【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:平成29年3月8日 ウェブサイトのアドレス:http://www.forestry.jp/meeting/files/128abstract.pdf
【文献】
黒丸亮、来田和人,グイマツ雑種F1幼苗からのさし木増殖法,北海道立林業試験場研究報告,北海道立林業試験場,2003年 3月 3日,第40号,p.41-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
植林用山林樹木の苗の育苗には1年〜2年といった長い時間をかけて行われている。育苗中の管理は、露地で行われる露地挿しのような粗放的な管理が一般的である。カラマツ属では、北海道で開発されたグイマツ×カラマツの交雑種「グイマツ雑種F
1」が簡易なビニールハウスで挿し木が行われているほかは、実生による苗木生産が一般的である。
グイマツ雑種F
1は、耐鼠性と高い成長性を併せ持つ優良品種である。グイマツ雑種F
1は、特定のグイマツ品種に対してカラマツを交雑させる必要があり、現在、北海道では採種園整備が進められているが、当面、種子は慢性的な不足状態であるため、現在挿し木で増殖されている。この増殖方法においては、
(a)台木の育成
(b)育成された台木からの採穂
(c)採穂された穂の挿し木
(d)挿し木された穂(苗)の育苗
の各工程を経た後、十分に生育した苗が出荷(山出し)の対象とされる。
【0003】
グイマツ雑種F
1の増殖については、ビニールハウスを用いる方法も実施されている(非特許文献1、2、3)。海外においては大規模な、施設を用いた増殖方法が実用化されている(非特許文献4)。
特許文献1には特異形質を有するとどまつ及びそのつぎ木による増殖方法についての記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グイマツ雑種F
1等のカラマツ属植物の苗は、上記のとおり挿し木で増殖・生産されているが、現状における苗の供給は需要にはるかに及ばず慢性的に供給不足の状態にある。
苗の供給が不足している原因として考えられたのは、現在の増殖方法においては、
(i)採穂のための台木の育成から採穂(上記工程a〜b)に得られる穂の量が少ないこと、及び
(ii)挿し木された穂(苗)が、育苗により正常に生育する割合(得苗率)が低いこと、である。つまり、単位時間(例えば1年間)あたりに得られる挿し木が可能な穂の数及び正常に生育する穂の割合、の結果としての単位時間(年)あたりの苗の生産量は、上記(i)及び(ii)の理由により少ないと考えられた。
【0007】
グイマツ雑種F
1において、挿し木された穂(苗)の育苗は、通常5月〜7月頃に挿し木されることから始められるところ、現在の技術においては1年目の生育はせいぜい発根までであり、山出しが可能になるのは2年目の秋以降である(非特許文献1)。また、発根後の生育を促進するといった手法も存在しない。
単位時間(年)あたりの穂の生産量が少ないばかりでなく、挿し木後の苗の育苗の方法にも問題がある可能性を、本発明者らはさらに見出した。
【0008】
なお、苗の供給が不足している上記(i)及び(ii)の原因・理由について、以下のような事情がある(挿し木前年に播種して挿し木台木として使用した場合を「2年生台木」といい、挿し木当年に播種して挿し木台木として使用した場合を「1年生台木」という):
(i)採穂量が少ないことについて
現在、道内の苗木生産者は配布された1年生苗木を育苗し台木として使用しているが、採穂数が、10〜15本/台木と少ない。原因として配布される苗木が小さいこと、3年生以降の台木では発根率の低下や枝性の問題から採穂できないこと、があげられる。
(ii)低い得苗率について
道内での挿し木は気温が上昇する5月から7月にかけて行われ、発根させるためには厳密な環境制御が必要であるため生産者の管理負担が大きく、さらに管理ミスにより挿し木を枯らし得苗率を大幅に下げている。
【0009】
上記のとおり、グイマツ雑種F
1を含むカラマツ属植物の挿し木苗の生産において、挿し木苗の供給が需要にはるかに及ばないといった状況を改善するための技術を提供することは、早急に解決されるべき新たな課題であると考えられた。
そのために、採穂量を増大するための技術、得苗率を向上させるための技術、及び/又は発根後の苗の生育を促進するための技術を確立することは、カラマツ属植物の挿し木苗の生産における急務である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カラマツ属植物の特定の生理に有利に作用する環境を与えることにより苗の生育が促進もしくは改善されるか、及び/又は台木から得られる穂の数を増大させることができる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]以下の工程(1)〜(2)のうち少なくとも一つの工程を行う、カラマツ属植物の増殖方法:
(1)カラマツ属植物の挿し木苗の育苗を、人工光の環境下で行う工程;
及び
(2)1年生の段階から15時間以上の長日及び13℃以上の加温条件下においてカラマツ属植物の台木を育成し、1年生の時期及び2年生の時期に挿し木のための採穂を行い、該採穂された穂を挿し木する工程。
[2]工程(1)を含む、上記[1]の方法。
[3]工程(1)が挿し木から2ヶ月まで行われる上記[2]の方法
[4]工程(1)が気温15〜25℃、日長が12時間以上で行われる上記[2]の方法。
[5]発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗が行われる前に挿し木苗が移植される、上記[2]又は[3]の方法。
[6]工程(2)を含み、
(2−A)1年生の段階で13℃以上の加温及び15時間以上の長日処理することで採穂を行い、更に2年生の段階において12月から4月までに13℃以上の加温及び15時間以上の長日処理を行って長枝を促成的に伸長させる工程;及び/又は
(2−B)カラマツ属植物の台木育成が、日長12時間以上、気温15〜25℃の環境下である、完全人工光による閉鎖型施設内で周年的に行われる工程
をさらに含む、上記[1]の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の採穂量が少ないという問題及び/又は得苗率が低いといった問題を解決することができる。そのため、本発明によれば、カラマツ属植物についてより高い増殖率を達成し、カラマツ属植物の苗の高効率生産が可能になる。
より具体的には、本発明によれば、より多くの採穂量を確保できるばかりでなく、穂の挿し木を行った年度内に当該穂を育成した苗を山出しの対象とすることができるようになるため、2年生の段階で初めて山出しが可能になる従来の方法より1年度早く苗の生産をより大量に行うことができるといった効果が奏される。
【0013】
本発明の方法は、日長や温度をコントロールするために、主として施設を利用するカラマツ属植物の増殖方法である。植物栽培システムを利用するブルーベリー等の栽培については知られている(特許文献2)。しかしながらカラマツ属植物の増殖のために環境がコントロールされた施設による植物栽培システムを用いることはこれまでなされたことがなく、本願発明が奏する効果は従来技術からは予測することができない格別な効果である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の方法における「太陽光利用型」及び「完全人工光型」(工程(1)〜工程(2))を例示する写真図である。
【
図2】実施例1(工程(1)及び(2))についての試験結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の方法(実施例1)により育成した1年生の苗の大きさを、通常の1年生苗の大きさと比較して示す写真図である。左の写真が本発明の方法により育成した苗であり、右の写真が通常の1年生苗の例である。
【
図4】実施例2における挿し木を示す写真図である。左の写真はトレイにおける生育状況を示し、右の写真は発根後の一つの苗(挿し付け2ヵ月後)を抜き取って示す。
【
図5】工程(2A)を含む本発明の方法による2年生の台木の生育を、通常の2年生台木の生長と比較して示す写真である(実施例3A、太陽光利用型)。写真の中央、赤白ポールより左側が長日処理を含む本発明の方法により育成した台木であり、右側が長日処理していない従来技術の方法により育成した2年生台木の例である。
【
図6】実施例3Aにおける、長日処理した台木と従来の台木の生育を示すグラフである。
【
図7】工程(2A)を含む本発明の方法による1年生の台木の生育を示す写真である(実施例3B、太陽光利用型)。
【
図8】工程(2B)を含む本発明の方法による1年生の台木の生育を示す写真である(実施例3C、完全人工光型)。左の写真は播種から約8ヶ月後の台木の例であり、右の写真は播種から約1.5年後の台木の例である。
【
図9A】工程(1)〜工程(2)((2−A)、(2−B))を含む本発明の台木育成及び挿し木育成方法の工程の例を示す図である。
【
図9B-1】
図9Aに示した本発明の台木育成及び挿し木育成方法の工程の例を示す図の一部の拡大図である。工程(2)(工程(2−A))を含む本発明の方法(「新規1」:「太陽光利用施設」)のうち、主として1年目に行われる工程の部分を示した。
【
図9B-2】
図9Aに示した本発明の台木育成及び挿し木育成方法の工程の例を示す図の別の一部の拡大図である。工程(2)(工程(2−A))を含む本発明の方法(「新規1」:「太陽光利用施設」)のうち、主として2年目に行われる工程の部分を示した。
【
図9C】
図9Aに示した本発明の台木育成及び挿し木育成方法の工程の例を示す図の一部の拡大図である。工程(2)(工程(2−A))及び工程(1)を含む本発明の方法(「新規2」:「太陽光利用施設」)を示した。
【
図9D】
図9Aに示した本発明の台木育成及び挿し木育成方法の工程の例を示す図の別の一部の拡大図である。工程(2)(工程(2−B))及び工程(1)を含む本発明の方法(「新規3」:閉鎖型利用施設)を示した。
【
図10】本発明の方法における工程(1)〜(2)について、工程の概要と工程相互の時期的な関係を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、以下の工程(1)〜(2)のうち少なくとも一つの工程を行う、カラマツ属植物の増殖方法である:
(1)カラマツ属植物の挿し木苗の育苗を、人工光の環境下で行う工程;
及び
(2)1年生の段階から15時間以上の長日及び13℃以上の加温条件下においてカラマツ属植物の台木を育成し、1年生及び/又は2年生の時期に挿し木のための採穂を行い、該採穂された穂を挿し木する工程。
【0016】
以下に工程(1)〜(2)について説明する。工程(1)〜(2)の概要と時期的な相互の関係を、
図10に模式図により例示した。
工程(1)
工程(1)は、カラマツ属植物の挿し木苗の育苗を、人工光の環境下で行う工程である。同工程においてカラマツ属植物の挿し木苗の育苗を行う際の日長及び気温として、日長12時間以上、気温20〜25℃が挙げられる。同工程により、発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗がより高い効率でなされる。同工程を用いることにより、挿し木が行われた年に山出しを行うことも可能になる。よって、工程(1)を含む本発明の方法は、より確実にカラマツ属植物の苗の高効率生産を可能にするため好ましい。
【0017】
工程(1)が開始される時期、すなわち人工光の環境下で、発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗が開始される時期は2月〜3月であり、その後育苗は継続される。工程(1)は、温室等の、光条件及び温度条件が管理された施設内において行われる。
日長として13時間以上は好ましく、14時間以上はより好ましい。
【0018】
工程(1)において、発根が、光条件及び温度条件が管理された環境下において、とくに自動管理された環境下おいて、行われることは好ましい。
また、発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗が行われる前に挿し木苗が移植されることも好ましい。より多量の培地を含むポット等に移植することにより、苗の生育を促進することができるからである。
【0019】
工程(1)における光条件を充足する環境として、人工光に加え太陽光を利用する環境(以下において「太陽光利用型」ということがある(
図1、左の図))又は太陽光を利用せず、人工光のみを用いる環境(以下において「完全人工光型」ということがある(
図1、右の図))いずれも用いることができる。
【0020】
工程(1)における光条件及び温度条件の管理が自動で行われる本発明の方法は、管理がより確実に行われるため好ましい。この場合において光条件を与えるために用いる光源の種類は限定されず、白熱電球、蛍光灯、高輝度放電灯(ハロゲンランプ、高圧ナトリウムランプ)、固体素子発光光源(LED、有機EL等)であってよい。
工程(1)において、挿し木を小容量(10 ml〜30 ml)のプラグを利用して、発根・幼苗段階の育成を行うことは、小面積での量産が可能になるため好ましい。閉鎖環境系において工程(1)を行うことにより周年生産が可能になるため、より好ましい。
なお、小容量のプラグを用いる育苗は、樹木の挿し木においてはこれまで知見がなく、本願発明において初めて行われたものである。小容量のプラグを用いることにより、通常のコンテナの3〜20倍に相当する高密度生産が可能になる。
【0021】
本発明の方法のうち、工程(1)における得苗率が、80%以上である方法は好ましく、90%以上である方法はより好ましく、95%以上である方法は一層より好ましい。工程(1)が、挿し木から2ヶ月後まで行われる本発明の方法は好ましく、挿し木から3ヶ月後まで行われる方法はより好ましい。
【0022】
工程(2)
工程(2)は、1年生の段階から15時間以上の長日及び13℃以上の加温条件下においてカラマツ属植物の台木を育成し、1年生の時期及び2年生の時期に挿し木のための採穂を行い、該採穂された穂を挿し木する工程である。
工程(2)は工程(1)とは異なり、台木の生育をより適切なものにして台木に生じる穂の数を増大させ、採穂数を増大させる工程である。工程(1)と組み合わせて、工程(2)を行うことは、挿し木用の穂の生産性を一層向上させることができるため好ましい。
【0023】
工程(2)における。長日条件として16時間以上の日長が望ましく、18時間の日長がより望ましい。
工程(2)における光条件を充足する環境としては、太陽光利用型及び完全人工光型のいずれであってもよい。
【0024】
工程(2)には、以下の2つの工程をさらに含む工程が包含される:
(2−A)1年生の段階で13℃以上の加温及び15時間以上の長日処理により採穂を行い、且つ2年生の段階において12月から4月までに13℃以上の加温及び15時間以上の長日処理を行って長枝を促成的に伸長させる工程;及び/又は
(2−B)カラマツ属植物の種をポットに播種し、発芽後に日長12時間以上、気温20〜25℃の環境下で完全人工光による育苗を周年的に行い台木を得る工程。
【0025】
工程(2−A)により、台木の生育がより好適化され、採穂数が一層増大するため好ましい。
工程(2−A)において、頂芽及び/又は側枝の採穂を行うことにより、採穂数が一層多くなるため好ましい。採穂を行う時期として、1年生台木では5〜7月、2年生台木では5〜7月が例示される。
【0026】
工程(2−B)は、台木を播種から得る工程である。完全人工光による育成が行われるため台木の生育の好適化に優れ、工程(2−B)によれば生育が均一な台木を効率的に生産することができる。
工程(2−B)において、発芽した幼苗をより容量の大きなポットあるいはコンテナに移植を行うことは採穂数が一層多くなるため好ましい。ポットに移植を行う時期として、発芽直後から発芽後から2ヶ月までの期間が例示される。
工程(2−B)においては、断幹することは好ましい。例えば断幹が、苗長が10cm以上30cm以下で行われ、採穂に適する長枝が採穂に適する5cm前後に伸張した穂を適宜採穂することで、採穂数が一層多くなる。
【0027】
本発明の方法のうち、カラマツ属植物の挿し木苗の育苗を、日長12時間以上、気温20〜25℃の環境下で行う工程(以下において「工程(3)」ということがある)をさらに含むものは、好ましい。同工程により発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗がより高い効率でなされるからである。同工程を用いることにより、挿し木が行われた年に山出しを行うことがより確実に可能になる。よって、工程(3)を含む本発明の方法は、より確実にカラマツ属植物の苗の高効率生産を可能にするため好ましい。
【0028】
工程(3)が開始される時期、すなわち日長12時間以上、気温20〜25℃の環境下での、発根した後のカラマツ属植物の挿し木苗の育苗が開始される時期は2月〜3月であり、その後育苗は継続される。工程(3)は、温室等の、光条件及び温度条件が管理された施設内において行われる。
工程(3)における日長として13時間以上は好ましく、14時間以上はより好ましい。
【0029】
本発明の方法においては、従来の方法と同様に必ずしも肥料は必要とされないが、肥料が用いられる条件下において行われる本発明の方法は好ましい。
肥料の種類は限定されず、固形肥料および液体肥料のいずれも好適に用いられる。固形肥料は初期肥効が抑えられる肥効調節型肥料を予め培地に混合しておくか、根を伸長させる時期に移行する際に添加してよい。液体肥料は、根を伸長させる工程以降に培地に添加してよい。
【0030】
本発明においては工程(1)〜(2)を適宜組み合わせることにより、目標とする増殖率や現有設備が制御可能な環境条件に対応したカラマツ属植物の増殖を行うことができる。
工程(1)〜(2)の組み合わせの例を
図9A〜
図9Dに示した。
太陽光利用施設を用いる組み合わせの方式として、「太陽光利用施設 A」及び「太陽光利用施設 B」の2つを示した。
「太陽光利用施設 A」の方式(
図9A及び
図9B−1及び
図9B−2)においては、台木の育成に工程(2−A)が播種後2年目まで継続され、挿し木の育成は1年目から公知の方法又は工程(3)を含む方法により行われる。この方式によれば、穂の供給が播種後1年目からなされ、専用培地が充填されたポットに直接挿し木される。
「太陽光利用施設 B」の方式(
図9A及び
図9C)においては、台木の育成に工程(2−A)が播種後2年目まで継続され、挿し木の育成は1年目〜2年目にかけては公知の方法もしくは工程(3)を含む方法により、又は2年目から工程(1)により、挿し木育苗により行われる。この方式によれば、発根済みの苗を最も日照量の多い時期に育苗することにより、苗木生産時間の短縮化を図ることができる。
【0031】
環境条件が完全にコントロールされた「閉鎖型施設利用」の方式(
図9A及び
図9D)を用いる場合、工程(2−B)により、播種を3ヶ月ほどの間隔で複数回実施して台木育成がなされる。プラグによる挿し木幼苗の育成は工程(1)により、幼苗を移植した後の育成は公知の方法又は工程(3)を含む方法により行われる。この方式によれば、穂の生産が一層増大されるため、さらに大量かつ効率的な増殖が可能である。
【0032】
実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例はいかなる意味においても本発明を限定するものではない。
【0033】
●実施例1
<目的>工程(1)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率を確認する。
<試験方法>
・容器/育苗方法等
下記表1のとおりであった。
【表1】
<試験結果・考察>
結果を
図2に示した。挿し木の生育は台木ごとに集計した。
発根後、ある程度生育した段階(挿し付け後2ヶ月)で通常の温室へ移動したところ、挿し付け後235日目(2016年10月25日)には、苗長は35〜45cmと山出し可能な大きさに成長した。この大きさは通常の2年生苗の生長とほぼ同等であった(
図3)。工程(1)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率が高いことが確認された。
なお、発根までは自動環境制御下において生育を行ったため管理にほとんど手間はかからなかったにもかかわらず、得苗率は100%であった。通常、温室で挿し木育苗する場合には、日射、温度、湿度をきめ細かに管理しなくてはならない手間及び低い得苗率と比較すると、本発明の方法として工程(1)を含む方法によればはるかに効率的に発根苗を生産できることも明らかになった。
【0034】
●実施例2
<目的>工程(1)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率を確認する。
<試験方法>
・挿し木を小容量(30ml)のプラグを利用して、発根・幼苗段階を育成した。
・プラグとして“Ellepot”(Ellegard社製 φ30mm×H30mm)を用いた。
・12時間日長、25℃の条件にて、完全人工光型の育苗を行った。
<試験結果・考察>
挿し木2カ月後の得苗率として、90%以上の得苗率が達成された(
図4)。この得苗率は、従来技術における得苗率(発根し移植できる率)である約70%以下をはるかに上回るものである。また、当該ポットは分解性の紙で包含されたもので、伸張した根が充分空気根切りされ、育苗用ポットあるいはコンテナに直接移植が可能である。
【0035】
●実施例3A
<目的>工程(2)を含む本発明の方法として、工程(2−A)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率を確認する。
<試験方法>
・実施場所:北海道林業試験場内実験温室(北海道美唄市)
・台木:2013年4月にサイドスリット付コンテナ(BCC社製HIKO-120SS)に播種して育成した2年生を使用した。2014年4月18日に径15cm、深さ12.5cmのポリポットに移植した。培地はピートモス70%+鹿沼土30%であった。
・育成環境:温室内(太陽光利用型)で5月20日まで最低気温13℃で管理し、また、温室内温度が25℃以上になると換気窓を開放して育成した。
・長日処理:2014年8月4日〜10月31日で18時間日長とした。照射時間は、午前2時から日の出後十分に明るくなるまで(季節により調整)と日の入り前の十分に明るい時間から午後8時までであった。照射用のライトとして高圧ナトリウムランプ(360W、岩崎電気製、品番NH360FLS)を用いた。
・対照の従来技術の台木として、2013年4月に苗畑に播種して2014年4月18日に同じポットに移植し、自然光以外は同じ条件で育成した苗木を用いた。
<試験結果・考察>
長日処理が終了した10月末の結果を
図5及び
図6に示す。台木は1mを越えるほどにまで成長し(
図5、左の5本)、従来技術による台木(
図5、右の5本)をはるかに上回る成長を示した(
図6)。穂の数も、本発明の方法により顕著に増大した。
【0036】
●実施例3B
<目的>工程(2)を含む本発明の方法として、工程(2−A)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率を実施例3Aとは異なる試験により確認する。
<試験方法>
・実施場所:北海道林業試験場内実験温室(北海道美唄市)
・台木:2015年3月6日にリブ付コンテナ(全国山林種苗協同組合連合会製JFA300)に播種し。2016年3月10日に径15cm、深さ15cmのポリポットに移植した。培地はリブ付コンテナがピートモス100%、ポリポットがピートモス70%+鹿沼土30%であった。
・育成環境:温室内(太陽光利用型)で2015年は3月6日〜4月27日まで、2015年は3月10日〜5月7日まで最低気温13℃で管理した。また、温室内温度が25℃以上になると換気窓を開放して育成した。
・長日処理:
2015年3月6日〜5月23日、7月31日〜9月30日、2016年3月10日〜5月21日、7月21日〜挿し木が終了するまで18時間日長とした。照射時間は、午前2時から日の出後十分に明るくなるまで(季節により調整)と日の入り前の十分に明るい時間であった。照射用のライトとして高圧ナトリウムランプ(360W、岩崎電気製、品番NH360FLS)を用いた。
<試験結果・考察>
長日処理した場合としない場合、1年目に主軸を剪定した場合としない場合の採穂数を表2に示す。1年生の段階で採穂が可能な大きさに成長し(
図7)、長日処理により1年生時の採穂量が20〜40%アップした(表2)。また、主軸を1年生時に剪定することで1年生時の採穂量は減少するが、2年生までの採穂量は10%以上増加した。
さらに2年生までに70本/台木以上が達成された。
【表2】
【0037】
●実施例3C
<目的>工程(2)を含む本発明の方法として、工程(2−B)を含む本発明の方法による挿し木苗の製造効率を確認する。
<試験方法>
・対象:クリーンラーチ
・播種日:2015年6月19日。発芽後容量200mlのポットに移植し、更に同年12月18日に1リットル容の鉢に移植を行った。
・苗長30cmで断幹した。
・育成環境:18時間日長、温度25℃、底面給液で毎日潅水した。培地は上記ポット、鉢で同じ配合でピートモス:バーミキュライト:鹿沼土=40:40:20%v/vであった。添加肥料の条件と肥料の配合は表3に示すとおりであった。添加肥料条件がHC085:10 g/Lであり肥料配合がOSM 10g/Lの区、ならびに添加肥料条件がOSM 10g/Lであり肥料配合がOSM 10g/Lの区のそれぞれについて3本ずつを供試し、採穂できた穂の数を採穂数として調べた。採穂時期は2016年2月〜9月であった。
<試験結果・考察>
結果を表3に示す。いずれの区においても従来技術を上回る採穂が可能であった。
肥料条件がHC085:10 g/Lであり肥料配合がOSM 10g/Lの区のほうがやや良好であり、最も多い台木では48本の採穂が可能であった。
穂の様子を
図8に示した。
【表3】
【0038】
以上の結果から、本発明の方法によりカラマツ属植物について従来技術より高い増殖率を達成できることが明らかになった。