特許第6896094号(P6896094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6896094環境汚染物質に対する細胞保護効果を有するペプチド及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896094
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】環境汚染物質に対する細胞保護効果を有するペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20210621BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20210621BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20210621BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20210621BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20210621BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20210621BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   A23L33/18
   A61P15/08
   A61P35/00
   A61P39/02
   A61P37/04
   A61P3/06
   A61P13/02
   A61P15/00
   A61P9/00
   A61P9/14
   A61P1/16
   A61P43/00 105
   A61P1/14
   A61P17/14
   A61P1/02
   A61P27/02
   A61P1/04
   A61P7/10
   A61P17/10
   A61K38/08
   A61P43/00 111
   A61Q19/00
   A61Q7/00
   A61K8/64
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-552607(P2019-552607)
(86)(22)【出願日】2018年2月14日
(65)【公表番号】特表2020-515547(P2020-515547A)
(43)【公表日】2020年5月28日
(86)【国際出願番号】KR2018001953
(87)【国際公開番号】WO2018182172
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0040514
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ヨンジ・チョン
(72)【発明者】
【氏名】ウンミ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン−ジ・リ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/035554(WO,A1)
【文献】 特開2003−231697(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0035432(KR,A)
【文献】 Journal of Chemistry,2013年,VOl. 2301, Article ID 491827,pp. 1-8
【文献】 Biosensors and Bioeloctronics,2007年,Vol. 22,pp. 2093-2099
【文献】 Anal. Chem.,2005年,Vol. 77, No. 23,pp. 7750-7757
【文献】 日本生物工学会大会講演要旨集,2005年,p. 133,2D14-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用または治療用の薬剤学的組成物であって、
前記ダイオキシン類似物質は、ポリ塩素化ジベンゾダイオキシン(PCDD)、ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDF)、及びポリ塩素化ビフェニル(PCB)からなる群から選択された1種以上を含み、
前記ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病は、塩素性にきび、精子数減少、睾丸癌、前立腺癌、子宮内膜増殖症、乳癌、肝毒性、免疫機能低下、高脂血症、尿道下裂、潜伏睾丸、奇形児出産、血管損傷、肝細胞性癌腫、肝肥大、腺線維症、体重損失、毛髪損失、口腔浮腫、眼瞼浮腫、または胃粘膜性潰瘍を含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用または治療用の薬剤学的組成物
【請求項3】
前記ポリ塩素化ジベンゾダイオキシンは、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)であることを特徴とする請求項2に記載の薬剤学的組成物。
【請求項4】
配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、ダイオキシン類似物質に対する拮抗性食品組成物であって、
前記ダイオキシン類似物質は、ポリ塩素化ジベンゾダイオキシン(PCDD)、ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDF)、及びポリ塩素化ビフェニル(PCB)からなる群から選択された1種以上を含む、ダイオキシン類似物質に対する拮抗性食品組成物。
【請求項5】
配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、皮膚で生じる炎症の緩和用化粧品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染物質に対する細胞保護効能を有するペプチド及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染物質は、いわゆる、内分泌系障害物質に分類されており、その種類には、ダイオキシンを含んだ有機塩素系物質、農薬、フタレート、ベンゾピレン、ペンタ−ノニルフェノール、ビスフェノールA、重金属、スチレン二量体及び三量体などがある。それら物質は、化学的に非常に安定しており、環境に残留する時間が長く、生体蓄積度が高く、食物連鎖を介して人体にまで至ってしまう。
【0003】
それらのうちダイオキシンは、塩化炭化水素化合物であり、互いに類似している化学的構造を有するダイオキシン類(polychlorinated dibenzo−p−dioxin;PCDD)とフラン類(polychlorinated dibenzofuran;PCDF)とを一般的に言い、置換塩素の数により、75種のPCDDと135種のPCDFとの異性体が存在する。
【0004】
主に、ごみ焼却、紙またはパルプの漂白過程、プラスチック製造、有機塩素系農薬の製造などにおいて、排出または生成される。常温において、無色の結晶性固体であり、熱化学的に安定しており、脂肪に易溶性であるために、生物体中に入る場合、脂肪組職に蓄積される性質を有する。人体に及ぼす影響としては、生殖機能障害、流産、胎児の非正常的発達、ホルモン調節機能の変化、糖尿発病、免疫体系の異常、癌誘発可能性などがある。
【0005】
微細ほこりは、亜硫酸ガス、窒素酸化物、鉛、オゾン、一酸化炭素などからなる粒子の大きさが直径10μm以下である微細なほこりであり、PM10と言い、粒径が2.5μm以下である場合、超微細ほこりPM2.5と呼ぶ。微細ほこりの自然的発生原因は、土ぼこり、海水から生ずる塩、植物の花粉などがあり、人為的発生原因は、化石燃料などを燃やすときに生ずる煤煙、自動車排気ガス、建設現場の飛散ほこり、工場内粉末形態の原資材、副資材、及び焼却場煙などがある。
【0006】
そのような微細ほこりは、粒径が毛髪太さの1/5乃至1/7倍ほどと非常に小さく、人体の鼻腔、口腔、気管支でフィルタリングされず、奥深く浸透する。前述の有害物質と吸着された形態で体内に入り、気道、肺、心血管、脳のような各器官の炎症反応を誘発し、呼吸器疾患、心血管系疾患を誘発する。また、2013年10月には、世界保健機構傘下国際癌研究所により、1群発ガン物質に分類されたりした。
【0007】
ダイオキシンと微細ほこりとに含まれた多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon;PAH)は、細胞内に浸透し、共通して、アリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor;AhR)を活性化させると知られている。AhR活性化メカニズムを介して、細胞内活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)が増加し、AhRとARNTとの異種二量体複合体(heterodimer complex)が核内異名生物反応要素(xenobiotic response element;XRE)に結合し、多様な炎症媒介因子、メラニン合成関連転写因子である小眼球症関連転写要素(microphthalmia−associated transcription factor;Mitf)、しわ生成関連酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteases;MMPs)の発現を増大させ、皮膚においては、皮膚炎、色素過形成(しみ、そばかすなど)、しわなどを起こしてしまう。
【0008】
既存に市場に出されたアンチポリュータント製品は、電荷を利用し、微細ほこりの皮膚吸着を防いだり、皮膚障壁を強化させたりする原料を使用していた。それらは、ダイオキシンや微細ほこりのような環境汚染物質の直接的な作用メカニズムを阻むものではない間接的な保護効果を示す。環境汚染物質が皮膚に直接接触し、皮膚細胞に影響を与える場合、それを阻害させる原料や製品は、開発されていない状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それに対し、本発明者らにより、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドが、ダイオキシン系のうち、毒性が最も強いと知られた2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)に直接にバインディング(binding)し、皮膚内浸透を防ぎ、TCDD及び微細ほこりに含まれた多環芳香族炭化水素によるAhR活性メカニズムを阻む役割を行うと確認された。
【0010】
それゆえに、本発明の目的は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の他の目的は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上を含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用または治療用の薬剤学的組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、配列番号1、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の緩和用及び/または改善用の食品組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上を含む皮膚状態改善用化粧品組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防方法または治療方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、配列番号1、2、または3のアミノ酸配列からなるペプチドの、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用用途または治療用途に係わるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、環境汚染物質に対する細胞保護効能を有するペプチド及びその用途に係わるものであり、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドが、ダイオキシン系のうち、毒性が最も強いと知られた2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)に直接にバインディング(binding)し、皮膚内浸透を防ぎ、TCDD及び微細ほこりに含まれた多環芳香族炭化水素によるAhR活性メカニズムを阻む役割を行うと確認され、そのような直接的な環境汚染物質に対する細胞保護効果は、間接的に物質に対する接触機会を阻んだり、障壁強化を介して毒性を低下させたりする既存の方法とは差別性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDDに対する結合力を示すグラフである。
図1B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDDに対する結合力を示すグラフである。
図1C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDDに対する結合力を示すグラフである。
図2A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すイメージである。
図2B】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図2C】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すイメージである。
図2D】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図2E】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すイメージである。
図2F】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図3A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDD ICC結果を示すグラフである。
図3B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDD ICC結果を示すグラフである。
図3C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのTCDD ICC結果を示すグラフである。
図4A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの細胞内ROS分析結果を示すグラフである。
図4B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドの細胞内ROS分析結果を示すグラフである。
図4C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドの細胞内ROS分析結果を示すグラフである。
図5A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
図5B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
図5C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
図6A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図6B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図6C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのAhR核転座検査結果を示すグラフである。
図7A】本発明の実施例による配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
図7B】本発明の実施例による配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
図7C】本発明の実施例による配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドのCYP1A1及び炎症分子のRT−PCR結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、環境汚染物質に対する細胞保護効能を有するペプチド及びその用途に係わるものであり、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドが、ダイオキシン系のうち、毒性が最も強いと知られた2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)に直接にバインディング(binding)し、皮膚内浸透を防ぎ、TCDD及び微細ほこりに含まれた多環芳香族炭化水素によるAhR活性メカニズムを阻む役割を行うと確認され、そのような直接的な環境汚染物質に対する細胞保護効果は、間接的に物質に対する接触機会を阻んだり、障壁強化を介して毒性を低下させたりする既存の方法とは差別性を有するものである。
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明の一様態は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドに係わるものである。
【0021】
前記ペプチドは、アミノ酸配列の一部部位を選定してその活性を増大させるために、N末端及び/またはC末端の変形が誘導されたものでもある。そのようなN末端及び/またはC末端の変形を介して、本発明のペプチドの安定性を顕著に向上させることができ、例えば、ペプチドの生体内投与時、半減期を増大させることができる。
【0022】
前記N末端変形は、ペプチドのN末端に、アセチル基(acetyl group)、フルオレニルメトキシカルボニル基(fluoreonylmethoxycarbonyl group)、ホルミル基(formyl group)、パルミトイル基(palmitoyl group)、ミリスチル基(myristyl group)、ステアリル基(stearyl group)及びポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)からなる群から選択された保護基が結合したものでもある。前記保護基は、生体内のタンパク質切断酵素の攻撃から、本発明のペプチドを保護する作用を行う。
【0023】
前記C末端変形は、ペプチドのC末端に、ヒドロキシ基(hydroxyl group,−OH)、アミノ基(amino group,−NH)、アジド(azide,−NHNH)などが結合したものでもあるが、それらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の一具現例によれば、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、ダイオキシン系のうち、毒性が最も強いと知られた2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)に直接にバインディング(binding)し、皮膚内浸透を防ぎ、TCDD及び微細ほこりに含まれた多環芳香族炭化水素によるAhR活性メカニズムを阻む効果を示す。
【0025】
細胞内に流入した多環芳香族炭化水素は、AhRと結合して核内に移動し、ARNT(AHR nucleartranslocator)と複合体を形成し、DRE(dioxin−responsive element)に付き、下位遺伝子の発現を促進する。該下位遺伝子には、CYP1A1、及びさまざまな炎症関連因子がある。CYP1A1は、ベンゾピレンのようなさまざまな発癌前駆因子の代謝に関与し、そのように生成された代謝体は、DNAと反応し、突然変異を引き起こすと知られている。また、COX2、TNF−a及びIL−1bのような炎症関連因子の発現を増大させ、接触部位及び全身の炎症反応を誘発したりする。
【0026】
そのような結果は、本発明のペプチドが、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防及び/または治療に、非常にすぐれた効能を有するということを意味する。
【0027】
本発明の他の一様態は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用または治療用の薬剤学的組成物に係わるものである。
【0028】
前記ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病は、非常に複合的に現れ、塩素性にきびのような皮膚疾患、精子数減少、睾丸癌、前立腺癌、子宮内膜増殖症、乳癌、肝毒性、免疫機能低下、高脂血症、尿道下裂、潜伏睾丸、奇形児出産、血管損傷、肝細胞性癌腫、肝肥大、腺線維症、体重損失、毛髪損失、口腔浮腫、眼瞼浮腫または胃粘膜性潰瘍などを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない(Carter et al., Science 188: 738 (1975); Fourth Annual Report on Carcinogens, NTP 85−002: 170, 185 (1985))
【0029】
本明細書の用語「ダイオキシン」は、一般的にマスコミで使用されている用語であり、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(以下、TCDDと呼ばれる)に係わる短縮語として使用されている。しかし、TCDDは、ポリ塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシン(以下、PCDDと呼ばれる)ファミリーの一種であり、PCDDは、塩素原子の位置及び数により、75種の同族体(congener)を有する。生物学的には、TCDDは、最も強力な毒性を有するPCDDと知られている。
【0030】
一方、TCDDと共通した生物学的特性を有する他の芳香族炭化水素が公知されており、例えば、ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDFs)ファミリー及びポリ塩素化ビフェニル(PCBs)ファミリーがある。
【0031】
そのために、本明細書で使用される用語である「ダイオキシン」は、PCDDに含まれる全ての化合物を意味し、「ダイオキシン類似物質」は、前述のPCDD、PCDFs及びPCBsを含むものであり、PCDDと同一細胞的効果を示す物質を意味する。
【0032】
ダイオキシンは、発癌性物質であり、生殖系及びその発生過程の撹乱、免疫体系の損傷、並びにホルモン調節作用の干渉というような深刻な疾病を誘発すると報告されている(Yang, J. H. et al., Carcinogenesis. 20: 13−18 (1999), Lee, Y. W. et al., Toxicol. Lett., 102−103: 29−83 (1998))。
【0033】
米国環境処(EPA)の報告によれば、ダイオキシン及びダイオキシン類似物質に露出されるときに起こる人体内の悪影響に係わる統計として、50年前と比較し、男性の精子数が50%レベルに減少し、睾丸癌発生頻度が3倍ほど上昇し、前立腺癌は、2倍以上増加すると報告された。また、ダイオキシンなどに起因し、過去と異なり、子宮内膜増殖症と、女性の乳癌発生との頻度上昇などが確認されている。
【0034】
前記薬剤学的組成物は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドの薬剤学的有効量を含むものでもある。
【0035】
また、前記薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を追加して含むものでもある。
【0036】
前記薬剤学的に許容される担体は、製剤時に一般的に利用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メティルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、それらに限定されるものではない。適する薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0037】
本発明の薬剤学的組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁液剤、保存剤などを追加して含んでもよいが、それらに限定されるものではない。
【0038】
前記薬剤学的組成物は、経口または非経口、望ましくは非経口で投与され、非経口投与である場合には、筋肉注入、静脈内注入、皮下注入、腹腔注入、局所投与、経皮投与などで投与することができるが、それらに限定されるものではない。
【0039】
前記薬剤学的組成物の投与量は、1日当たり、0.0001乃至1,000μg、0.001乃至1,000μg、0.01乃至1,000μg、0.1乃至1,000μg、または1.0乃至1,000μgでもあるが、それらに限定されるのではなく、製剤化方法、投与方式、患者の年齢・体重・性・病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によっても多様に処方される。
【0040】
前記薬剤学的組成物は、当該発明が属する技術分野で当業者であるならば、容易に実施することができる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位用量形態に製造されるか、あるいは多用量容器内に内入させても製造される。
【0041】
前記剤形は、オイル内または水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるが、あるいはエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態でもあり、分散剤及び/または安定化剤を追加して含んでもよい。
【0042】
本発明のさらに他の一様態は、配列番号1、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、ダイオキシン類似物質に対する拮抗性食品組成物に係わるものである。
【0043】
本発明のさらに他の一様態は、配列番号1、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを有効成分として含む、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の緩和用及び/または改善用の食品組成物に係わるものである。
【0044】
前記ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病は、精子数減少、睾丸癌、前立腺癌、子宮内膜増殖症、乳癌、肝毒性、免疫機能低下、高脂血症、尿道下裂、潜伏睾丸、奇形児出産、血管損傷、肝細胞性癌腫、肝肥大、腺線維症、体重損失、毛髪損失、口腔浮腫、眼瞼浮腫または胃粘膜性潰瘍などを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。
【0045】
前記食品は、各種食品、飲料、食品添加剤などでもある。
【0046】
前記食品組成物に含有された有効成分としてのペプチドの含量は、食品の形態、所望用途などにより、適切に特別な制限がなく、例えば、全体食品重量の0.01乃至15重量%で加えることができ、健康飲料組成物は、100mlを基準に、0.02乃至10g、望ましくは、0.3乃至1gの比率で加えることができる。
【0047】
前記食品が飲料である場合には、指示された比率で、必須成分として、前記ペプチドを含むこと以外には、液体成分には特別な制限点はなく、通常の飲料と共に、さまざまな香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含んでもよい。
【0048】
前記天然炭水化物は、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など、二糖類、例えば、マルトース、スクロースなど、及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンのような一般的な糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。
【0049】
前述のような点以外の香味剤として、天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリチルリシンなど))及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の組成物100ml当たり、一般的には、約1乃至20g、望ましくは、約5乃至12gである。
【0050】
前述の点以外に、本発明の食品組成物は、さまざまな栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及びエクステンダ(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含んでもよい。
【0051】
その他、本発明の食品組成物は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含んでもよい。そのような成分は、独立して、または組み合わせて使用することができる。そのような添加剤の比率は、それほど重要ではないが、本発明の組成物100重量部当たり、0乃至約20重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0052】
本発明のさらに他の様態は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上を含む皮膚状態改善用化粧品組成物に係わるものである。
【0053】
前記化粧品組成物は、(a)前述の本発明ペプチドの化粧品学的有効量(cosmetically effective amount)、及び/または(b)化粧品学的に許容される担体を含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書において、用語「化粧品学的有効量」は、前述の本発明組成物の皮膚状態改善効能を達成するのに十分な量を意味する。
【0055】
前記化粧品組成物は、当業界で一般的に製造されるいかなる剤形にも製造され、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファウンデーション、乳濁液ファウンデーション、ワックスファウンデーション及びスプレーなどにも剤形化されるが、それらに限定されるものではない。さらに詳細には、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレーまたはパウダーの剤形にも製造される。
【0056】
本発明の化粧品の剤形が、ペースト、クリームまたはゲルである場合には、担体成分として、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルクまたは酸化亜鉛などが利用される。
【0057】
本発明化粧品の剤形が、パウダーまたはスプレーである場合には、担体成分として、ラクトース、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムまたはポリアミドパウダーが利用され、特に、スプレーである場合には、追加してクロロフルオロ炭化水素、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルのような推進体を含んでもよい。
【0058】
本発明化粧品の剤形が溶液または乳濁液である場合には、担体成分として、溶媒、溶解化剤または乳濁化剤が利用され、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール、またはソルビタンの脂肪酸エステルがある。
【0059】
本発明の化粧品の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノールまたはプロピレングリコールのような液状の希釈剤;エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル及びポリオキシエチレンソルビタンエステルのような懸濁液剤;微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天またはトラガント;などが利用される。
【0060】
本発明の化粧品の剤形が界面活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分として、脂肪族アルコール硫酸塩、脂肪族アルコールエーテル硫酸塩、スルホコハク酸モノエステル、イソチオン酸塩、イミダゾリニウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテル硫酸塩、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体またはエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどが利用される。
【0061】
本発明の化粧品組成物に含まれる成分は、有効成分としてのペプチド、及び担体成分以外に、化粧品組成物に一般的に利用される成分を含み、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料及び香料のような一般的な補助剤を含んでもよい。
【0062】
本発明の用語「皮膚状態改善」とは、皮膚の内在的要因または外因的な要因によって誘発される皮膚の損傷を治療、軽減、緩和させる過程、またはその効果などを包括的に意味し、例えば、皮膚で生じる炎症の緩和、改善などの効果を示すとも解釈されるが、それらに限定されるものではない。
【0063】
本発明のさらに他の様態は、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防方法または治療方法に係わるものである。
【0064】
前述の予防方法または治療方法は、配列番号1、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択された1種以上のペプチドを含む薬剤学的組成物を対象に接触させる段階を含むものでもある。
【0065】
前記薬剤学的組成物は、すでに説明したものと同一である。
【0066】
本発明のさらに他の様態は、配列番号1、2、または3のアミノ酸配列からなるペプチドの、ダイオキシン類似物質によって誘発される疾病の予防用用途または治療用途に係わるものである。
【0067】
前記配列番号1、2、または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、すでに説明したものと同一である。
【0068】
本明細書の用語「ペプチド」は、ペプチド結合により、アミノ酸残基が互いに結合されて形成された線形の分子を意味する。本発明のペプチドは、当業界に公知された化学的合成方法、特に、固相合成技術(solid−phase synthesis techniques; Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85: 2149−54 (1963); Stewart, et al., Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd. ed., Pierce Chem. Co.: Rockford, 111 (1984))、または液状合成技術(米国登録特許第5,516,891号明細書)によっても製造される。
【0069】
本明細書の用語「安定性」は、インビボ安定性だけではなく、保存安定性(例えば、常温保存安定性)も意味する。
【0070】
本明細書において、用語「薬剤学的有効量」は、前述のペプチドの効能または活性を達成するのに十分な量を意味する。
【0071】
配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドに係わるものである。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について、下記の実施例により、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を例示するためのものであるのみ、本発明の範囲は、それら実施例によって限定されるものではない。
【0073】
製造例.配列リストの合成
クロロトリチルクロリドレジン(Chloro trityl chloride resin;CTC resin,Nova biochem Cat No.01−64−0021)70gを反応容器に入れ、塩化メチレン(MC)490mlを加えて3分間撹拌した。次に、溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)490mlを入れて3分間撹拌した後、さらに溶媒を除去した。次に、反応器に、700mlのジクロロメタン溶液を入れ、Fmoc−Tyr(tBu)−OH(Bachem、スイス)200mモル及びジイソプロピルエチルアミン(DIEA)400mモルを入れた後、撹拌して良好に溶かし、1時間撹拌しながら反応させた。次に、洗浄し、メタノールとDIEA(2:1)とをジクロロメタン(DCM)に溶かし、10分間反応させ、過量のDCM/DMF(1:1)で洗浄した。次に、溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)を490ml入れて3分間撹拌した後、さらに溶媒を除去した。脱保護溶液(20%のピペリジン(Piperidine)/DMF)700mlを反応容器に入れ、10分間常温で撹拌した後、溶液を除去した。同量の脱保護溶液を入れ、さらに10分間反応を維持させた後、溶液を除去し、それぞれ3分ずつDMFで2回、MCで1回、DMFで1回洗浄し、Tyr(tBu)−CTLレジンを製造した。
【0074】
新たな反応器に、700mlのDMF溶液を入れ、Fmoc−Arg(Pbf)−OH(Bachem、スイス)200mモル、HoBt 200mモル及びHBTu 200mモルを入れた後、撹拌してよく溶かした。該反応器に、400mモルDIEAを分画し、2回にわたって入れた後、全ての固体が溶けるまで最低5分間撹拌した。溶けたアミノ酸混合溶液を、脱保護されたレジンがある反応容器に入れ、1時間常温で撹拌しながら反応させた。反応液を除去し、DMF溶液で3回5分間ずつ撹拌した後で除去した。反応レジンを少量取り、カイザーテスト(Ninhydrin Test)を利用し、反応程度を点検した。脱保護溶液で、前述のように同一に、2回脱保護反応させ、Arg(Pbf)−Tyr(tBu)−CTLレジンを製造した。DMFとMCとで十分に洗浄し、さらに1回カイザーテストを行った後、前述と同様にして、以下のアミノ酸付着実験を行った。選定されたアミノ酸配列により、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−Trp−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OHの順序で連鎖反応を行わせた。Fmoc−保護基を脱保護溶液で10分間ずつ2回反応させた後、よく洗浄して除去した。ペプチジルレジンを、DMF、MC及びメタノールでそれぞれ3回を洗浄し、窒素空気を徐々に流して乾燥させた後、P下で真空に減圧し、完全に乾燥させた後、脱漏溶液[トリフルオロ化酢酸(Trifluroacetic acid)81.5%、蒸溜水5.0%、チオアニソール(Thioanisole)5.0%、フェノール(Phenol)5.0%、エタンジチオール(EDT)2.5%、トリイソプロピルシラン(TIS,Triisopropylsilane)1.0%]1,900mlを入れた後、常温で振盪し、2時間反応を維持した。フィルタリングを行い、レジンを濾し出し、レジンを少量のTFA溶液で洗浄した後、母液と合わせた。合わされた母液2,090mlは、冷たいエーテルを加えて沈澱を誘導した後、遠心分離して沈澱を集め、2回さらに冷たいエーテルで洗浄した。母液を除去し、窒素下で十分に乾燥させ、精製前の配列番号1からなるペプチド79.8gを合成した(収率:97.0%)。分子量測定器を利用しての分子量測定時、分子量822.9(理論値:822.9)を得ることができた。
【0075】
配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドも、前述のような方法で合成を進めた。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1.試験管内結合分析
ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)用プレートに、配列番号1、2、3ペプチドを、それぞれ1.8mMの濃度で、コーティングバッファ(20mMリン酸ナトリウムpH9.6)と混ぜ、4℃条件で一晩培養した。次に、PBST(Phosphate bufferedsaline with Tween−20)で洗浄した後、3% BSA(bovine serum albumin)で、2時間室温でのブロッキング(blocking)を進めた。次に、さらにPBSTで洗浄した後、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)をウェル当たり2μM添加し、2時間室温で培養した。次に、PBSTで洗浄した後、FITC(Fluorescein isothiocyanate)が結合されている抗TCDD抗体を、抗体:PBST=1:100の比率で処理し、2時間室温で培養を進めた。次に、PBSTで洗浄した後、励起488nm/蛍光520nm値を蛍光測定器で測定し、その結果を、図1A乃至図1C、及び表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
図1A乃至図1C、及び表2から確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、TCDDに対する直接的な結合力を示すということを確認した。
【0080】
実施例2.AhR核転座検査(nuclear translocation test)
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種後、一晩培養した。次に、TCDD 10nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を1時間処理し、細胞を回収し、核と細胞質タンパク質とをそれぞれ分離した。AhR(Aryl hydrocarbon receptor)抗体(santacruz biotechnology、米国)を利用したウェスタンブロットを行い、活性化されたAhR核移動を確認し、その結果を、図2A乃至図2F、及び表3に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
図2A乃至図2F、及び表3から確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、TCDDによるAhR核移動を抑制するということを確認した。
【0083】
実施例3.TCDD ICC
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種した後、一晩培養した。次に、TCDD 50nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を5分間処理し、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で30分間固定させた。次に、3回の洗浄後、0.5%トリトンX−100で15分間反応させて3回洗浄した。次に、3% BSAで1時間ブロッキングし、FITC(Fluorescein isothiocyanate)が結合されたTCDDに対する一次抗体(1:100)を4℃で一晩反応させた。DAPI(4,6−diamidino−2−phenylindole)の染色及びマウンティングを行い、蛍光顕微鏡で観察し、その結果を、図3A乃至図3Cに示した。
【0084】
図3A乃至図3Cから確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、TCDDの細胞内流入を阻害した。
【0085】
実施例4.細胞内ROS分析
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3x10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種した後、一晩培養した。次に、TCDD 10nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を24時間処理し、DCFH−DAを30分間追加処理した。次に、細胞回収後、FACS分析を介し、平均FL1値の変化を観察し、その結果を、図4A乃至図4Cに示した。
【0086】
図4A乃至図4Cから確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、TCDDによって上昇した細胞内ROSレベルを低くした。
【0087】
実施例5.CYP1A1及び炎症分子のRT−PCR
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種した後、一晩培養した。次に、TCDD 10nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を6時間または24時間処理し、細胞を回収し、RNAを分離した。RNA定量後、cDNA合成キット(Intron、韓国)を利用し、cDNAを合成し、PCRプレミックス(Intron、韓国)、及び下記表4のCYP1A1、TNF−a、IL−6、IL−1b、COX−2それぞれに係わるプライマーを利用し、PCRを進めた。次に、5%アガロースゲルにランニングさせ、各サンプル処理条件で、前記成長因子のmRNA発現程度を比較し、その結果を、図5A乃至図5Cに示した。
【0088】
【表4】
【0089】
図5A乃至図5Cから確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、TCDDによって誘導されるCYP1A1、及びさまざまな炎症関連因子の発現を抑制する効果を示した。
【0090】
実施例6.AhR核転座検査
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種した後、一晩培養した。Urban particulate matters(PM,Sigma Aldrich、米国)10nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を1時間処理し、細胞を回収し、核と細胞質タンパク質とをそれぞれ分離した。次に、AhR(Aryl hydrocarbon receptor)抗体(santacruz biotechnology、米国)を利用したウェスタンブロットを行い、活性化されたAhR核移動を確認し、その結果を、図6A乃至図6Cに示した。
【0091】
図6A乃至図6Cから確認することができるように、配列番号1,2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、微細ほこりによるAhR核移動を抑制した。
【0092】
実施例7.CYP1A1及び炎症分子RT−PCR
ヒト角質形成細胞であるHaCaTを、3×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに播種した後、一晩培養した。PM(Particulate matter)10nMと、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチド50μMとを培地に添加し、30分間の反応後、細胞を6時間または24時間処理し、細胞を回収し、RNAを分離した。次に、RNAを定量し、cDNA合成キット(Intron、韓国)を利用し、cDNAを合成し、PCRプレミックス(Intron、韓国)、及び下記表5のCYP1A1、TNF−a、IL−6、IL−1b、COX−2それぞれに係わるプライマーを利用してPCRを進めた。次に、5%アガロースゲルにランニングさせ、各サンプル処理条件において、前記成長因子のmRNA発現程度を比較し、その結果を、図7A乃至図7Cに示した。
【0093】
【表5】
【0094】
図7A乃至図7Cから確認することができるように、配列番号1、2または3のアミノ酸配列からなるペプチドは、微細ほこりによって誘導されるCYP1A1、及びさまざまな炎症関連因子の発現を抑制する効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、環境汚染物質に対する細胞保護効能を有するペプチド及びその用途に係わるものである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]