特許第6896384号(P6896384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896384
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/12 20060101AFI20210621BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20210621BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20210621BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20210621BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20210621BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20210621BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20210621BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
   C10M141/12
   !C10M139/00 A
   !C10M137/10 A
   !C10M139/00 Z
   C10N10:04
   C10N20:02
   C10N30:02
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-152180(P2016-152180)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-21107(P2018-21107A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年6月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517157134
【氏名又は名称】EMGルブリカンツ合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 康
(72)【発明者】
【氏名】本多 高士
(72)【発明者】
【氏名】金子 豊治
(72)【発明者】
【氏名】山守 一雄
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/099052(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/171981(WO,A1)
【文献】 特開2007−217494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177−00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油、(A)マグネシウムを有する清浄剤、(B)ホウ素を有する化合物、及び(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する潤滑油組成物であって、
(A)成分の量が、該潤滑油組成物の質量に対するマグネシウムの質量ppmによる濃度[Mg]として400〜1000質量ppmの範囲であり、
(C)成分の量が、該潤滑油組成物の質量に対するリンの質量ppmによる濃度[P]として300〜1000質量ppmの範囲であり、
前記(C)成分は、第1級アルキル基又は第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛から選ばれる1以上であり、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛とを、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の比(質量比)が60:40〜10:90の範囲で含み
潤滑油組成物の質量に対するホウ素の質量ppmによる濃度[B]が100〜300質量ppmの範囲にあることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)ホウ素を有する化合物として、ホウ素を有する無灰分散剤の1以上を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
カルシウムを有する清浄剤(A’)をさらに含み、下記式(1):
{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100≧5 (1)
([Ca]は、潤滑油組成物の質量に対するカルシウムの質量ppmによる濃度を示す)
を満たすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらにモリブデンを有する摩擦調整剤を含み、下記式(2):
[Mg]/[Mo]<2.5 (2)
([Mo]は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度を示す)
を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の比(質量比)が50:50〜20:80の範囲である、請求項1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
−35℃でのCCS粘度が6.2Pa・s以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)が1.5〜2.9mPa・sである、請求項1〜6のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
100℃における動粘度が9.3mm/s未満である、請求項1〜7のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
内燃機関用である、請求項1〜8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、詳細には、内燃機関用の潤滑油組成物、特にガソリンエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、内燃機関用、自動変速機用、ギヤ油用など自動車分野で幅広く使用されている。近年、燃費を向上させるために低粘度化が求められているが、低粘度化により油膜が薄くなり、摩擦を十分に低減することができない。そこで、境界潤滑条件で二硫化モリブデンを生成することにより摩擦を低減することができるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)が従来用いられている。この際、カルシウム系清浄剤を組み合わせて用いるのが通常である(例えば、特許文献1)。しかし、この組み合わせでは、摩擦の低減に限界があり、燃費を十分に向上させることができない。
【0003】
清浄剤としてマグネシウム系清浄剤を使用することも知られている(例えば、特許文献2および3)。マグネシウム系清浄剤の使用は、カルシウム系清浄剤よりも摩擦をより低減することができるが、摩耗が発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−199594号公報
【特許文献2】特開2011−184566号公報
【特許文献3】特開2006−328265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低粘度化しても、摩耗防止性を確保しつつ摩擦を低減することができる潤滑油組成物、好適な態様としては内燃機関用の潤滑油組成物、さらに好適には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、潤滑油基油に特定量のマグネシウム系清浄剤および特定構造を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を特定量にて添加し、且つ、組成物中に含まれるホウ素含有量を特定することにより、上記目的が達成されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
潤滑油基油、(A)マグネシウムを有する清浄剤、(B)ホウ素を有する化合物、及び(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する潤滑油組成物であって、
(A)成分の量が、該潤滑油組成物の質量に対するマグネシウムの質量ppmによる濃度[Mg]として200〜1200質量ppmの範囲であり、
(C)成分の量が、該潤滑油組成物の質量に対するリンの質量ppmによる濃度[P]として300〜1000質量ppmの範囲であり、
前記(C)成分は、第1級アルキル基及び/又は第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛から選ばれる1以上であり、但し、該潤滑油組成物は第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を少なくとも1つ含み、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の比(質量比)が70:30〜0:100の範囲であり、
潤滑油組成物の質量に対するホウ素の質量ppmによる濃度[B]が100〜300質量ppmの範囲にあることを特徴とする潤滑油組成物である。
【0008】
本発明の好ましい実施態様は、潤滑油組成物が、以下に示す(1)〜(7)の少なくとも1の特徴をさらに有する。
(1)(B)ホウ素を有する化合物として、ホウ素を有する無灰分散剤の1以上を含む。
(2)カルシウムを有する清浄剤(A’)をさらに含み、{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100≧5 ([Ca]は、潤滑油組成物の質量に対するカルシウムの質量ppmによる濃度を示す)を満たす。
(3)モリブデンを有する摩擦調整剤をさらに含み、[Mg]/[Mo]<2.5 ([Mo]は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度を示す)を満たす。
(4)−35℃でのCCS粘度が6.2Pa・s以下である。
(5)150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)が1.5〜2.9mPa・sである。
(6)100℃における動粘度が9.3mm/s未満である。
(7)内燃機関用である。
さらに本発明は、当該潤滑油組成物あるいは上記(1)〜(7)の実施態様の潤滑油組成物を使用することにより、低摩耗性を維持しつつ摩擦を低減する方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、低粘度化しても、摩耗防止性を確保しつつ摩擦を低減することができ、特に内燃機関用の潤滑油組成物、さらに過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
潤滑油基油
本発明における潤滑油基油は特に制限されない。鉱油及び合成油のいずれであってもよく、これらを単独で、または混合して使用することができる。
【0011】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、および水素化精製等の処理の1つ以上に付して精製したもの、或いは、ワックス異性化鉱油、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。
【0012】
合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ラウリン酸2−エチルヘキシル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル等のモノエステル;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ネオペンチルグリコールジ−n−オクタノエート、ネオペンチルグリコールジ−n−デカノエート、トリメチロールプロパントリ−n−オクタノエート、トリメチロールプロパントリ−n−デカノエート、ペンタエリスリトールテトラ−n−ペンタノエート、ペンタエリスリトールテトラ−n−ヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラ−2−エチルヘキサノエート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0013】
潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)は特に制限されないが、好ましくは2〜15mm/sであり、より好ましくは3〜10mm/sであり、さらに好ましくは3〜8mm/sであり、最も好ましくは3〜6mm/sである。これにより、油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、かつ、蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることができる。
【0014】
潤滑油基油の粘度指数(VI)は特に制限されないが、好ましくは100以上であり、より好ましくは120以上、最も好ましくは130以上である。これにより、高温での油膜を確保しつつ、低温での粘度を低減することができる。
【0015】
(A)マグネシウム系清浄剤
本発明の潤滑油組成物はマグネシウムを有する清浄剤(以下、マグネシウム系清浄剤という)が必須である。マグネシウム系清浄剤とはマグネシウムを有する化合物であり、従来金属系清浄剤として潤滑油組成物に使用されていたものを使用することができ、特に制限されるものでない。例えば、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネートおよびマグネシウムサリシレート等である。これらの中で、特にマグネシウムサリシレート若しくはマグネシウムスルホネートが好ましい。マグネシウム系清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
成分(A)としてマグネシウム系清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性および防錆性を確保することができる。また、摩擦を低減し、したがって、トルクを低減させることができる。これは、特に燃費特性の点で有利である。
【0017】
マグネシウム系清浄剤は、該潤滑油組成物の質量に対するマグネシウムの質量ppmによる濃度[Mg]が200〜1200質量ppm、好ましくは300〜1100質量ppm、より好ましくは400〜1000質量ppmの範囲となるような量で添加される。マグネシウム系清浄剤の量が上記上限を超えると摩耗が大きくなり過ぎ、上記下限を下回ると摩擦の低減効果が低い。
【0018】
マグネシウム系清浄剤は、特に、過塩基性であるのが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。過塩基性のマグネシウム系清浄剤を使用した場合には、中性のマグネシウムまたはカルシウム系清浄剤を混合してもよい。
【0019】
マグネシウム系清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20〜600mgKOH/g、より好ましくは50〜500mgKOH/g、最も好ましくは100〜450mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性および防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となることが好ましい。
【0020】
マグネシウム系清浄剤中のマグネシウム含有量は、好ましくは0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜16質量%、最も好ましくは2〜14質量%であるが、潤滑油組成物中に上記範囲の量のマグネシウムが含まれるように添加されれば良い。
【0021】
本発明の潤滑油組成物が後述するモリブデン系摩擦調整剤を含む場合、マグネシウム系清浄剤の量は、好ましくは、下記式(2):
[Mg]/[Mo]<2.5 (2)
([Mo]は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度を示す)を満たす。
[Mg]/[Mo]の値は、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下、さらにより好ましくは1.5以下である。上記式(2)の値が上記上限値以上では、摩耗が大きくなり過ぎる場合がある。[Mg]/[Mo]の下限値は好ましくは0.1、より好ましくは0.2、さらに好ましくは0.3である。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、上記マグネシウム系清浄剤に併せて、その他の金属系清浄剤を含んでいてよい。該金属系清浄剤は従来潤滑油組成物に使用されていた慣用のものであればよい。好ましくは、カルシウムを有する清浄剤(A’)を併用するのがよい(以下、カルシウム系清浄剤という)。潤滑油組成物がカルシウム系清浄剤をさらに含むことにより、潤滑油として必要な高温清浄性、及び防錆性を更に確保することができる。
【0023】
カルシウム系清浄剤(A’)はカルシウムを有する化合物であり、従来潤滑油組成物にて金属系清浄剤として使用されていたものを使用することができ、特に制限されるものでない。例えば、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネートおよびカルシウムサリシレートが挙げられる。これらのカルシウム系清浄剤は、1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
(A’)成分の量は、好ましくは、下記式(1)を満たす。
{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100≧5 (1)
ここで、[Ca]は、潤滑油組成物の質量に対するカルシウムの質量ppmによる濃度を示す。
{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100の値は、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上である。当該値が上記下限未満だと、摩擦の低減効果が小さい。{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100の上限値は好ましくは100、より好ましくは80、更に好ましくは60、最も好ましくは50である。
【0025】
さらに、本発明の潤滑油組成物が後述するモリブデン含有摩擦調整剤を含む場合、下記式(3)を満たすことが好ましい。
([Mg]+[Ca])/[Mo]≦3.0 (3)
ここで、[Mo]は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度を示す。
([Mg]+[Ca])/[Mo]の値は、より好ましくは2.8以下であり、さらに好ましくは2.6以下、特に好ましくは2.5以下である。上記値が上記上限を超えると、トルク低減効果が低い場合がある。([Mg]+[Ca])/[Mo]の下限値は、好ましくは0.2、より好ましくは0.5、さらに好ましくは1.0である。
【0026】
カルシウム系清浄剤(A’)は、過塩基性であるのが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。過塩基性のカルシウム含有清浄剤を使用する場合には、中性のカルシウム系清浄剤を併用してもよい。
【0027】
カルシウム系清浄剤(A’)の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20〜500mgKOH/g、より好ましくは50〜400mgKOH/g、最も好ましくは100〜350mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性および防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。
【0028】
カルシウム系清浄剤(A’)中のカルシウム含有量は、好ましくは0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜16質量%、最も好ましくは2〜14質量%である。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の金属系清浄剤として、ナトリウム系清浄剤を含んでいてもよい。ナトリウム系清浄剤とは、ナトリウムを有する化合物であり、例えば、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネートおよびナトリウムサリシレートが好ましい。これらのナトリウム系清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。ナトリウム系清浄剤を含むことにより、潤滑油として必要な高温清浄性および防錆性を確保することができる。ナトリウム系清浄剤は、上述したマグネシウム系清浄剤および任意的なカルシウム系清浄剤と併用することができる。
【0030】
本発明の潤滑油組成物中の金属系清浄剤の合計量は、上記組成物中に含まれるマグネシウム量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。マグネシウム系清浄剤の量に応じて、カルシウム系清浄剤及びナトリウム系清浄剤の添加量は制限され得る。
【0031】
(B)ホウ素を有する化合物
本発明の潤滑油組成物は、ホウ素を有する化合物を含む。ホウ素を有する化合物は、従来より潤滑油組成物に配合されていた公知の化合物であればよい。代表的なホウ素含有化合物はホウ素含有無灰分散剤である。また、その他のホウ素含有する化合物として、後述するホウ酸アルカリ系添加剤等が挙げられる。中でもホウ素含有無灰分散剤が好ましく、本発明の潤滑油組成物は、特には、ホウ素を有する化合物としてホウ素含有無灰分散剤の1以上を含む。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は、組成物中に含まれるホウ素の量が、組成物全体の質量に対するホウ素の質量ppmによる濃度として100〜300質量ppmであることを特徴とする。ホウ素含有量は、より好ましくは120〜280質量ppm、最も好ましくは150〜250質量ppmである。従って、上記ホウ素含有化合物、特にホウ素含有無灰分散剤は、組成物中に含まれるホウ素量が上記範囲を満たすような量で配合される。ホウ素含有無灰分散剤とその他のホウ素含有化合物とを併用する場合は、組成物中に含まれるホウ素量の合計が上記範囲を満たすように調整される。特には、ホウ素含有無灰分散剤の配合量が、組成物全量基準で0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜4質量%、より好ましくは0.5〜3質量%であるのがよい。
【0033】
ホウ素含有無灰分散剤は従来公知のものであればよく、1種単独であっても2種以上の併用であってもよい。例えば、コハク酸イミド化合物をホウ酸又はホウ酸塩等のホウ素化合物で変性した(ホウ素化した)ものが挙げられる。また、本発明の潤滑油組成物はさらにホウ素を含まない無灰分散剤を併用してもよい。ホウ素含有無灰分散剤とホウ素を含有しない無灰分散剤とを併用する場合は、組成物全量基準で無灰分散剤の合計量が20質量%以下、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下であればよい。
【0034】
公知の無灰分散剤としては、例えば、炭素数40〜500、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、或いはモノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドの誘導体(例えば、アルケニルコハク酸イミドの構造を有する化合物)、炭素数40〜500のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、或いは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、或いはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。ホウ素含有無灰分散剤とは、上記した化合物をホウ素化合物により変性した化合物である。特に、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドの誘導体、さらに特にはアルケニルコハク酸イミド化合物を、ホウ酸又はホウ酸塩等のホウ素化合物で変性した(ホウ素化した)化合物が好ましい。
【0035】
ホウ素化されたコハク酸イミド誘導体は公知の方法で製造されるものであり、特に制限されない。例えば、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミド誘導体は、炭素数40〜500のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させてアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸を製造し、該アルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸とポリアミンとを反応させることにより得られる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。モノタイプのコハク酸イミド誘導体は例えば下記式(a)で表すことができる。ビスタイプのコハク酸イミド誘導体は例えば下記式(b)で表すことができる。
【化1】
【化2】
上記式において、Rは互いに独立に炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基であり、mは1〜20の整数であり、nは0〜20の整数である。特にはビスタイプのコハク酸イミド化合物が好ましい。コハク酸イミド誘導体は、モノタイプ及びビスタイプの併用、2種以上のモノタイプの併用、2種以上のビスタイプの併用であってもよい。
上記コハク酸イミド誘導体とホウ素化合物とを反応させることにより、ホウ素化されたコハク酸イミド誘導体が得られる。ホウ素化合物とは、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、酸化ホウ素、及びハロゲン化ホウ素などである。ホウ素化コハク酸イミド誘導体は1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。
【0036】
また他の無灰分散剤として含窒素化合物の誘導体が知られている。例えば、前述の含窒素化合物(すなわち、炭素数40〜500、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物)に、炭素数1〜30の、脂肪酸等のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを反応させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物が挙げられる。
【0037】
公知の無灰分散剤の中でも、上記アルケニルコハク酸イミド誘導体のホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミド誘導体のホウ酸変性化合物は、上述の基油と併用することで耐熱性を更に向上させることができるため好ましい。
【0038】
無灰分散剤の数平均分子量(Mn)は、限定的ではないが2000以上であることが好ましく、より好ましくは2500以上、より一層好ましくは3000以上、最も好ましくは5000以上であり、また、15000以下であることが好ましい。無灰分散剤の数平均分子量が上記下限値未満では、分散性が十分でない可能性がある。一方、無灰分散剤の数平均分子量が上記上限値を超えると、粘度が高すぎ、流動性が不十分となり、デポジット増加の原因となるおそれがある。
【0039】
その他のホウ素含有化合物として、ホウ酸アルカリ系添加剤を添加することができる。ホウ酸アルカリ系添加剤は、アルカリ金属ホウ酸塩水和物を含有するものであり、下記一般式で表すことができる。
O・xB・yH
上記式中、Mはアルカリ金属であり、xは2.5〜4.5、yは1.0〜4.8である。
例えば、ホウ酸リチウム水和物、ホウ酸ナトリウム水和物、ホウ酸カリウム水和物、ホウ酸ルビジウム水和物及びホウ酸セシウム水和物等を挙げることができるが、ホウ酸カリウム水和物及びホウ酸ナトリウム水和物が好ましく、特に、ホウ酸カリウム水和物が好ましい。アルカリ金属ホウ酸塩水和物粒子の平均粒径は、一般に1ミクロン(μm)以下である。本発明に用いられるアルカリ金属ホウ酸塩水和物において、ホウ素とアルカリ金属の比は約2.5:1〜4.5:1の範囲にあることが好ましい。ホウ酸アルカリ系添加剤の添加量は、ホウ素量として潤滑油組成物全量基準で2〜300質量ppmである。
【0040】
更に他のホウ素含有化合物として、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウムスルホネート、及びホウ酸カルシウムサリシレート等が挙げられる。
【0041】
(C)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
本発明の潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP(ZDDPともいう))を含む。該化合物は摩耗防止剤として機能するものであり、下記式(4)で表される。
【0042】
【化3】
上記式(4)において、R及びRは、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜26の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、炭素数1〜26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2〜26のアルケニル基;炭素数6〜26のシクロアルキル基;炭素数6〜26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。ここで、1級アルキル基とは、置換基R及びRにおいて、ジアルキルジチオリン酸亜鉛中の酸素原子に直接結合する炭素原子が1級炭素原子であるという意味である。同様に2級アルキル基とは、置換基R、Rにおいて、ジアルキルジチオリン酸亜鉛中の酸素原子に直接結合する炭素原子が2級炭素原子であるという意味である。R及びRは、好ましくは、互いに独立に、炭素数3〜12の、第1級または第2級アルキル基、炭素数8〜18のシクロアルキル基、又は炭素数8〜18のアルキルアリール基である。ただし、本発明において、R及びRの少なくとも1は第1級または第2級アルキル基である。第1級アルキル基は、炭素数3〜12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数4〜10を有する。例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、2−エチル−ヘキシル基、及び2,5−ジメチルヘキシル基等が挙げられる。第2級アルキル基は、炭素数3〜12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数3〜10を有する。例えば、イソプロピル基、セカンダリーブチル基、イソペンチル基、及びイソヘキシル基等が挙げられる。
【0043】
本発明の潤滑油組成物は、第1級アルキル基及び/又は第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛から選ばれる1以上を含む。但し、第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を必ず含む。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛とを併せて含む第1態様、第1級アルキル基と第2級アルキル基を共に有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む第2態様、あるいは、第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含み第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない第3態様である。好ましくは第1態様及び第3態様であり、特に好ましくは、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛とを併用する第1態様である。第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まないと良好な摩耗防止性を確保することができない。本発明の潤滑油組成物は、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛をこれらの比(質量)が70:30〜0:100の範囲を満たすように含有することを特徴とする。好ましくは65:35〜5:95、より好ましくは60:40〜10:90、特に好ましくは50:50〜20:80の範囲である。上記上限を超えて第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有割合が多くなると耐摩耗性が悪化することがあり、好ましくない。
【0044】
潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対し、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するリンの質量ppmによる濃度[P]として、300〜1000質量ppmとなる量であり、好ましくは400〜1,000質量ppmであり、より好ましくは500〜1,000質量ppmであり、特に好ましくは600〜900質量ppmである。
【0045】
本発明は、潤滑油組成物中に含まれる、ホウ素の量と、第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、単に第1級と称す)と第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、単に第2級と称す)の質量比との関係(組合せ)を調整することで、トルク低減率を向上する。該組合せは、組成物全量に対するホウ素量が100〜300質量ppm、好ましくは120〜280質量ppm、特に好ましくは150〜250質量ppmとなる範囲内であり、且つ、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の構成が、第1級と第2級の質量比70:30〜0:100、好ましくは65:35〜5:95、より好ましくは60:40〜10:90、特に好ましくは50:50〜20:80を満たす範囲で、適宜調整されればよい。尚、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の総量はリンの総質量ppmとして上記範囲を満たせばよい。これにより得られる潤滑油組成物は、低粘度化しても、良好な摩擦防止性と摩耗防止性を両立することができる。
【0046】
本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の摩耗防止剤をさらに含んでもよい。例えば、上記式で表され、R及びRが、互いに独立に、水素原子、または炭素数1〜26の、アルキル基でない一価炭化水素基である化合物が挙げられる。該一価炭化水素基としては、炭素数2〜26のアルケニル基;炭素数6〜26のシクロアルキル基;炭素数6〜26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R及びRは、好ましくは炭素数8〜18のシクロアルキル基、炭素数8〜18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を組合せて使用してもよい。
【0047】
また、下記式(5)及び(6)で示されるホスフェート、ホスファイト系のリン化合物、並びにそれらの金属塩及びアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を併用することもできる。
【0048】
【化4】
上記一般式(5)中、Rは炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、R及びRは互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、kは0又は1である。
【0049】
【化5】
上記一般式(6)中、Rは炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、R及びRは互いに独立に水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、tは0又は1である。
【0050】
上記一般式(5)及び(6)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の一価炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。特には、炭素数1〜30のアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4〜15のアルキル基である。
【0051】
上記一般式(5)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0052】
上記一般式(5)又は(6)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(5)又は(6)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物等を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、モリブデンは除く)等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0053】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加量は上記したようにジアルキルジチオリン酸亜鉛に由来するリン含有量が上述した特定の範囲内になるように添加されれば良い。その他の摩耗防止剤を含む場合には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含めた摩耗防止剤全量として、潤滑油組成物中に、通常0.1〜5質量%で、好ましくは0.2〜3質量%で配合されればよい。
【0054】
本発明の潤滑油組成物は、上述した成分以外に、任意成分として、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、モリブデン系摩擦調整剤、又は粘度指数向上剤を含むことができる。
【0055】
モリブデン系摩擦調整剤
モリブデンを有する摩擦調整剤(以下、モリブデン系摩擦調整剤という)は特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。モリブデン系摩擦調整剤とはモリブデンを有する化合物であり、例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体、ならびに硫化モリブデンおよび硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。上記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸および(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩およびアンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデンおよびポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。上記硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイドおよび硫化エステル等が挙げられる。特に、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。
【0056】
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。
【0057】
【化6】
【化7】
【0058】
上記一般式[I]および[II]において、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜30の一価炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該一価炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基;炭素数4〜30のシクロアルキル基;炭素数6〜30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基等、およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3〜8のアルキル基が好ましい。また、XおよびXは酸素原子または硫黄原子であり、YおよびYは酸素原子または硫黄原子である。
【0059】
摩擦調整剤として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。このような化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、およびアルコールのモリブデン塩等が挙げられる。
【0060】
さらに本発明における摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物を用いることもできる。
【0061】
摩擦調整剤は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmとしての濃度[Mo]が500〜1500質量ppm、好ましくは600〜1200質量ppmの範囲となるような量で添加される。摩擦調整剤の量が上記上限を超えると、清浄性が悪化する場合があり、上記下限未満であると、摩擦を十分に低減することができなかったり、清浄性が悪化したりする場合がある。
【0062】
(A)成分について上述したように、摩擦調整剤は、好ましくは下記式(2):
[Mg]/[Mo]<2.5 (2)
を満たす量で含まれる。[Mo]は潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度である。
[Mg]/[Mo]の値は、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下、さらにより好ましくは1.5以下である。[Mg]/[Mo]の下限値は好ましくは0.1、より好ましくは0.2、さらに好ましくは0.3である。
【0063】
粘度指数向上剤
粘度指数向上剤として、例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン−ブタジエン水添共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等を含むものが挙げられる。さらに、少なくともポリオレフィンマクロマーに基づく繰返し単位と炭素数1〜30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに基づく繰返し単位とを主鎖に含む櫛形ポリマーを用いることもできる。
【0064】
粘度指数向上剤は通常、上記ポリマーと希釈油とから成る。粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、ポリマー量として好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.02〜10質量%、最も好ましくは0.05〜5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が上記下限値より少なくなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがある。一方、上記上限値よりも多くなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがあり、更には、製品コストが大幅に上昇する。
【0065】
本発明の潤滑油組成物は、その性能を向上させるために、目的に応じてその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤としては一般的に潤滑油組成物に使用されているものを使用できるが、例えば、酸化防止剤、上記以外の摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤および消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0066】
上記酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。酸化防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1〜5質量%で配合される。
【0067】
上記以外の摩擦調整剤としては、例えばエステル、アミン、アミド、硫化エステルなどが挙げられる。上記摩擦調整剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0068】
上記腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。上記防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。腐食防止剤及び防錆剤は、通常、潤滑油組成物中にそれぞれ0.01〜5質量%で配合される。
【0069】
上記流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配される。
【0070】
上記抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜5質量%で配合される。
【0071】
上記金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0072】
上記消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001〜1質量%で配合される。
【0073】
本発明の潤滑油組成物の−35℃でのCCS粘度は制限されないが、好ましくは6.2Pa・s以下、より好ましくは5.0Pa・s以下、更に好ましくは4.0Pa・s以下、最も好ましくは3.5Pa・s以下である。
【0074】
本発明の潤滑油組成物は、モリブデンが含まれる場合は、潤滑油組成物中に含まれるモリブデン量と−35℃でのCCS粘度が、以下の式(7)を満たすことが好ましい。
[CCS粘度]/[Mo]≦0.01 (7)
([CCS粘度]は潤滑油組成物の−35℃におけるCCS粘度の値(Pa・s)を示し、[Mo]は潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmによる濃度を示す。)
[CCS粘度]/[Mo]の値は、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。上記値が0.01を超えるとトルク低減率が小さくなったり、清浄性が悪化したりすることがある。[CCS粘度]/[Mo]の下限値は限定的でないが、好ましくは0.002、より好ましくは0.003である。
【0075】
本発明の潤滑油組成物の150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)は制限されないが、1.5〜2.9mPa・s、好ましくは1.7〜2.8mPa・s、より好ましくは2.0〜2.6mPa・sである。
【0076】
本発明の潤滑油組成物の100℃での動粘度は制限されないが、好ましくは9.3mm/s未満、より好ましくは8.2mm/s未満である。
【0077】
本発明の潤滑油組成物は、低粘度であっても、十分な摩擦特性および摩耗特性を有し、かつ高いトルク低減率が得られるという効果を奏し、内燃機関用として、さらに過給ガソリンエンジン用として好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を、実施例及び比較例によってより詳細に示すが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0079】
実施例および比較例で使用した材料は以下の通りである。
潤滑油基油
GTL由来基油(100℃での動粘度=4.1mm/s、VI=127)
【0080】
(A)マグネシウム系清浄剤
マグネシウムスルホネート(全塩基価400mgKOH/g、マグネシウム含有量9.4質量%)
(A’)カルシウム系清浄剤
カルシウムサリシレート(全塩基価230mgKOH/g、カルシウム含有量5.5質量%)
【0081】
(B)ホウ素を有する無灰分散剤
ホウ素化コハク酸イミド化合物(上記した式(b)で表され、R1がポリブテニルであり、n=4〜12の混合物、ホウ素含有量0.7質量%、窒素含有量2.0質量%)
【0082】
(B’)ホウ素を有さない無灰分散剤
コハク酸イミド化合物(上記した式(b)で表され、R1がポリブテニルであり、n=4〜12の混合物、ホウ素含有量0質量%、窒素含有量1.0質量%)
【0083】
(C)摩耗防止剤1
Pri−ZnDTP(下記式(4)で表されR及びRが共に炭素数8の第一級アルキル基である化合物)
【化8】
(C)摩耗防止剤2
Sec−ZnDTP(上記式(4)で表され、Rが炭素数4の第二級アルキル基であり、Rが炭素数6の第二級アルキル基である化合物)
【0084】
(D)摩擦調整剤
モリブデン系摩擦調整剤:MoDTC(モリブデン含有量10質量%)
【0085】
(E)粘度指数向上剤
ポリメタクリレート
【0086】
その他の添加剤
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤
消泡剤:ジメチルシリコーン
【0087】
実施例1〜8および比較例1〜6
表1及び3に示す量の各成分を混合して潤滑油組成物を調製した。表に記載の質量部は、潤滑油組成物の総量(100質量部)に対する質量部である。表に記載の(A)マグネシウム系清浄剤、(A’)カルシウム系清浄剤、及び(D)モリブデン系摩擦調整剤の量は、それぞれマグネシウム、カルシウム及びモリブデンの含有量に換算した潤滑油組成物の総量に対する質量ppm(順に[Mg]、[Ca]、及び[Mo])である。表に記載の[B]とは、潤滑油組成物の総量に対するホウ素の質量ppmである。(C)摩耗防止剤は、潤滑油組成物の総量(100質量部)に対して合計1質量部を配合した。表に、該1質量部中の摩耗防止剤1(第1級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛)と摩耗防止剤2(第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛)の質量割合(第1級/第2級(質量割合))を記載した。また、表に記載の[P]とは潤滑油組成物の総量に対するリンの質量ppmである。 なお、マグネシウム系清浄剤とカルシウム系清浄剤の量は、これらの清浄剤に含まれるマグネシウムとカルシウムの合計モル量が全ての実施例および比較例においてなるべく同一であるようにした。
【0088】
得られた組成物について、以下の試験を行った。結果を表2及び4に示す。
【0089】
(1)150℃での高温高せん断粘度(HTHS150)
ASTMD4683に準拠して測定した。
【0090】
(2)−35℃でのCCS粘度(CCS粘度)
ASTMD5293に準拠して測定した。
【0091】
(3)100℃での動粘度(KV100)
ASTMD445に準拠し、100℃で測定した。
【0092】
(4)トルク低減率
実施例および比較例で得られた潤滑油組成物を試験組成物とし、ガソリンエンジンを用いたモータリング試験にてトルクを測定した。エンジンは、トヨタ2ZR−FE1.8L直列4気筒エンジンを用い、モーターとエンジンとの間にトルク計を設置し、油温80℃および700RPMのエンジン速度におけるトルクを測定した。標準油として市販のGF−5 0W−20油を用い、同様にトルクを測定した。試験組成物のトルク(T)を標準油のトルク(T)と比較し、標準油のトルクからの低減率({(T−T)/T}x100)(%)を計算した。低減率が大きいほど、燃費が良好であることを示す。低減率が9.0%以上のものを合格とした。
【0093】
(5)シェル摩耗痕径
回転数を1800rpm、荷重を40kgf、試験温度を90℃及び試験時間を30分とした以外はシェル四球試験(ASTMD4172)に準拠して測定した。摩耗痕径が0.7mm以下であるものを合格とした。
【0094】
(6)ホットチューブ試験(高温清浄性の評価)
内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物を0.3ミリリットル/時で、空気を10ミリリットル/秒で、ガラス管の温度を270℃に保ちながら16時間流し続けた。ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付けた。評点が高いほど高温清浄性が良いことを示す。評点が4.5以上のものを合格とした。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
表2に示される通り、本発明の潤滑油組成物は100℃での動粘度が低いにもかかわらず、摩耗が少なく、且つ、トルク低減率および高温清浄性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の潤滑油組成物は、低粘度化した場合においても、摩耗防止性を確保しつつ摩擦を低減することができ、かつ高いトルク低減率が得られるという効果を奏し、好適な態様としては内燃機関用の潤滑油組成物、さらには過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適である。