特許第6895710号(P6895710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6895710クラッチ、特に自動車用クラッチのモデルパラメータを補正する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895710
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】クラッチ、特に自動車用クラッチのモデルパラメータを補正する方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20210621BHJP
【FI】
   F16D48/02 640J
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-222072(P2015-222072)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-95027(P2016-95027A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2018年11月9日
(31)【優先権主張番号】10 2014 223 102.7
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン エーバーレ
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−243630(JP,A)
【文献】 特開平05−133457(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0053801(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0332038(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103453039(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00
F16D 48/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ、特に自動車用クラッチ、のモデルパラメータを補正する方法であって、
前記モデルパラメータはクラッチの接触点であり、内燃機関のエンジントルクと、前記クラッチの接触点とクラッチトルクとの間の特性を表すクラッチ特性曲線から求められたクラッチトルクとが、クラッチの動作中に定期的に比較され、前記エンジントルクと前記クラッチトルクとの間でずれが発生した場合に、前記クラッチの接触点の補正が行われる方法において、
前記ずれがエラー許容範囲外にあるときにだけ、モデルパラメータの補正が実施されるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
クラッチ、特に自動車用クラッチのモデルパラメータを補正する方法であって、
前記モデルパラメータは摩擦係数であり、内燃機関のエンジントルクと、前記摩擦係数とクラッチトルクとの間の特性を表すクラッチ特性曲線から求められたクラッチトルクとが、クラッチの動作中に定期的に比較され、前記エンジントルクと前記クラッチトルクとの間でずれが発生した場合に、前記摩擦係数の補正が行われる方法において、
前記ずれがエラー許容範囲外にあるときにだけ、前記摩擦係数が実際の摩擦係数に補正されるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記クラッチは、閉じられた状態から開かれた状態へ移行され、クラッチがスリップ状態へ移行する時点のずれが求められる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記クラッチは、前記ずれがエラー許容範囲内にある場合には、直ちに再び閉じられる、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ずれは、動的なエンジントルクと前記クラッチトルクとが減じられる、前記内燃機関のエンジントルクから定められる、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記クラッチは、前記クラッチの接触点または前記摩擦係数の補正のためにスリップ状態に移行される、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ、特に自動車用クラッチのモデルパラメータを補正する方法であって、内燃機関のエンジントルクと、クラッチモデルから定められたクラッチトルクとが、クラッチの動作中に定期的に比較され、前記エンジントルクと前記クラッチトルクとの間でずれが発生した場合に、前記モデルパラメータの補正が行われる方法に関している。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第102010024941号明細書からは、2つのサブドライブトレーンを備え、前記各サブドライブトレーンが、それぞれ1つのクラッチを用いて内燃機関に連結される、ツインクラッチ式変速機の制御方法が開示されている。ツインクラッチ式の変速機を含む車両の走行中には、クラッチのモデルパラメータとして、クラッチの接触点が、エンジントルクに依存することなく求められる。この接触点は、この場合車両の運転開始中に検出され、車両の動作中に適合化される。
【0003】
快適性の要求を満たすためには、クラッチはできる限り正確に駆動制御されなければならない。クラッチの時間的に変動する特性のために、このことは、定期的に適応化されるモデルパラメータによって作り出される適応化されたクラッチモデルを介して行われる。
【0004】
接触点の他にも、摩擦係数が、クラッチモデルのモデルパラメータとして考慮される。但しこの摩擦係数は、十分に大きくてかつ確実に識別が可能でかつ安定した制御が可能なクラッチスリップが提供される場合にのみ適応化可能である。しかしながらそのようなクラッチスリップは、摩擦によるエネルギー損失も引き起こす。
【0005】
モデルパラメータが頻繁に適応化されればされるほど、クラッチモデルが実際のクラッチの時間変化を追従することと、クラッチモデルと実際のクラッチとの間のずれ(ないし差異)を表すモデルエラーが低く抑えられることとが良好に保証される。そのようなモデルエラーが検出されると、実際のクラッチは、クラッチモデルのモデルパラメータの適応化のために適切なスリップ状況を可及的に迅速に受け取ることが保証される。但しそのときには、頻繁なスリップ状況の発生のもとで、多大なエネルギー損失もクラッチに生じ、望ましくない欠点となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、クラッチがスリップしているときのクラッチ状態によるエネルギー損失がより低減される、クラッチのモデルパラメータを補正する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は本発明により、前記ずれがエラー許容範囲外にあるときにだけ、モデルパラメータの補正が実施されるようにして解決される。
【0008】
モデルエラーとも称されるずれの識別は、モデルパラメータの補正よりも時間的に著しく迅速に進むので、極僅かしか存在していないずれの場合の補正は回避され、それによって長く続くようなスリップ状態は阻止される。それにより、一方では走行快適性の要求からのモデル精度は保証され、他方ではエネルギーが集中する適応化状況は省かれるという妥協が得られる。
【0009】
好適には、クラッチは、閉じられた状態から開かれた状態へ移行され、クラッチがスリップ状態へ移行する時点のずれが求められる。それにより、モデルエラーの識別のために最低限必要なスリップ量だけが許容され、それに伴うエネルギー損失しか生じなくなる。このモデルエラー識別の際に生じるエネルギー損失は無視できる程度である。
【0010】
本発明の一実施例によれば、前記クラッチは、前記ずれが許容範囲内にある場合には、速やかに再び閉じられる。それにより、スリップ状態が直ぐに終了し、クラッチの通常動作が継続される。
【0011】
本発明の別の実施例によれば、前記ずれは、動的なエンジントルクと、クラッチモデルのクラッチトルクとが減じられる内燃機関のエンジントルクから定められる。それにより、モデルエラーが、実際のクラッチで起きている現下の条件から非常に簡単かつ迅速に求められる。
【0012】
本発明の変化実施例によれば、前記クラッチは、モデルパラメータの補正のために、スリップ状態に移行される。但しこの移行は、モデルエラーが、エラー許容範囲外にあるときにしか行われないので、クラッチがスリップし続ける状態になるようなクラッチ状態は低減される。それにより、摩擦によって失われるエネルギー損失も減少し、クラッチ加熱も低減される。
【0013】
別の実施形態によれば、前記モデルパラメータとして摩擦係数が観察される。この摩擦係数は、接触点以外に、クラッチモデルの特徴的な特性量を表すものであり、クラッチが適正に閉じられていることを示す。
【0014】
本発明によれば、数多くの実施形態が可能である。以下ではそのうちの1つを、図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による方法の実施例を説明するための図
図2】本発明による別の実施例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
自動車においては、クラッチを制御するためのクラッチ特性曲線の形態の複数のクラッチモデルが使用されている。自動化されたクラッチの適用分野では、クラッチトルクの正確な知識ないし情報は、自動車におけるシフトチェンジ品質や発進品質にとって不可欠なものである。なかでもクラッチモデルの予測性は、特に重要性を帯び大いに着目される。なぜなら、そのようなクラッチモデルに基づいてクラッチの制御が行われているからである。このクラッチモデルは、典型的には、接触点や摩擦係数などのモデルパラメータによってパラメータ化され、適応化される。
【0017】
図1には、本発明による方法の一実施例が示されており、ここではトルク線図A、回転数線図B、及びスリップ損失線図Cが時間軸に亘って示されている。クラッチモデルから定められたクラッチトルクbと、自動車の内燃機関の現下のエンジントルクとの間のずれないし差異の形態のモデルエラーを検出するために、閉じられているクラッチが、スリップを引き起こすように緩慢に開かれる。その際のクラッチトルクbは、エンジントルクaに対して相対的に低下する。前記クラッチの回転数eに基づき、クラッチがスリップ状態であることが検出されると、モデルエラーが算出される。このモデルエラーは次のような差分から生じている。すなわち、内燃機関のエンジントルクaから、動的なエンジントルクと、クラッチモデルのクラッチトルクbとを減じた差分である。そのようにして検出されたモデルエラーは、エラー許容範囲cと比較される。このモデルエラーが、エラー許容範囲c内にあれば、クラッチは直ちに再び閉じられ、それによってクラッチ上流側の回転数f(エンジン回転数)は、クラッチ下流側の回転数e(変速機入力側回転数)と同じになる。ここでは、十分に大きなモデルエラーの有無しか検査されないので、可及的に小さなスリップ状態が可及的に短い期間しか発生せず、これは結果として、クラッチの摩擦によるエネルギー損失が極僅かしか発生しないことにつながる。
【0018】
図1には、比較のために、従来技法による方法も示されている。ここでは基本的に、発生したモデルエラー毎に、大きなエネルギー損失を伴うスリップ位相が、モデルパラメータの適合化のために実現されている。
【0019】
図2には、摩擦係数の算出に基づく本発明による方法の一実施例が示されている。そのためここでは、線図A(トルク)、線図B(回転数)、及び線図C(スリップ損失)の他に、さらに線図Dが示されており、この線図Dでは、摩擦係数の変化が時間軸に亘って観察されている。
【0020】
予め定められた位相I,II,III内では、クラッチモデルから推定されるクラッチトルクbが、内燃機関のエンジントルクaからどの程度ずれているかが検査される。位相Iでは、モデルエラーは、エラー許容範囲c内にあり、それ故クラッチモデルの基礎をなす摩擦係数は、不変のまま維持される。位相IIでも、推定されるクラッチトルクbと、内燃機関のエンジントルクaとの間の差分が再び検査される。ここでもずれは、許容範囲c内にあるため、摩擦係数の補正は何も行われない。摩擦係数に変化が現れる位相IIIでは、モデルエラーが許容範囲c外にあることが検出される。このケースでは、クラッチにおいてスリップが発生し、クラッチ上流側の回転数f、すなわち内燃機関の回転数が、クラッチ下流側の回転数e(すなわち変速機入力側回転数)よりも高くなり、一定の値まで進行する。このスリップ状況の範囲内では、大きなスリップ損失も発生する。この位相内では摩擦係数が、クラッチの実際の摩擦係数に適応化され、さらにクラッチモデルも適応化される。
【0021】
前述の解決手段は、相応に大きなモデルエラーが存在している場合にしか、モデルパラメータの適応化を許可しない。つまりクラッチにおいて顕著なスリップ量を提供するのは、クラッチモデルを補正する目的のためだけである。
【符号の説明】
【0022】
a エンジントルク
b クラッチトルク
c エラー許容範囲
e 変速機入力側回転数
f エンジン回転数
図1
図2