(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、本発明を実施するための形態(“本実施形態”と呼ぶ)を、図等を参照しながら詳細に説明する。本実施形態の異常診断装置が診断対象とする機器(“診断対象機器”と呼ぶ)は、その機器から制御データ又は計測データを取得することができるような任意の機器である。そして、これらの制御データ又は計測データを診断対象機器の“特徴量”と呼ぶ。診断対象機器の種類に応じて、様々な特徴量が存在する。例えば、診断対象機器が冷凍機である場合、その特徴量は、圧縮機の電圧及び電流、特定の箇所における冷媒の温度及び圧力、圧縮機の回転速度及び振動、冷凍機から所定の距離を隔てた位置における騒音等である。そして特徴量は、これらの制御データ又は観測データを加工して得られるデータ(例えば、騒音の時系列波形をフーリエ変換して得られる、特定周波数のスペクトル強度)も含む。
【0012】
(マハラノビス距離)
図1に沿って、マハラノビス距離と母集団の標準偏差との関係を説明する。周知のように、複数のデータから構成される母集団を代表する基準値(平均値、重心等)と個々のデータとの間のマハラノビス距離を算出することが一般的に行われる。ユークリッド距離とは異なり、マハラノビス距離は、母集団の標準偏差(分散の平方根)を反映している。
【0013】
いま、異常診断装置が診断対象機器の特徴量(例えば冷媒の温度)を、1分の計測周期で10回計測する例を想定する。このような計測を行った結果が、
図1(a)の10個の点に示されている。10回の計測時点のうち、i回目に計測された特徴量をx
iとする。異常診断装置は、x
iのマハラノビス距離Dm(x
i)を、次の式1を使用して算出する。ここで、μは、10個の特徴量の平均値であり、σは、10個の特徴量の標準偏差である。
Dm(x
i)=|x
i−μ|/σ (式1)
【0014】
このような計測を行った他の例が、
図1(b)に示されている。ここでも、異常診断装置は、診断対象機器の特徴量を、1分の計測周期で10回計測している。
図1(a)及び
図1(b)を比較すると、特徴量の平均値μ及びi回目に計測された特徴量x
iの値は同じである。しかしながら、
図1(a)よりも
図1(b)の方が、標準偏差σは大きい。すると、式1から明らかなように、
図1(b)の方がσが大きい分、
図1(a)よりも
図1(b)の方が、式1で算出されるDm(x
i)は小さくなる。このことは、あるx
iの値が平均値から相当程度乖離していても、母集団のσが充分に大きい場合は、当該x
iは目立たなくなることを意味している。
【0015】
(特徴量の次元)
前記した特徴量は、1次元である。今度は、異常診断装置が診断対象機器のn(n=1、2、3、・・・)種類の特徴量(例えば、冷媒の温度、冷媒の圧力、圧縮機の回転速度、・・・)を、1分の計測周期で10回計測する例を想定する。この例では、i回目に計測された特徴量x
iは、n次元のベクトルとなる。すると、異常診断装置は、n次元空間内に10個の特徴量をドットした場合のそれらの重心と、x
iとの間のマハラノビス距離Dm(x
i)を、次の式2を使用して算出することができる。ここで、μは、重心を示すn次元のベクトルであり、Rは、分散共分散行列である。“√”は平方根を示し、添え字“T”は転置を示し、添え字“−1”は逆行列を示す。
Dm(x
i)=√((x
i−μ)
T×R
−1×(x
i−μ)) (式2)
【0016】
なお、Rは、n次元空間内における母集団のいわば“形状”を示しており、2つの特徴量同士の共分散が大きい方向のDm(x
i)は小さくなる。いま、説明を単純化するために、n=2が成立し、2種類の特徴量は、冷媒の圧力及び圧縮機の回転速度であるとする。これら2種類の特徴量は、強い正の相関を有する。両者の関係を平面にドットすると、その外縁は楕円となり、その楕円の長軸は、右上りの直線となる。このとき、長軸上のマハラノビス距離のスケール(1目盛の刻み幅)は、短軸上のマハラノビス距離のスケールよりも大きくなる。つまり、楕円と長軸との交点の(重心からの)マハラノビス距離と、楕円と短軸との交点の(重心からの)マハラノビス距離と比較する場合、見かけの長さの相違にかかわらず、両者は、ほぼ一致する。
【0017】
以降では単純化のため、1次元の特徴量のマハラノビス距離を例として説明する。しかしながら、本実施形態を、n次元の特徴量のマハラノビス距離に一般化することも可能である。
【0018】
(マハラノビス距離による異常判定)
図2に沿って、既存技術におけるマハラノビス距離による異常判定の例を説明する。
図2の座標平面の横軸は時間であり、縦軸はある特徴量(例えば温度)である。いま、時点t
a〜時点t
bの期間においては、診断対象機器が正常であることが既知であり、時点t
b〜時点t
cの期間41においては、診断対象機器が異常であることが既知であるとする。そして、特徴量の平均値μを基準にして、マハラノビス距離の上限の閾値がTh
Uであり、下限の閾値がTh
Lであるとする。
【0019】
すると、正常である期間において、特徴量42a及び42bが“異常”と判定されてしまう。そこで、上限Th
Uをより上方に移動し、下限Th
Lをより下方に移動する。すると、異常である期間41において、特徴量43a、43b、43c及び43dが“異常”とは判定されなくなってしまう。このように、特徴量のマハラノビス距離に対し単純に閾値を適用するだけでは、異常診断の精度は向上しない。
【0020】
(異常度)
図3に沿って、異常度を説明する。異常診断装置は、例えば10分の時間幅を有する時間帯44において、1分の計測周期で特徴量を計測している。異常診断装置は、10個の特徴量のそれぞれについて、マハラノビス距離を算出する。異常診断装置は、算出した個々のマハラノビス距離の大きさに応じた重みを、そのマハラノビス距離に乗算する。
図3において、マハラノビス距離が大きいほど、換言すれば特徴量が平均値μから乖離するほど、乗算される重みは大きい。
【0021】
図3では、紙面の制約からすべての特徴量に重みが付されている訳ではないが、平均値μから大きく乖離した特徴点45a及び45bには、重み“100”が付されている。平均値μに近い特徴点47には、重み“1”が付されている。その中間の特徴点46a及び46bには、重み“10”が付されている。
【0022】
異常診断装置は、重みを乗算されたマハラノビス距離の平均値を、その時間帯についての“異常度”とする。つまり、
図3において、式1が成立し、次の式3も成立する。
異常度=Σ(w
i×Dm(x
i))/n (式3)
ここで、w
iは、Dm(x
i)の大きさに応じた重みであり、Dm(x
i)が大きいほど、w
iは大きい。nは、時間帯に含まれるマハラノビス距離の数(つまり特徴量の数)であり、前記の例では、n=10である。“Σ”は、和を示す。
このような処理を例えば1日(1440分)繰り返すと、異常診断装置は、連続する144個の時間帯のそれぞれに対応する144個の異常度を取得することになる。
【0023】
異常度は、式3が定義するものに限定されない。異常度は、特徴量のばらつきを示す数値であればどのようなものでもよい。標準偏差、分散、最大値と最小値との差異、特徴量が正規分布に従うと仮定した場合の所定の基準を満たす(上位5%又は下位5%に入る)はずれ値の個数、そのようなはずれ値の比率等、様々なものが異常度となり得る。
【0024】
(用語の定義)
計測周期とは、異常診断装置が特徴量を計測する周期であり、例えば1分である。計測時点とは、所定の計測周期で実際に特徴量が計測される時点である。診断周期とは、異常診断装置が診断対象機器を診断する周期であり、例えば10分である。診断時点とは、所定の診断周期で実際に診断対象装置が診断される時点である。1つの診断対象時点に複数(例えば10個)の計測時点が対応する。時間帯とは、複数の特徴量が含まれる連続した時間区分であり、異常診断装置は、1つの時間帯ごとに1つの異常度を算出する。1つの診断時点に1つの時間帯が対応しているので、異常診断装置は、1つの診断時点について1つの異常度を算出することになる。時間幅とは、時間帯の長さであり、例えば10分である。
【0025】
(時間幅と診断周期)
図4に沿って、時間幅と診断周期との関係を説明する。
図4(a)は、時間幅が診断周期に一致する例である。この場合、複数の時間帯(破線の長方形)が時系列で隙間がなく、かつ、重複もない状態で並ぶ。
図4(b)は、時間幅が診断周期よりも長い例である。この場合、複数の時間帯が、その一部同士を重複させながら時系列で並ぶ。
図4(a)及び
図4(b)においては、時間幅は固定されている。
図4(c)においては、時間幅は可変長であり、時間的に後の時間幅ほど長い。そして、各時間幅の始点がある時点(t
0)に固定されている。異常診断装置は、診断対象機器の特性、特徴量の数等に応じて、任意に時間幅及び診断周期を設定することができる。以降では、
図4(a)を想定して説明を続ける。
【0026】
図5に沿って、時間幅に応じた異常度の現れ方を説明する。前記したように、異常診断装置は、1つの診断時点について1つの異常度を算出する。すると、異常診断装置は、診断周期を充分小さくすることによって、
図5(a)〜(c)のような、時系列の異常度の波形を描画することができる。
図5(a)は、時間幅が1時間である場合の時系列の異常度である。
図5(b)は、時間幅が24時間である場合の時系列の異常度である。
図5(c)は、時間幅が48時間である場合の時系列の異常度である。一般に、時間幅が短いほど、異常度は高周波的に現れる。
【0027】
(異常発生確率)
図6に沿って、異常発生確率を説明する。
図6(a)は、時系列の異常度の波形の一例である。いま、過去の期間48において、診断対象機器が異常であったことが既知であるとする。異常診断装置は、異常度のある水準(例えば“10”)において、横軸に水平な直線を引く。すると、直線は、10箇所(点1〜点10)で異常度の波形と交差又は接する。このうち、期間48に含まれる点は2つ存在し(点7及び点8)、期間48に含まれない点は8つ存在する(点1〜点6、点9及び点10)。このとき、異常診断装置は、2/(2+8)×100=20%を“異常発生確率”とする。
【0028】
異常診断装置は、異常度の他のある水準(例えば“40”)において、横軸に水平な直線を引く。すると、直線は、4箇所(点11〜点14)で異常度の波形と交差又は接する。このうち、期間48に含まれる点は2つ存在し(点13及び点14)、期間48に含まれない点は2つ存在する(点11及び点12)。このとき、異常診断装置は、2/(2+2))×100=50%を“異常発生確率”とする。
【0029】
図6(b)の波形は、
図6(a)と同じ波形である。また、
図6(a)と同様に、過去の期間48において、診断対象機器が異常であったことが既知であるとする。異常診断装置は、異常度のある水準(例えば“40”)において、横軸に水平な直線を引く。すると、直線は、4箇所(点11〜点14)で異常度の波形と交差又は接する。この直線のうち、波形が直線を上側に超える又は直線に接する部分の長さは、d
1+d
2である。さらにそのうち、期間48に含まれる部分の長さは、d
2であり、期間48に含まれない部分の長さは、d
1である。このとき、異常診断装置は、d
2/(d
1+d
2)×100の値(%)を“異常発生確率”としてもよい。請求項における“頻度”には、ここでの点11〜点14の数、又は、部分の長さd
1、d
2が相当する。
【0030】
異常診断装置は、異常度の水準を少しずつ変化させたうえでこのような処理を繰り返す。すると、異常診断装置は、“(異常度,異常発生確率)=(10,20%)”のような異常度及び異常発生確率の組合せを多く取得することになる。
図6(c)は、このような異常度及び異常発生確率の相互関係を、横軸を異常度とし縦軸を異常発生確率とする座標平面に表したものである。異常診断装置は、公知の方法で、当該相互関係を滑らかな曲線に近似してもよい。近似した相互関係の曲線は、例えば、上下(100%及び0%)に漸近線を有する右上りのシグモイド曲線のような曲線になる。
【0031】
(異常診断装置の構成)
図7に沿って、異常診断装置1の構成を説明する。異常診断装置1は、一般的なコンピュータである。異常診断装置1は、中央制御装置11、入力装置12、出力装置13、主記憶装置14及び補助記憶装置15を備える。これらはバスで接続されている。補助記憶装置15は、計測値情報31、時間幅情報32、重み情報33及び異常原因情報34(詳細後記)を格納している。主記憶装置14における事前情報処理部21及び運用情報処理部22は、プログラムである。以降の説明において、“○○部は”と動作主体を記した場合、それは、中央制御装置11が補助記憶装置15から○○部を読み出し、主記憶装置14にロードしたうえで○○部の機能(詳細後記)を実現することを意味する。
【0032】
(計測値情報)
図8に沿って、計測値情報31を説明する。計測値情報31は、計測時点欄101に記憶された計測時点に関連付けて、特徴量1欄102には特徴量1(ここでは電圧)、特徴量2欄103には特徴量2(ここでは電流)、・・・、特徴量n欄109には特徴量nが記憶されている。
図8において“#”は、異なる複数の測定値(又は制御値)を省略的に示している。なお、請求項における“項目”には、ここでの電圧、電流、温度、圧力、・・・が相当する。異常診断装置1は、図示しない診断対象機器と図示しないネットワークを介して接続されている。そして異常診断装置1は、過去及び現在における特徴量を診断対象機器から取得し、計測値情報31として記憶している。
【0033】
(時間幅情報)
図9に沿って、時間幅情報32を説明する。時間幅情報32においては、パタンID欄111に記憶されたパタンIDに関連付けて、始点欄112には時間幅の始点(時間軸上の1点)が、終点欄113には時間幅の終点(時間軸上の1点)が、診断周期欄114には診断周期が記憶されている。
パタンID欄111のパタンIDは、時間幅の始点、時間幅の終点及び診断周期の組合せ(パタン)を一意に特定する識別子である。
【0034】
始点欄112の時間幅の始点は、時間幅の始点を定義する情報であり、ここでは、時間幅の始点が診断時点に対してどの程度時間的に遡るかを示す情報である。なお、時間幅の始点は、特定の“固定時点”であってもよい。
終点欄113の時間幅の終点は、時間幅の終点を定義する情報であり、ここでは一律に前記した診断時点である。診断時点は、例えば
図4(a)のt
1、t
2、t
3、t
4、・・・である。
診断周期欄114の診断周期は、前記した診断周期である。
図9のパタン“P01”は、
図4(a)に対応する。パタン“P04”は、
図4(b)に対応する。パタン“P05”は、
図4(c)に対応する。
【0035】
(重み情報)
図10に沿って、重み情報33を説明する。重み情報33においては、マハラノビス距離欄121に記憶されたマハラノビス距離に関連付けて、重み欄122には重みが記憶されている。
マハラノビス距離欄121のマハラノビス距離は、特徴量のマハラノビス距離の区分である。ここで区分の境目となる2、3、4、・・・は、あくまでも一例である。
【0036】
重み欄122の重みは、特徴量のマハラノビス距離に対して乗算される重みである。ここでの重みは、10のべき乗であり、マハラノビス距離が大きくなるほど、重みの値も大きくなる。ここでの重みもまた、あくまでも一例に過ぎない。他の例として、重みは、マハラノビス距離が正規分布に従って発生すると仮定した場合の発生確率の逆数であってもよい。
図10の例では、マハラノビス距離がある整数値に達すると重みが階段的に増加し、その後次の整数値に達するまで、重みは同じ水準を維持する。しかしながら、重みは、マハラノビス距離の増加に応じて、連続的に滑らかに増加してもよい。
【0037】
(異常原因情報)
図11に沿って、異常原因情報34を説明する。異常原因情報34においては、特徴量欄131に記憶された特徴量に関連付けて、異常名称欄132には異常名称が、異常原因欄133には異常原因が記憶されている。
特徴量欄131の特徴量は、前記した特徴量(電圧、電流、温度、・・・)である。
異常名称欄132の異常名称は、診断対象機器の異常の態様である。
異常原因欄133の異常原因は、診断対象機器の異常の原因である。異常原因は、診断対象機器を保守員が回復させるために手掛かりとなる情報であってもよい。
【0038】
以降、本実施形態の処理手順を説明する。処理手順は2つ存在し、それらは、事前情報処理手順(
図12)及び運用情報処理手順(
図13)である。事前情報処理手順が実行される前提として、計測値情報31(
図8)、時間幅情報32(
図9)及び重み情報33(
図10)が完成状態で補助記憶装置15に格納されているものとする。そして、運用情報処理手順が実行される前提として、事前情報処理手順が既に実行されているものとする。
【0039】
(事前情報処理手順)
図12に沿って、事前情報処理手順を説明する。
ステップS201において、異常診断装置1の事前情報処理部21は、データ取込期間及びパタンを受け付ける。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、出力装置13に事前情報入力画面51(
図14)を表示する。
【0040】
第2に、事前情報処理部21は、ユーザが事前情報入力画面51のデータ取込期間欄51aに対して開始日時及び終了日時を入力するのを受け付ける。例えば、現時点が2017年5月30日であり、ユーザは、2017年1月1日から2017年3月31日までの特徴量を、過去の時点におけるサンプルデータとして使用したいとする。この場合、ユーザは、“開始日時”として“2017年1月1日00時00分00秒”を入力し、“終了日時”として“2017年4月1日00時00分00秒”を入力する。
第3に、事前情報処理部21は、時間幅情報32(
図9)を出力装置13に表示し、ユーザが任意のパタンIDを選択するのを受け付ける。
【0041】
ステップS202において、事前情報処理部21は、特徴量、異常発生期間、異常名称及び異常原因を受け付ける。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、ユーザが事前情報入力画面51の特徴量選択欄51bの候補のうちから1つの特徴量を選択するのを受け付ける。
第2に、事前情報処理部21は、ユーザが特徴量選択欄51bの特徴量を選択した状態で、異常発生期間欄51cに対して、異常名称、異常原因、開始日時及び終了日時を入力するのを受け付ける。
【0042】
ユーザは、例えば“2017年3月10日10時00分00秒から2017年3月15日12時00分00秒までの期間、圧縮機の電圧が過大となった。その原因は、工程AにおけるB処理の不良であった”ということを知っているとする。この場合、ユーザは、“特徴量(電圧)”選択した状態で、“開始日時”として“2017年3月10日10時00分00秒”を入力し、“終了日時”として“2017年3月15日12時00分00秒”を入力する。そして、ユーザは、“異常名称”として“圧縮機過電圧”を入力し、“異常原因”として、“工程AのB処理”を入力する。
【0043】
事前情報処理部21は、ステップS202の“第1”及び“第2”の処理を任意の回数繰り返す。すると、事前情報処理部21は、特徴量ごとに、異常名称、異常原因及び異常発生期間(開始日時及び終了日時)を受け付けることになる。
第3に、事前情報処理部21は、ステップS202の“第1”及び“第2”において受け付けた情報に基づいて、異常原因情報34(
図11)を作成し、補助記憶装置15に格納する。
【0044】
ステップS203において、事前情報処理部21は、データを取得し、時間帯ごとに分割する。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、計測値情報31(
図8)のうちから、ステップS201の“第2”において受け付けた開始日時から同じく受け付けた終了日時までの期間のデータを切り出す。
第2に、事前情報処理部21は、ある未処理の特徴量を、ステップS201の“第3”において受け付けたパタンIDに基づき、時間帯ごとに分割する。例えば、事前情報処理部21がステップS201の“第3”においてパタンID“P01”を受け付けたとする。この場合、事前情報処理部21は、ステップS203の“第1”において切り出したデータを、隙間がなく重複することもない連続する1時間の時間幅を有する時間帯ごとに分割することになる。
【0045】
ステップS204において、事前情報処理部21は、特徴量の基準値を算出する。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、未処理の(時間的に最も古い)時間帯に含まれる複数の特徴量について、平均値μ及び標準偏差σを算出する。
第2に、事前情報処理部21は、“+3σ”以上の特徴量及び“−3σ”以下の特徴量(ノイズ又ははずれ値)を削除する。ここでの“+3”及び“−3”はあくまでも一例である。
第3に、事前情報処理部21は、当該時間帯に含まれる、ノイズ等を削除した後の複数の特徴量について、平均値μ
2及び標準偏差σ
2を算出し、算出したσ
2を基準値とする。
【0046】
ステップS205において、事前情報処理部21は、マハラノビス距離を算出する。具体的には、事前情報処理部21は、式1の“μ”に“μ
2”を代入し、“σ”に基準値“σ
2”を代入し、“x
i”に特徴量を代入することによって、個々の特徴量ごとのマハラノビス距離Dm(x
i)を算出する。
【0047】
ステップS206において、事前情報処理部21は、マハラノビス距離を加重平均し、異常度を算出する。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、重み情報33(
図10)を参照し、処理対象のマハラノビス距離に乗算される重みを決定する。
第2に、事前情報処理部21は、式3を使用して異常度を算出する。このとき、事前情報処理部21は、マハラノビス距離に対し重みを乗算することに代えて、マハラノビス距離を重みで置換してもよい。この場合、異常度は、重み自体の平均となる。
【0048】
ステップS207において、事前情報処理部21は、未処理の時間帯があるか否かを判断する。具体的には、事前情報処理部21は、未処理の時間帯がない場合(ステップS207“No”)、ステップS208に進み、それ以外の場合(ステップS207“Yes”)、ステップS204に戻る。戻った先のステップS204〜S206において、事前情報処理部21は、未処理の次に古い時間帯について、同様の処理を繰り返す。
【0049】
ステップS208において、事前情報処理部21は、時系列の異常度を生成する。具体的には、事前情報処理部21は、ステップS204〜S206の繰り返し処理において算出した異常度に基づいて、データ取込期間における時系列の異常度(時間帯ごとの異常度)を生成する。ここで生成された時系列の異常度の例が、
図15(a)である。
【0050】
ステップS209において、事前情報処理部21は、異常発生確率を算出する。具体的には、事前情報処理部21は、
図15(a)のような時系列の異常度に対して
図6で説明した方法を適用することによって、異常度の水準ごとに異常発生確率を算出する。
【0051】
ステップS210において、事前情報処理部21は、異常発生確率と異常度との相互関係を決定する。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、ステップS209において算出した異常度の水準ごとの異常発生確率に基づいて、
図6(c)のような、異常発生確率と異常度との相互関係を決定する。
第2に、事前情報処理部21は、ステップS210の“第1”において決定した相互関係を滑らかな曲線に近似する。すると、相互関係は、
図15(b)のような曲線になる。
図15(b)から明らかなように、相互関係は、異常度を入力することによって異常発生確率を出力する一種の変換関数である。
【0052】
ステップS211において、事前情報処理部21は、時系列の異常発生確率を算出する。具体的には、事前情報処理部21は、相互関係を使用することによって、時系列の異常度を時系列の異常発生確率に変換する。ここで変換された時系列の異常発生確率の例が、
図15(c)である。
【0053】
ステップS212において、事前情報処理部21は、未処理の特徴量があるか否かを判断する。具体的には、事前情報処理部21は、未処理の特徴量がない場合(ステップS212“No”)、ステップS213に進み、それ以外の場合(ステップS212“Yes”)、ステップS203に戻る。戻った先のステップS203〜S211において、事前情報処理部21は、未処理の次の特徴量について、同様の処理を繰り返す。事前情報処理部21は、ステップS202の“第1”において受け付けたすべての特徴量についてS203〜S211の処理を終了すると、当該繰り返し処理を終了する。
【0054】
ステップS213において、事前情報処理部21は、異常発生確率の代表値を算出する。具体的には、事前情報処理部21は、各診断時点の複数の異常発生確率(電圧の異常発生確率、電流の異常発生確率、温度の異常発生確率、・・・)のうちの最大値を当該診断時点の異常発生確率の代表値とする。事前情報処理部21がこのようにして時系列の代表値を算出した例が、
図15(d)である。なお、事前情報処理部21が最大値を代表値とするのはあくまでも一例である。事前情報処理部21は、例えば、大きい順に所定の数の異常発生確率を平均した値を代表値としてもよいし、単純にすべての特徴量についての異常発生確率の平均値を代表値としてもよい。
【0055】
ステップS214において、事前情報処理部21は、時系列の異常度等を表示する。具体的には、第1に、事前情報処理部21は、出力装置13に事前情報表示画面52(
図16)を表示する。
第2に、事前情報処理部21は、ユーザが特徴量を選択するのを受け付ける。ユーザが事前情報表示画面52の“特徴量選択”ボタン53を押下すると、
図14の特徴量選択欄51bと同じウインドウが表示される。このとき、ステップS202の“第1”において受け付けた特徴量が強調表示されている。ユーザは、強調表示されている特徴量のうちの1つを選択する。
【0056】
第3に、事前情報処理部21は、ユーザがステップS214の“第2”において特徴量を選択したままの状態で、ボタン54a〜54cのうちのいずれかを押下するのを受け付ける。“時系列の異常度”ボタン54aが押下されると、事前情報処理部21は、事前情報表示画面52のグラフ表示欄55に、時系列の異常度(
図15(a))を表示する。同様に、“異常度と異常発生確率との相互関係”ボタン54bが押下されると、事前情報処理部21は、異常度と異常発生確率との相互関係(
図15(b))を表示する。“時系列の異常発生確率”ボタン54cが押下されると、事前情報処理部21は、時系列の異常発生確率(
図15(c))を表示する。
【0057】
第4に、事前情報処理部21は、ステップS214の“第2”において選択された特徴量を検索キーとして異常原因情報34(
図11)を検索し、該当したレコード(行)の異常名称又は異常原因を、事前情報表示画面52の異常原因候補欄56に表示する。なお、この例の他にも、事前情報処理部21は、強調表示されている特徴量のそれぞれについてデータ取込期間の異常発生確率の最大値を取得し、その最大値が最も大きい特徴量を検索キーとしてもよい。事前情報処理部21は、データ取込期間の異常発生確率の最大値が大きい順に所定の数の特徴量を検索キーとしてもよいし、データ取込期間の異常発生確率の最大値が所定の閾値を超える特徴量を検索キーとしてもよい。すると、1又は複数の特徴量(電圧、電流、・・・)について、異常原因等が表示されることになる。
【0058】
第5に、事前情報処理部21は、“異常発生確率の代表値”ボタン54dが押下されると、事前情報表示画面52のグラフ表示欄55に、時系列の異常発生確率の代表値(
図15(d))を表示する。
事前情報処理部21は、各情報を画面表示することに代えて又は併せて、各情報の内容を音声出力してもよいし、他の装置(現場責任者に対するメール作成装置等)に対してデータ出力してもよい。
その後、事前情報処理手順を終了する。
【0059】
(運用情報処理手順)
図13に沿って、運用情報処理手順を説明する。運用情報処理手順は、以下の相違点を除けば、全体的に事前情報処理手順(
図12)に類似している。
(第1の相違点)事前情報処理手順において異常診断装置は、異常が発生していることが既知である期間を含む過去の期間(例えば数カ月前)の異常発生確率を算出する。一方、運用情報処理手順において異常診断装置は、異常が発生しているか否かが未知である直近の診断対象期間(例えば、現在から遡った2日間)の異常発生予想確率を算出する。
(第2の相違点)事前情報処理手順において異常診断装置は、異常度と異常発生確率との相互関係を新たに生成する。一方、運用情報処理手順において異常診断装置は、相互関係を新たに生成せずに、事前情報処理手順において生成された相互関係を流用する。
【0060】
図13の各ステップの処理は、そのステップの下2桁が同じである
図12のステップの処理と概ね同じである。
図13においてステップS302、S309及びS310は欠番である。このことは、対応する
図12の処理が
図13では省略されることを意味する。
【0061】
ステップS301において、異常診断装置1の運用情報処理部22は、データ取込期間及びパタンを受け付ける。具体的には、第1に、運用情報処理部22は、ユーザが入力装置12に対して開始日時及び終了日時を入力するのを受け付ける。例えば、現時点が2017年5月30日であり、ユーザは、2017年5月28日から2017年5月29日までの特徴量を、診断対象期間における診断対象データとして使用したいとする。この場合、ユーザは、“開始日時”として“2017年5月28日00時00分00秒”を入力し、“終了日時”として“2017年5月30日00時00分00秒”を入力する。
第2に、運用情報処理部22は、時間幅情報32(
図9)を出力装置13に表示し、ユーザが任意のパタンIDを選択するのを受け付ける。
【0062】
なお、運用情報処理部22は、事前情報処理手順のステップS202の“第1”において受け付けた特徴量が、運用情報処理手順においても引き続き選択されていると看做す。
【0063】
ステップS303において、運用情報処理部22は、データを取得し、時間帯ごとに分割する。具体的には、第1に、運用情報処理部22は、計測値情報31(
図8)のうちから、ステップS301の“第1”において受け付けた開始日時から同じく受け付けた終了日時までの期間のデータを切り出す。
第2に、運用情報処理部22は、ある未処理の特徴量を、ステップS301の“第2”において受け付けたパタンIDに基づき、時間帯ごとに分割する。
【0064】
ステップS304において、運用情報処理部22は、特徴量の基準値を算出する。具体的には、第1に、運用情報処理部22は、未処理の(時間的に最も古い)時間帯に含まれる複数の特徴量について、平均値μ及び標準偏差σを算出する。
第2に、運用情報処理部22は、“+3σ”以上の特徴量及び“−3σ”以下の特徴量(ノイズ又ははずれ値)を削除する。ここでの“+3”及び“−3”はあくまでも一例である。
第3に、運用情報処理部22は、当該時間帯に含まれる、ノイズ等を削除した後の複数の特徴量について、平均値μ
3及び標準偏差σ
3を算出し、算出したσ
3を基準値とする。
【0065】
ステップS305において、運用情報処理部22は、マハラノビス距離を算出する。具体的には、運用情報処理部22は、式1の“μ”に“μ
3”を代入し、“σ”に基準値“σ
3”を代入し、“x
i”に特徴量を代入することによって、個々の特徴量ごとのマハラノビス距離Dm(x
i)を算出する。
【0066】
ステップS306において、運用情報処理部22は、マハラノビス距離を加重平均し、異常度を算出する。具体的には、第1に、運用情報処理部22は、重み情報33(
図10)を参照し、処理対象のマハラノビス距離に乗算される重みを決定する。
第2に、運用情報処理部22は、式3を使用して異常度を算出する。このとき、運用情報処理部22は、マハラノビス距離に対し重みを乗算することに代えて、マハラノビス距離を重みで置換してもよい。この場合、異常度は、重み自体の平均となる。
【0067】
ステップS307において、運用情報処理部22は、未処理の時間帯があるか否かを判断する。具体的には、運用情報処理部22は、未処理の時間帯がない場合(ステップS307“No”)、ステップS308に進み、それ以外の場合(ステップS307“Yes”)、ステップS304に戻る。戻った先のステップS304〜S306において、運用情報処理部22は、未処理の次に古い時間帯について、同様の処理を繰り返す。
【0068】
ステップS308において、運用情報処理部22は、時系列の異常度を生成する。具体的には、運用情報処理部22は、ステップS304〜S306の繰り返し処理において算出した異常度に基づいて、データ取込期間における時系列の異常度(時間帯ごとの異常度)を生成する。ここで生成された時系列の異常度の例が、
図17(a)である。
【0069】
ステップS311において、運用情報処理部22は、時系列の異常発生予想確率を算出する。具体的には、運用情報処理部22は、ステップS210において決定した同じ特徴量についての相互関係を使用することによって時系列の異常度を時系列の異常発生予想確率に変換する。このとき変換された時系列の異常発生予想確率の例が、
図17(b)である。
【0070】
ステップS312において、運用情報処理部22は、未処理の特徴量があるか否かを判断する。具体的には、運用情報処理部22は、未処理の特徴量がない場合(ステップS312“No”)、ステップS313に進み、それ以外の場合(ステップS312“Yes”)、ステップS303に戻る。戻った先のステップS303〜S308及びS311において、運用情報処理部22は、未処理の次の特徴量について、同様の処理を繰り返す。運用情報処理部22は、事前情報処理手順のステップS202の“第1”において受け付けたすべての特徴量についてS303〜S308及びS311の処理を終了すると、当該繰り返し処理を終了する。
【0071】
ステップS313において、運用情報処理部22は、異常発生予想確率の代表値を算出する。具体的には、運用情報処理部22は、各診断時点の複数の異常発生予想確率(電圧の異常発生予想確率、電流の異常発生予想確率、温度の異常発生予想確率、・・・)のうちの最大値を当該診断時点の異常発生予想確率の代表値とする。運用情報処理部22がこのようにして時系列の代表値を算出した例が、
図17(c)である。なお、運用情報処理部22が最大値を代表値とするのはあくまでも一例である。運用情報処理部22は、例えば、大きい順に所定の数の異常発生予想確率を平均した値を代表値としてもよいし、単純にすべての特徴量についての異常発生予想確率の平均値を代表値としてもよい。
【0072】
ステップS314において、運用情報処理部22は、時系列の異常度等を表示する。具体的には、第1に、運用情報処理部22は、出力装置13に運用情報表示画面62(
図18)を表示する。
第2に、運用情報処理部22は、ユーザが特徴量を選択するのを受け付ける。ユーザが運用情報表示画面62の“特徴量選択”ボタン63を押下すると、
図14の特徴量選択欄51bと同じウインドウが表示される。このとき、事前情報処理手順のステップS202の“第1”において受け付けた特徴量が強調表示されている。ユーザは、強調表示されている特徴量のうちの1つを選択する。
【0073】
第3に、運用情報処理部22は、ユーザがステップS314の“第2”において特徴量を選択したままの状態で、ボタン64a及び64bのうちのいずれかを押下するのを受け付ける。“時系列の異常度”ボタン64aが押下されると、運用情報処理部22は、運用情報表示画面62のグラフ表示欄65に、時系列の異常度(
図17(a))を表示する。同様に、“時系列の異常発生予想確率”ボタン64bが押下されると、運用情報処理部22は、時系列の異常発生予想確率(
図17(b))を表示する。そして同じタイミングで、運用情報処理部22は、選択されている特徴量についての最も直近の診断時点における異常発生予想確率を異常発生予想確率欄67に表示する。
【0074】
第4に、運用情報処理部22は、“異常発生予想確率の代表値”ボタン64cが押下されると、時系列の異常発生予想確率の代表値(
図17(c))を表示する。そして同じタイミングで、運用情報処理部22は、最も直近の診断時点における異常発生予想確率の代表値を異常発生予想確率欄67に表示する。
【0075】
第5に、運用情報処理部22は、“異常原因”ボタン64dが押下されると、ステップS314の“第2”において受け付けた特徴量を検索キーとして異常原因情報34(
図11)を検索する。そして、運用情報処理部22は、該当したレコード(行)の異常名称又は異常原因を、運用情報表示画面62の異常原因候補欄66に表示する。
【0076】
なお、この例の他にも、運用情報処理部22は、強調表示されている特徴量のそれぞれについてデータ取込期間の異常発生予想確率の最大値を取得し、その最大値が最も大きい特徴量を検索キーとしてもよい。運用情報処理部22は、データ取込期間の異常発生予想確率の最大値が大きい順に所定の数の特徴量を検索キーとしてもよいし、データ取込期間の異常発生予想確率の最大値が所定の閾値を超える特徴量を検索キーとしてもよい。すると、1又は複数の特徴量(電圧、電流、・・・)について、異常原因等が表示されることになる。
【0077】
運用情報処理部22は、各情報を画面表示することに代えて又は併せて、各情報の内容を音声出力してもよいし、他の装置(現場責任者に対するメール作成装置等)に対してデータ出力してもよい。
その後、運用情報処理手順を終了する。
【0078】
本実施形態の異常診断装置は、以下の効果を奏する。
(1)異常診断装置は、過去の異常発生例に基づき、現在の異常発生予想確率を算出することができる。
(2)異常診断装置は、特徴量のマハラノビス距離のうち特に大きなものを確実に評価することができる。
(3)異常診断装置は、過去に異常が実際に発生した頻度に基づき、高い精度で現在の異常発生予想確率を算出することができる。
(4)異常診断装置は、過去の異常発生例に基づき作成した異常度と異常発生確率との相互関係を、現在の診断に活用し、活用結果を出力することができる。
(5)異常診断装置は、特徴量の種類が複数存在する場合であっても、いずれかが示す異常の予兆を知ることができる。
(6)異常診断装置は、拾ったノイズに対して頑強である。
(7)異常診断装置は、異常の原因を出力することができる。