(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維強化熱可塑性樹脂シートの単位厚みあたりの前記一方向プリプレグの層数は10〜40層/mmである、請求項6〜8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シート。
請求項1〜5のいずれかに記載の一方向プリプレグのランダム積層体からなる、または、請求項6〜11のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートからなる、成形体。
前記工程(b)において、ビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とを50:50〜90:10の質量比で含浸させる、請求項13に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
<一方向プリプレグ>
本発明の一方向プリプレグは、開繊された強化繊維、および、式(1):
【化5】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物との重合物を含む、テープ状の一方向プリプレグであって、該重合物は5,000〜25,000の重量平均分子量を有し、該一方向プリプレグの厚み方向における該強化繊維の平均含有数は10本以下である。本発明の一方向プリプレグにおいて、厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本以下であることと、5,000〜25,000の重量平均分子量を有する上記重合物とを含んでいることにより、樹脂マトリックス中にボイド等が含まれることなく強化繊維が存在する。このため、本発明の一方向プリプレグを用いて得られる繊維強化熱可塑性樹脂シートが、高い成形性と強度とを兼ね備える。
【0012】
本発明の一方向プリプレグに含まれる5,000〜25,000の重量平均分子量を有する重合物は、現場重合型の熱可塑性樹脂である。なお、以下において、本発明の一方向プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂である上記重合物を、「熱可塑性樹脂A」とも称する。また、熱可塑性樹脂Aおよび後述する熱可塑性樹脂Bの原料として使用する上記式(1)で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、上記特定の群から選択されるビスフェノール化合物とを、あわせて、以下において「原料化合物」とも称する。また、現場重合型の熱可塑性樹脂とは、本明細書において、開繊された強化繊維に含まれる該重合物が、加熱等によりさらに重合し、より高分子量の重合物となることを意味している。本発明の一方向プリプレグは、例えば、原料となる強化繊維のトウを一方向に引きそろえて開繊させた状態で、現場重合型の熱可塑性樹脂の原料化合物を含浸させ、その後、固化させて製造することができる。
【0013】
本発明の一方向プリプレグに含まれる重合物は、現場重合型の熱可塑性樹脂であり、式(1):
【化6】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物とを原料として得られる重合物である。
【0014】
本発明の一方向プリプレグに含まれる強化繊維としては、例えばアラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサ
ゾール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。これら強化繊維としては、数千本以上のフィラメントで構成される強化繊維が好ましく、一方向プリプレグを製造するにあたり3000〜60000本のフィラメントで構成される強化繊維が好適に利用される。本発明の一方向プリプレグを成形体として使用する場合、成形体の強度・剛性の観点から、強化繊維は炭素繊維であることがより好ましい。本発明の一方向プリプレグは、1種類の強化繊維を含有してもよいし、二種以上の強化繊維を組み合わせて含有してもよい。
【0015】
強化繊維が炭素繊維である本発明の一方向プリプレグの好ましい一態様において、炭素繊維はピッチ系の炭素繊維であってもよいし、PAN系の炭素繊維であってもよい。取扱性の観点から、炭素繊維がPAN系の炭素繊維であることが好ましい。
【0016】
強化繊維における撚りの有無は特に限定されないが、マトリックス樹脂の浸透を高めやすい観点からは、撚りが少ないかまたは撚りのない強化繊維が好ましい。強化繊維の撚り数は、同様の観点から、好ましくは1回/m以下、より好ましくは0.5回/m以下、さらにより好ましくは0.3回/m以下である。
【0017】
強化繊維が炭素繊維である場合、炭素繊維は一定のトラバース幅で円筒状の管であるボビンに巻かれていることが多い。炭素繊維1本のフィラメント径は、通常5〜8μmであり、複数の炭素繊維が所定のフィラメント数(具体的には1000本(1K)、3000本(3K)、6000本(6K)、12000本(12K)、15000本(15K)、18000本(18K)、24000本(24K)、30000本(30K)、60000本(60K))で扁平状に集合した繊維束(炭素繊維トウ)が好適に利用される。炭素繊維のフィラメント数は、開繊された炭素繊維や本発明の一方向プリプレグの所望される幅や厚みに応じて適宜変更してよいが、生産性の観点から、好ましくは3000〜60000本、より好ましくは6000〜24000本である。フィラメント数が上記の上限以下であることが、製造されるプリプレグ内部のボイドの発生を抑制できるため好ましい。また、フィラメント数が上記の下限以上であることが、開繊する際の単糸切れによる毛羽立ち及びプリプレグの割れを抑制できるため好ましい。
【0018】
本発明の一方向プリプレグは、開繊された強化繊維を含み、該繊維が一方向性を有するプリプレグである。本発明において、プリプレグに含まれる繊維の一方向性は次のようにして評価することができる。まず、繊維方向に所定の長さ(例えば繊維方向に150mm)を有するように切断されたプリプレグの両切断端部のそれぞれにおいて幅長の中点を求め、一方の端部の中点と、他方の端部の中点とを結び、この線を基準線とする。当該基準線から片側のプリプレグについて、その幅方向の長さ(幅長の約半分となる長さ、以下において「半分幅」とも称する)を、繊維方向に沿って少なくとも10箇所測定する。少なくとも10箇所について得た半分幅の平均値と、標準偏差から算出される変動係数が、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは5%以下である場合、本発明の一方向プリプレグが一方向性を有するといえる。
【0019】
本発明の一方向プリプレグは、開繊された強化繊維を含む。本発明の一方向プリプレグに含まれる開繊された強化繊維において、厚み方向における強化繊維の平均含有数は10本以下である。厚み方向における該平均含有数が10本よりも多いと、厚み方向に強化繊維が重なりすぎているために、一方向プリプレグに含まれる重合物の原料となる化合物(式(1)で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物およびビスフェノール化合物)を繊維中に十分均一に含浸させることができずに、繊維と繊維の間に樹脂が含浸されていない隙間(ボイド)が生じてしまう。プリプレグにボイドが含まれていると、このボイドは、プリプレグから例えばランダム積層体を経て成形された成形体中に残り、それに起因して成形体の十分な強度が得られない。あるいは、成形体の十分な強度を達成するためには、プリプレグからランダム積層体(繊維強化熱可塑性樹脂シート)や成形品を製造する工程においてボイドが除去されるように、高温および/または高圧を適用することや、長いプレス時間を適用するなどの厳しい条件が必要になる。このような厳しい条件は、樹脂の劣化や生産効率の低下をもたらすため好ましくない。また、局所的に繊維配向が過多となり、繊維を介した繊維軸方向と異にする方向への応力伝達ができず、本来繊維が持つ強度を十分に活かせない。
厚み方向における平均含有数の上限は、上記原料化合物の浸透をより高めると共に、本発明の一方向プリプレグのランダム積層体の強度を高めやすい観点から、好ましくは8本以下、より好ましくは7本以下、さらにより好ましくは6本以下である。該厚み方向における平均含有数の下限値は、樹脂の浸透を高めやすい観点からは少ないほどよく、特に限定されないが、好ましくは1本以上、より好ましくは2本以上、さらにより好ましくは3本以上である。
【0020】
開繊された強化繊維が上記の構成を有することにより、本発明の一方向プリプレグの厚み方向における強化繊維の平均含有数を10本以下とすることができる。同様に、本発明の一方向プリプレグの厚み方向における強化繊維の平均含有数は、好ましくは8本以下、より好ましくは7本以下、さらにより好ましくは6本以下、特に好ましくは5.5本以下である。また、該厚み方向における平均含有数の下限値は、好ましくは1本以上、より好ましくは2本以上、さらにより好ましくは3本以上である。
【0021】
本発明の一方向プリプレグに含まれる厚み方向における強化繊維の含有数は、プリプレグを厚み方向に切断した断面を樹脂等で包埋して電子顕微鏡等を用いて観察し、得られた画像において厚み方向に存在する繊維の本数を数えることにより測定する。このようにして、少なくとも5箇所の断面画像において厚み方向に存在する繊維の本数を数え、その平均値を厚み方向における強化繊維の平均含有数とする。上記断面観察において、切断時の外力によるプリプレグへの影響を最小限にするために、例えばプリプレグの両面を金属等の剛性のある板で挟み固定した状態で切断し、断面観察を行ってもよい。なお、上記少なくとも5箇所の測定は、本発明の一方向プリプレグがある程度の長さを有する場合(例えばボビンに巻き取られた形態のテープ状である場合)には、繊維軸方向に例えば50cm程度の間隔で少なくとも5箇所について測定を行ってもよいし、本発明の一方向プリプレグがカットされたテープの形態である場合には、カットされた複数のプリプレグの中から任意に少なくとも5つのプリプレグを取り出して測定を行ってもよい。以下、複数箇所について測定する場合には、上記と同様にして複数箇所の測定を行ってよい。
【0022】
本発明の一方向プリプレグに含まれる厚み方向における強化繊維の含有数の変動係数(CV値)は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。本発明において、上記変動係数は、各一方向プリプレグに含まれる開繊された強化繊維の厚み方向における強化繊維の含有数を少なくとも10箇所において測定し、この結果から得た平均値および標準偏差から、変動係数(CV値)=標準偏差/平均値×100(%)の式により算出される。厚み方向における強化繊維の含有数の変動係数が上記の上限以下である場合、本発明のプリプレグからランダム積層体を製造する際に、積層ムラが生じにくくなり、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの等方性を確保しやすくなる。
【0023】
本発明の一方向プリプレグに含まれる開繊された強化繊維の、下記式(2)より算出される幅方向における強化繊維の平均含有密度(以下において「平均含有密度A」とも称する)は、好ましくは150〜2000本/mm、より好ましくは500〜1500本/mm、さらにより好ましく700〜1000本/mmである。幅方向における強化繊維の平均含有密度が上記の上限以下である場合、原料化合物を含浸させその後固化させる際に、プリプレグ内部にボイドが生じにくくなり、この一方向プリプレグから製造される
繊維強化熱可塑性樹脂シートの機械的強度を高めやすい。また、幅方向における強化繊維の平均含有密度が上記の下限以上である場合、プリプレグの割れの発生を防止しやすく、本発明の
繊維強化熱可塑性樹脂シートの強度を高めやすい。
一方向プリプレグあたりの幅方向における平均含有密度を上記の範囲内にすることにより、一方向プリプレグを薄層でありながらも割れが生じにくくし、かつ、ボイドが低減されやすくなる。そして、このような一方向プリプレグを用いて本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造することにより、シートとしての成形性および強度を高めやすく、また、本発明の
繊維強化熱可塑性樹脂シートから製造した成形体の品質も向上させやすい。
幅方向における前記強化繊維の平均含有密度は、次の式(2)より算出される。なお、式(2)中の厚み方向における強化繊維の平均含有数の測定方法は上記に述べたとおりである。また、式(2)中の(1/強化繊維の単糸直径[mm])は、幅方向1mmあたりの単位積層内に含まれ得る強化繊維の本数を表す。
【数2】
【0024】
ここで、上記式(2)より算出される平均含有密度Aについて、以下に説明する。本発明のプリプレグにおいて、強化繊維は厚み方向に積層され、幅方向に並んでいる。そして、(1/強化繊維の単糸直径[mm])は、幅方向1mmあたりの単位積層内に含まれ得る強化繊維の本数、つまり、幅方向に1mmの長さを有し、厚み方向に1層(単位積層内)の中に含まれ得る強化繊維の本数を表している。この数値は、幅方向に1mm×厚み方向に1層の単位積層内に、繊維がどの程度含まれ得るかを意味する数値であるため、1mmを強化繊維の単糸直径で割ることにより算出される。幅方向における強化繊維の平均含有密度は、式(2)に示されるように、上記のようにして算出した(1/強化繊維の単糸直径[mm])と厚み方向における強化繊維の平均含有数との積であり、本発明のプリプレグの単位幅(1mm)あたりに含まれ得る強化繊維の平均含有数を表す。具体的には、幅方向に1mmの長さを有し、厚み方向に1層(単位積層内)の中に含まれ得る強化繊維本数に、厚み方向における強化繊維の平均含有数をかけて算出されることから、本発明のプリプレグの繊維方向に直交する厚み方向の断面において、幅方向に1mm×厚み方向に厚みの長さを有する矩形の範囲に含まれ得る強化繊維の本数を表している。
【0025】
本発明の一方向プリプレグにおいて、一方向プリプレグに含まれる強化繊維の本数をm(本)とし、厚み方向の平均含有数をn(本)とし、一方向プリプレグの平均幅長をp(mm)とし、強化繊維の単糸直径をq(mm)とすると、m、n、pおよびqは次の式(3):
【数3】
を満たすことが好ましい。ここで、本発明の一方向プリプレグにおいては、幅方向にならぶ強化繊維の繊維間に上記重合物が含浸し、各繊維がある程度の間隔で存在していることが好ましい。上記式(3)は、本発明の一方向プリプレグにおける幅方向の強化繊維の粗密を表す式である。まず、式(3)中の(m/n)により算出される値は、一方向プリプレグに含まれる強化繊維の本数(m)を厚み方向の平均含有数(n)で除して得られる値であり、一方向プリプレグの幅方向に平均幅長×厚み方向に1層の範囲に実際に含まれる強化繊維の本数を表している。この値をさらに、一方向プリプレグの平均幅長(p)で除することにより、幅方向に1mm×厚み方向に1層の範囲に実際に含まれる強化繊維の本数が(m/n)/pとして算出される。そして、(m/n)/pを1/q
で除することにより、幅方向の強化繊維の粗密を表
すパラメータが{(m/n)/p}/(1/q)(以下において「値X」とも称する)として算出される。ここで、例えば値Xが1である場合、つまり、(m/n)/pが1/qに等しい場合、強化繊維が隙間なく幅方向に並んでいることを表し、値Xが1より小さくなるにつれて、つまり、(m/n)/pが(1/q)より小さくなるにつれて、幅方向に並ぶ強化繊維間の間隔が大きくなることを意味する。値Xは、プリプレグ内に樹脂と繊維が均一に存在しやすい観点および一方向プリプレグの割れを防止しやすいから、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。また、値Xは、
繊維強化熱可塑性樹脂シートの強度のばらつきを抑制する観点から、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.1以下である。
【0026】
本発明の一方向プリプレグに含まれる開繊された強化繊維の幅長の変動係数(CV値)は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。本発明において、変動係数は開繊された強化繊維の繊維方向にほぼ直交する幅の長さを少なくとも10箇所において測定し、この結果から得た平均値および標準偏差から、変動係数(CV)=標準偏差/平均値×100(%)の式により算出される。開繊された強化繊維が上記の構成を有することにより、本発明の一方向プリプレグにおける幅長の変動係数を、好ましくは5%以下とすることができる。幅長の変動係数が上記の上限以下である場合、本発明のプリプレグからランダム積層体を製造する際に、積層ムラが生じにくくなり、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの等方性を確保しやすくなる。
【0027】
本発明の一方向プリプレグの好ましい態様を、図を用いて説明する。
図1は、厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本以下である本発明の好ましい一態様の一方向プリプレグを厚み方向に切断した断面の模式図を表す。
図2は、厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本より多い、本発明に該当しない一方向プリプレグを厚み方向に切断した断面の模式図を表す。
本発明の好ましい一態様を示す
図1においては、ビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物との重合物である現場重合型の熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂1)が強化繊維2の間に十分に浸透しているが、本発明に該当しない一態様を示す
図2では、強化繊維2の間にマトリックス樹脂1が十分浸透せずにボイド3が存在している。この違いが、最終的な成形品を製造する際の成形性や、得られた成形品の強度に影響を与える。なお、
図1は本発明の一方向プリプレグの一態様を示す模式図であり、本発明の一方向プリプレグの断面形状を何ら限定するものではない。
【0028】
本発明の一方向プリプレグは、式(1):
【化7】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物との重合物を含む。該重合物は、5,000〜25,000の重量平均分子量を有する。これにより、テープ生産時の取扱い性が良く、さらにこのテープを用いて製造される繊維強化熱可塑性シートの成形性・賦形性を高めることができる。上記重合物の重量平均分子量は、生産性・成形性の観点から、好ましくは7,000〜20,000、より好ましくは7,000〜15,000である。ここで、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた装置により測定される。重量平均分子量が上記の下限以上であることが一方向プリプレグの取扱性の観点から好ましく、重量平均分子量が上記の上限以下であることが、ランダム積層体を製造する際の樹脂の流動性が良好となり、ボイド率が低く十分な強度を有する成形体を製造することができるため好ましい。上記重量平均分子量を有する重合物は、上記ビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とが、式(1)で示されるビスフェノールA型エポキシ化合物の末端の反応基(エポキシ基)と、2個のフェノール性水酸基を有する上記ビスフェノール化合物のフェノール基を介して直鎖状に重合した直鎖状の重合物である。上記重合物は、このような構造を有することにより熱可塑性を示す。また、上記重量平均分子量を有する重合物は、現場重合型の重合物であり、一方向プリプレグから熱可塑性樹脂シートを製造する工程、および/または、熱可塑性樹脂シートから成形体を製造する工程において、該重合物のさらなる重合が進行する。具体的には、例えば、該重合物と一方向プリプレグ中になお含まれるビスフェノール化合物とのさらなる重合が進行する。このため、熱可塑性樹脂シートの強度、最終的な成形品を製造する際の成形性、成形品の強度等を高めやすい。
【0029】
本発明の一方向プリプレグに含まれる重合物は、原料として使用するビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物との重合物であり、重合前の原料として使用するビスフェノールA型エポキシ化合物の重量平均分子量は2000以下である。
ビスフェノールA型エポキシ化合物は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応より製造される。従来、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、熱硬化型の合成樹脂として代表的な樹脂であり、各種の硬化剤と反応させることにより三次元に硬化し、様々な特性を持つ硬化樹脂が得られる。一方、本発明で使用するビスフェノールA型エポキシ化合物は、式(1)に示されるように、分子鎖の両末端のみに官能基であるエポキシ基を有し、分子鎖の繰り返し単位nが1〜4である。なお、nが1〜4である場合、ビスフェノールA型エポキシ化合物の重量平均分子量は594〜1416である。また、原料として使用するビスフェノール化合物の1つであるビスフェノールAは、フェノールとアセトンの反応によって合成され、次の式(4):
【化8】
で表される構造を有している。上記式に示されるように、分子の両末端に官能基であるフェノール性水酸基を有しており、重量平均分子量は228である。なお、本発明におけるその他のビスフェノール化合物である、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPはいずれも、ビスフェノールAと同様に、分子の両末端に官能基であるフェノール性水酸基を有しており、重量平均分子量は200〜346である。このように、低分子量の原料を使用することによりプリプレグ製造の際に開繊された強化繊維間に原料化合物が浸透しやすくなり、得られるプリプレグは繊維間にボイドが含まれることなく樹脂が均一に含浸した状態(フル含浸)となる。また、同様の観点から、プリプレグ製造工程において、繊維に原料化合物を含浸させた後に重合させることが好ましい。
【0030】
原料として使用する式(1)で示されるビスフェノールA型エポキシ化合物の官能基はエポキシ基であり、例えば式(4)で示されるようなビスフェノール化合物の官能基はフェノール性水酸基である。そのため、これらの重合反応は、式(1)中のエポキシ基と式(4)中のフェノール性水酸基との求電子置換反応により逐次的に進行する。両方の化合物において、官能基が両末端に存在するため、例えば原料含浸工程・シート製造工程において開繊された強化繊維に原料化合物の混合物を含浸・固化させる際、および、ランダム積層体を加熱・プレス成形させる際に、得られる重合物は直鎖状となる。これにより、本発明の一方向プリプレグおよび
繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる、上記原料化合物の重合物は、熱可塑性の特性を有する。
【0031】
このような重合物は、一方向プリプレグの製造工程での取扱い性に優れている。具体的には、原料となるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とは、プリプレグ及びシートの製造工程を経て逐次的に重合が進行する。この反応は不可逆反応であり、縮合反応(例えば脱水反応)のように副生成物が脱離することもない。これにより、オープン系の設備を使用してプリプレグおよびシートを製造することができる。また、プリプレグを製造する際に使用する原料化合物が低分子量であり、低粘度であることから、これら原料を室温でも繊維に含浸させやすい。更に容易に含浸させやすいことから、後述するプリプレグ製造工程において強化繊維にかかる張力を抑えることができ、繊維の毛羽立ちや切断を防止して繊維に優しく加工でき、プリプレグの品質を安定させることができる。ここで、高分子量の樹脂を含浸させて一方向プリプレグを製造する場合、樹脂の粘性が高いため繊維間に十分含浸させることが難しく、プリプレグ内部にボイドが残存しやすくなり、シート物性において強度低下を引き起こす。また、含浸できる樹脂量も制限されてしまうため、プリプレグ製造における汎用性に欠ける。
【0032】
本発明の一方向プリプレグに含まれる、ビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物との重合反応により得られる重合物は、現場重合型の熱可塑性樹脂であり、非晶性の樹脂となる。そのため、成形における体積収縮率が小さく、金型に対する表面転写性に優れている。
【0033】
本発明の一方向プリプレグは、上記の他に任意の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば有機溶媒、反応促進剤、カップリング剤、硬化剤(反応促進剤)、顔料、消泡剤、防カビ剤、劣化防止剤等が挙げられる。これらの添加剤を加える場合、その量は添加の目的等に応じて適宜変更してよい。例えば、上記の原料化合物の重合反応を促進させるために反応促進剤を使用してもよい。原料化合物であるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物は、上記に述べたように求電子置換反応により逐次的に重合する。そのため、これらを重合させる際に、求電子置換反応が進みやすい塩基性のリン系・アミン系の反応促進剤を使用することが好ましく、生産速度の観点から有機リン化合物を使用することが特に好ましい。
【0034】
有機リン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、1,4−ビスジフェニルホスフィノブタノン等が好適に利用される。
【0035】
上記の原料化合物の重合物の重量平均分子量を、上記好ましい範囲とする観点、例えば一方向プリプレグにおいて5,000〜25,000とし、さらに繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、30,000以上としやすい観点からは、反応促進剤を、一方向プリプレグに含まれる上記重合物100質量部に対して2〜3質量部の量で使用することが好ましい。
【0036】
本発明の一方向プリプレグは、テープ状である。テープ状のプリプレグはボビンに巻き取られた形態であってもよいし、これを所定の長さに切断した形態であってもよい。
【0037】
一方向プリプレグの繊維体積含有率(Vf)は、好ましくは10〜80%、より好ましくは20〜60%、更に好ましくは35〜55%、特に好ましくは25〜45%である。繊維体積含有率(Vf)は、例えばJIS−7075に従い測定される。繊維体積含有率が上記の上限以下であることが、繊維相互の交絡箇所(未含浸部)を低減し、ボイドレス化しやすいため好ましい。また、繊維体積含有率が上記の下限以上であることが、成形体の強度を高めやすいため好ましい。
【0038】
本発明の一方向プリプレグの平均厚みは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは20〜180μm、さらにより好ましくは40〜160μmである。平均厚みが上記の上限以下であることが、プリプレグ内部のボイドの発生を抑制できるため好ましい。また、平均厚みが上記の下限以上であることが、プリプレグの割れを抑制できるため好ましい。上記平均厚みは、プリプレグの少なくとも10箇所について、厚み計を用いて測定した平均値である。
【0039】
上記した開繊された強化繊維の平均含有密度および厚みを考慮すれば、本発明の一方向プリプレグの平均幅は、例えば12Kの炭素繊維の原糸を用いる場合、好ましくは10〜18mmである。上記平均幅は、測定用カメラ等を用いて、プリプレグの幅を少なくとも10箇所について測定した平均値である。なお、本発明の一方向プリプレグにおいて、幅方向とは、プリプレグ表面における繊維方向に直交する方向である。この場合、平均幅を10mm以上とすることで製造されるプリプレグ内部のボイドの発生を抑制しやすく、平均幅を18mm以下とすることで開繊する際の単糸切れによる毛羽立ち及びプリプレグの割れを抑制しやすい。
【0040】
本発明の一方向プリプレグの繊維方向の平均長さは特に限定されない。一方向プリプレグの使用用途に応じて適宜変更される。
【0041】
本発明の一方向プリプレグは、最終的に得られる成形体の成形性や機械的強度を高めやすい観点から、平均厚み2mmを有する繊維強化熱可塑性シートにおいてJIS−7075に従い測定し、好ましくは0〜0.4vol%のボイド率を有する。
【0042】
本発明の一方向プリプレグにおいて、開繊された強化繊維に拘束剤を付着させてもよい。拘束剤を付着させることにより、開繊された強化繊維の幅の拘束性を高めやすく、また、本発明の一方向プリプレグを製造する際に発生し得る割れを抑制することができる。拘束剤の付着量は、最終的に得られるプリプレグの物性低下への影響を考慮して、強化繊維の重量に基づいて0〜0.8重量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.5重量%である。拘束剤の付着量を上限以上とすることが、開繊された強化繊維の幅の拘束性を高めることができるため好ましい。拘束剤の付着量を上記した範囲とすることで、プリプレグから得られる成形体の物性低下及び一方向プリプレグを製造する際に発生し得る割れを抑制することができる。使用する拘束剤の種類としては特に限定されないが、乳化させたエポキシ樹脂や乳化させた変性ポリオレフィン樹脂等が好適に利用される。
【0043】
<繊維強化熱可塑性樹脂シート>
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、一方向プリプレグのランダム積層体であり、開繊された強化繊維および熱可塑性樹脂を含む。なお、以下において、繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂を「熱可塑性樹脂B」とも称する。熱可塑性樹脂Bは、上記式(1)
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物との重合物であり、該重合物は30,00
0以上の重量平均分子量を有する。熱可塑性樹脂Bは、現場重合型の重合物であり、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから成形体を製造する際に、該重合物がさらに重合し、より高分子量の重合物となることを意味している。なお、熱可塑性樹脂Bに関し、重量平均分子量に関する記載をのぞいて、上記の熱可塑性樹脂Aに関する記載が同様にあてはまる。本明細書において、一方向プリプレグのランダム積層体とは、一方向プリプレグを切断したチョップドプリプレグを繊維方向がランダムになるように積層させた積層物を加熱・プレス成形することにより得られるシート状の材料であり、このような積層体には、シート物性としての等方性が期待される。
【0044】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる強化繊維の、一方向プリプレグあたりの厚み方向における平均含有数は10本以下である。このことは、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートが、厚み方向において10本以下の強化繊維の平均含有数を有する一方向プリプレグの積層体であることを表す。
【0045】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、一方向プリプレグあたりの厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本以下であり、現場重合型の熱可塑性樹脂Bを含む、非常に薄い一方向プリプレグがランダムに積層したシートである。そのため、繊維強化熱可塑性樹脂シート内で局所的に繊維配向が過多となる部分がなく、繊維を介した繊維軸方向と異にする方向への応力伝達が均一に行われるため、高い強度と成形性とを兼ね備えると共に、強度のばらつきが少ない。また、上記特定の熱可塑性樹脂Bは強化繊維間にボイドを生じることなく均一に含浸されているため、高い強度を達成しやすい。そのため、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いて、均質かつ高い強度を有する成形体を、良好な成形性で製造することができる。
【0046】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂Bのゲル分率は好ましくは0〜2%である。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂Bは直鎖状の重合物であり、熱硬化性樹脂のように3次元に架橋しにくい。これにより、シートから成形品を製造する際の成形性及び賦形性に優れている。一方、ゲル分率が2%を超えると、シートの成形性が悪くなる場合があり、好ましくない。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂Bのゲル分率は、繊維強化熱可塑性樹脂シートを測定試料とし、アセトン・テトラヒドロフラン等の有機溶媒を用いて測定される。具体的な測定条件は、実施例に記載する通りである。また、この熱可塑性樹脂Bがゲル化しにくいことから、一方向プリプレグ、繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる強化繊維と熱可塑性樹脂を容易に分離することができる。これにより、強化繊維を再利用することができるため、リサイクル性に優れ廃棄物の減量化が可能となる。
【0047】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量は、30,000以上である。重量平均分子量が30,000より小さいと、シートとしての機械的強度が得られないため好ましくない。熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量は、シートとしての優れた強度及び成形性の観点から、好ましくは30,000〜80,000、より好ましくは40,000〜60,000である。重量平均分子量が80,000を超えると、成形品を製造する際の成形性が悪くなる場合があるため、重量平均分子量が上記の上限以下であることが、成形品を製造する際の成形性を高めやすいため好ましい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、繊維強化熱可塑性樹脂シートを測定試料とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。具体的な測定条件は、実施例に記載する通りである。
【0048】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、本発明の一方向プリプレグのランダム積層体であってもよい。本発明の一方向プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂Aは5,000〜25,000の重量平均分子量を有する現場重合型の重合物であり、
繊維強化熱可塑性樹脂シートを加熱・プレスする工程を経て繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する際に、現場重合型の熱可塑性樹脂の更なる重合が進行する。この重合は、繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる1つの一方向プリプレグ内のみでなく、隣接する一方向プリプレグ間でも行われる。その結果、繊維強化熱可塑性樹脂シート中の一方向プリプレグは互いにより強固に結合し、高い強度が達成することが可能となる。
【0049】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる開繊された強化繊維の、一方向プリプレグあたりの繊維方向の平均長さは、好ましくは10〜50mm、より好ましくは10〜30mmである。平均長さを上限以下とすることが、ボイドの発生を抑制しやすいため好ましい。また平均長さを上記した範囲とすることで、本発明の
繊維強化熱可塑性樹脂シートの機械的強度を高めやすく、そのばらつきを低減しやすい。
【0050】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる一方向プリプレグは、好ましくは上記に述べた本発明の一方向プリプレグである。ここで、積層前の一方向プリプレグにおける、厚み方向における強化繊維の平均含有数、幅方向における強化繊維の平均含有密度、幅長の変動係数(CV値)、および、繊維方向の平均長さは、上記に述べたように、本発明においては、一方向プリプレグから繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する前後で基本的には変化しない。そのため、これらについては、本発明の一方向プリプレグに関して上記に述べた好ましい範囲等に関する記載が同様に当てはまる。また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる開繊された強化繊維および熱可塑性樹脂Bについても、熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量に関する記載を除いて、本発明の一方向プリプレグに関して上記に述べた好ましい範囲等に関する記載が同様に当てはまる。
【0051】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、上記に述べたように強度に優れると共に高い成形性を有する。これは、上記のように繊維強化熱可塑性樹脂シート製造時に樹脂が重合することに加えて、一方向プリプレグ内に強化繊維が厚み方向の強化繊維の平均含有数が10本以下となるように開繊された状態で含まれていること、および、繊維と繊維の間の樹脂が含浸されていない隙間(ボイド)の発生が限りなく抑制されていることによると考えられる。さらに、一方向プリプレグの厚み方向における該強化繊維の平均含有数が10本以下となるように開繊された強化繊維を含んでいるため、繊維強化熱可塑性樹脂シート内で局所的に一定の繊維配向が過多となることがなく、高い強度が低い変動係数で達成することが可能となる。
【0052】
上記特徴を有する本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、優れた成形性を有する。従来既知のプリプレグには、少なからずボイドが含まれている場合が多く、このボイドはこのようなプリプレグから得た熱可塑性樹脂シートにも残存する。そのため、成形体の十分な強度を達成するためには、ボイドが除去されるように高温および/または高圧、長時間のプレス成形により、ボイドを除去する必要が生じる場合があった。また、繊維の繊維配向が過多となる部分がある場合には、繊維を介した繊維軸方向と異にする方向への応力伝達ができず、本来繊維が持つ強度を十分に活かせない場合があった。しかし、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、上記に述べたように、ボイドの発生が限りなく抑制され、繊維強化熱可塑性樹脂シート内で局所的に一定の繊維配向が過多となることがないため、従来よりも低温、低圧、短時間の条件でも十分な強度を有する成形体を製造することが可能である。
【0053】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いて成形体を製造する方法としては、プレス成形が挙げられる。プレス成形は、加工装置および型等を用いて、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに曲げ、剪断、圧縮等の変形を加え、成形体を製造する方法である。成形形態としては、例えば深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが挙げられる。プレス成形の方法としては、金型プレス法、および、大型の部材(例えば航空機用部材)を成形するために使用されるオートクレーブ法などが挙げられる。
【0054】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる樹脂は熱可塑性樹脂であるため、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを加熱し、該樹脂を溶融、軟化させた状態で成形型の形状に変形させ、その後冷却するスタンピング成形にも適している。
【0055】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは特に成形性に優れるため、従来の繊維強化プラスチックを用いる場合では成形が困難であった深絞りのプレス成形や、低圧(4MPa以下)での成形、短時間での成形が可能なスタンピング成形に使用することができる。
【0056】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの形状は、所望される成形体の形状に応じて適宜変更してよく、特に限定されない。
【0057】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数は、好ましくは10層/mm以上、より好ましくは15層/mm以上である。単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数が上記の下限以上であることが、本発明の樹脂シートから得た成形体の強度を高めやすい観点から好ましい。また、上記単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数は、好ましくは40層/mm以下、より好ましくは25層/mm以下である。単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数が上記の上限以下であることが、等方性のシート物性が得られる観点から好ましい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数は、繊維強化熱可塑性樹脂シートの断面を電子又は光学顕微鏡を用いて観察した画像から目視により測定される。
【0058】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、一方向プリプレグの強化繊維に対する樹脂の含浸性が良好であるため、平均厚み2mmを有する繊維強化熱可塑性シートにおいて、JIS−7075に従い測定し、好ましくは0〜1vol%、より好ましくは0〜0.5vol%のボイド率とすることができる。このように低いボイド率を有する繊維強化熱可塑性樹脂シートから得られる成形体は、成形性に優れ、機械的強度を高めることが可能となる。
【0059】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの引張強度等の機械的強度は、繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる強化繊維の種類、樹脂の種類、シートの厚み、繊維体積含有率(Vf)等によって異なり、繊維強化熱可塑性樹脂シートから得た成形体に所望される強度に応じて、上記を適宜選択して設定することができる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの機械的強度を、例えば強化繊維の種類、樹脂の種類、シートの厚み、繊維体積含有率(Vf)において同一であるが、本発明によらない繊維強化熱可塑性樹脂シートの機械的強度とを比較すると、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは相対的に高い機械的強度を達成することができる。また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいては、上記に述べたように、機械的強度のばらつきが抑制されやすい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、例えば2mmの平均厚みを有し、繊維体積含有率(Vf)が40%を有する
繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、曲げ物性はASTM D790に従い測定し、強度が好ましくは450〜500MPa、弾性率が好ましくは28〜32GPaであり、引張物性はJIS K 7164(ISO527−4)に従い測定し、強度が好ましくは250〜300MPa、弾性率が好ましくは28〜32GPaである。このように平均厚み2mmの
繊維強化熱可塑性樹脂シートが高い曲げ強度及び引張強度を達成することができるから、多用途の成形体の軽量化を図るために本発明の
繊維強化熱可塑性樹脂シートを好適に利用することが期待できる。曲げ物性及び引張り物性は、島津製作所製万能試験機等の試験機を用いて測定され、少なくとも10回の測定の平均値を平均引張弾性率とする。測定条件の詳細は、例えば実施例に記載する通りである。
【0060】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、上記に述べたように、局所的に繊維配向が過多となる部分がなく、繊維を介した繊維軸方向と異にする方向への応力伝達が均一である。このような特徴を有する本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、あらゆる方向に対する強度のばらつきが少ないと考えられる。そのため、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから成形体を製造する際に、成形性が良好となり、強度ばらつきの少ない等方性
の成形体を製造することが可能となる。
【0061】
具体的には、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの曲げ強度の変動係数(CV値)は、好ましくは0〜20%であり、より好ましくは0〜10%である。曲げ弾性率の変動係数(CV値)は、好ましくは0〜20%であり、より好ましくは0〜10%である。変動係数は、上記のようにして得た平均曲げ強度または平均曲げ弾性率と、上記のようにして測定した曲げ強度または曲げ弾性率の少なくとも10回の測定結果の標準偏差から、それぞれ、変動係数(CV値)=標準偏差/平均値×100(%)の式により算出される。
【0062】
また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの引張強度の変動係数(CV値)は、好ましくは0〜20%であり、より好ましくは0〜10%である。引張弾性率の変動係数(CV値)は、好ましくは0〜20%であり、より好ましくは0〜10%である。上記変動係数(CV値)も同様に、低ければ低いほどばらつきが少ないことを表す。なお、変動係数は、平均引張強度または平均引張弾性率と、引張強度または引張弾性率の少なくとも10回の測定結果の標準偏差から、上記と同様にして算出される。
【0063】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、上記に述べたようにボイドが少ないことに加えて、吸水率も低くなる。特に、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは高温高湿条件下でも吸水性が
低く、繊維強化熱可塑性樹脂シートの物性低下を抑制することができる。その結果、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから製造した成形体の耐湿性を高めることもできる。繊維強化熱可塑性樹脂シートの吸水率は、JIS K 7209に従い測定して好ましくは0〜1wt%、より好ましくは0〜0.3wt%である。吸水率が上記の上限以下であることが、成形体の耐湿性を高めやすく、加水分解による樹脂の経年劣化を抑制しやすいため好ましい。吸水率の測定方法は、JIS K 7209に準じ、例えば実施例に記載する方法により測定することができる。
【0064】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、シートに含まれる強化繊維とシートに含まれる熱可塑性樹脂との平均界面せん断強度は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは70MPa以上である。平均界面せん断強度が上記の下限以上であると、強化繊維と熱可塑性樹脂Bとの密着性が高いために、繊維と樹脂の界面が破壊されにくくなり、高い強度を維持しながら高賦形
性を有するシートを得やすくなる。上記平均界面せん断強度の上限は高ければ高いほどよいが、通常は100MPa以下程度である。平均界面せん断強度の測定は、マイクロドロップレット法を用いて行われる。マイクロドロップレット法とは、繊維−樹脂間の界面接着性を評価する手法であり、具体的には、単繊維に重合前の原料化合物の粒(ドロップレット)を付け、ドロップレットを加熱等により固定後に、繊維の引抜試験を行う方法である。具体的な測定条件は、実施例に記載するとおりである。
【0065】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、低圧で成形可能であること、複雑な形状を有する成形体に成形可能であることに加えて、さらに、ウレタン樹脂や鉄に対する接着性が良好であるという利点を有する。また、成形品の表面転写性が良好であるという利点も有する。
【0066】
<成形体>
本発明は、本発明の一方向プリプレグのランダム積層体からなる成形体および本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートからなる成形体も提供する。これらの成形体は、本発明の一方向プリプレグのランダム積層体または本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートをプレス等することにより製造される。成形体の用途は何ら限定されないが、例えば、OA機器および携帯電話等に用いられる電気、電子機器部品、支柱および補強材等の建築材料、自動車用構造部品、航空機用部品等が挙げられる。本発明の一方向プリプレグのランダム積層体からなる成形体および本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートからなる成形体は、高い強度を少ないばらつきで有している。また、シートに限らず一方向材としての補強材等にも利用することができる。
【0067】
<製造工程>
次に本発明に係る一方向プリプレグ、
繊維強化熱可塑性樹脂シート、および、成形体の製造方法について説明する。
【0068】
(一方向プリプレグの製造方法)
本発明の一方向プリプレグの製造方法は、
(a)強化繊維を、厚み方向における平均含有数が10本以下になるまで開繊する工程、
(b)開繊された強化繊維に、式(1):
【化9】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物とを含浸させる工程、ならびに、
(c)前記化合物を含浸させた強化繊維を加熱して、強化繊維に含浸させた化合物を、得られる重合物の重量平均分子量が5,000〜25,000となるまで重合させる工程とを含んでいる。ここで、得られる一方向プリプレグの厚み方向における該強化繊維の平均含有数は10本以下である。
【0069】
上記、工程(a)で使用する強化繊維は、特に限定されないが、通常「原糸」とも称される未開繊の強化繊維である。このような強化繊維は、一定のトラバース幅で円筒状の管であるボビンに巻かれており、これを解舒して使用することが多い。
【0070】
ここで、通常、円筒状のボビンにトラバース巻きされた原糸を単に解舒しただけでは、繊維束は進行方向に対して蛇行した状態で送り出されることとなる。上記に述べた本発明の一方向プリプレグを得やすい観点からは、原糸由来のトラバースを解消し、繊維束が蛇行することなく進行方向に対して真っ直ぐに送り出されるような装置を使用することが好ましい。
【0071】
上記トラバースを解消するための装置を
図3に示す。例えば、原糸を解舒して送り出す送りだし機構と、複数の糸道ガイド7と、強化繊維のトラバースを解消するトラバースガイド8とを備えた装置を使用することが好ましい。このような装置を用いて例えば炭素繊維を解舒する工程について、以下に説明する。
図3に示すように、トラバースガイド8は直前の糸道ガイド7aと垂直に交差するように、直前の糸道ガイド7aの上方および下方の何れか一方に設けられている(
図3では直前の糸道ガイド7aの下方に設けられている)。ここで、扁平状の繊維束のガイドとの接触面は直前の糸道ガイド7a、トラバースガイド8、直後の糸道ガイド7bの何れとも同じ面となるように送り出されることが好ましい。送り出し機構としては、原糸4をセットする原糸ボビンホルダー5と送出張力発生モーター6とを備えた装置が例示される。糸道ガイド7としては、金属製の縦ガイドローラーが好適に利用される。糸道ガイド7は、原糸ボビンホルダー5とほぼ平行となるように繊維束の進行方向に沿って設けられていることが好ましい。糸道ガイド7の直径は、設備の省スペース化及び強化繊維の取扱い性の観点から好ましくは20〜40mm程度である。原糸ボビンホルダー5にセットされた強化繊維の原糸4は、送出張力発生モーター6が駆動することにより送り出され、糸道ガイド7を経て強化繊維を開繊するための工程(a)へ送られる。
【0072】
原糸4の繊維束が直前の糸道ガイド7aからトラバースガイド8へ送り出される際に90°、トラバースガイド8から直後の糸道ガイド7bへ送り出される際に90°それぞれ捻られ、これらのガイドを通る際に1回撚られることとなる。これにより、原糸由来のトラバースが解消され、
繊維束が蛇行することなく進行方向に対して真っ直ぐに送り出すことが可能となる。繊維束が直前の糸道ガイドから直後の糸道ガイドへ送り出される際、捻りの方向は繊維の進行方向に対してS方向、Z方向またはこれらを組み合わせて用いられる。
【0073】
トラバースガイド8は糸道ガイド7と同じ金属製の縦ガイドローラーを用いてもよく、径の小さいピンガイドを用いてもよい。さらに、モーター等の駆動源を用いてトラバースガイドを繊維束の進行方向と逆方向に駆動するように設けたり、ガイドの表面に微細な凹凸を設けたりしてもよい。このようにトラバースガイド8を繊維束に対して抵抗を加えるように設けることにより、繊維束がトラバースガイド8を通過する際に繊維束の端部の折り返しを防止することができ、繊維束を扁平な状態(例えば12Kの原糸を使用する場合には、繊維方向に直交する幅が5〜8mmまたは8〜10mm)を維持したまま送り出すことができる。
【0074】
トラバースガイド8と直前の糸道ガイド7aおよび直後の糸道ガイド7bとの間隔は1m以上であることが好ましい。これにより、繊維束がトラバースガイドを通過することによる端部の折り返しを防止することが可能となる。
【0075】
工程(a)において、開繊時に強化繊維に負荷される張力は、好ましくは0.02〜0.1g/本、より好ましくは0.04〜0.06g/本である。このような範囲の張力をかけることにより、開繊性を高めやすく、かつ、単糸切れによる毛羽立ちを抑制しやすい。張力が0.02g/本より低い場合、繊維束が十分に押し広げられず得られる開繊された強化繊維の厚み方向における平均含有数を十分に少なくすることができない場合がある。また、0.1g/本より高い場合、単糸切れによる毛羽立ちが発生しやすくなる場合がある。強化繊維の開繊性を向上させるために、超音波開繊法、静電開繊法、プレス開繊法、ジェット開繊法、通気式開繊法等の少なくとも1つを用いてもよい。
【0076】
工程(a)において、例えば開繊ガイドと、幅ガイドとを備える装置を用いて開繊を行ってよい。
図4には、開繊ガイド13a〜13hと幅ガイド10に加えて、開繊槽11とを備えた装置を示す。開繊ガイド13a〜13hは、例えば所定の直径を有する円柱形状であり、所定の位置に固定されている。開繊ガイド13a〜13hにより、開繊前の強化繊維9に対して略半径方向から荷重が負荷され、強化繊維はその進行方向に対して鉛直方向から押圧をかけられることとなる。これにより繊維束が押し広げられ強化繊維が開繊される。開繊ガイドの設置本数は特に限定されず、開繊前の強化繊維9の繊維束の幅や、一方向プリプレグの所望される幅等に応じて適宜変更してよい。繊維束と開繊ガイド13a〜13hとの巻き付け角についても同様に、適宜変更してよい。
【0077】
幅ガイド10は、繊維束の両端より外側に位置するように設けられる一対のガイドからなり、開繊ガイド13a〜13hの間の少なくとも1か所に開繊ガイドに対して垂直となるように設けられる。開繊前の強化繊維9の繊維束は幅ガイド10の内側を通るため、繊維束の開繊幅を調整することが可能となり、開繊された強化繊維の幅精度を高めることができる。幅ガイド10の設置数および設置幅については特に限定されず、強化繊維のフィラメント数や一方向プリプレグの所望される幅等に応じて適宜変更してよい。
【0078】
開繊ガイド13a〜13hおよび幅ガイド10の材質は特に限定されないが、スチール、ステンレス、アルミナ等の金属が好適に利用される。繊維の摩耗を低減させる観点からは、ステンレスの表面にクロムが電解めっきされたガイドを用いることが好ましい。このような材質のガイドは平滑化された表面を有するため、開繊の際にガイドと繊維との接触による摩耗を低下することができ、単糸切れによる毛羽立ちを抑制することができる。
【0079】
開繊槽11は、水等の液体を含む開繊溶液12を貯留するために設けられる槽であり、強化繊維を液内で送り出しながら開繊できるように、その内部に開繊ガイドおよび幅ガイドを設けてよい。このように強化繊維を液中に浸しながら開繊を行うことで、強化繊維の製造の際に塗布されるサイジング剤を取り除くことができる。開繊槽におけるサイジング剤の溶出性を高めるために、開繊槽内の液体の温度を高温にしてもよいし、界面活性剤等を添加した液体を使用してもよい。また、使用する原糸に塗布されているサイジング剤の種類に応じて開繊槽11を使用せず開繊ガイドのみで開繊を行っても良い。
【0080】
開繊された強化繊維に拘束剤を付着させてもよい。拘束剤を付着させることにより、開繊された強化繊維の幅の拘束性を高めやすく、また、本発明の一方向プリプレグを製造する際に発生し得る割れを抑制することができる。拘束剤は上記の開繊槽内に含ませてもよいし、強化繊維に含まれるサイジング剤を取り除くための開繊槽(デサイズ槽)とは別に、拘束剤を付着させる槽(リサイズ槽)を設けてもよい。拘束剤を付着させることにより、続く工程(b)において、開繊された強化繊維の幅方向の収縮を抑制しやすい。拘束剤の付着量は、最終的に得られるプリプレグの物性低下への影響を考慮して、強化繊維の重量に基づいて0.8質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.5質量%である。拘束剤の例としては、特に限定されないが、乳化させたエポキシ樹脂や変性ポリオレフィン樹脂等が好適に利用される。
【0081】
上記のようにして開繊された強化繊維に、次いで、該強化繊維に含まれる水分等を除去する工程、乾燥させる工程(例えば
図4中の乾燥ローラー14)、および巻き取る工程(例えば
図4中の駆動ローラー15および巻取部16)を必要に応じて実施しても良い。
【0082】
開繊された強化繊維を乾燥させる工程では、例えば、温度調節可能な複数の乾燥ロールを使用してよい。繊維束が乾燥ロールと接触するように送り出されることにより、繊維束を完全に乾燥させることができる。乾燥ロールの温度は、テープ幅、巻き取り速度、開繊槽内の溶液の揮発性等に応じて適宜変更してよいが、80〜200℃の温度域が好適に利用される。また、各乾燥ロールの温度は同じであっても異なっていてもよい。
【0083】
また、工程(a)から直接工程(b)を実施しても良いが、設備上や各工程の生産速度が違う場合は、開繊された強化繊維を巻き取る工程(例えば
図4中の駆動ローラー15および巻取部16)を含んでも良い。
巻き取る工程において、開繊された強化繊維を巻き取る機構(巻き取り軸、モーターなど)とリールが使用される。巻き取り軸に取り付けられたリールが回転することにより、開繊された強化繊維をリールに巻き取ることができる。巻き取り速度は、繊維束の開繊性・開繊された強化繊維の幅等に応じて適宜変更してよい、好ましくは50m/分以下であり、より好ましくは5〜30m/分である。上記範囲の速度で巻き取りを行うことが、幅の精度を高めやすいため好ましい。
【0084】
開繊された強化繊維を巻き取る工程において、各ローラーとの接触により発生する単糸切れによる毛羽立ちを取り除くために、例えばスクレーパー、ブラシ等をローラーと接触するように設けてもよい。
【0085】
上記工程により解
舒した強化繊維を厚み方向における平均含有本数が10本以下になるまで開繊することにより、次の工程(b)で現場重合型の熱可塑性樹脂Aの原料となるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物を含む混合物を繊維中に十分均一に含浸させることが可能となる。厚み方向における該平均含有数が10本よりも多いと、厚み方向に強化繊維が重なりすぎているために、上記混合物を繊維中に十分均一に含浸させることができずに、繊維と繊維の間に樹脂が含浸されていない隙間(ボイド)が生じてしまう。厚み方向における平均含有数の上限は、上記混合物の浸透をより高めると共に、本発明の一方向プリプレグのランダム積層体の強度を高めやすい観点から、好ましくは8本以下、より好ましくは7本以下、さらにより好ましくは6本以下である。該厚み方向における平均含有数の下限値は、樹脂の浸透を高めやすい観点からは少ないほどよく、特に限定されないが、好ましくは1本以上、より好ましくは2本以上、さらにより好ましくは3本以上である。
【0086】
上記工程を経て開繊された強化繊維は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下の幅長の変動係数(CV)を有する。かかる変動係数の算出方法は、一方向プリプレグに含まれる開繊された強化繊維について、上記に述べたとおりである。幅長の変動係数を上記の上限以下とすることにより、本発明のプリプレグからランダム積層体を製造する際に、積層ムラが生じにくく、ランダムシートの等方性を確保しやすくなる。
【0087】
上記工程(a)に続く工程(b)において、開繊された強化繊維に、式(1):
【化10】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物とを含浸させる。
工程(b)で含浸させる、原料として使用するビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物の重量平均分子量は、それぞれ、好ましくは2000以下である。このように、低分子量であり、低粘度の原料を使用することにより、プリプレグ製造の際に開繊された強化繊維間に原料となる化合物が浸透しやすくなり、得られるプリプレグは、繊維間にボイドが含まれることなくこれらの化合物の重合物である熱可塑性樹脂が均一に含浸した状態(フル含浸)となる。
【0088】
工程(b)において、プリプレグを用いて得られる成形体の強度・剛性・耐熱性の観点から、原料として使用するビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とを、好ましくは50:50〜90:10、より好ましくは60:40〜80:20の質量比で含浸させる。質量比におけるビスフェノールA型エポキシ化合物の割合が上記の下限以上であると、プリプレグから得られる成形体の耐熱性を高めやすいために好ましい。また、質量比におけるビスフェノールA型エポキシ化合物の割合が上記の上限以下であると、開繊された強化繊維にビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とを良好な分散状態で含浸させやすいため好ましい。
【0089】
工程(b)において、上記の他に任意の添加剤を含浸させてもよい。添加剤としては、例えば有機溶媒、反応促進剤、カップリング剤、硬化剤、顔料、消泡剤、防カビ剤、劣化防止剤等が挙げられる。これらの添加剤を加える場合、その量は添加の目的等に応じて適宜変更してよい。
例えば、樹脂の重合反応を促進させるために反応促進剤を使用してもよい。現場重合型の熱可塑性樹脂の原料であるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とは、求電子置換反応により逐次的に重合する。そのため、求電子置換反応が進みやすい塩基性のリン系・アミン系の反応促進剤を使用することが好ましく、生産速度の観点から有機リン化合物を使用することが特に好ましい。
【0090】
有機リン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、1,4−ビスジフェニルホスフィノブタノン等が好適に利用される。
【0091】
上記の原料化合物の重合物の重量平均分子量を、好ましい範囲とする観点、例えば一方向プリプレグにおいて5,000〜25,000とし、さらに繊維強化熱可塑性樹脂シートにおいて、30,000以上としやすい観点からは、反応促進剤を、一方向プリプレグに含まれる上記重合物100質量部に対して2〜3質量部の量で使用することが好ましい。また、反応促進剤は、工程(b)において、原料であるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とを含む混合物と共に開繊された強化繊維に含浸させることが好ましい。
【0092】
工程(b)において現場重合型の熱可塑性樹脂の原料となるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とを含浸させる方法としては、開繊された強化繊維に上記原料をそのまま用いて含浸させてもよいし、原料と有機溶媒とを含むワニスを用いて含浸させてもよい。樹脂の粘性を低くすることで強化繊維に対する透過性を高め、強化繊維間にボイドが生じることなく含浸させやする観点から、ワニスを用いて含浸を行うことが好ましい。ワニスに含まれ得る有機溶媒としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物およびビスフェノール化合物に対する溶解性が高い有機溶媒が好ましく、DNP・NMP等の極性溶媒がより好ましく、ケトン系溶媒がさらにより好ましく、メチルエチルケトンが特に好ましい。有機溶媒の含有量は原料となる化合物の含浸性、生産性の観点から使用する原料100質量部に対して10〜20質量部とすることが好ましい。
【0093】
含浸方法は特に限定されず、吐出ダイを用いて開繊された強化繊維の上下面に現場重合型の熱可塑性樹脂の原料となる化合物またはその溶液を塗工することにより行ってもよいし、開繊された強化繊維に現場重合型の熱可塑性樹脂の原料となる化合物を含有する溶液に浸漬させて行ってもよい。ここで、上記化合物または上記化合物の溶液が含浸した強化繊維は、該化合物または該溶液の表面張力により幅方向に収縮しやすい。この収縮により、厚みの増大や、繊維の方向性の乱れ、割れの発生などが起こり得る。このような収縮を防止するために、工程(b)において、例えば塗工装置を用いることが好ましい。
【0094】
吐出ダイを使用して開繊された強化繊維の上下面に現場重合型の熱可塑性樹脂の原料となる化合物またはその溶液を塗工する場合、
図6に示す機構を用いても良い。
図6に示す機構は、開繊された強化繊維を導く導糸ローラー19と、樹脂吐出ダイ(20a、20b)と、含浸後の強化繊維を搬送する搬送ベルト22、搬送ローラー21とを備えている。
搬送ローラー21aは導糸ローラー19よりも高い位置となるように設けられている。搬送ローラー21の設置位置は高さが21a>21b>21cとなるように設けられており、原料化合物を含浸後の強化繊維はベルトに面張力を持たせた状態で搬送される。これにより、次の固化工程におけるビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物との重合の際の収縮を抑制し、開繊された強化繊維の幅精度を維持して固化させることができる。
樹脂吐出ダイ20は、開繊された強化繊維に原料化合物を塗工・含浸させるために設けられており、強化繊維の搬送路の両側に設けられた一対のダイ(20a、20b)からなる。また、一対の樹脂吐出ダイ(20a、20b)は、基材の搬送方向に対して異なる位置に設けられている。これにより、強化繊維の上下面から原料化合物を塗工することができ、強化繊維間にボイドを生じさせることなく原料化合物を透過させることができる。含浸ダイの吐出口の前後関係は基材の搬送方向に対して異なる位置に設けられていれば特に限定しない。ダイに使用されるダイヘッド及びシムの材質は金属であれば特に限定されずステンレス等が好適に利用される。
現場重合型の熱可塑性樹脂の原料となる化合物を含浸させた強化繊維は搬送ローラー
21を経て固化する工程(乾燥炉23)へ送られる。
【0095】
開繊された強化繊維を、原料化合物を含有する溶液に浸漬させる場合、原料化合物を含浸させた後、強化繊維に、ローラーによる絞りで脱液する絞り工程を施してよい。ローラーに掛ける絞り圧Pは、好ましくは0.05MPa〜0.3MPa、より好ましくは0.1MPa〜0.25MPaである。これにより、ボイド除去と含浸された化合物の量の制御を行うことができる。絞り圧が
下限以下となると、樹脂付着量が安定せず一方向プリプレグ内部にボイドが残存するため好ましくない。また、絞り圧が上限以上となると、一方向プリプレグの樹脂量を増やすことが困難となるため好ましくない。
【0096】
次いで、強化繊維に含浸させた原料化合物を固化させる。固化方法は加熱により行われる。加熱温度は、用いる強化繊維の種類や、原料化合物の溶液を用いた場合には溶媒の種類等によって適宜変更してよいが、得られる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高く原料の反応基、反応促進剤が失活しない温度域で行うことが好ましく、100〜200℃の温度域で加熱することが好ましい。加熱方法は特に限定しないが、近赤外線、遠赤外線、中赤外線による加熱方法が好適に用いられる。
この固化により、ビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物とが直鎖状に重合し、5,000〜25,000、好ましくは5,000〜20,000、より好ましくは7,000〜15,000の重量平均分子量を有する現場重合型の熱可塑性樹脂Aを含む一方向プリプレグが得られる。また、原料と有機溶媒とを含むワニスを用いて含浸させる場合、溶剤の揮発とともにビスフェノールA型エポキシ化合物とビスフェノール化合物との重合反応が進行する。
【0097】
工程(b)における当該樹脂含浸量は、好ましくは、最終的に得られる一方向プリプレグにおける強化繊維体積含有率Vfが好ましくは10〜80%、より好ましくは20〜60%、更に好ましくは35〜55%、特に好ましくは25〜45%になるように制御される。上記した範囲とすることが、本発明のプリプレグから得られる成形体の成形性の観点から好ましい。体積含有率が上限以上となると、繊維相互の交絡箇所(未含浸部)が増えてボイドレス化が困難であるため好ましくない。また、体積含有率が下限以下となると成形体の強度を確保することが困難であるため好ましくない。
【0098】
(繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、例えば次の工程:
(1)開繊された強化繊維および熱可塑性樹脂を含有するテープ状の一方向プリプレグをランダムに積層し積層物を得る工程、ここで該熱可塑性樹脂は、式(1):
【化11】
[式中、nは1〜4の整数を表す]
で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物と、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールEおよびビスフェノールPからなる群から選択されるビスフェノール化合物との重合物であり、該重合物の重量平均分子量は5,000〜25,000、好ましくは7,000〜2
0,000、より好ましくは7,000〜15,000であり、該強化繊維の一方向プリプレグの厚み方向における平均含有数は10本以下であり、一方向プリプレグあたりの繊維方向の平均長さは、10〜50mm、好ましくは10〜30mmである、及び
(2)該積層物を、100〜200℃の温度で加熱する工程
を含む製造方法により製造する事ができる。
【0099】
上記のようにして製造した一方向プリプレグを、例えば所望の大きさを有する金型にランダムに積層するように配置させ、加熱および加圧することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造することができる。ランダムに積層する方法としては、繊維強化熱可塑性樹脂シートを連続的に製造する場合、上記のようにして裁断した一方向プリプレグを高い位置から自然落下させ、スチールベルト等のコンベア上に堆積・積層させる方法や、落下経路にエアーを吹き込むか、または、邪魔板を取り付ける方法等が好適に使用される。また、バッチ式で製造する場合には、上記のようにして裁断した一方向プリプレグを容器に蓄積しておき、この容器の下面に搬送装置を取り付け、シート製造のための金型等へ分散させる方法等が好適に使用される。
【0100】
ここで、本発明の製造方法において使用する一方向プリプレグに含まれる重合物は、現場重合型の熱可塑性樹脂である。その重量平均分子量は、5,000〜25,000、好ましくは7,000〜2
0,000、より好ましくは7,000〜15,000である。重量平均分子量を上記下限以上とすることが、熱可塑性樹脂シート製造後のシート内に含まれる一方向プリプレグの形状を保持するために好ましく、上限以下とすることが、
繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造の際にボイドの残存を低減させることができるために好ましい。
一方向プリプレグをランダムに積層し積層物を得る工程では、所定の大きさ(例えば300mm角や600mm角等)を有する金型に一方向プリプレグをランダムに積層させる。この場合、得られる積層物の嵩高さは使用する一方向プリプレグの繊維方向の長さによって異なるが20〜50mm程度となり、金型面に対して略均一となることが好ましい。これにより、得られる
繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚み方向における一方向プリプレグの積層数が一定となり、機械的強度が等方性となる。
【0101】
次に、上記のようにしてランダムに積層させた一方向プリプレグの積層物を加熱することにより、熱可塑性樹脂が一体化し、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートが得られる。加熱と共に加圧を行ってもよい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する際の加熱温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは150〜180℃である。加圧を行う場合、加圧時の圧力は、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。具体的には、例えばスチールベルト等のコンベア上に堆積・積層させた一方向プリプレグの積層物を、スチールベルトごと熱ロール間に通過させ、加熱、加圧、あるいは間欠プレスする方法や、ベルトプレスにより加熱および冷却を連続して行う方法、遠赤外線ヒーターによって予熱した後、コールドプレスする方法、あるいは、加熱冷却プレスを用いるバッチ方式などが挙げられる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する際の加熱温度は、現場重合型の熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高く、原料の反応基、反応促進剤が失活しない温度域で行うことが好ましく、好ましくは100〜200℃、より好ましくは150〜180℃の温度域で加熱することが好ましい。これにより、樹脂の重合を進めながら樹脂の流動性を維持し、さらに加圧することで積層されたプリプレグ間に存在する隙間を埋めることが可能となる。この結果、得られる成形体のボイドを低減させやすくなる。
【0102】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを上記(1)および(2)の工程を含む製造方法により製造する場合、工程(1)において5,000〜25,000の比較的低い重量平均分子量を有する、現場重合型の熱可塑性樹脂を含有する一方向プリプレグを使用するため、積層物を加熱する工程(2)において、現場重合型の熱可塑性樹脂のさらなる重合が進行する。この重合は、繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる1つの一方向プリプレグ内においてのみならず、隣接する一方向プリプレグ間でも行われる。その結果、繊維強化熱可塑性樹脂シート中の一方向プリプレグは、互いにより強固に結合され、高い強度が達成される。積層物を加熱する工程において、得られる重合物の重量平均分子量が30,000以上となるまで重合させることが好ましい。
【0103】
その結果、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、上記に述べたように高い強度と成形性とを兼ね備える。これは、上記のように繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する際に樹脂が重合することに加えて、強化繊維が、一方向プリプレグあたりの厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本以下となるように開繊された状態で含まれていること、および、繊維と繊維との間の樹脂が含浸されていない隙間(ボイド)の発生が限りなく抑制されていることによると考えられる。さらに、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、一方向プリプレグあたりの厚み方向における強化繊維の平均含有数が10本以下となるように開繊された強化繊維を含んでいるため、繊維強化熱可塑性樹脂シート内で局所的に繊維配向が過多となる部分がなく、高い強度を低い変動係数で達成することが可能となる。
【0104】
<成形体>
(成形体の製造方法)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高い強度と成形性を兼ね備えると共に、強度のばらつきが少なく、様々な繊維強化プラスチック成型体を製造するための中間材料として好適に用いることができる。ここで、従来既知のプリプレグには、少なからずボイドが含まれている場合が多く、このボイドは、このようなプリプレグから製造した熱可塑性樹脂シート中にも残存する。そのため、該ボイドに起因して、成形体の十分な強度が得られなかった。また、成形体の十分な強度を達成するためには、ボイドが除去されるように高温および/または高圧、長時間のプレス成形により、ボイドを除去する必要が生じる場合があった。また、繊維配向が過多となる部分がある場合にも、繊維配向過多による影響を低減するために、高圧での成形を行う必要が生じる場合があった。しかし、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、現場重合型の熱可塑性樹脂を含み、ボイドの発生が限りなく抑制され、繊維強化熱可塑性樹脂シート内で局所的に繊維配向が過多となる部分が限りなく少ないか、存在しないため、従来よりも低温、低圧、短時間の条件でも十分な強度を有する成形体を製造することが可能である。
【0105】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いて成形体を製造する方法としては、プレス成形が挙げられる。プレス成形は、加工装置および型等を用いて、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに曲げ、剪断、圧縮等の変形を加え、成形体を製造する方法である。成形形態としては、例えば深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが挙げられる。
プレス成形の方法としては、金型を加熱させて成形した後冷却するヒート&クール法や、シートを加熱し軟化させた状態で低温の金型で成形を行うコールドプレス(スタンピング)法等を好適に使用することができる。
【0106】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートからプレス成形により成形体を製造する際の条件は、樹脂の流動性の観点からプレス温度は好ましくは150〜250℃、より好ましくは180〜220℃、プレス圧は0.1〜10MPa、プレス時間は好ましくは10秒〜10分、より好ましくは20秒〜5分である。尚、この条件は所望される成形体の厚み、形状等によって適宜変更してもよい。
【0107】
(成形体)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから製造した成形体の用途は何ら限定されないが、例えば、OA機器および携帯電話等に用いられる電気、電子機器部品、支柱および補強材等の建築材料、自動車用構造部品、航空機用部品等が挙げられる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから製造した成形体は、高い強度を少ないばらつきで有している。また、シートに限らず一方向材としての補強材等にも利用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0109】
図5に、実施例および比較例の一方向プリプレグを製造するために使用した製造装置の概略側面図を示す。該製造装置は、開繊された強化繊維の巻取パッケージ17、導糸ローラー19、樹脂吐出ダイ20、搬送ベルトガイドローラー21、搬送ベルト22、乾燥炉(重合炉)23、冷却装置24を有する。
【0110】
開繊された強化繊維に樹脂を含浸させる工程に関する装置をより詳細に説明するために、上記
図5に示した製造装置の一部の詳細を、
図6に示す。なお、
図5において、開繊された強化繊維が導糸ローラー19と接する高さと、樹脂を含浸後の強化繊維が搬送ベルト22と接する高さは同じであるが、実際には実施例および比較例の一部において、
図6に示されるように角度Aの傾斜となるように、高さを調整した。
【0111】
<重量平均分子量の測定>
樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した。具体的な測定条件は次の通りである。
後述する製造例3および4で得たプリプレグ1および2に含まれる樹脂の重量平均分子量の測定においては、各プリプレグからテトラヒドロフランを用いて樹脂を抽出し、抽出液の樹脂の濃度が1wt%となるように調整し、測定試料を得た。
実施例1〜3で得た繊維強化熱可塑性樹脂シート1〜3に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量の測定においては、各繊維強化熱可塑性樹脂シートからテトラヒドロフランを用いて熱可塑性樹脂を抽出し、抽出液の樹脂の濃度が1wt%となるように調整し、測定試料を得た。
【0112】
<平均曲げ強度および平均曲げ弾性率の測定>
平均曲げ強度および平均曲げ弾性率の測定は、ASTM D790に従い、島津製作所製万能試験機(100kNテンシロン)を用いて行った。測定試料としては、実施例および比較例で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートから、縦80mm、横35mm、厚み2mmに切り出した試験片を多数作成し、そこから10本を抜き出して使用した。10回の測定で得た結果から、平均値およびCVを算出した。
【0113】
<平均引張強度および平均引張弾性率の測定>
平均引張強度及び平均引張弾性率は、JIS K 7100に従い、島津製作所製万能試験機(オートグラフAG-100kNXplus)を用いて行った。測定試料としては、実施例および比較例で得た繊維強化熱可塑性樹脂シート、または、成形性試験2および3で得た成形体から、縦80mm、横35mm、厚み2mmに切り出した試験片を多数作成し、そこから10本を抜き出して使用した。10回の測定で得た結果から、平均値およびCVを算出した。
【0114】
<界面せん断強度の測定>
界面せん断強度は、マイクロドロップレット法により測定した。具体的には、製造例1に記載される開繊された強化繊維から
単繊維を取り出し、該単繊維を金具で固定し、そこに製造例2に記載される樹脂組成物のドロップレットを付け、単繊維に固定させるために150℃、30分の条件で加熱処理を行った。
単繊維に固定させた10個のドロップレットについて引抜試験を行った。引抜試験には、東栄産業(株)製複合材料界面特性評価装置(MODEL HM410)を使用した。試験から得られた最大引抜き荷重F、予め測定した樹脂玉の埋め込み長さ(L)、繊維径(D)から下式より界面せん断強度τを求めた。
【数4】
10回の測定で得られた結果から平均界面せん断強度を算出した。その結果、この繊維−樹脂組成物間の平均界面せん断強度は72.7[MPa]であった。
【0115】
<吸水率の測定>
吸水率の測定は、JIS K 7209に準じて行った。規格D法に則り、実施例9で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートから、厚み2mm、100mm角の試験片を3つ切り出し、50℃にて乾燥させた。乾燥は重量変化が±0.1mg程度になるまで繰り返した。これを乾燥後の試験片質量m
1とした。乾燥後の試験片を、50%RH、23℃(±1℃以内)の恒温恒湿槽に放置し、24時間後に秤量した。重量変化が±0.1mgになるまで、上記の恒温恒湿槽に放置すると共に24時間毎に秤量を行った。これを吸水後の試験片質量m
2とした。
各試験片の吸水率(吸収した水の質量百分率)cは、m
1及びm
2から下式より算出した。
【数5】
3つの試験片について同じ吸水時間で得た3つの値の算術平均値を、
繊維強化熱可塑性樹脂シートの吸水率とした。
【0116】
〔製造例1:強化繊維の開繊方法〕
強化繊維を開繊する装置は、原糸を送り出す機構、開繊された強化繊維を巻き取る機構、および炭素繊維が通るガイド、強化繊維を開繊する開繊槽、送りだし或いは巻き取り速度を制御する制御機構を備えていた。なお、原糸を送り出す機構は、トラバースを解消する装置を有していた。繊維束を巻き取り速度20m/分で通糸し、張力を0.04〜0.06g/本の条件で繊維束を解舒後に、開繊槽中の溶液に浸した状態で、繊維束に押圧をかけることにより開繊し、水分を乾燥させて、開繊された強化繊維(以下において「開繊テープ」とも称する)を得た。なお、各実施例および比較例において、所望の平均幅が得られるようにガイド幅をそれぞれ調整した。各実施例および比較例において使用した開繊された強化繊維のフィラメント数、平均幅およびその変動係数、厚み方向における強化繊維の平均含有数は各実施例に示すとおりである。開繊された強化繊維の平均幅およびその変動係数は、カメラを用いて幅を測定した。
【0117】
〔製造例2:樹脂組成物の製造〕
ナガセケムテックス社製のXNR6850を1000g(重量平均分子量200〜1,000を有する上記式(1)で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物550g、ビスフェノールA300G、および、メチルエチルケトン100gを含む)と反応促進剤(XNH6850)を80g(メチルエチルケトン27g、酢酸エチル27g、有機リン化合物24gを含む)を用意し、攪拌機を用いて均一に混合し、100〜200mPa・sの粘度を有する樹脂組成物を得た。
【0118】
〔実施例1〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(a)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ1」とも称する)は、16mmの平均幅、2.4%の幅長の変動係数(CV)、5.25本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ1を、所定の速度(4mm/分)で通糸し、製造例2で得た樹脂組成物を樹脂吐出ダイ(含浸ダイ)から吐出させ、テープに含浸させた。ここで、含浸工程における装置の設定の詳細は、
図6に示される搬送ベルトガイドローラー21の中心と下面ダイヘッド20bとの間の距離Bを20mmとし、角度Aを1°とした。含浸後の樹脂含浸テープを搬送ベルトで受け、200℃に設定した乾燥・重合炉を1分間かけて通過させ、テープ状の一方向プリプレグ1を製造した。製造したテープの長さは2000mであった。上記工程においてテープにかかる張力は300gであった。その結果、平均厚み0.071mm、平均幅15.1mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0119】
〔実施例2〕
単糸直径7μm、フィラメント数12kの炭素繊維の原糸(b)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ2」とも称する)は、16mmの平均幅、4.7%の幅長の変動係数(CV)、5.25本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ2を用い、
図6に示される距離Bを10mmとし、角度Aを2°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ2を製造した。その結果、平均厚み0.06mm、平均幅17.1mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0120】
〔実施例3〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(c)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ3」とも称する)は、13mmの平均幅、4.4%の幅長の変動係数(CV)、6.46本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ3を用い、
図6に示される距離Bを10mmとし、角度Aを2°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ3を製造した。その結果、平均厚み0.10mm、平均幅14.1mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0121】
〔実施例4〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(d)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ4」とも称する)は、13mmの平均幅、4.1%の幅長の変動係数(CV)、6.46本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ4を用い、
図6に示される距離Bを20mmとし、角度Aを1°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ4を製造した。その結果、平均厚み0.10mm、平均幅13.2mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0122】
〔実施例5〕
単糸直径7μm、フィランメント数60kの炭素繊維の原糸(e)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ5」とも称する)は、80mmの平均幅、3.8%の幅長の変動係数(CV)、5.25本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ5を用い、テープにかかる張力を1000gとし、
図6に示される距離Bを20mmとし、角度Aを1°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ5を製造した。その結果、平均厚み0.072mm、平均幅78mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0123】
〔実施例6〕
単糸直径7μm、フィランメント数15kの炭素繊維の原糸(f)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ6」とも称する)は、17mmの平均幅、1.6%の幅長の変動係数(CV)、6.2本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ6を用い、
図6に示される距離Bを20mmとし、角度Aを1°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ6を製造した。その結果、平均厚み0.075mm、平均幅15mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0124】
〔実施例7〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(g)を、製造例1の方法に従い開繊した。なお、開繊工程において、拘束剤として変性ポリオレフィン樹脂を炭素繊維の重量に対して0.4%の量で付着させた。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ7」とも称する)は、17mmの平均幅、1.6%の幅長の変動係数(CV)、6.2本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ7を用い、
図6に示される距離Bを20mmとし、角度Aを1°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ7を製造した。その結果、平均厚み0.095mm、平均幅13mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、両面の樹脂付着性が良好であった。
【0125】
〔比較例1〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(h)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ8」とも称する)は、16mmの平均幅、6.4%の幅長の変動係数(CV)、5.25本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ8を用い、
図6に示される距離Bを70mmとし、角度Aを10°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ8を製造した。一方向プリプレグ8を製造時、強化繊維の幅方向への収縮が見られた。その結果、平均厚み0.17mm、平均幅7.1mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、幅が収縮した。
【0126】
〔比較例2〕
単糸直径7μm、フィランメント数12kの炭素繊維の原糸(i)を、製造例1の方法に従い開繊した。開繊された炭素繊維(以下、「開繊テープ9」とも称する)は、16mmの平均幅、7.2%の幅長の変動係数(CV)、5.25本の厚み方向における強化繊維の平均含有数を有していた。開繊テープ9を用い、
図6に示される距離Bを100mmとし、角度Aを0°としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の一方向プリプレグ9を製造した。その結果、平均厚み0.3mm、平均幅5mm、繊維体積含有量(Vf)40%(付着量精度±2%)のプリプレグを得た。得られたプリプレグは、幅が収縮し、棒状になった。
【0127】
上記のようにして得た一方向プリプレグ1〜9について、上記または下記の測定方法に従い、一方向プリプレグに含まれる樹脂の重量平均分子量、一方向プリプレグの厚み方向における強化繊維の平均含有数およびその変動係数(CV値)、幅方向における前記強化繊維の平均含有密度、平均厚み、平均幅、繊維体積含有率を測定した。また、樹脂の付着性を下記の評価方法に従い評価した。得られた結果を表1に示す。
【0128】
一方向プリプレグの厚み方向における強化繊維の含有数は、得られたプリプレグを厚み方向に切断し、その断面を電子顕微鏡を用いて100〜1000倍に拡大して観察し、得られた画像において厚み方向に存在する繊維の本数を数えることにより測定した。上記測定を5箇所について行い、その平均値を厚み方向における強化繊維の平均含有数とした。また、上記含有数の測定結果から標準偏差を算出し、変動係数(CV値)を算出した。
【0129】
一方向プリプレグの幅方向における強化繊維の平均含有密度は、上記のようにして測定した厚み方向における強化繊維の平均含有数と、各実施例および比較例で使用した炭素繊維の単糸直径から、上記式(2)に従い算出した。
【0130】
平均厚みは、一方向プリプレグの厚みを厚み計を用いて1m毎において測定し、その平均値を算出して得た。
【0131】
平均幅は、一方向プリプレグの幅をカメラを用いて繊維方向に対して少なくとも50cm毎において測定し、その平均値を算出して得た。
【0132】
繊維体積含有量を、1mあたりのプリプレグの重量から測定したところ、繊維体積含有量は、いずれの実施例および比較例においても40%であった。また、付着量精度はいずれの実施例および比較例においても±2%であった。
【0133】
樹脂付着性は、得られた一方向プリプレグの両面について、繊維が剥き出しになった部分(擦れ)の有無を次の基準に従い評価した。
樹脂付着性の評価基準
A:繊維が剥き出しになった部分が全くない
B:繊維が剥き出しになった部分がほぼない
C:繊維が剥き出しになった部分がやや多い
D:繊維が剥き出しになった部分が非常に多い
【0134】
【表1】
【0135】
また、上記のようにして得た一方向プリプレグ1〜9について、下記の測定方法に従い、一方向プリプレグの一方向性を評価した。さらに、一方向プリプレグに含まれる強化繊維の本数をm(本)とし、厚み方向の平均含有数をn(本)とし、一方向プリプレグの平均幅長をp(mm)とし、強化繊維の単糸直径をq(mm)とし、式:{(m/n)/p}/(1/q)から値Xを算出した。得られた結果を表2に示す。
【0136】
一方向性の評価は、得られた一方向プリプレグの両切断端部のそれぞれにおいて幅長の中点を求め、一方の端部の中点と、他方の端部の中点とを結び、この線を基準線とし、当該基準線から片側のプリプレグについて、その幅方向の長さ(幅長の約半分となる長さ、以下において「半分幅」とも称する)を、繊維方向に沿って10箇所測定して行った。10箇所について得た半分幅の平均値と、標準偏差から変動係数を算出した。
【0137】
【表2】
【0138】
〔実施例8〕
実施例1で得たテープを、繊維方向の長さが20mmとなるようにカットした。このようにして得た一方向プリプレグを、300mm角の金型内に繊維方向がばらばらになるように散布した後、金型を、加圧せずに150℃で10分間加熱し、一方向プリプレグに含まれる樹脂を重合させた。その後、150℃を維持しながら、4MPaで20分間加圧し、その後80℃以下まで降温させて脱型した。このようにして、2mmの平均厚みを有する、300mm角の一方向プリプレグの繊維強化熱可塑性樹脂シート1(一方向プリプレグのランダム積層体である非連続繊維等方性シート)を製造した。
【0139】
〔実施例9〕
製造例1で得たテープを、繊維方向の長さが15mmとなるようにカットした。このようにして得た一方向プリプレグを、600mm角の金型内に繊維方向がばらばらになるようにランダムに散布した後、金型を、加圧せずに150℃で10分間加熱し、一方向プリプレグに含まれる樹脂を重合させた。その後、150℃を維持しながら、4MPaで20分間加圧し、その後80℃以下まで降温させて脱型した。このようにして、2mmの平均厚みを有する、600mm角の繊維強化熱可塑性樹脂シート2(一方向プリプレグのランダム積層体である非連続繊維等方性シート)を製造した。
【0140】
〔実施例10〕
製造例1で得たテープを、繊維方向の長さが25mmとなるようにカットした。このようにして得た一方向プリプレグを用いたこと以外は実施例9と同様にして、2mmの平均厚みを有する、繊維強化熱可塑性樹脂シート3(一方向プリプレグのランダム積層体である非連続繊維等方性シート)を製造した。
【0141】
〔実施例11〕
実施例3で得たテープを用いたこと以外は実施例8と同様にして、繊維強化熱可塑性樹脂シート4を製造した。
【0142】
〔実施例12〕
製造例3で得たテープを、繊維方向の長さが28mmとなるようにカットした。このようにして得た一方向プリプレグを用いたこと以外は実施例1と同様にして、2mmの平均厚みを有する、600mm角の繊維強化熱可塑性樹脂シート5(一方向プリプレグのランダム積層体である非連続繊維等方性シート)を製造した。
【0143】
〔実施例13〕
実施例6で得たテープを用いたこと以外は実施例8と同様にして、繊維強化熱可塑性樹脂シート6を製造した。
【0144】
〔実施例14〕
実施例7で得たテープを用いたこと以外は実施例8と同様にして、繊維強化熱可塑性樹脂シート7を製造した。
【0145】
〔比較例3〕
比較例1で得たテープを用いたこと以外は実施例8と同様にして、繊維強化熱可塑性樹脂シート8製造した。
【0146】
〔比較例4〕
比較例2で得たテープを用いたこと以外は実施例8と同様にして、繊維強化熱可塑性樹脂シート9を製造した。
【0147】
〔比較例5〕
製造例1で得られたテープを改めて150℃・20minで加熱することにより、一方向プリプレグに含まれる重合物のさらなる重合を進め、重量平均分子量が80,000の重合物を含む一方向プリプレグを得た。このプリプレグを繊維方向の長さが28mmとなるようにカットした。このようにして得た一方向プリプレグを、300mm角の金型内に繊維方向がばらばらになるようにランダムに散布した後、金型を、加圧せずに200℃で10分間加熱し、その後、200℃を維持しながら、5MPaで20分間加圧し、その後80℃以下まで降温させて脱型した。このようにして2mmの平均厚みを有する、300mm角の繊維強化熱可塑性樹脂シート10(一方向プリプレグのランダム積層体である非連続繊維等方性シート)を製造した。
【0148】
上記のようにして得たランダム積層体1〜10について、上記または下記の測定方法に従い、樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量(Mw)、平均曲げ強度および平均曲げ弾性率を測定した。また、断面性状を下記の評価方法に従い評価した。得られた結果を表3に示す。
【0149】
平均曲げ強度および平均曲げ弾性率の測定は、ASTM D790に従い、島津製作所製万能試験機(100kNテンシロン)を用いて行った。測定試料としては、各実施例および比較例で得たランダム積層体を、縦80mm、横35mm、厚み2mmに切り出した試験片を多数作成し、そこから10本を抜き出して使用した。10回の測定で得た結果から、平均値およびCVを算出した。
【0150】
断面性状は、得られたランダム積層体を厚み方向に切断した断面を、電子顕微鏡により観察し、樹脂の偏りの有無を次の基準に従い評価した。
断面性状の評価基準
A:樹脂の偏りが全くない
B:樹脂の偏りがほぼない
C:樹脂の偏りがやや多い
D:樹脂の偏りが非常に多い
【0151】
【表3】
【0152】
上記実施例および比較例で得た繊維強化熱樹脂シートについて、上記測定方法に従い、各樹脂シートに含まれる熱可塑性樹脂のゲル分率、強化繊維の一方向プリプレグあたりの厚み方向における平均含有数、幅方向における平均含有密度、繊維方向の長さ、単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数、ならびに、樹脂シートのボイド率を測定した。結果を表4に示す。
【0153】
繊維強化熱可塑性樹脂シートの、一方向プリプレグあたりの厚み方向における強化繊維の平均含有数は、繊維強化熱可塑性樹脂シートを厚み方向に切断し、その断面を電子顕微鏡を用いて100〜1000倍に拡大して観察し、得られた画像において厚み方向に存在する繊維の本数を数えることにより測定した。上記測定を5箇所について行い、その平均値を厚み方向における強化繊維の平均含有数とした。また、上記含有数の測定結果から標準偏差を算出し、変動係数(CV値)を算出した。
【0154】
繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける一方向プリプレグの繊維方向の長さは、ノギスにより測定した。
【0155】
繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける前記一方向プリプレグの層数は、繊維強化熱可塑性樹脂シートを厚み方向に切断し、その断面を電子顕微鏡を用いて100〜1000倍に拡大して観察し、得られた画像から目視により測定した。繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚みはマイクロメーターを用いて測定した。上記測定をそれぞれ3箇所について行い、総数を厚みで除し、その平均値を繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける単位厚みあたりの一方向プリプレグの層数とした。
【0156】
【表4】
【0157】
また、実施例9で得た繊維強化熱
可塑性樹脂シートについて、上記測定方法に従い平均引張強度および平均引張弾性率、引張強度の変動係数ならびに吸水率を測定した結果、平均引張強度が266MPa(CV9.5%)、平均引張弾性率が30.6GPaであり、吸水率が0.18%であった。
【0158】
<成形性試験1>
実施例9および比較例5で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートを500×200mm角にカットし、遠赤外線ヒーターで190℃および200℃で加熱した。加熱後、樹脂シートを金型(オープン構造)へ搬送し、常温(10℃程度)の金型を用い、10MPaのプレス圧で20秒間プレスした。プレスは、クランクプレス仕様のプレス機、および、自動車のBピラーで使用される金型(
図7(金型を凸面側から見た図)および
図8(金型を斜めから見た図)参照)を使用して行った。実施例で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートについては、何れのサンプルにおいても、加熱温度が異なっていても、樹脂引け等がなく、非常にきれいな転写性のある成形品が得られた。比較例5で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートについては、表面転写性が悪く表面にヒケが多く見られた。
【0159】
<成形性試験2:ヒート&クール成形>
実施例10で得た繊維強化熱可塑性樹脂シート2を450×350mm角にカットし、150℃に加熱後、180℃に加熱した金型(オープン構造)へ搬送し、4MPaのプレス圧で1分間プレスした。金型を冷却後、脱型させ成形品を得た。金型として、タイヤハウスで使用されている金型(
図9参照)を使用した。
得られた成形品について、曲げ強度及び曲げ弾性率の測定を行った。縦80mm、横35mm、厚み2mmに切り出して試験片を多数作成し、そこから10本を抜き出して使用した。10回の測定で得た結果から、平均値およびCVを算出した。平均曲げ強度は453MPa(CV16.7%)、平均弾性率は24.4GPaであった。
【0160】
<成形性試験3:スタンピング成形>
実施例12で得た繊維強化熱可塑性樹脂シート3を450×350mm角にカットし、240℃に加熱後、70℃に加熱した金型(オープン構造)へ搬送し、20MPaのプレス圧で1分間プレスした。プレス後、金型から脱型させ成形品を得た。金型として、タイヤハウスで使用されている金型(図
9参照)を使用した。
得られた成形品について、曲げ強度及び曲げ弾性率の測定を行った。縦80mm、横35mm、厚み2mmに切り出して試験片を多数作成し、そこから10本を抜き出して使用した。10回の測定で得た結果から、平均値およびCVを算出した。平均曲げ強度は455MPa(CV17.7%)、平均弾性率は26.1GPaであった。
【0161】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、プリプレグの繊維長を変化させても大きな物性の低下がなく、高い物性を維持していることが示された。また、成形性
試験1〜3のいずれの方法においても、成形性が良好であった。さらに、ヒート&クール成形及びスタンピング成形の何れの成形方法においても、得られた成形品の物性を測定した結果、高い平均曲げ強度および平均弾性率を有し、また、平均曲げ強度のばらつきも少ないことが確認された。これらの結果から、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高い強度と成形性とを兼ね備え、強度のばらつきが少ないこと、さらに、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの上記特徴が、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートから製造した成形品においても維持されていることが確認された。