(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896110
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを動作時に特定する方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20210621BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D45/00 372
F02D45/00 364D
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-565371(P2019-565371)
(86)(22)【出願日】2018年5月30日
(65)【公表番号】特表2020-521909(P2020-521909A)
(43)【公表日】2020年7月27日
(86)【国際出願番号】EP2018064237
(87)【国際公開番号】WO2018220045
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】102017209386.2
(32)【優先日】2017年6月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519031896
【氏名又は名称】ヴィテスコ テクノロジーズ ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Vitesco Technologies GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】フランク マウラー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス デルプ
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/080711(WO,A1)
【文献】
独国特許発明第000010346734(DE,B3)
【文献】
独国特許出願公開第03506114(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸込み路の実際の吸入管長を動作時に特定する方法であって、
前記内燃機関の吸込み路または排出路における、前記内燃機関のシリンダに対応付け可能な動的な圧力振動を、通常動作時に所定の動作点において測定し、前記圧力振動から、対応する圧力振動信号を生成し、同時に前記動的な圧力振動の前記測定と時間的に関連させて前記内燃機関のクランクシャフト位相角度信号を特定し、
離散フーリエ変換を用い、前記圧力振動信号から、前記クランクシャフト位相角度信号を基準にして、測定した前記圧力振動の少なくとも1つの選択した信号周波数の少なくとも1つの特性の少なくとも1つの実際値を特定する、
内燃機関の吸込み路の実際の吸入管長を動作時に特定する方法において、
前記吸込み路の種々異なる吸入管長と、それぞれ同じ前記信号周波数のそれぞれ対応する前記特性の基準値との間の関係に基づき、それぞれの前記特性の特定した少なくとも1つの前記実際値に対応する前記内燃機関の前記吸込み路の実際の前記吸入管長を特定する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのそれぞれの基準値・特性マップに、前記吸込み路の前記吸入管長に依存して、それぞれの前記特性の前記基準値が用意されているか、または
それぞれ対応する前記特性のそれぞれの前記基準値を計算によって特定し、かつ前記特性と、前記吸込み路の前記吸入管長との間の関係を表す、少なくとも1つのそれぞれの代数モデル関数が設けられている、
ことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
選択した前記信号周波数のそれぞれの前記特性の前記実際値の前記特定と、前記内燃機関の前記吸込み路の実際の前記吸入管長の特定とを、前記内燃機関に対応付けられている電子計算ユニットを用いて行い、
それぞれの前記基準値・特性マップまたはそれぞれの前記代数モデル関数は、前記電子計算ユニットに対応付けられている、少なくとも1つの記憶領域に記憶されている、
ことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの選択した信号周波数に対するそれぞれの前記特性の前記基準値を、前以て、基準内燃機関において、前記吸込み路の種々異なる吸入管長に依存して特定しておく、ことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項5】
選択した前記信号周波数のそれぞれの前記特性の前記基準値と、前記吸込み路の対応する前記吸入管長とから、選択した前記信号周波数の前記特性と、前記吸込み路の前記吸入管長との間の関係を表す、それぞれ1つのモデル関数を導出する、ことを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
選択したそれぞれの前記信号周波数のそれぞれの前記特性の前記基準値の前以ての前記特定は、前記吸込み路の所定の基準吸入管長をあらかじめ設定して、少なくとも1つの所定の動作点において基準内燃機関を計測することによって特徴付けられており、
それぞれ選択した前記信号周波数のそれぞれの前記特性の前記基準値を特定するために、
前記基準内燃機関のシリンダに対応付け可能な、前記吸込み路または前記排出路における動的な前記圧力振動を動作時に測定し、対応する圧力振動信号を生成し、
同時にクランクシャフト位相角度信号を特定し、
離散フーリエ変換を用いて、前記圧力振動信号から、前記クランクシャフト位相角度信号を基準にして、測定した前記圧力振動のそれぞれ選択した前記信号周波数のそれぞれの前記特性の前記基準値を特定し、
前記吸込み路の対応する前記吸入管長に依存して、基準値・特性マップに、特定した前記基準値を記憶する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
測定した前記圧力振動の少なくとも1つの前記特性として、少なくとも1つの選択した信号周波数の位相角度もしくは振幅、または位相角度および振幅を考慮する、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの可変式吸入管を用いて、または少なくとも1つの位置調整可能なスワールフラップを用いて、または複数の前記構成要素からなる組み合わせを用いて、前記吸込み路の前記吸入管長が調整または設定可能である、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
選択した前記信号周波数は、吸込み周波数、または前記吸込み周波数の逓倍である、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記内燃機関(1)の前記吸込み路の実際の前記吸入管長を特定する際に、以下の別の複数の動作パラメータ
前記吸気路において吸い込まれる媒体の温度、
前記内燃機関の冷却に使用される冷却剤の温度、
前記内燃機関のエンジン回転数
のうち少なくとも1つを付加的に考慮する、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
大量生産による圧力センサ(44)を用いて、前記吸込み路における動的な前記圧力振動を測定する、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
歯車およびホールセンサを用いて、クランクシャフト位置フィードバック信号を特定する、ことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記電子計算ユニット(53)は、前記内燃機関(1)を制御するエンジン制御ユニット(50)の構成部分であり、前記エンジン制御ユニット(50)により、前記吸込み路の特定した実際の前記吸入管長に依存して、前記内燃機関(1)を制御するための別の制御量または制御ルーチンの適合化を行う、ことを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動作中に吸気路または排気路において測定される圧力振動信号から、内燃機関の吸込み路の実際のトリミング(Trimmung)を特定する方法に関する。
【0002】
この関連においてまたは以下で略して単に内燃機関とも称される往復動内燃機関は、それぞれ1つの往復動ピストンが配置されている1つまたは複数のシリンダを有する。往復動内燃機関の原理を説明するために、以下では、
図1を参照する。
図1は、例示的に、最も重要な機能ユニットと共に、場合によっては多気筒でもある内燃機関のシリンダを示している。
【0003】
それぞれの往復動ピストン6は、直線運動するようにそれぞれのシリンダ2に配置されており、シリンダ2と共に燃焼室3を包囲する。それぞれの往復動ピストン6は、いわゆるコネクティングロッド7を介して、クランクシャフト9のそれぞれのクランクピン8に接続されており、クランクピン8は、クランクシャフト回転軸線9aに対して離心して配置されている。燃焼室3において燃料空気混合気が燃焼することにより、往復動ピストン6は、直線的に「下方」に駆動される。往復動ピストン6の並進ストローク運動は、コネクティングロッド7およびクランクピン8を介して、クランクシャフト9に伝達されてクランクシャフト9の回転運動に変換され、この回転運動は、シリンダ2における下死点を越えた後、その質量慣性により、上死点まで、反対方向に「上方」に往復動ピストン6を再び移動させる。内燃機関1の連続動作を可能にするためには、シリンダ2のいわゆる動作サイクル中に、まずは、いわゆる吸気路を介して燃焼室3に燃料空気混合気を充填し、燃焼室3においてこの燃料空気混合気を圧縮し、次に(ガソリン内燃機関の場合は点火プラグを用いて、またはディーゼル燃焼機関の場合は自己着火により)点火して、往復動ピストン6を駆動するために燃焼させ、最後に燃焼の後に残っている排ガスを燃焼室3から排気路に押し出す。このフローを連続して繰り返すことにより、燃焼エネルギに比例する仕事を出力して、内燃機関1の連続動作が行われる。
【0004】
エンジンコンセプトに応じて、シリンダ2の動作サイクルは、クランクシャフトの1回転(360°)にわたって2つに分割されるストローク(2ストロークエンジン)、またはクランクシャフトの2回転(720°)にわたって4つに分割されるストローク(4ストロークエンジン)に分類される。
【0005】
自動車用の駆動装置としては、今日まで4ストロークエンジンが定着している。吸入サイクルでは、往復動ピストン6が下降運動する際に、(
図1において択一的な例として破線で示されている、噴射弁5aを用いた吸入管噴射では)燃料空気混合気21が、または(噴射弁5を用いた燃料直接噴射では)新鮮空気だけが、吸気路20から燃焼室3に取り込まれる。次の圧縮サイクルでは、往復動ピストン6が上昇運動する際に、燃料空気混合気または新鮮空気が燃焼室3で圧縮され、場合によって別の燃料が噴射弁5によって噴射される。次の動作サイクルでは、燃料空気混合気が、例えば、ガソリン内燃機関では点火プラグ4によって点火され、燃焼され、往復動ピストン6が下降運動する際に仕事を出力して膨張する。最後に、排気サイクルにおいて、往復動ピストン6が再度、上昇運動する際に、残存している排ガス31が燃焼室3から排気路30に吐出される。
【0006】
内燃機関1の、燃焼室3と、吸気路20または排気路30との画定は、一般に、また特にここでベースにしている実施例において、吸気弁22および排気弁32を介して行われる。これらの弁の駆動制御は、今日の従来技術によれば、少なくとも1つのカムシャフトを介して行われる。図示した実施例は、吸気弁22を操作する吸気側カムシャフト23と、排気弁32を操作する排気側カムシャフト33とを有する。これらの弁と、それぞれカムシャフトとの間には、多くの場合にさらに別の、ここでは図示しない、力を伝達するための複数の機械的な構成部分が設けられており、これらの構成部分は、バルブラッシュ補償部も有していてよい(例えば、バケットタペット、シーソ型ロッカアーム、スイングアーム型ロッカアーム、タペットロッド、液圧タペットなど)。
【0007】
吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の駆動は、内燃機関1それ自体によって行われる。このために吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33は、それぞれ、例えば、歯車、スプロケットまたはプーリのような適切な吸気側カムシャフト制御アダプタ24および排気側カムシャフト制御アダプタ34を介して、例えば歯車伝動装置、制御チェーンまたは制御歯付きベルトを有する制御伝動装置40により、互いにあらかじめ設定された位置に接続されており、かつ対応する歯車、スプロケットまたはプーリとして構成されている、対応するクランクシャフト制御アダプタ10を介してクランクシャフト9に接続されている。この接続により、クランクシャフト9の回転位置に関係して、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の回転位置が基本的に定められる。
図1には、例示的に、吸気側カムシャフト23と、排気側カムシャフト33と、クランクシャフト9との間の接続が、プーリおよび制御歯付きベルトを用いて示されている。
【0008】
一動作サイクルにわたって進む、クランクシャフトの回転角度を、以下では動作位相または単に位相と称する。一動作位相内に進む、クランクシャフトの回転角度を、これに対応して位相角度と称する。クランクシャフト9のそれぞれの実際のクランクシャフト位相角度は、クランクシャフト9またはクランクシャフト制御アダプタ10に接続されている位置エンコーダ43と、対応するクランクシャフト位置センサ41とによって連続して検出することが可能である。位置エンコーダ43は、例えば、円周にわたって等間隔に分配されて配置されている複数の歯を備えた歯車として構成されていてよく、個々の歯の数により、クランクシャフト位相角度信号の分解能が決定される。
【0009】
同様に、場合によっては付加的に、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の実際の位相角度を、対応する位置エンコーダ43と、対応付けられているカムシャフト位置センサ42とによって連続して検出してもよい。
【0010】
それぞれのクランクピン8は、またこれに伴って往復動ピストン6は、吸気側カムシャフト23は、またこれに伴ってそれぞれの吸気弁22は、ならびに排気側カムシャフト33は、またこれに伴ってそれぞれの排気弁32は、あらかじめ設定された機械的な接続により、互いにあらかじめ設定された関係で、かつクランクシャフト回転に依存して運動するため、これらの機能構成要素は、クランクシャフトに同期して、それぞれ動作位相を進む。これにより、往復動ピストン6、吸気弁22および排気弁32のそれぞれの回転位置およびストローク位置は、それぞれの伝達比を考慮して、クランクシャフト位置センサ41によってあらかじめ設定される、クランクシャフト9のクランクシャフト位相角度に関連付けることができる。したがって、理想的な内燃機関では、それぞれの所定のクランクシャフト位相角度に、所定のクランクピン角度、所定のピストンストローク、所定の吸気側カムシャフト角度、ひいては所定の吸気弁ストロークおよび特定の排気カムシャフト角度、ひいては所定の排気側カムシャフトストロークを対応付けることができる。すなわち、上記のすべての構成要素は、回転しているクランクシャフト9と同位相であり、もしく同位相で運動する。
【0011】
エンジン機能を制御する、プログラミング可能な電子エンジン制御ユニット50(CPU)もシンボリックに示されており、このエンジン制御ユニットには、多様なセンサ信号を受信する信号入力部51と、対応する調整ユニットおよびアクチュエータを駆動制御する信号出力部およびパワー出力部52と、電子計算ユニット53と、対応付けられている電子記憶ユニット54とが具備されている。
【0012】
内燃機関のいわゆる吸排気入替により、すなわち、吸気路とも称される吸込み路20から燃焼室3への、新鮮空気21もしくは燃料空気混合気の吸い込みと、燃焼の後に行われる排ガス31の、排気路とも称される排出路30への押し出しとの、往復動ピストン6の往復運動ならびに吸気弁22および排気弁32の開閉に依存して行われる吸排気入替により、吸込み路における吸込み空気もしくは空気燃料混合気に、および排出路における排ガスに圧力振動が形成され、これらの圧力振動も、クランクシャフト9の回転と同位相で経過し、したがってクランクシャフト位相角度を基準にして設定することができる。
【0013】
内燃機関の動作を最適化するために、以前からすでに従来技術の一部になっているのは、動作時にセンサによって絶え間なく所定の実際動作パラメータを検出し、目標動作から偏差した際に、電子エンジン制御装置を用いて、影響を及ぼす制御パラメータを適合化もしくは補正することである。ここで今まで焦点になっていたのは、燃料噴射量、噴射時点および点火時点、弁制御時間、過給圧、供給される空気質量、排ガス組成(ラムダ値)、排ガス温度などである。
【0014】
内燃機関の排ガス組成および排ガス量に対する法的な要求が世界的に絶えず厳しくなっていることにより、最近では、いわゆる「ダウンサイジング」の開発傾向が生じており、ここでは、行程容積が小さくされ、また燃焼室に空気燃料混合気をより良好に充填して、これによって結果的に大きな燃焼エネルギを得るための択一的な手段を用いて出力が増大される。これは、例えば、排気ターボ過給または電動過給によって行うことが可能である。
【0015】
類似の作用を達成するための別の選択肢は、吸込み路を最適に設計すること、またはいわゆる可変式吸込み路を使用することである。この設計は、所定の回転数領域において共振振動を形成するいわゆる共振器に関わるものであってよく、吸込み路の変化形態は、例えば、切換式吸入管または可変式吸入管または内燃機関の吸込み路におけるいわゆるスワールフラップなどの種々異なる構成上の手段を含んでいてよい。
【0016】
共振器の作用および切換式吸入管もしくは可変式吸入管の作用は、すでに上で述べた、吸排気入替によって誘導される、吸込み路における気柱の気体振動の原理に基づいている。例えば、吸気路には負圧波が発生し、この負圧波は、吸入管の端部において反射されかつ再び過圧波として戻る。これにより、燃焼室においてすでに吸い込まれた空気もしくは空気燃料混合気が、吸込み路に逆流することを阻止することができるか、または、戻って来る過圧波が、開放された吸気弁に衝突する場合には、戻って来る過圧波により、過給作用さえも得ることが可能である。この関連において、吸気弁の制御時間と、吸気サイクルと、気体振動との間に所定のリズムが発生する共鳴効果が話題にされており、この所定のリズムは、改善されたシリンダ充填に、ひいてはより高い出力に結び付く。この作用は、相応に設計された共振器を吸込み路に配置することによって得ることが可能である。
【0017】
気柱のこの振動過程は、つねに音速で経過するが、吸気弁の開放時間は、内燃機関の実際の回転数に、すなわちクランクシャフトの回転数に依存するため、この作用は、所定の回転数の領域においてのみ発生し、したがって、所定の平均の回転数において高出力、特に大きな回転トルクをもたらす共振器または吸入管長の設計を得るための努力がなされる。
【0018】
内燃機関の種々異なる回転数において、または広範囲の回転数帯域にわたってこの作用を利用できるようにするために、例えば、回転数に依存して吸入管の長さを変化させることが可能である。従来技術からは、2つまたはそれよりも多くの吸入管長間で切り換えることが可能な、いわゆる切換式吸入管が公知である。しかしながら無段階で変化させることができる吸入管長を有する吸入管も公知である。このような装置は、
図2aおよび2bに簡略化されて略示されている。
図2aおよび2bには、可変に調整可能な吸入管60と、エアフィルタ62とが吸込み路20の領域に補足されている、
図1に示した内燃機関と同じ内燃機関がそれぞれ示されている。吸入管調整61は、矢印によってシンボリックに示されている。
図2aには、例えば、内燃機関の高回転数用に、短い吸入管長を有する吸入管の設定が示されている。
図2bは、
図2aと同じ装置が示されているが、例えば、低回転数用に、最大の吸入管長を有する吸入管の設定で示されている。ここでは、吸入管の長さは、(ここには図示されていない)調整装置によって、吸入管湾曲部を軸方向に移動することによって変化させることができ、これにより、例えば、回転数に依存して、内燃機関のそれぞれの動作点に適合させることが可能である。
【0019】
燃焼室の充填特性および混合気処理に影響を与える別の選択肢は、いわゆるスワールフラップを配置することであり、このスワールフラップは、特に、スワールフラップが閉鎖されている際に、低回転数において良好な乱流、すなわち空気燃料混合気の混合を保証し、またスワールフラップが開放されている際には、燃焼室の良好な充填を保証するために、1シリンダ当たりに2つの吸気弁を備えた内燃機関に使用される。スワールフラップを操作することにより、吸入管の開放されている吸込み断面積が変化する。
【0020】
可変の吸入管長と、スワールフラップを用いた可変の吸込み管断面積との、吸込み路における上記の手段、特に共振器の配置および設計を、以下では「吸込み路のトリミング」という語でまとめて考察する。
【0021】
内燃機関の上記の動作パラメータについてすでに説明したように、ここでは、設定された吸込み路のトリミングの本当の実際値と、あらかじめ設定された目標値とを比較し、場合によって補正的に介入できることも重要である。このためには、吸込み路の実際のトリミングを確実に検出しなければならない。これは、例えば、可変のトリミングでは、従来、アクチュエータの移動量を検出することによって間接的にのみ可能である。この際には不確実さが残存している。というのは、場合によっては作動システムに存在する許容差または誤差が検出されないからである。
【0022】
しかしながら、それ自体一定の吸込み路のトリミングを有する内燃機関においても、例えば、摩耗現象を早期に識別するために、またはいわゆるオンボード診断(OBD On Board Diagnose)のために、ならびに別の動作パラメータの妥当性検査のために、または、例えば、チューニング処置の枠内で吸込み路が変更される場合に内燃機関のメカニズムへの機械的な外部干渉を識別するために、吸込み路の実際のトリミングを動作時に特定することが望ましい。
【0023】
したがって本発明の課題は、可能な限りに、付加的なセンサ装置および装置技術的なコストなしに、吸込み路のトリミングを補正することを目的とし、また進行中の動作の最適化も行うことを目的として、対応して動作パラメータの適合化を行うことができるようにするために、実際的に進行中の動作時に、吸込み路の実際のトリミングを可能な限りに正確に特定できるようにすることである。
【0024】
この課題は、主請求項に記載した、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを動作時に特定する、本発明による方法を実施することによって解決される。本発明による方法の発展形態および変形実施形態は、従属請求項の対象である。
【0025】
以下に示す上記の課題の解決においてベースとした知識は、吸込み路のトリミングと、吸込み路における圧力振動との間に一意の関係が存在することである。しかしながら排出路における圧力振動も、吸込み路のトリミングと一意の関係を有しており、例えば、変化した吸排気入替特性を介して、また場合によっては吸気弁の開放時間および排気弁の開放時間の存在する時間的な重複を介して、吸込み路のトリミングと一意の関係を有する。これにより、上記の課題の解決のために、吸込み路における圧力振動も、排出路における圧力振動も共に考慮することが可能である。
【0026】
本発明による方法の一実施形態によれば、関係する内燃機関の吸込み路または排出路において、内燃機関のシリンダに対応付け可能な動的な圧力振動を、通常動作時に所定の動作点において測定し、この圧力振動から、対応する圧力振動信号を生成する。同時に、すなわち時間的な関連において、いわば圧力振動信号に対する基準信号または参照信号として、内燃機関のクランクシャフト位相角度信号を特定する。
【0027】
考えられ得る動作点は、例えば、あらかじめ設定された回転数におけるアイドリング運転である。有利には、圧力振動信号への別の影響を可能な限りに排除するかまたは少なくとも最小化することに注意する。通常動作は、例えば自動車において、内燃機関の規定通りの動作の特徴を示しており、この内燃機関は、同じ構造の内燃機関の一シリーズの一サンプルである。このような内燃機関についての別の慣用の呼称は、シリーズ内燃機関またはフィールド内燃機関となろう。
【0028】
吸込み路または排出路において測定される圧力振動は、吸込み路内の吸込み空気もしくは吸い込まれた空気燃料混合気における圧力振動、もしくは排出路内の排気ガスにおける圧力振動である。
【0029】
離散フーリエ変換を用い、圧力振動信号から、クランクシャフト位相角度信号を基準にして、測定した圧力振動の少なくとも1つの選択した信号周波数の少なくとも1つの特性の少なくとも1つの実際値を特定する。
【0030】
この方法ではこれに続いて、それぞれの特性の特定した少なくとも1つの実際値に基づき、吸込み路の種々異なるトリミングに対し、それぞれ同じ信号周波数のそれぞれ対応する特性の基準値を考慮して、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを特定する。
【0031】
内燃機関の吸込み路または排出路において記録した圧力振動信号を解析するために、この圧力振動信号に対して離散フーリエ変換(DFT)を行う。このためには、DFTを効率的に計算する、高速フーリエ変換(FFT)として公知のアルゴリズムを考慮することができる。DFTを用いて、圧力振動信号が個々の信号周波数に分解され、これらの信号周波数は、以降、その振幅および位相位置について別々に容易に分析可能である。このケースにおいて明らかになったのは、圧力振動信号の選択した信号周波数の位相位置も振幅も共に、それぞれの内燃機関の吸込み路のトリミングに依存することである。有利にはこのために、基本周波数もしくはいわゆる第1高調波である、内燃機関の吸込み周波数、または吸込み周波数の逓倍、すなわち第2高調波から第n高調波に対応する信号周波数だけを使用する。この吸込み周波数は、ここでも、回転数と一意の関係を有し、ひいては、すなわち内燃機関の燃焼サイクルまたは位相サイクルと一意の関係を有する。次に、少なくとも1つの選択した信号周波数について、並行して検出したクランクシャフト位相角度信号を考慮し、クランクシャフト位相角度を基準にして、選択したこの信号周波数の特性として位相位置、振幅、またはこれらの2つについての少なくとも1つの実際値を特定する。
【0032】
圧力振動信号の選択した信号周波数の特性のこのようにして特定した実際値から、吸込み路の実際のトリミングを特定するために、内燃機関の吸込み路の種々異なるトリミングに対し、特定した特性の値と、それぞれ同じ信号周波数のそれぞれ対応する特性のいわゆる基準値とを比較する。それぞれの特性のこれらの基準値には、吸込み路の対応するトリミングが一意に対応付けられている。これにより、特定した実際値と一致する基準値を介して、吸込み路の対応するトリミングを推定することが可能である。
【0033】
本発明による方法の利点は、いずれにせよシステムに設けられているセンサを用いて特定でき、かついずれせよ設けられているエンジン制御用の電子計算ユニットを用いて分析もしくは処理することができるそれぞれの圧力信号だけに基づいて、ひいては付加的な装置技術的コストなしに、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを特定できることである。この場合には、必要であれば、これに基づいて、内燃機関の制御パラメータと、特に吸込み路のトリミング設定とを、補正的に変化させ、これにより、目標値に到達させるかまたはそれぞれの動作点における最適動作が保証されるようにすることが可能である。
【0034】
本発明のベースにある内燃機関の機能の仕方を説明するために、また吸込み路のトリミングと、所定の選択した信号周波数において、吸込み路もしくは排出路で測定した圧力振動信号の、位相位置および振幅のような特性との間の関係を説明するために、ならびに従属請求項に記載した、本発明の対象の特に有利な実施例、詳細または発展形態を説明するために、以下では、図面を参照するが、本発明の対象はこれらの実施例に限定されるべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】重要な機能構成要素と共に、ここでは略して内燃機関と称される往復動内燃機関を示す概略図である。
【
図2a】短縮された設定における吸入管長が示されている、吸入管長による吸込み路のトリミングを説明する、
図1に示した内燃機関の概略図である。
【
図2b】最大設定における吸入管長が示されている、吸入管長による吸込み路のトリミングを説明する、
図1に示した内燃機関の概略図である。
【
図3】種々異なる信号周波数における、圧力振動信号の位相位置と、吸入管長との間の依存性の例を示す線図である。
【
図4】種々異なる信号周波数における、圧力振動信号の振幅と、吸入管長との間の依存性の例を示す線図である。
【
図5】圧力振動信号の位相位置の、実際的に特定した値から出発して、吸込み路のトリミングの具体的な値を特定する、吸込み路のトリミングに依存して信号周波数の参照位相位置を示す線図である。
【
図6】本発明による方法の実施の概略を示すブロック図である。
【0036】
機能および名称が同じ対象物には、複数の図にわたって同じ参照符号が付されている。
【0037】
図1および2については、すでに、内燃機関の動作原理の先の説明において、また吸込み路のトリミングの説明のために詳しく検討した。
【0038】
すでに上で述べたように、本発明による方法を実行する際に前提とするのは、上記の量相互の関係および依存性が、一意に既知であることである。これらの関係を、以下では、吸込み路において測定した圧力振動信号について説明するが、これらの関係は、排出路における圧力振動信号についても同様に当てはまる。
【0039】
図3では、例示的に、吸込み路における圧力振動信号の位相位置という特性に基づき、吸込み路のトリミングに依存して、この関係が示されており、ここではこの関係は、例示的に、種々異なる信号周波数において、可変の吸入管長に基づき、%で示されている。ここで明らかになったのは、種々異なる信号周波数において、吸入管長の増大に伴い、位相位置の値の全く異なる経過が生じることである。個々の測定点間を補間することにより、それぞれ1つの連続的に経過する曲線が得られ、曲線101は、吸込み周波数において、吸入管長が増大すると、上昇する経過を有し、曲線102は、吸込み周波数の2倍の周波数において、はじめのうちは下降し、次にはほぼ一定に止まる経過を有し、曲線103は、吸込み周波数の3倍の周波数において、吸入管長が増大すると、下降する経過を有する。上記の曲線101、102および103は、ほぼ吸入管長の45%の領域において交わる。
【0040】
図4では、同様に例示的に、吸込み路における圧力振動信号の振幅という特性に基づき、上記の関係が、可変の吸入管長に依存し、吸込み路のトリミングのパラメータとして、ここでも種々異なる信号周波数において、%で示されている。個々の測定点間を補間することにより、ここでも、それぞれ1つの連続的に経過する曲線が得られ、曲線201は、吸込み周波数において、吸入管長が増大すると、上昇する経過を有し、曲線202は、吸込み周波数の2倍の周波数において、曲線201よりも弱く上昇する経過を有し、曲線203は、吸込み周波数の3倍の周波数において、吸入管長が増大してもほぼ一定の経過を有する。
【0041】
位相位置および振幅という2つの特性において、この例について明らかになったのは、本発明による方法の精度および重要性が、場合によっては、吸込み路のトリミングを特定するための、有利な信号周波数の選択に依存することである。
【0042】
本発明による方法の一実施形態では、少なくとも1つのそれぞれの基準値・特性マップに、吸込み路のトリミングに依存して、それぞれの特性の基準値が用意されている。このような基準値・特性マップでは、例えば、位相位置についての基準値は、
図3に示したように、種々異なる信号周波数に対し、吸込み路のトリミングについての値に依存してまとめられているか、または振幅についての基準値は、
図4に示したように、種々異なる信号周波数に対し、吸込み路のトリミングについての値に依存してまとめられている。ここでは、内燃機関の種々異なる動作点について、それぞれ複数のこのような特性マップを用意することが可能である。これにより、対応する広範な特性マップは、内燃機関の種々異なる動作点および種々異なる信号周波数について、例えば、対応する基準値曲線を有し得る。
【0043】
内燃機関の吸込み路の実際のトリミングの特定は、この場合に、
図5において位相位置の例で示したように、次のように簡単に行うことが可能である。すなわち、
図5の破線によって図式的に示したように、内燃機関の通常動作において、ここでは位相位置の約52.5の値である、圧力振動信号の特性の特定した実際値から出発して、ここでは第1高調波101、すなわち吸込み周波数である選択した信号周波数について、第1高調波101の基準曲線上の対応する点105を特定し、再度ここから出発して、ここでは最大吸入管長の約50%である、吸込み路の対応するトリミングを特定する。これにより、極めて簡単にかつわずかな計算コストで、吸込み路の実際のトリミングを動作時に特定することができる。
【0044】
選択的には、これに代わりまたはこれに対して補足的に、それぞれ対応する特性のそれぞれの基準値を計算によって特定し、特性と、吸込み路のトリミングとの間の関係を表す、対応する基準曲線を特徴付ける、少なくとも1つのそれぞれの代数モデル関数が設けられている。この場合、それぞれの特性の特定した実際値をあらかじめ設定することにより、吸込み路のトリミングが実際的に計算される。この択一的な形態の利点は、全体として比較的少ない記憶容量を設ければよいことである。
【0045】
有利には、本発明による方法の実行は、すなわち、選択した信号周波数のそれぞれの特性の実際値の特定と、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングの特定とを、好適にはエンジン制御ユニットの構成部分である、内燃機関に対応付けられている電子計算ユニットを用いて行う。それぞれの基準値・特性マップおよび/またはそれぞれの代数モデル関数は、電子計算ユニットに対応付けられている、好適には同様にエンジン制御ユニットの構成部分である、少なくとも1つの電子記憶領域に記憶されている。これは、
図6のブロック図を用いて簡略化されて示されている。電子計算ユニット53を有するエンジン制御ユニット50は、ここでは、破線の枠によってシンボリックに示されており、この枠には、本発明による方法を実施する個々のステップ/ブロック、ならびに電子記憶領域54が含まれている。
【0046】
特に有利には、本発明による方法を実行するために、内燃機関に対応付けられている電子計算ユニット53を一緒に利用することができ、この電子計算ユニット53は、例えば、中央演算処理装置またはCPUとも称される中央エンジン制御ユニット50の構成部分であり、内燃機関1を制御するために設けられている。基準値・特性マップまたは代数モデル関数は、CPU50の少なくとも1つの電子記憶領域54に記憶可能である。
【0047】
このようにして、本発明による方法を、内燃機関の動作時に自動的に、極めて高速にかつ繰り返して実行することができ、また吸込み路の特定したトリミングに依存して、内燃機関を制御するための別の制御量または制御ルーチンの適合化もしくは補正を直接、エンジン制御ユニットによって行うことができる。
【0048】
このことの利点は、第一に、別個の電子計算ユニットが必要でなく、したがって、場合によっては障害を受けやすい、複数の計算ユニット間の付加的なインタフェースも存在しないことである。第二に、これにより、本発明による方法を、内燃機関の制御ルーチンの統合された構成部分にすることができ、これによって吸込み路の実際のトリミングに、内燃機関用の制御量または制御ルーチンを迅速に適合させることができる。
【0049】
上ですでに示唆したように、この方法を実行するために、吸込み路の種々異なるトリミングに対し、それぞれの特性の基準値が利用できることを仮定している。
【0050】
このためには、本発明による方法の拡張では、少なくとも1つの選択した信号周波数に対するそれぞれの特性の基準値を、前以て、基準内燃機関において、吸込み路の種々異なるトリミングに依存して特定する。このことは、
図6のブロック図においてB10およびB11と記したブロックによってシンボリックに示されており、ブロックB10は、基準内燃機関の計測(Vmssg_Refmot)を示しており、ブロックB11は、選択した信号周波数において、基準値・特性マップに(RWK_DSC_SF_1…X)それぞれの特性の測定した基準値をまとめることをシンボリックに示している。基準内燃機関は、特に、この方法に影響を及ぼす構造的な製造許容差がないことが保証されている、対応する内燃機関シリーズと構造的に同じ内燃機関である。これによって保証しようしているのは、圧力振動信号のそれぞれの特性と、吸込み路のトリミングとの間の関係が、可能な限りに正確にかつ別の障害要因の影響なしに特定できることである。
【0051】
対応する基準値の特定は、基準内燃機関を用い、種々異なる動作点において、また吸い込まれる媒体の温度、冷却剤温度またはエンジン回転数のような別の動作パラメータをあらかじめ設定もしくは変化させて行うことができる。このようにして得られた基準値・特性マップ(例えば
図3および4を参照されたい)は、この場合、有利には、シリーズのすべての同じ構造の内燃機関において利用することができ、特に、内燃機関に対応付け可能な電子エンジン制御ユニット50の電子記憶領域54に格納可能である。
【0052】
選択した信号周波数のそれぞれの特性の基準値の上記の前以ての特定を継続する際には、選択した信号周波数の特定した基準値と、吸込み路の、対応付けられたトリミングとから、選択した信号周波数のそれぞれの特性と、吸込み路のトリミングとの間の関係を少なくとも表すそれぞれの1つの代数モデル関数を導出することができる。このことは、
図6のブロック図において、B12で示したブロックによってシンボリックに示されている。この際には、選択的に上記の別のパラメータも含めることが可能である。これにより、位相位置をあらかじめ設定しかつ場合によって上記の変数を取り入れて、吸込み路のそれぞれのトリミングの値を実際的に計算可能な代数モデル関数(Rf(DSC_SF_1…X))が得られる。
【0053】
この場合にこのモデル関数は、有利には、シリーズのすべての構造的に同じ内燃機関において利用可能であり、特に、内燃機関に対応付けることが可能な電子エンジン制御ユニット50の電子記憶領域54に格納可能である。利点は、モデル関数は、広範囲な基準値・特性マップよりも少ない記憶スペースしか要しないことである。
【0054】
一実施例では、選択した信号周波数のそれぞれの特性の基準値の前以ての特定は、吸込み路の所定の基準値トリミングをあらかじめ設定して、少なくとも1つの所定の動作点において基準内燃機関を計測すること(Vmssg_Refmot)によって行うことが可能である。このことは、
図6のブロック図において、B10で示したブロックによってシンボリックに示されている。選択した信号周波数のそれぞれの特性の基準値を特定するためには、基準内燃機関のシリンダに対応付け可能な、吸込み路または排出路における動的な圧力振動を動作時に測定して、対応する圧力振動信号を生成する。
【0055】
同時に、すなわち動的な圧力振動の測定と時間的に関連させて、クランクシャフト位相角度信号を特定する。さらに続いて、離散フーリエ変換を用いて、圧力振動信号から、クランクシャフト位相角度信号を基準にし、測定した圧力振動の選択した信号周波数のそれぞれの特性の基準値を特定する。
【0056】
次に、吸込み路の対応付けられているトリミングに依存して、基準値・特性マップ(RWK_DSC_SF_1…X)に、特定した基準値を記憶する。これにより、選択した信号周波数の圧力振動信号のそれぞれの特性と、吸込み路のトリミングとの間の依存性を確実に特定することができる。
【0057】
本発明による方法の上述したすべての実施例および発展形態において、測定した圧力振動の少なくとも1つの特性として、少なくとも1つの選択した信号周波数の位相位置もしくは振幅を考慮可能であり、または位相位置および振幅も考慮可能である。位相位置および振幅は、個々に選択した信号周波数に関連して、離散フーリエ変換を用いて特定可能な重要かつ基本的な特性である。最も簡単なケースでは、内燃機関の所定の動作点において、選択した信号周波数における、例えば第2高調波における、例えば位相位置のちょうど1つの実際値を特定し、記憶した基準値・特性マップにおける位相位置の対応する基準値に、この値を対応付けることにより、同じ信号周波数において、吸込み路のトリミングに対し、対応する値を特定する。
【0058】
しかしながら、例えば、位相位置および振幅に対し、ならびに種々異なる信号周波数において、複数の実際値を特定し、吸込み路のトリミングを特定するために、例えば平均値形成により、互いに関連付けることも可能である。これにより、有利には、吸込み路のトリミングに対し、特定した値の精度を上げることができる。
【0059】
本発明による方法の別の一実施形態によって規定されるのは、少なくとも1つの可変式吸入管を用いて、または少なくとも1つの調整可能なスワールフラップを用いて、または少なくとも1つの共振器構成部分を用いて、吸込み路のトリミングが調整可能であるようにすることである。しかしながら、吸込み管のトリミングを調整または設定可能であるようにする上記の複数の構成要素からなる組み合わせを設けることも可能である。このために、例えば、アクチュエータによって駆動される調整ユニットを設けることが可能であり、この調整ユニットにより、例えば、内燃機関のそれぞれの動作点に依存して、1つまたは複数の吸入管の長さまたは1つまたは複数のスワールフラップの設定を変化させることが可能である。このことの利点は、動作中に、それぞれの動作点に対して、吸込み路のトリミングを最適に設定し、場合によって閉ループ制御することができることである。
【0060】
有利であることが判明したのは、選択した信号周波数として、吸込み周波数またはこの吸込み周波数の逓倍、すなわち第1高調波、第2高調波、第3高調波などを選択することである。これらの信号周波数では、吸込み路のトリミングに対する、圧力振動信号のそれぞれ特性の依存性が、特に明らかに現れる。
【0061】
この方法の発展形態では、吸込み路のトリミングの値を特定する精度を、有利にさらに向上させるために、吸込み路のトリミングを特定する際に、内燃機関の付加的な動作パラメータを考慮することができる。このためには、吸込み路のトリミングを特定する際に、別の複数の動作パラメータ、すなわち、
・吸気路において吸い込まれる媒体の温度、
・内燃機関の冷却に使用される冷却剤の温度、および
・内燃機関のエンジン回転数
のうちの少なくとも1つを考慮可能である。
【0062】
吸い込まれる媒体の温度、すなわち実質的に吸込み空気の温度は、媒体における音速に直接、影響を及ぼし、ひいては吸込み路における圧力伝搬に影響を及ぼす。この温度は、吸気路において測定することができ、したがって既知である。冷却剤の温度も、吸込み路およびシリンダにおける熱伝導により、吸い込まれる媒体における音速に影響を与えることがある。この温度も、一般に、監視されかつそのために測定され、したがってもともと準備されており、吸込み路の実際のトリミングを特定する際に考慮可能である。
【0063】
エンジン回転数は、内燃機関の動作点を特徴付ける複数の量のうちの1つであり、吸込み路における圧力伝搬に利用可能な時間に影響を及ぼす。エンジン回転数も絶えず監視され、したがって吸込み管のトリミングを特定する際に利用可能である。
【0064】
すなわち、上記の付加的なパラメータは、もともと利用であるかまたは簡単に特定することが可能である。圧力振動信号の選択した信号周波数のそれぞれの特性に与える、上記のパラメータのそれぞれの影響は、既知であることが前提とされ、例えば、上ですでに述べたように、基準内燃機関の計測時に特定されており、基準値・特性マップに一緒に記憶されている。代数モデル関数を用いて吸込み管のトリミングの実際値を計算する際に、対応する補正ファクタまたは補正関数を用いて取り入れることも、本発明による方法を実行する際にこれらの付加的な別の複数の動作パラメータを補足的に考慮する1つの選択肢である。
【0065】
さらに、有利には本発明による方法を実行するために、例えば吸入管において直接、大量生産による圧力センサを用いて、吸込み路における動的な圧力振動を測定可能である。このことの利点は、付加的な圧力センサが不要になることであり、これは、コスト的に有利である。
【0066】
別の一実施形態では、本発明による方法を実行するために、歯車およびホールセンサにより、クランクシャフト位置フィードバック信号を特定可能であり、ここでこれは、慣用の、場合によってはいずれにせよ内燃機関に設けられている、クランクシャフトの回転を検出する、すなわち内燃機関の回転数を検出するセンサ装置であってよい。歯車は、例えば、フライホイールまたはクランクシャフト制御アダプタ10(
図1も参照されたい)の外周に配置される。このことの利点は、付加的なセンサ装置が不要になることであり、これは、コスト的に有利である。
【0067】
図6には、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを動作時に特定する、本発明による方法の一実施例が、再度、重要なステップと共に、簡略化されたブロック線図の形態で示されている。
【0068】
このブロック図において破線で書き込まれた、対応するブロックB1〜B6および54の囲みは、プログラミング可能な電子エンジン制御ユニット50の境界をシンボリックに表し、これは、例えば、この方法が実施される、関係する内燃機関の、CPUと記されたエンジン制御装置の電子エンジン制御ユニット50である。この電子エンジン制御ユニット50には、特に、本発明による方法を実施する、電子計算ユニット53と、電子記憶領域54とが含まれる。
【0069】
はじめに、関係する内燃機関の吸込み路における吸込み空気および/または排出路における排気ガスの、それぞれのシリンダに対応付け可能な動的な圧力振動を動作時に測定し、この圧力振動から、対応する圧力振動信号(DS_S)を生成し、同時に、すなわち時間的に依存して、クランクシャフト位相角度信号(KwPw_S)を特定する。このことは、並列に配置され、B1およびB2で示されているブロックによって示されている。
【0070】
次に、B3で示されているブロックによってシンボリックに示されている離散フーリエ変換(DFT)を用い、圧力振動信号(DS_S)から、クランクシャフト位相角度信号(KwPw_S)を基準にして、測定した圧力振動の少なくとも1つの選択した信号周波数の少なくとも1つの特性の実際値(IW_DSC_SF_1…X)を特定する。このことは、B4で示したブロックによって示されている。
【0071】
次に、それぞれの特性の特定した少なくとも1つの実際値(IW_DSC_SF_1…X)に基づき、ブロックB5で、吸込み路・トリミング特定(ET_Trm_EM)を実行する。これは、吸込み路の種々異なるトリミングについて、それぞれ同じ信号周波数のそれぞれ対応する特性の基準値(RW_DSC_SF_1…X)を考慮して行われ、これらの基準値は、54で示した記憶領域において用意されているか、または記憶領域54に格納されている代数モデル関数を用いて実際的に特定される。次に、内燃機関の吸込み路のトリミングの、このように特定した実際値(Trm_ET_akt)を、ブロックB6において用意する。
【0072】
さらに
図6には、上で説明した方法に先行するステップが、ブロックB10、B11およびB12に示されている。ブロックB10では、離散フーリエ変換を用い、圧力振動信号から、クランクシャフト位相角度信号を基準にして、測定した圧力振動のそれぞれ選択した信号周波数のそれぞれ特性の基準値を特定するために、基準内燃機関の計測(Vmssg_Refmot)を行う。次に、ブロックB11において、吸込み路のトリミングの対応付けられた値に依存して、特定した基準値を基準値・特性マップ(RWK_DSC_SF_1…X)にまとめ、CPUと記したエンジン制御ユニット50の電子記憶領域54に記憶する。
【0073】
B12と記したブロックには、代数モデル関数(Rf(DSC_SF_1…X))の導出が含まれており、この代数モデル関数は、基準値関数として、吸込み路のトリミングに依存して、前に特定した基準値・特性マップ(RWK_DSC_SF_1…X)に基づき、それぞれの信号周波数について、例えば、圧力振動信号のそれぞれの特性のそれぞれの基準値線の経過を表す。次に、この代数モデル関数(Rf(DSC_SF_1…X))は、同様に、択一的または補足的に、CPUと記したエンジン制御ユニット50の、54で示した電子記憶領域54に記憶することが可能であり、この代数モデル関数は、ここで、前に説明した本発明による方法を実行するために利用可能である。
【0074】
再度、手短に要約すると、内燃機関の吸込み路の実際のトリミングを特定する本発明による方法の核心は、関係する内燃機関の吸込み路または排出路における動的な圧力振動を通常動作において測定し、この圧力振動から、対応する圧力振動信号を生成する方法にかかわる。同時に、クランクシャフト位相角度信号を特定し、圧力振動信号と関係付ける。圧力振動信号から、クランクシャフト位相角度信号を基準にして、測定した圧力振動の少なくとも1つの選択した信号周波数の少なくとも1つの特性の実際値を特定し、特定したこの実際値に基づき、吸込み路の種々異なるトリミングに対し、それぞれ同じ信号周波数の、対応する特性の基準値を考慮して、吸込み路の実際のトリミングもしくは吸込み路の実際のトリミングについての値を特定する。