特許第6895089号(P6895089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6895089炭素材料製造用前駆体材料、それを含有する炭素材料製造用前駆体組成物材料、及びそれらを用いた炭素材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895089
(24)【登録日】2021年6月9日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】炭素材料製造用前駆体材料、それを含有する炭素材料製造用前駆体組成物材料、及びそれらを用いた炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/56 20060101AFI20210621BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20210621BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20210621BHJP
【FI】
   C08F20/56
   D01F9/22
   C01B32/05
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-100899(P2018-100899)
(22)【出願日】2018年5月25日
(65)【公開番号】特開2019-167516(P2019-167516A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2018-56558(P2018-56558)
(32)【優先日】2018年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慈
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/008626(WO,A1)
【文献】 特開2007−269968(JP,A)
【文献】 特開2007−046195(JP,A)
【文献】 特開2011−213773(JP,A)
【文献】 特開2019−172801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/56
C08F 120/56
C08F 220/56
C08L 33/26
C01B 32/05
D01F 9/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1万〜200万であり、かつ、分子量の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が5.0以下であるアクリルアミド系ポリマーからなることを特徴とする炭素材料製造用前駆体材料
【請求項2】
請求項1に記載の炭素材料製造用前駆体材料と、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有することを特徴とする炭素材料製造用前駆体組成物材料
【請求項3】
請求項1に記載の炭素材料製造用前駆体材料又は請求項2に記載の炭素材料製造用前駆体組成物材料に耐炎化処理を施し、次いで、炭化処理を施すことを特徴とする炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料製造用前駆体材料、それを含有する炭素材料製造用前駆体組成物材料、及びそれらを用いた炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料の1種である炭素繊維の製造方法としては、従来から、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる炭素繊維前駆体に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が主として採用されている(例えば、特公昭37−4405号公報(特許文献1)、特開2015−74844号公報(特許文献2)、特開2016−40419号公報(特許文献3)、特開2016−113726号公報(特許文献4))。この方法に用いられるポリアクリロニトリルは安価な汎用溶媒に溶解しにくいため、重合や紡糸の際に、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
【0003】
一方、ポリアクリルアミドは水溶性のポリマーであり、重合や成形加工(フィルム化、シート化、紡糸等)の際に、安価で環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができるため、炭素材料の製造コストの削減が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭37−4405号公報
【特許文献2】特開2015−74844号公報
【特許文献3】特開2016−40419号公報
【特許文献4】特開2016−113726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的なポリアクリルアミドを用いて作製した炭素材料前駆体は、耐炎化処理や炭化処理により質量が大きく減少するため、耐炎化収率及び炭化収率が低くなるという問題があることを本発明者らは見出した。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アクリルアミド系ポリマーからなり、高い耐炎化収率及び炭化収率を有する炭素材料製造用前駆体材料(以下、「炭素材料前駆体」ともいう)、それを含有する炭素材料製造用前駆体組成物材料(以下、炭素材料前駆体組成物」ともいう)、及びそれらを用いた炭素材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体において、分子量の多分散度が小さいアクリルアミド系ポリマーを用いることによって、耐炎化収率及び炭化収率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の炭素材料製造用前駆体材料は、重量平均分子量が1万〜200万であり、かつ、分子量の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が5.0以下であるアクリルアミド系ポリマーからなることを特徴とするものである。また、本発明の炭素材料製造用前駆体組成物材料は、前記本発明の炭素材料製造用前駆体材料と、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有することを特徴とするものである。さらに、本発明の炭素材料の製造方法は、前記本発明の炭素材料製造用前駆体材料又は前記本発明の炭素材料製造用前駆体組成物材料に耐炎化処理を施し、次いで、炭化処理を施すことを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明の炭素材料前駆体が高い耐炎化収率及び炭化収率を有する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の炭素材料前駆体は、分子量の多分散度が小さいアクリルアミド系ポリマーからなるものである。このような分子量の多分散度が小さいアクリルアミド系ポリマーは、酸素存在下(例えば、空気中)での耐熱分解性の低い低分子量のアクリルアミド系ポリマーの含有量が少ないため、酸素雰囲気下で加熱処理(耐炎化処理)を施しても、熱分解されにくく、多くの耐炎化物が生成する(炭素材料前駆体の耐炎化収率が高くなる)と推察される。また、耐炎化処理を施すと、アクリルアミド系ポリマーの分子内には、脱アンモニア反応や脱水反応によって耐熱性の高いイミド環構造が形成されたり、部分酸化反応等の後の脱水反応等によって不飽和結合が形成されたりするため、生成した耐炎化物も耐炎化処理において熱分解されにくくなり、炭素材料前駆体の耐炎化収率が高くなると推察される。さらに、生成した耐炎化物は、耐熱性に優れているため、不活性ガス雰囲気下での加熱処理(炭化処理)を施しても、熱分解されにくく、多くの炭素材料が生成する(耐炎化物の炭化収率が高くなる)と推察される。さらに、本発明の炭素材料前駆体組成物においては、添加成分である酸やその塩がアクリルアミド系ポリマーの脱アンモニア反応や脱水反応を大きく促進するため、アクリルアミド系ポリマー分子内には耐熱性の高いイミド環構造や不飽和結合が形成されやすく、生成した耐炎化物は耐炎化処理において更に熱分解されにくくなり、炭素材料前駆体の耐炎化収率が更に高くなると推察される。また、生成した耐炎化物は、耐熱性に更に優れているため、炭化処理を施しても、更に熱分解されにくく、更に多くの炭素材料が生成する(耐炎化物の炭化収率が更に高くなる)と推察される。
【0010】
一方、一般的なアクリルアミド系ポリマーは、分子量分布が幅広く、分子量の多分散度が大きい。これは、多くの低分子量体(例えば、重量平均分子量が8000以下、特に5000以下のポリマー)と多くの高分子量体が含まれているためである。このような多くの低分子量体を含有するアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体に耐炎化処理を施すと、低分子量体が熱分解される。また、この熱分解によって生じた熱によって、高分子量体も熱分解されるため、耐炎化物の生成量が少なくなる(炭素材料前駆体の耐炎化収率が低くなる)と推察される。また、アクリルアミド系ポリマーに多くの高分子量体が含まれると、ポリマー鎖同士の絡み合いやポリマー鎖間の水素結合が多く、擬似的な架橋構造が多いため、加熱処理によってポリマー分子が分子内環化せず、耐熱性の高い環状構造(イミド環構造)や不飽和結合が形成されにくく、炭素材料前駆体の耐炎化収率や耐炎化物の炭化収率が低下すると推察される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクリルアミド系ポリマーからなり、高い耐炎化収率及び炭化収率を有する炭素材料前駆体を得ることが可能となる。また、このような本発明の炭素材料前駆体を用いることによって、効率よく炭素材料を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
〔炭素材料前駆体〕
先ず、本発明の炭素材料前駆体について説明する。本発明の炭素材料前駆体は、重量平均分子量が1万〜200万であり、かつ、分子量の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が5.0以下であるアクリルアミド系ポリマーからなるものである。
【0014】
(アクリルアミド系ポリマー)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量は1万〜200万である。アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量が前記上限を超えると、フィルム化、シート化、紡糸等における成形加工性(紡糸性)が低下する。他方、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量が前記下限未満になると、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体の強度が低下する。さらに、前記アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の上限としては、成形加工性(紡糸性)が更に向上するという観点から、150万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、80万以下が更に好ましく、50万以下がまた更に好ましく、30万以下が特に好ましく、20万以下が最も好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の下限としては、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体の強度が更に向上するという観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。
【0015】
また、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は5.0以下である。アクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度が前記上限を超えると、酸素存在下(例えば、空気中)における熱安定性が低く、耐炎化収率及び炭化収率が低下する。さらに、前記アクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度の上限としては、酸素存在下における熱安定性が向上し、耐炎化収率及び炭化収率が高くなるという観点から、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましく、2.8以下がまた更に好ましく、2.5以下が特に好ましく、2.3以下が最も好ましい。また、前記アクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度の下限としては、1.0以上であれば特に制限はないが、成形加工性(紡糸性)が向上するという観点から、1.05以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上が更に好ましく、1.3以上が特に好ましく、1.5以上が最も好ましい。
【0016】
なお、本発明において、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量、数平均分子量及び分子量の多分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて求められるものである。
【0017】
さらに、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーは、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)及び水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)のうちの少なくとも一方に可溶なものであることが好ましい。これにより、炭素材料前駆体を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。また、後述する炭素材料前駆体組成物を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、アクリルアミド系ポリマーと後述する添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。さらに、得られた炭素材料前駆体組成物を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。なお、前記水系混合溶媒中の有機溶媒の含有量としては、前記水性溶媒に不溶又は難溶なアクリルアミド系ポリマーが有機溶媒を混合することによって溶解する量であれば特に制限はない。また、このようなアクリルアミド系ポリマーの中でも、より低コストで安全に炭素材料前駆体組成物や炭素材料を製造することが可能となるという観点から、前記水性溶媒に可溶なアクリルアミド系ポリマーが好ましく、水に可溶な(水溶性の)アクリルアミド系ポリマーがより好ましい。
【0018】
このようなアクリルアミド系ポリマーとしては、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であっても、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であってもよいが、炭素材料前駆体の耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体が好ましい。
【0019】
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体におけるアクリルアミド系モノマー単位の含有量の下限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性の観点から、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上が特に好ましい。また、アクリルアミド系モノマー単位の含有量の上限としては、炭素材料前駆体の耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、99.9モル%以下が好ましく、99モル%以下がより好ましく、95モル%以下が更に好ましく、90モル%以下が特に好ましく、85モル%以下が最も好ましい。
【0020】
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量の下限としては、炭素材料前駆体の耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましく、10モル%以上が特に好ましく、15モル%以上が最も好ましい。また、他の重合性モノマー単位の含有量の上限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性の観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が特に好ましい。
【0021】
前記アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド等のN−アルキルアクリルアミド;N−シクロヘキシルアクリルアミド等のN−シクロアルキルアクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N−フェニルアクリルアミド等のN−アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’−メチレンビスアクリルアミド等のN,N’−アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミド等のN−アルキルメタクリルアミド;N−シクロヘキシルメタクリルアミド等のN−シクロアルキルメタクリルアミド;N,N−ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N−(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N−(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N−フェニルメタクリルアミド等のN−アリールメタクリルアミド;ジアセトンメタクリルアミド;N,N’−メチレンビスメタクリルアミド等のN,N’−アルキレンビスメタクリルアミドが挙げられる。これらのアクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのアクリルアミド系モノマーの中でも、水性溶媒又は水系混合溶媒への溶解性が高いという観点から、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、ジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドが特に好ましい。
【0022】
前記他の重合性モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーが挙げられる。前記シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2−ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメタクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメタクリロニトリル等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、イタコン酸無水物等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等が挙げられ、前記ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらの他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの他の重合性モノマーの中でも、炭素材料前駆体の成形加工性(紡糸性)、耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0023】
このような本発明の炭素材料前駆体を製造する方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法を採用することができる。前記重合反応の中でも、得られるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度を小さくでき、耐炎化収率及び炭化収率が向上し、さらに、炭素材料前駆体を低コストで製造できるという観点から、ラジカル重合が好ましい。また、溶液重合を採用する場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解するものを使用することが好ましく、低コストで安全に製造できるという観点から、前記水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒等)又は前記水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)を使用することがより好ましく、前記水性溶媒を使用することが特に好ましく、水を使用することが最も好ましい。
【0024】
前記ラジカル重合においては、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、溶媒として前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。また、得られるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度を小さくでき、耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、前記重合開始剤に代えて又は加えて、テトラメチルエチレンジアミン等の従来公知の重合促進剤やn−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等の分子量調節剤を用いることが好ましく、前記前記重合開始剤と前記重合促進剤とを併用することが好ましく、過硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
【0025】
重合開始剤を添加する際の温度としては特に制限はないが、得られるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度を小さくでき、耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましく、55℃以上が最も好ましい。また、前記重合反応の温度としては特に制限はないが、重合開始剤を速く消費することによって、得られるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度を小さくでき、耐炎化収率及び炭化収率が向上するという観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましく、75℃以上が最も好ましい。一方、従来の一般的なアクリルアミド系ポリマーの製造方法では、アクリルアミドの重合性が高く、重合時の除熱が容易ではないため、重合速度を抑えるために比較的低温及び/又は重合開始剤の添加量を低減して重合を行なっているため、得られるアクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度が大きくなる傾向にある。
【0026】
また、本発明の炭素材料前駆体を製造する際には、重合反応後のアクリルアミド系ポリマーを溶媒を用いて重量平均分子量が8000以下の低分子量体を抽出除去してもよい。これにより、アクリルアミド系ポリマーの分子量の多分散度を小さくすることができ、耐炎化収率及び炭化収率が向上する。抽出除去に用いられる溶媒としては特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の有機溶媒が挙げられる。また、抽出除去の際の温度としては特に制限はないが、低分子量体が抽出除去されやすいという観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましく、60℃以上が特に好ましい。
【0027】
〔炭素材料前駆体組成物〕
次に、本発明の炭素材料前駆体組成物について説明する。本発明の炭素材料前駆体組成物は、前記本発明の炭素材料前駆体と、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有するものである。本発明の炭素材料前駆体に、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分を添加することによって、耐炎化収率及び炭化収率が更に向上する。
【0028】
本発明の炭素材料前駆体組成物において、このような添加成分の含有量としては、耐炎化収率及び炭化収率がより向上するという観点から、前記炭素材料前駆体100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.2〜50質量部がより好ましく、0.5〜30質量部が更に好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
【0029】
前記酸としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、このような酸の塩としては、金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。特に、これらの添加成分のうち、得られる炭素材料前駆体の耐炎化収率及び炭化収率が更に向上するという観点から、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、及びこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、及びこれらのアンモニウム塩が特に好ましい。
【0030】
前記添加成分は、前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(より好ましくは前記水性溶媒、特に好ましくは水)に可溶なものであることが好ましい。これにより、炭素材料前駆体組成物を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。また、得られた炭素材料前駆体組成物を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。
【0031】
このような本発明の炭素材料前駆体組成物を製造する方法としては、溶融状態の前記炭素材料前駆体に前記添加成分を直接混合する方法(溶融混合)、前記炭素材料前駆体と前記添加成分とをドライブレンドする方法(乾式混合)、前記添加成分を含有する水性溶液又は水系混合溶液、或いは前記炭素材料前駆体は完全溶解していないが前記添加成分は溶解している溶液に所望の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状)に成形した前記炭素材料前駆体を浸漬したり、通過させたりする方法等を採用することも可能であるが、使用する前記炭素材料前駆体及び前記添加成分が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、前記炭素材料前駆体と前記添加成分とを均一に混合することができるという観点から、前記炭素材料前駆体と前記添加成分とを前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。また、湿式混合としては、前記炭素材料前駆体の製造に際し、前述の重合を前記水性溶媒中又は前記水系混合溶媒中で行なった場合に、重合後等に前記添加成分を混合する方法も採用することができる。さらに、得られる溶液から前記溶媒を除去することによって本発明の炭素材料前駆体組成物を回収し、これを後述する炭素材料の製造に用いることができるほか、前記溶媒を除去することなく、得られる溶液をそのまま後述する炭素材料の製造に用いることもできる。また、前記湿式混合においては、より低コストで安全に炭素材料前駆体組成物を製造できるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。さらに、前記溶媒を除去する方法としては特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を採用することができる。
【0032】
〔炭素材料の製造方法〕
次に、本発明の炭素材料の製造方法について説明する。本発明の炭素材料の製造方法としては、前記本発明の炭素材料前駆体又は本発明の炭素材料前駆体組成物に、直接炭化処理を施すことも可能であるが、高収率で炭素材料が得られるという観点から、耐炎化処理を施し、次いで、炭化処理を施すことが好ましい。
【0033】
本発明の炭素材料の好ましい製造方法においては、先ず、本発明の炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物に酸化性雰囲気下(例えば、空気中)で加熱処理を施す(耐炎化処理)。本発明の炭素材料前駆体は、低分子量体の含有量が少ないアクリルアミド系ポリマーからなるものであり、耐炎化処理によって熱分解されにくく、また、炭素材料前駆体を構成するアクリルアミド系ポリマーの構造が耐炎化処理によって耐熱性の高い構造に変換されるため、高い耐炎化収率を示す。さらに、耐炎化処理が施された炭素材料前駆体(耐炎化物)は、耐熱性の高い構造を有しているため、高い炭化収率を示す。特に、前記炭素材料前駆体組成物においては、添加成分である酸やその塩の触媒作用により、アクリルアミド系ポリマーの脱アンモニア反応や脱水反応が促進されるため、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されやすく、アクリルアミド系ポリマーの構造が耐熱性の高い構造に変換されやすいため、炭素材料前駆体の耐炎化収率や耐炎化物の炭化収率が更に高くなる。
【0034】
ここで、前記環状構造(イミド環構造)は、例えば、赤外分光法によりイミド環のイミド結合のカルボニルの伸縮運動に由来する吸収ピークが1690cm−1付近から1800cm−1付近の範囲に存在することによって確認することができる。なお、アクリルアミド系ポリマーのアクリルアミド単位のカルボニルの伸縮運動に由来する吸収ピークは、1680cm−1付近に存在するが、前記環状構造(イミド環構造)が形成されることによって、減少又はゼロ化する。
【0035】
このような耐炎化処理における加熱温度としては、500℃以下が好ましく、150〜450℃がより好ましく、耐熱性の高い構造に効率的に変換し、耐炎化・炭化の総収率が高くなるという観点から、200〜420℃が更に好ましく、240〜410℃がまた更に好ましく、280〜400℃が特に好ましく、310〜390℃が最も好ましい。耐炎化処理における加熱温度が前記上限を超えると、生成する耐炎化物が熱分解される傾向にあり、他方、前記下限未満になると、アクリルアミド系ポリマーの脱アンモニア反応や脱水反応が促進されず、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されにくいため、生成する耐炎化物の耐熱性が低く、炭素材料前駆体の耐炎化収率や耐炎化物の炭化収率が低下する傾向にある。また、耐炎化処理における加熱時間としては特に制限はなく、長時間(例えば1時間超)の加熱も可能であるが、コスト低減の観点から1〜60分間が好ましい。
【0036】
次に、このようにして耐炎化処理が施された炭素材料前駆体(耐炎化物)又はそれを含有する組成物に、不活性雰囲気下(窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中)、前記耐炎化処理における加熱温度よりも高い温度で加熱処理を施す(炭化処理)。これにより、耐炎化物が炭化し、所望の炭素材料が得られる。このような炭化処理における加熱温度としては500℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。また、加熱温度の上限としては3000℃以下が好ましく、2000℃以下がより好ましい。さらに、炭化処理における加熱時間としては特に制限はないが、1〜60分間が好ましく、1〜30分間がより好ましい。また、前記炭化処理においては、例えば、先に1000℃未満の温度で加熱処理を行なった後、1000℃以上の温度で加熱処理を行うといったように、複数回の加熱処理を行うこともできる。なお、本発明の炭素材料の製造方法においては、前記耐炎化処理を施さずに、このような炭化処理を、本発明の炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物に直接施すことも可能であるが、炭素材料の総収率が高くなるという観点から、耐炎化処理を施した後、炭化処理を施すことが好ましい。また、本発明にかかる「炭化処理」には、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000〜3000℃で加熱することによって行われる「黒鉛化」を含んでいてもよい。
【0037】
また、本発明の炭素材料の製造方法においては、耐炎化処理の前に(耐炎化処理を施さなかった場合には炭化処理の前に)、使用する炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物を予め所望の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状)に成形加工することが好ましい。このとき、炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物をそのまま加圧成形したり、溶融状態の炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物を用いて溶融成形(例えば、溶融キャスト成形、溶融押出成形、射出成形、溶融紡糸、スパンボンド、メルトブローン、遠心紡糸)してもよいが、本発明の炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、成形加工性が高まるという観点から、前記炭素材料前駆体又は前記炭素材料前駆体組成物を前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に溶解し、得られた水性溶液又は水系混合溶液を用いて成形すること、或いは、前述の重合後の炭素材料前駆体の溶液又は前述の湿式混合で得られる炭素材料前駆体組成物の溶液をそのまま若しくは所望の濃度に調整した後、成形すること、が好ましい。このような成形方法としては、溶液キャスト成形、湿式成形、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸、ゲル紡糸、フラッシュ紡糸、又はエレクトロスピニングを行うことが好ましい。これにより、所望の形状の炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物を低コストで安全に製造することができる。また、より低コストで安全に炭素材料を製造することができるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することがより好ましく、水を使用することが特に好ましい。このように予め所望の形状に成形加工した炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物を用いることによって、所望の形状の炭素材料(例えば、炭素フィルム、炭素シート、炭素繊維)を製造することができる。
【0038】
このような本発明の炭素材料の製造方法によって、炭素含有率の高い(好ましくは、元素分析により求められる組成比において90%以上)炭素材料を得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した各アクリルアミド系ポリマーの合成方法、比較例で使用したポリアクリルアミドの調製方法、及びそれらの分子量の測定方法を以下に示す。
【0040】
(合成例1)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)12.8g(0.18mol)をイオン交換水180mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン1.35ml(0.009mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら40℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム0.252g(0.0011mol)を添加した後、60℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のポリアクリルアミド(PAAm)を得た。
【0041】
(合成例2)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)12.8g(0.18mol)をイオン交換水180mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン1.35ml(0.009mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム0.152g(0.00067mol)を添加した後、80℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のポリアクリルアミド(PAAm)を得た。
【0042】
(合成例3)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン6.75ml(0.045mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら50℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.52g(0.0067mol)を添加した後、50℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。
【0043】
このAAm/AN共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C−NMR測定を行なった。得られた13C−NMRスペクトルにおいて、約121ppm〜約122ppmに現れる、アクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークと約177ppm〜約182ppmに現れる、アクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークとの強度比に基づいて、AAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0044】
(合成例4)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン6.75ml(0.045mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら40℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム4.11g(0.018mol)を添加した後、60℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0045】
(合成例5)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン6.75ml(0.045mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら45℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム2.52g(0.011mol)を添加した後、78℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0046】
(合成例6)
過硫酸アンモニウムの量を6.17g(0.027mol)に変更した以外は合成例4と同様にして、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0047】
(合成例7)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン6.75ml(0.045mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム2.52g(0.011mol)を添加した後、78℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0048】
(合成例8)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン6.75ml(0.045mol)及び過硫酸アンモニウム4.11g(0.018mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら室温(23℃)から60℃まで10分間かけて昇温した後、60℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0049】
(合成例9)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)12.8g(0.18mol)をイオン交換水180mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン1.35ml(0.009mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら30℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム0.252g(0.0011mol)を添加し、撹拌しながら30℃から50℃まで10分間かけて昇温した後、50℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のポリアクリルアミド(PAAm)を得た。
【0050】
(合成例10)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)96.0g(1.35mol)及びアクリロニトリル(AN)23.9g(0.45mol)をイオン交換水480mlに溶解し、得られた水溶液にテトラメチルエチレンジアミン3.75ml(0.025mol)を添加して、窒素雰囲気下、撹拌しながら30℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム1.03g(0.0045mol)を添加し、撹拌しながら30℃から50℃まで10分間かけて昇温した後、50℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0051】
(比較調製例1)
ポリアクリルアミド10%水溶液(東京化成工業株式会社製、製品品番:A0140)を真空乾燥させることにより前記水溶液から水を除去して、水溶性のポリアクリルアミド(PAAm)を得た。
【0052】
(比較合成例1)
アクリルアミド(AAm、和光純薬工業株式会社製)48.0g(0.675mol)及びアクリロニトリル(AN)11.95g(0.225mol)をイオン交換水1140mlに溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下、過硫酸アンモニウム6.17g(0.027mol)を添加した後、60℃で6時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に投入して共重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AAm/AN共重合体)を得た。このAAm/AN共重合体中のアクリルアミド(AAm)単位とアクリロニトリル(AN)単位との比を合成例3と同様にして算出したところ、AAm/AN=75mol%/25mol%であった。
【0053】
<重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及び分子量の多分散度の測定>
合成例1〜2、9及び比較調製例1で得られたPAAm並びに合成例3〜8、10及び比較合成例1で得られたAAm/ANの重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)を用いて下記の条件で測定し、分子量の多分散度(Mw/Mn)を算出した。これらの結果を表1に示す。
〔測定条件〕
カラム:TSKgel GMPWXL×2本+TSKgel G2500PWXL×1本
溶離液:100mM硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=80/20
溶離液流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
分子量標準物質:標準ポリエチレンオキシド/標準ポリエチレングリコール
検出器:示差屈折率検出器
【0054】
【表1】
【0055】
表1において、合成例1と合成例2、合成例4と合成例5、合成例6と合成例7とを対比すると明らかなように、重合温度を高くすることによって、同等の重量平均分子量であっても、分子量の多分散度が小さいアクリルアミド系ポリマーが得られることがわかった。これは、重合温度を高くすることによって、重合速度が速くなるため、モノマーの消費速度が速くなるとともに、重合開始剤の使用量を低減することができ、その結果、重合反応の後半において、残存するモノマーと重合開始剤とによる低分子量体の生成が抑制されるためと推察される。
【0056】
(実施例1)
炭素材料前駆体として合成例1で得られたPAAm(Mw=13万、Mw/Mn=3.0)をそのまま使用した。
【0057】
(実施例2)
炭素材料前駆体として合成例1で得られたPAAm(Mw=13万、Mw/Mn=3.0)を、炭素材料前駆体濃度が20質量%となるようにイオン交換水に溶解した。得られた水溶液に、前記炭素材料前駆体100質量部に対して2質量部のリン酸水素二アンモニウムを添加し、撹拌して完全に溶解させた。得られた水溶液から水を減圧留去した後、得られた固体成分を真空乾燥して、PAAm及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0058】
(実施例3)
炭素材料前駆体として合成例2で得られたPAAm(Mw=13万、Mw/Mn=2.6)をそのまま使用した。
【0059】
(実施例4)
炭素材料前駆体として合成例2で得られたPAAm(Mw=13万、Mw/Mn=2.6)を用いた以外は実施例2と同様にして、PAAm及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0060】
(実施例5)
リン酸水素二アンモニウムの代わりにリン酸を、前記炭素材料前駆体100質量部に対して2質量部添加した以外は実施例4と同様にして、PAAm及びリン酸を含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0061】
(実施例6)
炭素材料前駆体として合成例3で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=13万、Mw/Mn=2.7)をそのまま使用した。
【0062】
(実施例7)
炭素材料前駆体として合成例3で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=13万、Mw/Mn=2.7)を用いた以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0063】
(実施例8)
炭素材料前駆体として合成例4で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.2万、Mw/Mn=2.6)をそのまま使用した。
【0064】
(実施例9)
炭素材料前駆体として合成例4で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.2万、Mw/Mn=2.6)を用いた以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0065】
(実施例10)
炭素材料前駆体として合成例5で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.0万、Mw/Mn=2.2)をそのまま使用した。
【0066】
(実施例11)
炭素材料前駆体として合成例5で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.0万、Mw/Mn=2.2)を用いた以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0067】
(実施例12)
リン酸水素二アンモニウムの代わりにリン酸を、前記炭素材料前駆体100質量部に対して2質量部添加した以外は実施例11と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸を含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0068】
(実施例13)
炭素材料前駆体として合成例6で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=5.4万、Mw/Mn=3.0)をそのまま使用した。
【0069】
(実施例14)
炭素材料前駆体として合成例6で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=5.4万、Mw/Mn=3.0)を用い、リン酸水素二アンモニウムの添加量を前記炭素材料前駆体100質量部に対して5質量部に変更した以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0070】
(実施例15)
炭素材料前駆体として合成例7で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=5.4万、Mw/Mn=2.1)をそのまま使用した。
【0071】
(実施例16)
炭素材料前駆体として合成例7で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=5.4万、Mw/Mn=2.1)を用いた以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0072】
(実施例17)
リン酸水素二アンモニウムの添加量を前記炭素材料前駆体100質量部に対して5質量部に変更した以外は実施例16と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0073】
(実施例18)
炭素材料前駆体として合成例8で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.8万、Mw/Mn=3.8)をそのまま使用した。
【0074】
(実施例19)
炭素材料前駆体として合成例8で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=6.8万、Mw/Mn=3.8)を用い、リン酸水素二アンモニウムの代わりにホウ酸を、前記炭素材料前駆体100質量部に対して5質量部添加した以外は実施例2と同様にして、AAm/AN共重合体及びホウ酸を含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0075】
(実施例20)
炭素材料前駆体として合成例9で得られたPAAm(Mw=50万、Mw/Mn=4.6)をそのまま使用した。
【0076】
(実施例21)
炭素材料前駆体として合成例9で得られたPAAm(Mw=50万、Mw/Mn=4.6)を用い、リン酸水素二アンモニウムの代わりにリン酸を、前記炭素材料前駆体100質量部に対して2質量部添加した以外は実施例2と同様にして、PAAm及びリン酸を含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0077】
(実施例22)
リン酸水素二アンモニウムの添加量を前記炭素材料前駆体100質量部に対して8質量部に変更した以外は実施例21と同様にして、AAm/AN共重合体及びリン酸水素二アンモニウムを含有する炭素材料前駆体組成物を得た。
【0078】
(実施例23)
炭素材料前駆体として合成例10で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=52万、Mw/Mn=4.5)をそのまま使用した。
【0079】
(比較例1)
炭素材料前駆体として比較調製例1で得られたPAAm(Mw=58万、Mw/Mn=6.8)をそのまま使用した。
【0080】
(比較例2)
炭素材料前駆体として比較合成例1で得られたAAm/AN共重合体(AAm/AN=75mol%/25mol%、Mw=14万、Mw/Mn=5.8)をそのまま使用した。
【0081】
<耐炎化収率の測定>
実施例及び比較例で得られた炭素材料前駆体(実施例1、3、6、8、10、13、15、18、20、23、比較例1、2)又は炭素材料前駆体組成物(実施例2、4、5、7、9、11、12、14、16、17、19、21、22)を80℃で12時間真空乾燥した後、3mg秤量し、示差熱天秤(株式会社リガク製「TG8120」)を用いて、空気流量500ml/minの空気雰囲気下、昇温速度10℃/minで室温から350℃まで加熱し、350℃で10分間保持(耐炎化処理)して炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物の耐炎化物を得た。耐炎化処理前後の炭素材料前駆体の質量保持率(炭素材料前駆体の耐炎化収率)を、前記真空乾燥後に炭素材料前駆体に吸着した水の影響を考慮し、150℃における炭素材料前駆体の質量を基準として、下記式:
炭素材料前駆体の耐炎化収率[%]=M350/M150×100
〔M350:空気雰囲気下、350℃で10分間加熱した後の炭素材料前駆体(耐炎化物)の質量、M150:150℃における炭素材料前駆体の質量〕
により求めた。その結果を表2に示す。
【0082】
<炭化収率の測定>
前記炭素材料前駆体の耐炎化物(実施例1、3、6、8、10、13、15、18、20、23、比較例1、2)又は前記炭素材料前駆体組成物の耐炎化物(実施例2、4、5、7、9、11、12、14、16、17、19、21、22)2mgを示差熱天秤(株式会社リガク製「TG8120」)を用いて、窒素流量500ml/minの窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで室温から1100℃まで加熱(炭化処理)して炭素材料を得た。この炭化処理前後の耐炎化物の質量保持率(1100℃における耐炎化物の炭化収率)を、耐炎化物に吸着した水の影響を考慮し、150℃における耐炎化物の質量を基準として、下記式:
耐炎化物の炭化収率[%]=M1100/M150×100
〔M1100:窒素雰囲気下、1100℃まで加熱した後の耐炎化物(炭素材料)の質量、M150:150℃における耐炎化物の質量〕
により求めた。その結果を表2に示す。
【0083】
<耐炎化・炭化の総収率の算出>
実施例及び比較例で得られた炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物の耐炎化・炭化の総収率を、下記式:
耐炎化・炭化の総収率[%]=(耐炎化収率/100)×(炭化収率/100)×100
により求めた。その結果を表2に示す。
【0084】
<炭素含有率の測定>
実施例で得られた炭素材料について元素分析を行なった結果、いずれの炭素材料も炭素含有率は90%以上であった。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示したように、実施例20と比較例1、実施例6と比較例2とを対比すると明らかなように、所定の重量平均分子量を有し、かつ、分子量の多分散度が所定の範囲内にあるアクリルアミド系ポリマーからなる本発明の炭素材料前駆体(実施例20、6)は、同等の重量平均分子量を有し、分子量の多分散度が所定の範囲を超えるアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体(比較例1、2)に比べて、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が高くなることが確認された。
【0087】
また、実施例6と実施例3、実施例23と実施例20とを対比すると明らかなように、所定の重量平均分子量を有し、かつ、分子量の多分散度が所定の範囲内にあるアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体からなる炭素材料前駆体(実施例6、23)は、同程度の重量平均分子量及び同程度の分子量の多分散度を有するアクリルアミドの単独重合体からなる炭素材料前駆体(実施例3、20)に比べて、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が僅かに増加することがわかった。
【0088】
さらに、実施例1と実施例3、実施例8と実施例10、実施例13と実施例15とを対比すると明らかなように、同程度の重量平均分子量を有し、同種のアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体においては、分子量の多分散度が小さくなると、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が増加することがわかった。
【0089】
また、実施例2と実施例1、実施例4〜5と実施例3、実施例7と実施例6、実施例9と実施例8、実施例11〜12と実施例10、実施例14と実施例13、実施例16〜17と実施例15、実施例19と実施例18、実施例21〜22と実施例20とを対比すると明らかなように、所定の重量平均分子量を有し、かつ、分子量の多分散度が所定の範囲内にあるアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体に所定量のリン酸、ホウ酸、又はリン酸塩を添加した炭素材料前駆体組成物(実施例2、4〜5、7、9、11〜12、14、16〜17、19、21〜22)は、リン酸及びリン酸塩を添加しなかった場合(実施例1、3、6、8、10、13、15、18、20)に比べて、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が増加することがわかった。
【0090】
さらに、実施例17と実施例16、実施例22と実施例21とを対比すると明らかなように、添加成分の量が増加すると、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が増加することがわかった。
【0091】
〔耐炎化処理温度の影響〕
<耐炎化収率の測定>
実施例3で得られた炭素材料前駆体、実施例17で得られた炭素材料前駆体組成物、比較例1で得られた炭素材料前駆体を80℃で12時間真空乾燥した後、3mg秤量し、示差熱天秤(株式会社リガク製「TG8120」)を用いて、空気流量500ml/minの空気雰囲気下、昇温速度10℃/minで室温から所定温度まで加熱し、所定温度で所定時間保持(耐炎化処理)して炭素材料前駆体又は炭素材料前駆体組成物の耐炎化物を得た。耐炎化処理前後の炭素材料前駆体の質量保持率(炭素材料前駆体の耐炎化収率)を、前記真空乾燥後に炭素材料前駆体に吸着した水の影響を考慮し、150℃における炭素材料前駆体の質量を基準として、下記式:
炭素材料前駆体の耐炎化収率[%]=M/M150×100
〔M:空気雰囲気下、所定温度T[℃]で所定時間加熱した後の炭素材料前駆体(耐炎化物)の質量、M150:150℃における炭素材料前駆体の質量〕
により求めた。その結果を表3に示す。
【0092】
<炭化収率の測定>
前記炭素材料前駆体の耐炎化物(実施例3、比較例1)又は前記炭素材料前駆体組成物の耐炎化物(実施例17)2mgを示差熱天秤(株式会社リガク製「TG8120」)を用いて、窒素流量500ml/minの窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで室温から1100℃まで加熱(炭化処理)して炭素材料を得た。この炭化処理前後の耐炎化物の質量保持率(1100℃における耐炎化物の炭化収率)を、耐炎化物に吸着した水の影響を考慮し、150℃における耐炎化物の質量を基準として、下記式:
耐炎化物の炭化収率[%]=M1100/M150×100
〔M1100:窒素雰囲気下、1100℃まで加熱した後の耐炎化物(炭素材料)の質量、M150:150℃における耐炎化物の質量〕
により求めた。その結果を表3に示す。
【0093】
<耐炎化・炭化の総収率の算出>
実施例3で得られた炭素材料前駆体、実施例17で得られた炭素材料前駆体組成物、比較例1で得られた炭素材料前駆体の耐炎化・炭化の総収率を、下記式:
耐炎化・炭化の総収率[%]=(耐炎化収率/100)×(炭化収率/100)×100
により求めた。その結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3に示したように、耐炎化処理温度が低くなるにつれて、炭素材料前駆体の耐炎化収率が高くなり、耐炎化処理温度が高くなるにつれて、耐炎化物の炭化収率が高くなるものの、最終的に得られる耐炎化と炭化の総収率が高くなるという観点において、好適な耐炎化処理温度範囲が存在することがわかった。
【0096】
また、実施例3と比較例1とを対比すると明らかなように、300℃で耐炎化処理を行なった場合においても、所定の重量平均分子量を有し、かつ、分子量の多分散度が所定の範囲内にあるアクリルアミド系ポリマーからなる本発明の炭素材料前駆体(実施例3)は、分子量の多分散度が所定の範囲を超えるアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体(比較例1)に比べて、耐炎化収率、耐炎化物の炭化収率、及び耐炎化と炭化の総収率が高くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、アクリルアミド系ポリマーからなり、高い耐炎化収率及び炭化収率を有する炭素材料前駆体を得ることが可能となる。
【0098】
したがって、本発明の炭素材料の製造方法は、使用する炭素材料前駆体が高い炭化収率を有するため、低コストで効率よく安定して炭素材料を製造することが可能な方法として有用である。