(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解析ステップにおいて、一つの前記細胞塊に対し、共通の前記基準点を中心とし半径が互いに異なる複数の前記サンプリング円を設定し、前記複数のサンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて、前記細胞塊の状態に関する複数のパラメータを求め、
前記評価ステップにおいて、前記複数のパラメータの比較に基づいて前記細胞塊を評価する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞塊の評価方法。
前記撮像ステップにおいて、前記細胞塊を含む第1の画像を第1のタイミングにおいて取得し、前記細胞塊を含む第2の画像を前記第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて取得し、
前記解析ステップにおいて、前記第1の画像に含まれる前記細胞塊に関する前記パラメータである第1のパラメータと、前記第2の画像に含まれる前記細胞塊に関する前記パラメータである第2のパラメータと、を求め、
前記評価ステップにおいて、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとの比較に基づいて前記細胞塊を評価する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞塊の評価方法。
前記解析部は、一つの前記細胞塊に対し、共通の前記基準点を中心とし半径が互いに異なる複数の前記サンプリング円を設定し、前記複数のサンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて複数の前記パラメータを求める、請求項12〜15のいずれか一項に記載の細胞塊の状態解析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオ・再生医療分野においては、細胞塊を用いた研究が盛んに行われており、特に、大量培養やドラッグスクリーニング等への応用が期待されている。そして、使用可能な細胞塊を識別するために、細胞塊の状態を解析して評価する技術が求められている。例えば、細胞塊に光を照射しながら細胞塊を撮像し、得られた画像に基づいて細胞塊の状態を評価することができる(例えば特許文献1,2を参照)。しかしながら、通常、細胞塊の形状は3次元の球状に近い。従って、2次元の画像に基づいて細胞塊の状態を正確に評価することは容易ではない。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、画像に基づいて細胞塊の状態をより正確に評価することができる細胞塊の評価方法及び細胞塊の状態解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一実施形態による細胞塊の評価方法は、複数の細胞が集合してなる細胞塊を評価する方法であって、細胞塊への光照射により細胞塊から得られる光を撮像する撮像ステップと、撮像ステップにより得られた画像に含まれる細胞塊に対し、基準点を設定し、該基準点を中心とするサンプリング円を設定し、サンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて、細胞塊の状態に関するパラメータを求める解析ステップと、パラメータに基づいて細胞塊を評価する評価ステップと、を含む。
【0008】
また、本発明の一実施形態による細胞塊の状態解析装置は、複数の細胞が集合してなる細胞塊の評価に用いられる装置であって、細胞塊に照射される光を出力する光源と、光の照射により細胞塊から得られる光を撮像する撮像部と、撮像により得られた画像に含まれる細胞塊に対し、基準点を設定し、該基準点を中心とするサンプリング円を設定し、サンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて、細胞塊の状態に関するパラメータを求める解析部と、を備える。
【0009】
上記の評価方法及び状態解析装置では、撮像ステップにおいて又は撮像部が、光照射によって細胞塊から得られる光を撮像することにより、細胞塊を含む画像を取得する。そして、解析ステップにおいて又は解析部が、画像に含まれる細胞塊に対して基準点を設定し、該基準点を中心とするサンプリング円を設定する。基準点としては、例えば画像中の細胞塊の中心付近の一点が選ばれる。本発明者の知見によれば、細胞の状態(例えば幹細胞の分化/未分化状態、或いは癌細胞の壊死状態)は、中心付近から周縁部に向けて変化し、その変化の様子は、中心付近から等距離の位置であればほぼ一様である。すなわち、細胞の状態がほぼ一様な領域から抽出された画像データに基づいて、細胞塊の状態に関するパラメータを求めることができる。従って、上記の評価方法及び状態解析装置によれば、画像に基づいて細胞塊の状態をより正確に評価することができる。
【0010】
また、上記の評価方法及び状態解析装置において、パラメータは細胞数密度であってもよい。例えばiPS細胞或いはES細胞等の幹細胞においては、細胞の状態が変化(例えば未分化状態から分化状態に変化)すると、個々の細胞形態が変化して細胞塊の細胞数密度が変わる。従って、細胞塊の細胞数密度を求めることにより、当該細胞塊を構成する各細胞の分化度合いを精度良く評価することができる。
【0011】
或いは、上記の評価方法及び状態解析装置において、パラメータは、サンプリング円の周方向に沿った画像データの自己相関関数の最初の波形の幅であってもよい。本発明者の知見によれば、この自己相関関数の最初の波形の幅は、細胞塊の当該サンプリング円上の細胞数密度と関連する。従って、上記の自己相関関数の最初の波形の幅を求めることにより、細胞塊の当該サンプリング円上の細胞数密度の推定や比較が可能となり、細胞塊を構成する各細胞の分化度合いを精度良く評価することができる。
【0012】
更に、上記の評価方法において、細胞塊が幹細胞によって構成される場合、評価ステップにおいて、細胞数密度、若しくは自己相関関数の最初の波形の幅といったパラメータに基づいて、細胞塊の分化度合いを評価してもよい。また、上記の状態解析装置は、解析部によって求められた、細胞数密度、若しくは自己相関関数の最初の波形の幅といったパラメータに基づいて、細胞塊を評価する評価部を更に備えてもよい。更に、細胞塊が幹細胞によって構成される場合、評価部は、パラメータに基づいて細胞塊の分化度合いを評価してもよい。これにより、細胞塊の状態を評価でき、特に、複数の幹細胞によって構成された細胞塊の分化度合いを好適に評価することができる。
【0013】
また、上記の評価方法において、解析ステップにおいて、一つの細胞塊に対し、共通の基準点を中心とし半径が互いに異なる複数のサンプリング円を設定し、複数のサンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて、細胞塊の状態に関する複数のパラメータを求め、評価ステップにおいて、複数のパラメータの比較に基づいて細胞塊を評価してもよい。このように、複数のサンプリング円上の画像データから複数のパラメータを求め、これらを比較することにより、複数のサンプリング円上の細胞の状態を相対的に評価することができる。従って、当該細胞塊の状態変化の傾向を容易に知ることができる。また、上記の状態解析装置において、解析部は、一つの細胞塊に対し、共通の基準点を中心とし半径が互いに異なる複数のサンプリング円を設定し、複数のサンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて複数のパラメータを求めてもよい。これにより、前記の評価方法を好適に実施可能な状態解析装置を提供できる。
【0014】
また、上記の評価方法の撮像ステップにおいて、第1の細胞塊及び第1の細胞塊とは別の第2の細胞塊を含む画像を取得し、解析ステップにおいて、画像に含まれる第1の細胞塊に関するパラメータである第1のパラメータと、画像に含まれる第2の細胞塊に関するパラメータである第2のパラメータと、を求め、評価ステップにおいて、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて第1の細胞塊及び第2の細胞塊の少なくとも一方を評価してもよい。このように、第1の細胞塊に関する第1のパラメータと、第2の細胞塊に関する第2のパラメータとを求め、これらを比較することにより、第1の細胞塊の細胞の状態と、第2の細胞塊の細胞の状態とを相対的に評価することができる。従って、例えば第1の細胞塊及び第2の細胞塊が同じ容器内で培養されているような場合に、当該容器内で同時に培養されている複数の細胞塊の状態がどの程度安定しているかを容易に評価することができる。また、上記の状態解析装置において、撮像部は、第1の細胞塊及び第1の細胞塊とは別の第2の細胞塊を含む画像を取得し、解析部は、画像に含まれる第1の細胞塊に関するパラメータである第1のパラメータと、画像に含まれる第2の細胞塊に関するパラメータである第2のパラメータと、を求めてもよい。これにより、前記の評価方法を好適に実施可能な状態解析装置を提供できる。
【0015】
また、上記の評価方法の撮像ステップにおいて、第1の細胞塊を含む第1の画像と、第1の細胞塊とは別の第2の細胞塊を含む第2の画像とを取得し、解析ステップにおいて、第1の画像に含まれる第1の細胞塊に関するパラメータである第1のパラメータと、第2の画像に含まれる第2の細胞塊に関するパラメータである第2のパラメータと、を求め、評価ステップにおいて、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて第1の細胞塊及び第2の細胞塊の少なくとも一方を評価してもよい。或いは、上記の評価方法において、第1の細胞塊に対して撮像ステップ及び解析ステップを行い、第1の細胞塊の状態に関するパラメータである第1のパラメータを求め、第1の細胞塊とは別の第2の細胞塊に対して撮像ステップ及び解析ステップを行い、第2の細胞塊の状態に関するパラメータである第2のパラメータを求め、評価ステップにおいて、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて第1の細胞塊及び第2の細胞塊の少なくとも一方を評価してもよい。これらの方法のように、第1の細胞塊に関する第1のパラメータと、第2の細胞塊に関する第2のパラメータとを求め、これらを比較することにより、第1の細胞塊の細胞の状態と、第2の細胞塊の細胞の状態とを相対的に評価することができる。従って、例えば第1の細胞塊及び第2の細胞塊が同じ容器内で培養されているような場合に、当該容器内で同時に培養されている複数の細胞塊の状態がどの程度安定しているかを容易に評価することができる。
【0016】
また、上記の評価方法の撮像ステップにおいて、細胞塊を含む第1の画像を第1のタイミングにおいて取得し、細胞塊を含む第2の画像を第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて取得し、解析ステップにおいて、第1の画像に含まれる細胞塊に関するパラメータである第1のパラメータと、第2の画像に含まれる細胞塊に関するパラメータである第2のパラメータと、を求め、評価ステップにおいて、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて細胞塊を評価してもよい。或いは、上記の評価方法は、第1のタイミングにおいて、撮像ステップ及び解析ステップを行い、細胞塊に関するパラメータである第1のパラメータを求め、第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて、撮像ステップ及び解析ステップを行い、細胞塊に関するパラメータである第2のパラメータを求め、評価ステップにおいて、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて細胞塊を評価してもよい。これらの方法のように、同一の細胞塊に関し異なるタイミングにおいて得られた複数のパラメータを比較することにより、当該細胞塊を構成する細胞の状態の経時変化(若しくは、状態が不変であること)を容易に知ることができる。
【0017】
また、上記の評価方法及び状態解析装置において、細胞塊に照射される光は赤外光であってもよい。可視光の場合、細胞塊の内部における光の散乱が強いので、細胞塊の直径が大きくなると、細胞塊の中央付近を明瞭に撮像することが難しい。これに対し、赤外光の場合には細胞塊の内部における光の散乱が弱いので、細胞塊の直径が大きい(例えば100μm以上)場合であっても、細胞塊の中央付近を含む全体を明瞭に撮像することが可能になる。
【0018】
また、上記の評価方法の撮像ステップにおいて、薄層状に圧潰された細胞塊に対して厚み方向から光を照射してもよい。同様に、上記の状態解析装置は、細胞塊を薄層状に圧潰した状態で保持する保持部を更に備え、細胞塊に対して厚み方向から光が照射されてもよい。これにより、細胞塊を薄くして、細胞塊の中央付近を含む全体を明瞭に撮像することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による細胞塊の評価方法及び細胞塊の状態解析装置によれば、画像に基づいて細胞塊の状態をより正確に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明による細胞塊の評価方法及び細胞塊の状態解析装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、一実施形態に係る状態解析装置1Aの構成を概略的に示す図である。本実施形態の状態解析装置1Aは、複数の細胞が集合してなる細胞塊CMの評価に用いられる装置である。細胞塊CMは、iPS細胞やES細胞等の幹細胞、或いは癌細胞などの細胞によって構成される。
図1に示されるように、状態解析装置1Aは、光源3と、保持部5と、対物レンズ7と、第1の反射鏡9と、集光レンズ11と、第2の反射鏡13と、撮像部15と、解析部17と、評価部19とを備えている。
【0023】
光源3は、細胞塊CMに照射される光L1を出力する。光L1は、例えば赤外光であり、好適な波長は例えば0.95μm〜1.7μmである。一例では、光源3は半導体レーザ素子を有しており、細胞塊CMに照射される光L1はコヒーレントなレーザ光である。また、光L1は連続光(CW光)である。
【0024】
保持部5は、培養液Bに浸された状態の細胞塊CMを保持する容器である。本実施形態の保持部5は、細胞塊CMを薄層状に圧潰した状態で保持する。なお、圧潰される前の細胞塊CMは略球形であり、その直径は例えば20μm〜400μmである。
【0025】
本実施形態の保持部5は、本体部5a及び蓋部(カバーガラス)5cを有する。本体部5aは、底の浅い有底容器であって、保持部5を収容するための凹部5bを有する。蓋部5cは、本体部5a上に載置され、凹部5bの開口を上方から封じる平板状の部材である。互いに対向する凹部5bの底面及び蓋部5cの裏面は、高い精度でもって平行且つ平坦とされている。本体部5a及び蓋部5cは、光源3から出力される光に対して透明である。本体部5a及び蓋部5cの構成材料は例えば石英ガラスである。凹部5bの底面と蓋部5cとの間隔(言い換えれば、細胞塊CMを収容する空間の深さ)は、例えば10μm以上であり、また350μm以下である。一実施例では、該間隔は100μmである。細胞塊CMは、凹部5bの底面と蓋部5cとによって圧潰される。従って、圧潰された細胞塊CMの厚さは、凹部5bの底面と蓋部5cとの間隔と等しくなる。このような保持部5としては、例えば血球計算盤が好適に用いられる。保持部5は、図示しない光学系を介して光源3と光学的に結合されており、凹部5bに収容された細胞塊CMに対し、厚み方向から蓋部5cを介して光L1が照射される。
【0026】
対物レンズ7は、光L1の照射により細胞塊CMから得られる光L2(例えば透過光、反射光、蛍光、散乱光など)を取り出すための凸レンズである。対物レンズ7は、保持部5と光学的に結合されている。対物レンズ7は、細胞塊CMの厚み方向に配置され、その光軸は厚み方向と一致する。対物レンズ7は、
図1に示されるように保持部5の光照射側とは反対側(すなわち本体部5aの下面側)に配置されてもよく、或いは、保持部5の光照射側(すなわち蓋部5c側)に配置されてもよい。
【0027】
集光レンズ11は、対物レンズ7と撮像部15との間の光路上に配置され、細胞塊CMから得られる光L2を撮像部15に向けて集光する。なお、
図1に示される例では、集光レンズ11と対物レンズ7との間の光路上に反射鏡9が設けられており、光L2の光路が曲げられている。また、集光レンズ11と撮像部15との間の光路上に反射鏡13が設けられており、光L2の光路が再び曲げられている。反射鏡9及び13は、対物レンズ7と撮像部15との間の光学系の一例であり、光学系は適宜変更され得る。
【0028】
撮像部15は、光L1の照射により細胞塊CMから得られる光L2を撮像するカメラである。例えば、撮像部15は、複数の画素を有する撮像面を有し、光L2の光強度に応じた電気信号を画素毎に生成するイメージセンサを有するカメラである。そして、撮像部15は、生成された電気信号群である画像データDを出力する。撮像部15としては、光L2の波長に感度を有するものが用いられる。光L1が赤外光であり、光L2が透過光または反射光である場合には、撮像部15として赤外域に感度を有するものが用いられる。赤外領域に感度を有するカメラとしては、例えば、波長900nm〜1600nmに感度を有するInGaAsカメラである。
【0029】
解析部17及び評価部19は、コンピュータ21によって実現される。コンピュータ21は、CPU及びメモリを有し、プログラムを実行することにより動作する。コンピュータ21は、例えば、パーソナルコンピュータ或いはスマートデバイス、マイクロコンピュータ、クラウドサーバなどである。解析部17及び評価部19は、1つのコンピュータによって実現されてもよいし、それぞれ別個のコンピュータによって実現されてもよい。解析部17は、撮像部15からの画像データDに基づいて、細胞塊CMの状態に関するパラメータを求める。パラメータは、例えば細胞塊CMに設定されたサンプリング円上の細胞数密度(単位長さ当たりの細胞の個数。厚さ方向の細胞数密度も含めた数値)である。評価部19は、解析部17から出力されたパラメータに基づいて、細胞塊CMの状態を評価する。例えば、複数の幹細胞によって構成された細胞塊CMを対象とする場合、細胞塊の分化度合いを評価する。具体的には、細胞の大量培養のため、未分化状態が維持されているか否かの評価を行う。或いは、分化誘導を行う際に、問題無く細胞が分化しているか否かの評価を行う。また、複数の癌細胞によって構成された細胞塊CMを対象とする場合、細胞塊の状態(例えば、癌細胞の壊死状態)を評価する。
【0030】
ここで、解析部17におけるパラメータ算出方法について詳細に説明する。
図2は、撮像部15から出力された画像データDの一例を模式的に示す図である。画像データDには、撮像された細胞塊CMが含まれている。この細胞塊CMは、略球形のものが圧潰されてなるので、その平面形状は略円形である。細胞塊CMとその周囲の媒質(培養液B)とでは屈折率が異なり、また細胞塊CMの内部において散乱が生じるため、画像データDでは細胞塊CMの輪郭CMaが明瞭に現れる。
【0031】
解析部17は、画像データDに含まれる一つの細胞塊CMに対し、基準点Aを設定する。基準点Aは、例えば画像データDにおける細胞塊CMの中心点である。但し、この場合、基準点Aが厳密な意味での中心点である必要は無く、大凡の中心点付近に位置していれば良い。多くの場合、画像データDにおける細胞塊CMの輪郭は厳密な円形ではないため、細胞塊CMの中心点を求める際には工夫を要する。例えば、解析部17は、
図2に示されるように、細胞塊CMの内側における輪郭近傍の任意の点Fを、周方向に間隔をあけながら複数選択する。そして、解析部17は、これらの点Fからの距離がほぼ均等になる点を計算により求める。この計算には、例えば最小二乗中心法が適用され得る。解析部17は、例えばこのようにして求められた点(細胞塊CMの略中心点)を、基準点Aとする。
【0032】
次に、解析部17は、画像データD中の一つの細胞塊CMに対し、共通の基準点Aを中心とする複数のサンプリング円を設定する。例えば、
図2には共通の基準点Aを中心とする4つのサンプリング円C1〜C4を設定した例が示されている。サンプリング円C1〜C4の半径は互いに異なる。最も大きなサンプリング円C1の半径は、例えば基準点Aと複数の点Fとの距離に対して、単純平均、二乗平均平方根、或いは最小二乗中心法といった演算方法を用いて算出することができる。また、他のサンプリング円の半径は、最も大きなサンプリング円C1の半径に対し、所定の比率を乗じて決定される。例えば、
図2のサンプリング円C2〜C4の半径は、サンプリング円C1の半径にそれぞれ0.8、0.5、及び0.1を乗じたものである。
【0033】
続いて、解析部17は、複数のサンプリング円上の領域に含まれる画像データに基づいて、細胞塊CMの状態に関する複数のパラメータを求める。
図2に示された例では、4つのサンプリング円C1〜C4上の領域に含まれる画像データのそれぞれに基づいて、4つのパラメータを求める。パラメータは、細胞塊CMの状態に関するものであれば特に限定されないが、一例としては細胞数密度である。例えばiPS細胞或いはES細胞等においては、幹細胞の状態が変化(例えば未分化状態から分化状態に変化)すると、個々の細胞形態が変化して細胞塊の細胞数密度が変わる。従って、細胞塊CMのサンプリング円上の領域における細胞数密度を求めることにより、当該サンプリング円上の領域に位置する各幹細胞の分化度合いを精度良く評価することができる。また、細胞塊CMの状態が劣化すると細胞塊CMが崩れてしまうが、細胞塊CMが崩れる前には、細胞数密度にばらつきが生じる。従って、細胞塊CMのサンプリング円上の領域における細胞数密度を求めることにより、細胞塊CMの劣化度合いを精度良く評価することができる。
【0034】
本発明者の知見によれば、下記の演算により、細胞数密度の指標値を容易に求めることができる。下記の数式(1)は、サンプリング円上の輝度値の自己相関関数を求める式である。
【数1】
但し、r,r’は、サンプリング円上の各画素に対し周方向に沿って順に与えられた画素番号である。f(r)は、画素番号rにおける画素値(すなわち輝度)である。μは平均値である。nはサンプリング円上のデータ数である。Δr’は、rとr’との差である。
【0035】
図3は、数式(1)によって計算された、或るサンプリング円に関する自己相関関数の一例を示すグラフである。横軸は相関距離を表し、縦軸は自己相関関数R
OD(Δr’)の自己相関係数を表す。解析部17は、自己相関関数の最初の波形P1の幅(自己相関係数の最大値のN分の1の値における幅(N>1)であり、例えば、N=5の場合、最大値の半値における幅)Wを求める。この幅Wは、細胞数密度の指標値であって、細胞塊の当該サンプリング円上の細胞数密度と関連する。すなわち、この幅Wは画像データの強弱の周期を表しており、細胞数密度が大きい(細胞が密集している)場合には画像データの強弱の周期が短くなるので幅Wは小さくなる。逆に、細胞数密度が小さい場合には画像データの強弱の周期が長くなるので幅Wは大きくなる。従って、各サンプリング円C1〜C4に関する幅Wを求めることにより、各サンプリング円C1〜C4における細胞数密度の推定や比較が可能となる。例えば、サンプリング円C1〜C4に関して算出された幅Wを互いに比較することにより、細胞塊CMの中心点からの距離に応じた細胞数密度の変化の様子を知ることができる。なお、解析部17は、この幅Wを、細胞塊CMの状態に関するパラメータとしてもよい。以下の説明において、幅Wを「自己相関距離」と称することがある。
【0036】
評価部19は、解析部17によって求められたパラメータに基づいて、細胞塊CMの分化度合いを評価する。前述したように、或る種の細胞では、幹細胞の状態が未分化状態から分化状態に変化すると細胞塊の細胞数密度が変わる。従って、サンプリング円C1〜C4に関して得られた細胞数密度から、当該細胞塊CMにおける幹細胞の分化度合いを評価して、細胞塊CMの細胞状態を判断することができる。評価部19は、得られた結果を、例えばコンピュータ21に接続された表示装置(ディスプレイ)に表示させる。
【0037】
続いて、一実施形態による細胞塊CMの評価方法について説明する。
図4は、本実施形態による細胞塊CMの評価方法を示すフローチャートである。この評価方法は、複数の幹細胞が集合してなる細胞塊CMを評価する方法であって、例えば上述した状態解析装置1Aを用いて好適に実施される。
【0038】
まず、評価対象である細胞塊CMに光を照射し、光照射により細胞塊CMから得られる光L2を撮像する(ステップS1、撮像ステップ)。具体的には、まず、評価対象である細胞塊CMを保持部5の凹部5bに収容し、蓋部5cを介して上方から圧力を与えることにより、細胞塊CMを薄層状に圧潰する(ステップS1a)。次に、保持部5を光源3と対物レンズ7との間に配置することにより、保持部5の上面側と光源3とを光学的に結合させ、保持部5の裏面側と対物レンズ7とを光学的に結合させる(ステップS1b)。続いて、細胞塊CMへの光L1の照射を開始する(ステップS1c)。この光照射は光源3によって行われ、光L1は例えば赤外光であり連続光である。また、このとき、細胞塊CMに対して厚み方向から光L1を照射する。続いて、光照射により細胞塊CMから得られる光L2を撮像する(ステップS1d)。前述したように、細胞塊CMから得られる光L2は、例えば透過光、反射光、若しくは蛍光である。このステップS1dでは、撮像部15によって画像データDが生成される。
【0039】
続いて、撮像により得られた画像データDに基づいて、細胞塊CMの状態に関するパラメータを求める(ステップS2、解析ステップ)。このステップS2は、例えば解析部17によって行われる。具体的には、まず、画像データDに含まれる一つの細胞塊CMに対して基準点Aを設定する(ステップS2a、
図2を参照)。次に、一つの細胞塊CMに対し、共通の基準点Aを中心とし半径が互いに異なる第1のサンプリング円及び第2のサンプリング円を設定する(ステップS2b)。本実施形態では、4つのサンプリング円C1〜C4(
図2を参照)を設定する。そして、サンプリング円C1〜C4上の領域に含まれる画像データに基づいて、細胞塊CMの状態に関する4つのパラメータを求める(ステップS2c)。パラメータは、例えばサンプリング円C1〜C4における細胞数密度である。或いは、パラメータは、サンプリング円C1〜C4の周方向に沿った画像データの自己相関関数の最初の波形P1の幅W(
図3を参照)であってもよい。
【0040】
最後に、ステップS2において求められた4つのパラメータに基づいて、細胞塊CMを評価する(ステップS3、評価ステップ)。先のステップS2において求められたパラメータが細胞数密度か、或いは最初の波形P1の幅Wである場合、このステップS3において、細胞塊CMの分化度合いを評価することができる。例えば、サンプリング円C1〜C4に関して算出されたパラメータを互いに比較することにより、当該細胞塊CMの分化度合いを知ることができる。このステップS3は、例えば評価部19によって行われてもよく、観察者により行われてもよい。
【0041】
以上に説明した本実施形態の評価方法及び状態解析装置1Aによって得られる効果について説明する。上述したように、本実施形態の評価方法及び状態解析装置1Aでは、光照射によって細胞塊CMから得られる光L2を撮像することにより、細胞塊CMを含む画像データDを取得する。そして、画像データDに含まれる細胞塊CMに対して基準点Aを設定し、基準点Aを中心とするサンプリング円C1〜C4を設定する。基準点Aとしては、例えば画像データD中の細胞塊CMの中心付近の一点が選ばれる。Michal Amit, et al., “Suspension Culture of Undifferentiated HumanEmbryonic and Induced Pluripotent Stem Cells”, Stem Cell Reviews and Reports,Vol.6, 2, pp. 248-25, (2010)によれば、幹細胞の状態(例えば分化/未分化状態)は、中心付近から周縁部に向けて変化し、その変化の様子は、中心付近から等距離の位置であればほぼ一様である。すなわち、幹細胞の状態がほぼ一様な領域から抽出された画像データに基づいて、細胞塊CMの状態に関するパラメータを求めることができる。また、P. Yu, et al., “Holographic optical coherence imaging of tumor spheroids”,Applied Physics letters, Vol. 83, 3, pp. 575-577, (2003) によれば、複数の癌細胞から構成される細胞塊は、その中心から状態が変化し、その変化の様子は、中心付近から等距離の位置であれば、一様である。すなわち、癌細胞の状態がほぼ一様な領域から抽出された画像データに基づいて、細胞塊CMの状態に関するパラメータを求めることができる。従って、本実施形態によれば、2次元の画像データDに基づいて、細胞塊CMの状態をより正確に評価することができる。また、撮像時の細胞塊CMが球形である場合、細胞塊CMの中心付近の一点を中心とする円を描くと、該円上の細胞塊CMの厚さはほぼ均等となる。従って、サンプリング円C1〜C4上の画素データからパラメータを求めることにより、パラメータの算出精度を高めることができる。
【0042】
図5(a)、
図5(b)、
図6(a)、及び
図6(b)は、それぞれ異なる細胞塊CM1〜CM4の画像データD1〜D4に対して複数のサンプリング円(図には4つのサンプリング円C1〜C4を代表して示す)を設定した様子を示す画像である。また、
図7は、これらの細胞塊CM1〜CM4に関して得られた、自己相関距離とサンプリング円の半径との相関を示すグラフである。
図7において、グラフG1〜G4は、それぞれ細胞塊CM1〜CM4における相関を示す。なお、この例では、保持部5として血球計算盤を用い、細胞塊CMを厚さ100μmまで圧潰した。また、細胞数密度を定量的に評価するため、血球計算盤を使って均一な高さになるように校正を行った。使用した細胞塊CM1〜CM4は、継代から4日目のものであり、高さを校正した後の半径が200μm程度の大きさとなったものを選んでデータ解析を行った。
図7に示される結果から、これらの細胞塊CM1〜CM4は径方向にほぼ一定の細胞数密度を有しており、未分化状態であることがわかる。なお、グラフG2の半径160μm辺りの自己相関距離が大きくなっているのは、画像データD2に写り込んだ塵の影響である。このように、本実施形態の評価方法によれば、細胞とは異なる塵等が画像データに含まれているような場合であっても、細胞塊の状態を好適に評価することができる。
【0043】
また、本実施形態の評価方法のように、一つの細胞塊CMに対し、共通の基準点Aを中心とし半径が互いに異なる複数のサンプリング円C1〜C4を設定し、これらのサンプリング円C1〜C4上の領域に含まれる画像データのそれぞれに基づいて、細胞塊CMの状態に関する複数のパラメータを求め、これら複数のパラメータの比較に基づいて細胞塊CMを評価してもよい。これにより、サンプリング円C1〜C4上の幹細胞の状態を相対的に評価することができる。従って、当該細胞塊CMの状態変化の傾向を容易に知ることができる。また、本実施形態の状態解析装置1Aのように、解析部17は、一つの細胞塊CMに対し、共通の基準点Aを中心とし半径が互いに異なる複数のサンプリング円C1〜C4を設定し、複数のサンプリング円C1〜C4上の領域に含まれる画像データに基づいて複数のパラメータを求めてもよい。これにより、上記の評価方法を好適に実施可能な状態解析装置1Aを提供できる。
【0044】
また、細胞塊CMを顕微鏡にて観察する際には、細胞塊CMの大きさが問題となる。すなわち、個々の細胞とは異なり細胞塊CMの直径は50〜400μmといった比較的大きな値である。細胞観察に使用される一般的な光学顕微鏡では、可視光を照明光源とする場合が多く、その場合、細胞塊CMの内部における光の散乱の影響が顕著に生じてしまう。このような問題に対し、本実施形態では、細胞塊CMに照射する光を赤外光としている。
【0045】
図8(a)は、細胞塊CMに可視光(波長660nm)を照射してその透過光を撮像することにより得られた画像データである。
図8(b)は、細胞塊CMに赤外光(波長1450nm)を照射してその透過光を撮像することにより得られた画像データである。これらの図において、各画素の光強度が濃淡によって示されている。これらの細胞塊CMは同じディッシュ内で培養されたものであり、細胞塊CMの直径は何れも約400μmである。細胞塊CMに可視光を照射した場合、
図8(a)に示されるように、細胞塊CMの内部における光の散乱が強いので、細胞塊CMの中央付近の光学密度値が高くなり明瞭に撮像することが難しい。これに対し、細胞塊CMに赤外光を照射した場合、
図8(b)に示されるように、細胞塊CMの内部における光の散乱が弱いので、光透過方向における細胞塊CMの厚さが厚い(例えば100μm以上)場合であっても、細胞塊CMの中央付近の光学密度値が高くならず、中央付近を含む全体を明瞭に撮像することが可能になる。
【0046】
また、本実施形態のように、薄層状に圧潰された細胞塊CMに対して厚み方向から光を照射してもよい。これにより、光透過方向における細胞塊CMの厚さを直径よりも薄くして、細胞塊CMの中央付近を含む全体を明瞭に撮像することができる。また、複数のサンプリング円における細胞塊CMの厚さを互いに等しくできるので、パラメータの比較が容易になる。
【0047】
(第1実施例)
上記実施形態の第1実施例について詳細に説明する。
【0048】
(1)観察試料準備
まず、培養した細胞塊CMを、ピペットを用いて培養ディッシュから取り出す。このとき、細胞塊CMが潰れないように慎重に取り出す。勢いよく培養液Bを吸入すると細胞塊CMが傷つくので、培養液Bを緩やかに吸入する。次に、予め準備した血球計算盤(保持部5)の中央付近に、細胞塊CMを培養液Bと共に載せる。そして、細胞塊CMの上にカバーガラス(蓋部5c)を被せ、細胞塊CMを圧潰して細胞塊CMの厚さを均一(100μm)にする。続いて、血球計算盤を試料台にセットする。
【0049】
(2)観察
まず、解析部17及び評価部19を含むコンピュータ21を起動する。次に、赤外光源(光源3)の電源を投入する。これと前後して、赤外カメラ(撮像部15)を起動する。そして、試料台または対物レンズ7を光軸方向に移動させて焦点位置を調整する。細胞塊CMが視野に入るように、光軸方向と交差する方向における血球計算盤の位置を調整する。細胞塊CMを透過した赤外光を赤外カメラ(撮像部15)により撮像して、画像データDを取得する。
【0050】
(3)解析及び評価
図9(a)は、取得した画像データDを示す。まず、この画像データDに対して画素値の規格化を行う。すなわち、背景領域(細胞塊CMが存在しない領域)Eを選択し、背景輝度(バックグラウンド)の平均値を算出する。このとき、例えば細胞塊CMが存在しない四隅のうち対角に位置する二隅において、四角形状の領域Eを選択する。次に、下記の数式を用いて、画像データDに含まれる複数の画素の各画素値の規格化を行う。
(規格化画素値)=−log
10{(画素値)/(バックグラウンドの平均値)}
【0051】
続いて、画像データDに含まれる複数の細胞塊CMのなかから、評価対象とする細胞塊CMを選択する。そして、
図9(b)に示すように、この細胞塊CMの輪郭CMaの内側の点Fを、周方向に沿って複数(この例では10点)設定する。続いて、複数の点Fからの距離が略等しくなる基準点Aの座標を最小二乗中心法を用いて算出し、この基準点Aを細胞塊CMの中心点とする。その後、
図10に示すように、複数の点Fと基準点Aとの平均距離を半径とするサンプリング円C1を設定する。サンプリング円C1と同心であり半径がサンプリング円C1の0.2倍であるサンプリング円C5を更に設定する。
【0052】
こうして設定されたサンプリング円C1,C5上の画素値を抽出する。
図11(a)及び
図11(b)は、それぞれサンプリング円C1及びC5上の画素値列を示すグラフであって、縦軸は画素値(輝度)を表し、横軸は画素番号を表す。そして、抽出した画素値列に対し、前述した数式(1)を用いて自己相関関数R
OD(Δr’)を算出する。
図12は、サンプリング円C1に関する自己相関関数R
OD(Δr’)を示すグラフであって、縦軸は自己相関関数R
OD(Δr’)の自己相関係数を表し、横軸は相関距離を表す。この自己相関関数R
OD(Δr’)の最初の波形P1の幅Wを、サンプリング円C1に関する自己相関距離として算出する。なお、幅Wは、自己相関係数の最大値のN分の1の値における幅(N>1)であり、例えば、N=5の場合、最大値の半値における幅となる。更に、ノイズの影響を抑えるために、サンプリング円C1の半径よりも1画素分小さい半径を有するサンプリング円、及び1画素分大きい半径を有するサンプリング円に関しても各々自己相関距離を算出し、算出された自己相関距離の平均値を、サンプリング円C1の平均自己相関距離とする。サンプリング円C5に対しても同様に平均自己相関距離を求める。
【0053】
得られたサンプリング円C1,C5に関する各平均自己相関距離を互いに比較し、細胞塊CMの状態を評価する。この例では、サンプリング円C1の平均自己相関距離は3.9μmであり、サンプリング円C5の平均自己相関距離は3.5μmであった。従って、細胞数密度は細胞塊CMの径方向にほぼ均一であり、分化度合いがほぼ一定であると評価された。
【0054】
(第1変形例)
上記実施形態では、撮像ステップS1において(撮像部15が)一つの細胞塊CMを含む画像データDを生成し、該一つの細胞塊CMについて複数のサンプリング円C1〜C4を設定した。本変形例では、
図13に示されるように、撮像ステップS1において(撮像部15が)、細胞塊CM1(第1の細胞塊)、及び細胞塊CM1とは別の細胞塊CM2(第2の細胞塊)を含む画像データDDを取得する。そして、解析ステップS2において(解析部17は)、画像データDDに含まれる細胞塊CM1,CM2に対して個別に基準点A1,A2及びサンプリング円C6,C7を設定し、細胞塊CM1のサンプリング円C6上の画像データに基づいて第1のパラメータを求め、細胞塊CM2のサンプリング円C7上の画像データに基づいて第2のパラメータを求める。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、上記実施形態と同様(例えば、細胞数密度或いは自己相関関数の最初の波形の幅)である。そして、評価ステップS3の際に(評価部19が)、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて、細胞塊CM1,CM2の少なくとも一方の状態(例えば分化度合い)を評価する。
【0055】
このように、細胞塊CM1に関する第1のパラメータと、細胞塊CM2に関する第2のパラメータとを求め、これらを比較することにより、細胞塊CM1の幹細胞の状態と、細胞塊CM2の幹細胞の状態とを相対的に評価することができる。従って、例えば細胞塊CM1,CM2が同じ容器内で培養されているような場合に、当該容器内で同時に培養されている複数の細胞塊の状態がどの程度安定しているかを容易に評価することができる。また、状態解析装置が本変形例の撮像部15及び解析部17を備えることにより、本変形例の評価方法を好適に実施可能な状態解析装置を提供できる。なお、本変形例において、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のサンプリング円を設定し、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のパラメータを取得しても良い。また、この例では2つの細胞塊に関するパラメータを比較しているが、3つ以上の細胞塊に関するパラメータを取得し、これらを相互に比較してもよい。
【0056】
(第2変形例)
本変形例では、
図14(a)及び
図14(b)に示されるように、撮像ステップS1において(撮像部15が)、細胞塊CM1(第1の細胞塊)を含む画像データD1(第1の画像データ)と、細胞塊CM1とは別の細胞塊CM2(第2の細胞塊)を含む画像データD2(第2の画像データ)とを取得する。そして、解析ステップS2において(解析部17が)、画像データD1に含まれる細胞塊CM1に対して基準点A1及びサンプリング円C6を設定し、画像データD2に含まれる細胞塊CM2に対して基準点A2及びサンプリング円C7を設定する。その後、解析ステップS2において(解析部17が)、細胞塊CM1のサンプリング円C6上の画像データに基づいて第1のパラメータを求め、細胞塊CM2のサンプリング円C7上の画像データに基づいて第2のパラメータを求める。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、上記実施形態と同様(例えば、細胞数密度或いは自己相関関数の最初の波形の幅)である。そして、評価ステップS3の際に(評価部19が)、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて、細胞塊CM1,CM2の少なくとも一方の状態(例えば分化度合い)を評価する。
【0057】
このように、細胞塊CM1に関する第1のパラメータと、細胞塊CM2に関する第2のパラメータとを求め、これらを比較することにより、細胞塊CM1の幹細胞の状態と、細胞塊CM2の幹細胞の状態とを相対的に評価することができる。従って、例えば細胞塊CM1,CM2が同じ容器内で培養されているような場合に、当該容器内で同時に培養されている複数の細胞塊の状態がどの程度安定しているかを容易に評価することができる。なお、本変形例においても、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のサンプリング円を設定し、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のパラメータを取得しても良い。また、この例では2つの細胞塊に関するパラメータを比較しているが、3つ以上の細胞塊に関するパラメータを取得し、これらを相互に比較してもよい。
【0058】
(第3変形例)
本変形例に係る評価方法のフローチャートを
図15に示す。本変形例の評価方法は、第1の撮像ステップS11、第1の解析ステップS21、第2の撮像ステップS12、及び第2の解析ステップS22を含む。なお、第1の撮像ステップS11及び第2の撮像ステップS12の詳細は上記実施形態の撮像ステップS1と同様であり、第1の解析ステップS21及び第2の解析ステップS22の詳細は上記実施形態の解析ステップS2と同様である。第1の撮像ステップS11では、細胞塊CM1を含む画像データD1(
図14(a)参照)を取得する。第1の解析ステップS21では、画像データD1に含まれる細胞塊CM1に対して基準点A1及びサンプリング円C6を設定し、細胞塊CM1のサンプリング円C6上の画像データに基づいて第1のパラメータを求める。第2の撮像ステップS12では、細胞塊CM2を含む画像データD2(
図14(b)参照)を取得する。第2の解析ステップS22では、画像データD2に含まれる細胞塊CM2に対して基準点A2及びサンプリング円C7を設定し、細胞塊CM2のサンプリング円C7上の画像データに基づいて第2のパラメータを求める。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、上記実施形態と同様(例えば、細胞数密度或いは自己相関関数の最初の波形の幅)である。そして、評価ステップS3の際に、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて、細胞塊CM1,CM2の少なくとも一方の状態(例えば分化度合い)を評価する。
【0059】
このような方法によれば、上記第2変形例と同様の効果を得ることができる。なお、本変形例においても、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のサンプリング円を設定し、各細胞塊CM1,CM2毎に複数のパラメータを取得しても良い。また、この例では2つの細胞塊に関するパラメータを比較しているが、3つ以上の細胞塊に関するパラメータを取得し、これらを相互に比較してもよい。
【0060】
(第4変形例)
本変形例では、圧潰されていない或る細胞塊について、異なるタイミングで少なくとも2枚の画像データを取得し、それらの画像データに基づいてパラメータを求める。具体的には、撮像ステップにおいて(撮像部15が)、
図16(a)に示されるように、細胞塊CMを含む画像データD3(第1の画像データ)を第1のタイミングにおいて取得する。次に、撮像ステップにおいて(撮像部15が)、
図16(b)に示されるように、同じ細胞塊CMを含む画像データD4(第2の画像データ)を、第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて取得する。第1のタイミングと第2のタイミングとの時間差は、例えば数日である。そして、解析ステップS2において(解析部17が)、画像データD3に含まれる細胞塊CMに対して基準点A3及びサンプリング円C8を設定し、画像データD4に含まれる細胞塊CMに対して基準点A4及びサンプリング円C9を設定する。その後、解析ステップS2において(解析部17が)、サンプリング円C8上の画像データに基づいて第1のパラメータを求め、サンプリング円C9上の画像データに基づいて第2のパラメータを求める。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、上記実施形態と同様(例えば、細胞数密度或いは自己相関関数の最初の波形の幅)である。そして、評価ステップS3の際に(評価部19が)、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて、細胞塊CMの状態(例えば分化度合い)を評価する。
【0061】
このように、同一の細胞塊CMに関し異なるタイミングにおいて得られた複数のパラメータを比較することにより、当該細胞塊CMを構成する細胞の状態の経時変化(若しくは、状態が不変であること)を容易に知ることができる。なお、本変形例において、各タイミング毎に複数のサンプリング円を設定し、各タイミング毎に複数のパラメータを取得しても良い。また、この例では2回のタイミングにおいてパラメータを取得しているが、3回以上のタイミングにおいてパラメータを取得し、これらを相互に比較してもよい。
【0062】
(第5変形例)
本変形例に係る評価方法のフローチャートを
図17に示す。本変形例の評価方法は、第1の撮像ステップS13、第1の解析ステップS23、第2の撮像ステップS14、及び第2の解析ステップS24を含む。なお、第1の撮像ステップS13及び第2の撮像ステップS14の詳細は上記実施形態の撮像ステップS1と同様であり、第1の解析ステップS23及び第2の解析ステップS24の詳細は上記実施形態の解析ステップS2と同様である。第1の撮像ステップS13では、細胞塊CMを含む画像データD3(
図16(a)参照)を、第1のタイミングにおいて取得する。第1の解析ステップS23では、画像データD3に含まれる細胞塊CMに対して基準点A3及びサンプリング円C8を設定し、細胞塊CMのサンプリング円C8上の画像データに基づいて第1のパラメータを求める。第2の撮像ステップS14では、同じ細胞塊CMを含む画像データD4(
図16(b)参照)を、第1のタイミングより後の第2のタイミングにおいて取得する。第2の解析ステップS24では、画像データD4に含まれる細胞塊CMに対して基準点A4及びサンプリング円C9を設定し、細胞塊CMのサンプリング円C9上の画像データに基づいて第2のパラメータを求める。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、上記実施形態と同様(例えば、細胞数密度或いは自己相関関数の最初の波形の幅)である。そして、評価ステップS3の際に、第1のパラメータと第2のパラメータとの比較に基づいて、細胞塊CMの状態(例えば分化度合い)を評価する。
【0063】
このような方法によれば、上記第4変形例と同様の効果を得ることができる。なお、本変形例においても、各タイミング毎に複数のサンプリング円を設定し、各タイミング毎に複数のパラメータを取得しても良い。また、この例では2回のタイミングでパラメータを取得しているが、3回以上のタイミングでパラメータを取得し、これらを相互に比較してもよい。
【0064】
(第2実施例)
同じ培養ディッシュで4日間培養した2つの細胞塊を解析し、比較した実施例について説明する。まず、第1実施例に示された方法と同様にして、或る細胞塊CM1を含む画像データD1を取得した。次に、第1実施例に示された方法と同様にして、別の細胞塊CM2を含む画像データD2を取得した。このとき用いた対物レンズ7の倍率は10倍であり、赤外カメラの分解能は2.97(μm/画素)であった。そして、これらの画像データD1,D2に対して画素値の規格化を行った。
図18(a)及び
図18(b)は、それぞれ規格化後の画像データD1,D2を示す。
【0065】
続いて、第1実施例に示された方法と同様にして、これらの細胞塊CM1,CM2の基準点A1,A2を算出した。その後、基準点A1を中心とするサンプリング円C6、及び基準点A2を中心とするサンプリング円C7をそれぞれ設定した。このとき、サンプリング円C6の半径を第1実施例に示された方法により求め、サンプリング円C7の半径をサンプリング円C6の半径に一致させた。続いて、サンプリング円C6上の画素値を抽出した。抽出した画素値列に対し、前述した数式(1)を用いて自己相関関数R
OD(Δr’)を算出し、サンプリング円C6に関する自己相関距離を求めた。更に、ノイズの影響を抑えるために、サンプリング円C6の半径よりも1画素分小さい半径を有するサンプリング円、及び1画素分大きい半径を有するサンプリング円に関しても各々自己相関距離を算出し、それらの自己相関距離の平均値を平均自己相関距離として算出した。サンプリング円C7についても、同様に平均自己相関距離を算出した。
【0066】
得られたサンプリング円C6,C7に関する各平均自己相関距離を互いに比較し、細胞塊CM1,CM2の状態を相対的に評価した。この例では、サンプリング円C6の平均自己相関距離は3.8μmであり、サンプリング円C7の平均自己相関距離は3.7μmであった。従って、細胞塊CM1,CM2の細胞数密度はほぼ等しく、分化度合いが同程度であると評価された。
【0067】
(第3実施例)
それぞれ別の培養ディッシュで培養し、培養日数が互いに異なる2つの細胞塊CM1(培養日数4日)及び細胞塊CM2(培養日数6日)を解析し、比較した実施例について説明する。なお、これらの細胞塊CM1,CM2に関する画像データD1,D2の取得及び規格化、基準点A1,A2の算出、サンプリング円C6,C7の設定、及び平均自己相関距離の算出を、前述した第2実施例と同様にして行った。画像データD1に用いた対物レンズ7の倍率は10倍であり、赤外カメラの分解能は2.97(μm/画素)であった。画像データD2に用いた対物レンズ7の倍率は20倍であり、赤外カメラの分解能は1.98(μm/画素)であった。
図19(a)及び
図19(b)は、それぞれ規格化後の画像データD1,D2を示す。この例では、サンプリング円C6の平均自己相関距離は3.5μmであり、サンプリング円C7の平均自己相関距離は2.7μmであった。従って、細胞塊CM1,CM2の細胞数密度に顕著な相違は見られず、分化度合いが同程度であると評価された。
【0068】
本発明による細胞塊の評価方法及び細胞塊の状態解析装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上記実施形態及び各変形例では、細胞塊の状態に関するパラメータとして細胞数密度を例示したが、本発明においてパラメータはこれに限られず、細胞塊の状態に関する他の様々な数値をパラメータとすることができる。
【0069】
また、上記実施形態及び各変形例では、細胞数密度に基づいて細胞塊の分化度合いを評価する例を示しているが、細胞数密度に基づいて評価できる事項はこれに限られない。例えば、文献「Kazuya Arai et. al., “A Novel High-Throughput 3D Screening Systemfor EMT Inhibitors: A Pilot Screening Discovered the EMT Inhibitory Activity ofCDK2 Inhibitor SU9516”, PLOS ONE, September 13, (2016)」には、試薬「TGF−β2」を添加することにより細胞形状がコントロールの状態に比べて細長くなることが報告されている。このように、添加する試薬が、細胞形態に働きかける場合がある。細胞形態変化は細胞数密度と関係するので、例えばがん細胞塊等への試薬の影響を評価しながらスクリーニングを行う場合などにおいても、細胞数密度を評価パラメータとして用いることができる。
【0070】
また、上記実施形態及び各変形例では、複数のサンプリング円上の画像データから得られた複数のパラメータを相互に比較しているが、単一のサンプリング円上の画像データから得られた単一のパラメータに基づいて、細胞塊の状態を評価してもよい。例えば、適切な閾値を定めてパラメータが閾値を超えたか否かを判定することにより、単一のパラメータを用いて細胞塊の評価を行うことができる。
【0071】
また、上記実施形態及び各変形例では、撮像部15が二次元の画像データを取得している。撮像部は三次元画像を取得するものであってもよく、その場合、断層画像に基づいて、細胞塊を圧潰することなく非染色及び非侵襲にてパラメータの算出を行うことができる。さらに、上記実施形態及び各変形例では、細胞塊CMを構成する細胞として、幹細胞或いは癌細胞を挙げたが、そのほかの種類の細胞であってもよい。