特許第6896317号(P6896317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6896317
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】鉗子装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/28 20060101AFI20210621BHJP
   A61B 34/35 20160101ALN20210621BHJP
【FI】
   A61B17/28
   !A61B34/35
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2021-507719(P2021-507719)
(86)(22)【出願日】2020年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2020034370
【審査請求日】2021年2月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】滝川 恭平
【審査官】 槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第107928792(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0099231(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105212987(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2020/0054405(US,A1)
【文献】 特許第6850517(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28−17/295
A61B 34/30−34/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部と、
前記把持部を保持する支持体と、
前記支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸を保持するベース部品と、
前記第1の回転軸と同軸に配置されている複数のガイドプーリと、
前記複数のガイドプーリと前記把持部との間に他のプーリを介さずに掛かり、前記把持部を動作させる駆動力を伝達する複数の把持部ワイヤと、
前記支持体に設けられた支持体プーリと、
前記支持体プーリに掛かり、前記支持体を前記第1の回転軸を中心に回転させる駆動力を伝達する支持体ワイヤと、を備え
前記把持部は、互いが相対的に動くことで対象物を把持する第1の把持部及び第2の把持部を有し、
前記第1の把持部は、二股に形成されている第1の把持部プーリ及び第2の把持部プーリと連なり、
前記第2の把持部は、二股に形成されている第3の把持部プーリ及び第4の把持部プーリと連なり、
前記第1の把持部プーリ、前記第3の把持部プーリ、前記第2の把持部プーリ及び前記第4の把持部プーリを、この順で回転可能に支持する第2の回転軸を更に備え、
前記支持体は、前記第1の回転軸が貫通する筒状部を有し、
前記複数のガイドプーリは、前記筒状部の外周に回転可能に支持されている鉗子装置。
【請求項2】
把持部と、
前記把持部を保持する支持体と、
前記支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸を保持するベース部品と、
前記第1の回転軸と同軸に配置されている複数のガイドプーリと、
前記複数のガイドプーリと前記把持部との間に他のプーリを介さずに掛かり、前記把持部を動作させる駆動力を伝達する複数の把持部ワイヤと、を備え、
前記把持部は、互いが相対的に動くことで対象物を把持する第1の把持部及び第2の把持部を有し、
前記第1の把持部は、二股に形成されている第1の把持部プーリ及び第2の把持部プーリと連なり、
前記第2の把持部は、二股に形成されている第3の把持部プーリ及び第4の把持部プーリと連なり、
前記第1の把持部プーリ、前記第3の把持部プーリ、前記第2の把持部プーリ及び前記第4の把持部プーリを、この順で回転可能に支持する第2の回転軸を更に備え
前記支持体は、前記第1の回転軸が貫通する筒状部を有し、
前記複数のガイドプーリは、前記筒状部の外周に回転可能に支持されていることを特徴とする鉗子装置。
【請求項3】
前記複数のガイドプーリは、第1〜第4のガイドプーリを有し、
前記複数の把持部ワイヤは、前記第1〜第4のガイドプーリと前記第1〜第4の把持部プーリとの間に他のプーリを介さずに掛けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉗子装置。
【請求項4】
前記複数の把持部ワイヤは、
前記第1のガイドプーリと前記第3の把持部プーリとの間に掛けられた第1の把持部ワイヤと、
前記第2のガイドプーリと前記第1の把持部プーリとの間に掛けられた第2の把持部ワイヤと、
前記第3のガイドプーリと前記第2の把持部プーリとの間に掛けられた第3の把持部ワイヤと、
前記第4のガイドプーリと前記第4の把持部プーリとの間に掛けられた第4の把持部ワイヤと、
を有することを特徴とする請求項に記載の鉗子装置。
【請求項5】
前記第1の把持部ワイヤは、前記第1の回転軸を含み前記第2の回転軸と直交する鉛直断面を基準に、前記第1のガイドプーリの一方の側に掛けられた後に、前記鉛直断面の一方の側にある前記第3の把持部プーリに固定されており、
前記第2の把持部ワイヤは、前記鉛直断面を基準に、前記第2のガイドプーリの一方の側に掛けられた後に、前記鉛直断面の一方の側にある前記第1の把持部プーリに固定されており、
前記第3の把持部ワイヤは、前記鉛直断面を基準に、前記第3のガイドプーリの他方の側に掛けられた後に、前記鉛直断面の他方の側にある前記第2の把持部プーリに固定されており、
前記第4の把持部ワイヤは、前記鉛直断面を基準に、前記第4のガイドプーリの他方の側に掛けられた後に、前記鉛直断面の他方の側にある前記第4の把持部プーリに固定されている、
ことを特徴とする請求項に記載の鉗子装置。
【請求項6】
前記第1のガイドプーリの上流側であって前記鉛直断面の他方の側にある第5のガイドプーリと、
前記第2のガイドプーリの上流側であって前記鉛直断面の他方の側にある第6のガイドプーリと、
前記第3のガイドプーリの上流側であって前記鉛直断面の一方の側にある第7のガイドプーリと、
前記第4のガイドプーリの上流側であって前記鉛直断面の一方の側にある第8のガイドプーリと、
を備えることを特徴とする請求項に記載の鉗子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用ロボットのマニピュレータに用いられる鉗子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、術者の負担軽減や、医療施設の省人化を図るためにロボット(マニピュレータ)を利用した医療処置の提案がされている。外科分野では、術者が遠隔操作可能な手術用マニピュレータを操作して患者の処置を行う、手術用マニピュレータシステムに関する提案が行われている。
【0003】
手術用マニピュレータの先端には各種の術具が装着されており、術具として手術の際に人体の組織を把持する鉗子が知られている。例えば、特許文献1には、把持部となる二つのジョー部のそれぞれに外径の異なる二つのディスクが設けられており、各ディスクに掛かるワイヤを引っ張ることで、ジョー部の開閉を行う鉗子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0127045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の鉗子は、ジョー部を全体として屈曲させる際に引っ張られるワイヤが掛かるディスクと、ジョー部に設けられているディスクとの間に、ワイヤのフリートアングルを小さくするための偏向ローラが設けられている。そのため、ジョー部を全体として屈曲させる際の回転軸と、ジョー部を開閉させる際の回転軸との間の距離がある程度必要である。そのため、回転軸同士の軸間が短い鉗子と比較して、鉗子先端でのトルクが減少し制御性が低下することになる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、制御性の良好な新たな鉗子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の鉗子装置は、把持部と、把持部を保持する支持体と、支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、第1の回転軸を保持するベース部品と、第1の回転軸と同軸に配置されている複数のガイドプーリと、複数のガイドプーリと把持部との間に他のプーリを介さずに掛かり、把持部を動作させる駆動力を伝達する複数の把持部ワイヤと、支持体に設けられた支持体プーリと、支持体プーリに掛かり、支持体を第1の回転軸を中心に回転させる駆動力を伝達する支持体ワイヤと、を備える。
【0008】
この態様によると、第1の回転軸と第2の回転軸との距離を短くできるため、把持部によるトルクを増加できる。その結果、把持部の制御性が良好な鉗子装置を提供できる。
【0009】
把持部は、互いが相対的に動くことで対象物を把持する第1の把持部及び第2の把持部を有してもよい。第1の把持部は、二股に形成されている第1の把持部プーリ及び第2の把持部プーリと連なり、第2の把持部は、二股に形成されている第3の把持部プーリ及び第4の把持部プーリと連なり、第1の把持部プーリ、第3の把持部プーリ、第2の把持部プーリ及び第4の把持部プーリを、この順で回転可能に支持する第2の回転軸を更に備えてもよい。
【0010】
本発明の別の態様もまた、鉗子装置である。この装置は、把持部と、把持部を保持する支持体と、支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、第1の回転軸を保持するベース部品と、第1の回転軸と同軸に配置されている複数のガイドプーリと、複数のガイドプーリと把持部との間に他のプーリを介さずに掛かり、把持部を動作させる駆動力を伝達する複数の把持部ワイヤと、を備える。把持部は、互いが相対的に動くことで対象物を把持する第1の把持部及び第2の把持部を有する。第1の把持部は、二股に形成されている第1の把持部プーリ及び第2の把持部プーリと連なり、第2の把持部は、二股に形成されている第3の把持部プーリ及び第4の把持部プーリと連なり、第1の把持部プーリ、第3の把持部プーリ、第2の把持部プーリ及び第4の把持部プーリを、この順で回転可能に支持する第2の回転軸を更に備える。
【0011】
この態様によると、第1の回転軸と第2の回転軸との距離を短くできるため、把持部によるトルクを増加できる。その結果、把持部の制御性が良好な鉗子装置を提供できる。
【0012】
支持体は、第1の回転軸が貫通する筒状部を有してもよい。複数のガイドプーリは、筒状部の外周に回転可能に支持されていてもよい。
【0013】
複数のガイドプーリは、第1〜第4のガイドプーリを有してもよい。複数の把持部ワイヤは、第1〜第4のガイドプーリと第1〜第4の把持部プーリとの間に他のプーリを介さずに掛けられていてもよい。
【0014】
複数の把持部ワイヤは、第1のガイドプーリと第3の把持部プーリとの間に掛けられた第1の把持部ワイヤと、第2のガイドプーリと第1の把持部プーリとの間に掛けられた第2の把持部ワイヤと、第3のガイドプーリと第2の把持部プーリとの間に掛けられた第3の把持部ワイヤと、第4のガイドプーリと第4の把持部プーリとの間に掛けられた第4の把持部ワイヤと、を有してもよい。
【0015】
第1の把持部ワイヤは、第1の回転軸を含み第2の回転軸と直交する鉛直断面を基準に、第1のガイドプーリの一方の側に掛けられた後に、鉛直断面の一方の側にある第3の把持部プーリに固定されており、第2の把持部ワイヤは、鉛直断面を基準に、第2のガイドプーリの一方の側に掛けられた後に、鉛直断面の一方の側にある第1の把持部プーリに固定されており、第3の把持部ワイヤは、鉛直断面を基準に、第3のガイドプーリの他方の側に掛けられた後に、鉛直断面の他方の側にある第2の把持部プーリに固定されており、第4の把持部ワイヤは、鉛直断面を基準に、第4のガイドプーリの他方の側に掛けられた後に、鉛直断面の他方の側にある第4の把持部プーリに固定されていてもよい。これにより、4つの把持部ワイヤがそれぞれ交差することなく、対応する4つの把持部プーリに固定される。また、第1〜第4のガイドプーリに掛かっている4つの把持部ワイヤは、フリートハングルが小さい状態で対応する4つの把持部プーリに固定される。
【0016】
上述の鉗子装置は、第1のガイドプーリの上流側であって鉛直断面の他方の側にある第5のガイドプーリと、第2のガイドプーリの上流側であって鉛直断面の他方の側にある第6のガイドプーリと、第3のガイドプーリの上流側であって鉛直断面の一方の側にある第7のガイドプーリと、第4のガイドプーリの上流側であって鉛直断面の一方の側にある第8のガイドプーリと、を備えてもよい。これにより、第1の回転軸を中心に支持体がどちらの方向に曲がっても、第1〜第4のガイドプーリのいずれかに複数の把持部ワイヤのいずれかが接触するようになり、支持体を回転させる際の制御性が安定する。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制御性の良好な鉗子装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態に係る鉗子装置の斜視図である。
図2図1の鉗子装置をA方向から見た正面図である。
図3図1の鉗子装置をB方向から見た側面図である。
図4図1の鉗子装置をC方向から見た側面図である。
図5図3に示す鉗子装置のD−D断面図である。
図6図5の領域Rの拡大図である。
図7】本実施の形態に係るガイドプーリの正面図である。
図8図7に示すガイドプーリのE−E断面図である。
図9】本実施の形態に係る支持体の斜視図である。
図10】本実施の形態に係る鉗子装置の製造方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
図11】本実施の形態に係る一対のジョー部品を向かい合わせに組み合わせる様子を示す斜視図である。
図12図1に示す鉗子装置をH1方向から見た斜視図である。
図13図1に示す鉗子装置をH2方向から見た斜視図である。
図14図1に示す鉗子装置をH3方向から見た斜視図である。
図15図1に示す鉗子装置をH2方向と反対方向から見た斜視図である。
図16図3に示す鉗子装置のベース部品の図示を省略した図である。
図17図4に示す鉗子装置のベース部品の図示を省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
(鉗子装置)
図1は、本実施の形態に係る鉗子装置の斜視図である。図2は、図1の鉗子装置をA方向から見た正面図である。図3は、図1の鉗子装置をB方向から見た側面図である。図4は、図1の鉗子装置をC方向から見た側面図である。
【0022】
各図に示す鉗子装置10は、一対の把持部12a,12bと、一対の把持部12a,12bを保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16と、第1の回転軸16を保持するベース部品18と、第1の回転軸16と同軸に配置されている4つのガイドプーリ20と、一対の把持部12a、12bを回転可能に支持し、支持体14に保持される第2の回転軸22と、第2の回転軸22と同軸に保持される4つのジョープーリ24と、4つのガイドプーリ20と4つのジョープーリ24との間に掛けられた4本のワイヤ26,28,30,32と、支持体14を第1の回転軸16を中心に回転させるためのワイヤ38,40と、を備えている。
【0023】
(ガイドプーリ20)
図5は、図3に示す鉗子装置10のD−D断面図である。図6は、図5の領域Rの拡大図である。図5及び図6に示すように、ガイドプーリ20は、第1の回転軸16に対して傾斜するように、支持体14の一部である円筒の環状部14aを介して第1の回転軸16に回転可能に支持されている。これにより、ワイヤ26,28,30,32のそれぞれは、ガイドプーリ20に対する実質的なフリートアングルが小さくなり、ガイドプーリ20のガイド溝20aのエッジ20bと干渉しにくくなる。なお、ガイドプーリ20は、支持体14を介さずに第1の回転軸16に直接支持されていてもよい。
【0024】
図7は、本実施の形態に係るガイドプーリ20の正面図である。図8は、図7に示すガイドプーリ20のE−E断面図である。本実施の形態に係るガイドプーリ20は、第1の回転軸16が貫通する円形の開口部20cの中心線CLに対して、内周面20dが傾斜している。内周面20dは、第1の回転軸16が挿入された支持体14の環状部14aに対して摺動する。これにより、フリートアングルがあるワイヤから受ける力でガイドプーリ20が自律的に傾斜する。なお、ガイドプーリ20が直接第1の回転軸16に支持されている場合、ガイドプーリ20の内周面20dは、第1の回転軸16の外周面に直接摺動することになる。
【0025】
図8に示すように、ガイドプーリ20は、中心線CLと直交し内径dが最も小さい平面Pから中心線CLに沿って離れるに従って、内径dが徐々に広がるように内周面20dが形成されている。換言すると、内周面20dは、円錐形状やすり鉢形状、あるいはテーパ面として形成されていてもよい。また、平面Pを挟んで内周面20dと反対側の内周面20eも、内周面20dと同様の形状に加工されている。
【0026】
なお、本実施の形態に係るガイドプーリ20は、内周面20d及び内周面20eと中心線CLとが成す角αが3〜7°の範囲である。また、ガイドプーリ20の一方の端面20fは、平面Pに対して角度α傾斜しており、一方の端面20fと内周面20dとの成す角は90°である。また、ガイドプーリ20の他方の端面20gは、平面Pと平行である(中心線CLに対して直交している)。したがって、ガイドプーリ20は平面Pを挟んで左右が非対称の環状部材である。
【0027】
本実施の形態に係るガイドプーリ20は、図5図6に示すように、支持体14を挟んで両側に2つずつ隣接して配置されている。そして、図6に示すように、2つのガイドプーリ20を並べて環状部14aに装着する際には、他方の端面20g同士が向かい合わせになるようにしている。その結果、隣接する2つのガイドプーリ20の一方(ガイドプーリ20B)は、傾斜した状態で支持体14に当接し、隣接する2つのガイドプーリ20の他方(ガイドプーリ20A)は、傾斜した状態でベース部品18に当接する。これにより、ガイドプーリ20が傾斜した際に、ガイドプーリ20の第1の回転軸方向Xへの位置が精度良く決まる。
【0028】
それぞれのガイドプーリ20は、図2に示すように、掛けられた複数のワイヤ26,28がジョープーリ24の外周に向けて外側に広がるように、第1の回転軸16に対して傾斜している。これにより、一対の把持部12a,12bでの操作トルクを増大させやすい直径の大きなジョープーリ24を用いても、ガイドプーリ20におけるワイヤの干渉を抑制できる。
【0029】
次に、ベース部品18について説明する。本実施の形態に係るベース部品18は、図2図5に示すように、第1の回転軸16の両端を保持する一対のアーム18a,18bと、一対のアーム18a,18bに保持され、ガイドプーリ20よりも上流側にある4つのガイドプーリ34を回転可能に支持する第3の回転軸36とを有している。なお、本実施の形態に係る第3の回転軸36は、一対のアーム18a,18bのそれぞれに設けられている。
【0030】
アーム18a,18bは、第3の回転軸36を保持する根本部分18cよりも第1の回転軸16を保持する先端部分18dの方が薄肉である。換言すると、先端部分18d同士の間隔は、根本部分18c同士の間隔よりも広い。これにより、図3に示すように、フリートアングルのあるワイヤ26,28が支持体14とともに第1の回転軸16を中心に屈曲(図3の矢印F方向)した場合であっても、アーム18a,18bと干渉しにくくなる。
【0031】
また、アーム18a(アーム18b)の先端部分18dの周方向の幅W1は、根本部分18cの周方向の幅W2よりも狭い。これにより、ワイヤとの干渉を考慮する必要のある先端部分18dにU字状の逃がし部を形成しつつ、先端部分18dの周方向の幅よりも根本部分18cの周方向の幅を大きくすることでアームの剛性の低下を抑えられる。
【0032】
また、図5に示すように、本実施の形態に係るジョープーリ24の外径G1は、一対のアーム18a,18bの根本部分18c同士の間隔G2より大きい。つまり、本実施の形態に係る鉗子装置10は、筒状のベース部品18の内径の大きさの割に外径の大きなジョープーリ24を採用することが可能となる。
【0033】
(支持体の組立性)
図9は、本実施の形態に係る支持体の斜視図である。図5図6に示すように、本実施の形態に係る鉗子装置10は、一対の把持部12a,12bと、一対の把持部12a,12bを保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16と、第1の回転軸16を保持するベース部品18と、第1の回転軸16と同軸に配置されている複数のガイドプーリ20と、を備える。支持体14は、図9に示すように、第1の回転軸16が貫通する筒状部としての環状部14aを有する。複数のガイドプーリ20は、環状部14aの外周に回転可能に支持されている。なお、回転軸とは、自身が回転するものだけではなく、支持する部材が回転する際の軸となるものであればよく、他の部材に対して固定されている軸であってもよい。
【0034】
このように構成された鉗子装置10において、環状部14aの外周に複数のガイドプーリ20が支持された状態の支持体14は、ベース部品18に対して第1の回転軸16を介して保持される。そのため、支持体14が直接ベース部品18に保持される場合と比較して、組立性の改善を図りやすい。
【0035】
また、本実施の形態に係るベース部品18は、対向する一対のアーム18a,18bを有している。また、第1の回転軸16は、軸方向の両端が一対のアーム18a,18bに対して圧入嵌合されることで強固に固定されている。これにより、自由端となり得る一対のアーム18a,18bの先端部同士が回転軸で固定されるため、ベース部品18全体の剛性が増す。
【0036】
また、ワイヤ26,28,30,32のそれぞれは、把持部12aや把持部12bを動作させる駆動力を伝達するためのものである。具体的には、ワイヤ26及びワイヤ32は、把持部12bのジョープーリ24に掛かっており、把持部12bは、ワイヤ26が引かれると開く方向に動き、ワイヤ32が引かれると閉じる方向に動く。また、ワイヤ28及びワイヤ30は、把持部12aのジョープーリ24に掛かっており、把持部12aは、ワイヤ28が引かれると閉じる方向に動き、ワイヤ30が引かれると開く方向に動く。
【0037】
また、4つのガイドプーリ20のそれぞれは、対応するワイヤ26,28,30,32が掛かっている。ワイヤ26,28,30,32は、把持部12a,12bを動作させる際に、第1の回転軸16から支持体14が受ける垂直抗力が減少するように、対応するガイドプーリ20に掛かっている。詳述すると、ワイヤ26,28,30,32は、図2に示すように、対応するガイドプーリ20とガイドプーリ34との間を通り、ガイドプーリ20の下側(第1の回転軸16を挟んで把持部12a,12bと反対側)から掛かっている。
【0038】
したがって、把持部12a,12bを動作させる際に、ワイヤ26,28,30,32の少なくともいずれかに張力が発生すると、その張力によってガイドプーリ20を介して支持体14に力が働く。本実施の形態に掛かる鉗子装置10の場合、ワイヤ26,28,30,32で発生する張力によって、支持体14に把持部12a,12bの方向へ向かう力が加わる。
【0039】
また、支持体14は、支持体を第1の回転軸16を中心に回転させる駆動力を伝達するワイヤ38,40が掛かる支持体プーリ42が一体的に形成されている。そのため、ワイヤ38,40の一方を引っ張ることで支持体14を回転させようとすると、支持体プーリ42に掛かっているワイヤ38,40の張力によって、支持体14が第1の回転軸16側に押し付けられる。その際に、第1の回転軸16から支持体14が受ける垂直抗力が発生し、摩擦力の増大の一因となる。
【0040】
しかしながら、本実施の形態に係る鉗子装置10においては、前述のように把持部12a,12bを動作させる際のワイヤ26,28,30,32の張力によってガイドプーリ20に図2の上向きの力が発生する。このガイドプーリ20に働く力によって、ワイヤ38,40に起因する垂直抗力を減少させることで、第1の回転軸16に対して支持体14が回転する際の摩擦力が低減する。その結果、把持部12a,12bの動作がスムーズとなり鉗子装置10の制御性が良化する。
【0041】
(鉗子装置の製造方法)
次に、本実施の形態に係る鉗子装置10の製造方法について説明する。図10は、本実施の形態に係る鉗子装置の製造方法を説明するためのフローチャートを示す図である。この方法は、はじめに、把持部12a,12bを保持している支持体14を準備する(S10)。次に、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16が挿入される貫通孔44(図5参照)が形成されている環状部14aの外周に、複数のガイドプーリ20を装着する(S12)。次に、第1の回転軸16が挿入される穴18e,18fが形成されているベース部品18に対して、穴18e,18fと貫通孔44とが直線的に並ぶように支持体14を位置決めする(S14)。そして、穴18eから第1の回転軸16を挿入し、最終的に第1の回転軸16の両端をベース部品18の穴18,18fに対して圧入することで、第1の回転軸16がベース部品18に対して強固に固定される(S16)。なお、各プーリにワイヤを掛ける工程は、前述の製造の妨げにならないタイミングで行えばよい。
【0042】
この製造方法によれば、分割したベース部品で支持体を挟んでからベース部品同士を接合するといった工程が不要となる。あるいは、支持体とプーリとベース部品のそれぞれの穴を同軸に配置し、その位置を保持しながら、回転軸を支持体に対して圧入するといった調整の難しい工程が不要となる。
【0043】
(把持部)
次に、本実施の形態に係る把持部を構成するジョー部品について詳述する。図11は、本実施の形態に係る一対のジョー部品を向かい合わせに組み合わせる様子を示す斜視図である。図11に示すジョー部品50A,50Bは、互いにほぼ同じ形状の部品である。ジョー部品50A,50Bは、互いが相対的に動くことで対象物を把持する把持部12a及び把持部12bを有している。把持部12aは、二股に形成されているジョープーリ24a(第1の把持部プーリ)及びジョープーリ24b(第2の把持部プーリ)と連なり、一体的にジョー部品50Aを構成する。また、把持部12bは、二股に形成されているジョープーリ24c(第3の把持部プーリ)及びジョープーリ24d(第4の把持部プーリ)と連なり、一体的にジョー部品50Bを構成する。
【0044】
図12は、図1に示す鉗子装置10をH1方向から見た斜視図である。図13は、図1に示す鉗子装置10をH2方向から見た斜視図である。図14は、図1に示す鉗子装置10をH3方向から見た斜視図である。図15は、図1に示す鉗子装置10をH2方向と反対方向から見た斜視図である。なお、H1方向からH3方向は、第1の回転軸16を含む水平面H内にある方向である。また、図12乃至図15の各図においてはベース部品18の図示を省略している。
【0045】
各図に示すように、ジョープーリ24a、ジョープーリ24c、ジョープーリ24b及びジョープーリ24dは、この順で第2の回転軸22に回転可能に支持されている。また、ガイドプーリ20A、ガイドプーリ20B、ガイドプーリ20C及びガイドプーリ20Dは、この順で第1の回転軸16に回転可能に支持されている。把持部12a,12bを開閉動作させる駆動力を伝達する把持部ワイヤとしてのワイヤ26,28,30,32は、複数のガイドプーリ20A〜20Dと把持部12a,12bとの間に他のプーリを介さずに掛かっている。なお、駆動力は鉗子装置10の外部にあるアクチュエータユニットから入力される。これにより、図12等に示すように、第1の回転軸16と第2の回転軸22との距離を短くできるため、把持部12a,12bによるトルク(操作力)を増加できる。その結果、把持部12a,12bの制御性が良好な鉗子装置10を提供できる。
【0046】
(各種プーリへのワイヤの掛かり方)
次に、本実施の形態に係るワイヤ26,28,30,32の各プーリへの掛かり方について詳述する。ワイヤ26は、ガイドプーリ20Aとジョープーリ24cとの間に掛けられている。ワイヤ28は、ガイドプーリ20Bとジョープーリ24aとの間に掛けられている。ワイヤ30は、ガイドプーリ20Cとジョープーリ24bとの間に掛けられている。ワイヤ32は、ガイドプーリ20Dとジョープーリ24dとの間に掛けられている。
【0047】
図16は、図3に示す鉗子装置10のベース部品18の図示を省略した図である。図17は、図4に示す鉗子装置10のベース部品の図示を省略した図である。
【0048】
図12図13及び図16に示すように、ワイヤ26は、第1の回転軸16を含み第2の回転軸22と直交する鉛直断面Vを基準に、ガイドプーリ20Aの一方の側S1に掛けられた後に、鉛直断面Vの一方の側S1にあるジョープーリ24cに固定されている。ワイヤ28は、鉛直断面Vを基準に、ガイドプーリ20Bの一方の側S1に掛けられた後に、鉛直断面Vの一方の側S1にあるジョープーリ24aに固定されている。
【0049】
また、図14乃至図16に示すように、ワイヤ30は、鉛直断面Vを基準に、ガイドプーリ20Cの他方の側S2に掛けられた後に、鉛直断面Vの他方の側にあるジョープーリ24bに固定されている。ワイヤ32は、鉛直断面Vを基準に、ガイドプーリ20Dの他方の側S2に掛けられた後に、鉛直断面Vの他方の側S2にあるジョープーリ24dに固定されている。これにより、4つの把持部ワイヤがそれぞれ交差することなく、対応する4つの把持部プーリに固定される。また、ガイドプーリ20A〜20Dに掛かっている4つの把持部ワイヤは、フリートアングルが小さい状態で対応する4つの把持部プーリに固定される。
【0050】
また、鉗子装置10は、ガイドプーリ20Aの上流側(把持部と反対側)であって鉛直断面Vの他方の側S2にあるガイドプーリ34aと、ガイドプーリ20Bの上流側であって鉛直断面Vの他方の側S2にあるガイドプーリ34bと、ガイドプーリ20Cの上流側であって鉛直断面Vの一方の側S1にあるガイドプーリ34cと、ガイドプーリ20Dの上流側であって鉛直断面Vの一方の側S1にあるガイドプーリ34dと、を備えている。
【0051】
これにより、第1の回転軸16を中心に支持体14がどちらの方向に曲がっても、ガイドプーリ20A〜20Dのいずれかにワイヤ26,28,30,32のいずれかが接触するようになり、支持体14を回転させる際の制御性が安定する。より詳述すると、図16に示す状態から支持体14を他方の側S2に向けて曲げると、ワイヤ26,28は、ガイドプーリ20A,20Bにそれぞれ接触する。また、図17に示す状態から支持体14を一方の側S1に向けて曲げると、ワイヤ30,32は、ガイドプーリ20C,20Dにそれぞれ接触する。つまり、いずれの場合も、全てのワイヤがガイドプーリ20A〜20Dと非接触(ガイドプーリ20A〜20Dに巻き付かない)という状態が回避される。これにより、第1の回転軸16を中心に支持体14を屈曲させる際の制御性が安定する。
【0052】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、手術用ロボットのマニピュレータに利用できる。
【符号の説明】
【0054】
10 鉗子装置、 12a,12b 把持部、 14 支持体、 16 第1の回転軸、 18 ベース部品、 20,20A,20B,20C,20D ガイドプーリ、 22 第2の回転軸、 24,24a,24b,24c,24d ジョープーリ、 26,28,30,32 ワイヤ、 34,34a,34b,34c,34d ガイドプーリ、 38 ワイヤ、 42 支持体プーリ。
【要約】
鉗子装置10は、把持部12a,12bと、把持部12a,12bを保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16と、第1の回転軸16を保持するベース部品と、第1の回転軸16と同軸に配置されている複数のガイドプーリ20と、複数のガイドプーリ20と把持部との間に他のプーリを介さずに掛かり、把持部を動作させる駆動力を伝達する複数のワイヤ26,28と、支持体14に設けられた支持体プーリ42と、支持体プーリ42に掛かり、支持体を第1の回転軸16を中心に回転させる駆動力を伝達する支持体ワイヤ38,40と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17