【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 革新的構造材料「酸化物系軽量耐熱部材の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、所定のパターンとなるスリットが形成されたマスクを用いることから、プラズマ溶射を行うことによって、マスクのスリットが閉塞する(目詰まりする)可能性がある。この場合、マスクの取り替え頻度が高くなることから、施工効率の向上を図ることが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、快削性の高いアブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができるアブレイダブルコーティングの施工方法及びシュラウドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアブレイダブルコーティングの施工方法は、セラミック粒子と溶媒とを含むスラリーを用いて、基材の表面上にスラリー層を形成するスラリー層形成工程と、前記基材の表面上に形成された前記スラリー層を焼結して、アブレイダブルコーティング層の一部となる焼結層を形成する焼成工程と、前記スラリー層形成工程と前記焼成工程とを複数回繰り返し行って複数の焼結層が積層された前記アブレイダブルコーティング層を、前記基材の表面上に形成した後、不要な前記スラリーを除去するスラリー除去工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、基材上にスラリー層を形成した後、スラリー層を適宜焼結して焼結層を形成し、これを繰り返して焼結層を積層することで、基材の表面上にアブレイダブルコーティング層を形成することができる。このとき、基材の表面が、曲面、凹面、または凸面であっても、スラリーを用いることで、基材の表面に対して均一な層となるスラリー層を形成することができる。このため、従来のように、マスク等を用いる必要がなく、簡易な工程で快削性の高いアブレイダブルコーティング層を形成できることから、アブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができる。なお、焼成工程では、例えば、レーザー、バーナ、マイクロプラズマ等を用いて、スラリー層を焼結している。
【0008】
また、前記セラミック粒子は、粒径が大きい粗粒粒子と、前記粗粒粒子に比して粒径が小さい微粒粒子と、を含み、前記基材の表面に接して形成される前記スラリー層を第1スラリー層とし、前記第1スラリー層に接して形成される前記スラリー層を第2スラリー層とすると、前記第1スラリー層に用いられる前記スラリーは、前記第2スラリー層に用いられる前記スラリーに比して、前記粗粒粒子の割合が少ないことが、好ましい。
【0009】
この構成によれば、第1スラリー層において、粗粒粒子の割合が少なく、微粒粒子の割合が多いスラリーを用いることで、第1スラリー層を焼結した後の焼結層は、基材に対して密着性の高いものとすることができる。これは、基材の表面と焼結層との境界に、微粒粒子が入り込んで焼結されるからである。また、第2スラリー層において、粗粒粒子の割合が多く、微粒粒子の割合が少ないスラリーを用いることで、第2スラリー層を焼結した後の焼結層は、快削性の高いものとすることができる。これは、焼結層が粗粒粒子を多く含むことから、粗粒粒子同士の間に多くの空間が形成されるからである。
【0010】
また、前記基材の表面に接して形成される前記スラリー層を第1スラリー層とし、前記第1スラリー層に接して形成される前記スラリー層を第2スラリー層とすると、前記第1スラリー層の厚さは、前記第2スラリー層に比して薄く形成されることが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、第1スラリー層を薄くできることから、焼成工程における第1スラリー層の厚さ方向における加熱を適切に行うことができ、焼結層を好適に形成することができる。また、第1スラリー層を焼結した焼結層(第1焼結層)を薄くでき、第2スラリー層を焼結した焼結層(第2焼結層)を厚くできることから、アブレイダブルコーティング層の厚さ方向において、快削性の高い第2焼結層の厚さを厚くでき、快削性の向上をより図ることができる。
【0012】
また、前記焼成工程では、レーザーを前記スラリー層に照射して、前記スラリー層を焼結することが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、レーザーを用いることで、精度のよい形状となる焼結層を形成することができる。
【0014】
また、前記基材の表面に接して形成される前記スラリー層を第1スラリー層とし、前記第1スラリー層を焼結する前記焼成工程を第1焼成工程とすると、前記レーザーの焦点位置は、前記アブレイダブルコーティング層の表面となるように設定され、前記第1焼成工程では、前記レーザーの前記焦点位置が前記第1スラリー層の表面から離れたオフフォーカスの状態で、前記レーザーを前記第1スラリー層に照射して、前記第1スラリー層を焼結することが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、レーザーの焦点位置をアブレイダブルコーティング層の表面に設定した状態とすることで、レーザーの焦点位置が第1スラリー層の表面から離れたオフフォーカスの状態となる。そして、この状態でレーザーを第1スラリー層に照射することで、第1スラリー層の広域にレーザーを照射することができるため、少ないパス数で、焼結層を形成することができる。また、レーザーの焦点位置を移動させる必要がないため、焼成工程の効率化を図ることができる。
【0016】
また、前記スラリー除去工程では、前記溶媒を用いて、前記スラリーを除去することが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、溶媒により除去されたスラリーは、セラミック粒子を適宜加えたり、乾燥させたりすることで、スラリー層形成工程において使用可能なスラリーとして再利用することができる。
【0018】
また、前記スラリーは、気孔形成材をさらに含むことが、好ましい。
【0019】
また、前記気孔形成材は、炭素系材料及び高分子系材料の少なくとも一方を含むことが、好ましい。
【0020】
この構成によれば、スラリー層の焼結時において、気孔形成材が酸化または揮発することで、アブレイタブルコーティング層に多数の気孔を形成できるため、快削性をより向上させることができる。
【0021】
また、前記スラリー除去工程後、前記基材に形成された前記アブレイダブルコーティング層を検査する検査工程を、さらに備えることが、好ましい。
【0022】
この構成によれば、アブレイダブルコーティング層が適切に形成されているか否かを検査することができる。
【0023】
また、前記基材は、表面に多孔質のセラミック層が形成され、前記スラリー層形成工程では、前記スラリーを用いて、前記セラミック層に前記スラリー層を形成することが、好ましい。
【0024】
この構成によれば、セラミック層とアブレイダブルコーティング層との結合を強固なものとすることができる。すなわち、セラミック層は、多孔質となっていることから、スラリーに含まれる溶媒が、セラミック層の気孔に入り込むことで、セラミック層との界面にセラミック粒子が凝集され、この状態で焼成されることで、セラミック層とアブレイダブルコーティング層とが強固に結合する。
【0025】
本発明のシュラウドは、動翼と対向する基材の表面にアブレイダブルコーティング層が形成されるシュラウドにおいて、前記アブレイダブルコーティング層は、積層される複数の焼結層を有し、粒径が大きい粗粒粒子と、前記粗粒粒子に比して粒径が小さい微粒粒子と、を含むセラミック粒子が焼結された複数の前記焼結層は、前記基材の表面に形成される前記焼結層である第1焼結層と、前記第1焼結層に接して形成される前記焼結層である第2焼結層と含み、前記第1焼結層に含まれる前記粗粒粒子の割合は、前記第2焼結層に含まれる前記粗粒粒子の割合に比して少ないことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、第1焼結層において、粗粒粒子の割合が少なく、微粒粒子の割合が多くなることで、第1焼結層は、基材に対して密着性の高いものとすることができる。これは、基材の表面と第1焼結層との境界に、微粒粒子が入り込んで焼結されるからである。また、第2焼結層において、粗粒粒子の割合が多く、微粒粒子の割合が少なくなることで、第2焼結層は、快削性の高いものとすることができる。これは、焼結層が粗粒粒子を多く含むことから、粗粒粒子同士の間に多くの空間(気孔)が形成されるからである。
【0027】
本発明の他のシュラウドは、動翼と対向する基材の表面にアブレイダブルコーティング層が形成されるシュラウドにおいて、前記アブレイダブルコーティング層は、積層される複数の焼結層を有し、複数の前記焼結層は、前記基材の表面に形成される前記焼結層である第1焼結層と、前記第1焼結層に接して形成される前記焼結層である第2焼結層とを含み、前記第1焼結層の厚さは、前記第2焼結層に比して薄くなっていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、第1焼結層を薄くでき、第2焼結層を厚くできることから、アブレイダブルコーティング層の厚さ方向において、快削性の高い第2焼結層の厚さを厚くでき、快削性の向上をより図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0031】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る施工方法によりアブレイダブルコーティングが施工されるシュラウドの概略構成図である。
図2は、実施形態1に係るアブレイダブルコーティングの施工方法に関する説明図である。
図3は、実施形態1に係るアブレイダブルコーティングの施工方法に関するフローチャートである。
図4は、粗粒比率に応じて変化する収縮率を示すグラフである。
図5は、粗粒比率に応じて変化する相対密度を示すグラフである。
【0032】
実施形態1に係るアブレイダブルコーティングの施工方法は、施工対象物として、例えば、ガスタービン発電機またはガスタービンエンジン等のガスタービンに設けられるシュラウドに適用される。先ず、アブレイダブルコーティングの施工方法に先立ち、シュラウド10について簡単に説明する。
【0033】
シュラウド10は、回転軸に対して周方向に所定の間隔を空けて設けられる複数の動翼11の径方向外側を取り囲むように設けられるケーシングである。このシュラウド10の内部には、例えば、燃焼ガス等の高温の作動流体が流通しており、この作動流体によって複数の動翼11が回転軸を中心に回転する。つまり、シュラウド10は、静止部材である一方で、複数の動翼11は、回転軸を中心に回転する回転部材となっている。そして、回転軸の径方向において、シュラウド10と各動翼11との間には、クリアランス15が形成されている。
【0034】
シュラウド10は、シュラウド本体(基材)20と、遮熱コーティング層(セラミック層)21と、アブレイダブルコーティング層22とを備えている。シュラウド本体20は、例えば、Ni基超合金等の耐熱金属材料を用いて形成されており、その内部には、冷却流路25が形成されている。冷却流路25は、シュラウド10の内部を通過する高温の作動流体によって加熱されたシュラウド本体20を冷却すべく、その内部に冷却空気等の冷却媒体が流通している。
【0035】
遮熱コーティング層(TBC:Thermal Barrier Coating)21は、シュラウド本体20の表面、すなわち、シュラウド本体20の動翼11と対向する面に形成されている。遮熱コーティング層21は、高温の作動流体からシュラウド本体20への入熱を抑制すべく、多孔質のセラミック層となっている。
【0036】
遮熱コーティング層21は、酸化物系のセラミック材料である、ジルコニア系のセラミック材料が用いられており、本実施形態では、ZrO
2が用いられている。遮熱コーティング層21は、その気孔率が、例えば、5%から15%の範囲となっており、本実施形態では、10%となっている。この遮熱コーティング層21は、例えば、セラミック溶射(APS:Atmospheric Plasma Spraying)によって、均一な厚みの層として、シュラウド本体20の表面に一様に形成される。
【0037】
アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21の表面に形成されている。アブレイダブルコーティング層22は、シュラウド10と各動翼11との間に形成されるクリアランス15から、作動流体が漏出することを抑制するためのシール材であり、各動翼11によって快削される。アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21から突出するフィン形状となっており、遮熱コーティング層21上において所定のパターンが形成されている。パターンとしては、例えば、波形状となるフィンであるが、この形状に限定されず、作動流体のリークを抑制する形状であれば、いずれの形状であってもよい。
【0038】
アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21と同じ種類となるセラミック材料が用いられており、例えば、ジルコニア系のセラミック材料が用いられ、本実施形態では、ZrO
2が用いられている。アブレイダブルコーティング層22は、複数の焼結層35が積層されることで形成されている。各焼結層35は、その気孔率が、例えば、10%から40%の範囲となっており、本実施形態では、20%となっている。このアブレイダブルコーティング層22は、後述するアブレイダブルコーティングの施工方法によって、遮熱コーティング層21の表面に形成される。
【0039】
実施形態1では、複数の焼結層35は、2層となっており、遮熱コーティング層21の表面に接して形成される焼結層35である第1焼結層35aと、第1焼結層35aに接して形成される焼結層35である第2焼結層35bとを有している(
図2参照)。なお、実施形態1では、2層の焼結層35によりアブレイダブルコーティング層22が構成されているが、層数は、特に限定されず、2層以上の焼結層35で構成されていてもよい。
【0040】
次に、
図2及び
図3を参照して、アブレイダブルコーティングの施工方法について説明する。本実施形態の施工方法では、遮熱コーティング層21が施工されたシュラウド本体20を、基材30として適用しており、遮熱コーティング層21の表面に、アブレイダブルコーティング層22を形成している。なお、本実施形態では、基材30として、遮熱コーティング層21を施工したシュラウド本体20に適用したが、この構成に限定されず、基材30として、多孔質のセラミック材を適用してもよい。
【0041】
また、実施形態1のアブレイダブルコーティングの施工方法では、2層の焼結層35を積層して、アブレイダブルコーティング層22を形成する場合について説明する。
【0042】
先ず、実施形態1の施工方法では、基材30を所定の位置に設置する(ステップS1:基材設置工程)。基材設置工程S1では、シュラウド本体20が下方側となり、遮熱コーティング層21が上方側となるように、基材30が設置される。
【0043】
続いて、スラリーを用いて、遮熱コーティング層21(基材30)の表面上にスラリー層31を形成する(ステップS2:スラリー層形成工程)。スラリー層形成工程S2は、積層する焼結層35の層数分だけ繰り返される。スラリー層形成工程S2では、基材30の表面に倣ってスラリー層31が形成され、例えば、スクリーン印刷等によって基材30の表面上にスラリーが塗布されることで、スラリー層31が形成される。このため、スラリー層形成工程S2では、基材30の表面が曲面であっても、均一な厚さとなるスラリー層31を形成している。
【0044】
実施形態1において、スラリー層形成工程S2は、2層の焼結層35に応じて2回行われている。具体的に、スラリー層形成工程S2は、最初(1回目)のスラリー層形成工程S2である第1スラリー層形成工程S2aと、最後(2回目)のスラリー層形成工程S2である第2スラリー層形成工程S2bとが行われる。第1スラリー層形成工程S2aでは、基材30の表面に接するスラリー層31である第1スラリー層31aを形成している。この第1スラリー層31aは、後述する焼成工程において一部が焼結されることで、第1焼結層35aとなる。また、第2スラリー層形成工程S2bでは、第1スラリー層31aに接するスラリー層31である第2スラリー層31bを形成している。この第2スラリー層31bは、後述する焼成工程において一部が焼結されることで、第2焼結層35bとなる。
【0045】
ここで、スラリー層形成工程S2において使用されるスラリーについて説明する。スラリーは、セラミック粒子と、溶媒と、バインダーと、分散剤とを含んで構成されている。
【0046】
セラミック粒子は、粗粒粒子と微粒粒子とを含んでおり、実施形態1では、いずれの粒子もジルコニア系(例えば、ZrO
2)のセラミック粒子が用いられている。粗粒粒子の体積をV1とし、微粒粒子の体積をV2とすると、粗粒粒子と微粒粒子との体積比は、50/50≦V1/V2≦90/10の範囲となっている。また、粗粒粒子は、平均粒径が、1μm以上10μm以下となっており、実施形態1では、3.4μmのものが用いられている。微粒粒子は、平均粒径が、0.01μm以上1μm以下となっており、本実施形態では、0.1μmのものが用いられている。
【0047】
溶媒は、例えば、蒸留水等の水が用いられており、スラリーにおけるセラミック粒子の体積濃度が、20〜60vol%となるように混合される。本実施形態では、溶媒として、アルコール等の他の溶媒に比して、揮発し難い水を用いることで、スラリーの粘度等の経時的な変化を抑制している。
【0048】
バインダーは、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:Polyvinyl Alcohol)が用いられ、セラミック粒子の質量に対して、1〜10wt%となるように混合される。また、分散剤は、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩が用いられ、セラミック粒子の質量に対して、0.1〜0.5wt%となるように混合される。
【0049】
このスラリーは、第1スラリー層形成工程S2a及び第2スラリー層形成工程S2bにおいて、粗粒粒子及び微粒粒子の割合が異なっている。具体的に、第1スラリー層形成工程S2aにおいて使用されるスラリーは、第2スラリー層形成工程S2bにおいて使用されるスラリーに比して、粗粒粒子の割合が少なく、微粒粒子の割合が多くなっている。これは、基材30の表面に対する第1焼結層35aの密着性を高めるためである。一方で、第2スラリー層形成工程S2bにおいて使用されるスラリーは、第1スラリー層形成工程S2aにおいて使用されるスラリーに比して、粗粒粒子の割合が多く、微粒粒子の割合が少なくなっている。これは、動翼11による第2焼結層35bの快削性を高めるためである。
【0050】
ここで、
図4及び
図5を参照して、粗粒比率に応じて変化するスラリーの収縮率及び相対密度の変化について説明する。
図4は、その横軸が粗粒比率となっており、その縦軸が収縮率となっている。
図4の白抜きの四角(□)のラインL1は、スラリーの焼結温度が1200℃のときのスラリーの収縮率を示すラインであり、
図4の白抜きの三角(△)のラインL2は、スラリーの焼結温度が1300℃のときのスラリーの収縮率を示すラインである。
図5は、その横軸が粗粒比率となっており、その縦軸が相対密度となっている。粗粒比率は、粗粒粒子及び微粒粒子に対する粗粒粒子の割合である。相対密度は、セラミック粒子の粒子充填率である。
図5の白抜きの四角(□)のラインL3は、スラリーの焼結温度が1200℃のときのスラリーの相対密度を示すラインであり、
図5の白抜きの三角(△)のラインL4は、スラリーの焼結温度が1300℃のときのスラリーの相対密度を示すラインであり、
図5の白抜きの丸(○)のラインL5は、スラリーの焼結前の相対密度を示すラインである。
【0051】
スラリーの収縮率は、5%以上となると、基材30の表面または隣接する焼結層35からのはく離が発生し易いものとなる。
図4に示すように、スラリーは、その粗粒比率が40%以上で、1300℃で焼結するときの収縮率が5%未満となっている。また、スラリーは、粗粒比率が50%〜80%の間において、最小となる収縮率を含む範囲となっている。
【0052】
また、
図5に示すように、スラリーは、焼結前の粗粒比率が50%〜80%の間において、最大となる相対密度を含む範囲となっている。また、スラリーは、粗粒比率が80%よりも大きくなると、相対密度が減少する。
【0053】
図4及び
図5に基づき、実施形態1において、第1スラリー層形成工程S2a及び第2スラリー層形成工程S2bで使用されるスラリーは、いずれも粗粒比率が50%以上となるものが適用される。そして、第1スラリー層形成工程S2aで使用されるスラリーは、粗粒比率が50%程度のものが適用され、第2スラリー層形成工程S2bで使用されるスラリーは、70%〜80%のものが適用される。
【0054】
再び、
図2及び
図3を参照し、上記のスラリーを用いて、スラリー層形成工程S2において、基材30の表面上にスラリー層31が形成されると、スラリー層31を焼結して、アブレイダブルコーティング層22の一部となる焼結層35を形成する(ステップS3:焼成工程)。焼成工程S3では、レーザーLeをスラリー層31に照射して、スラリー層31を焼結している。レーザーLeを用いて、スラリー層31を焼結する場合、図示しない移動機構によりレーザーLeを複数パスで走査させることで、所定の形状となる焼結層35を形成する。
【0055】
実施形態1において、焼成工程S3は、スラリー層形成工程S2と同様に、2層の焼結層35に応じて2回行われている。具体的に、焼成工程S3は、最初(1回目)の焼成工程S3である第1焼成工程S3aと、最後(2回目)の焼成工程S3である第2焼成工程S3bとが行われる。第1焼成工程S3aでは、第1スラリー層形成工程S2aにおいて形成された第1スラリー層31aに対して、レーザーLeを照射し、第1スラリー層31aを焼結することで、第1焼結層35aを形成する。また、第2焼成工程S3bでは、第2スラリー層形成工程S2bにおいて形成された第2スラリー層31bに対して、レーザーLeを照射し、第2スラリー層31bを焼結することで、第2焼結層35bを形成する。
【0056】
焼結層35が形成されると、焼結層35がアブレイダブルコーティング層22を構成する所定の層数(実施形態1では、2層)に達したか否かを判定する(ステップS4)。すなわち、ステップS4では、アブレイダブルコーティング層22の形成が完了したか否かを判定する。アブレイダブルコーティング層22の形成が完了していないと判定された場合(ステップS4:No)、再び、スラリー層形成工程S2に移行し、この後、焼成工程S3を行う。そして、所定の層数に達するまで、スラリー層形成工程S2及び焼成工程S3を繰り返し行う。
【0057】
なお、第2焼結層35bは、積層方向に直交する直交面内における幅(
図2の左右方向)が、第1焼結層35aの幅に比して狭くなるように形成される。また、上記した焼成工程S3では、基材30に対して位置決め用の基準点を設定し、この基準点に基づいて、レーザーLeの移動を制御することで、第1焼結層35aと第2焼結層35bとを積層方向に重ね合わせて形成している。
【0058】
アブレイダブルコーティング層22の形成が完了したと判定された場合(ステップS4:Yes)、基材30上の不要なスラリーを、スラリーに含まれる溶媒(例えば、水)を用いて除去する(ステップS5:スラリー除去工程)。つまり、スラリー除去工程S5では、アブレイダブルコーティング層22が形成された基材30を水洗することで、焼結されなかったスラリーを除去する。
【0059】
スラリーの除去後、アブレイダブルコーティング層22が形成された基材30を乾燥させる(ステップS6:乾燥工程)。乾燥工程S6では、自然乾燥または加熱乾燥により、基材30に付着した溶媒を揮発させる。
【0060】
基材30の乾燥後、基材30上に形成されたアブレイダブルコーティング層22を検査する(ステップS7:検査工程)。検査工程S7では、アブレイダブルコーティング層22のフィン形状が所定の形状となっているか否かを、目視または画像処理等によって判定する。なお、検査工程S7は、焼成工程S3の後に行ってもよい。
【0061】
以上のように、実施形態1によれば、基材30上にスラリー層31を形成した後、スラリー層31を適宜焼結して焼結層35を形成し、これを繰り返して焼結層35を積層することで、基材30の表面上にアブレイダブルコーティング層22を形成することができる。このとき、基材30の表面が、曲面、凹面、または凸面であっても、スラリーを用いることで、基材30の表面に対して均一な層となるスラリー層31を形成することができる。以上のように、簡易な工程で快削性の高いアブレイダブルコーティング層22を形成できることから、アブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができる。
【0062】
また、実施形態1によれば、第1スラリー層31aにおいて、粗粒粒子の割合が少なく、微粒粒子の割合が多いスラリーを用いることで、第1スラリー層31aを焼結した後の第1焼結層35aを、基材30に対して密着性の高いものとすることができる。また、第2スラリー層31bにおいて、粗粒粒子の割合が多く、微粒粒子の割合が少ないスラリーを用いることで、第2スラリー層31bを焼結した後の第2焼結層35bを、快削性の高いものとすることができる。
【0063】
また、実施形態1によれば、レーザーLeを用いることで、精度のよい焼結層35を形成することができ、これに伴って、精度のよいフィン形状となるアブレイダブルコーティング層22を形成することができる。
【0064】
また、実施形態1によれば、溶媒を用いて、基材30上の不要なスラリーを除去することができる。このため、溶媒により除去されたスラリーに対して、セラミック粒子を適宜加えたり、乾燥させたりすることで、スラリー層形成工程S2において使用可能なスラリーとして再利用することが可能となる。
【0065】
また、実施形態1によれば、乾燥工程S6後、検査工程S7を行うことで、基材30に形成されたアブレイダブルコーティング層22が適切に形成されているか否かを判定することができる。
【0066】
また、実施形態1によれば、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22との結合を強固なものとすることができる。すなわち、遮熱コーティング層21は、多孔質となっていることから、スラリーに含まれる溶媒が、遮熱コーティング層21の気孔に入り込むことで、遮熱コーティング層21との界面にセラミック粒子が凝集され、この状態で焼成されることで、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22とを強固に結合することができる。
【0067】
なお、実施形態1において、焼成工程S3では、レーザーLeを用いたが、バーナまたはマイクロプラズマ等のフレームによって、スラリー層31を焼結してもよい。
【0068】
また、実施形態1に係るアブレイダブルコーティングの施工方法では、アブレイダブルコーティング層22の快削性をより向上させるために、アブレイダブルコーティング層22に気孔を形成することがより好ましい。そこで、実施形態1で使用されるスラリーに、気孔形成材を含ませてもよい。つまり、スラリー層31の焼結時に、気孔形成材が酸化または揮発することで、アブレイタブルコーティング層22に多数の気孔を形成することができる。気孔形成材には、高分子系材料及び炭素系材料の少なくとも一方が含まれ、スラリー層31の焼結時に気孔を形成させることが可能な材料であれば、他の材料を使用してもよい。
【0069】
また、実施形態1において、アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21と同じ種類となるセラミック材料であるジルコニア系のセラミック材料が用いられたが、遮熱コーティング層21がEBCコーティングである場合、希土類シリケート、BSASまたはアルミナ系のセラミック材料を用いてもよい。具体的に、スラリーに含まれるセラミック粒子のうち、粗粒粒子にムライト系のセラミック粒子が用いられ、微粒粒子にアルミナ系のセラミック粒子が用いられてもよい。
【0070】
[実施形態2]
次に、
図6を参照して、実施形態2に係るアブレイダブルコーティングの施工方法について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図6は、実施形態2に係るアブレイダブルコーティングの施工方法に関する説明図である。
【0071】
実施形態2のアブレイダブルコーティングの施工方法は、実施形態1のスラリー層形成工程S2で形成されるスラリー層31の積層方向における厚みが異なっている。また、実施形態2のアブレイダブルコーティングの施工方法は、実施形態1の焼成工程S3で照射されるレーザーLeの焦点位置Pが、アブレイダブルコーティング層22の表面となっている。
【0072】
具体的に、実施形態2のスラリー層形成工程S2は、第1スラリー層形成工程S2aにおいて形成される第1スラリー層31aの厚さが、第2スラリー層形成工程S2bにおいて形成される第2スラリー層31bに比して薄く形成されている。つまり、複数のスラリー層31を形成する場合(3層以上とする)であっても、少なくとも第1スラリー層31aの厚さが、第2スラリー層31bに比して薄く形成されている。このため、第1スラリー層31aを焼結して形成される第1焼結層35aの厚さも、第2スラリー層31bを焼結して形成される第2焼結層35bの厚さに比して薄くなる。換言すれば、第2焼結層35bの厚さは、第1焼結層35aの厚さに比して厚くなる。
【0073】
また、実施形態2の焼成工程S3では、レーザーLeの焦点位置Pが、アブレイダブルコーティング層22の表面に、すなわち、フィン形状の突出方向(積層方向)の先端部に位置している。つまり、実施形態2において、第1焼成工程S3aでは、レーザーLeの焦点位置Pが第1スラリー層31aの表面から離れたオフフォーカスの状態で、レーザーLeを第1スラリー層31aに照射して、第1スラリー層31aを焼結している。一方で、第2焼成工程S3bでは、レーザーLeの焦点位置Pが第2スラリー層31bの表面に位置した状態で、レーザーLeを第2スラリー層31bに照射して、第2スラリー層31bを焼結している。
【0074】
以上のように、実施形態2によれば、第1スラリー層31aを薄くできることから、第1焼成工程S3aにおける第1スラリー層31aの厚さ方向(積層方向)における加熱を適切に行うことができ、第1焼結層35aを好適に形成することができる。また、第1スラリー層31aを焼結した第1焼結層35aを薄くでき、第2スラリー層31bを焼結した第2焼結層35bを厚くできることから、アブレイダブルコーティング層22の厚さ方向において、快削性の高い第2焼結層35bの厚さを厚くでき、快削性の向上をより図ることができる。
【0075】
また、実施形態2によれば、レーザーLeの焦点位置Pをアブレイダブルコーティング層22の表面に設定した状態とすることで、レーザーLeの焦点位置Pが第1スラリー層31aの表面から離れたオフフォーカスの状態となる。そして、この状態でレーザーLeを第1スラリー層31aに照射することで、第1スラリー層31aの広域にレーザーLeを照射することができるため、少ないパス数で、第1焼結層35aを形成することができる。また、レーザーLeの焦点位置Pを移動させる必要がないため、焼成工程S3の効率化を図ることができる。