(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895623
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ヨウ素化合物の除去方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/68 20060101AFI20210621BHJP
C01B 7/24 20060101ALI20210621BHJP
C01B 7/13 20060101ALI20210621BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20210621BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20210621BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20210621BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20210621BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
B01D53/68 220
C01B7/24ZAB
C01B7/13
B01D53/78
G21F9/02 521A
G21F9/06 551Z
C23C14/00 B
C23C16/44 J
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-29581(P2017-29581)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-134571(P2018-134571A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】大長光 悠介
(72)【発明者】
【氏名】長友 真聖
(72)【発明者】
【氏名】柴山 茂朗
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
【審査官】
佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−130499(JP,A)
【文献】
特表2013−539717(JP,A)
【文献】
特開2010−158664(JP,A)
【文献】
特開2016−019964(JP,A)
【文献】
特開2011−005477(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0010306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/85、
53/14−53/18
C01B 7/13、 7/24
C23C 14/00、16/44
B01J 10/00−12/02、
14/00−19/32
G21F 9/00− 9/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液接触装置を用い、液体除去剤に被除去ガスを吸収させて除去する湿式除去法において、
前記被除去ガスが、五フッ化ヨウ素(IF5)または七フッ化ヨウ素(IF7)から選ばれる少なくとも1種を含むヨウ素化合物ガスあり、
前記液体除去剤が、ヨウ素酸イオン(IO3−)を還元する還元性物質と、塩基性物質とを含む塩基性水溶液であり、
前記ヨウ素化合物ガスと前記塩基性水溶液とを接触させて、固体ヨウ素を析出させることなく、前記ヨウ素化合物ガスを前記塩基性水溶液に溶解させて除去する、ヨウ素化合物の除去方法。
【請求項2】
前記気液接触装置が充填剤を充填した充填塔である、請求項1に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項3】
前記気液接触を向流接触で行う、請求項2に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項4】
前記ガスは、エッチングガスまたはクリーニングガスとして用いられ、使用済で大気中に排気されるガスである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項5】
前記塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項6】
前記塩基性物質がアルカリ土類金属水酸化物であり、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムまたは水酸化バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項7】
前記塩基性物質の濃度が、質量%で表わして0.0001%以上、10%以下である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項8】
前記還元性物質が、チオ硫酸塩または亜硫酸塩である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項9】
前記還元性物質の含有量が0.0001質量%以上、10質量%以下である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項10】
前記ヨウ素化合物ガスを接触させる際の前記塩基性水溶液の温度が10℃以上、60℃以下である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項11】
前記気液接触装置内の前記ヨウ素化合物および塩基性水溶液が接触する部位が、フッ素樹脂によって樹脂ライニングされたものである、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のヨウ素化合物の除去方法。
【請求項12】
前記充填剤がフッ素樹脂製である、請求項2に記載のヨウ素化合物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体のヨウ素化合物を含むガスから、ヨウ素化合物を除去する方法に関する。気体のヨウ素化合物は、フッ素化剤、半導体製造プロセス等の電子産業または原子力産業においてエッチングガスまたはクリーニングガスとして用いられ、使用済で大気中に排気する際はヨウ素化合物を除去する必要がある。
【背景技術】
【0002】
気体のヨウ素化合物には、ヨウ化水素(HI)、フッ化ヨウ素としての一フッ化ヨウ素(IF)、三フッ化ヨウ素(IF
3)、五フッ化ヨウ素(IF
5)および七フッ化ヨウ素 (IF
7)を挙げることができる。特に、ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素は、フッ素化剤、半導体製造プロセス等の電子産業または原子力産業においてエッチングガスまたはクリーニングガスとして有用であり、特に七フッ化ヨウ素が有用である。
しかしながら、ヨウ化水素、フッ化ヨウ素は刺激性であり、使用済のヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスを大気中に排出する際は、ヨウ化水素、フッ化ヨウ素を除去する必要がある。
【0003】
ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスから、ヨウ化水素、フッ化ヨウ素を除去する方法としては乾式除去法と湿式除去法を挙げることができる。
【0004】
乾式除去法は、固体除去剤に被除去ガスを含むガスを流通し、被除去ガスを除去する方法である。被除去ガスを含むガスから、被除去ガスを除去する際に、乾式除去法を用いた場合、これら被除去ガスの除去装置を小さくすることが可能であり、除去操作も簡便であるという利点を有する。しかしながら、被除去ガスを含むガスから、被除去ガスを除去する際に単位時間当たりのガスの処理量が多くなると、急激な発熱が生じる虞がある、また、除去装置において固体除去剤の交換が必要なので、ガスの処理量が多くなるに連れ固体除去剤の交換が頻繁になる等の問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ土類金属水酸化物を合計で5質量%以上100質量%以下含有する反応剤(固体除去剤)を0℃以上540℃以下の温度で、一般式:IFxで表されるフッ化ヨウ素(ただし、xは1、3、5、7のいずれか一つを示す。)を10vol%以下の濃度で含有するガスと接触させて反応させることにより、ヨウ素成分およびフッ素成分を該反応剤に固定することを特徴とする、乾式除去法によるフッ化ヨウ素の除害方法が開示されている。
【0006】
一方、湿式除去法は、液体除去剤を用い液体除去剤に被除去ガスを吸収させて除去する方法である。
【0007】
被除去ガスを含むガスからの、被除去ガスの除去に湿式除去法を用いれば、乾式除去法に対し、以下(A)〜(D)の利点がある。
(A)固体除去剤を用いる乾式除去法に比べ、被除去ガスを含むガスから、被除去ガスを除去する際に、単位時間当たりのガスの処理量に対する発熱が少ない。
(B)被除去ガスの吸収による液体除去剤の発熱を水の気化熱を利用して除熱すること、または熱交換器により除熱することができる。
(C)液体除去剤は、ポンプ等で容易に交換することができる。
(D)乾式除去剤と比較し、液体除去剤の交換が簡便である。
【0008】
しかしながら、乾式除去法と比較して、液体除去剤を用いる湿式除去法における被除去ガスの除去は、処理量に対し大がかりな除去装置、および長い処理時間を必要とする。
【0009】
例えば、特許文献2および特許文献3に、フッ素ガスまたは三フッ化塩素の湿式除去法に関して、液体除去剤に還元性物質を添加する方法が開示されている。具体的には、特許文献2には、フッ素ガスを含有する排出ガスからフッ素成分を吸収除去するに際し、吸収液として亜硫酸アルカリおよび苛性アルカリの混合液を使用することを特徴とするフッ素ガスの除去方法が開示されている。また、本湿式除去報を用いることにより、比較的小型の装置によって、排ガス中のフッ素を1体積ppm以下とすることができると記載されている。特許文献3には、三フッ化塩素を含む排出ガスをアルカリと亜硫酸塩または重亜硫酸塩との混合水溶液で洗浄することを特徴とする三フッ化塩素を含む排出ガスの湿式処理方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献4に、F
2ガス、フッ化ハロゲン、酸素フッ化物、およびこれらの混合ガスからなるフッ素系ガスを含む排出ガスに、水または水蒸気を、体積比で該排出ガス中のフッ素系ガス量の50倍以上供給し、該排出ガスと該水または水蒸気とを300〜400℃で反応させ、水に吸収しやすいハロゲン化水素と酸素とに分解することを特徴とする排出ガスの処理方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献5にはヨウ素またはヨウ素化合物を含有する廃棄物にアルカリ金属化合物および溶剤を混合し、その混合物を、燃焼装置を有する燃焼炉に導入して熱処理し、その熱処理ガス中に含まれるヨウ素化合物をアルカリ性の水溶液に吸収させることを特徴とするヨウ素の回収方法が開示されている。具体的には、ヨウ素またはヨウ素化合物を含有する廃棄物に水酸化ナトリウムと水を加える工程、天然ガスを燃料とする高温の燃焼炉内に噴霧する工程、燃焼炉内から排出されたガスを水酸化ナトリウム水溶液と接触させる工程、次いで接触後の水酸化ナトリウム水溶液に塩素を加え精製ヨウ素を得る工程を含ヨウ素の回収方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−005477号公報
【特許文献2】特開平2−233122号公報
【特許文献3】特開平3−217217号公報
【特許文献4】特開2006−289238号公報
【特許文献5】特開平6-157005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2および特許文献3に記載の湿式除去法を、被除去ガスとしてのヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスからのヨウ化水素、フッ化ヨウ素を除去することに適用した場合、ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素は、ヨウ素イオン(I
−)、ヨウ素酸イオン(IO
3−)またはトリヨウ素イオン(I
3−)として水溶液中に溶解するが、固体ヨウ素が析出するという問題があった。
【0014】
特許文献4に記載の排出ガスの処理方法を、フッ化ヨウ素を含むガスからのフッ化ヨウ素の湿式除去に適用すると、フッ化ヨウ素を高温蒸気と反応させてフッ化水素とヨウ化水素を生成する装置と、生成したフッ化水素とヨウ化水素を吸収する装置が必要となるとともに、工程が複雑となるという問題があった。
【0015】
特許文献5に記載のヨウ素の回収方法は工程が複雑である。また、その実施例において、燃焼炉内から排出されたガスを水酸化ナトリウム水溶液と接触させる工程において、大気中にヨウ素が0.6g〜1.0g放出され、ヨウ素損失率0.02質量%〜0.05質量%であることが記載されている。
【0016】
本発明は、係る問題を解決し、湿式除去法により、ヨウ素化合物ガスとしてのヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガス中のヨウ化水素、フッ化ヨウ素を除去する際に、固体ヨウ素を析出させることなく極めて低濃度となる様に除去する、簡便なヨウ素化合物の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが、被除去ガスとしてのヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素を含むガスからヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、七フッ化ヨウ素を除去することを、ガスを水に接触させることで試みたところ、ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、七フッ化ヨウ素は吸収されたものの、固体のヨウ素が析出し配管や装置の内壁に付着した。このようなヨウ素の付着は、配管の詰まり等に繋がることがあり、ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素の効率的な除去方法といえるものではない。
【0018】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素を含むガスを塩基性物質の水溶液と充填塔を用いて接触させてみたところ、意外なことに固体ヨウ素の析出なく極めて低濃度に湿式除去できることを見出し、本発明に到達するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、ヨウ素化合物としてのヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスを、塩基性物質の水溶液に接触させてフッ化ヨウ素を湿式除去する、湿式除去法によるヨウ素化合物の除去方法を提供するものである。
【0020】
本発明は、以下の発明1〜11を含む。
[発明1]
気液接触装置を用い、式(1)で表されるヨウ素化合物を含むガスを塩基性水溶液に接触させてヨウ素化合物を除去する、ヨウ素化合物の除去方法。
【0021】
【化1】
【0022】
[発明2]
気液接触装置が充填剤を充填した充填塔である、発明1のヨウ素化合物の除去方法。
[発明3]
前記接触を向流接触で行う、発明2のヨウ素化合物の除去方法。
[発明4]
前記ヨウ素化合物がフッ化水素(HI)、五フッ化ヨウ素(IF
5)、または七フッ化ヨウ素(IF
7)である、発明1〜3のいずれか1項に記載のヨウ素化合物の除去方法。
[発明5]
前記塩基性水溶液が含む塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1〜4のヨウ素化合物の除去方法。
[発明6]
前記塩基性水溶液が含む塩基性物質がアルカリ土類金属水酸化物であり、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムまたは水酸化バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1〜4のヨウ素化合物の除去方法。
[発明7]
塩基性水溶液中の塩基性物質の濃度が、質量%で表わして0.0001%以上、10%以下である、発明1〜6のヨウ素化合物の除去方法。
[発明8]
前記塩基性水溶液が、さらに還元性物質を含む塩基性水溶液である、発明1〜7のヨウ素化合物の除去方法。
[発明9]
還元性物質が、チオ硫酸塩または亜硫酸塩である、発明8のヨウ素化合物の除去方法。
[発明10]
前記水溶液中の還元性物質の含有量が0.0001質量%以上、10質量%以下である、発明8または発明9のヨウ素化合物の除去方法。
[発明11]
前記水溶液の温度が10℃以上、60℃以下である、発明1〜10のヨウ素化合物の除去方法。
[発明12]
前記ヨウ素化合物が、五フッ化ヨウ素(IF
5)または七フッ化ヨウ素(IF
7)であり、
前記塩基性水溶液が、還元性物質を含む塩基性水溶液である、発明1のヨウ素化合物の除去方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のヨウ素化合物の除去方法を用いれば、ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガス中のヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を湿式除去法により溶解させた際に、固体ヨウ素として析出させることなく、湿式除去法により簡便に除去することができる。特に、塩基性水溶液に還元性物質を添加した場合、ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスからヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を極めて低濃度とし除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のヨウ素化合物の除去方法を実施するための除去装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、式(1)で表されるヨウ素化合物を含むガスを、塩基性水溶液に接触させてヨウ素化合物を除去する、ヨウ素化合物の除去方法である。
【0027】
[ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素を含むガスと水との接触]
被除去ガスとしてのヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素を含むガスを水に接触させた際、固体のヨウ素が析出し配管や装置の内壁に付着する原因として、
水中で強い酸化剤であるヨウ素酸イオン、具体的にはIO
3−、IO
4−およびIO
65−等が発生し、例えば、以下の化学平衡式による、固体ヨウ素が析出すると推測された。
【0029】
また、水中の溶存酸素または光が、トリヨウ素イオン(I
3−)またはヨウ素イオン(I
−)を酸化し、以下の式で表される反応により、固体ヨウ素が析出すると推測された。
【0031】
[ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素または七フッ化ヨウ素を含むガスと塩基性水溶液との接触]
本発明のヨウ素化合物の除去方法においては、水ではなく、塩基性水溶液を用いたことで、意外なことに固体ヨウ素の析出が見られなくなった。このことは、以下の式に示す様にヨウ素酸イオン(IO
3−)が固体ヨウ素を介さない化学平衡状態をとるので、固体ヨウ素の析出が起きないと推測される。
【0033】
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、水の換わりに塩基性水溶液を用いた結果として、酸化剤としてのヨウ素酸イオン(IO
3−)の作用が弱くなると推測される。
【0034】
[還元性物質の添加]
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、塩基性水溶液に還元性物質を添加することによって、さらに、ヨウ素化合物を含むガスを塩基性水溶液に接触させてヨウ素化合物を除去する効果を高めることができる。具体的には、本明細書の実施例に示す様に、塩基性水溶液にチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを添加することによって、添加しない場合は出口ヨウ素化合物の濃度が500体積ppmであったものが、0.5体積ppm以下に低減された。
【0035】
また、塩基性水溶液に還元性物質を添加すると、ヨウ素酸イオン(IO
3−)を、トリヨウ素イオン(I
3−)またはヨウ素イオン(I
−)まで還元できるため、還元性物質を添加することが好ましい。なお、還元性物質を添加しなければ、ヨウ素は主に酸化力の高いヨウ素酸イオン(IO
3−)として溶存していると推測される。ヨウ素酸イオン(IO
3−)に比べ、ヨウ素イオン(I
−)およびトリヨウ素イオン(I
3−)は酸化力が低い。還元性物質を添加することで、ヨウ素酸イオン(IO
3−)を、ヨウ素イオン(I
−)またはトリヨウ素酸イオン(I
3−)に還元することができると推測される。また、還元性物質を添加することで、フッ化ヨウ素の除去効率、およびフッ化ヨウ素と水の反応で生成する五フッ化酸化ヨウ素(IOF
5)等の酸化性ガスの除去効率が向上すると推測される。
【0036】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の一例であり、これらの具体的内容には限定されない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0037】
[気体のヨウ素化合物]
本発明のヨウ素化合物ガスの除去方法は、気体のヨウ素化合物としてのヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスを、塩基性水溶液に接触させてヨウ素化合物を除去するものである。フッ化ヨウ素としては、一フッ化ヨウ素(IF)、三フッ化ヨウ素(IF
3)、五フッ化ヨウ素(IF
5)および七フッ化ヨウ素(IF
7)からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本発明のヨウ素化合物ガスの除去方法において除去の対象となるガスは、好ましくは、フッ化水素(HI)、五フッ化ヨウ素(IF
5)および七フッ化ヨウ素(IF
7)であり、特に好ましくは、七フッ化ヨウ素(IF
7)である。
【0038】
ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を含むガスには、これら気体のヨウ素化合物の2種類以上のフッ化ヨウ素が含まれていてもよい。
【0039】
[塩基性物質]
本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる塩基性物質としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムまたは水酸化セシウムを例示することができる。アルカリ土類金属水酸化物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムまたは水酸化バリウムを例示することができる。本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる塩基性物質は、これら塩基性物質のいずれか1種類以上を含めばよい。水に対する溶解度が大きいことより、アルカリ金属水酸化物が好ましく、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムまたは水酸化セシウムである。
【0040】
本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる塩基性水溶液中における塩基性物質の濃度は、塩基性物質の種類によって異なる。塩基性物質の効果を発揮するためには、塩基性水溶液全体を基準とする質量%で表わして、0.0001質量%以上であることが好ましい。塩基性物質の沈殿、塩基性物質と被除去ガスとの反応によって生成する塩の沈殿が生じないように、塩基性水溶液の濃度を適宜調節することが好ましい。10質量%を超えると沈殿が生じ易く、沈殿が生じないように、好ましくは、10質量%以下である。
【0041】
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、被除去ガスである気体のヨウ素化合物を速やかに除去するために、除去剤である塩基性水溶液が、さらに還元性物質を溶解して含むことが好ましい。前述の様に、塩基性水溶液がさらに還元性物質を溶解して含むことで、ヨウ化水素またはフッ化ヨウ素と還元性物質との反応が進行し、速やかにヨウ化水素またはフッ化ヨウ素を吸収するものと推測される。
【0042】
[還元性物質]
本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる還元性物質の種類としては、塩基性水溶液中で塩基性物質よりも還元力が強い物質を挙げることができる。このような物質として、二酸化硫黄、一酸化炭素、アンモニア、ぎ酸塩、次亜りん酸塩、亜りん酸、ホルムアルデヒド、亜硫酸塩またはチオ硫酸塩を挙げることができる。また、これら還元性物質は1種類でもよく、複数の種類を併用して用いてもよい。化学的安定性が高い、毒性が低く有毒な反応生成物が発生しない、還元性物質の溶解度が大きいおよび安価であることより、好ましくはチオ硫酸塩または亜硫酸塩である。
【0043】
チオ硫酸塩または亜硫酸塩を構成する陽イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、またはオニウムイオンを挙げることができる。アルカリ金属イオンとしては、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンまたはセシウムイオンを例示することができる。アルカリ土類金属イオンとしては、具体的には、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンまたはバリウムイオンを例示することができる。オニウムイオンとしては、具体的には、アンモニウムイオンを例示することができる。本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる還元性物質であるチオ硫酸塩または亜硫酸塩を構成する陽イオンとして、水に対する溶解度が大きいことより、好ましくは、アルカリ金属イオンまたはオニウムイオンである。
【0044】
本発明のヨウ素化合物の除去方法に用いる塩基性水溶液中における還元性物質の濃度は、還元性物質の種類によって異なるが、還元性物質の効果を発揮するためには、水溶液全体を基準とする質量%で表わして、0.0001質量%以上であることが好ましい。還元性物質の沈殿、還元性物質と被除去ガスとの反応によって生成する塩の沈殿が生じないように、還元性水溶液の濃度を適宜調節することが好ましい。10質量%を超えると沈殿が生じ易く、沈殿が生じないように、好ましくは10質量%以下である。
【0045】
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、気体のヨウ素化合物を含むガスを接触させる際の、除去剤である塩基性水溶液の温度は、除去剤が液体として存在する温度範囲内における10℃以上、60℃以下が好ましい。60℃よりも高いと、塩基性水溶液の水蒸気圧が高くなり、除去剤から気化する水が増加するので、濃度の管理が困難となる。さらに好ましくは、10℃以上、40℃以下である。
【0046】
[気体のヨウ素化合物を含むガスと塩基性水溶液の気液接触]
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、除去剤としての塩基性水溶液に、気体のヨウ素化合物を含むガスを連続的に気液接触させる場合、除熱することが好ましい。該除去剤とガスが含むヨウ素化合物の組み合わせによって発熱量は異なる。装置からの放熱や水の気化熱で除熱し、塩基性物質の水溶液の温度上昇を防ぐことが好ましい。
【0047】
また、温度上昇を防ぐ方法としては、気体のヨウ素化合物の濃度が10体積%未満となるように、他の種類のガスにより希釈した後、塩基性水溶液と連続的に接触させる方法を挙げることができる。より好ましくは気体のヨウ素化合物の濃度が2体積%未満となるように、他の種類のガスにより希釈した後、塩基性水溶液と連続的に接触させる方法である。希釈のためのガスの種類としては、気体のヨウ素化合物または前記還元性物質と直接反応しないものであればよい。具体的には、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)またはパーフルオロカーボンを挙げることができる。これらガスは1種類でもよく、複数の種類のガスを併用して用いてもよい。
【0048】
[気液接触装置]
本発明のヨウ素化合物の除去方法において用いることのできる気液接触装置としては、撹拌槽、気泡塔、棚段塔、スプレー塔または充填塔を用いることができる。これら気液接触装置の中でも気液の接触効率がよい充填塔を用いて、気体のヨウ素化合物と塩基性水溶液を接触させることが好ましい。なお、本発明において、充填塔とは、塔の中に気液の接触面積を大きくとるための充填物を配置した装置であり、充填物の表面上で気液接触を行うための装置である。充填塔には気体のヨウ素化合物と塩基性水溶液を逆方向に流し接触させる向流接触式、または同方向に流し接触させる並流接触式があるが、好ましくは、気液の接触効率がよい向流接触である。
【0049】
本発明のヨウ素化合物の除去方法において、気液接触装置内の気体のヨウ素化合物および塩基性水溶液が接触する部位の材質としては、ヨウ素化合物によって腐食しないことが好ましく、鉄またはステンレス鋼製の母材に樹脂ライニングをしたものが好ましい。ライニングする樹脂としてはフッ素樹脂が好ましい。この様なフッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンまたはクロロトリフルオロエチレン等を挙げることができる。充填塔における充填物は、気体のヨウ素化合物と塩基性水溶液を接触させる際の接触面積を広くとれればよく、形状は問わない。充填物の材質はヨウ素化合物によって腐食しないことが好ましく、樹脂製の充填物を用いることが好ましい。具体的には、前記フッ素樹脂を挙げることができる。
【0050】
<充填塔の効果>
気液接触装置に充填塔を用いることで、下記の実施例1〜18に示す様に、充填塔出口ヨウ化化合物ガスの濃度が500体積ppm以下に低減された。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
図1を用いて、本発明の実施例について具体的に示す。
図1は、本発明のヨウ素化合物の除去方法を実施するための除去装置の概略図である。
【0053】
除去装置の構成要素は、
図1に示す様に、A)充填材を充填した充填塔1、B)除去剤として塩基性物質と必要に応じて還元性物質を含む塩基性水溶液2、C)水溶液を溜める液釜3、D)液釜内の水溶液を充填塔の上部に送液する送液ポンプ4からなる。充填塔1は、長さ1.5m、塔径25A(34mm)であり、内部をフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレンで被覆されているものを使用した。充填材として、φ1/4インチ(6.35mm)、長さ6mmのポリテトラフルオロエチレン製のラシヒリングを使用し、充填長は1.2mとした。
【0054】
除去剤として塩基性物質さらに還元性物質を含む塩基性水溶液2は、液釜3から充填塔1の上部に送液した後、充填塔
1内を経由して、送液ポンプ4により流量計5で流量を測定しつつ、液釜3へ戻すことで循環させた。循環流量は、0.3リットル/minとした。濃度が1体積%になるまで窒素で希釈されたヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、または七フッ化ヨウ素は、マスフローコントローラー6にて、充填塔1内でのガス線速が1cm/secとなるように充填塔1の下部入口7より導入され、除去剤として塩基性物質さらに還元性物質を含む塩基性水溶液2と向流接触し、充填塔1の上部出口8より放出される。充填塔1の上部出口8から放出されたガス中のヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、または七フッ化ヨウ素濃度をガス検知器またはフーリエ変換赤外分光計で分析し、充填塔1の上部から放出されたガス中のヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、または七フッ化ヨウ素濃度を測定し、除去剤として塩基性物質、さらに還元性物質を含む塩基性水溶液2中での固体ヨウ素の析出の有無を確認した。
【0055】
具体的には、ヨウ化水素の濃度は、ガス検知器(理研計器株式会社製、品名、ポータブル毒性ガスモニター、SC−8000)を用い測定した。五フッ化ヨウ素と七フッ化ヨウ素の濃度は、ガス検知器(新コスモス電機株式会社製、品名、工業用定置式ガス検知警報装置、PS‐7)を用い測定した。ヨウ化水素、五フッ化ヨウ素、または七フッ化ヨウ素の濃度が、ガス検知器のフルスケールよりも高濃度の場合は、フーリエ変換赤外分光計(株式会社島津製作所製、品名、IR−Tracer100)を用い測定した。
【0056】
[評価結果]
参考例1〜6、比較例1(ヨウ化水素の除去)
参考例1〜6においては、除去剤として塩基性物質である水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの水溶液を用い、
参考例1、2、5においては、さらに還元性物質としてチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを加えた。比較例1は、除去剤として塩基性物質を用いることなく、水のみを用いた。
参考例1〜6、および比較例1において、ヨウ化水素を除去した際の除去剤の組成と評価結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の
参考例1〜6および比較例1に示す様に、ガス検知器またはフーリエ変換赤外分光計の測定において、充填塔の下部入口7のHI濃度が1体積%であったのに対し、出口8ではHI濃度が0.05体積ppm以下(ヨウ素損失率0.0005質量%以下)に低減された。
参考例1〜6において、塩基性水溶液2中に固体ヨウは析出しなかったが、除去剤に水のみを用いた比較例1においては、固体ヨウ素が析出した。
【0059】
実施例7
、8、11、参考例7〜9、比較例2(五フッ化ヨウ素の除去)
実施例7
、8、11、参考例7〜9においては、除去剤として塩基性である水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの水溶液を用い、実施例7、8、11においては、さらに還元性物質としてチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを加えた。比較例2は、除去剤として塩基性物質を用いることなく、水のみを用いた。実施例7
、8、11、参考例7〜9、および比較例2において、五フッ化ヨウ素を除去した際の除去剤の組成と評価結果を以下の表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示す様に、ガス検知器またはフーリエ変換赤外分光計の測定において、充填塔入口7のIF
5濃度が1体積% であったのに対し、除去剤に水酸化カリウム水溶液または水酸化
ナトリウム水溶液を用いた
参考例4〜6の充填塔出口8のIF
5濃度は、500体積ppmに低減された。さらに還元性物質としてのチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを加えた実施例7、8、11においては、充填塔出口8のIF
5濃度は0.5体積ppm以下(ヨウ素損失率0.005質量%以下)に低減された。それに対して、除去剤に水のみを用いた比較例
2は、充填塔出口8のIF
5濃度が1000体積ppmであった。
【0062】
また、実施例7
、8、11、参考例7〜9について塩基性水溶液2中に固体ヨウ素は析出しなかったが、比較例2においては、固体ヨウ素が析出した。
【0063】
実施例13
、14、17、参考例10〜12、比較例3(七フッ化ヨウ素の除去)
実施例13
、14、17、参考例10〜12においては、除去剤として塩基性物質である水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの水溶液を用い、実施例13、14、17においては、さらに還元性物質としてチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを加えた。比較例3は、除去剤として塩基性物質を用いることなく、水のみを用いた。実施例13
、14、17、参考例10〜12、および比較例3において、七フッ化ヨウ素を除去した際の除去剤の組成と、評価結果を以下の表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示す様に、ガス検知器またはフーリエ変換赤外分光計の測定において、充填塔入口7のIF
7濃度が1体積%であったのに対し、除去剤に水酸化カリウム水溶液または水酸化
ナトリウム水溶液を用いた参考例
10〜12の充填塔出口8のIF
7濃度は500体積ppmに低減された。さらに還元性物質としてのチオ硫酸ナトリウムまたは亜硫酸ナトリウムを加えた実施例13、14
、17においては、充填塔出口8のIF
7濃度は0.5体積ppm以下(ヨウ素損失率0.005質量%以下)に低減された。それに対して、除去剤に水のみを用いた比較例3は、充填塔出口8のIF
7濃度が1000体積ppmであった。
【0066】
また、実施例13
、14、17、参考例10〜12について塩基性水溶液2中に固体ヨウ素は析出しなかったが、比較例
3においては、固体ヨウ素が析出した
。
【符号の説明】
【0067】
1:充填塔
2:塩基性水溶液
3:液釜
4:送液ポンプ
5:流量計
6:マスフローコントローター
7:(充填塔の)入口
8:(充填塔の)出口