(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属は、機械的強度、加工性、導電性や熱伝導性といった物理特性に優れるため、構造材料、導電材料、電極材料、放熱材料等として広く用いられている。一方で、金属の中には大気下での使用により、大気にさらされた金属表面に酸化物層を形成したり、硫黄化合物を含む雰囲気下での使用により硫化物を生じたりすることにより、本来金属に期待される性能が発揮できなくなる金属も存在する。
【0003】
例えば、銅は、耐熱性、加工性、及び熱伝導性に優れるため流体の配管材料として用いられている。この用途においては、流体が腐食性である場合、流体に腐食性の成分が含まれる場合等には、銅の腐食が問題となる。
【0004】
また、金属は、電子デバイスの電極材料としても用いられる。例えば、銀及び銅は、導電性に優れるため、電子デバイスの電極材料として広く利用されている。しかし、銀及び銅は、貴金属である金と比較して耐腐食性が低い問題がある。この問題は、車載用途等の、高温環境下又は排ガス中に含まれる硫黄化合物による腐食性環境下においてより顕著となる。
【0005】
上記のような金属の腐食を防止するため、金属の表面に腐食防止膜のコーティングが行われることがある。
【0006】
例えば、銅又は銀の保護のため、SiO
2をはじめとした無機膜を、金属上に形成する技術が知られており、非特許文献1では、スパッタリング法、CVD法等の方法で、金属表面にSiO
2膜等の無機膜を堆積させることにより、金属表面に耐腐食性を付与している。
【0007】
しかし、非特許文献2が開示するように、銅及び銀等の金属は、SiN及びSiO
2等の無機膜中において拡散し輸送されることが知られており、拡散により金属が無機膜の表面に輸送された場合には、腐食を生じる恐れがある。
【0008】
特許文献1では、銅、銀等の金属の無機膜中での拡散を防ぐために、シリサイドを拡散防止層として使用する技術が開示されている。この技術によれば、無機膜中への金属の拡散を防ぐことが可能であるため、金属に対して耐腐食性の付与が可能である。
【0009】
前記のような金属の拡散防止を目的とした、金属シリサイド膜を形成する手法も知られている。特許文献2では、金属を形成した基材を加熱し、シランガス等の反応性雰囲気下に置くことで、金属表面に金属シリサイドを形成する技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献3では、銅シリサイド膜を保護層として用いることで、銅配線の信頼性を高める技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1の方法では、拡散により金属が無機膜の表面に輸送された場合には、腐食を生じるため、金属に対して十分な耐腐食性の付与ができない。
【0014】
特許文献1の方法では、真空を用いるためコストが掛かる。
【0015】
特許文献2及び特許文献3の方法では、シランガス等の自己発火性の気体用いるため、安全対策を十分に施した生産設備及び反応チャンバーを用いる必要があり、コストが掛かる。
【0016】
本発明は、簡易かつ高生産性のプロセスによって、金属表面に金属化合物膜を形成することができる、金属化合物膜の新規な製造方法及びそのような金属化合物膜を含む積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題に対して、本件の発明者らは下記の態様を有する本発明を見出した。
【0018】
《態様1》
金属層又は金属基材に、粒子膜を形成すること、及び
前記粒子膜を有する金属層又は金属基材を焼成して、前記粒子膜と前記金属層又は金属基材とを反応させて金属化合物膜を形成すること
を含み、
前記粒子膜を構成する粒子が、炭素粒子、シリコン粒子、ゲルマニウム粒子及びこれらの混合物からなる群より選択される、
金属化合物膜の製造方法。
《態様2》
前記金属化合物膜を形成した後に、前記粒子膜の未反応部分を除去することをさらに含む、態様1に記載の方法。
《態様3》
前記焼成を200℃以上で行う、態様1又は2に記載の方法。
《態様4》
前記粒子膜の厚みが3nm以上である、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
《態様5》
前記粒子膜が、前記粒子を少なくとも含む粒子分散体を用いて形成される、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
《態様6》
前記粒子分散体が、バインダーをさらに含む、態様5に記載の方法。
《態様7》
金属層又は金属基材、前記金属層又は金属基材上の金属化合物膜、及び前記金属化合物膜上の粒子膜を少なくとも含む積層体であって、
前記金属層又は金属基材、前記金属化合物膜、及び前記粒子膜はこの順で互いに接触しており、
前記粒子膜を構成する粒子が、炭素粒子、シリコン粒子、ゲルマニウム粒子及びこれらの混合物からなる群より選択され、かつ
前記金属化合物膜が、前記金属層又は金属基材の金属と、前記粒子膜を構成する粒子の元素との金属化合物の膜である、
積層体。
《態様8》
2重量%の濃度で調製された硫黄のトルエン溶液に2分間浸漬した際に、前記金属化合物膜が接触している前記金属層又は金属基材に、腐食が生じない、態様7に記載の積層体。
《態様9》
前記粒子膜を構成する粒子が、シリコン粒子である、態様7又は8に記載の積層体。
《態様10》
前記シリコン粒子の平均一次粒径が、1〜100nmである、態様7〜9のいずれか一項に記載の積層体。
《態様11》
前記シリコン粒子が、ホウ素をドーパントとして含有している、態様9又は10に記載の積層体。
《態様12》
前記ホウ素が、1×10
18atoms/cm
3以上の濃度で含まれる、態様11に記載の積層体。
《態様13》
前記金属層又は金属基材の金属が、銅又は銀である、態様7〜12のいずれか一項に記載の積層体。
《態様14》
前記金属層又は金属基材の金属が、銅である、態様13に記載の積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易かつ高生産性のプロセスによって、金属表面に金属化合物膜を形成することができる、金属化合物膜の新規な製造方法及びそのような金属化合物膜を含む積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《金属化合物膜の製造方法》
本発明の金属化合物膜の製造方法は、金属層又は金属基材に、粒子膜を形成すること、及びその粒子膜を有する金属層又は金属基材を焼成して、粒子膜と金属層又は金属基材とを反応させて金属化合物膜を形成することを含み、ここで粒子膜を構成する粒子は、炭素粒子、シリコン粒子、ゲルマニウム粒子及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0022】
本発明の方法の1つの実施態様について、
図1を参照して下記で説明する。
【0023】
図1(a)に示すように金属層又は金属基材(1)を提供する。そして、
図1(b)に示すように粒子分散体を基材に適用して、粒子膜(2)を金属層又は金属基材(1)上へ形成する。
【0024】
次に、粒子膜(2)を形成した金属層又は金属基材を焼成することにより、粒子膜と金属層又は金属基材とを反応させて、金属化合物膜(3)が形成された積層体を得る。
【0025】
〈粒子膜の形成〉
粒子膜は、例えば、粒子分散体を用いて形成される。粒子分散体を用いて、粒子膜を金属層又は金属基材上に形成する手段としては、例えば、スクリーン印刷、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等が挙げられるが、これらに限定されない任意の方法で行うことができる。例えば、予め別の基材上に作製した粒子膜を、金属層又は金属基材上に転写するラミネート法を用いてもよい。
【0026】
粒子膜の膜厚は、任意の厚さを選択することができる。膜厚は、粒子分散体の組成、塗布条件、塗布方法等によって様々であってよく、例えば0.01μm以上、0.1μm以上、1.0μm以上、5.0μm以上又は10μm以上であってもよく、100μm以下、50μm以下、30μm以下、10μm以下、5μm以下、又は1μm以下であってもよい。
【0027】
粒子膜の形成後に、粒子膜に含まれる分散媒等を除去することができる。粒子膜から分散媒等を除去する手段としては、特に限定されないが、オーブン、ホットプレート、赤外線等を用いることができる。
【0028】
粒子膜に含まれる分散媒を除去する際に、好ましくは30℃〜300℃、より好ましくは50℃〜200℃、さらに好ましくは60℃〜100℃で加熱を行うことができる。分散媒を実質的に除去できるのであれば、加熱時間は1秒であってもよく、10秒間以上、1分間以上、10分以上、又は1時間以上であってもよく、数時間以下が好ましい。また、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0029】
〈粒子膜の焼成〉
次に、粒子膜を形成した金属層又は金属基材を焼成して、粒子膜と金属層又は金属基材とを反応させて金属化合物膜を形成する。
【0030】
焼成の手段としては、特に限定されないが、オーブン、ホットプレート、赤外線等を用いることができる。
【0031】
十分な焼成が可能であれば、焼成時間は1秒であってもよく、10秒間以上、1分間以上、10分以上、又は1時間以上であってもよく、数時間以下が好ましい。
【0032】
焼成時の雰囲気は、金属層又は金属基材、及び金属化合物膜に損傷を与えない限りは、特に限定されず、大気中で焼成してもよく、真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼成してもよい。
【0033】
焼成は、100℃以上、200℃以上、300℃以上、500℃以上、700℃以上、1000℃以上で行うことができ、1500℃以下、1000℃以下、700℃以下、500℃以下、300℃以下、200℃以下、もしくは100℃以下で行うことができる。上記温度範囲であれば、金属層又は金属基材等への損傷を抑えることができ、かつ金属化合物膜を形成することができる傾向にある。
【0034】
焼成の温度は、金属化合物膜が所望の組成、結晶構造、及び/又は結晶性を有するように選択することができる。
【0035】
〈粒子膜の除去〉
本発明の方法は、焼成工程の後で、粒子膜の未反応部分を除去することを更に含んでもよい。
【0036】
粒子膜の未反応部分を除去する手段としては、例えば、研磨法、化学機械研磨法、溶剤への溶解法、粒子を分散する薬剤への浸漬等を挙げることができる。
【0037】
〈金属化合物膜〉
本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜は、金属元素と、炭素、シリコン、及び/又はゲルマニウムとを少なくとも含む化合物の膜である。
【0038】
本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜を構成する化合物としては、その金属の耐腐食性を向上できる化合物を用いることができる。
【0039】
特に、本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜を構成する化合物は、室温大気中において実質的に酸化されない化合物、及び/又は室温で硫黄2%トルエン溶液中に2分間浸漬した場合において硫化物を実質的に生じない化合物であることができる。
【0040】
例えば、本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜を構成する化合物としては、銅シリサイド、銀シリサイド、クロムシリサイド、鉛シリサイド、錫シリサイド、鉄シリサイド、銀−ゲルマニウム合金、炭化銀等を用いることができ、銅シリサイド、銀シリサイドを好ましく用いることができ、銅シリサイドを特に好ましく用いることができる。
【0041】
本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜を構成する化合物は、金属に対して耐腐食性を付与する観点から、金属層又は金属基材の表面のうち少なくとも耐腐食性の付与を意図した部分において連続的な膜を形成することができる。また、連続的な膜を形成した部位において、金属層又は金属基材に対し室温大気中において酸化を生じることがなく、かつ/又は室温の2%トルエン溶液中に2分間浸漬した場合において硫化物を生じない膜であることが好ましい。
【0042】
本発明の方法によって得ることができる金属化合物膜の膜厚は、金属層又は金属基材に対し十分な耐腐食性を付与する観点から、1nm以上、2nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、500nm以上、又は1000nm以上とすることができ、50μm以下、10μm以下、5μm以下、1μm以下、500nm以下、300nm以下、又は100nm以下とすることができる。
【0043】
〈粒子〉
本発明で用いられる粒子膜を構成する粒子としては、炭素粒子、シリコン粒子、ゲルマニウム粒子及びこれらの混合物を選択できる。粒子膜は、本発明の効果が得られる範囲内で、粒子以外の他の成分を含んでいてもよく、これらの粒子以外の粒子を併用して形成されていてもよい。炭素粒子、シリコン粒子、及びゲルマニウム粒子は、金属層又は金属基材と反応して、金属化合物膜を形成できる範囲で、それぞれ炭素、シリコン、及びゲルマニウム以外の物質を含んでいてもよく、実質的にそれらの元素のみから構成されていてもよい。
【0044】
金属と粒子との化学反応を容易にする観点からは、シリコン粒子、またはゲルマニウム粒子を用いることがより好ましく、シリコン粒子を用いることがさらに好ましい。
【0045】
本発明で用いられる粒子の平均一次粒径は、10μm以下、1μm以下、500nm以下、100nm以下、50nm以下、又は5nm以下にすることができる。また、本発明で用いられるシリコン粒子の平均一次粒径は、1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよい。
【0046】
これらのうち、金属表面に、緻密な金属化合物膜を形成する観点から、本発明で用いられるシリコン粒子の平均一次粒径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下、よりさらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは20nm以下にすることができる。
【0047】
ここで、本発明においては、粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって、撮影した画像を元に直接に投影面積円相当径を計測し、集合数100以上からなる粒子群を解析することで、数平均一次粒子径として求めることができる。
【0048】
本発明で用いられる粒子、特にシリコン粒子は、例えばホウ素又はリン等の不純物ドーパントによって予めドーピングされていてもよく、不純物ドーパントはp型であってもn型であってもよい。ドーパントの濃度としては、シリコンナノ粒子中で、1×10
15atom/cm
3以上、1×10
16atom/cm
3以上、10
17atom/cm
3以上、10
18atom/cm
3以上、10
19atom/cm
3以上、又は1×10
20atom/cm
3以上であってもよく、1×10
22atom/cm
3以下、1×10
21atom/cm
3以下、1×10
20atom/cm
3以下、又は1×10
19atom/cm
3以下であってもよい。
【0049】
本発明において用いられる粒子は、好ましくはレーザー熱分解法によって得られる粒子である。シリコン粒子を用いる場合、例えば特表2010−514585号公報に記載の粒子を用いることができる。
【0050】
レーザー熱分解法によって得られるシリコン粒子の特徴として、一次粒子の円形度の高さが挙げられる。具体的には、円形度は、0.80以上、0.90以上、0.93以上、0.95以上、0.97以上、0.98以上、又は0.99以上であってもよい。円形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって撮影した画像から、粒子の投影面積(S)及び粒子の周囲長(l)を画像処理ソフト等によって計測して、(4πS)/l
2を計算して求めることができる。この場合、100以上の粒子群の平均値として、円形度を求めることができる。
【0051】
また、レーザー熱分解法によって得られるシリコン粒子の特徴として、粒子内部が結晶状態で、粒子表面部が非結晶状態であるという点を挙げることができる。これにより、粒子が用いられる様々な物品に対して特異な物理的性質を与えることができる。本発明においては、粒子内部が結晶状態で、粒子表面部が非結晶状態であるシリコン粒子も好適に用いることができる。
【0052】
〈粒子分散体〉
本発明で用いられる粒子分散体は、上記の粒子と分散媒とを含有してもよい。分散媒の種類に特に制限はないが、粒子を均一に分散でき、かつ粒子以外の成分を均一に分散及び/又は溶解させることができる分散媒を選択することが好ましい。
【0053】
本発明の粒子分散体は、粒子膜を形成する方法に応じて、液状であってもよく、ペースト状であってもよい。分散体中で、粒子は、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上であってもよく、98重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下であってもよい。
【0054】
分散媒の大気圧下での沸点は、安定に基材への塗布を行う観点から50℃以上であることが好ましく、350℃以下であることが好ましい。
【0055】
具体的には、分散媒としては、水性溶媒又は有機溶媒を挙げることができ、例えばイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル系溶媒を挙げることができる。
【0056】
〈粒子分散体−バインダー〉
本発明の粒子分散体は、粒子同士を結着させ、機械的に安定な粒子膜を形成することを目的として、バインダーを含有してもよい。そのようなバインダーとしては、例えば、ポリシロキサン等の無機バインダー、エチルセルロース等の有機バインダーが挙げられるが、これらに限定されないバインダーを選択し用いることができる。
【0057】
〈粒子分散体−界面活性剤〉
本発明の粒子分散体は、粒子分散体の構成粒子の分散性を向上させるため、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0058】
〈金属層又は金属基材〉
金属層又は金属基材としては、金属化合物膜を形成することを目的とした任意の層又は基材を用いることができる。
【0059】
したがって、金属層又は金属基材としては、少なくとも表面に金属層を含む基材又は金属基材を用いることができる。
【0060】
金属の種類には特に制限はないが、耐腐食性の付与を目的とした金属化合物膜を形成する観点からは、何らかの物質に対する腐食性を有する金属であって粒子膜と化学的に反応して、その物質に対する耐腐食性を向上できる金属化合物膜をする金属形成可能である金属を用いることができる。また、金属としては、2種類以上の金属を含有し、かつ構成金属元素のうち少なくとも1つの金属元素が、金属化合物膜を形成可能である金属である合金を用いることができる。
【0061】
このような金属としては、例えば、銅、銀、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、錫、マグネシウム、ゲルマニウム、鉛、ハフニウム、セリウム、インジウム、イリジウム、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、チタン、ジルコニウム、ストロンチウム、イットリウム、ルビジウムを好ましく用いることができ、銅、銀、クロム、鉄、鉛、錫、ニッケル、アルミニウム、チタンをさらに好ましく用いることができ、銅、銀、クロム、鉛、錫より好ましく用いることができ、銅、銀をよりさらに好ましく用いることができ、銅を特に好ましく用いることができる。
【0062】
《金属化合物膜を含む積層体》
本発明の金属化合物膜を含む積層体は、金属層又は金属基材、金属層又は金属基材上の金属化合物膜、及び金属化合物膜上の粒子膜を少なくとも含む。金属層又は金属基材、金属化合物膜、及び粒子膜はこの順で互いに接触している。
【0063】
金属層又は金属基材、金属化合物膜、及び粒子膜の詳細は、本発明の金属化合物膜の製造方法に関して説明した記載を参照することができる。
【実施例】
【0064】
《実施例1〜11》
以下の実施例1〜11では、シリコン粒子分散体を調製し、銅基材上にシリコン粒子膜を形成した後、焼成し、銅シリサイド層の形成の有無を確認した。さらに銅シリサイド膜を形成した銅基材を、25℃の室温において硫黄溶液へ浸漬し、銅の硫化による腐食の有無を調べた。
【0065】
〈実施例1〉
(シリコン粒子の作製)
シリコンナノ粒子は、モノシランガスを原料として、二酸化炭素レーザーを用いたレーザー熱分解(LP:Laser pyrolysis)法により作製した。このとき、モノシランガスと共に、ジボラン(B
2H
6)ガスを導入して、ホウ素ドープシリコン粒子を得た。得られたホウ素ドープシリコン粒子のドーピング濃度は1×10
21atom/cm
3であった。また、得られたホウ素ドープシリコン粒子の金属不純物含有量を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)を用いて測定したところ、Feの含有量は15ppb、Cuの含有量は18ppb、Niの含有量は10ppb、Crの含有量は21ppb、Coの含有量は13ppb、Naの含有量は20ppb、及びCaの含有量は10ppbであった。
【0066】
(シリコン粒子分散体の調製)
エチレングリコール90重量%と、上記手法で作製したシリコンナノ粒子10重量%とを混合することによりシリコン粒子分散体を調製した。
【0067】
(シリコン粒子膜の形成)
無酸素銅基板上に、シリコン粒子分散体をスピンコートすることにより、シリコン粒子膜を得た。このとき、溶媒除去工程後のシリコン粒子膜厚が2μmとなるようにスピンコートを行った。
【0068】
その後、上記、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板を200℃のホットプレート上で10分間加熱することにより、シリコン粒子膜に含まれる分散媒を除去した。
【0069】
(シリコン粒子膜の焼成)
シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板を、600℃のアルゴン雰囲気下において30分間焼成を行った。焼成後、シリコン粒子膜の有無に関して、電子顕微鏡により確認を行い、シリコン粒子の残存を確認した。
【0070】
(銅シリサイド膜形成の確認試験)
上記シリコン粒子膜の焼成工程を経た無酸素銅基板について、X線回折測定を行うことにより、無酸素銅基板表面への銅シリサイド膜の形成の有無を確認したところ、銅シリサイドに由来するX線回折ピークが計測され、銅シリサイド膜の形成が確認できた。
【0071】
なお、X線回折測定においては、無酸素銅基板表面に対して0.5°の角度でX線を入射した場合に、回折角30°〜70°の範囲に銅シリサイドに由来するX線回折ピークが計測された場合に、銅シリサイド膜が形成されたものと判断した。
【0072】
(耐腐食試験)
上記、シリコン粒子膜の焼成工程を経た無酸素銅板について、硫黄をトルエンに溶解させた溶液に浸漬することにより、硫黄に対する耐腐食性を評価したところ、腐食は起きず、硫黄に対する耐腐食性が確認された。なお、トルエンに対して硫黄は2重量%の濃度で溶解させ、硫黄のトルエン溶液4gに対して、3cm四方の大きさを有する無酸素銅板の片面の全面にシリコン粒子膜を形成し焼成を行った試験片を、2分間浸漬することにより耐腐食性試験を行った。腐食の有無については、シリコン粒子膜を形成し焼成を行った面の腐食の有無を目視で確認した。
【0073】
〈実施例2〉
シリコン粒子膜の形成工程において、溶媒除去工程後のシリコン粒子膜厚が500nmとなるようにスピンコートを行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0074】
〈実施例3〉
シリコン粒子膜の形成工程において、溶媒除去工程後のシリコン粒子膜厚が50nmとなるようにスピンコートを行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0075】
〈実施例4〉
シリコン粒子膜の形成工程において、溶媒除去工程後のシリコン粒子膜厚が10nmとなるようにスピンコートを行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0076】
〈実施例5〉
シリコン粒子膜の形成工程において、溶媒除去工程後のシリコン粒子膜厚が5nmとなるようにスピンコートを行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0077】
〈実施例6〉
シリコン粒子膜の焼成工程において、200℃のアルゴン雰囲気下で焼成を行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0078】
〈実施例7〉
シリコン粒子膜の焼成工程において、400℃のアルゴン雰囲気下で焼成を行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0079】
〈実施例8〉
シリコン粒子膜の焼成工程において、800℃のアルゴン雰囲気下で焼成を行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0080】
〈実施例9〉
シリコン粒子膜の焼成工程において、900℃のアルゴン雰囲気下で焼成を行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0081】
〈実施例10〉
シリコン粒子膜の焼成工程において、1000℃のアルゴン雰囲気下で焼成を行ったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0082】
〈実施例11〉
シリコン粒子の作製工程において、ジボランガスを導入しなかったことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン粒子膜を形成した無酸素銅基板のアニール処理を行った。 得られたシリコン粒子のホウ素含有量は1×10
16atom/cm
3であった。また、得られたシリコン粒子の金属不純物含有量を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)で測定したところ、Feの含有量は20ppb、Cuの含有量は12ppb、Niの含有量は21ppb、Crの含有量は15ppb、Coの含有量は27ppb、Naの含有量は29ppb、Caの含有量は22ppbであった。
【0083】
さらに実施例1と同様にして、銅シリサイド膜の形成の有無と硫黄に対する耐腐食性の有無を試験したところ、銅シリサイド膜の形成が確認され、硫黄に対する耐腐食性を有することが確認された。
【0084】
実施例1〜11についての実験条件及び結果を、下記の表1にまとめている。
【0085】
〈評価結果〉
表1に示されているように、様々な条件において、銅基材表面に銅シリサイド膜が得られ、耐食性を付与できることが理解できる。
【0086】
【表1】