【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る副室式ガスエンジンは、
主燃焼室を形成する主室形成部と、
前記主燃焼室と複数の噴孔を介して連通される副室を形成する副室形成部と、
前記副室内部の上部に設けられた着火装置であって、前記着火装置の着火部が前記主燃焼室の主室中心軸線から所定距離だけ離間された位置にある着火装置と、を備え、
平面視において、前記副室は、前記副室の副室中心軸線と前記着火部とを通る直線に対して、直交で、かつ、前記副室中心軸線を通る境界線を境として定義される、前記着火部が位置する側の着火近傍側領域、および前記着火近傍側領域と反対側の着火遠方側領域とを有しており、
前記着火遠方側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である遠方側特定噴孔における、前記副室に接続される副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離は、前記着火近傍側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である近傍側特定噴孔の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離よりも短いこと、あるいは、
前記着火近傍側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である近傍側特定噴孔における、前記副室に接続される副室側開口端部と、前記副室中心軸線との距離は、前記着火遠方側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である遠方側特定噴孔の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離よりも短いこと、のいずれかである。
【0009】
上記(1)の構成によれば、着火装置の着火部(点火プラグの電極など)が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から所定距離だけ離間された副室式ガスエンジンにおける副室の平面視において、着火部に相対的に遠い側の領域内(着火遠方側領域)の遠方側特定噴孔と副室中心軸線との距離は、着火部に相対的に近い側の領域内(着火近傍側領域)に配置された近傍側特定噴孔と副室中心軸線との距離よりも短い。あるいは、近傍側特定噴孔と副室中心軸線との距離との距離は、遠方側特定噴孔と副室中心軸線との距離よりも短い。ここで、本発明者らは、着火装置による着火により生じた燃焼火炎は、近傍側特定噴孔の副室側開口端部、副室中心軸線の通過する部分(副室の底部中央)、遠方側特定噴孔の副室側開口端部の順に到達することを見出した。さらに、本発明者らは、遠方側特定噴孔の副室側開口端部を副室の底部中央側に形成することで、遠方側特定噴孔の副室側開口端部に着火装置による着火により生じた燃焼火炎が到達する時期が早めることが可能であることに思い至った。あるいは、近傍側特定噴孔の副室側開口端部を副室の底部中央側に形成することで、近傍側特定噴孔の副室側開口端部に燃焼火炎が到達する時期を遅くすることが可能であることに思い至った。
【0010】
よって、近傍側特定噴孔あるいは遠方側特定噴孔の副室側開口端部を副室の底部中央に近づけることにより、近傍側特定噴孔および遠方側特定噴孔の各々の副室側開口端部に着火装置による着火により副室で生じた燃焼火炎がそれぞれ到達する時期の時間差を短縮することができるので、近傍側特定噴孔および遠方側特定噴孔の各々の主室側開口端部からそれぞれ噴出する燃焼火炎(トーチジェット)の噴出開始時期や噴出強度が同等となるように調整することができ、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。また、主燃焼室における火炎伝播のばらつきを抑制することによって、火炎の到達が遅れることによって生じるノッキングを抑制することができ、エンジンの高効率化を行うことができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記近傍側特定噴孔は、平面視において、前記主燃焼室に接続される主室側開口端部が前記着火部に最も近接する前記着火近傍側領域内の前記噴孔となる最近接噴孔であり、
前記遠方側特定噴孔は、平面視において、前記主室側開口端部が前記着火部から最も離れた前記着火遠方側領域内の噴孔となる最遠方噴孔である。
上記(2)の構成によれば、副室の平面視において、その主室側開口端部が着火部から最も離れた噴孔(最遠方噴孔)の副室側開口端部と副室中心軸線との距離が、その主室側開口端部が着火部に最も近接する噴孔(最近接噴孔)の副室側開口端部と副室中心軸線との距離よりも短い。これによって、着火装置による着火により生じた燃焼火炎が最遠方噴孔に到達する時期をより早く調整することができ、副室において、着火装置による着火により生じた燃焼火炎が最も早く到達する最近接噴孔と最遠方噴孔との各々における噴出開始時期を近づけることができる。したがって、複数の噴孔の各々から主燃焼室に火炎が噴出する際の噴出開始時期のばらつきの抑制を通して、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を効率的に行うことができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(2)の構成において、
前記遠方側特定噴孔の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離は、前記複数の噴孔の各々の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離の平均よりも短い。
上記(3)の構成によれば、遠方側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離を平均よりも短くすることで、遠方側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離を、近傍側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離よりも短くすることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(2)の構成において、
前記近傍側特定噴孔の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線との距離は、前記複数の噴孔の各々の前記副室側開口端部と前記副室中心軸線Csとの距離の平均よりも短い。
上記(4)の構成によれば、近傍側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離を平均よりも短くすることで、近傍側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離を、遠方側特定噴孔の副室側開口端部と副室中心軸線との距離よりも短くすることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(4)の構成において、
前記遠方側特定噴孔の俯角は、前記近傍側特定噴孔の俯角と同じである。
上記(5)の構成によれば、遠方側特定噴孔の俯角と近傍側特定噴孔の俯角とが同じであるため、各々の噴孔から噴出した燃焼火炎(トーチジェット)がそれぞれシリンダ壁面まで火炎伝播するまでの所要時間に与える影響を抑制しつつ、近傍側特定噴孔および遠方側特定噴孔の各々の副室側開口端部に着火装置による着火により生じた燃焼火炎がそれぞれ到達する時期の時間差を短縮することができる。
【0015】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係る副室式ガスエンジンは、
主燃焼室を形成する主室形成部と、
前記主燃焼室と複数の噴孔を介して連通される副室を形成する副室形成部と、
前記副室内部の上部に設けられた着火装置であって、前記着火装置の着火部が前記主燃焼室の主室中心軸線から所定距離だけ離間された位置にある着火装置と、を備え、
平面視において、前記副室は、前記副室の副室中心軸線と前記着火部とを通る直線に対して、直交で、かつ、前記副室中心軸線を通る境界線を境として定義される、前記着火部が位置する側の着火近傍側領域、および前記着火近傍側領域と反対側の着火遠方側領域とを有し、
前記着火遠方側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である遠方側特定噴孔の噴孔長は、前記着火近傍側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である近傍側特定噴孔の噴孔長よりも短い。
【0016】
上記(6)の構成によれば、着火装置の着火部(点火プラグの電極など)が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から所定距離だけ離間された副室式ガスエンジンにおける副室の平面視において、副室の平面視における着火部に相対的に遠い側の領域内(着火遠方側領域)の遠方側特定噴孔の噴孔長は、着火部に相対的に近い側の領域内(着火近傍側領域)に配置された近傍側特定噴孔の噴孔長よりも短い。ここで、噴孔長が長いほど、着火装置による着火により生じた燃焼火炎が噴孔を通過するのに時間を要する。したがって、副室において、この燃焼火炎がより遅く到達する遠方側特定噴孔の噴孔長を、燃焼火炎がより早く到達する近傍側特定噴孔の噴孔長よりも短くすることにより、遠方側特定噴孔および近傍側特定噴孔の各々の主室側開口端部を介して主燃焼室に噴出される燃焼火炎(トーチジェット)の噴出開始時期や噴出強度が同等となるように調整することができ、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。また、主燃焼室における火炎伝播のばらつきを抑制することによって、火炎の到達が遅れることによって生じるノッキングを抑制することができ、エンジンの高効率化を行うことができる。
【0017】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記近傍側特定噴孔は、平面視において、前記着火部に最も近接する前記着火近傍側領域内の前記噴孔となる最近接噴孔を含み、
前記遠方側特定噴孔は、平面視において、前記着火部から最も離れた前記着火遠方側領域内の前記噴孔となる最遠方噴孔を含む。
上記(7)の構成によれば、副室の平面視において、着火部から最も離れた噴孔(最遠方噴孔)の噴孔長が、着火部に最も近接する噴孔(最近接噴孔)の噴孔長よりも短い。これによって、副室において、着火装置による着火により生じた燃焼火炎が最も早く到達する最近接噴孔および燃焼火炎が最も遅く到達する最遠方噴孔の各々から噴出する燃焼火炎(トーチジェット)の噴出開始時期や噴出強度が同等になるように調整することができ、主燃焼室におけるトーチジェットの火炎伝播のばらつきの抑制を効率的に行うことができる。
【0018】
(8)幾つかの実施形態では、上記(6)〜(7)の構成において、
前記副室形成部において、前記遠方側特定噴孔の副室側開口端部と前記主室中心軸線との距離が、前記近傍側特定噴孔の副室側開口端部と前記主室中心軸線との距離よりも長くなるように、前記副室中心軸線と前記主室中心軸線とがずらされた状態で前記副室が形成されている。
上記(8)の構成によれば、例えば、副室形成部において主室中心軸線と副室中心軸線とがずれるように遠方側特定噴孔側に副室を偏らせて形成することで、副室形成部によって形成される副室の壁の厚さが、遠方側特定噴孔の方が近傍側特定噴孔よりも薄くなる。これによって、遠方側特定噴孔の噴孔長を近傍側特定噴孔の噴孔長よりも短く形成することができる。
【0019】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る副室式ガスエンジンは、
主燃焼室を形成する主室形成部と、
前記主燃焼室と複数の噴孔を介して連通される副室を形成する副室形成部と、
前記副室内部の上部に設けられた着火装置であって、前記着火装置の着火部が前記主燃焼室の主室中心軸線から所定距離だけ離間された位置にある着火装置と、を備え、
平面視において、前記副室は、前記副室の副室中心軸線と前記着火部とを通る直線に対して、直交で、かつ、前記主室中心軸線を通る境界線を境として定義される、前記着火部が位置する側の着火近傍側領域、および前記着火近傍側領域と反対側の着火遠方側領域とを有し、
前記着火遠方側領域内の少なくとも1つの前記噴孔である遠方側特定噴孔は、前記副室との接続位置から離れるに従って径が小さくなるような形状を有する副室側開口端部を含む。
【0020】
上記(9)の構成によれば、着火装置の着火部(点火プラグの電極など)が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から所定距離だけ離間された副室式ガスエンジンにおける副室の平面視において、副室の平面視における着火部に相対的に遠い側の領域内(着火遠方側領域)の遠方側特定噴孔における副室側開口端部は、副室との接続位置から離れるに従って径が小さくなるような形状(ベルマウス形状)を有する。つまり、遠方側特定噴孔の副室側開口端部を、着火装置による着火により生じた燃焼火炎に対する入口圧損を低減可能な形状にすることによって、遠方側特定噴孔の副室側開口端部に流入する際の燃焼火炎の減速の抑制を図っている。
【0021】
これによって、遠方側特定噴孔から主燃焼室に噴出する際の燃焼火炎(トーチジェット)の流速をより増大させることができるので、遠方側特定噴孔からのトーチジェットの流速を、近傍側特定噴孔から主燃焼室に噴出するトーチジェットの流速と同等になるように調整することができ、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。また、主燃焼室における火炎伝播のばらつきを抑制することによって、火炎の到達が遅れることによって生じるノッキングを抑制することができ、エンジンの高効率化を行うことができる。
【0022】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記遠方側特定噴孔は、平面視において、前記着火部から最も離れた前記着火遠方側領域内の前記噴孔となる最遠方噴孔である。
上記(10)の構成によれば、副室の平面視において、着火部から最も離れた噴孔(最遠方噴孔)における副室側開口端部がベルマウス形状を有する。これによって、副室において、着火装置による着火により生じた燃焼火炎が最も早く到達する最近接噴孔および燃焼火炎が最も遅く到達する最遠方噴孔の各々から噴出する燃焼火炎(トーチジェット)の噴出開始時期や噴出強度が同等になるように調整することができ、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を効率的に行うことができる。
【0023】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)、(9)〜(10)の構成において、
前記主室中心軸線と前記副室中心軸線とは一致している。
上記(11)の構成によれば、主燃焼室の主室中心軸線と副室の副室中心軸線とが一致するように副室が設けられていると共に、着火装置の着火部が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から所定距離だけ離間された副室式ガスエンジンにおいて、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。
【0024】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の構成において、
前記副室は、
所定の内径を有する小径筒室であって、前記複数の噴孔が接続される小径筒室を形成する小径筒形成部と、
前記小径筒室よりも大きい内径を有した大径筒室であって、前記着火装置の着火部が位置する大径筒室を形成する大径筒形成部と、で構成されており、
前記主室中心軸線と前記小径筒室の副室中心軸線とは一致している。
上記(12)の構成によれば、主燃焼室の主室中心軸線と副室を構成する小径筒室の副室中心軸線とが一致するように副室が設けられていると共に、着火装置の着火部が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から所定距離だけ離間された副室式ガスエンジンにおいて、主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。
【0025】
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(12)の構成において、
前記所定距離は、前記副室の内径の最大値の10%よりも大きい。
上記(13)の構成によれば、上記で規定される所定距離だけ、着火装置の着火部が主燃焼室の中心軸(主室中心軸線)から離間された副室式ガスエンジンの主燃焼室における火炎伝播のばらつきの抑制を図ることができる。