特許第6895587号(P6895587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6895587-ケース 図000002
  • 特許6895587-ケース 図000003
  • 特許6895587-ケース 図000004
  • 特許6895587-ケース 図000005
  • 特許6895587-ケース 図000006
  • 特許6895587-ケース 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895587
(24)【登録日】2021年6月9日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ケース
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20210621BHJP
   C23C 22/68 20060101ALI20210621BHJP
   F16H 57/032 20120101ALI20210621BHJP
【FI】
   C23C26/00 F
   C23C22/68
   F16H57/032
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-523610(P2020-523610)
(86)(22)【出願日】2019年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2019020211
(87)【国際公開番号】WO2019235218
(87)【国際公開日】20191212
【審査請求日】2020年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2018-110618(P2018-110618)
(32)【優先日】2018年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】木村 敦史
(72)【発明者】
【氏名】荒川 慶江
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−160957(JP,U)
【文献】 特開2013−221579(JP,A)
【文献】 特開2016−148411(JP,A)
【文献】 特開2010−90405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
C23C 22/68
F16H 57/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にオイルが収容されるマグネシウム合金製のケースであって、
前記ケースの内壁面を、黒色膜を形成したコーティング領域とした、ケース。
【請求項2】
請求項1において、
前記ケースにおける合わせ面領域は前記黒色膜を形成しない非コーティング領域とした、ケース。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ケースにおける締結部材の座面との接触面は前記黒色膜を形成しない非コーティング領域とした、ケース。
【請求項4】
請求項3において、
前記座面の内周部との接触面を非コーティング領域とし、且つ、前記座面の外周部との接触面をコーティング領域とした、ケース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記ケースのネジ孔の側面は前記黒色膜を形成しない非コーティング領域とした、ケース。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、
前記ケースは車両に配置され、
前記ケースの外壁面を、前記黒色膜を形成したコーティング領域とした、ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機では、軽量化のため各部品の材質にマグネシウム合金を用いることが知られている。特許文献1には、マグネシウム合金の用途の一つとしてトランスミッションケース(ケースの一つ)が考えられることが開示されている。
【0003】
本発明者らがマグネシウム合金性のケースを試作したところ、ケースの内壁面がまだら状に黒く変色することを発見した。まだら状の黒い状態は見た目が悪く、納品先に対して不快感を与える懸念があった。
【0004】
そこで、本発明は、納品先に対して不快感を与えないケースを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−90405号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、
内部にオイルが収容されるマグネシウム合金製のケースであって、
前記ケースの内壁面を、黒色膜を形成したコーティング領域とした。
【0007】
本発明によれば、ケースの見映えが向上し、納品先に対して不快感を与えないケースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】自動変速機ケースを説明する図である。
図2】自動変速機ケースを説明する図である。
図3】トランスミッションケースを説明する図である。
図4】トランスミッションケースの被膜を説明する図である。
図5】トランスミッションケースを説明する図である。
図6】変形例にかかるトランスミッションケースを説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、トランスミッションケース1を含む車両用の自動変速機ケース4を例に挙げて説明する。
【0010】
図1は、自動変速機ケース4を説明する模式図である。
図2は、自動変速機ケース4を説明する模式図である。図(a)は自動変速機ケース4の分解斜視図である。図(b)は、図(a)におけるオイルパン5を面Aで切断した切断面を示す図である。
図3は、トランスミッションケース1を説明する模式図である。図(a)は、図2におけるトランスミッションケース1をコンバータハウジング2側から見た図である。図(b)は、図(a)におけるトランスミッションケース1のA−A断面図である。図(c)は、図2におけるトランスミッションケース1をオイルパン5側から見た図である。
なお、説明の便宜上、トランスミッションケース1とコンバータハウジング2との連結は、トランスミッションケース1側からコンバータハウジング2に向かってボルトB1を螺入する場合を説明する。
【0011】
図1、2に示すように、自動変速機ケース4は、トランスミッション(図示せず)およびコントロールバルブユニット(図示せず)を収容するトランスミッションケース1と、トルクコンバータ(図示せず)を収容するコンバータハウジング2と、アウトプットシャフト(図示せず)を収容するリダクションケース3と、から構成されている。
また、図1における自動変速機ケース4の設置状態を基準として、鉛直線VL方向(図中、上下方向)におけるトランスミッションケース1の下部には、潤滑油OLを貯留するオイルパン5が固定されている。
【0012】
トランスミッションケース1内に収容されたトランスミッション(変速機構部)は、複数の回転体と、複数の摩擦締結要素(クラッチ、ブレーキ)と、を有している。
これら複数の回転体と複数の摩擦締結要素は、回転軸Xに沿って設けられており、トランスミッションでは、複数の摩擦締結要素の締結/解放の組み合わせを変更することで、回転駆動力の伝達経路を切り替えて、所望の変速比を実現する。
【0013】
回転軸X方向におけるトランスミッションケース1の一端(図1における左端)には、コンバータハウジング2が回転軸X方向から接合されて、ボルトで固定されている。回転軸X方向におけるトランスミッションケース1の他端(図1における右端)には、リダクションケース3が回転軸X方向から接合されて、ボルトで固定されている。
オイルパン5は、トランスミッションケース1の下部開口を塞いでおり、摩擦締結要素の作動や回転体の潤滑に用いられた潤滑油OLが、トランスミッションケース1の下部開口を通ってオイルパン5内に戻るようになっている。
【0014】
[トランスミッションケース1]
図1、2に示すように、トランスミッションケース1は、略筒状の基部10を有している。トランスミッションケース1では、基部10の中心線と、トランスミッションの回転軸Xとが一致している。回転軸X方向における基部10の一端面10a(図1における左側の端面10a)は、回転軸Xに直交する平坦面である。
【0015】
図3の(a)、(b)に示すように、基部10の一端面10a側には、フランジ部11が形成されている。フランジ部11は、基部10の筒状の外壁面102から回転軸Xの径方向で基部10から離れる方向に延びている。フランジ部11は、回転軸X周りの周方向で基部10の全周に亘って設けられている。
【0016】
フランジ部11には、回転軸X方向に貫通孔11cが貫通している。貫通孔11cは回転軸X方向におけるフランジ部11の一方の側面11a(図3の(b)における左側の側面11a)と他方の側面11b(図3の(b)における右側の側面11b)との間に貫通している。貫通孔11cは、回転軸X周りの周方向で複数設けられている(図3の(a)参照)。貫通孔11cの中心線Lxは回転軸Xと平行である。
【0017】
ここで、2つの部品(又は部材)があったとき、第1部品の有する第1面と第2部品の有する第2面とが密着することで合わせ面が形成される。この場合、第1面は第1部品における合わせ面領域であり、第2面は第2部品における合わせ面領域である。
【0018】
フランジ部11の一方の側面11aは、基部10の一端面10aと同一平面をなすように設けられている。フランジ部11の一方の側面11aと、基部10の一端面10aとは、後記するコンバータハウジング2との合わせ面領域S1となる。
フランジ部11の他方の側面11bには、貫通孔11c周りの所定範囲に座面11dが形成されている。
【0019】
図3の(a)、(b)に示すように、回転軸X方向における基部10の他端面10b(図1における右側の端面10b)は、回転軸Xに直交する平坦面である。基部10の他端面10bには、ボルト穴10cが形成されている。ボルト穴10cは回転軸Xに沿う向きで設けられており、回転軸X周りの周方向で間隔を空けて複数設けられている(図2参照)。他端面10bは、後記するリダクションケース3との合わせ面領域となる(以下の説明では、他端面10bを合わせ面領域10bとも表記する)。
【0020】
図1における自動変速機ケース4の設置状態を基準として、鉛直線VL方向における基部10の下部には、壁部103が設けられている。
図3の(a)、(c)に示すように、壁部103は、鉛直線VL方向に沿って基部10から離れる方向に延びると共に、基部10の下部開口を全周に亘って囲んでいる(図3の(c)参照)。
【0021】
また、基部10における壁部103で囲まれた領域には、基部10の内部と外部とを連通する開口105が形成されている。
基部10の下方側から見て、開口105は、壁部103で囲まれた領域内に形成されている。
【0022】
壁部103の下端面103aは鉛直線VLに直交する平坦面である。下端面103aには、ボルト穴103cが複数形成されている。ボルト穴103cは、鉛直線VLに沿う向きで設けられている。下端面103aは、後記するオイルパン5との合わせ面領域となる(以下の説明では、下端面103aを合わせ面領域103aとも表記する)。
【0023】
詳細は後記するが、トランスミッションケース1は、合わせ面領域S1、10b、103aなど所定の領域を除いて、基部10の表面全体(内壁面101、外壁面102)に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の被膜Cが形成されている。
【0024】
[コンバータハウジング2]
図1、2に示すように、コンバータハウジング2は、略筒状の基部20を有している。コンバータハウジング2は、基部20の中心線を回転軸Xに一致させた状態で配置される。回転軸X方向における基部20の一端面20a(図1中、左側の端面20a)と他端面20b(図1中、右側の端面20b)は、回転軸Xに直交する平坦面である。
【0025】
基部20の一端面20aは、エンジン(図示せず)を内部に収容するエンジン側固定部材Eに連結される(図1における基部20の左側の端面20a)。この場合において、一端面20aは、エンジン側固定部材Eと密着する合わせ面領域となる。
基部20の他端面20bは、トランスミッションケース1に連結される(図1における基部20の右側の端面20b)。この場合において、他端面20bは、前記したトランスミッションケース1の合わせ面領域S1と密着する合わせ面領域となる。
他端面20bには、回転軸X方向にボルト穴20cが形成されている。ボルト穴20cは、回転軸X周りの周方向で、前記したフランジ部11に形成された貫通孔11cに一対一で対応した位置に設けられている。
【0026】
トランスミッションケース1とコンバータハウジング2とは、貫通孔11cとボルト穴20cとを通るボルトB1を介して固定される(図5参照)。ボルトB1の締結力によって、トランスミッションケース1は、合わせ面領域S1でコンバータハウジング2と回転軸X周りの全周に亘って密着する。
【0027】
[リダクションケース3]
図1、2に示すように、リダクションケース3は、略筒状の基部30を有している。リダクションケース3は、基部30の中心線を回転軸Xに一致させた状態で配置される。回転軸X方向における基部30の一端面30a(図1中、左側の端面30a)は、回転軸Xに直交する平坦面である。
【0028】
基部30の一端面30a側には、フランジ部31が形成されている。フランジ部31は、基部30の筒状の外壁面302から回転軸Xの径方向で基部30から離れる方向に延びている。フランジ部31は、回転軸X周りの周方向で基部30の全周に亘って設けられている。
【0029】
フランジ部31には、回転軸X方向に貫通孔31cが貫通している。貫通孔31cは回転軸X方向におけるフランジ部31の一方の側面31aと他方の側面31bとの間に貫通している。貫通孔31cは、回転軸X周りの周方向で、前記した基部10の他端面10bに形成されたボルト穴10cに一対一で対応した位置に設けられている。
【0030】
フランジ部31の一方の側面31aは、基部30の一端面30aと同一平面をなすように設けられている。基部30の一端面30a及びフランジ部31の一方の側面31aは、トランスミッションケース1の合わせ面領域10bと密着する合わせ面領域となる。
【0031】
トランスミッションケース1とリダクションケース3とは、ボルト穴10cと貫通孔31cとを通るボルトB2を介して固定される。ボルトB2の締結力によって、トランスミッションケース1は、合わせ面領域10bでリダクションケース3と回転軸X周りの全周に亘って密着する。
【0032】
[オイルパン5]
図1、2に示すように、オイルパン5は、平面視において略矩形形状の底壁部50と、当該底壁部50の周縁を全周に亘って囲む周壁部51と、を有する。鉛直線VL方向における周壁部51の底壁部50とは反対側の端面51aには、フランジ部52が形成されている。フランジ部52は、周壁部51の外周縁に沿って全周に亘って形成されている。フランジ部52には、鉛直線VL方向に貫通孔52cが貫通している。貫通孔52cは、鉛直線VL方向におけるフランジ部52の一方の側面52aと他方の側面52bとの間に貫通している。周壁部51の端面51aは鉛直線VLに直交する平坦面である。フランジ部52の一方の側面52aは、周壁部51の端面51aと同一平面をなすように設けられている。
貫通孔52cは、前記した基部10の壁部103に形成されたボルト穴103cに一対一で対応した位置に設けられている。
【0033】
フランジ部52の一方の側面52aは、トランスミッションケース1の合わせ面領域103aと密着する合わせ面領域となる。
トランスミッションケース1とオイルパン5とは、ボルト穴103cと貫通孔52cとを通るボルトB3を介して固定される。ボルトB3の締結力によって、トランスミッションケース1は、合わせ面領域103aでオイルパン5と鉛直線VL周りの全周に亘って密着する。
【0034】
ここで、自動変速機ケース4の構成要素(トランスミッションケース1、コンバータハウジング2、リダクションケース3)や、オイルパン5を、マグネシウムを含有する合金で作成すると、これら各構成要素の内周面や、オイルパン5の内周面がまだら状に黒くなる。
本発明者らは、まだら状に黒くなる原因を次のように考察した。以下の説明では、トランスミッションケース1を例に挙げて説明する。
【0035】
マグネシウム合金は反応性が高い。マグネシウム合金は、水(H2O)と接触すると化学反応を起こす。水と接触した部分のマグネシウム合金の表面には、黒色の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の被膜が形成される。
【0036】
トランスミッションケース1の内部では、回転体の潤滑や摩擦締結要素の作動に用いられた潤滑油OLが、トランスミッションケース1の内周を伝ってオイルパン5側に移動する。
ここで、潤滑油OLは、水分を含んでいることから、潤滑油OLがケースの内周を伝って移動する際に、潤滑油OL内の水分が、トランスミッションケース1を構成するマグネシウム合金と反応して、トランスミッションケース1の内壁面101に水酸化マグネシウムの被膜が形成される。
【0037】
また、潤滑油OLは、内壁面101の全領域に均一に接触するわけではない。例えば、回転体で掻き上げられた潤滑油は、内壁面101の略同じ領域に接触する。そして、内壁面101に接触した潤滑油OLは、内壁面101の略同じ経路を通ってオイルパン5側に移動する。
そのため、内壁面101では、潤滑油OLと頻繁に接触する領域と、頻繁に接触しない領域とが生じる結果、内壁面101に被膜がまだら状に生成される。
そうすると、黒ずんで見える被膜が厚く生成された領域と、厚く生成されていない領域で、濃淡が異なるので、内壁面101を見ると、被膜の有無がまだら模様に見えて、見栄えが悪くなってしまう。
【0038】
そこで、本発明者らは、トランスミッションケース1の表面全体に、水酸化マグネシウムの被膜Cを事前に設けておくことで、見栄えが悪くなることを防ぐことにした。
【0039】
[被膜C]
トランスミッションケース1の被膜Cについて説明する。
図4は、トランスミッションケース1の被膜Cを説明する図である。図(a)は、被膜Cの形成を説明する図であって、素材としてのトランスミッションケース1’を示している。図(b)は、図(a)におけるトランスミッションケース1’を面Bで切断した切断面を示す図である。図(c)は、合わせ面領域S1及び座面11dを説明する図である。図(d)は、製品としてのトランスミッションケース1を説明する図である。なお、被膜Cの厚みは誇張して記載してある。
【0040】
実施の形態にかかるトランスミッションケース1は、素材としてのトランスミッションケース1’の表面全体(内壁面101と外壁面102を含む)に水酸化マグネシウムの被膜Cを形成したのち、所定の切削加工を施すことで作製される。素材としてのトランスミッションケース1’は、鋳造によって成形される。
【0041】
図4の(a)に示すように、被膜Cの形成は、例えば水を張った容器にトランスミッションケース1’全体を、浸漬させることで行われる。
トランスミッションケース1’を浸漬させると、当該トランスミッションケース1’の表面全体が水と接触する。そして、マグネシウム合金と水とが化学反応する。これにより、トランスミッションケース1’の表面全体には水酸化マグネシウムの被膜Cが形成される(図4の(b)参照)。
水酸化マグネシウムは黒色であるので、トランスミッションケース1’は、表面全体が黒く変色する。
【0042】
なお、トランスミッションケース1’全体を浸漬させなくても良い。例えばホースを用いて水をかける等をしてトランスミッションケース1’の所望の領域に被膜Cを形成しても良い。前記したとおり、潤滑油OLに混入される水によって、トランスミッションケース1の表面のうち、まだら状に見えるのは内壁面101側である。従って、内壁面101に水をかけて、内壁面101にのみ被膜Cを形成して黒くしても良い。
この場合において、被膜Cは必ずしも内壁面101の全面(100%)に形成される必要はなく、若干のはがれや削れなどは許容される。つまり、内壁面101全面とは、人間が視認したときに内壁面101全体が黒くなっていると認識できる面積(90%以上、好ましくは、95%以上、より好ましくは98%以上の面積)が黒くなっていれば良い。
【0043】
また、被膜Cを形成する前に、ショットブラスト処理等により、トランスミッションケース1’の表面に生成されている不純物を除去する処理を行うのが好ましい。
例えば鋳造段階で、トランスミッションケース1’の表面に不純物が生成されることがある。不純物によってトランスミッションケース1’の表面と水との接触(化学反応)が阻害される。そうすると、被膜Cの形成が部分的に阻害されるため、部分的に黒く変色しなくなるからである。
【0044】
ここで、被膜Cは水酸化マグネシウムの被膜にのみ限定されるものではない。例えば、黒色の塗料をトランスミッションケース1’の表面に塗布しても良い。
この場合、水酸化マグネシウムの被膜Cに代えて塗料を塗布しても良いし、水酸化マグネシウムの被膜Cの上からさらに塗料を塗布しても良い。
【0045】
被膜Cは、水酸化マグネシウムのように化学反応によって形成されるものや、適宜塗布する塗料などが好適であるが、黒色にできるのであれば材料は限定されない。熱に弱い塗料(有機物)と比較すると化学反応によって形成されるものが好適といえる。
【0046】
図4の(c)に示すように、トランスミッションケース1’に被膜Cが形成された後、合わせ面領域S1と座面11dを形成する。具体的には切削加工によって、被膜Cを一部除去することで、合わせ面領域S1と座面11dを形成する(図中、破線参照)。
なお、図示は省略するが、合わせ面領域10b(図3の(b)参照)、合わせ面領域103a(図3の(c)参照)も合わせ面領域S1と同様にして、切削加工によって被膜Cを除去することで形成される。
【0047】
ここで、トランスミッションケース1’を浸漬させて被膜Cを形成すると、全体的に黒色にはなるものの、被膜Cの膜厚にばらつきがある。ホースで水をかける場合も同様である。
トランスミッションケース1において、自動変速機ケース4の他の構成要素(コンバータハウジング2、リダクションケース3、オイルパン5)との接合面に被膜Cが形成されていて、この被膜Cの厚みにバラツキがあると、他の構成要素との組み付け精度が悪くなる。
【0048】
そこで、組付精度の確保の観点から、水酸化マグネシウムの被膜を形成した後に、他の構成要素との接合面に切削加工を施すことが好ましい。切削加工が施された領域は、切削加工が施されない領域よりも形状精度(平面度、位置度)が高くなり、組付精度を確保できる。
【0049】
これにより、トランスミッションケース1’の表面は、被膜Cが形成されたコーティング領域R1と、被膜Cが除去された非コーティング領域R2とに分けられる(図4の(c)参照)。非コーティング領域R2は切削加工で形成されているため、コーティング領域R1よりも高い平面度を有する。
【0050】
[非コーティング領域R2]
図4の(d)に示すように、非コーティング領域R2のうち、合わせ面領域S1及び座面11dに対応する領域には、所定位置に貫通孔11cを形成する。貫通孔11cは、例えばドリル加工で形成される。
また、非コーティング領域R2のうち、合わせ面領域10b(図3の(b)参照)では、所定位置にボルト穴10cを形成する。ボルト穴10cは、例えばドリル加工とタップ加工とで形成される。
また、非コーティング領域R2のうち、合わせ面領域103a(図3の(c)参照)では所定位置にボルト穴103cを形成する(図1、2参照)。ボルト穴103cは、例えばドリル加工とタップ加工とで形成される。これにより、製品としてのトランスミッションケース1が完成する(図4の(d)参照)。
なお、貫通孔11c、ボルト穴10c、103cを形成した後で、合わせ面領域S1、10b、103aを形成することも出来る。しかしながら、合わせ面領域S1、10b、103aを形成した後に貫通孔11c、ボルト穴10c、103cを形成した方が、貫通孔11c、ボルト穴10c、103cの位置度を高く出来る。
【0051】
図5は、トランスミッションケース1を説明する図であり、図1のA領域の拡大図である。
合わせ面領域S1は、回転軸Xに直交する平坦面である。そして、回転軸X方向におけるコンバータハウジング2の他端面20bもまた、合わせ面領域S1と同様に切削加工されており、回転軸Xに直交する平坦面となっている。
【0052】
コンバータハウジング2の他端面20bと、トランスミッションケース1の合わせ面領域S1とを合わせると、これらは全面に亘って隙間無く接触する。これにより、トラスミッションケース1とコンバータハウジング2との間から潤滑油OLが漏えい等することを防止している。
【0053】
ここで、トランスミッションケース1、コンバータハウジング2、リダクションケース3、オイルパン5は、周囲の温度変化に伴って膨張および収縮する。
この膨張及び収縮は、潤滑油OLの温度変化の影響を受けやすい。この場合において、トランスミッションケース1やコンバータハウジング2、リダクションケース3、オイルパン5は、温度変化の影響を均等に受けるわけではない。例えば、トランスミッション駆動中において、回転体によってかき上げられた高温の潤滑油OLは、トランスミッションケース1に最も多くかかる。従って、トランスミッションケース1が最も大きく変形する。そうすると、例えばトランスミッションケース1とコンバータハウジング2との間に隙間が生じ、この隙間から潤滑油OLが漏えいする懸念がある。トランスミッションケース1と、リダクションケース3やオイルパン5との間でも同様である。
【0054】
実施例では、トランスミッションケース1の合わせ面領域S1とコンバータハウジング2の他端面20bとは、高い平面度で形成されている。そのため、被膜Cを除去しない場合と比較して、トランスミッションケース1とコンバータハウジング2が熱変形しても隙間が形成されにくく、全面に亘って密着した状態を維持できる。
よって、トラスミッションケース1とコンバータハウジング2との間から潤滑油OLが漏えいすることをより好適に防止している。リダクションケース3やオイルパン5との間でも同様である。
【0055】
また、座面11dは、回転軸X(貫通孔11cの中心線Lx)に直交する平坦面である。座面11dは、ボルトB1のボルトフランジB11の外径D1よりも僅かに大径の内径D2の範囲における被膜Cを除去することで形成される(D1<D2)。
【0056】
ボルトB1を締め込むと、ボルトフランジB11は座面11dの全面に亘って接触する。これにより、ボルトB1の締結保持力は座面11dの全面で受けられて均等に分圧されて安定する。
ここで、被膜C(水酸化マグネシウム)は、マグネシウム合金より柔らかく、塑性変形し易い(へたり易い)。座面11dを形成しない場合(被膜Cを除去しない場合)、被膜Cが塑性変形する(へたる)ことでボルトB1の締結保持力が吸収される結果、ボルトB1の締結保持力が低下する。
座面11dを形成(被膜Cを除去)することで、被膜CのへたりによってボルトB1の締結保持力が吸収されることを防止(へたり耐性の向上)し、ボルトB1の締結保持力が低下することを防止できる。
【0057】
なお、ボルトフランジB11の無いボルトB1のみを用いる場合は、ボルトB1のボルト頭部B10の外径D3より僅かに大径の内径の範囲における被膜Cを除去すればよい。これにより、上記ボルトフランジB11を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0058】
ここで、トランスミッションケース1の非コーティング領域R2は、合わせ面領域S1、10b、103aと座面11dである。非コーティング領域R2では、マグネシウム合金の地の色となる。よって、非コーティング領域R2は黒色ではないものの、トランスミッションケース1全体として規則性のある配色となる。
従って、納品先はそのようなデザイン(配色)のトランスミッションケース1であると認識する。納品先は、従来のようなまだら状のトランスミッションケースであるとは判断しないので、不快感を持たない。
【0059】
以上の通り、実施の形態にかかるトランスミッションケース1(ケース)は、以下の構成を有している。
(1)トランスミッションケース1(ケース)は、マグネシウム合金製である。
トランスミッションケース1は、内部に潤滑油OL(オイル)が収容される。
トランスミッションケース1の内壁面101を、水酸化マグネシウムの被膜C(黒色膜)を形成したコーティング領域R1とした。
【0060】
このように構成すると、内壁面101に黒色膜を意図的に形成することにより納品先にそのようなデザインであると認識させることで、納品先に対して不快感を与えないトランスミッションケース1(ケース)を提供できる。
【0061】
(2)トランスミッションケース1における合わせ面領域S1、10b、103aは、被膜Cを形成しない非コーティング領域R2とする。
【0062】
例えばトランスミッションケース1におけるコンバータハウジング2との合わせ面領域S1は潤滑油の漏えい等を防止するために、高い平面度が求められる。よって、被膜Cを除去する必要がある。
上記の構成とすると、トランスミッションケース1の端部のみ被膜C(黒色領域)が除去される。従って、トランスミッションケース1全体の配色に規則性が生まれる。よって、納品先はそのようなデザイン(配色)であると認識するので不快感を与えない。
【0063】
(3)トランスミッションケース1におけるボルトB1の座面11d(締結部材の座面との接触面)は、被膜Cを形成しない非コーティング領域R2とする。
【0064】
座面11dは、ボルトB1の締結保持力、へたり耐性などを向上させるため、平面度の高い非コーティング領域とすることが好ましい。
上記の構成とすると、規則的パターンで被膜C(黒色部分)が除去される。従って、トランスミッションケース1全体の配色に規則性が生まれる。よって、納品先はそのようなデザインであると認識するので不快感を与えない。
【0065】
(4)トランスミッションケース1の貫通孔11c及び、ボルト穴10c、103cの側面は被膜Cを形成しない非コーティング領域R2とする。
【0066】
トランスミッションケース1における、コンバータハウジング2、リダクションケース3、オイルパン5との組付は、組付にかかる部分が高い形状精度で形成されていることが必要である。従って、組付にかかる部分を非コーティング領域とすることが好ましい。
上記のように構成して組付にかかる部分を非コーティング領域とすると、規則的パターンで被膜C(黒色部分)が除去される。よって、納品先はそのようなデザインであると認識するので不快感を与えない。
【0067】
(5)トランスミッションケース1は車両に配置される。
トランスミッションケース1の外壁面102を、被膜Cを形成したコーティング領域R1とする。
【0068】
車両走行中には、当該車両の外部から水や汚染物などが外部からトランスミッションケース1が収容されたエンジンルーム内に浸入する場合がある。そうすると、外部から浸入してきた水や汚染物などによって、トランスミッションケース1の外壁面102は、経時的にまだら状に黒く変色するおそれがある。
上記の構成とすると、外壁面102も被膜Cによって黒色となるので、まだら状に見えることを防止できる。
【0069】
[変形例]
前記した実施の形態では、座面11dの内径D2をボルトフランジB11の外径D1よりも僅かに大きく形成した場合(D1<D2)を例示したが、この態様に限定されるものではない。
例えば、座面11dの内径D4をボルトフランジB11の外径D1よりも小さくしたトランスミッションケース1Aとしても良い(図6参照)。
【0070】
図6は、変形例にかかるトランスミッションケース1Aを説明する図であり、図1のA領域に相当する領域を示したものである。変形例については、前記した実施の形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、被膜Cの厚みは誇張して記載してある。
【0071】
図6に示すように、変形例1にかかるトランスミッションケース1Aの座面11dは、ボルトB1のボルトフランジB11の外径D1よりも小径の内径D4の範囲における被膜Cを除去することで形成される(D1>D4)。
【0072】
貫通孔11cの中心線Lxの径方向で、ボルトフランジB11はコーティング領域R1と非コーティング領域R2とに跨って配置される。
中心線Lxの径方向におけるボルトフランジB11の外周側では、中心線Lx方向で被膜CがボルトフランジB11とフランジ部11とに挟まれた状態となる。
【0073】
図6では被膜Cの厚みを誇張して記載してあるが、実際の被膜Cの厚みは非常に薄い。よって、ボルトB1を締め込むと、ボルトフランジB11の内周側は非コーティング領域R2と接触し、ボルトフランジB11の外周側はコーティング領域R1と接触する。
ここで、前記したとおり被膜C(水酸化マグネシウム)は、マグネシウム合金よりも柔らかい。よって、ボルトB1を締め込む過程において、ボルトフランジB11とフランジ部11とに挟まれた被膜Cは、中心線Lx側に向かって押し広げられる(図中、矢印参照)。
押し広げられた被膜Cは、シール材としての効果を発揮する。これにより、トランスミッションケース1Aの外部から水分などが浸入することを抑制できる。
なお、ボルトフランジB11の内周側は非コーティング領域R2と接触している。これにより、前記したような被膜CのへたりによってボルトB1の締結保持力が吸収されて、ボルトB1の締結保持力が低下することもない。
【0074】
変形例にかかるトランスミッションケース1A(ケース)は、以下の構成を有する。
(6)ボルトフランジB11の内周側(座面の内周部)との接触面を非コーティング領域R2とし、且つ、ボルトフランジB11の外周側(座面の外周部)との接触面をコーティング領域R1とする。
【0075】
このように構成すると、ボルトフランジB11の外周側に存在するコーティング領域R1により、ボルトフランジB11の内周側に存在する非コーティング領域R2へ水分の浸入を抑制することができる。
【0076】
なお、締結部材はボルトに限定されない。例えば、ねじ、ナット等、又は、これらと座金の組合せた等の座面(単体で使用する場合は単体部品の座面、座金を用いる場合は座金の座面)であってよい。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【0078】
例えばマグネシウム合金製であれば、本発明の実施の形態をコンバータハウジング2やリダクションケース3に適用しても良い。また、エンジンを収容するエンジンケース、モータを収容するモータケース、モータの出力を減速する減速機を収容する減速機ケースなど、潤滑油OLが収容されるケースであればどのようなものであっても良い。ケースは、1つのケースのみから構成される場合もあるが、2つ以上のケースをボルト接続するなどして構成しても良い。
また、トランスミッションケース1とコンバータハウジング2との連結において、コンバータハウジング2側からボルトB1を螺入する場合は、当該コンバータハウジング2側に、座面11dに相当する部分を形成すればよい。
【0079】
また、例えば潤滑油OLは、ケース内に配置される動力系部材(駆動源(エンジン、モータ等)又は動力伝達部材(変速機、減速機、増速機、ギア単体、締結要素(クラッチなど)等))の潤滑油、作動油等であるが、これに限定されない。作動油と潤滑油とは兼用されることもある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6