの名目上の統計学的有意差を示すことが示される;その際、高いスコアほどより進行したアルツハイマー病の指標となる。12.9〜21.0ng/mlのpk濃度についての3番目の棒における濃度範囲も、アルツハイマー病の進行遅延において統計学的にプラセボにより優れている。この解析の結果は、対象に化合物Iを5mgまたは20mgのいずれかで投与し、得られた濃度が8〜13ng/ml(これらの数値を含む)である場合に、プラセボを上回る化合物Iの優位性が明らかであるということである。
【0117】
アルツハイマー病において化合物Iの有効性は、投薬パラダイムが濃度駆動型の場合、固定用量を用いる場合より顕著である。解析は、濃度が低すぎれば有効性は明らかではないことを示す。しかし、濃度が低すぎれば有効性は副作用により遮蔽される可能性があると思われる。濃度が目標区間内にある場合、プラセボを上回る化合物Iの優位性は明らかである。
【0118】
図4は、プラセボ処置対象と測定したメディアンpk濃度が8〜15ng/mlであった試験対象とを比較した経時プロフィールの線グラフを示す。プラセボで処置した対象(破線)は、ADAS−cogにおいてベースラインからのより大きな増大を示す;これは、8〜15ng/mlのメディアンpk濃度の化合物Iで処置した対象(実線)より大きい速度でアルツハイマー病が悪化したことを指摘する。サンプルサイズは患者が試験を離脱するのに伴なって経時変動する。この解析はすべての治療継続データを含む;その際、治療継続は最終投与日プラス28日であると定義される。プラセボグループとこれらの濃度の化合物Iで処置したグループとの差は、欠損データを収容する最終観察繰越法(last-observation-carried-forward)を用いて18か月目に名目上の統計学的有意性をもつ。
【0119】
表2は、プラセボと6か月目から開始して18か月間の試験の残りのコースにわたって維持した化合物I処置とを線引きする統計のまとめを提示する。
【0120】
【表2】
【0121】
表2のデータは、測定したメディアントラフ濃度が8〜15ng/mlである対象において化合物Iによる処置が6か月目から始まって名目上の統計学的有意性で統計学的に線引きされることを示す。解析結論は、特定の濃度範囲で化合物Iによる処置の有益性が明らかであることを指摘する。濃度変動の解析により、体重およびBMIが濃度に影響を及ぼしたという結論が得られた。これらの解析は、体重またはBMIを組み入れる濃度駆動型の処置の必要性を支持する。
【0122】
図5は、濃度をBMIに回帰する回帰分析を示す。濃度(依存性変数)をBMIおよび体重に回帰する回帰分析は、4種類すべての解析において統計学的に有意な負の相関関係を示した:より低い体重またはより低いBMIをもつ対象は、同じ投与量について、より高い体重またはより高いBMI値をもつ対象より高い濃度値をもつ傾向がある。この結果は各用量レベルに該当した;したがって、この所見は両方の用量レベルに当てはまる。これらの解析は入手できるすべての治療継続に基づく;その際、治療継続は最終投与日プラス28日であると定義される。この所見は、目的濃度レベルを生じるために投与した用量に体重またはBMIを組み入れる投薬パラダイムとして解釈される。これらの所見は、濃度が有効性を駆動し、体重またはBMIが濃度を駆動するという主張と一致する。この所見は、低い体重および低いBMIではより低い用量がより高い用量より有効な可能性があることを示唆する。
【0123】
実施例4
対象が高い上昇した血糖値を呈する場合、高用量の化合物Iで処置した際にグルコースの減少がみられる。
【0124】
化合物Iを用いた試験からのデータの統計解析により、特に血糖値が上昇した状態で試
験に参加した対象について血糖値が低下したと結論された。上昇した血糖値を低下させるのは患者に有益であるが、正常またはより低い血糖値を低下させるのは有害な作用をもつ可能性がある。
【0125】
統計解析により、試験に際し、より高い血糖値を呈する対象では20mgの化合物Iで処置した場合にプラセボと比較して低下することが示された。ベースラインでより低い血糖値をもつ対象は有意のグルコース減少を示さなかった。
【0126】
図6a〜dは、3、6および9か月目に入手できるすべてのデータを用いて、処置グループにより示されるベースラインからのグルコースの平均変化を示す。サブグループは、100mg/ml以上のベースライン値をもつすべての対象、上1/3のすべての対象(三分位数カット)、最上25%のすべての対象(四分位数カット)、および最上20%のすべての対象(五分位数カット(示していない))を採用することにより規定された。図6−dは、より低い値または正常値をもつ対象を示し、その際、サブグループはグループメディアンカットにより規定され、このサブグループはグループメディアン未満のベースライン値をもつすべての対象(下半分)である。9か月後、離脱率のため意味ある解析には少なすぎるデータとなった。高用量(20mg)の化合物Iで処置したグループは顕著なグルコース減少傾向を示し、それは処置グループ内で統計学的に有意であり(p<0.05)、かつ2サンプルt−検定を用いてプラセボからも統計学的有意差があった(p<0.05)。正常であるかまたは低いベースライン血糖値をもつ対象については、化合物Iによる処置に関連する減少傾向はない。ベースラインにおける処置グループ間の差は統計学的に有意でない。この試験についての集団メディアン未満の血糖値で試験に参加した対象のサブグループにおいて化合物Iによる処置に関連するグルコース減少を調べる比較は、統計学的に有意でない(p>0.15)。
【0127】
実施例5
5mgの化合物Iによる処置は有害事象の発生を遅延または軽減する。

【0128】
有害事象
特に注目すべき有害事象(adverse events of special interest)(AESI)は潜在的な認知障害に関するものであった:転倒、めまい、錯乱状態、および傾眠。20mg、5mg、およびプラセボで処置したグループについて報告された少なくとも1つのAESIの頻度は、それぞれ50(37%)、49(37%)、および44(33%)であった。個々のAESIは、化合物Iの用量に関係する識別可能なパターンを示さなかった。
【0129】
図7は、用量グループによる、有害事象についての時間−事象のカプラン−マイヤー曲線を示す。

【0130】
図7は、試験日までに無事象である対象の割合を表わした時間−事象曲線を示し、対象が無事象で試験から離脱した場合はカプラン−マイヤー センサリング(打切り)(censoring)した。この解析は、事象到達を吸収状態とするマルコフ連鎖モデル取決めを用いる。低用量グループはすべての時点でプラセボグループより優勢であり、線間の距離はプラセボと対比して5mgの化合物Iによる処置が有害事象をもつ尤度を低下させる有益性の指標となる。

【0131】
図8は、濃度グループによる、有害事象についての時間−事象のカプラン−マイヤー曲線を示す。この時間−事象曲線は、試験日までに無事象である対象の割合を表わし、対象が無事象で試験から離脱した場合はカプラン−マイヤー センサリングした。この解析は、事象到達を吸収状態とするマルコフ連鎖モデル取決めを用いる。14.6ng/dl未満の濃度のグループは、3か月目以後のすべての時点でプラセボグループより優勢であり、線間の距離はプラセボと対比して低濃度の化合物Iによる処置が有害事象をもつ尤度を低下させる有益性の指標となる。
【0132】
本発明の多様な目的を満たす本発明の多様な態様を記載した。これらの態様は本発明の原理の説明にすぎないことを認識すべきである。本発明の精神および範囲から逸脱することなくその多数の改変および適合をなしうることは当業者に容易に認識されるであろう。
本明細書の記載は以下の発明の開示を包含する。
[1]アルツハイマー病を処置する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[2][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンを約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与する、[1]に記載の方法。
[3]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[2]に記載の方法。
[4]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、前記のいずれかに記載の方法。
[5]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[4]に記載の方法。
[6]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、前記のいずれかに記載の方法。
[7][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩の、対象における血清濃度が、約1ng/ml〜約65ng/ml、または約1ng/ml〜約60ng/ml、または約1ng/ml〜約55ng/ml、または約1ng/ml〜約50ng/ml、または約1ng/ml〜約45ng/ml、または約1ng/ml〜約40ng/ml、または約1ng/ml〜約35ng/ml、または約1ng/ml〜約30ng/ml、または約1ng/ml〜約25ng/ml、または約1ng/ml〜約20ng/ml、または約1ng/ml〜約15ng/ml、または約1ng/ml〜約10ng/mlである、前記のいずれかに記載の方法。
[8]対象における血清濃度が約8ng/ml〜約15ng/mlである、[7]に記載の方法。
[9]対象における血清濃度が約12.5ng/mlである、[8]に記載の方法。
[10]アルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale)(ADAS−cog)、臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)(CDR−sb)、アルツハイマー病共同研究−日常生活動作スケール(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living Scale)(ADCS−ADL);神経精神症状評価(Neuropsychiatric Inventory)(NPI)、およびミニメンタルステート査定(Mini-Mental State Evaluation)(MMSE)からなる群から選択される少なくとも1つの評価法における改善、または悪化なし、または悪化速度の低下により処置を判定する、前記のいずれかに記載の方法。
[11]処置の結果、ADAS−cogスコアにおける悪化速度に低下が生じる、[10]に記載の方法。
[12]処置の結果、ADAS−cogスコアの悪化速度に2〜5ポイントのメディアン低下が生じる、[11]に記載の方法。
[13]アルツハイマー病を処置する方法であって、その必要がある対象に、1mg/5kg(対象の体重)/日〜1mg/50kg(対象の体重)/日の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[14]処置を1mg/20kg/日の量で施す、[13]に記載の方法。
[15]軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において終末糖化産物受容体(RAGE)とRAGEリガンドの相互作用を阻害する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[16]RAGEリガンドが、可溶性β−アミロイド、不溶性β−アミロイド、s100b、カルグラニュリン、EN−RAGE、HMGB1(高移動度グループボックス1)、アンホテリン、およびカルボキシメチルリジンからなる群から選択される、[15]に記載の方法。
[17][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を1mg/日から約20mg/日までの範囲の用量で投与する、[15]に記載の方法。
[18]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[17]に記載の方法。
[19]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[15]〜[18]のいずれかに記載の方法。
[20]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[19]に記載の方法。
[21]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[15]〜[20]のいずれかに記載の方法。
[22]その方法により軽度アルツハイマー病を処置する、[1]〜[21]のいずれかに記載の方法。
[23]軽度アルツハイマー病が、23以下のADAS−cogスコアを提示する対象として定義される、[22]に記載の方法。
[24]糖尿病を処置するための方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[25][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンを約1mg/日から約20mg/日までの範囲の用量で投与する、[24]に記載の方法。
[26]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[25]に記載の方法。
[27]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[24]〜[26]のいずれかに記載の方法。
[28]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[27]に記載の方法。
[29]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[24]〜[28]のいずれかに記載の方法。
[30]軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象の退行に関連するグルコース代謝低下を阻害するための方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[31]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[30]に記載の方法。
[32]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[30]〜[31]のいずれかに記載の方法。
[33]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[32]に記載の方法。
[34]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[30]〜[33]のいずれかに記載の方法。
[35]対象において血糖値を低下させる方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[36]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[35]に記載の方法。
[37]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[35]〜[36]のいずれかに記載の方法。
[38]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[37]に記載の方法。
[39]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[35]〜[38]のいずれかに記載の方法。
[40]対象が軽度〜中等度アルツハイマー病に罹患している、[35]に記載の方法。
[41]対象の血糖値が少なくとも5mg/dl、または少なくとも10mg/dl、または少なくとも15mg/dl、または少なくとも20mg/dl、または5〜20mg/dl低下する、[35]に記載の方法。
[42]対象の未処置血糖値が100mg/dlを超える、[35]に記載の方法。
[43]不眠症を処置する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[44]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[43]に記載の方法。
[45]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[43]〜[44]のいずれか1項に記載の方法。
[46]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[45]に記載の方法。
[47]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[43]〜[46]のいずれかに記載の方法。
[48]軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において不眠症を処置する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[49]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[48]に記載の方法。
[50]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[48]〜[49]のいずれかに記載の方法。
[51]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[50]に記載の方法。
[52]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[48]〜[51]のいずれかに記載の方法。
[53]入眠潜時を短縮する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[54]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[53]に記載の方法。
[55]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[53]〜[54]のいずれかに記載の方法。
[56]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[55]に記載の方法。
[57]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[53]〜[56]のいずれかに記載の方法。
[58]軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において入眠潜時を短縮する方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[59]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[58]に記載の方法。
[60]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[58]〜[59]のいずれかに記載の方法。
[61]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[60]に記載の方法。
[62]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[58]〜[61]のいずれかに記載の方法。
[63]軽度〜中等度アルツハイマー病を伴なう対象において有害事象の頻度を低下させる方法であって、その必要がある対象に、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[64]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[63]に記載の方法。
[65]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[63]〜[64]のいずれかに記載の方法。
[66]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[65]に記載の方法。
[67]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[63]〜[66]のいずれかに記載の方法。
[68]有害事象が、転倒、めまい、錯乱状態および傾眠からなる群から、または興奮、抑うつ、不安、攻撃性および情動不安からなる群から選択される、[63]に記載の方法。
[69]その必要がある対象においてHbA1Cレベルを低下させる方法であって、20mg/日未満の量の[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を投与することを含む方法。
[70][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩を約1mg/日から20mg/日未満までの範囲の用量で投与する、[69]に記載の方法。
[71]用量が約5mg/日、または約4mg/日、または約3mg/日、または約2mg/日である、[70]に記載の方法。
[72][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩の投与により、その必要がある対象におけるHbA1Cの量が少なくとも0.1パーセントポイント、または0.2パーセントポイント、または0.3パーセントポイント、または0.4パーセントポイント、または0.5パーセントポイント、または0.6パーセントポイント、または0.7パーセントポイント、または0.8パーセントポイント、または0.9パーセントポイント、または1パーセントポイント低下する、[69]に記載の方法。
[73][3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩の投与により、その必要がある対象におけるHbA1Cの量が7%未満に低下する、[69]に記載の方法。
[74]処置方法がさらに、対象にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与することを含む、[69]〜[73]のいずれか1項に記載の方法。
[75]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[74]に記載の方法。
[76]処置方法がさらに、対象に塩酸メマンチンを投与することを含む、[69]〜[75]のいずれか1項に記載の方法。
[77]1mg〜20mgの[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩;およびアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を含む、医薬組成物。
[78]AChEIが、塩酸ドネペジル、塩酸ガランタミン、酒石酸リバスチグミン、および塩酸タクリンを含む群から選択される、[77]に記載の組成物。
[79]AChEIが、5〜20mg存在する塩酸ドネペジルである、[78]に記載の組成物。
[80]AChEIが、16〜24mg存在する塩酸ガランタミンである、[78]に記載の組成物。
[81]AChEIが、6〜12mg存在する酒石酸リバスチグミンである、[78]に記載の組成物。
[82]AChEIが、40mg存在する塩酸タクリンである、[78]に記載の組成物。
[83]1mg〜20mgの[3−(4−{2−ブチル−1−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−フェニル]−1H−イミダゾール−4−イル}−フェノキシ)−プロピル]−ジエチルアミンまたはその医薬的に許容できる塩;および塩酸メマンチンを含む、医薬組成物。
図1
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図8