特許第6896230号(P6896230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896230
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】混合用チャンバ
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20210621BHJP
【FI】
   A61M1/36 111
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-193748(P2017-193748)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-63359(P2019-63359A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】森田 康揮
(72)【発明者】
【氏名】安村 直朗
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/152934(WO,A1)
【文献】 特開2015−085181(JP,A)
【文献】 特開2014−128807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/34 − 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液の流入口と補液の流入口とが、筒形の周壁の内面において何れも該周壁の中心軸からずれた方向に開口して周方向の液流動を生ずるように設けられた混合用チャンバであって、
前記血液の流入口と前記補液の流入口とが前記周壁の中心軸の方向で同じ高さに設けられていると共に、
該補液の流入口を通じての補液の流入方向となる該補液の流入口の開口方向が該血液の流入口を通じての血液の流入方向となる該血液の流入口の開口方向に比して上方に向いていることを特徴とする混合用チャンバ。
【請求項2】
前記補液の流入口の開口方向が、水平方向に対する上向きをプラス且つ下向きをマイナスとして、−45〜+45度の範囲内に設定されている請求項1に記載の混合用チャンバ。
【請求項3】
前記血液の流入口の開口方向が、水平方向に対する上向きをプラス且つ下向きをマイナスとして、−45〜0度の範囲内に設定されている請求項1又は2に記載の混合用チャンバ。
【請求項4】
前記血液の流入口の開口方向と前記補液の流入口の開口方向とにおいて、前記周壁に沿った周方向成分が互いに同じ向きとされている請求項1〜3の何れか1項に記載の混合用チャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば透析回路等に用いられて血液と補液とを混合する混合用チャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、治療に際して患者の体外に取り出した血液に、生理食塩水などの補液を加えて体内に戻す場合がある。例えば血液透析濾過に際しては、患者の体外に設けた血液流路上で、ダイアライザによる血液濾過を行なうと共に、透析液などを補液として血液に加えて患者に返血する。
【0003】
ところで、血液流路上で補液を加えるに際しては、混合用のチャンバの上壁に補液流路をつないで、補液を上方から血液層に落下させることで血液と混合させることが一般的である。
【0004】
しかしながら、補液を混合用のチャンバの上方から血液層に落下させる場合、血液と補液との安定した混合が実現され難いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、体外の血液流路上において血液と補液とを混合する新規な構造の混合用チャンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、血液の流入口と補液の流入口とが、筒形の周壁の内面において何れも該周壁の中心軸からずれた方向に開口して周方向の液流動を生ずるように設けられた混合用チャンバであって、前記血液の流入口と前記補液の流入口とが前記周壁の中心軸の方向で同じ高さに設けられていると共に、該補液の流入口を通じての補液の流入方向となる該補液の流入口の開口方向が該血液の流入口を通じての血液の流入方向となる該血液の流入口の開口方向に比して上方に向いていることを特徴とするものである。
【0007】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバでは、チャンバ内で血液と補液が周方向に流動しつつ混ざり合うことで、良好な混合性が発揮され得る。また、補液の流入方向が血液の流入方向より上向きとされていることで、血液の流入口から流入する血液が補液の流入口から流入する補液に対して下方に潜り込むように流動しやすいことから、上層に血液が濃い層が生じにくく、血栓が生じるリスクを低減しつつ良好な混合性が発揮され得る。さらに、本態様では、血液と補液の各流入口が同じ高さとされていることから、それら流入口を上下に離して設けた場合に比べて、実質的な容量や流動長さを確保しつつ上下方向のチャンバサイズを小さくすることも可能になる。
【0008】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る混合用チャンバにおいて、前記補液の流入口の開口方向が、水平方向に対する上向きをプラス且つ下向きをマイナスとして、−45〜+45度の範囲内に設定されているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバによれば、補液の流入口の開口方向が水平方向に対して特定範囲内に設定されることで、チャンバ内における補液の周方向の流動がより安定して実現されて血液との混合性の向上が図られ得る。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係る混合用チャンバにおいて、前記血液の流入口の開口方向が、水平方向に対する上向きをプラス且つ下向きをマイナスとして、−45〜0度の範囲内に設定されているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバによれば、血液の流入口の開口方向が水平方向に対して特定範囲内に設定されることで、チャンバ内における血液の周方向の流動が安定して実現されて補液との混合性の向上が図られる。また、血液がチャンバ内で水平または下方に向けて流入されることで、流入した高濃度の血液が上方に流入せず、血栓が発生するおそれも低減され得る。
【0012】
また、本発明では、前記血液の流入口の開口方向と前記補液の流入口の開口方向との相対的な高さ方向の傾斜角度の差が、5度以上に設定されている態様が好適に採用される。
【0013】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバによれば、血液の流入口からチャンバ内に流入された高濃度の血液を、補液によって血液濃度が薄まった混合層よりも下方へより効果的に位置させることができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、前記第1〜第3の何れかの態様に係る混合用チャンバにおいて、前記血液の流入口の開口方向と前記補液の流入口の開口方向とにおいて、前記周壁に沿った周方向成分が互いに同じ向きとされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバによれば、血液の流入方向と補液の流入方向が周方向で同じとされることから、チャンバ内における血液と補液の流れにおいて乱流の発生が抑えられる。
【0016】
また、本発明では、前記血液の流入口と前記補液の流入口とが、前記周壁において周方向で互いに離れた位置に設けられている態様が好適に採用される。
【0017】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバでは、血液と補液の各流入口を周方向に離すことで、それら流入口の形成が容易となる。また、血液と補液の各流入口の周方向における離隔距離を各流入口の傾斜角度や流量などを考慮して適切に設定することで、血液と補液との混合性の向上を図ったり、高濃度の血液の液面への露呈をより効果的に防止したりすることも可能になる。
【0018】
また、本発明では、前記周壁の外周において前記血液の流入口から外方に延びる血液流路と前記補液の流入口から外方に延びる補液流路とが、例えば後述する実施形態の図20〜22に示されるように、該周壁の同じ側に向かって延び出して設けられている態様が好適に採用される。
【0019】
本態様に従う構造とされた混合用チャンバによれば、例えば血液流路と補液流路とが相互に周壁の反対側に向かって延びる場合に比べて、外部に延びる血液流路や補液流路の取り回しを容易としたり混合用チャンバの設置用スペースを小さくしたりすることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に従う構造とされた混合用チャンバによれば、血液と補液との混合性を向上させつつ、混合用チャンバの上下方向のサイズを小さく抑えることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の1実施形態としての混合用チャンバを示す正面図。
図2図1に示された混合用チャンバの平面図。
図3図2におけるIII−III断面図。
図4図2におけるIV−IV断面図。
図5図2におけるV−V断面図。
図6図1におけるVI−VI断面図。
図7】本発明の実施例1としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図8図7におけるシミュレーション結果を別の方向から示した説明図。
図9】本発明の実施例2としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図10図9におけるシミュレーション結果を別の方向から示した説明図。
図11】本発明の実施例3としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図12図11におけるシミュレーション結果を別の方向から示した説明図。
図13】本発明の実施例4としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図14】本発明の実施例5としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図15】本発明の実施例6としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図16】本発明の実施例7としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図17】本発明の実施例8としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図18】本発明の比較例としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図19図18におけるシミュレーション結果を別の方向から示した説明図。
図20】本発明の別の実施形態としての混合用チャンバを示す平面図であって、図2に対応する図。
図21】本発明の更に別の実施形態としての混合用チャンバを示す正面図であって、図1に対応する図。
図22図21に示された混合用チャンバの平面図であって、図2に対応する図。
図23】本発明の別の実施例としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
図24】本発明の更に別の実施例としての混合用チャンバにおけるシミュレーション結果を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0023】
先ず、図1〜6には、本発明の1実施形態としての混合用チャンバ10が示されている。この混合用チャンバ10は、例えば、透析液を体内に注入して体液を補充する血液透析濾過(オンラインHDF)用の装置の透析回路上に設けられており、当該混合用チャンバ10内で血液と補液としての透析液等が混合されるようになっている。すなわち、混合用チャンバ10は、血液の流入口である血液流入口12と補液の流入口である補液流入口14とを備えている。そして、これら血液流入口12と補液流入口14から流入せしめられた血液と補液が混合用チャンバ10内で混合されて、血液と補液との混合液が、混合液流路16を通じて、図示しないダイアライザや患者の血管へと送り戻される返血用の血液回路に送り出されるようになっている。なお、以下の説明において、中心軸方向とは、混合用チャンバ10を構成するチャンバ本体18の中心軸Lの延出方向となる図1中の上下方向をいう。また、上下方向とは、混合用チャンバ10の使用時に略鉛直方向とされる図1中の上下方向をいう。さらに、水平方向とは混合用チャンバ10の使用時に略水平方向とされるチャンバ本体18の軸直角方向であって、例えば図1中の左右方向をいう。
【0024】
より詳細には、チャンバ本体18は、全体として筒形とされており、本実施形態では上下方向に延びる略円形の筒形状とされている。すなわち、チャンバ本体18は、横断面が略円環形状とされた筒形の周壁20を備えている。本実施形態では、当該周壁20が、何れも略円筒形状とされた上側筒部22と下側筒部24とを含んで構成されており、これら上下筒部22,24が上下方向で相互に同軸的に連結されている。特に、本実施形態では、上側筒部22の下開口部に対して下側筒部24の上開口部が嵌め入れられており、必要に応じて圧入や接着、溶着などの手段により相互に固定されている。
【0025】
なお、本実施形態では、上側筒部22において、下側筒部24の上開口部が嵌め入れられる下開口部の内周面が段差状に拡径されている。これにより、チャンバ本体18の周壁20の内面25を形成する上側筒部22の内径寸法と下側筒部24の内径寸法とが略等しくされており、周壁20の内面25が、中心軸方向の略全長に亘って略滑らかで段差のない円筒状面とされている。
【0026】
また、上側筒部22は、逆カップ形状とされており、上側筒部22の上開口部が円板形の上底壁部26により閉塞されている。本実施形態では、上底壁部26に、上下方向で貫通する3つの貫通孔28a,28b,28cが形成されている。そして、上底壁部26の貫通孔28a,28b,28cには、上方に突出する硬質のポート30a,30b,30cが一体形成されている。さらに、これらポート30a,30b,30cには、それぞれ外方に延びる軟質のチューブ32a,32b,32cが接続されている。これにより、ポート30aとチューブ32aとを含んで圧力測定ライン34が構成されている。また、ポート30bとチューブ32bとを含んで液面調整ライン36が構成されている。更にまた、ポート30cとチューブ32cとを含んで薬剤注入ライン38が構成されている。
【0027】
例えば、圧力測定ライン34を構成するチューブ32aにおいて、ポート30aと反対側の端部には、図示しない圧力センサが設けられており、チャンバ本体18の内圧(後述する液面64と上底壁部26との軸方向間の空間66における気圧)を測定することができるようになっている。なお、チューブ32aの中間部分に、例えば気体が通過可能とされ、且つ液体が通過不能とされるフィルタなどを設けてもよい。尤も、かかる圧力測定ライン34は必須なものではなく、血液回路上の別部位に圧力測定手段を別途設けてもよい。
【0028】
また、液面調整ライン36を構成するチューブ32bにおいて、ポート30bと反対側の端部は外部空間に連通しており、チャンバ本体18内に空気を供給等することができるようになっている。すなわち、チャンバ本体18の内圧が上昇又は下降した際に、液面調整ライン36を通じてチャンバ本体18内の空気を給排することで、内圧の上昇や下降を回避することも可能である。また、かかるチューブ32bに、例えばクランプ等のライン開閉手段や圧力調節手段などを設けてもよく、使用者が適宜に液面調整ライン36の開閉操作や圧力調節を行ない得るようにしてもよい。
【0029】
さらに、薬剤注入ライン38を構成するチューブ32cにおいて、ポート30cと反対側の端部には、薬剤が封入されたバッグやシリンジなどが接続され得る。これにより、血液と補液の混合液中に、薬剤注入ライン38を通じて薬剤などを適宜添加することも可能である。なお、ポート30cの下方には、貫通孔28cを下方に延長するオリフィス40が設けられている。かかるオリフィス40は、補液流入口14より上方に設けられており、後述する補液ポート48から流入する補液とオリフィス40とが衝突しないように構成されている。オリフィス40からは、薬剤注入ライン38を通じて薬剤などが添加され得る。尤も、かかる薬剤注入ライン38やオリフィス40は必須なものではなく、特に、チャンバ本体18内の液体の流れを阻害しないという観点で言えば、オリフィス40は無い方が好ましい。また、補液流入口14の開口方向の延長線上、即ち補液流入口14から流入される補液の流線上には、オリフィス40のような液体の流れを阻害する部材がなく、チャンバ本体18がストレートの円筒状とされて、チャンバ本体18の内面25における湾曲面が位置することが好ましい。
【0030】
一方、下側筒部24は、略ストレートに延びる単管形状とされており、その下開口部に、全体として略漏斗状の流出ポート42が接続されている。流出ポート42は、大径の円筒形状とされた上開口部において下側筒部24の下開口部に外嵌されて、必要に応じて圧入や接着、溶着などが施されることにより固定されている。また、下方に向かってテーパ状に絞られた小径の下開口部は、下方に突出する小径筒形状のポート部とされている。このポート部には、チューブ44が接続されて外方に延びており、流出ポート42の下端のポート部とチューブ44とを含んで、混合用チャンバ10(チャンバ本体18)内で混合された血液と補液との混合液を送り出す混合液流路16が構成されている。
【0031】
また、流出ポート42の内部には、フィルタ45が装着されている。本実施形態では、フィルタ45は、全体として中空の略円錐台形状とされており、フィルタ45の大径側端部が流出ポート42の内面に固定されている一方、フィルタ45の小径側端部が下側筒部24の下開口部を通じて下側筒部24の内部にまで入り込んでいる。かかるフィルタ45の周壁には無数のスリット状の小孔が設けられており、血液と補液との混合液がチャンバ本体18からフィルタ45を通じて混合液流路16に移動する際に、混合液中の血栓や老廃物等の異物がフィルタ45により濾し取られて、浄化された混合液が、混合液流路16を通じてダイアライザや患者の血管へと戻る返血用の血液回路に送られるようになっている。なお、かかるフィルタ45の形状や具体的構造は、設置位置や設置構造などを含めて限定されるものでないし、本発明においてフィルタ45は必須なものでない。
【0032】
以上の如きチャンバ本体18の周壁20の内面25には、チャンバ本体18内に血液を流入せしめる血液流入口12と、チャンバ本体18内に補液を流入せしめる補液流入口14とが、周壁20の高さ方向で、当該周壁20の上端と下端との間に位置して中心軸方向(上下方向)で同じ高さ位置に設けられている。
【0033】
特に本実施形態では、血液流入口12と補液流入口14が、相互に略同じ形状および大きさとされており、上下方向で全体的に重なる位置に形成されている。また、本実施形態では、血液流入口12と補液流入口14が、上側筒部22(周壁20)の内面25に開口しており、上側筒部22の周壁の厚さ方向で貫通して外部空間に連通されている。更に、本実施形態では、血液流入口12と補液流入口14における周壁20の内面25への各開口端が、周壁20の内面25において周方向で相互に180度離れた位置に形成されて、チャンバ本体18の周壁20の径方向で対向位置している。尤も、血液流入口12や補液流入口14の形状や大きさ、開口端の位置などは限定されるものでなく、血液や補液の流入量や速度、チャンバ本体18の大きさや容積などを考慮して適宜に設定され得るし、血液流入口12と補液流入口14とにおいて互いに異なる形状等を設定することも可能である。
【0034】
そして、上側筒部22の外面において、血液流入口12および補液流入口14における開口端の周縁部からは、硬質の血液ポート46および補液ポート48が、上側筒部22と一体的に形成されて外方に突出しており、これら血液ポート46および補液ポート48により、後述する血液流入口12および補液流入口14の開口方向を規定している。なお、本発明では、血液ポート46や補液ポート48、後述するチューブ52やチューブ54などで血液流入口12および補液流入口14の開口方向を規定することも可能である。これら血液ポート46および補液ポート48は、それぞれ略円筒形状とされており、本実施形態では、図6に示されるように、相互に略同形状とされた血液ポート46および補液ポート48が、軸方向視において上側筒部22の周壁の接線方向で、且つ外方に向かって互いに反対側に延び出している。尤も、血液ポート46および補液ポート48は、周壁20(上側筒部22)の接線方向に延びる態様に限定されるものではなく、血液流入口12と補液流入口14とが周壁20の中心軸Lからずれて開口していればよい。すなわち、血液ポート46および補液ポート48は、後述する血液流入口12および補液流入口14の開口方向の仮想延長線上にチャンバ本体18の中心軸Lが位置しないように延びていればよい。仮想延長線につながるチャンバ本体18の内面25が流動方向を周方向に導く湾曲面であれば、自然とチャンバ本体18内に流入した液体は周方向に流動される。なお、図6では、チューブ32a,32b,32cの図示を省略している。
【0035】
すなわち、血液流入口12からチャンバ本体18内に流入される血液が、血液ポート46による流動方向の設定作用により、軸方向視において周壁20の周方向に向かうようになっている。また、補液流入口14からチャンバ本体18内に流入される補液が、補液ポート48による流動方向の設定作用により、軸方向視において周壁20の周方向に向かうようになっている。
【0036】
なお、本実施形態では、血液ポート46と補液ポート48の各中心軸が、周壁20の内面25への略接線位置となるようにされており、血液ポート46および補液ポート48の内面において、血液および補液の流入方向の先端側且つ外周側には、傾斜案内面50,50が設けられている。本実施形態では、これら傾斜案内面50,50が、血液ポート46と補液ポート48の内面から血液流入口12と補液流入口14に向かって湾曲して延びる湾曲傾斜面とされている。これにより、各ポート46,48から導かれる血液や補液が、両ポート46,48の先端面に対して直接に打ち当たることなく、滑らかにチャンバ本体18内に導かれて血液流入口12と補液流入口14から流入されるようになっている。
【0037】
また、血液ポート46と補液ポート48には、それぞれ外部流路としての軟質のチューブ52,54が接続されている。これにより、血液ポート46とそこに接続されるチューブ52とを含んで血液流路56が構成されているとともに、補液ポート48とそこに接続されるチューブ54とを含んで補液流路58が構成されている。なお、これら軟質のチューブ52,54をチャンバ本体18と一体的に形成されたフック等で固定して各流入口12,14の開口方向を規定することも可能であり、これにより、外方に突出するポート46,48を不要とすることもできる。
【0038】
血液ポート46と接続されたチューブ52の外側の端部が、血液回路に接続されており、脱血後の血液またはダイアライザ通過後の血液が血液流路56からチャンバ本体18に流入せしめられるようになっている。したがって、血液流路56内における血液の流動方向は、図6中の左方から右方への方向(図6中の白矢印D1)であり、血液流入口12の開口方向も、チャンバ本体18へ流入する血液の流動方向として当該方向とされている。
【0039】
また、補液ポート48と接続されたチューブ54の外側の端部が、透析装置に接続されており、透析液が補液として補液流路58内を流動してチャンバ本体18内に流入せしめられるようになっている。したがって、補液流路58内における補液の流動方向は、図6中の右方から左方への方向(図6中の白矢印D2)であり、補液流入口14の開口方向も、チャンバ本体18へ流入する補液の流動方向として当該方向とされている。
【0040】
さらに、後述するように、血液流路56内を流動する血液と補液流路58内を流動する補液は、チャンバ本体18において、それぞれ流出ポート42が設けられた下方に向かって全体として周方向螺旋状に流動するようになっている。すなわち、本実施形態では、チャンバ本体18内において血液と補液とが周方向で相互に同じ方向(図6中の白矢印D3が示す右回り)に流動するようになっており、血液流入口12および補液流入口14の開口方向も、周壁20の周方向で相互に同じ方向とされている。
【0041】
なお、チューブ52やチューブ54が挿入される血液ポート46や補液ポート48の端部開口部は内径寸法が拡径されており、各ポート46,48の内径寸法とチューブ52,54の内径寸法とが略等しくされて、血液や補液のスムーズな流動が妨げられないようにされている。
【0042】
さらに、上側筒部22の内面25には、それぞれ血液流入口12および補液流入口14における内面25での開口端の周縁部(開口周縁部)から周方向で一方の側に向かって所定長さで延びる凹溝状の案内溝60,62が形成されている。これら案内溝60,62は、血液ポート46および補液ポート48の延長線方向に向かって、血液流入口12および補液流入口14から内面25の周上に延びている。本実施形態では、これら案内溝60,62が、それぞれ流入口12,14の直径寸法と略同じ幅寸法をもって、且つ上側筒部22の周方向で1/10〜1周(図示のものは略1/4周)の周方向長さで形成されている。
【0043】
なお、後述するように、血液流路56(血液ポート46)や補液流路58(補液ポート48)が、上側筒部22(チャンバ本体18)の中心軸Lに対して傾斜して設けられていることから、案内溝60,62も、上側筒部22(チャンバ本体18)の水平方向に対して傾斜して延びている。また、案内溝60,62は、先端側において次第に浅底となる傾斜底面とされており、浅底になるに従って溝幅寸法も次第に小さくされていても良い。
【0044】
ここにおいて、血液流入口12と補液流入口14は、上側筒部22の中心軸方向(上下方向)で略同じ高さに形成されているとともに、水平面に対して中心軸方向(上下方向)に傾斜して開口している。すなわち、血液流入口12に対して血液の流入方向となる開口方向を与える血液ポート46が、水平方向に対して所定の角度A(図3参照)をもって形成されている。また、補液流入口14に対して補液の流入方向となる開口方向を与える補液ポート48が、水平方向に対して所定の角度B(図5参照)をもって形成されている。換言すれば、本実施形態では血液流路56が水平方向に対して角度Aをもって延びているとともに、補液流路58が水平方向に対して角度Bをもって延びている。
【0045】
そして、補液流路58の延出方向(補液流入口14の開口方向)が、血液流路56の延出方向(血液流入口12の開口方向)に比して上方を向いている。要するに、水平方向に対して上向きをプラス且つ下向きをマイナスとした場合に、血液流路56の傾斜角度Aは補液流路58の傾斜角度Bよりも小さく(A<B)されている。
【0046】
かかる血液流路56の水平方向に対する傾斜角度(血液流入口12の開口方向における水平方向に対する傾斜角度)Aは、水平方向に対して上向きをプラス且つ下向きをマイナスとした場合に、0度以下(A≦0°)とされることが好適である。すなわち、血液流路56の傾斜角度Aを0度以下とすることで、後述する血液と補液との混合時に血液濃度が低い混合層を安定して上層に形成することができて、血栓の発生が効果的に防止され得る。また、かかる傾斜角度Aは、−45度以上(−45°≦A)とされることが好適である。すなわち、血液流路56の傾斜角度Aを−45度以上とすることで、後述する血液と補液との混合時において、血液の流れにおける水平方向の力ベクトル成分を上下方向の力ベクトル成分よりも大きくすることができる。これにより、血液がより安定して周方向螺旋状に流動するとともに、上下方向での乱流が効果的に抑制され得る。
【0047】
一方、補液流路58の水平方向に対する傾斜角度(補液流入口14の開口方向における水平方向に対する傾斜角度)Bは、水平方向に対して上向きをプラス且つ下向きをマイナスとした場合に、−45度以上(−45°≦B)とされることが好適である。また、かかる傾斜角度Bは、+45度以下(B≦+45°)とされることが好適である。すなわち、補液流路58の傾斜角度Bを−45度以上や+45度以下とすることで、後述する血液と補液との混合時において、補液の流れにおける水平方向の力ベクトル成分を上下方向の力ベクトル成分よりも大きくすることができる。これにより、補液がより安定して周方向螺旋状に流動するとともに、上下方向での乱流が効果的に抑制され得る。さらに、かかる傾斜角度Bは、−10度以上(−10°≦B)とされることがより好適であり、0度以上(0°≦B)とされることがより一層好適である。
【0048】
なお、本実施形態では、血液流路56の水平方向に対する傾斜角度Aが、−20度(A=−20°)とされているとともに、補液流路58の水平方向に対する傾斜角度Bが、+20度(B=+20°)とされている。すなわち、血液流入口12の開口方向が水平方向に対して−20度の傾斜角度をもって下方に向いているとともに、補液流入口14の開口方向が水平方向に対して+20度の傾斜角度をもって上方に向いている。また、血液流路56と補液流路58との相対的な角度差αが40度(α=B−A=20−(−20)=40°(0<α))とされている。
【0049】
以上の如き構造とされた混合用チャンバ10のチャンバ本体18には、血液流路56における血液流入口12および補液流路58における補液流入口14を通じて血液および補液が流入せしめられる。これら血液流路56および補液流路58は、チャンバ本体18の接線方向に延びていることから、血液流路56および補液流路58を流動せしめられた血液および補液は、チャンバ本体18の内面25に沿って、周方向に流動して混合せしめられるようになっている。すなわち、チャンバ本体18は上下方向に延びていると共に、流出ポート42が各流入口12,14よりも下方に設けられていることから、重力作用に従って、混合液が下方に向かって周方向螺旋状に流動するようになっている。
【0050】
また、本実施形態では、チャンバ本体18の内面25において、血液流入口12および補液流入口14から周方向に延びる案内溝60,62が設けられていることから、血液および補液が、よりスムーズにチャンバ本体18内に流入せしめられて、チャンバ本体18の内面25に沿うようにして周方向に流動せしめられ得る。
【0051】
なお、チャンバ本体18において、血液と補液との混合液の液面64の高さ位置(中心軸方向位置)は、血液流入口12および補液流入口14よりも上方に設定されることが好ましい。また、当該液面64は、チャンバ本体18の上底壁部26よりも下方に位置していることが好適であり、液面64と上底壁部26との軸方向間に所定の大きさの空間66が設けられることが好ましい。さらに、血液流入口12および補液流入口14の開口端は、チャンバ本体18の上底壁部26より4mm以上下方に位置することが好ましい。更にまた、チャンバ本体18で血液と補液が混合された混合液の流出ポート42は、本実施形態においてチャンバ本体18の底面中央に設けられているが、例えばチャンバ本体18の底面の端部や、チャンバ本体18の周壁20に開口して流出ポート42が設けられていてもよい。
【0052】
[実施例1]
上述の如き構造とされた前記実施形態の混合用チャンバ10について、コンピューターを用いたシミュレーションにより、血液および補液の流動態様を検討した。そのシミュレーション結果を図7,8に示す。なお、図7,8は同じ結果を示すものであり、同一のシミュレーション結果を異なる視点から示すものである。また、本シミュレーションにおいては、ソフトウェアとして、ANSYS社製「ANSYS(登録商標)Fluent(登録商標)」を使用した。ここで、混合液の液面64は、血液流入口12および補液流入口14における開口周縁部の上部から上方に0.56mmの位置にあるように設定した。さらに、周壁20の内面25における血液流入口12および補液流入口14の面積(血液ポート46および補液ポート48における流路に直交する断面積)は、それぞれ9.079cm2 に設定した。更にまた、血液流路56および補液流路58を流動する血液および補液の流量は、何れも200cm3 /minに設定した。
【0053】
図7,8は、特許出願用の白黒図面としたことで分かり難い(カラー図面を出願と同時に参考資料として提出済)が、図7,8中の左のバーに示されているのが血液濃度であり、図中の混合液中における血液濃度が、左のバーと対応する色で表示されている。すなわち、左のバー中、下方に行くほど、要するに血液濃度が小さくなるほど濃い色で表示されるようになっており、それに対応して図中の混合液中においても血液濃度の小さい部分が濃い色で表示されている。また、血液流路56の血液流入口12および補液流路58の補液流入口14から延び出す複数の線は、シミュレーションの計算に基づいて算出された流動流体を示すものである。
【0054】
図7,8に示されているように、血液流路56の血液流入口12を通じてチャンバ本体18内に流入する血液と補液流路58の補液流入口14を通じてチャンバ本体18内に流入する補液とは、それぞれ下方に向かって周方向螺旋状に流動しており、相互に混合せしめられて混合液として周方向螺旋状に流動することを確認できた。
【0055】
ここにおいて、特に図7に示されているように、混合液の液面64は、濃い色で示されており、血液濃度が小さい、換言すれば補液濃度が高いことが理解される。すなわち、血液流入口12および補液流入口14を、それぞれ傾斜角度A(−20度)およびB(+20度)をもって設けることで、混合液の上側部分に補液層(血液流路56から流入される血液よりも血液濃度が相対的に薄い混合層)が形成されて、高濃度の血液の液面64における空気との接触が防止され得ることを確認できた。
【0056】
[実施例2]
前記実施例1の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを−30度、補液流入口14の傾斜角度Bを+30度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが60度(α=B−A=30−(−30)=60°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例1と同じにしたものについて、コンピューターによるシミュレーション結果を図9,10に示す。
【0057】
かかるシミュレーションの結果、特に図9に示されているように、混合液の液面64が、前記実施例1に比して、より濃い色で示されていることが確認できた。すなわち、水平方向に対する血液流入口12および補液流入口14の傾斜角度Aを小さく(より下向きに),傾斜角度Bを大きく(より上向きに)する(血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差を大きくする)ことで、混合液の上側部分に補液層(血液流路56から流入される血液よりも血液濃度が相対的に薄い混合層)をより安定して形成できることが理解される。
【0058】
[実施例3]
前記実施例1の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを−10度、補液流入口14の傾斜角度Bを+10度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが20度(α=B−A=10−(−10)=20°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例1と同じにしたものについて、コンピューターによるシミュレーション結果を図11,12に示す。
【0059】
かかるシミュレーションの結果、特に図11に示されているように、混合液の液面64が、前記実施例1に比して、より薄い色で示されていることが確認できた。すなわち、混合液の液面64において血液の割合が増えている(補液の割合が減っている)ことが理解される。しかしながら、血液濃度は十分に小さいことから、水平方向に対する血液流入口12の傾斜角度Aを−10度、水平方向に対する補液流入口14の傾斜角度Bを+10度としても、血栓防止などの効果は有効に発揮されるものと考えられる。
【0060】
[実施例4]
前記実施例1の混合用チャンバにおいて、混合液の液面64を、血液流入口12および補液流入口14における開口周縁部の上部から上方に10mmの位置に設定した。血液流入口12の傾斜角度A(−20度)や補液流入口14の傾斜角度B(+20度)を含めて、その他の形状や条件などは、実施例1と同じにした。そのシミュレーション結果を図13に示す。
【0061】
かかるシミュレーションの結果、図13に示されているように、混合液の液面64において外周部分は、前記実施例1に比して色が薄くなっているが、中央部分はより濃い色で示されていることがわかる。すなわち、血液流入口12および補液流入口14から液面64までの上下寸法を大きくすることで、液面64に至る血液の濃度をより小さくすることができて、混合液の上側部分がより安定して補液層で覆われ得る。
【0062】
[実施例5]
前記実施例4の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを−3度、補液流入口14の傾斜角度Bを+3度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが6度(α=B−A=3−(−3)=6°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例4と同じにした。そのシミュレーション結果を図14に示す。
【0063】
かかるシミュレーションの結果、図14に示されているように、混合液の液面64が、例えば図11(前記実施例3)に比して、部分的に、より濃い色で示されていることがわかる。すなわち、前記実施例3に比して、水平方向に対する血液流入口12の傾斜角度Aや水平方向に対する補液流入口14の傾斜角度Bを小さく抑えたとしても、血栓防止などの効果が、前記実施例3などと同様に発揮される。すなわち、補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上向きであれば、血液が補液の下方に潜り込むように流動しやすくなり、その結果、上層に血液濃度の濃い部分が形成されるおそれを低減することができるから、補液ポート48(補液流入口14の開口方向)は血液ポート46(血液流入口12の開口方向)に比して多少なりとも上向きでありさえすれば、上層に血液濃度の濃い部分が形成されるおそれを低減する効果が発揮される。
【0064】
[実施例6]
前記実施例5の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを0度、補液流入口14の傾斜角度Bを+5度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが5度(α=B−A=5−0=5°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例5と同じにした。そのシミュレーション結果を図15に示す。
【0065】
かかるシミュレーションの結果から、血液流入口12が水平(A=0°)であっても、水平方向に対する補液流入口14の傾斜角度Bが0度より大きい(0°<B)場合(補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いている場合)には、混合液の上側部分が補液層で覆われることから、血栓防止効果が発揮され得る。
【0066】
[実施例7]
前記実施例5の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを−5度、補液流入口14の傾斜角度Bを0度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが5度(α=B−A=0−(−5)=5°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例5と同じにした。そのシミュレーション結果を図16に示す。
【0067】
かかるシミュレーションの結果から、補液流入口14が水平(B=0°)であっても、水平方向に対する血液流入口12の傾斜角度Aが0度より小さい(A<0°)場合(補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いている場合)には、混合液の上側部分が補液層で覆われることから、血栓防止効果が発揮され得る。
【0068】
[実施例8]
前記実施例5の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを−15度、補液流入口14の傾斜角度Bを−10度(即ち、血液流入口12と補液流入口14との相対的な角度差αが5度(α=B−A=−10−(−15)=5°(0<α)))とした。その他の形状や条件などは、実施例5と同じにした。そのシミュレーション結果を図17に示す。
【0069】
かかるシミュレーションの結果から、水平方向に対する血液流入口12の傾斜角度Aおよび補液流入口14の傾斜角度Bが何れも0度より小さい(A<0°,B<0°)場合でも、補液流入口14の傾斜角度Bが血液流入口12の傾斜角度Aよりも大きければ(補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いていれば、即ちA<B)、混合液の上側部分が補液層で覆われることから、血栓防止効果が発揮され得る。
【0070】
[比較例]
本発明の比較例として、前記実施例1の混合用チャンバにおいて、血液流入口12の傾斜角度Aを0度、補液流入口14の傾斜角度Bを0度(即ち、血液流入口12の傾斜角度Aが補液流入口14の傾斜角度Bより小さくなっていない、α=B−A=0−0=0°)とした。その他の形状や条件などは、実施例1と同じにした。そのシミュレーション結果を図18,19に示す。なお、図18では、図中右側の流路が血液流路56、図中左側の流路が補液流路58となっている。
【0071】
かかるシミュレーションの結果から、出願用の白黒図面であるから分かり難いが、図18に示されているように、液面64の外周部分において、混合液の上側部分に血液層と補液層が略同程度位置していることが確認できる。すなわち、本比較例のように血液流入口12と補液流入口14が同じ高さ位置にあり、且つ水平方向に対する傾斜角度A,Bも等しくされる場合には、血液層が補液層の下方に潜り込むような流動が安定的に起こらず、補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いている場合に比べて、液面64上に高濃度の血液が露呈するおそれがあることから好ましくない。
【0072】
以上のことから、本発明に係る混合用チャンバ10では、前記実施例1〜8と前記比較例との結果からも明らかなように、補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いていることで、チャンバ本体18内に血液および補液を流入させた際に血液が補液よりも下方に潜り込むような流動が生ぜしめられて、液面64における高濃度の血液の露呈が回避されやすくなる。これにより、高濃度の血液がチャンバ本体18内の空気と接触することに伴う血栓の発生が防止され得る。このように、血液流入口12と補液流入口14の傾斜角度A,Bを相対的に異ならせることで、血液流路56から流入される血液よりも血液濃度が相対的に薄い混合層を上方に安定して位置させることができて、血液流入口12と補液流入口14とを同じ高さ位置に設けることも可能となる。これにより、混合用チャンバ10の上下方向寸法を小さく抑えることもできる。
【0073】
また、本発明に係る混合用チャンバ10では、チャンバ本体18内に血液および補液を流入させた際に血液が補液よりも下方に潜り込むような流動が生じつつ、血液と補液とが、下方に向かって周方向螺旋状に流動せしめられる。これにより、気泡の発生を低減しつつ、血液と補液との混合性が十分に確保される。特に、本実施形態では、周壁20の内面25に、血液流入口12および補液流入口14に連続して周方向に延びる案内溝60,62が設けられて血液および補液の流動が案内せしめられることから、血液および補液の周方向螺旋状の流動が安定して実現され得る。また、血液ポート46および補液ポート48の内面には、血液流入口12および補液流入口14に向かって湾曲する傾斜案内面50,50が設けられていることから、血液および補液が、一層安定して周方向螺旋状に流動せしめられる。
【0074】
さらに、前記実施例6,7(図15,16)の結果などから、例えば血液流入口12と補液流入口14の開口方向の一方が水平であったとしても、血液流入口12の開口方向と補液流入口14の開口方向との高さ方向(上下方向)における相対的な傾斜角度差(B−A)が5度以上(5°≦(B−A))であれば、液面64への高濃度の血液の露呈が回避されやすく、血液が空気に接触することに伴う血栓の発生が防止され得る。更にまた、前記実施例8(図17)の結果などから、例えば血液流入口12と補液流入口14との開口方向が水平方向に対して何れも下向き(A<0°,B<0°)とされる場合であっても、血液流入口12の開口方向と補液流入口14の開口方向との高さ方向(上下方向)における相対的な傾斜角度差(B−A)があれば、液面64への高濃度の血液の露呈が回避されて、血液が空気に接触することに伴う血栓の発生が防止され得る。
【0075】
また、本実施形態では、血液流入口12と補液流入口14との開口方向の周方向成分が、周壁20の周方向で相互に同じ向き(図6中の白矢印D3の方向)とされていることから、血液の流れと補液の流れとが相互に周方向で反対向きにぶつかることがなく、乱流の発生が回避され得る。これにより、意図せず血液が液面64上に露出して血栓が形成されることなどが防止され得る。
【0076】
さらに、本実施形態では、血液流入口12と補液流入口14とが周壁20の周方向で相互に離隔した位置に形成されており、特に本実施形態では、相互に周方向で180度離れた位置に形成されている。これにより、血液と補液とがそれぞれ十分な流動長さをもって混合せしめられることから、混合性の向上が図られるとともに、乱流の発生が防止され得る。
【0077】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明はかかる実施形態や実施例における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0078】
たとえば、前記実施形態では、血液流路56(血液ポート46)と補液流路58(補液ポート48)とが軸直角方向で相互に反対方向に延びていたが、図20に示される混合用チャンバ70のように、周壁20の同じ側(図20中の右方)、即ち軸直角方向で相互に同じ方向に延びていてもよい。かかる場合には、血液の流れる周方向と補液の流れる周方向とが相互に反対方向となるが、血液流入口12の傾斜角度Aと補液流入口14の傾斜角度Bとを相互に異ならせることで、血液の流れと補液の流れとがぶつかることが回避されて、またはぶつかる量を小さく抑えることができて、乱流の発生が回避、または抑制され得る。あるいは、図21,22に示される混合用チャンバ80のように、例えば血液ポート46と補液ポート48の一方を周壁20を中心として周方向に延びるように形成することで、血液流路56および補液流路58が周壁20に対して同じ側に延びて、且つ血液および補液の流動方向が周壁20の周方向で同じになるようにしてもよい。または、図21,22中に二点鎖線で示されるように、血液ポート46および補液ポート48の形状は前記実施形態と同様にして、チューブ52とチューブ54の一方を周方向に延びるように形成することで、血液流路56と補液流路58との延びる方向が、周壁20に対して同じ側となるようにしてもよい。
【0079】
また、前記実施形態では、血液流入口12と補液流入口14とが、周壁20の周方向で相互に180度離れた位置に設けられていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、図23,24に示されるシミュレーション結果のように、例えば血液流入口12と補液流入口14とは周壁20の周方向で相互に270度や315度離れた位置に設けられてもよく、血液流入口12と補液流入口14との周方向での離隔距離は何等限定されるものではない。例えば、血液流入口12と補液流入口14とは周壁20の周方向で相互に15度や45度離れた位置に設けられてもよいし、或いは実質的に同じ周方向位置にあってもよいし、例えば軸方向視で略同一の開口方向を向くように略隣接していてもよい。なお、図23,24に示される態様では、水平方向に対する血液流入口12の傾斜角度Aが−20度(A=−20°)、補液流入口14の傾斜角度Bが+20度(B=+20°)とされている。
【0080】
さらに、前記実施形態や前記実施例1〜7(図1〜16)、上記図20〜24に示される態様では、血液流入口12の傾斜角度Aが0度以下(A≦0°)とされるとともに、補液流入口14の傾斜角度Bが0度以上(0°≦B)とされていた。また、前記実施例8(図17)では、血液流入口12と補液流入口14の傾斜角度A,Bが何れも0度より小さく(A<0°,B<0°)されていたが、血液流入口12と補液流入口14の傾斜角度A,Bは、これらの態様に限定されるものではない。すなわち、血液流入口12と補液流入口14の傾斜角度A,Bは、何れも0度より大きくてもよく(0°<A,0°<B)、かかる場合であっても、補液流入口14の開口方向が血液流入口12の開口方向に比して上方に向いている(A<B)ことで、前記実施形態などと同様の効果が発揮され得る。
【0081】
更にまた、前記実施形態や実施例、図20〜24に示される態様では、何れもチャンバ本体18が、略真円の断面形状を有する筒形とされていたが、チャンバ本体18の断面形状は、楕円や半円、多角形またはこれらの組み合わせなどであってもよい。
【0082】
また、前記実施形態や実施例、図20〜24に示される態様では、血液流入口12と補液流入口14とが相互に同形状とされて上下方向で全体的に重なる位置に形成されていたが、かかる態様に限定されるものではない。本発明における血液流入口12と補液流入口14では、小型化の観点から周壁20の内面25への各開口端を同じ高さに設けることがより好ましく、周壁20の内面25への各開口端を同じ高さに設けるに際して、例えば相互に異なる形状とされてもよく、また、同形状または異形状とされた血液流入口12と補液流入口14とが、上下方向で少なくともそれらの一部において相互に重なる位置に形成されていればよい。
【0083】
さらに、前記実施例では、チャンバ本体18内に流入せしめられる血液および補液の流量が何れも200cm3 /minとされた例を示したが、血液および補液の流量は何等限定されるものではなく、適宜設定され得る。また、前記実施形態や実施例、図20〜24に示される態様では、血液流入口12を含む血液流路56と補液流入口14を含む補液流路58とが相互に同形状とされていたが、これら血液流路56や補液流路58の内径および/または形状を相互に異ならせてもよく、これにより例えば血液および補液の流量や流速などを調整するようにしてもよい。なお、血液の流量に対して補液の流量を大きくすることで、補液層を血液層に比して上方に、より安定して位置せしめることも可能である。
【0084】
更にまた、前記実施形態や実施例、図20〜24に示される態様では、混合用チャンバ10,70が、オンラインHDFに利用される例を示したが、本発明に係る混合用チャンバは、オフラインHDFにも適用され得る。すなわち、補液として透析装置中の透析液を利用するものに限定されるものでなく、補液としてバッグ中に封入された薬液などを利用するようになっていてもよい。尤も、本発明は、血液回路上に用いられる混合用チャンバであれば適用され得る。
【符号の説明】
【0085】
10,70,80:混合用チャンバ、12:血液流入口、14:補液流入口、20:周壁、25:内面、46:血液ポート、48:補液ポート、56:血液流路、58:補液流路
図1
図2
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