特許第6894975号(P6894975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6894975二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894975
(24)【登録日】2021年6月8日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 5/08 20060101AFI20210621BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 5/3465 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20210621BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C08L5/08
   C08K3/16
   C08K5/3465
   C08K3/22
   C08K5/21
   G01N33/483 C
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-532772(P2019-532772)
(86)(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公表番号】特表2020-514437(P2020-514437A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】CN2017116960
(87)【国際公開番号】WO2018113629
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年6月17日
(31)【優先権主張番号】201611181721.2
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505383316
【氏名又は名称】中国科学技▲術▼大学
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツィ, ファ
(72)【発明者】
【氏名】リュー, ヤーティン
(72)【発明者】
【氏名】シェン, ウェン
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0040397(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104155445(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102053085(CN,A)
【文献】 特表2009−534042(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106053439(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102967595(CN,A)
【文献】 特開2008−092938(JP,A)
【文献】 特開昭59−042896(JP,A)
【文献】 Yating Liu, Wen Shen, and Hua Cui,Combined Transition-Metal/Enzyme Dual Catalytic System for Highly Intensive Glow-Type Chemiluminescence-Functionalized CaCO3 Microspheres,Analytical Chemistry,2019年 7月18日,Vol.91,Page.10614-10621
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンヒドロゲルポリマーと、
遷移金属イオンと、
一般式(I)の化合物と、
を含む二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【化1】
(式中、A環はC〜C14芳香環を表す;
とRは独立に水素、末端基がアミノ基に置換された若しくは置換されていない直鎖又は分岐鎖の(C〜C30)アルキル基を表すが、該NRは少なくとも一つのNH末端基を有する。)
【請求項2】
前記A環はC〜C10芳香環を表し、前記RとRは独立に水素、末端基がアミノ基に置換された若しくは置換されていない直鎖又は分岐鎖の(C〜C10)アルキル基を表し、該NRは少なくとも一つのNH末端基を有することを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項3】
前記A環は、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環であることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項4】
前記RとRは独立に、末端基がアミノ基に置換された若しくは置換されていない直鎖又は分岐鎖の(C〜C)アルキル基であることを特徴とする、請求項2に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項5】
前記一般式(I)の化合物は、ルミノール、イソルミノール、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール及びN−(4−アミノヘキシル)−N−エチルイソルミノールから選ばれる1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項6】
前記一般式(I)の化合物はN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールであることを特徴とする、請求項5に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項7】
前記遷移金属イオンはCo2+、Ni2+、Fe3+、Fe2+から選ばれるものであることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項8】
前記遷移金属イオンはCo2+であることを特徴とする、請求項7に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項9】
前記遷移金属イオンと前記一般式(I)の化合物のモル比は5:1〜1:1,000,000であることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項10】
前記遷移金属イオンと前記一般式(I)の化合物のモル比は4:1〜1:100,000であることを特徴とする、請求項9に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項11】
前記遷移金属イオンと前記一般式(I)の化合物のモル比は3:1〜1:10,000であることを特徴とする、請求項9に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項12】
該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、前記キトサンヒドロゲルポリマーの質量分数は60.00〜99.98重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項13】
該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、前記キトサンヒドロゲルポリマーの質量分数は70.00〜99.95重量%であることを特徴とする、請求項12に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項14】
該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、前記キトサンヒドロゲルポリマーの質量分数は81.17〜99.83重量%であることを特徴とする、請求項12に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項15】
前記遷移金属イオンと前記一般式(I)の化合物は、前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に吸着されることを特徴とする、請求項1に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料。
【請求項16】
下記の工程を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造する方法。
1)塩基性溶液にキトサンを添加し、凍結−溶解法によりキトサンをヒドロゲルポリマーにする;2)反応系に一般式(I)の化合物を添加する;3)反応系に遷移金属イオンを添加する;ただし、工程1)ないし3)は下記の順番で行う:
a)工程1)、2)、3)の順番で順次に行う;或いは
b)工程1)、3)、2)の順番で順次に行う;或いは
c)工程1)の後、工程2)と3)を同時に行う;或いは
d)工程3)と工程1)を同時に行った後、工程2)を行う;或いは
e)工程1)、2)及び3)を同時に行う。
【請求項17】
前記塩基性溶液は尿素を含有するアルカリ金属水酸化物水溶液であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
酸化剤の存在下で持続的で且つ高強度に発光でき、且つ酸化剤の存在下でバイオセンサー、分子顕微イメージング、細胞顕微イメージング又は生体試料分析に用いることができる請求項1〜15のいずれか一項に記載の二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、光源としての用途並びに生物学的検出における用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学発光断片と発光増強断片を含む二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料、及びその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化学発光機能性複合材料は近年、その優れた発光特性の故に大きく注目されており、生命科学、材料工学、環境科学等の分野において、その応用は前途有望である。例えば、従来技術では、化学発光性能を持つN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール及び金属イオン触媒で、金ナノ粒子の表面を二機能性にする(非特許文献1)。このような二機能性ナノ金複合材料は、優れた化学発光特性を示すが、合成される二機能性複合材料は暗闇環境において依然として可視性を有さず、且つ最大光強度に達した後、発光強度は速やかに低下することにより、化学発光顕微イメージング等の面で、その光源としての使用はある程度制限される。
【0003】
ヒドロゲルは三次元弾性ネットワーク状構造を有し、物理的又は化学的な架橋によって形成される親水性ポリマーであり、小分子、蛋白質及び他のマクロ分子に対する徐放作用を実現でき、この性質により、それは新規機能性複合材料の理想的な選択となる。
【0004】
発光性質を有する一般的な生物としては、例えばホタルがあり、化学発光材料としては、例えば蛍光棒などがあり、ただし、ホタルが発光し続けるのは、フルオレセインを酸化させるルシフェラーゼの放出の加速により、ルシフェラーゼの回復は加速され、且つ発光反応は触媒され続け、これによって持続発光の効果を達成するからである。一方、蛍光棒が用いるペルオキシシュウ酸エステル発光系は、適切な反応活性を有するアリールシュウ酸エステルを選択する、或いは有機強酸のような適切な触媒を選択することで、持続的な化学発光を得ることができる。ただし、ベンゼン環置換基の電子吸引能が強いほど、中間体の生成にも有利となり、高強度で高量子効率の化学発光反応も発生しやすくなる。一方、有機強酸又は酸無水物を添加することで、化学反応の進行は抑制され、光エネルギーは比較的に安定した傾向で長時間に放出することができる。N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールは既知の発光物質として、その液相化学発光そのものは、持続発光の特徴を有さず、金属イオン触媒を添加した後にも、発光強度を向上することしかできず、発光の持続性を増やすことができない。
【0005】
非特許文献2は、PVP水溶液、ルミノール(luminol)、フェリヘム溶液に、窒素ガス保護下で低温水銀ランプから光を照射し、ヒドロゲルに架橋させ、Hを添加して検出することを報道し、濃度を制御する複数の基礎的検討を行った。しかしながら、該報道からみれば、ルミノールとフェリヘムの標準系にPVPを添加すると、元の標準系の発光強度は約75%低下した。言い換えれば、PVPヒドロゲルは、ルミノール化学発光系の光強度性質にとても不利な影響を与える。また、該報道では、ヒドロゲルが発光持続性の向上に関与することは開示されなかった。
【0006】
非特許文献3は、まずゲル化因子を加熱して溶液にし、次にルミノール、フェリヘムを添加し、混合して加熱し、さらに室温まで冷却してゲルにすることを報道し、この方法で得られたヒドロゲルは、化学発光量子収率が4倍向上し、且つ化学発光半減期が6倍向上した。しかしながら、前記ヒドロゲルは、300秒を経ったら殆ど発光しなくなる。そのため、発光持続性の面で、該ヒドロゲルは依然として需要を満たすことができない。
【0007】
従って、本分野では、高強度を有し且つ長時間に化学発光し続ける複合材料が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Liu, M; Zhang, H; Shu, J; Liu, X; Li F; Cui,H; Analytical Chemistry 2014, 86, 2857−2861
【非特許文献2】Erick Leite Bastosら, Luminescence 2007; 22: 113−125
【非特許文献3】Qigang Wangら, CHEMISTRY, 「Bioinspired Supramolecular Confinement of Luminol and Heme Proteins to Enhance Chemiluminescent Quantum Yield」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一つの目的は、高強度で且つ長時間に化学発光し続ける新規ヒドロゲルポリマー複合材料を提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、前記ヒドロゲルポリマー複合材料を製造するための簡単で迅速な方法、及び前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのため、本発明の一つは、キトサンヒドロゲルポリマーと、遷移金属イオンと、一般式(I)の化合物とを含む二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
式中、A環はC〜C14芳香環を表す;RとRは独立に水素、末端基がアミノ基に置換された若しくは置換されていない直鎖又は分岐鎖の(C〜C30)アルキル基を表すが、該NRは少なくとも一つのNH末端基を有する。
【0014】
本発明のもう一つは、下記の工程を含む前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造する方法を提供する。
1)塩基性水溶液にキトサンを添加し、凍結−溶解法によりキトサンをヒドロゲルポリマーにする;2)反応系に一般式(I)の化合物を添加する;3)反応系に遷移金属イオンを添加する;ただし、工程1)ないし3)は下記の順番で行う:
a)工程1)、2)、3)の順番で順次に行う;或いは
b)工程1)、3)、2)の順番で順次に行う;或いは
c)工程1)の後、工程2)と3)を同時に行う;或いは
d)工程3)と工程1)を同時に行った後、工程2)を行う;或いは
e)工程1)、2)及び3)を同時に行う。
【0015】
本発明のもう一つは、酸化剤の存在下で持続的で且つ高強度に発光できる前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、光源としての用途を提供する。
【0016】
本発明のもう一つは、酸化剤の存在下でバイオセンサー、分子顕微イメージング、細胞顕微イメージング又は生体試料分析に用いることができる前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、生物学的検出における用途を提供する。
【0017】
従来技術に比べて、本発明は下記利点を有するが、それらに限定されない。
1.本発明はキトサンヒドロゲルポリマーと、遷移金属イオンと、一般式(I)の化合物とを組み合わせることで、高強度で且つ長時間に持続する化学発光を実現できる新規二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を獲得した。従来技術と異なり、本発明にかかるヒドロゲルポリマーは、発光分子の化学発光性質に不利な影響を与えない。また、ヒドロゲルの徐放作用によって、ヒドロゲルポリマー複合材料に含まれる発光分子は高強度で且つ持続的な発光を実現することができ、化学発光強度が初期発光強度の90%の範囲内に保持する発光は10.0〜56.4時間続くことができ、化学発光強度が初期発光強度の50%の範囲内に保持する発光は5.0〜75.0時間続くことができる。
2.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は良好なレオロジー性を有する。
3.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、pH7.0〜13.0の範囲内で高強度で且つ持続的な発光を発生できるので、該材料は各種の生物分析に広く適用することができ、その応用は前途有望である。
4.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の合成方法は汎用的な方法であり、他の持続的に発光する化学発光機能性材料の製造に適用できる。
5.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は高強度に発光し且つ長時間に発光し続ける特徴を有し、その発光は暗室中でも見える。そのため、該材料は良好な発光光源となり、非常照明、日常装飾、娯楽等の分野において、その応用は前途有望である。
6.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は高発光強度及び長時間の持続発光という特徴により、化学発光標識の良好な材料として、バイオセンサーの構築及び顕微イメージング解析に用いることができる。
7.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の製造方法は簡単、迅速等の利点を有する;凍結、溶解、攪拌分散等の簡単でやり易い工程しか必要としない。
【0018】
従って、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、新規発光光源の発見にとって重要な意味を持ち、臨床分析、食品安全、環境検知、薬物分析等の分野においても、巨大な応用潜在力と良好な応用前途を有する。
【0019】
以下、図面に基づいて本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一つの実施例にかかる走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2A)は本発明の一つの実施例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料のレオロジー性の概念図である;図2B)は本発明の一つの実施例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、瓶中で倒置される場合の実物図である。
図3】本発明の一つの実施例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光スペクトルと、NaOH溶液における同濃度のN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールの化学発光スペクトルである。
図4図4A)〜E)は本発明の複数の好適例と複数の比較例にかかる化学発光動態曲線図である。
図5】デジタルカメラで撮影した、本発明の一つの好適例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、暗視野条件下での異なる時間の化学発光図であり、ただし、それぞれの場合の左右にある2つのビーカーは、それぞれ酸化剤と材料の異なる混合状態での図を示し、左側のビーカーは材料に酸化剤(H)溶液を直接に添加した発光図であり、右側のビーカーは材料に酸化剤(H)溶液を添加して均一に混合した後の発光図である。
図6図6A)及び図6B)は本発明の一つの好適例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、明視野において、酸化剤を添加する前(A)、並びに酸化剤を添加して材料と所定の期間で反応させた後(B)の顕微イメージング図である;図6C)は本発明の一つの好適例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、暗視野における化学発光顕微イメージング図である。
図7】複数の好適例と一つの比較例にかかる化学発光動態曲線図である。
図8】本発明の一つの実施例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、異なる量でHを添加した場合の化学発光動態曲線図である。曲線a〜eの相応するH溶液の濃度は0.1、1、10、100、1000 mMである。
図9】本発明の一つの実施例にかかる異なるpH値条件下で化学発光動態曲線図である(A〜Gの相応するpHはそれぞれ13、11.92、10.88、9.91、8.95、7.96、7である)。
図10】一つの好適例にかかる化学発光動態曲線である。
図11】一つの実施形態の製造方法で製造される二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光動態曲線である。
図12】一つの実施形態の製造方法で製造される二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光動態曲線である。
図13】2つの比較例にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光動態曲線である。
図14】本発明の複数の好適例にかかる化学発光動態曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
具体的な実施形態
以下、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料及びその製造方法、該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料による新規発光光源、並びに該複合材料を化学発光顕微イメージングのマーカーとして生物試料の検出に適用する等の具体的な実施形態について詳しく説明する。
【0022】
A.二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料
本発明は、キトサンヒドロゲルポリマーと、遷移金属イオンと、一般式(I)の化合物とを含む二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を提供する。
【0023】
本発明において、遷移金属イオンは発光増強剤とも呼ばれ、一般式(I)の化合物は化学発光試薬とも呼ばれる。
【0024】
1.キトサンヒドロゲルポリマー
本発明にかかるキトサンヒドロゲルポリマーは、多孔質構造を有する高分子ポリマーである。本発明にかかるキトサンヒドロゲルポリマーは特に限定されず、本分野で既知のいずれのキトサンヒドロゲルポリマーであってもよい。
【0025】
一つの実施形態において、本発明にかかるキトサンヒドロゲルポリマーは、塩基性環境でキトサン分子から形成される。
【0026】
一つの実施形態において、キトサン分子は、ヒドロゲルを形成する前に或いはヒドロゲルを形成する過程において、遷移金属イオン及び/又は一般式(I)の化合物を吸着又は捕捉することができる。
【0027】
一つの実施形態において、キトサン分子がヒドロゲルを形成した後、前記キトサンヒドロゲルポリマーの多孔質構造に遷移金属イオン及び/又は一般式(I)の化合物を富化することができる。
【0028】
本発明にかかるキトサンヒドロゲルポリマーは塩基性条件で安定に存在し、且つ良好な化学発光試薬及び/又は発光増強剤を徐放する効果を有する。
【0029】
2.一般式(I)の化合物
本発明に適用される化学発光試薬は下記の一般式(I)を有する:
【0030】
【化2】
【0031】
式中、A環はC〜C14芳香環、好ましくはC〜C10芳香環、より好ましくはベンゼン環のような6個の炭素原子を有する芳香環を表す。本発明において、用語の「A環はC〜C14芳香環を表す」とは、炭素原子を合計で6〜14個有する単環又は縮合環の芳香族炭素環を意味し、例えば、それはベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環であってもよい。
【0032】
とRは独立に水素、末端基がアミノ基に置換された若しくは置換されていない直鎖又は分岐鎖のC〜C30、好ましくはC〜C20、より好ましくはC〜C10、最も好ましくはC〜C、さらに好ましくはC〜Cアルキル基を表すが、該NRは少なくとも一つのNH末端基を有する。
【0033】
本発明において、用語の「NRは少なくとも一つのNH末端基を有する」とは、NR自身がNHである、或いはRとRのうちの少なくとも一つがNH末端基含有アルキル基であることを意味する。
【0034】
本発明において、用語の「C〜C30アルキル基」の実例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、アミノメチル、アミノエチル、1−アミノプロピル、2−メチル−アミノエチル、1−アミノブチル、2−メチル−アミノプロピル等を含むが、それらに限定されない。
【0035】
本発明の一つの好ましい実例において、前記一般式(I)のルミノール系化学発光試薬は下記のものから選ばれる:
【0036】
【化3】
【0037】
ただし、RとRは前記と同様に限定される。
【0038】
一つの実施形態において、代表的な一般式(I)のルミノール系化学発光試薬は下記のものからなる群から選ばれるが、それらに限定されない:
【0039】
【化4】
【0040】
もう一つの実施形態において、前記一般式(I)のルミノール系化学発光試薬はN−(4−アミノブチル)−N−エチルナフトヒドラジドである;
【0041】
【化5】
【0042】
本発明のもう一つの実施形態において、一般式(I)の化合物は下記式を有する:
【0043】
【化6】
【0044】
ただし、RとRは前記と同様に限定される。
【0045】
本発明にかかるキトサンヒドロゲルポリマーは、均一な多孔質スポンジ状構造を有し、その中ではマイクロメートル、ひいてはナノメートルレベルの空孔が含まれ、該多孔質スポンジ状構造は前記一般式(I)の化合物を大量に富化できる。しかも、後続の使用において、該多孔質スポンジ状構造は一般式(I)の化合物を徐放することにより、該複合材料に持続的で且つ安定な化学発光特性をもたらすことができる。
【0046】
3.遷移金属イオン
本発明の発明者らは深く研究した結果、遷移金属イオンがキトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散されている一般式(I)の化合物に対して、発光を触媒・増強する効果を有することを見出した。本発明にかかる遷移金属イオンは、特に限定されず、化学発光増強作用を有するものであればよい。
【0047】
本発明の一つの実施形態において、前記遷移金属イオンは第VIII族、IB族、IIB族、VIB族の遷移金属イオン、又はそれらの組み合わせから選ばれる。
【0048】
一つの実施形態において、代表的な遷移金属イオンは下記のものからなる群から選ばれるが、それらに限定されない:Co2+、Ni2+、Fe3+、Fe2+
【0049】
一つの最も好ましい実施例において、前記遷移金属イオンはCo2+である。
【0050】
もう一つの実施形態において、前記遷移金属イオンは、前記キトサンヒドロゲルポリマーの表面に吸着され、或いは前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散される。
【0051】
本文において、特に断らない限り、化学発光の「発光増強剤」と「発光触媒断片」や「発光増強断片」とは互いに交換して使用することができ、いずれも化学発光反応において化学発光反応系に添加して、化学発光強度を大幅に増強させることができる試薬又は断片を意味する。
【0052】
本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料において、一般式(I)の化合物から由来の発光断片と、遷移金属イオンから由来の発光増強断片との相対量は特に限定されず、該発光増強断片が十分に発光断片の発光強度を向上できればよい。本発明の一つの実施形態において、前記発光増強断片と発光断片のモル比は5:1〜1:1,000,000、好ましくは4:1〜1:100,000、より好ましくは3:1〜1:10,000である。
【0053】
本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料において、キトサンヒドロゲルポリマーと遷移金属イオンとの相対量は特に限定されないが、前記機能性キトサンヒドロゲルポリマー複合材料のレオロジー性と持続発光の観点から、本発明の一つの実施形態において、該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、前記キトサンヒドロゲルポリマーの質量分数は60.00〜99.98重量%、好ましくは70.00〜99.95重量%、より好ましくは81.17〜99.83重量%である。本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は優れた化学発光特性を有する。前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、酸化剤溶液と反応することで化学発光を発生する。前記酸化剤はH、O、ClO、I、IO、MnOを含むが、それらに限定されない。本発明にかかる複合材料は、酸化剤の存在下で持続的で且つ高強度に発光できる。本発明の一つの実例において、化学発光反応の条件は:10〜1000マイクロリットルの0.1M H溶液を10〜1000マイクロリットルの二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料に注入し、高強度で且つ持続的な化学発光を発生する。
【0054】
一つの好ましい実例において、前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、その化学発光断片がN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールから由来し、その発光増強断片がCo2+から由来する。
【0055】
一つの実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、pH値が7.0〜13.0のH水溶液中で高強度で且つ持続的な化学発光を発生でき、化学発光強度が初期発光強度の90%の範囲内に保持する発光は10.0〜56.4時間続くことができ、化学発光強度が初期発光強度の50%の範囲内に保持する発光は5.0〜75.0時間続くことができる。一つの好ましい実施形態において、酸化剤溶液のpH値は10.0〜11.5であることが好ましい。
【0056】
特定の理論に制限されるものではないが、発明者の推測によると、本発明にかかる複合発光材料において、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料と酸化剤溶液は混合直後に十分な接触を生じないため、ヒドロゲルの徐放作用を利用することで、化学発光試薬及び/又は発光増強剤を空孔からゆっくり放出させ、徐々に酸化剤と接触させ、高強度で且つ持続的な化学発光を発生させることができる;一方、酸化剤溶液がキトサンヒドロゲルに対して遅い分解作用を有する可能性があり、該作用もヒドロゲルポリマーの空孔からの化学発光試薬及び/又は発光増強剤の放出に有利であり、これで持続的で高強度な発光はより一層促進される。逆に、普通の液相条件下で、一般式(I)の化合物の化学発光試薬及び発光増強剤は、酸化剤と混合直後にも十分に接触して発光することができ、得られるのは「フラッシュ」タイプの化学発光である。本発明にかかる複合材料は、従来の普通の液相における一般式(I)の化合物の発光動態過程を変え、ヒドロゲルの徐放作用及びH水溶液によるキトサンの分解を利用することで、一般式(I)の化合物と発光増強剤が二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料から持続的に放出し、且つ酸化剤と持続的に接触して発光することを実現でき、これにより高強度で持続的な化学発光過程を実現することができる。
【0057】
もう一つの実施形態において、暗室中で、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料をデジタルカメラで撮影し、化学発光の経時変化を記録することで、以上の推測を実証した。酸化剤を何の混合もせずに直接に複合材料に注入すると、化学発光は最初にH水溶液のような酸化剤とゲル材料の境界で発生し、且つ境界における発光層の厚さは増え続け、これは、小分子に対するヒドロゲルの徐放作用によって、一般式(I)の化合物の発光断片がヒドロゲルポリマー複合材料から放出されるからである。また、キトサンヒドロゲルに対するH水溶液の分解作用により、キトサンの分解物の中、質量の小さい破片(一般式(I)の化合物も含む)はHの分解で生じる酸素ガスによって酸化剤H溶液の上部へ持ち上げられるが、質量の大きい破片(一般式(I)の化合物も含む)はヒドロゲルポリマー複合材料の底部に沈み、溶液の上部とコロイドの底部で顕著な発光が見える。ヒドロゲルの分解物は系中で上下に動くことで、未反応の化合物を酸化剤とさらに接触して反応させ、新たな発光を発生する。化学発光反応は上記のように進行し続き、持続的な化学発光を発生する。特に、例えば本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を2mL取り、酸化剤溶液を添加すると、72時間後にも、暗室中で化学発光の発生が依然として見える。
【0058】
もう一つの実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は良好なレオロジー性を有する。例えば、前記複合材料を一定量取り、ガラス瓶に入れて倒置すると、流動性がない。キトサンヒドロゲルポリマー複合材料コロイドの非流動性により、所定の方式で塗布又は配置することで、所要のパターン、例えば太極図の様態を形成できる。
【0059】
もう一つの実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は化学発光顕微イメージングに適用される。暗視野での化学発光顕微イメージング図において、反応で生じる気泡と発光開始から発光終了までの過程ははっきり見える。同一の位置にある反応前後のヒドロゲルポリマー複合材料の様態を明視野で記録すると、それは反応前の透明なコロイド状態から反応後の不透明な沈殿状態に変化したことで、以上の観点をさらに実証した。
【0060】
本文に用いられるように、用語の「発光機能性」や「化学発光機能性」等は互いに交換して使用することができ、いずれも発光試薬を含ませることで、ヒドロゲルポリマー複合材料に化学発光特性をもたらすことを意味する。
【0061】
B.二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の製造方法
本発明はさらに、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を簡単で迅速に製造する、環境に優しい方法を提供する。
【0062】
本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、下記のものからなる群から選ばれる方法によって製造される:1)反応系にキトサンを添加し、凍結−溶解法によりキトサンをヒドロゲルポリマーにする;2)反応系に一般式(I)の化合物を添加する;3)反応系に遷移金属イオンを添加する;ただし、工程1)ないし3)は下記の順番で行う:
a)工程1)、2)、3)の順番で順次に行う;或いは
b)工程1)、3)、2)の順番で順次に行う;或いは
c)工程1)の後、工程2)と3)を同時に行う;或いは
d)工程3)と工程1)を同時に行った後、工程2)を行う;或いは
e)工程1)、2)及び3)を同時に行う。
【0063】
反応系のpH値は約7〜13であることが好ましく、より好ましいpH値は約8〜12で、さらに好ましいpH値は約9〜11で、最も好ましいpH値は約11である。遷移金属イオンと一般式(I)の化合物のモル比は5:1〜1:1,000,000であることが好ましく、より好ましくは4:1〜1:100,000で、さらに好ましくは3:1〜1:10,000である。該二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、前記キトサンヒドロゲルポリマーの質量分数は60.00〜99.98重量%、好ましくは70.00〜99.95重量%、より好ましくは81.17〜99.83重量%である。
【0064】
一つの好ましい実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、下記の手段で製造できる:まず遷移金属イオンをキトサンと混合し、次に凍結−溶解法によりそれをヒドロゲルポリマーにし、その後一般式(I)の化学発光試薬を前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散又は拡散して入らせる。
【0065】
もう一つの好ましい実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、下記の手段で製造できる:まず凍結−溶解法によりキトサンをヒドロゲルポリマーにし、その後一般式(I)の化学発光試薬と遷移金属イオンを前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散又は拡散して入らせる。
【0066】
もう一つの好ましい実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、下記の手段で製造できる:まず一般式(I)の化学発光試薬と、遷移金属イオンと、キトサンとを混合し、その後凍結−溶解法によりそれをヒドロゲルポリマー複合材料にする。
【0067】
本発明に用いられる凍結−溶解法とは、反応物を0〜−50℃において1〜20時間凍結してから、室温で解凍し、所要のヒドロゲル材料を得ることを意味する。
【0068】
一つの具体的な実施形態において、本発明にかかる前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造する方法は、下記の工程を含む:
1)キトサンと、遷移金属イオンを含有する塩基性溶液とを混合する;
2)得られた混合物を0〜−50℃で1〜20時間凍結してから、室温で解凍し、遷移金属イオン付きキトサンヒドロゲルポリマーを得る;
3)一般式(I)の化合物を2〜15時間の攪拌によって前記金属イオン付きキトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散させることで、前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得る。
【0069】
もう一つの具体的な実施形態において、本発明にかかる前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造する方法は、下記の工程を含む:
1)キトサンと、遷移金属イオン及び一般式(I)の化合物を含有する塩基性溶液とを混合する;
2)得られた混合物を0〜−50℃で1〜20時間凍結してから、室温で解凍し、前記二機能性キトサンヒドロゲルポリマー複合材料を得る。
【0070】
もう一つの具体的な実施形態において、本発明にかかる前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造する方法は、下記の工程を含む:
1)キトサンを0〜−50℃で1〜20時間凍結してから、室温で解凍し、キトサンヒドロゲルポリマーを得る;
2)一般式(I)の化合物と金属イオンを2〜15時間の攪拌によって前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散させることで、前記二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得る。
【0071】
本発明において、前記塩基性溶液はアルカリ金属水酸化物水溶液である。好ましくは、前記塩基性溶液は尿素を含有するアルカリ金属水酸化物水溶液である。前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム及びそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。前記アルカリ金属水酸化物の濃度は特に限定されない。
【0072】
本発明において、前記遷移金属イオンは、その可溶性アルカリ金属塩から由来するものであり、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硫酸塩及びその組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0073】
本発明において、一般式(I)の化合物又は遷移金属イオンは、簡単な手段(例えば攪拌等の手段)で前記キトサンヒドロゲルポリマーの空孔中に分散又は拡散して入らせることができる。前記攪拌としては、2〜15時間の快速攪拌が好ましい。
【0074】
C.本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の、発光光源及び化学発光顕微イメージングにおける使用
本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は、高発光強度及び長時間の持続発光という特徴を有することにより、発光光源の製造、及びマーカーとして化学発光顕微イメージングによる物質の検出・分析に用いることができる。
【0075】
本発明の一つの実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は発光光源として、各種の非常時、水中発光、及び装飾性発光材料に用いることができる。
【0076】
本発明のもう一つの実施形態において、本発明にかかる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料はマーカーとして化学発光センサーの構築に用いることができ、顕微イメージング技術によって生物試料、食品又は飲料試料、薬物試料、環境試料、化学試料等を分析できる。
【0077】
本発明にかかるセンサーは、各種の分野及び各種の試料の検出と分析に広く適用することができ、生物試料、食品又は飲料試料、薬物試料、環境試料、化学資料の検出と分析を含むが、それらに限定されない。生物試料は、例えば血液、血漿、血清、尿、糞、痰、分泌物(例えば汗、涙等)、培養物等を含んでもよい;前記環境試料は空気試料、水試料、土壌試料であってもよい;前記化学試料は中間物、最終産物等を含んでもよい。
【0078】
以下、具体的な実施例によって、さらに本特許の発明内容を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いるもので、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。
【実施例】
【0079】
計測方法:
(1)走査型電子顕微鏡;
計測方法:得られた試料を5倍希釈してから凍結乾燥し、乾燥したサンプルを走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL JEM−6700F、日本)で走査型電子顕微鏡分析を行った。
【0080】
(2)誘導結合プラズマ原子発光;
計測方法:得られた試料について、原子発光スペクトルメーター(OPTIMA 7000DV)で金属イオンCo2+の含有量を計測した。
【0081】
(3)レオロジー性分析;
計測方法:得られた試料をレオメーター(TA AR−G2)で計測し、半径が40mmでテーパー角が1°のテーパー盤を用いて、スリット幅を1mmとして、計測温度を20℃として、歪みを1%として、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が周波数Fに従って変化する関係を計測した。
【0082】
(4)化学発光スペクトル;
計測方法:得られた試料について、蛍光分光光度計(F−7000、Hitachi、日本)を用いて、光源を消して、酸化剤溶液(H溶液)を添加して、試料の化学発光スペクトルを計測した。
【0083】
(5)デジタルカメラによる発光図の撮影:
計測方法:得られた試料を2ml取り、小型ビーカーに入れ、酸化剤溶液(H溶液)を2ml添加し、暗室中において25sの遅延で撮影し、所定の時間で間隔をあけ、発光状況を記録した。
【0084】
(6)化学発光顕微イメージング;
計測方法:得られた試料を20μl取り、セルに入れ、酸化剤溶液(H溶液)を20μl添加し、暗室中において顕微鏡(Olympus IX83広域蛍光顕微鏡)で観察し、10sの遅延で撮影し、微視的状態での発光状況を記録した。明視野において、酸化剤溶液を添加する前の、及び所定の期間の発光反応後の試料の顕微イメージング図をそれぞれ記録した。
【0085】
(7)化学発光特性;
静的注射ルミノメーター(BPCL、北京)で二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光特性を検討した。ガラス製セルに、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を注入し、その後ディスポーザブルシリンジで0.1M H溶液(pH範囲7.0〜11.92のブリトンロビンソン緩衝液(即ちB−R緩衝液)やpH範囲12.0〜13.0のNaOH溶液に溶解され、好ましい結果はpH=10.88であった)を添加し、静的注射の負高圧を450〜1000Vとした。静的注射ルミノメーターで化学発光強度と発光の持続性を計測したと共に、化学発光動態曲線を記録した。
【0086】
実施例1:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.36重量%とした(材料1)。
【0087】
本実施例において、一般式(I)の化合物はN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール(「ABEI」)であり、発光増強剤は金属イオンCo2+であり、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、キトサンの質量分数は99.36重量%であった。製造方法は以下の通りであった:
【0088】
(i)ビーカー中において、室温で塩基性溶液を配合し、即ちLiOH、KOH、尿素及びHOを質量比4.5:7:8:80.5で混合した。他のビーカーにおいて、前記塩基性溶液を15ml取り、10mM CoCl水溶液を600μL添加し、さらにキトサン粉末(市販品として獲得し、平均分子量>1000kDa、脱アセチル化度>90%)を塩基性溶液におけるキトサンの質量分数が2.5重量%になるように添加し、マグネチックスターラーで5分間攪拌してから、冷蔵庫に入れて−30℃で凍結し、完全に固形になるまで凍結した。凍結した材料を取り出し、室温で解凍し、金属イオンCo2+単機能性ヒドロゲルポリマーを得た。
【0089】
(ii)室温・攪拌状態で、工程(i)で得られた金属イオンCo2+単機能性ヒドロゲルポリマーに、0.1M NaOH溶液に溶解された4mM ABEI水溶液を1.5ミリリットル速やかに添加し、マグネチックスターラーで10時間攪拌し、ABEI・金属イオンCo2+二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料(材料1)を得、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、キトサンの質量分数は99.36重量%であった。
【0090】
前記計測方法(1)、(3)、(4)によって材料1の様態、レオロジー性及び化学発光スペクトルをそれぞれ計測したと共に、計測方法(5)〜(7)の方法によって、それぞれデジタルカメラ、顕微鏡及び静的注射ルミノメーターを用いて材料1の化学発光特性を調査し、結果はそれぞれ図1〜6に示す。
【0091】
実施例2:金属イオンNi2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Ni2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.36重量%とした(材料2)。
【0092】
工程(i)でCoClの代わりに同じモル量のNiClを用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料2を得た。前記計測方法(7)によって材料2の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4B)における曲線cに示す。
【0093】
実施例3:金属イオンFe3+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Fe3+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.36重量%とした(材料3)。
【0094】
工程(i)でCoClの代わりに同じモル量のFeClを用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料3を得た。前記計測方法(7)によって材料3の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4B)における曲線dに示す。
【0095】
実施例4:金属イオンFe2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Fe2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.36重量%とした(材料4)。
【0096】
工程(i)でCoClの代わりに同じモル量のFeSOを用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料4を得た。前記計測方法(7)によって材料4の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4B)における曲線eに示す。
【0097】
実施例5:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:10とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.55重量%とした(材料5)。
【0098】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに1mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料5を得た。前記計測方法(7)によって材料5の化学発光動態曲線を計測し、結果は図7における曲線bに示す。
【0099】
実施例6:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:2とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.51重量%とした(材料6)。
【0100】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに5mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料6を得た。前記計測方法(7)によって材料6の化学発光動態曲線を計測し、結果は図7における曲線cに示す。
【0101】
実施例7:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を2:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.37重量%とした(材料7)。
【0102】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに20mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料7を得た。前記計測方法(7)によって材料7の化学発光動態曲線を計測し、結果は図7における曲線eに示す。
【0103】
実施例8:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を3:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.28重量%とした(材料8)。
【0104】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに30mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料8を得た。前記計測方法(7)によって材料8の化学発光動態曲線を計測し、結果は図7における曲線fに示す。
【0105】
実施例9:金属イオンCo2+・ルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とルミノールのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.62重量%とした(材料9)。
【0106】
工程(ii)でN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールの代わりに同じモル量のルミノールを用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料9を得た。前記計測方法(7)によって材料9の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4Cにおける曲線fに示す。
【0107】
N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールの代わりにルミノールを化学発光試薬として用いると、発光強度が少ししか低下せず、持続的な発光効果が保持していることは分かった。
【0108】
実施例10:金属イオンCo2+・イソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とイソルミノールのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.62重量%とした(材料10)。
【0109】
工程(ii)でN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールの代わりに同じモル量のイソルミノールを用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料10を得た。前記計測方法(7)によって材料10の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4Dにおける曲線gに示す。
【0110】
N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールの代わりにイソルミノールを化学発光試薬として用いると、発光強度が少ししか低下せず、持続的な発光効果が保持していることは分かった。
【0111】
実施例11:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.83重量%とした(材料11)。
【0112】
工程(i)で、キトサンをその質量分数が99.83重量%になるような質量で添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料11を得た。前記計測方法(7)によって材料11の化学発光動態曲線を計測し、結果は図10に示す。
【0113】
実施例12:第2の方法により金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造した(材料12)。
【0114】
本実施例において、一般式(I)の化合物はN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールであり、発光増強剤は金属イオンCo2+であり、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数は99.36重量%であった。製造方法は以下の通りであった:
【0115】
(i)ビーカー中において、室温で塩基性溶液を配合し、即ちLiOH、KOH、尿素及びHOを質量比4.5:7:8:80.5で混合した。他のビーカーにおいて、前記塩基性溶液を15ml取り、さらにキトサン粉末を塩基性溶液におけるキトサンの質量分数が2.5重量%になるように添加し、マグネチックスターラーで5分間攪拌してから、冷蔵庫に入れて−30℃で凍結し、完全に固形になるまで凍結した。凍結した材料を取り出し、室温で解凍し、キトサンヒドロゲルポリマーを得た。
【0116】
(ii)室温・攪拌状態で、工程(i)で得られたキトサンヒドロゲルポリマーに、4mM ABEI水溶液(0.1M NaOH溶液に溶解されたもの)を1.5ミリリットル、及び10mM CoCl水溶液を600μL速やかに添加し、マグネチックスターラーで10時間攪拌し、ABEI・金属イオンCo2+二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数は99.36重量%であった(材料12)。
【0117】
前記計測方法(7)によって材料12の化学発光動態曲線を計測し、結果は図11に示す。
【0118】
実施例13:第3の方法により金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造した(材料13)。
【0119】
本実施例において、一般式(I)の化合物はN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールであり、発光増強剤は金属イオンCo2+であり、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数は99.36重量%であった。製造方法は以下の通りであった:
【0120】
ビーカー中において、室温で塩基性溶液を配合し、即ちLiOH、KOH、尿素及びHOを質量比4.5:7:8:80.5で混合した。他のビーカーにおいて、前記塩基性溶液を15ml取り、10mM CoCl水溶液を600μL、及び4mM ABEI水溶液(0.1M NaOH溶液に溶解されたもの)を1.5ミリリットル添加し、さらにキトサン粉末を塩基性溶液におけるキトサンの質量分数が2.5重量%になるように添加し、マグネチックスターラーで5分間攪拌してから、冷蔵庫に入れて−30℃で凍結し、完全に固形になるまで凍結した。凍結した材料を取り出し、室温で解凍し、ABEI・金属イオンCo2+二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得、ただし、Co2+とABEIのモル比は1:1であり、キトサンの質量分数は99.36重量%であった(材料13)。
【0121】
前記計測方法(7)によって材料13の化学発光動態曲線を計測し、結果は図12に示す。
【0122】
実施例14:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:100とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を95.76重量%とした(材料14)。
【0123】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに1mM CoCl溶液を用い、4mM ABEI溶液の代わりに40mM ABEI溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料14を得た。前記計測方法(7)によって材料14の化学発光動態曲線を計測し、結果は図14における曲線aに示す。
【0124】
実施例15:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1,000とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を95.76重量%とした(材料15)。
【0125】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに0.1mM CoCl溶液を用い、4mM ABEI溶液の代わりに40mM ABEI溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料15を得た。前記計測方法(7)によって材料15の化学発光動態曲線を計測し、結果は図14における曲線bに示す。
【0126】
実施例16:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:10,000とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を95.76重量%とした(材料16)。
【0127】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに0.01mM CoCl溶液を用い、4mM ABEI溶液の代わりに40mM ABEI溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料16を得た。前記計測方法(7)によって材料16の化学発光動態曲線を計測し、結果は図14における曲線cに示す。
【0128】
実施例17:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:100,000とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を95.76重量%とした(材料17)。
【0129】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに0.001mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料17を得た。前記計測方法(7)によって材料17の化学発光動態曲線を計測し、結果は図14における曲線dに示す。
【0130】
実施例18:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を60.00重量%とした(材料18)。
【0131】
工程(i)で、キトサンをその質量分数が60.00重量%になるような質量で添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料18を得た。該発光材料は材料1と殆ど完全に同様な発光効果を有した。
【0132】
実施例19:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を70.00重量%とした(材料19)。
【0133】
工程(i)で、キトサンをその質量分数が70.00重量%になるような質量で添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により材料19を得た。該発光材料は材料1と殆ど完全に同様な発光効果を有した。
【0134】
比較例1:金属イオンCo2+単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造した(比較材料1)。
【0135】
工程(ii)を省略した、即ち工程(i)のみを実施した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により、Co2+単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得た(比較材料1)。前記計測方法(7)によって比較材料1の化学発光動態曲線を計測したが、化学発光は観察されなかった。
【0136】
比較例2:N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造した(比較材料2)。
【0137】
本比較例の目的は、該N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールヒドロゲル複合物に対する金属イオンCo2+の触媒作用を調査することにある。
【0138】
工程(i)でCoCl溶液の代わりに同じ体積の水を添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により、ABEI単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を得た(比較材料2)。前記計測方法(7)によって比較材料2の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4B)における曲線bに示す。
【0139】
比較例3:N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールと金属イオンCo2+の混合溶液を製造した(比較材料3)。
【0140】
本比較例の系において、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールと金属イオンCo2+は互いに混合されただけであり、ヒドロゲルポリマー内に存在していなかった。本比較例の目的は、化学発光の持続性に対するヒドロゲルポリマーマトリックスの影響を調査することにある。
【0141】
前記特定の塩基性溶液に、実施例1と同じ量のCoCl溶液とN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール溶液を添加し、均一に混合し、比較材料3を得た。前記計測方法(7)によって比較材料3の化学発光動態曲線を計測し、結果は図4E)における曲線hに示す。
【0142】
比較例4:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を50.00重量%とした(比較材料4)。
【0143】
工程(i)で、キトサンをその質量分数が50.00重量%になるような質量で添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により比較材料4を得た。前記計測方法(7)によって比較材料4の化学発光動態曲線を計測したが、ヒドロゲルが形成されたのではなく、フロック様の液状懸濁材料が得られた。
【0144】
比較例5:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を1:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.85重量%とした(比較材料5)。
【0145】
工程(i)で、キトサンをその質量分数が99.85重量%になるような質量で添加した以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により比較材料5を得た。前記計測方法(7)によって比較材料5の化学発光動態曲線を計測したが、該材料が持続的に発光できないことは発見され、結果は図13A)に示す。
【0146】
比較例6:金属イオンCo2+・N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料を製造し、ただし、Co2+とABEIのモル比を5.5:1とし、二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数を99.05重量%とした(比較材料6)。
【0147】
工程(i)で10mM CoCl溶液の代わりに55mM CoCl溶液を用いた以外に、実施例1において材料1を製造した方法と同じ方法により比較材料6を得た。前記計測方法(7)によって比較材料6の化学発光動態曲線を計測したが、持続的に発光できず、結果は図13B)に示す。
【0148】
図1は材料1の走査型電子顕微鏡写真である。図1から分かるように、材料1は均一な多孔質スポンジ状構造であり、これらのマイクロメートル、ひいてはナノメートルレベルの空孔は、発光試薬及び発光増強剤を有効に富化し、且つこれらの物質の徐放を実現することができるため、該複合材料は高強度で且つ持続的な化学発光特性を有する。
【0149】
図2A)は材料1のレオロジー性の計測結果である。周波数走査の結果から分かるように、周波数が0.1Hz〜10Hzの範囲内にある場合、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”は周波数の上昇に従って上昇する。しかも、該周波数範囲内において、貯蔵弾性率G’の数値は常に損失弾性率G”より大きく、これによって材料1がゲルであることを証明できる。図2B)は材料1の入れた瓶を倒置する場合の実物図であり、材料1が流動していないことが示され、これによって材料1のゲル性質を証明できる。
【0150】
図3は材料1の化学発光スペクトルである。図3から分かるように、材料1(曲線b)の最大発光波長は450nm程度であり、単独のN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール溶液(曲線a)の最大発光波長に近い。材料1にN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールが含まれ、且つ化学発光がN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールから由来することは証明される。また、計測方法(2)に記載の誘導結合プラズマ原子発光によって材料1におけるCo2+の含有量を計測したところ、13.21μg/gであり、材料1に金属イオンCo2+が含まれることは証明される。以上の特性データから明らかなように、金属イオンCo2+及びN−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールを共に含有する二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料は成功に合成された、即ち本発明にかかる二機能性キトサンヒドロゲルポリマー複合材料が得られた。
【0151】
化学発光性能
図4A)は材料1(曲線a)の化学発光動態曲線である。図4B)はそれぞれ、比較材料2(曲線b)、材料2(曲線c)、材料3(曲線d)及び材料4(曲線e)の化学発光動態曲線である。図4C)と4D)はそれぞれ、材料9(曲線f)及び材料10(曲線g)の化学発光動態曲線である。図4E)は比較材料3(曲線h)の化学発光動態曲線である。曲線aとbの比較から分かるように、材料1は抜群の化学発光性能を有し、ABEI単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料(比較材料2)に比べて、化学発光強度は少なくとも40倍向上した。これは、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール発光系に対する金属イオンCo2+の良好な触媒効果によるものである。曲線hから分かるように、キトサンが無い場合、強く発光した後すぐに減衰し、70分間の化学反応を経った後、比較材料3(即ちABEIとCo2+の混合物)の発光は既に0ぐらいに低減した。本発明にかかる材料14〜17との比較から分かるように(下表1に示すように)、本発明にかかるヒドロゲルポリマー複合材料は、高強度で且つ持続的な発光を実現でき、材料14〜17の化学発光強度が初期発光強度の90%の範囲内に保持する発光は22.3〜56.4時間続くことができ、化学発光強度が初期発光強度の50%の範囲内に保持する発光は28.6〜75.0時間も続くことができた。これから分かるように、本発明にかかるヒドロゲル材料は、元々のABEIの「フラッシュ」タイプの発光から新規な「フラット」タイプの発光への変換を実現した。本発明にかかる二機能性複合材料は、高強度で且つ持続的な優れた発光を示し、発光時間を著しく延長し、該持続的で高強度な発光は、キトサンヒドロゲルの特別な多孔質構造の徐放機能によるものである。実験結果から分かるように、本発明にかかる材料1は持続的で高強度に発光するという顕著な効果を有し、新規な優れた発光光源材料である。
【0152】
【表1】
【0153】
備考:材料14〜17において、複合材料の総重量に対して、キトサンの重量百分率はいずれも95.76重量%であった。
【0154】
図4B)における曲線c、d及びeから分かるように、金属イオンNi2+、Fe3+、Fe2+をそれぞれ含有する二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料も、いずれも高強度で且つ持続的な化学発光特性を有し、しかもこれらの材料の化学発光強度はいずれもABEI単機能性ヒドロゲルポリマー複合材料より高い。該特性は、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノール発光系に対する各錯体金属イオンの良好な触媒効果及びキトサンヒドロゲルの徐放作用によるものである。
【0155】
また、図4C)における曲線f及び図4D)における曲線gから分かるように、ルミノールとイソルミノールをそれぞれ含有する二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料も、いずれも高強度で且つ持続的な化学発光特性を有する。
【0156】
発明者らは、さらにデジタルカメラ撮影及び化学発光顕微イメージング技術を用いて、材料1の発光強度及び持続性をモニターし、結果はそれぞれ図5及び図6に示す。
【0157】
図5は異なる時点でデジタルカメラで記録した材料1の発光状況である。図面に示すように、左右にある2つのビーカーは、それぞれ酸化剤と材料の異なる混合状態での図を示し、図中、左側のビーカーは材料に酸化剤(H)溶液を何の攪拌もせずに直接に添加した発光図であり、両者の反応過程を良好に示すことができる。写真の結果によれば、発光は最初に酸化剤H溶液とゲル材料の境界で発生し(1分間の図を参照する)、且つ境界における発光層の厚さは増え続け(15分間の図を参照する)、これは、小分子に対するヒドロゲルの徐放作用によって、一般式(I)の化合物の発光断片がヒドロゲルポリマー複合材料から放出されるからである。また、キトサンヒドロゲルに対するH水溶液の分解作用により、一般式(I)の化合物の発光断片はヒドロゲルポリマー複合材料からさらに放出され、質量の小さい破片(一般式(I)の化合物も含む)はHの分解で生じる酸素ガスによって酸化剤H溶液の上部へ持ち上げられる(該減少を記録した25分間の図を参照する)が、質量の大きい破片(一般式(I)の化合物も含む)はヒドロゲルポリマー複合材料の底部に沈むため、酸化剤溶液相の上部でもコロイド相の底部でも化学発光が見える(120分間の図を参照する)。ヒドロゲルの分解物は系中で上下に動く(図5に示すように、上部と底部の発光層は厚くなりつつある)ことで、未反応の一般式(I)の化合物を酸化剤とさらに接触して反応させ、新たな発光を発生する。このように、化学発光反応は進行し続くことに従って、持続的で安定な化学発光を発生する。右側のビーカーは材料に酸化剤(H)溶液を添加して、振盪して均一に混合した後の発光図であり、それから分かるように、最初の所定の期間では強い可視光があり、且つ発光強度は時間の経過に従ってある程度低下するが、3h後にもまだ比較的に強い可視光がある。発光材料として使用する場合、材料と酸化剤の混合手段は材料の使用に影響を与えないことは分かる。2mlの材料を取るだけでも以上のような発光効果を有することから、該材料が良好な発光強度と持続的な発光という特徴を有し、新規発光光源を製造する優れた材料であることは分かる。
【0158】
図6は顕微鏡下での材料1の化学発光図であり、該材料の様態と化学発光過程は微視的に見える。明視野において、A)では材料1が反応前の透明なコロイド状態であり、B)では材料が所定の期間で反応した後、不透明な沈殿状態に変化したことから、前記材料1が徐放作用及びキトサンに対するHの分解作用によって持続的で安定な発光を実現するという推測はさらに証明される。暗視野において、C)から分かるように、化学発光反応の進行に従って、気泡が生じ、且つ発光が暗いから明るくなり、そしてまた暗くなる過程も撮影されたことで、材料の発光の持続性は証明される。材料1は、発光強度が高い且つ持続的に発光するという特徴を有するので、発光マーカーとして顕微イメージングによる物質の分析・測定に適用できる。
【0159】
実験により、材料1の発光は可制御性を有し、適量の体積で添加することだけで、所要の長時間の安定な発光を実現でき、発光光源を製造する良好な材料であることもさらに発見された。
【0160】
図7はCo2+とABEIのモル比が異なる二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料の化学発光動態曲線であり、曲線a〜fはそれぞれ、比較材料2、本発明にかかる材料5、6、1、7及び8に相応する。Co2+とABEIの異なるモル比が化学発光強度及び発光の持続性・安定性に与える影響は分かる。Co2+とABEIのモル比の増加に従って、化学発光強度は増強するが、所定の程度に達した後、発光の持続性は低下する。そのため、適切なCo2+とABEIのモル比の範囲内に入っていてこそ、高強度で且つ持続的に発光する複合材料が得られる。
【0161】
発明者らはさらに、酸化剤の量も本発明にかかる複合材料の化学発光強度及び持続性にある程度の影響を与えることを見出した。材料1に異なる濃度のH(0.1mM〜1000mM)溶液を添加し、化学発光の検出を行い、結果は図8に示し、上記の異なる濃度のH溶液を添加する場合はそれぞれ曲線a、b、c、d、eに相応する。Hの濃度の増加に従って、化学発光の強度も持続性も相応に増強することは分かる。しかしながら、Hの濃度が1000mMに増加した場合(曲線e)、発光強度は少し低下し、且つ発光の持続性・安定性も低下したが、これは、H濃度が大きすぎて、多すぎる気泡が生じたからであるかもしれない。
【0162】
本発明の発明者らはさらに、本発明にかかる材料1は広い範囲のpH値条件下で化学発光を発生できることを見出し、図9に示すように、本発明にかかる材料1はpH7.0〜13.0の区間内で優れた発光特性を有する。特に、本発明にかかる材料1は生理的環境(pH7.0〜7.96)の空間内でも優れた発光性能を有する。これにより、本発明にかかる材料1は各種の生物的検出に適用でき、ルミノール及びその類似物系による化学発光の応用範囲は大きく拡大される。
【0163】
発明者らはさらに、キトサンの異なる質量分数が最終の複合材料のレオロジー性にある程度の影響を与えることを見出した。複合材料の総重量に対して、キトサンの質量分数は60重量%未満であると、複合材料の発光持続性は十分に持続的ではないが、キトサンの質量分数は99.83重量%を超えると、瞬時的な強い発光が発生し、その後徐々に低下してしまう(図13Aに示す)。また、Co2+イオンの含有量もキトサンのゲル化にある程度の影響を与え、キトサンの質量が一定に保持する場合、Co2+イオンの含有量は高すぎると、キトサンのゲル化に不利である(図13Bに示す)。そのため、Co2+イオン、化学発光分子及びキトサンの三者の相対含有量は所定の範囲内に入っていてこそ、高強度で且つ持続的に発光する複合材料が得られる。
【0164】
図11と12はそれぞれ、他の実施形態の製造方法で製造される二機能性ヒドロゲルポリマー複合材料(それぞれ材料12と13に相応する)の化学発光動態曲線である。これらの二種類の方法はいずれも高強度で且つ持続的な複合材料を製造できることは分かる。
【0165】
本発明の具体的な実施形態は既に詳細に説明されたが、当業者ならば理解できるように、公開された全ての教示に基づき、それらの詳細について各種の変更や置換をすることができ、それらの変更はいずれも本発明の保護の範囲に入る。本発明の全範囲は、添付される特許請求の範囲及びそれらの任意の均等物によって決められる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14