(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外界センサの情報から自車線と隣接車線の区分線および各車線上の他車を認識する周囲認識機能と、内界センサの情報から自車の状態を取得する機能を含む環境状態推定部と、
前記環境状態推定部に取得される情報に基づいて自動車線変更のための目標経路を生成する経路生成部と、
前記目標経路に自車を追従させるべく速度制御および操舵制御を行う車両制御部と、
を備え、先行他車を避けるために隣接車線への自動車線変更を実施可能な車両の走行制御装置において、
前記自動車線変更の実施中に、自車の前方所定距離と後方所定距離と側方所定距離とによって画定される所定領域内に他車が認識された場合に、前記隣接車線との区分線に対する自車の位置により車線変更を継続するか否かを判定する車線変更継続可否判定手段と、該車線変更継続可否判定手段により車線変更を継続すべきでないと判定された場合に、元車線に復帰すべく前記目標経路を再生成する機能を備え、
前記車線変更継続可否判定手段は、車線変更を継続すべきと判定された場合に、前記前方所定距離、前記後方所定距離、前記側方所定距離よりそれぞれ小さく、かつ、自車の最小前方所定距離、最小後方所定距離、最小側方所定距離と同じかまたはそれより大きい第2の前方所定距離、後方所定距離、側方所定距離によって画定される第2の所定領域内に他車が認識された場合には、元車線に復帰すべく前記目標経路を再生成するように構成されていることを特徴とする車両の走行制御装置。
前記車線変更継続可否判定手段は、前記隣接車線との前記区分線に対し自車の左右前車輪の接地面の中心位置が前記隣接車線側に位置する場合は、車線変更を継続すべきと判断することを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
前記車線変更継続可否判定手段は、前記隣接車線との前記区分線に対し自車の重心位置が前記隣接車線側に位置する場合は、車線変更を継続すべきと判断するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明に係る走行制御システムを備えた車両1は、エンジンや車体など一般的な自動車の構成要素に加え、従来運転者が行っていた認知・判断・操作を車両側で行うために、車両周囲環境を検知する外界センサ21、車両情報を検知する内界センサ22、速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群、定速走行/追従走行制御のためのACCコントローラ14、および、自動車線変更(経路追従制御)を実施するための自動運転コントローラ10を備えている。
【0011】
速度制御および操舵制御のためのコントローラ/アクチュエータ群は、操舵制御のためのEPS(電動パワーステアリング)コントローラ31、加減速度制御のためのエンジンコントローラ32、ESP(登録商標;スタビリティコントロールシステム)/ABS(アンチロックブレーキシステム)コントローラ33を含む。
【0012】
外界センサ21は、自車線51および隣接車線52を画定する道路上の区分線5、自車周辺にある他車両や障害物、人物などの存在と相対距離を画像データや点群データとして自動運転コントローラ10に入力するための複数の検知手段からなる。
【0013】
例えば、
図2に示すように、車両1は、前方検知手段211,212としてミリ波レーダ(211)およびカメラ(212)、前側方検知手段213および後側方検知手段214としてLIDAR(レーザ画像検出/測距)、後方検知手段215としてカメラ(バックカメラ)を備え、自車両周囲360度をカバーし、それぞれ自車前後左右方向所定距離内の車両や障害物等の位置と距離、区分線位置を検知できるようにしている。
【0014】
内界センサ22は、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサなど、車両の運動状態を表す物理量を計測する複数の検知手段からなり、
図3に示すように、それぞれの測定値は、自動運転コントローラ10に入力され、外界センサ21からの入力とともに演算処理される。
【0015】
自動運転コントローラ10は、環境・状態推定部11、経路生成部12、および、車両制御部13を含み、以下に記載されるような機能を実施するためのコンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成されている。
【0016】
環境・状態推定部11は、GPS等の測位手段24を用いて自車の絶対位置を取得し、外界センサ21に取得される画像データや点群データなどの外界データに基づいて自車線51および隣接車線52の区分線位置、他車位置および速度を推定する。また、内界センサ22に取得される内界データより自車の運動状態を取得する。
【0017】
経路生成部12は、地図情報23を参照し、環境・状態推定部11で推定された自車位置と、隣接車線52の区分線位置、他車位置および速度と、内界センサ22により検知される自車の運動状態に基づいて、車線変更における自車位置から到達目標地点までの目標経路50を生成する。
【0018】
車両制御部13は、目標経路50に基づいて目標車速および目標舵角を算出し、車速指令をACCコントローラ14に送信し、経路追従のための舵角指令をEPSコントローラ31に送信する。
【0019】
なお、車速は、EPSコントローラ31およびACCコントローラ14にも入力される。車速により操舵トルクが変わるため、EPSコントローラ31は、車速毎の操舵角−操舵トルクマップを参照して操舵機構41にトルク指令を送信する。エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、EPSコントローラ31により、エンジン42、ブレーキ43、操舵機構41を制御することで、車両1の縦横方向の運動が制御される。
【0020】
(自動車線変更機能の概要)
次に、中央分離帯のある片側二車線以上の高速道路で、先行車を追い越すための車線変更を想定して、自動車線変更機能の概要を説明する。
【0021】
自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、外界センサ21を通じて環境・状態推定部11に取得される外界情報(車線、自車位置、自車走行車線および隣接車線を走行中の他車位置、速度)、および、内界センサ22に取得される内界情報(車速、ヨーレート、加速度)に基づいて、車線変更の目標経路および目標車速を生成する。そして、生成した目標経路・目標車速による他車両との車間距離・相対速度に基づいて、車線変更が可能か否かを判定し、車線変更可能と判定された場合は「自動車線変更可能フラグ」を立てる。
【0022】
自動車線変更機能が起動状態で「自動車線変更可能フラグ」が立っており、さらに、運転者の車線変更意思(ウインカ操作等)があった場合のみ、自動運転コントローラ10が生成した目標経路に従って自動操舵により車線変更が実行される。
【0023】
自動運転コントローラ10は、自車位置と自車の運動特性、すなわち、車速Vで走行中に操舵機構41に操舵トルクTが与えられた時に生じる前輪舵角δによって、車両運動により生じるヨーレートと横加速度の関係から、Δt秒後の車両の速度・姿勢・横変位を推定し、Δt秒後に横変位がytとなるような舵角指令をEPSコントローラ31に与え、Δt秒後に速度Vtとなるような速度指令をACCコントローラ14に与える。
【0024】
車線変更の終了は、自車位置が隣接車線の中央(xc±α,yc±β;α・βは許容誤差)にあり、かつ、追い越した車両との車間距離が、自車速と後方車速により決定される後方所定距離より大きいことをもって判断される。後方所定距離については後述する。
【0025】
(ACC、EPS、ESP/ABS、エンジン制御と自動車線変更機能の関係)
自動車線変更機能は、主としてACCコントローラ14による縦方向制御(速度制御)とEPSコントローラ31による横方向制御(操舵制御)を組み合わせることにより実施される。ACCコントローラ14、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、および、ESP/ABSコントローラ33は、自動操舵とは無関係に独立して作動するが、自動車線変更機能の作動中は、自動運転コントローラ10からの指令入力でも作動可能になっている。
【0026】
自動運転コントローラ10からの舵角指令を受けたEPSコントローラ31は、車速−操舵角−操舵トルクのマップを参照して、アクチュエータ(EPSモータ)にトルク指令を出し、操舵機構41が目標とする前輪舵角を与える。また、自動運転コントローラ10からの速度指令を受けたACCコントローラ14は、内界センサ22から取得される車速に応じてブレーキ制御のための減速指令またはエンジン制御のための加減速指令を出す。
【0027】
ACCコントローラ14からの減速指令を受けたESP/ABSコントローラ33は、アクチュエータに油圧指令を出し、ブレーキ43の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ14からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ32は、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン42にトルク指令を与え、駆動力を制御することで車速を制御する。
【0028】
ACC機能は、外界センサ21としてのミリ波レーダ211、ACCコントローラ14、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33等のハードウエアとソフトウエアの組合せで機能する。
【0029】
すなわち、先行車が無い場合は目標車速(クルーズコントロールセット速度)で定速走行し、先行車に追いついた場合(先行車速度が目標車速以下の場合)には、先行車速度に合わせて、設定されたタイムギャップ(車間時間=車間距離/自車速)に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従走行する。
【0030】
なお、EPSコントローラ31による操舵制御を利用した機能としてLKA(レーンキーピングアシスト)がある。LKAは、外界センサ21(カメラ212,215)に取得される画像データに基づき、自動運転コントローラ10の環境・状態推定部11で車線区分線と自車位置を検知し、車線中央を走行できるように、EPSコントローラ31により操舵力を補助するものであり、自動操舵を行うものではない。
【0031】
したがって、ACCと連動してLKA機能が作動している状況から自動車線変更に移行する場合、「自動車線変更可能フラグ」が立った状態で運転者の車線変更意思(ウインカ点滅)があった時点でLKA機能が解除され、自動車線変更が開始される。自動車線変更終了後はLKA機能が再作動し、LKA機能と連動したACC走行に戻る。
【0032】
(車線変更中の周囲環境変化)
ところで、既に述べたように、自車周囲環境および目標経路が確認され、「自動車線変更可能フラグ」が立った状態で、運転者の車線変更意思(ウインカ操作等)があった場合にのみ、自動車線変更が開始されるが、車線変更を開始し隣接車線に移動するまでの間に、他車両の挙動により周囲環境が変化する可能性もある。
【0033】
例えば、
図6(a)に示すように、合流車線54から進入しようとする他車2′を避けるために、自車線(左側車線)51から隣接車線(中央車線)52に自動車線変更中に、追越車線(右側車線)53を走行していた他車3が隣接車線52に車線変更し、自車1の右側方所定距離内に入ってきた場合や、
図6(b)に示すように、先行他車2を追い越すために、自車線(中央車線)52から追越車線53に自動車線変更中に、先行他車2も追越車線53に車線変更を開始し、自車1′の右前側方所定距離内に入ってきた場合である。このような車線変更中の周囲環境変化に対し、以下のような問題が想定される。
【0034】
自動車線変更継続可否の判断基準が、自車の目標経路上の他車両の存在または元車線復帰後の他車両との車間距離、あるいは、自車両に対する後続車両の相対速度または後続車両の車線変更意思(ウインカ点滅)である場合、現在の自車位置は考慮されない。このため、既に自車両の前後両輪が目標車線(隣接車線)と元車線の区分線よりも目標車線側にある状態、つまり隣接車線への移行がほぼ終了した状態で車線変更を中止して元車線に戻るようなケースも想定され、このような車両挙動は、車線変更意思(ウインカ点滅)を示したとしても、後続車両にとっては挙動不審に映る。
【0035】
また、上記ケースでは、車線変更開始〜中止〜元車線に戻るまでの所要時間が、車線変更をそのまま継続した場合に比べて単純計算で2倍程度になる。仮に、自車両の前後両輪が元車線内にある位置で車線変更を中止する場合であれば、小さい操舵角で元の走路に復帰できるが、前後両輪が区分線を越え隣接車線への移行がほぼ終了した状態で車線変更を中止して元車線に戻るようなケースでは、逆操舵による車両の横加速度変化が大きくなり、乗員に不快感を与える虞がある。そこで、自動車線変更中における車線変更継続可否判定を以下のように実施する。
【0036】
(車線変更継続可否判定)
自動車線変更中、自動運転コントローラ10(環境・状態推定部11)は、外界センサ21により自車周囲の車線区分線を認識し、
図7に示すように、車線変更前に走行していた車線51の区分線5s,5cと、経路生成により車線変更後に移行する予定の隣接車線52の区分線5c,5dと、自車左右前後輪の接地面中心点W
FL,W
FR,W
RL,W
RRの相対位置(車両重心Gのxy座標中心を原点とする前後輪接地面中心点W
FL,W
FR,W
RL,W
RRの相対座標)を推定し、常時監視している。
【0037】
そして、自車の運動状態に応じて画定される「所定距離」内への他車の侵入(車線変更等)が検知された場合(環境・状態推定部11に認識される他車が「所定距離」内に侵入すると判断される場合)、自動運転コントローラ10(経路生成部12)は、車線変更前に走行していた車線(51)の右側区分線5c(元車線51側エッジ)と、自車前後輪の接地面中心点(W
FL,W
FR,W
RL,W
RR)の相対位置に基づき、次のように車線変更継続可否判定を行う。
【0038】
(i)下記の場合は車線変更を中止し元車線に復帰する。
(a)前輪・後輪接地面中心が全て車線区分線端よりも元車線側にある。
(b)変更先側前輪接地面中心のみが車線区分線端より変更先車線側にある。
(c)変更先側前後輪接地面中心のみが車線区分線端より変更先車線側にある。
【0039】
(ii)下記の場合は車線変更を継続する。
(d)変更先側前後輪と変更元側前輪の接地面中心が車線区分線端より変更先車線側にある(左右前車輪と変更先側後輪の接地面中心が車線区分線端より変更先車線側にある、すなわち、変更元側後輪の接地面中心のみが車線区分線端より変更元車線側にある)。
(e)前輪・後輪接地面中心が全て車線区分線端より変更先車線側にある。
【0040】
例えば、
図7(a)の車両1bは、右側(変更先側)前輪接地面中心(W
FR)のみが車線区分線5c端より右側(変更先車線側)にあり、上記(b)に対応する。また、
図7(a)の車両1cは、右側(変更先側)前後輪接地面中心(W
FR,W
RR)のみが車線区分線5c端より右側(変更先車線側)にあり、上記(c)に対応する。さらに、
図7(a)の車両1dは、右側(変更先側)前後輪と左側(変更元側)前輪の接地面中心(W
FR,W
RR,W
FL)が車線区分線端より変更先車線側にあり、換言すれば、左右前車輪と右側(変更先側)後輪の接地面中心(W
FL,W
FR,W
RR)が車線区分線端より変更先車線側にあり、上記(d)に対応する。
【0041】
なお、基本的に自動車線変更時には左右各側の前輪の接地面中心は同側の後輪の設置面中心よりも変更先側に位置しているので、上記(d)は、単に、左右前車輪の接地面中心が車線区分線端より変更先車線側にある場合と見做すこともできる。
【0042】
車線変更継続可否判定により車線変更を中止する場合には、経路生成部12は、
図7中矢印Bで示されるように、車線変更前に走行していた車線51の中心線51cに追従目標を変更し、目標経路・車速を再生成する。さらに、再生成した経路に追従するよう、舵角指令と速度指令をEPSコントローラ31およびACCコントローラ14に与える。
【0043】
但し、自車位置が上記(d)(e)の場合でも、他車が目標経路50や最小所定距離内に接近している場合には、車線変更を中止して、車線変更前の車線中心線を車線変更終了時の走行経路目標として経路を再生成し、経路追従制御を行う。最小所定距離は、車線変更可否判定に用いる所定距離とは別に設定される。詳細は後述する。
【0044】
(改良された自動車線変更フロー)
以下、改良された自動車線変更フローについて
図4を参照しながら説明する。
【0045】
(1)自動車線変更機能起動準備
運転者により自動車線変更機能オン/オフ・スイッチのオン操作がなされると(ステップ100)、ACCおよびLKAの作動判定が行われ(ステップ101)、非作動の場合には、ACC・LKAを起動し、ACC・LKA起動中である旨をメーターパネル内に表示する(ステップ104)。既にACC・LKAが作動している場合には、自動車線変更実行に必要な自動運転コントローラ10、ACCコントローラ14、EPSコントローラ31、エンジンコントローラ32、ESP/ABSコントローラ33、外界センサ21、内界センサ22、および、アクチュエータ類のシステムチェックが実施される(ステップ102)。
【0046】
(2)自動車線変更機能の起動可否判定
システムチェック後、自動運転コントローラ10が自動車線変更機能の起動可否判定を行う(ステップ103)。何らかの理由により、各コントローラ・センサ・アクチュエータ類が正常に動作せず、NGとなった場合には、メーターパネル内に自動車線変更機能起動不可表示するとともに、運転者に対して音声等により、自動車線変更機能起動不可である旨を通知する(ステップ105)。
【0047】
(3)自動車線変更機能の起動
起動可否判定でOKとなった場合は自動車線変更機能を起動する(ステップ110)。自動車線変更機能の起動中は、自動運転コントローラ10(環境・状態推定部11、経路生成部12)により、次項に記載する(i)周囲環境認識と(ii)自動車線変更経路・車速目標の生成が常時実施されている。
【0048】
(4)周囲環境認識と自動車線変更経路車速目標の生成
(i)周囲環境認識
自動運転コントローラ10の環境・状態推定部11は、外界センサ21から得た点群データと画像データから求めた自車に対する自車線区分線の相対座標、他車両の相対座標・相対速度と、地図情報23を参照してGPS測位手段24に取得された自車の絶対座標から、車線上の自車位置(x,y座標)を推定する。
(ii)車線変更経路・車速目標の生成
自動運転コントローラ10の経路生成部12では、環境・状態推定部11の周囲環境認識処理によって推定された車線51上の自車位置と、隣接車線52の区分線位置、および、内界センサ22に取得される車速を基に、Δt秒後に隣接車線中央を走行することを想定した自車位置(xt,yt)と目標車速(Vt)を算出し、それに基づいて目標経路50を生成する(ステップ111)。
【0049】
(5)自動車線変更可否判定
次に、自動運転コントローラ10の経路生成部12は、生成した目標経路・車速目標と外界センサ21で検知した先行他車の相対位置・速度と自車速度により決まる前方所定距離(X
FOC)、自車および後続他車速度により決まる後方所定距離(X
ROC)、および、側方所定距離(X
SOC)によって画定される「所定領域」内に他車が存在するか否かによって、車線変更可否を判定する。
【0050】
前方所定距離(X
FOC)の概念を
図5(a)に示す。自車1と先行他車2との間の前方(または前側方)所定距離(X
FOC)は、次式1により求めることができる。
【数1】
但し、
X
LC:車線変更距離(m)、X
ST:制動後所定距離(m)
V
VUT:自車両速度(km/h)、V
FD:前方車両速度(km/h)
X
L:車線幅(m)=3.75m、a
y:自車横加速度(m/s
2)、
ST:所定車間時間(sec)=1.0sec
最小前方所定距離(X
FOCmin)は、車線幅(X
L)を現在走行中の車線幅(=3.75m)として、自車横加速度a
y(m/s
2)と自車両速度V
VUT(km/h)に応じて算出した最小値とする。
【0051】
後方車間距離(X
ROC)の概念を
図5(b)に示す。自車1と後続他車4との間の後方(または後側方)所定距離(X
ROC)は、次式2により求めることができる。
(式2) X
ROC=X
RT+X
BB+X
BD+X
ST
ここで、
X
RT=(V
RO−V
VUT)・RT
X
BB={V
RO2−(V
RO−(a
RO/2)・BB)
2}/a
RO−V
VUT・BB
X
BD={(V
RO2−V
VUT2)/2・a
RO}−{(V
RD−V
VUT)/a
RO}・V
VUT
X
ST=V
VUT・ST
但し、
X
RT:後方車両反応距離(m)、X
BB:制動立ち上り距離(m)
X
BD:制動距離(m)、X
ST:制動後所定車間距離(m)
V
VUT:自車両速度(km/h)、V
RO:後方車両速度(km/h)
a
RO:後方車両減速度(m/s
2)=3.0
RT:反応時間(sec)=1.2sec
BB:制動立ち上り時間(sec)=0.5sec
ST:所定車間時間(sec)=1.0sec
最小後方所定距離(X
ROCmin)は、a
RO:後方車両減速度(m/s
2)を最大値、例えば0.6G(5.88m/s
2)として算出した値とする。
【0052】
側方所定距離算出法を
図5(a)に示す。自車1と側方他車3との間の側方所定距離(X
SOC)は、次式3により求めることができる。車線幅は日本の高速道路の最大車線幅(3.75m)を適用する。
(式3) X
SOLC=X
SORC=1.5X
L
但し、
X
SOLC:左側方所定距離(m)
X
SORC:右側方所定距離(m)
X
L:車線幅(m)=3.75m
最小側方所定距離(X
SOCmin)は、X
L:車線幅(m)を現在走行中の車線幅(外界センサ21で計測可能)として算出した値、または、係数1.5を1とした値とする。
【0053】
上記のように生成した目標経路に従って車線変更し、先行他車を追い越し、後方車間距離が後方所定距離以上となるまでの間に、所定領域内に侵入する(前方所定距離または後方所定距離以内に近接する)と推定される他車の有無が判定され(ステップ112)、無いと推定される場合に車線変更可能と判定し、「自動車線変更可能フラグ」を立てる(ステップ113)。
【0054】
上記判定に至る演算処理は自動車線変更機能の起動中は継続されており、自動車線変更フラグは、周囲環境に応じて随時更新される。一方、車線変更可否判定でNGとなった場合には、メーターパネル内等に「自動車線変更不可」が表示されるとともに、音声等で自動車線変更不可であることが運転者に通知される(ステップ114)。
【0055】
(6)自動車線変更準備完了(READY)表示
上記のように自動車線変更機能の起動から車線変更可否判定までのフローが完了した段階で、自動車線変更準備が整ったものとして、メーターパネル内に「自動車線変更準備完了(READY)」が表示される(ステップ120)。運転者は追従走行中に「自動車線変更準備完了(READY)」表示によって自動車線変更可能であることを確認する。なお、片側3車線以上の道路の中央車線を走行中の場合、左右何れの隣接車線に変更可能か、「自動車線変更準備完了(READY)」表示を左右それぞれに対応して設けることもできる。
【0056】
(7)運転者による自動車線変更意思表示(ウインカ操作)
上記のように「自動車線変更準備完了(READY)」が表示された状態で、運転者がウインカ操作することにより、自動車線変更を開始する(ステップ130)。このウインカ操作は自動車線変更開始のトリガ操作であると同時に、先述のように、左右それぞれに対応して「自動車線変更準備完了(READY)」表示が設けられている場合は、左右何れの隣接車線に変更するかの意思表示となる。
【0057】
ウインカ操作後、即時のウインカ点滅はせず、ウインカ点滅可否を判定する(ステップ131)。ウインカ点滅可否判定は、「自動車線変更READY状態」かつ「運転者による車線変更意思(ウインカ操作)があった」ことを検知し、この両方が検知された場合(ステップ131)にウインカを点滅させる(ステップ132)。
【0058】
(8)自動車線変更の実行
ウインカ点滅開始後3秒経過した時点から自動操舵を開始する(ステップ140)。それと同時に、メーターパネル内に「自動車線変更中」が表示され、音声等での自動車線変更中であることが運転者に通知される(ステップ141)。自動操舵の開始とともに、ACCコントローラ14からの加減速指令により車両が加速され、変更された車線においてACC目標車速(クルーズコントロールセット速度)で走行して先行他車を追い越す。
【0059】
(9)車線変更継続可否判定
経路生成部12により、自動車線変更中も、車線変更可否判定(所定領域内への他車侵入検知)は車線変更継続可否判定として実施されており(ステップ142)、所定領域内への他車侵入等が無く、車線変更継続可能と判定された場合には、車線変更終了判定が行われる(ステップ143)。
【0060】
一方、自動車線変更中に、他車の車線変更等による前後側方の所定距離内への侵入が検知され、車線変更継続判定NGとなった場合には、経路生成部12により、自車の現在位置(車輪接地面中心と車線区分線との相対位置)に基づいて、車線変更を中止して元車線に復帰するか、または、目標車線への車線変更を継続するかの判定が行われる(ステップ144)。
【0061】
この際、自車が元車線側よりも変更先車線側に位置していると判断された場合、すなわち、先述の通り、(d)変更先側前後輪と変更元側前輪の接地面中心が車線区分線端より変更先車線側にある(左右前車輪と変更先側後輪の接地面中心が車線区分線端より変更先車線側にある、すなわち、変更元側後輪の接地面中心のみが車線区分線端より変更元車線側にある)、または、(e)前輪・後輪接地面中心が全て車線区分線端より変更先車線側にあると判断された場合は、車線変更は継続される。
【0062】
一方、自車が変更先車線側よりも元車線側に位置していると判断された場合、すなわち、(a)前輪・後輪接地面中心が全て車線区分線端よりも元車線側にある、(b)変更先側前輪接地面中心のみが車線区分線端より変更先車線側にある、または、(c)変更先側前後輪接地面中心のみが車線区分線端より変更先車線側にあると判断された場合は、車線変更は中止され、ウインカ点滅が停止されるとともに、経路生成部12は、逆操舵により車線変更前の車線中心線に向けて追従走行するための復帰経路および車速目標を再生成する(ステップ160)。
【0063】
次いで、復帰方向のウインカを自動点滅させ(ステップ161)、再生性された目標経路および車速に従って、元車線への復帰を開始する(ステップ162)。元車線への復帰が終了したか否かの判定は、後述の自動車線変更終了判定(ステップ143)と同様になされる(ステップ163)。
【0064】
(10)自動車線変更終了判定
自動車線変更終了の判定は、自車位置(横方向位置)と後方車間距離(縦方向位置)により判定し、自車位置が目標とした車線の略中央にあり、かつ、追い越した他車との車間距離、若しくは元車線に復帰した場合における後方他車との車間距離が、後方所定距離よりも大きいことをもってなされる(ステップ143)。自動車線変更終了と判定されると、メーターパネル内の「自動車線変更中」表示が消灯する(ステップ145)。
【0065】
(11)自動車線変更機能の停止
自動車線変更終了後も、運転者による自動車線変更機能オン/オフSWのオフ操作がない場合には、自動車線変更機能は起動状態にあり、周囲環境認識と自動車線変更経路・車速目標の生成、車線変更可否判定は継続して行われているが、運転者により自動車線変更機能オン/オフSWのオフ操作がなされた場合には(ステップ146)、自動車線変更準備完了(READY)表示が消灯し(ステップ147)、自動車線変更機能が停止し(ステップ150)、周囲環境認識と自動車線変更経路・車速目標の生成、車線変更可否判定が停止される(ステップ151)。
【0066】
(作用と効果)
以上詳述したように、本発明に係る車両の走行制御装置では、自動車線変更の実施中に自車の前方所定距離と後方所定距離と側方所定距離とによって画定される所定領域内に他車が認識された場合に、隣接車線との区分線に対する自車位置に基づいて車線変更継続可否を判定し、車線変更の継続または中止を行うので、隣接車線への車線変更がほぼ完了した状態で車線変更を中止して元車線に戻る場合のような不自然な車両挙動を回避でき、交通流や乗員への影響を低減するうえで有利であるとともに、車線変更時間(車線に跨って走行する時間)を最小限に留めるうえでも有利である。
【0067】
また、本発明に係る好適な態様では、前記車線変更継続可否判定手段は、隣接車線との区分線に対し自車の左右前車輪の接地面の中心位置(W
FL,W
FR)が前記隣接車線側に位置する場合は、車線変更を継続すべきと判断するように構成されているので、車両の操舵安定性などの走行特性に即して適正な車線変更継続可否判定を行ううえで有利である。
【0068】
なお、前記車線変更継続可否判定手段は、隣接車線との区分線に対し自車の重心位置(G)が前記隣接車線側に位置する場合は、車線変更を継続すべきと判断するように構成されていても良い。
【0069】
また、本発明において、前記車線変更継続可否判定は、車線変更を継続すべき判定された場合に、前記前方所定距離、前記後方所定距離、前記側方所定距離よりそれぞれ小さく、かつ、自車の最小前方所定距離、最小後方所定距離、最小側方所定距離と同じかまたはそれより大きい第2の前方所定距離、後方所定距離、側方所定距離によって画定される第2の所定領域内に他車が認識された場合には、元車線に復帰すべく前記目標経路を再生成するように構成されているので、車線変更継続に伴う他車との過度の接近が見込まれる場合は、これを回避することができ有利である。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。