【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0024】
〔実施例、比較例において用いた各種特性及び物性の測定方法〕
((1)極限粘度の測定)
実施例及び比較例で製造したエチレン系重合体の極限粘度(η)を、以下に示す方法によって求めた。
まず、20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)中に、エチレン系重合体20mgを加え、150℃で2時間攪拌してエチレン系重合体を溶解させた。
その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。
同様に、エチレン系重合体の質量を変えて3点の溶液を作製し、落下時間を測定した。
ブランクとしてエチレン系重合体を入れていない、デカリンのみの落下時間(tb)を測定した。
以下の式に従って求めたポリマーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリマーの還元粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
(ηsp/C)=(t
s/t
b−1)/C (単位:dL/g)
【0025】
((2)パルスNMR)
パルスNMRのソリッドエコー法で測定された、130℃、30℃における、自由誘導減衰を3成分近似した場合の、最も運動性の低い成分(α)、最も運動性の高い成分(γ)、中間の運動成分(β)の組成比率α、β、γ、及び成分(γ)の緩和時間Tγを、下記条件により測定した。
測定装置:日本電子製社製 JNM−Mu25
観測核:
1H
測定:スピン−スピン緩和
測定法:ソリッドエコー法
パルス幅:2.2〜2.3μs
パルス間隔:7.0μs〜9.2μs
積算回数:256回
測定温度:30℃、50℃、70℃、90℃、110℃、130℃(測定温度に達してから5分後に測定を開始した。)
繰り返し時間:3sec
解析方法:下記(式1)を用いて、解析ソフトによりフィッティングを行い、3成分に近似した。
M(t)=αexp(−(1/2)(t/Tα)
2)sinbt/bt+βexp(−(1/Wa)(t/Tβ)
Wa)+γexp(−t/Tγ) ・・・(式1)
α:α成分の組成分率
Tα:α成分の緩和時間(単位:msec)
β:β成分の組成分率
Tβ:β成分の緩和時間(単位:msec)
γ:γ成分の組成分率
Tγ:γ成分の緩和時間(単位:msec)
t:観測時間(単位:msec)
Wa:形状係数
b:形状係数
【0026】
((3)分子量分布(Mw/Mn)の測定)
エチレン系重合体20mgにo−ジクロロベンゼン15mLを導入して、150℃で1時間撹拌することで調製したサンプル溶液を用いて、下記の条件によりゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定を行った。
測定結果から、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて、エチレン系重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
装置:Waters社製150−C ALC/GPC
検出器:RI検出器
移動相:o−ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
流量:1.0mL/分
カラム:Shodex製AT−807Sを1本と東ソー製TSK−gelGMH−H6を2本連結したものを用いた。
カラム温度:140℃
【0027】
((4)α−オレフィンに由来する単量体単位の含有量)
エチレン系重合体中のα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量(mol%)の測定は、G.J.RayらのMacromolecules,10,773(1977)に開示された方法に準じて行い、13C−NMRスペクトルにより観測されるメチレン炭素のシグナルを用いて、その面積強度より算出した。
測定装置:日本電子製 ECS−400
観測核:
13C
観測周波数:100.53MHz
パルス幅:45°(7.5μsec)
パルスプログラム:single pulse dec
PD:5sec
測定温度:130℃
積算回数:30,000回以上
基準:PE(−eee−)シグナルであり29.9ppm
溶媒:オルトジクロロベンゼン−d4
試料濃度:5〜10質量%
溶解温度:130〜140℃
【0028】
((5)膜厚)
微多孔膜の膜厚を、東洋精機製の微小測厚器(タイプKBM(登録商標))を用いて室温23℃で測定した。
【0029】
((6)突刺強度)
カトーテック製のKES−G5ハンディ圧縮試験器(商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/sの条件で微多孔膜の突刺試験を行い、最大突刺荷重(N)を測定し、下記ように評価した。
突刺荷重が6Nを超える物は◎、5Nを超える物は○、5N以下の物は×とした。
【0030】
((7)膜の外観特性(厚みムラ))
微多孔膜100mを測定サンプルとし、微多孔膜の反対側から光を当て、膜厚が薄くなっていることに由来して明るい斑点が見えるか、目視で観察し、下記により評価した。
全く見えない物は◎、1カ所以上3ヶ所以下の物は○、3ヶ所を超える物は×とした。
【0031】
((8)膜の外観特性(未溶融物由来の欠点))
微多孔膜100mを測定サンプルとし、未溶融物に由来する欠点が見えるか、目視で観察し、下記により評価した。
全く見えない物は◎、1カ所以上3ヶ所以下の物は○、3ヶ所を超える物は×とした。
【0032】
((9)耐裂け性)
微多孔膜から幅20mm×長さ100mmのサンプルを切り出し、長さ方向に対して直角になるように、剃刀にて0.5mmの切れ込みを加えた。
次に、引張試験機にサンプルをセットし、以下の条件で引っ張った後に、荷重1Nになった時点で装置を停止し、下記により評価した。
その時に、破断しなかったものを○、破断したものを×とした。
装置:エーアンドデイ社製 テンシロン
チャック間距離:50mm
引張速度:50mm/min(引張荷重1Nとなったときに停止した。)
【0033】
〔触媒合成例〕
(固体触媒成分[A]の調製)
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブにヘキサン1,600mLを添加した。
5℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液800mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSi(C
2H
5)H)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液800mLとを4時間かけて同時に添加した。
添加後、ゆっくりと昇温し、10℃で1時間反応を継続させた。
反応終了後、上澄み液を1600mL除去し、ヘキサン1,600mLで5回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。
【0034】
(固体触媒成分[B]の調製)
<(1)(B−1)担体の合成>
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。
反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し(B−1)担体を得た。
<(2)固体触媒成分[B]の調製>
上記(B−1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに50℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lのジエチルアルミニウムクロリドのヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。
添加後、50℃で1時間反応を継続させた。
反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[B]を調製した。
【0035】
(固体触媒成分[C]の調製)
上記(B−1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSi(C
2H
5)H)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。
添加後、10℃で1時間反応を継続させた。
反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[C]を調製した。
【0036】
〔実施例1〕
(エチレン系重合体パウダーの製造方法)
ヘキサン14Lを入れた撹拌装置が付いたベッセル型30L重合反応器にエチレンと水素を、液相の上段、中段、下段の3ヶ所から断続的に供給した。
重合圧力は0.5MPaに保ち、気相部の水素濃度が15mol%から18mol%になるように断続的に水素濃度を変化させながら、エチレン及び水素を供給した。
重合温度はジャケット冷却により74℃に保った。
助触媒としてトリイソブチルアルミニウムを1.5mmol添加し、その後、固体触媒成分[A]を0.05g分添加することで重合反応を開始した。
攪拌羽根の周速度は5m/sであった。
2時間反応させた後、重合スラリーをバッファータンクに移して40℃まで降温し、反応器を脱圧することで未反応のエチレン及び水素を除去した。
さらに重合スラリーを40℃で1時間静置した。
重合スラリーを遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離し、エチレン系重合体パウダーを得た。
分離されたエチレン系重合体パウダーは、70℃で窒素ブローしながら乾燥した。
なお、この乾燥工程で、重合後のパウダーに対し、スチームを噴霧して、触媒及び助触媒の失活を実施した。
得られたエチレン系重合体パウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)を1,000ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。
得られたエチレン系重合体パウダーを、目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで、〔実施例1〕のエチレン系重合体パウダーを得た。
得られたエチレン系重合体の特性を、上述した方法により測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0037】
(微多孔膜の製造方法)
エチレン系重合体パウダー100質量部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、エチレン系重合体混合物を得た。
得られたエチレン系重合体混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーを介して投入した。
さらに流動パラフィン(松村石油(株)製P−350(商標))200質量部をサイドフィードで押出機に注入し、200℃条件で混練し、押出機先端に設置したTダイから押出した後、ただちに25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ800μmのゲル状シートを成形した。
このゲル状シートを115℃で同時二軸延伸機を用いて9×9倍に延伸し、延伸フィルムを得た後、この延伸フィルムをメチルエチルケトンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去し、その後、乾燥した。
さらに120℃で、3分間、アニールし、微多孔膜を得た。
得られた微多孔膜の物性を、上述した方法により測定した。
測定結果を下記表1に示す。
【0038】
〔実施例2〕
重合工程において、固体触媒成分[A]を用いずに、固体触媒成分[B]を用い、気相部の水素濃度を0〜0.05mol%に断続的に変化するように供給し、さらにプロピレンを気相部の濃度が2mol%になるように供給した。その他の条件は前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔実施例2〕のエチレン系重合体パウダーを得た。
当該〔実施例2〕の微多孔膜は、厚さ500mmのゲル状シートに成形した後に、同時二軸延伸機を用いて7×7倍に延伸したこと以外は、前記〔実施例1〕と同様の操作によって得た。
【0039】
〔実施例3〕
重合工程において、重合温度を73℃にし、気相部の水素濃度を8〜12mol%に断続的に変化するように供給し、さらに、1−ブテンを気相部の濃度が0.2mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔実施例3〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔実施例3〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0040】
〔実施例4〕
重合工程において、気相部の水素濃度を0.1〜1mol%に断続的に変化するように供給し、さらに、1−ブテンを気相部の濃度が1mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例2〕と同様の操作により、〔実施例4〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔実施例4〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0041】
〔実施例5〕
重合工程において、固体触媒成分[A]を用いずに、固体触媒成分[C]を用い、気相部の水素濃度を10〜15mol%に断続的に変化するように供給し、さらにプロピレンを気相部の濃度が0.1mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔実施例5〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔実施例5〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0042】
〔実施例6〕
重合工程において、気相部の水素濃度を1〜3mol%に断続的に変化するように供給し、さらにプロピレンを気相部の濃度が12mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔実施例5〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔実施例5〕の微多孔膜は、前記〔実施例1〕と同様の操作によって得た。
【0043】
〔比較例1〕
重合工程において、固体触媒成分[A]を用いずに、固体触媒成分[B]を用い、気相部の水素濃度を16〜20mol%に断続的に変化するように供給し、さらにプロピレンを気相部の濃度が0.1mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔比較例1〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔比較例1〕の微多孔膜は、前記〔実施例1〕と同様の操作によって得た。
【0044】
〔比較例2〕
重合工程において、重合温度を80℃とし、気相部の水素濃度を8mol%に保持し、攪拌羽根の周速度を3m/sとし、重合スラリーを温度70℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した後にただちに遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。その他の条件は前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔比較例2〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔比較例2〕の微多孔膜は前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0045】
〔比較例3〕
重合工程において、固体触媒成分[A]を用いずに、固体触媒成分[B]を用い、気相部の水素濃度を1〜10mol%に断続的に変化するように供給し、さらに1−ブテンを気相部の濃度が0.1mol%になるように供給し、攪拌羽根の周速度を3m/sとした。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔比較例3〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔比較例3〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0046】
〔比較例4〕
重合工程において、重合温度を65℃とし、気相部の水素濃度を0.1〜0.5mol%に断続的に変化するように供給し、さらに1−ブテンを気相部の濃度が16mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔比較例4〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔比較例4〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0047】
〔比較例5〕
重合工程において、気相部の水素濃度を1〜15mol%に断続的に変化するように供給し、さらに1−ブテンを気相部の濃度が0.1mol%になるように供給した。その他の条件は、前記〔実施例1〕と同様の操作により、〔比較例5〕のエチレン系重合体パウダーを得た。当該〔比較例5〕の微多孔膜は、前記〔実施例2〕と同様の操作によって得た。
【0048】
【表1】