(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
指定された第1パラメータに対応した第1スピーカユニットの振動板の位置に関連した情報を、入力信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第1演算信号を出力する第1演算部と、
前記第1演算信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備え、
前記駆動信号生成部は、指定された第2パラメータに対応した第2スピーカユニットの振動板の位置に関連した情報を、前記駆動信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第2演算信号を出力する第2演算部を備え、
前記駆動信号生成部は、前記第1演算信号と前記第2演算信号とに基づいて、前記駆動信号を生成することを特徴とするスピーカ駆動装置。
前記第2演算部に設定される前記第2パラメータを指定するためのインターフェイスを提供する第2UI提供部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のスピーカ駆動装置。
前記スピーカユニットから当該スピーカユニットに関連する情報を取得して、当該情報に基づいて前記第2パラメータを指定する指定部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のスピーカ駆動装置。
前記第2スピーカユニットを特定するための情報と前記駆動信号とを対応付けて記憶装置に記録する信号記録部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のスピーカ駆動装置。
前記第1演算部における演算処理と前記第2演算部における演算処理とは、演算処理に用いるモデルが同じであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスピーカ駆動装置。
前記第1演算部に設定される前記第1パラメータを指定するためのインターフェイスを提供する第1UI提供部をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスピーカ駆動装置。
前記駆動信号生成部は、生成する前記駆動信号のダイナミックレンジの調整を行って、当該駆動信号を前記スピーカユニットに出力する出力部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のスピーカ駆動装置。
指定された第1パラメータに対応した第1スピーカユニットの振動板の位置に関連する情報を、入力信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第1演算信号を出力する第1演算部と、
前記第1演算信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備え、
前記駆動信号生成部は、指定された第2パラメータに対応した第2スピーカユニットの振動板の位置に関連する情報を、前記駆動信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第2演算信号を出力する第2演算部を備え、
前記駆動信号生成部は、前記第1演算信号と前記第2演算信号とに基づいて、前記駆動信号を生成するように、コンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術によれば、インパルス応答を畳み込むことによる音響効果の付与も行われている。このようなインパルス応答を畳み込む技術を用いると、スピーカから出力される音の特性は、様々に変化させることができる。一方、このような技術によっても、目的とする音の特性を実現できない場合も多い。例えば、スピーカから出力される音を、そのスピーカとは別のスピーカを用いて出力した音に擬似的に近づける場合に、オーディオ信号に対して付与する周波数特性を調整するだけでは、十分な結果を得ることが難しかった。
【0005】
本発明の目的の一つは、所定のスピーカから出力される音を、別のスピーカから出力された音に近づけるための駆動信号を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、第1スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの少なくとも一つを第1パラメータとして設定する設定部と、入力信号の周波数特性を、前記第1パラメータに基づいて変更する第1演算部と、前記第1演算部において周波数特性が変更された入力信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を備えることを特徴とするスピーカ駆動装置が提供される。
【0007】
前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の周波数特性を、第2スピーカユニットに対応する第2パラメータに基づいて変更する第2演算部を備え、前記駆動信号は、前記第1演算部によって周波数特性が変更された入力信号と前記第2演算部によって周波数特性が変更された駆動信号とに基づいて生成されてもよい。
【0008】
本発明の一実施形態によると、指定された第1パラメータに対応した第1スピーカユニットの振動板の位置に関連した情報を、入力信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第1演算信号を出力する第1演算部と、前記第1演算信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を備え、前記駆動信号生成部は、指定された第2パラメータに対応した第2スピーカユニットの振動板の位置に関連した情報を、前記駆動信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第2演算信号を出力する第2演算部を備え、前記駆動信号生成部は、前記第1演算信号と前記第2演算信号とに基づいて、前記駆動信号を生成してもよい。
【0009】
本発明の一実施形態によると、入力信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部を備え、前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の周波数特性を、第2スピーカユニットに対応する第2パラメータに基づいて変更する第2演算部を備え、前記駆動信号は、前記入力信号と前記第2演算部によって周波数特性が変更された駆動信号とに基づいて生成されることを特報とするスピーカ駆動装置が提供される。
【0010】
前記第2演算部に設定される前記第2パラメータを指定するためのインターフェイスを提供する第2UI提供部をさらに備えてもよい。
【0011】
前記第2UI提供部は、前記第2演算部における処理を補正するための補正情報を指定するためのインターフェイスをさらに提供し、前記第2演算部は、前記第2パラメータを前記補正情報に基づいて補正してもよい。
【0012】
前記スピーカユニットから当該スピーカユニットに関連する情報を取得して、当該情報に基づいて前記第2パラメータを指定する指定部をさらに備えてもよい。
【0013】
前記第2スピーカユニットを特定するための情報と前記駆動信号とを対応付けて記憶装置に記録する信号記録部をさらに備えてもよい。
【0014】
前記信号記録部は、第1スピーカユニットを特定するための情報を前記駆動信号に対応付けて記憶装置に記録してもよい。
【0015】
前記第1演算部における演算処理と前記第2演算部における演算処理とは、演算処理に用いるモデルが同じであってもよい。
【0016】
前記第1演算部に設定される前記第1パラメータを指定するためのインターフェイスを提供する第1UI提供部をさらに備えてもよい。
【0017】
前記駆動信号生成部は、生成する前記駆動信号のダイナミックレンジの調整を行って、当該駆動信号を前記スピーカユニットに出力する出力部を備えてもよい。
【0018】
ネットワークを介して前記駆動信号を送信する出力部をさらに備えてもよい。
【0019】
また、本発明の一実施形態によると、上記記載のスピーカ駆動装置と、前記スピーカ駆動装置から出力される前記駆動信号によって駆動されるスピーカユニットと、を備えることを特徴とするスピーカ装置が提供される。
【0020】
また、本発明の一実施形態によると、上記記載のスピーカ駆動装置から、前記ネットワークを介して前記駆動信号を受信する受信部と、前記受信部によって受信された前記駆動信号によって駆動されるスピーカユニットと、を備えることを特徴とするスピーカ装置が提供される。
【0021】
また、本発明の一実施形態によると、上記記載のスピーカ駆動装置と、前記駆動信号によって駆動されるスピーカユニットと、前記スピーカユニットの振動板の位置に関連する情報を検出する検出部と、を備え、前記駆動信号生成部は、さらに前記検出部によって検出された情報とに基づいて、前記駆動信号を生成することを特徴とするスピーカ装置が提供される。
【0022】
また、本発明の一実施形態によると、第1スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの少なくとも一つを第1パラメータとして設定する設定部と、入力信号の周波数特性を、前記第1パラメータに基づいて変更する第1演算部と、前記第1演算部において周波数特性が変更された入力信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部としてコンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【0023】
前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の周波数特性を、第2スピーカユニットに対応する第2パラメータに基づいて変更する第2演算部を備え、前記駆動信号は、前記第1演算部によって周波数特性が変更された入力信号と前記第2演算部によって周波数特性が変更された駆動信号とに基づいて生成されてもよい。
【0024】
また、本発明の一実施形態によると、指定された第1パラメータに対応した第1スピーカユニットの振動板の位置に関連する情報を、入力信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第1演算信号を出力する第1演算部と、前記第1演算信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を備え、前記駆動信号生成部は、指定された第2パラメータに対応した第2スピーカユニットの振動板の位置に関連する情報を、前記駆動信号を用いた演算によって算出し、当該算出した情報に応じた第2演算信号を出力する第2演算部を備え、前記駆動信号生成部は、前記第1演算信号と前記第2演算信号とに基づいて、前記駆動信号を生成するように、コンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【0025】
また、本発明の一実施形態によると、入力信号に基づいて、スピーカユニットを駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部を備え、前記駆動信号生成部は、前記駆動信号の周波数特性を、第2スピーカユニットに対応する第2パラメータに基づいて変更する第2演算部を備え、前記駆動信号は、前記入力信号と前記第2演算部によって周波数特性が変更された駆動信号とに基づいて生成されるように、コンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態によれば、所定のスピーカから出力される音を、別のスピーカから出力された音に近づけるための駆動信号を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態におけるスピーカ装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す複数の実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。すなわち、以下に説明する複数の実施形態に公知の技術を適用して変形をして、様々な態様で実施をすることが可能である。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0029】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態におけるスピーカ装置の機能を示すブロック図である。スピーカ装置1は、スピーカ駆動装置10およびスピーカユニット80を備える。スピーカ駆動装置10は、オーディオ信号Sinが入力され、スピーカユニット80を駆動するための駆動信号Sdに変換して出力する。スピーカユニット80は、スピーカ駆動装置10から供給される駆動信号Sdに応じた音を出力する。スピーカ装置1においては、スピーカユニット80の特性に応じた音を出力することも可能であるが、スピーカユニット80の特性とは異なる特性を有するスピーカユニット(以下、目標スピーカユニットという場合がある)を擬似的に再現した音を出力することも可能である。以下、スピーカ装置1の構成、特に、スピーカ駆動装置10の構成について、詳細に説明する。
【0030】
図1に示すように、スピーカ駆動装置10は、取得部110、第1演算部130および駆動信号生成部150を備える。この例では、駆動信号生成部150は、信号制御部151、第2演算部153および出力部155を備える。取得部110は、スピーカ駆動装置10の外部から供給されるオーディオ信号Sinを入力信号として取得する。この例では、取得部110は、オーディオ信号Sinを供給する装置が接続される端子である。なお、取得部110は、ネットワークを介してサーバ等の外部装置からオーディオ信号Sinを受信することによって取得してもよい。
【0031】
第1演算部130は、取得部110によって取得されたオーディオ信号Sinを用いて、スピーカユニットの電気−機械モデルによる演算を行い、演算結果を示す第1演算信号Sc1を出力する。このスピーカユニットは、上述したスピーカユニット80ではなく、目標スピーカユニット(第1スピーカユニット)である。第1演算部130が行う演算は、目標スピーカユニットの構造を特定するパラメータを用いて、オーディオ信号Sinを入力信号とした目標スピーカユニットの動作(内部状態)を演算する。目標スピーカユニットの動作としては、この例では、振動板の位置の時間変化である。そのため、この例では、第1演算信号Sc1は、目標スピーカユニットの振動板の位置に対応する。これによって、オーディオ信号Sinに目標スピーカユニットに応じた周波数特性が付与される。なお、このパラメータは、構造を直接特定する値でなくてもよく、スピーカユニットの構造に応じて得られる特性を示すパラメータであってもよい。以下、第1演算部130で用いられるパラメータ、すなわち、目標スピーカユニットの構造を特定するパラメータを第1パラメータという。
【0032】
第1パラメータは、例えば、目標スピーカユニット(またはそれを構成する各構造物)の等価回路を規定するパラメータの少なくとも一つであり、例えば、質量、ダンパのバネ定数、磁束密度、インダクタンス、スティフネス、機械抵抗等の機械定数である。スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの例は、後述する。第1パラメータは、これらのパラメータを組み合わせて算出可能なダンピングファクタ、共振周波数等であってもよい。なお、第1パラメータは、タイムドメイン(時間領域)での特性、またはこれを制御する値等であってもよい。また、第1パラメータは、目標スピーカユニットの振動板の位置(または速度)を演算するための値、振動板の位置の最大値、振動板のインパルス応答特性、振動板のステップ応答特性、振動板の位置のインパルス応答特性、振動板の位置のステップ応答特性等、また、上記の振動板に関連する各特性ではなく、再生音圧の各特性であってもよい。いずれにしても、単純な周波数ドメイン上のパラメータ(中心周波数・Q・カットオフ・ゲイン)ではなく、演算によって目標スピーカユニットの振動板の位置に影響を与えるパラメータであればよい。
【0033】
第1演算信号Sc1は、目標スピーカユニットの振動板の位置に対応していたが、この位置に関連した情報に応じた値であればよい。例えば、位置に関連した情報としては、例えば、振動板の速度、電流等であってもよい。第1演算部130における演算は、目標スピーカユニットの電気−機械モデルを用いていたが、さらに音響(放射特性)モデルを用いてもよいし、空間伝搬モデルを用いてもよい。この場合には、第1演算信号Sc1は、目標スピーカユニットの振動板の位置を示すものではなく、所定位置で空気の振動を示すものなどであってもよい。この場合であっても、振動板の位置に関連した演算結果といえる。演算に用いるモデルには、線形特性のみではなく、非線形特性に関する演算が含まれていてもよい。
【0034】
上記の演算に用いるモデルの具体的な内容としては、公知の演算方法であれば、どのような方法も適用できる。公知の演算方法としては、以下の文献に例示される。
Karsten Oyen, "Compensation of Loudspeaker Nonlinearities -DSP implementation", [online], Master of Science in Electronics, Norwegian University of Science and Technology Department of Electronics and Telecommunications, August 2007, p.21-27, [平成28年4月11日検索]、インターネット〈URL:http://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:347578/FULLTEXT01.pdf〉
【0035】
続いて、駆動信号生成部150に含まれる信号制御部151、第2演算部153および出力部155を説明する。信号制御部151は、第1演算信号Sc1および第2演算信号Sc2が入力され、駆動信号Saを第2演算部153および出力部155に出力する。駆動信号Saは、第1演算信号Sc1と第2演算信号Sc2とが一致するように生成されて出力される。第2演算信号Sc2は、駆動信号Saに基づいて第2演算部153において生成される信号である。第2演算信号Sc2については、後述する。
【0036】
出力部155は、取得した駆動信号Saをスピーカユニット80に駆動信号Sdとして出力する。この例では、出力部155は、スピーカユニット80を接続される端子である。また、駆動信号Saと駆動信号Sdとは同じ信号である。なお、出力部155は、ネットワークを介して外部装置に対して駆動信号Sdを送信してもよい。また、駆動信号Saと駆動信号Sdとは同じ信号でなくてもよい。例えば、出力部155は、駆動信号Saのダイナミックレンジを調整して、駆動信号Sdとして出力してもよい。また、駆動信号Sdは、駆動信号Saを増幅した信号でもよい。上記のように得られた駆動信号Saは、演算の内容によっては、オーディオ信号Sinに比べて出力レベルが大きくなる場合がある。このような場合には、駆動信号Sdは、駆動信号Saのダイナミックレンジを圧縮した信号にすればよい。
【0037】
第2演算部153は、信号制御部151から出力された駆動信号Saを入力信号として用いて、スピーカユニットの電気−機械モデルによる演算を行い、演算結果を示す第2演算信号Sc2を出力する。このスピーカユニットについては、以下、駆動スピーカユニット(第2スピーカユニット)という。第2演算部153が行う演算は、駆動スピーカユニットの構造を特定するパラメータを用いて、駆動信号Saを入力信号とした駆動スピーカユニットの動作を演算する。駆動スピーカユニットの動作としては、この例では、振動板の位置の時間変化である。そのため、この例では、第2演算信号Sc2は、駆動スピーカユニットの振動板の位置に対応する。これによって、駆動信号Saに駆動スピーカユニットに応じた周波数特性が付与される。第1演算信号Sc1と第2演算信号Sc2とは、基本的には、同じ物理量の時間変化を示している。なお、このパラメータは、第1演算部130のときと同様に、構造を直接特定する値でなくてもよく、スピーカユニットの構造に応じて得られる特性を示すパラメータであってもよい。以下、第2演算部153で用いられるパラメータ、すなわち、駆動スピーカユニットの構造を特定するパラメータを第2パラメータという。
【0038】
駆動スピーカユニットは、上述したスピーカユニット80を想定したものである。したがって、第2パラメータは、スピーカユニット80に関する値である。後述するように、このような設定にすることにより、スピーカユニット80から出力される音を、さらに目標スピーカユニットの音に近づけることができる。なお、目標スピーカユニットの音とは変わってくるものの様々な意図しない音響効果を付与することを狙って、駆動スピーカユニットをスピーカユニット80以外のスピーカユニットとして、第2パラメータが設定されてもよい。
【0039】
第2パラメータは、上述した第1パラメータと同様の内容で例示されるため説明を省略する。また、第2演算部153における演算についても、第1演算部130と同様なモデルを用いて演算すればよい。すなわち、第1演算部130における演算処理と第2演算部153における演算処理とは、演算処理に用いるモデルが同じである。なお、これらの演算処理が同じモデルを用いなくてもよいが、この場合であっても、信号制御部151における比較を容易とするため、第2演算信号Sc2は、第1演算信号Sc1と同じ物理量の時間変化を示す信号であることが望ましい。すなわち、第2演算信号Sc2についても、第1演算信号Sc1と同様に、振動板の位置に限らず、振動板の位置に関連する情報に応じた値であってもよい。
【0040】
信号制御部151は、第1演算信号Sc1と第2演算信号Sc2とが一致するように、駆動信号Saを出力する。これは、駆動信号Saの生成には、一般的なフィードバック制御(PID制御、最適制御、適用制御等)の技術を用いてもよいし、デジタル電源の制御と同様の技術を用いてもよい。フィードバック制御のときに設定されるフィードバックゲインは、第2演算部153に設定される第2パラメータが変更されると、その第2パラメータの値に応じて更新されてもよい。このとき、フィードバックゲインは、設定される第2パラメータに応じて予め決定された値が設定されてもよいし、設定された第2パラメータに応じて自動的に適切な値を算出する構成によって得られた値が設定されてもよい。これによって、駆動スピーカユニットに対応した第2演算信号Sc2が、目標スピーカユニットに対応した第1演算信号Sc1に一致するように、駆動信号Saを出力する。
【0041】
この駆動信号Saが実際の駆動スピーカユニットに供給されると、目標スピーカユニットをオーディオ信号Sinによって駆動したときと同様な動作で駆動スピーカユニットを駆動させることができる。そのため、駆動スピーカユニットをスピーカユニット80の第2パラメータで指定した場合には、目標スピーカユニットを用いてオーディオ信号Sinを出力した場合の音が、スピーカユニット80から出力される音において再現されることになる。
【0042】
なお、上述したように、駆動スピーカユニットをスピーカユニット80以外の構造に応じた第2パラメータで指定した場合には、目標スピーカユニットを用いてオーディオ信号Sinを出力した場合の音にさらなる音響効果(第2パラメータに応じた効果)が付与されたような音を、スピーカユニット80から出力することもできる。
【0043】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1パラメータおよび第2パラメータの設定を変更できるスピーカ装置1Aについて説明する。なお、ここでは、第1パラメータおよび第2パラメータの双方の設定が可能な例を説明する。一方、いずれか一方のパラメータについては、予め設定された値から変更できない構成としてもよい。
【0044】
図2は、第2実施形態におけるスピーカ装置の機能を示すブロック図である。
図2に示すスピーカ装置1Aは、スピーカ駆動装置10、操作部60、表示部70およびスピーカユニット80を備える。操作部60は、タッチセンサ、キーボード、マウスなどのユーザの入力操作を受け付ける装置であり、入力された操作に応じた操作信号をスピーカ駆動装置10に出力する。表示部70は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置であり、スピーカ駆動装置10の制御に基づいた画面が表示される。なお、操作部60と表示部70とは一体としてタッチパネルを構成してもよい。
【0045】
スピーカ駆動装置10Aは、取得部110、第1演算部130A、駆動信号生成部150A、設定部170を備える。取得部110は、第1実施形態と同様の構成であるため説明を省略する。この例では、第1演算部130Aに設定される第1パラメータは、設定部170によって変更して設定することができる。また、駆動信号生成部150Aにおける第2演算部153Aに設定される第2パラメータについても、設定部170によって変更して設定することができる。第1演算部130Aおよび第2演算部153Aについては、パラメータの値を変更して設定可能な点以外は、第1実施形態と同様であるため、詳細の説明を省略する。
【0046】
設定部170は、パラメータ記憶部171、第1UI提供部173、第2UI提供部175および設定変更部177を備える。パラメータ記憶部171は、テンプレートテーブルを記憶している。
【0047】
図3は、第2実施形態におけるテンプレートテーブルを説明する図である。テンプレートテーブルは、第1演算部130Aにおいて用いられる第1パラメータの組み合わせ、第2演算部153Aにおいて用いられる第2パラメータの組み合わせを規定している。
図3に示す例では、テンプレート「AAA」は、パラメータAが「a1」、パラメータBが「b1」、・・・という組み合わせを規定している。「AAA」は、例えば、スピーカユニットの型番などに対応する情報とする。そして、テンプレート「AAA」が規定するパラメータの組み合わせは、その型番のスピーカユニットに対応する各パラメータの値である。この例では、パラメータA、B、・・・は、目標スピーカユニットのパラメータとして第1演算部130Aに設定される場合には第1パラメータとなり、駆動スピーカユニットのパラメータとして第2演算部153Aに設定される場合には第2パラメータとなる。
【0048】
図2に戻って説明を続ける。第1UI提供部173は、第1演算部130Aに設定される第1パラメータを指定するためのユーザインターフェイスを提供する。第2UI提供部175は、第2演算部153Aに設定される第2パラメータを指定するためのユーザインターフェイスを提供する。このユーザインターフェイスは、表示部70の表示および操作部60からの入力操作の受付によって実現される。
【0049】
図4は、第2実施形態におけるユーザインターフェイスを説明する図である。
図4に示すように、表示部70において、第1UI提供部173によって提供される第1ユーザインターフェイスD1および第2UI提供部175によって提供される第2ユーザインターフェイスD2が表示される。第1ユーザインターフェイスD1は、目標スピーカユニットに関するパラメータ(第1パラメータ)を指定するための領域である。第2ユーザインターフェイスD2は、駆動スピーカユニットに関するパラメータ(第2パラメータ)を指定するための領域である。これらのパラメータは、例えば、入力ボックスBN、スライダSL、またはダイヤルDAを用いて数値を入力することによって指定される。また、選択ボックスSBは、テンプレートテーブルに規定されたテンプレートを選択することができるインターフェイスである。選択ボックスSBを用いてテンプレートを選択すると、このテンプレートに対応するパラメータがテンプレートテーブルから読み出されて自動的に入力される。読み出された値を修正することもできる。テンプレートに対応するパラメータを読み出す前に、推奨値等の予め決められた値が事前に入力されていてもよい。
【0050】
なお、ユーザインターフェイスにおいて、スピーカユニットの劣化を想定した情報を入力できるようにしてもよい。例えば、スピーカユニットの使用期間(例えば、年単位)を入力することにより、設定されるパラメータを修正して演算処理を補正する。例えば、使用期間が長いほどダンパが硬くなる、といった現象を再現するように、演算処理が補正されるようにすればよい。使用期間に限らず、気圧、湿度など、パラメータ変更して演算処理を補正するための補正情報を入力できるユーザインターフェイスが提示されるようにしてもよい。
【0051】
セーブボタンBSは、各パラメータに対応して入力された値を、テンプレートと同様にパラメータの組み合わせとしてメモリに記憶させるためのインターフェイスである。ロードボタンBLは、メモリに記憶されたパラメータを読み出して、第1ユーザインターフェイスD1および第2ユーザインターフェイスD2の各パラメータに対応して入力する。
【0052】
設定変更部177は、セットボタンBTが操作されると、第1ユーザインターフェイスD1において入力された値に基づいて、第1パラメータを第1演算部130Aに設定し、第2ユーザインターフェイスD2において入力された値に基づいて、第2パラメータを第2演算部153Aに設定する。
【0053】
図4に示すユーザインターフェイスを用いて、第1演算部130Aおよび第2演算部153Aに設定するパラメータを様々に変更することにより、スピーカユニット80から出力する音の特性を様々に変更することができる。例えば、第1演算部130Aに設定されるパラメータの値を変更することによって、目標スピーカユニットを変更することができる。また、スピーカユニット80を別のスピーカユニットXにつなぎ替えた場合、第2演算部153Aに設定されたパラメータを、スピーカユニットXに対応したパラメータに変更することができる。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態においては、スピーカユニット80の動作を測定して第2演算信号Sc2を生成するスピーカ装置1Bについて説明する。
【0055】
図5は、第3実施形態におけるスピーカ装置の機能を示すブロック図である。スピーカ装置1Bは、スピーカ駆動装置10B、スピーカユニット80およびセンサ58を備える。センサ58は、スピーカユニット80の振動板の位置に関連した情報を検出して、検出した情報に応じた検出信号を出力する検出部である。振動板の位置に関連した情報とは、この例では振動板の位置とするが、振動板の速度、または振動板の加速度であってもよい。スピーカ駆動装置10Bは、取得部110、第1演算部130および駆動信号生成部150Bを備える。取得部110および第1演算部130については、第1実施形態と同様な構成であるため、その説明を省略する。
【0056】
駆動信号生成部150Bは、信号制御部151、出力部155および測定部158を備える。信号制御部151および出力部155については、第1実施形態と同様な構成であるため、その説明を省略する。測定部158は、センサ58からの検出信号に基づいてスピーカユニット80の振動板の位置を測定する。測定部158は、測定した振動板の位置に対応する第2演算信号Sc2を生成して、信号制御部151に出力する。信号制御部151は、第1演算信号Sc1と第2演算信号Sc2とが一致するように駆動信号Saを出力する。
【0057】
第1実施形態では、駆動スピーカユニットの振動板の位置を、第2パラメータを用いた演算処理によって得ていたが、第3実施形態ではスピーカユニット80の振動板の位置を測定することによって得ている。この方法によっても、目標スピーカユニットを用いてオーディオ信号Sinを出力した場合の音が、スピーカユニット80から出力される音において再現されることになる。
【0058】
<第4実施形態>
第4実施形態においては、第2演算部153に設定された第2パラメータを、接続されたスピーカユニット80に応じて自動的に変更するスピーカ装置1Cについて説明する。
【0059】
図6は、第4実施形態におけるスピーカ装置の機能を示すブロック図である。スピーカ装置1Cは、スピーカ駆動装置10C、操作部60、表示部70およびスピーカユニット80Cを備える。スピーカユニット80Cは、スピーカユニット80Cに関連する情報として、例えば、型番等を識別するための識別情報を記録したメモリ85を備える。スピーカ駆動装置10Cは、取得部110、第1演算部130A、駆動信号生成部150Aおよび設定部170Cを備える。取得部110、第1演算部130Aおよび駆動信号生成部150Aについては、第2実施形態で説明した構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0060】
設定部170Cは、パラメータ記憶部171、第1UI提供部173、設定変更部177および指定部179を備える。パラメータ記憶部171、第1UI提供部173および設定変更部177については、第2実施形態で説明した構成と同様であるため、その説明を省略する。指定部179は、接続されたスピーカユニット80Cにおけるメモリ85から識別情報を取得し、この識別情報に基づいて第2パラメータの値を指定する。指定部179は、識別情報を、ケーブル等の有線接続によって取得してもよいし、無線通信によって取得してもよいし、二次元コード等の画像を撮影することによって取得してもよい。また、識別情報が第2パラメータの値を示す情報であってもよい。
【0061】
指定部179によって第2パラメータの値が指定されると、設定変更部177は、第2演算部153Aにおける第2パラメータを、指定部179によって指定された値に変更する。このようにすることによって、ユーザがパラメータの値を個別に入力しなくても、第2演算部153Aへの第2パラメータの設定が可能となる。
【0062】
<第5実施形態>
第5実施形態では、駆動信号Saを記憶装置に記録することができスピーカ装置1Dについて説明する。
【0063】
図7は、第5実施形態におけるスピーカ装置の機能を示すブロック図である。スピーカ装置1Dは、スピーカ駆動装置10D、操作部60、表示部70およびスピーカユニット80を備える。また、スピーカ駆動装置10Dに対して、記憶装置50が接続可能になっている。記憶装置50は、例えば、USBメモリ、メモリカードなどの不揮発性メモリであり、スピーカ駆動装置10Dから取り外して、他の装置に接続することも可能である。なお、スピーカ駆動装置10Dと記憶装置50とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0064】
スピーカ駆動装置10Dは、取得部110、第1演算部130A、駆動信号生成部150Aおよび信号記録部190を備える。取得部110、第1演算部130Aについては、第2実施形態で説明した構成と同様であるため、その説明を省略する。設定部170Dは、信号記録部190に対して、設定変更部177において変更したパラメータまたは既に設定されているパラメータに関連する情報を出力する。この情報は、テンプレートを用いてパラメータを設定した場合には、テンプレートの名称であってもよいし、各パラメータに対応する値であってもよい。ここでは、特に、第2演算部153Aにおいて設定された第2パラメータに対応する情報、すなわち、駆動スピーカユニットを特定するための情報(以下、駆動スピーカユニット情報という)が信号記録部190に出力される。なお、第1演算部130Aにおいて設定された第1パラメータに対応する情報、すなわち、目標スピーカユニットを特定するための情報(以下、目標スピーカユニット情報という)が、駆動スピーカユニット情報に加えて信号記録部190に出力されてもよい。
【0065】
信号記録部190は、ユーザの指示(記録開始、終了等)を操作部60から取得し、記録すべき駆動信号Saを取得して所定のファイル形式(例えば、WAVE、MP3、MP4等)のデータにエンコードし、記憶装置50に記録する。このとき、駆動信号Saに対して駆動スピーカユニット情報を対応付けて記録する。記憶装置50に記録されたデータを読み出し、デコードして得られる駆動信号を駆動スピーカユニット情報に対応したスピーカユニットに対して供給すれば、駆動信号を生成するときに設定した目標スピーカユニットから出力される音を再現することができる。目標スピーカユニット情報が対応付けられていれば、この目標スピーカユニットがどのようなものであるかを確認することもできる。
【0066】
なお、第5実施形態では、スピーカユニット80がスピーカ駆動装置10Dに接続されている場合を例示したが、記憶装置50に記憶するだけであれば、スピーカユニット80が接続されていなくてもよい。また、第1実施形態のように、設定部170が存在しないスピーカ駆動装置10に信号記録部190を適用する場合には、信号記録部190が、既に設定されているパラメータを駆動信号生成部150から取得するようにすればよい。
【0067】
<第6実施形態>
第6実施形態においては、スピーカユニット80がネットワークを介して接続されるスピーカ駆動装置10Eについて説明する。
【0068】
図8は、第6実施形態におけるスピーカ駆動装置の機能を示すブロック図である。スピーカ駆動装置10Eは、取得部110、第1演算部130および駆動信号生成部150Eを備える。取得部110、第1演算部130については、第1実施形態で説明した構成と同様であるため、その説明を省略する。駆動信号生成部150Eは、信号制御部151、第2演算部153および出力部155Eを備える。信号制御部151および第2演算部153については、第1実施形態で説明した構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0069】
出力部155Eは、ネットワークを介して駆動信号Sdを所定の通信規格のデータにエンコードして外部の装置に送信する。ネットワークは、例えば、インターネット、LAN等である。外部の装置は、例えば、スピーカ装置8またはサーバ90である。出力部155Eは、ストリーミング形式で駆動信号Sdを送信するが、第5実施形態で示すような所定のファイル形式にエンコードされたデータを送信してもよい。
【0070】
スピーカ装置8は、受信部83およびスピーカユニット80を備える。受信部83は、スピーカ駆動装置10Eから送信された駆動信号Sdを受信してデコードし、スピーカユニット80に供給する。
【0071】
サーバ90は、スピーカ駆動装置10Eから送信された駆動信号Sdを受信すると、データベース95に登録する。このとき、第5実施形態で示すように、駆動スピーカユニット情報および目標スピーカユニット情報の少なくとも一方を、駆動信号Sdに対応付けてデータベース95に登録されるようにしてもよい。
【0072】
<第7実施形態>
第7実施形態では、上記実施形態におけるスピーカ装置をコンピュータによりソフトウェア上で実現する例を説明する。この例では、第2実施形態におけるスピーカ装置1Aがタブレット型コンピュータ1000に適用された例を説明する。
【0073】
図9は、第7実施形態におけるタブレット型コンピュータを示す外観図である。タブレット型コンピュータ1000は、入出力端子11、操作部60、表示部70およびスピーカユニット80を備える。また、タブレット型コンピュータ1000は、制御部100および記憶部500を備える。制御部100は、CPUなどの演算処理回路を有し、記憶部500に記憶されたプログラムを実行して、
図2に示すスピーカ駆動装置10Aの各機能をソフトウェア上で実現する。すなわち、このプログラムは、タブレット型コンピュータ1000を、スピーカ駆動装置10Aとして機能させる。なお、このプログラムは、予めタブレット型コンピュータ1000にインストールされたものであってもよいし、外部メモリから取得されたり、ネットワーク経由でダウンロードされたりしたものであってもよい。
【0074】
取得部110は、入出力端子11からオーディオ信号Sinを取得してもよいし、制御部100において生成されるオーディオ信号Sinを取得してもよい。また、入出力端子11にヘッドフォンが接続された場合には、出力部155は、スピーカユニット80に代えて入出力端子11に駆動信号Sdを出力してもよい。このとき、第2演算部153Aに設定されている第2パラメータが自動的に変更されてもよい。変更後の第2パラメータは、ヘッドフォンに相当する値に設定されればよい。このとき、第2パラメータは、必ずしも入出力端子11に接続されたヘッドフォンに対応する値でなくてもよい。この例では、入出力端子11は、入力端子と出力端子とを共用していたが、それぞれ別々に設けられていてもよい。なお、第4実施形態で説明したようにヘッドフォンから識別情報を取得できる構成であれば、その識別情報に基づいて第2パラメータが変更されてもよい。
【0075】
ここでは、スピーカ駆動装置の各機能をソフトウェア上で実現する例を説明したが、DSPなどにより実現してもよい。
【0076】
<第1パラメータおよび第2パラメータの例>
上述したように、第1パラメータおよび第2パラメータは、スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータ(TSパラメータという場合もある)の少なくとも一つである。このスピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの具体例(Lumped Parameter Model)を説明する。
【0077】
[スピーカユニット単体]
図10は、スピーカユニットの等価回路(Lumped Parameter Model)を規定するパラメータの具体例を説明する図である。
図10に示す各パラメータの内容についても
図10に併せて示されている。ここでは、これらのパラメータの値を変更したときのスピーカユニットの特性変化の一例について説明する。例えば、第1演算部130に設定されるパラメータの値を変更すると、目標スピーカユニットの周波数特性を変更することができる。
【0078】
図11は、Rms(機械抵抗)を変化させた場合における周波数応答およびステップ応答の変化を示した図である。
図11においては、Rmsの値が所定の基準値、基準値に対して0.2倍、基準値に対して5倍としたときの周波数応答およびステップ応答の変化を示している。Rms(機械抵抗)を変化させると、少なくとも周波数応答(特に共振周波数の強度)およびステップ応答が変化させることができる。
図11に示すように、例えば、Rmsを大きくすると、共振周波数における強度(振動板の振幅)を押さえることができ、また、振動の立ち上がり(音の立ち上がり)の変化がほとんど無い状態で強度の揺れを抑える時間を短くすることができる。
【0079】
図12は、Kms(スティフネス)を変化させた場合における周波数応答およびステップ応答の変化を示した図である。
図13は、Mms(質量)を変化させた場合における周波数応答およびステップ応答の変化を示した図である。
図12においては、Kmsの値が所定の基準値、基準値に対して0.5倍、基準値に対して2倍としたときの周波数応答およびステップ応答の変化を示している。
図13においては、Mmsの値が所定の基準値、基準値に対して0.5倍、基準値に対して2倍としたときの周波数応答およびステップ応答の変化を示している。
図12および
図13に示すように、Kms(スティフネス)またはMms(質量)を変化させると、レゾナンス周波数を変化させることができる。例えば、Kmsを小さくしたり、Mmsを重くしたりすると、レゾナンス周波数を低くすることができる。スピーカユニットでは、放射インピーダンスとの関係でレゾナンス周波数により下限周波数が決まる。
【0080】
上記のようにスピーカユニットの周波数応答等の特性を変化させようとすると、一般的には、振動板の厚さおよび重さ等を調整することになるが、このような調整では、様々なパラメータが連動して変化してしまい、所望の特性を得るためには非常に複雑な設計の変更が必要となる。例えば、中高域での分割振動の影響を抑えるには、振動板が厚く剛性率が高く、しかも軽量で内部損失の大きい材料で、小さな口径であることが望ましい。また、低域では、口径が大きく、無歪み振幅が大きい方が有利である。さらに加工難度や耐久性も考慮に入れる必要があり、一般的にこれらを同時に満たすことは困難である。一方、例えば、第1演算部130に設定する目標スピーカユニットの等価回路のパラメータの値を変更することにより、一部のパラメータを他のパラメータから独立して制御することができ、振動板の重さを変えずに機械抵抗を変化させるといった調整が可能である。したがって、分割振動の影響を軽減するために厚めの振動板を使いながら、軽くて過渡特性がよいこと、機械抵抗が大きく不要な振動が起こりにくいこと、スティフネスが小さく低音が出やすいこと、といった、物理的には実現が難しい特性を容易に実現し、さらに信号処理によって後から調整することもできる。
【0081】
[密閉型のエンクロージャに配置されたスピーカユニット]
図14は、密閉型のエンクロージャ(Closed Box)に配置されたスピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの具体例を説明する図である。
図14に示す各パラメータの内容についても
図14に併せて示されている。なお、
図10で示したパラメータは、この図では記載を省略している。ここでは、エンクロージャの容量に応じたKa(スティフネス)の影響が追加される。なお、
図14に示すように、このパラメータは、Sd、Cbといったエンクロージャの形状に関係するパラメータから演算することもできる。したがって、Kaを直接設定するのではなく、エンクロージャの容量(Cb)を設定することによって間接的に設定してもよい。すなわち、等価回路を規定するパラメータは、直接設定される場合に限らず、このパラメータを得るために必要なパラメータを介して間接的に設定されてもよい。したがって、エンクロージャを実際に作製しなくても、様々な大きさのエンクロージャを想定してパラメータを設定することができる。
【0082】
[バスレフ(バスリフレックス)型のエンクロージャ配置されたスピーカユニット]
図15は、バスレフ型のエンクロージャ(Vented Box)に配置されたスピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの具体例を説明する図である。
図15に示す各パラメータの内容についても
図15に併せて示されている。なお、
図10で示したパラメータは、この図では記載を省略している。この例では、ダクト部分の特性が加えられている。このような等価回路については、以下の文献に例示される。
Wolfgang Klippel, "Direct Feedback Linearization of Nonlinear Loudspeaker Systems", JAES Volume 46 Issue 6 pp. 499-507; June 1998
【0083】
一般的に、バスレフ型のエンクロージャは設計通りの音響特性を実現することが難しい。一方、この例では、実際にダクト部分の形状を変化させたエンクロージャを大量に作製しなくても、所望の特性を有するバスレフ型のエンクロージャを想定して、
図15に示すパラメータの値を変更することができる。
【0084】
このように、スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータは、第1演算部130および第2演算部153における演算モデルに応じて、様々に取り得る。これらのパラメータの全てが変更可能であってもよいし、一部のみが変更可能であって残りが予め決められた値であってもよい。
【0085】
なお、従来技術として、インパルス応答、伝達関数等を用いて所定のスピーカユニットの周波数応答等の特性を実現する方法もある。しかしながら、このような演算方法を用いた場合には、スピーカユニットの周波数特性を変更するためには、その都度別途のインパルス応答、伝達関数等を準備する必要がある。一方、第1演算部130のように、スピーカユニットの等価回路を規定するパラメータの値を変更することによって、スピーカユニットの周波数特性を容易に変更することができる。
【0086】
第1演算部130に設定されるパラメータを変化させることによって、目標スピーカユニットの特性を容易に変化させることができる。一方、接続される駆動スピーカユニットを変更したときに、第2演算部153に設定されるパラメータの値を変更することも容易である。また、上記では駆動スピーカユニットは、単体として説明しているが、ステレオ2ch等、複数のチャンネルを有する場合に、それぞれのチャンネルに対応する駆動スピーカユニットに対応して第2演算部153に設定されるパラメータの値を変更することもできる。例えば、複数のチャンネルで同じ駆動スピーカユニットを用いたとしても、互いの駆動スピーカユニットが、製造ばらつきによる特性の違いを有していたり、スピーカユニットが配置される環境(周辺の構造等)による違いを有していたりする場合がある。このような場合には、それぞれの状況に応じて、第2演算部153に設定されるパラメータをチャンネル毎に異ならせてもよい。
【0087】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述した各実施形態は、互いに組み合わせたり、置換したりして適用することが可能である。また、上述した各実施形態では、以下の通り変形して実施することも可能である。
【0088】
(1)各実施形態におけるスピーカ駆動装置の各機能は、アナログ回路で実現されてもよいし、デジタル回路で実現されてもよい。
【0089】
(2)上述したスピーカ駆動装置は、ネットワークに接続されたサーバにおいて実現されてもよい。この場合には、スピーカ駆動装置は、ネットワークを介してオーディオ信号Sinを受信し、ネットワークを介して駆動信号Saまたは駆動信号Sdを送信すればよい。この構成は、第6実施形態(
図8)で説明したスピーカ駆動装置10Eの機能をサーバが有しているということもできる。
【0090】
(3)オーディオ信号Sinは、複数のチャンネルを有していてもよい。1つのチャンネルにおいて1つのスピーカユニットを用いる場合には、チャンネル数に応じて複数のスピーカ駆動装置を用いればよい。
【0091】
(4)デジタルスピーカ装置においては、複数のボイスコイルによって1つのスピーカユニットが駆動されたり、複数のスピーカユニットが駆動されたりする場合がある。複数のボイスコイルによって1つのスピーカユニットが駆動される場合には、1つのスピーカユニットに対して複数の駆動信号Sdが用いられる。この場合には、信号制御部が生成する駆動信号Saは、複数チャンネルを有していればよい。第2演算部は、複数チャンネルの駆動信号Saを用いて、駆動スピーカユニットに対応する振動板の位置を得ればよい。そして、スピーカユニット80を複数チャンネルの駆動信号Sdで駆動するようにすればよい。
【0092】
一方、複数のスピーカユニットが用いられる場合には、各スピーカユニットに対応したチャンネル数の第1演算信号Sc1、第2演算信号Sc2および駆動信号Saが生成されるようにすればよい。この場合には、目標スピーカユニットも複数である必要があり、第1演算部は、オーディオ信号Sinに基づいて、複数の目標スピーカユニットにおける振動板の位置を得ることになる。
【0093】
上記のように、複数のボイスコイルで1つのスピーカユニットを駆動するデジタルスピーカ装置、または複数のスピーカユニットを駆動するデジタルスピーカ装置については、公知の技術を使えばよい。公知の技術としては、例えば、米国特許第8423165号明細書、米国特許第8306244号明細書、米国特許第9219960号明細書、米国特許第9300310号明細書に開示された技術を用いることができる。この技術によれば、ΔΣ変調器を用いたノイズシェイパー、およびばらつきを低減するように駆動信号を振り分けるボイスコイルを選択するミスマッチシェイパーが利用されている。
【0094】
(5)駆動信号生成部150は、第2演算部153を有していなくてもよい。この場合には、信号制御部151は、振動板の位置を示す第1演算信号Sc1を駆動信号Saに変換する処理を行ってもよい。この変換処理は公知の技術(例えば、放射特性、空間伝搬を用いたモデル演算)を用いてもよいし、単に速度に変換する処理であってもよい。
【0095】
(6)上述した実施形態では、第1演算部および第2演算部における電気−機械モデルの対象物および電気信号(駆動信号)に基づいて駆動される対象物はスピーカユニットであったが、電気信号を機械の位置または速度等の動作に変換する対象物など、微分方程式で記述できる対象物であれば、どのような対象物であってもよい。微分方程式で記述できる対象物として、例えば、モータ、圧電素子、磁歪素子、静電アクチュエータなどの電気機械変換器が、本発明に適用可能である。したがって、スピーカ駆動装置は、電気機械変換器の駆動装置の一例といえる。なお、上述のような電気機械変換器がスピーカユニットの振動板を変位させる構成に含まれていてもよい。