特許第6896412号(P6896412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896412
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】揮散装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20210621BHJP
   B65D 83/00 20060101ALI20210621BHJP
   B65D 85/00 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   A61L9/12
   B65D83/00 F
   B65D85/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-243477(P2016-243477)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-94230(P2018-94230A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 裕子
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−035929(JP,A)
【文献】 特開2006−213640(JP,A)
【文献】 実開昭53−148050(JP,U)
【文献】 特開2002−362660(JP,A)
【文献】 実開昭60−014166(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00−9/22
B65D83/00,85/00
A01M1/00−99/00
F16K1/00−1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性を有する薬剤を収容した容器の円筒状の胴部の上端にある開口部の縁に前記胴部の外側から嵌合する環状周壁と、
揮散孔を有して前記周壁の軸方向の一端に連続し、前記周壁の径方向の内側で且つ前記揮散孔の径方向の外側から前記容器の内部に向けて突設して前記胴部の内面に対向する円環状の内壁を一体に有し、前記開口部に対向した天壁と、
前記周壁と前記内壁の間で前記天壁の外周部に沿って前記天壁を貫通して設けた円弧状のスリットと、
を有することを特徴とする揮散装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記外周部に沿って等間隔で複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の揮散装置。
【請求項3】
前記周壁の内面および前記天壁の内面を一体につないだリブをさらに有し、
前記スリットは、前記リブに対して周方向に外れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リモネンなどの油性成分を溶媒として含む芳香剤などを揮散させるための揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香剤を揮散する装置として、芳香剤を収容した容器の開口部に開度を調節可能な蓋を設けた揮散装置が知られている。芳香剤の溶媒には、例えば、リモネンなどの油性成分が用いられる。特にリモネンは、揮散性薬剤の溶媒として利用可能であるだけでなく、柑橘系の香りを有していることからゲル化させた芳香剤の形態で用いられることがある。しかし、リモネンをはじめ一部の油性成分は、樹脂を膨潤させる場合があり、揮散装置の容器に樹脂を用いた場合、容器が油性成分の膨潤により変形してしまう可能性がある。
【0003】
このため、薬剤を収容する樹脂製の容器の内面にリモネンの浸透を防止するためのバリア層を設けた揮散装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−225295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リモネンなど、樹脂を膨潤させやすい油性成分を含む薬剤を使用する場合、上述した問題を考慮すると、金属缶やガラス瓶を容器として用いることが望ましい。この場合、薬剤の揮散速度を調整したり、使用中の薬剤に異物が混入することを防ぐため、金属缶やガラス瓶を開封した後、容器の開口部に揮散孔を有する蓋を取り付ける必要がある。金属缶やガラス瓶の開口部に取り付ける蓋としては、その着脱性を考慮すると、例えばポリプロピレン(PP)などの比較的柔らかい樹脂製の蓋が適している。
【0006】
しかし、PP製の蓋は、上述したリモネンなどの油性成分により膨潤し、経時的に変形して柔らかくなり、体積が膨張することが知られている。このため、樹脂を膨潤させやすい油性成分を含む芳香剤の容器の蓋にPP製の蓋を用いた場合、使用開始後、蓋が経時的に劣化(軟化)して、容器との嵌合が緩くなる、一部に変形が生じるといった不具合を生じる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、薬剤による蓋の劣化を抑制できる揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の揮散装置の一態様は、揮発性を有する薬剤を収容した容器の円筒状の胴部の上端にある開口部の縁に胴部の外側から嵌合する環状周壁と、揮散孔を有して周壁の軸方向の一端に連続し、周壁の径方向の内側で且つ揮散孔の径方向の外側から容器の内部に向けて突設して胴部の内面に対向する円環状の内壁を一体に有し、開口部に対向した天壁と、周壁と内壁の間で天壁の外周部に沿って天壁を貫通して設けた円弧状のスリットと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、薬剤による蓋の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係る揮散装置を容器に取り付けた状態を示す外観図である。
図2図2は、図1の揮散装置の蓋体を示す斜視図である。
図3図3は、図2の蓋体の底面図である。
図4図4は、図1の揮散装置の調節板を示す斜視図である。
図5図5は、図1の揮散装置をV−V線に沿って切断した部分拡大断面図である。
図6図6は、第2の実施形態に係る揮散装置の蓋体を示す斜視図である。
図7図7は、第2の実施形態に係る揮散装置の調節板を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係る揮散装置10を容器1の開口部(図示せず)に取り付けた状態を示す外観図である。容器1は、例えば有底円筒形の金属缶により形成されており、揮発性を有するゲル状の芳香剤(薬剤)を収容している。本実施形態では、芳香剤は、リモネンなどの樹脂を膨潤させやすい油性成分を含む。このため、油性成分の膨潤の問題が生じない金属缶を容器1に用いることが望ましい。容器1は、芳香剤の揮散が不用意に開始しないように密閉した状態で出荷される。そして、容器1の上端にある缶蓋(図示せず)を開封した後、容器1の開口部に揮散装置10が取り付けられ、揮散装置10の使用が開始される。
【0012】
揮散装置10は、容器1の開口部に着脱可能に取り付けられる蓋体2、および蓋体2の複数の揮散孔21の開度を調節するための調節板4を有する。調節板4は、その回動の途中で、蓋体2の複数の揮散孔21にそれぞれ一対一で重なることができる複数の調節孔41を有する。つまり、調節板4を蓋体2に対して回動させることで、各揮散孔21と調節孔41が重なる面積を変化させることができ、揮散孔21の開口面積を調節することができる。揮散孔21および調節孔41の形状は任意に設計可能である。
【0013】
図2は、蓋体2の斜視図であり、図3は、蓋体2の底面図である。また、図4は、調節板4の斜視図である。さらに、図5は、揮散装置10を図1のV−V線で切断した部分拡大断面図である。蓋体2は、容器1に対する着脱容易性を考慮して、ポリプロピレン(PP)やポリアセタール(POM)により形成することが望ましい。以下、第1の実施形態に係る揮散装置10について、図2乃至図5を参照して、より詳細に説明する。
【0014】
図2および図3に示すように、蓋体2は、環状に連続した略円筒形の周壁22、および上述した複数の揮散孔21を有して周壁22の軸方向の一端に連続した略円板状の天壁24を一体に有する。周壁22と天壁24の間には、後述する複数(本実施形態では8つ)のスリット26が蓋体2を貫通して設けられている。スリット26は、蓋体2の不連続部分として機能する。スリット26は、少なくとも1つ設ければよい。本実施形態では、蓋体2(すなわち周壁22および天壁24)は、ポリアセタール(POM)により形成されている。
【0015】
一方、容器1の開口部の縁は、外側に折り返された円環状の折返し部1a(図5に破線で示す)を有している。つまり、容器1の開口部の縁は、胴部の外径よりわずかに大きい外径を有する。折返し部1aは、蓋体2を嵌合するための環状突起として機能する。
【0016】
周壁22の内径は、容器1の開口部の縁(折返し部1a)の外径よりわずかに大きい。周壁22の内面には、容器1の開口部の縁にある折返し部1aに係合せしめるための円環状の凸条部22aが設けられている。凸条部22aの内径は、折返し部1aの外径と略同じか或いはわずかに小さい。
【0017】
蓋体2を容器1の開口部に取り付ける場合、周壁22の内側に開口部の縁を挿入し、蓋体2を容器1の開口部に押し付ける。蓋体2を一定以上の力で容器1の開口部に押し付けると、周壁22の内面に設けた凸条部22aが容器1の開口部の縁にある折返し部1aを押圧し、蓋体2が容器1の開口部に嵌合される。蓋体2を容器1の開口部から取り外す場合には、周壁22の外側に突出した把持片22cを指で引き上げる。
【0018】
天壁24は、図1に示す状態で、容器1の開口部に対向する。本実施形態では、複数の揮散孔21は、天壁24の径方向に延びて放射状に設けられている。天壁24の下面側の外周部近くには、円環状の内壁22bが一体に突設されている。内壁22bは、周壁22より一回り小さな外径を有し、周壁22より突出高さが低い。
【0019】
天壁24の上面側には、調節板4を収容配置するための円形の凹所24aが設けられている。複数の揮散孔21は、この凹所24aの底に設けられている。凹所24aの外周縁には、凹所24a内に収容配置した調節板4の上面側の外周縁部を押さえる複数(本実施形態では3つ)の保持爪25が内側に向けて凹所24aの底と平行に突設されている。調節板4は、複数の保持爪25の弾性変形を伴って凹所24a内に押し込められる。
【0020】
蓋体2の内面側には、周壁22の内面と天壁24の内面をつなぐ径方向に延びた複数(本実施形態では8つ)のリブ23が一体に設けられている。リブ23は、周方向に等間隔で設けられている。リブ23は、周壁22と内壁22bの間に設けられている。言い換えると、各リブ23は、周壁22の内面および天壁24の内面に加えて内壁22bの外周面にもつながっている。
【0021】
周壁22と天壁24の間に設けた複数のスリット26は、周壁22の軸方向の一端につながる天壁24の外周部に沿って、天壁24を貫通して設けられている。複数のスリット26は、天壁24の外周部に沿って等間隔で設けられている。複数のスリット26は、周壁22と天壁24との間を分断した不連続部分として機能する。少なくとも1つのスリット26を周壁22と天壁24の間に設けることで、容器1の開口部に対向した天壁24に浸透した薬液が周壁22に伝わり難くなり、周壁22の膨潤を抑制でき、周壁22の容器1に対する嵌合状態が緩む不具合を防止することができる。
【0022】
また、本実施形態のように、スリット26を周壁22に設けるのではなく天壁24に設けることで、周壁22の剛性を保つことができ、周壁22の変形を抑制することができる。
【0023】
また、本実施形態では、スリット26を調節板4の保持爪25に対向する位置に配置した。これにより、保持爪25に対向した周壁22の部位における剛性を他の部位より高くすることができ、保持爪25による調節板4の保持状態を変化し難くすることができ、調節板4の脱落を防止することができる。
【0024】
さらに、本実施形態では、スリット26を、周壁22と天壁24をつないだリブ23に対して周方向に外れた位置に設けた。これにより、リブ23の無い周壁22の比較的剛性の低い部位における薬剤の周壁22への浸透を抑制でき、周壁22の剛性低下を効果的に抑制することができる。
【0025】
図4に示すように、調節板4は、その上面4aに複数の隆起部分42を有する。隆起部分42は、調節板4を回す際に指を引っ掛けるためのものである。複数の隆起部分42は、複数の調節孔41に対応して、調節板4の回転方向に沿って各調節孔41の同じ側に設けられている。本実施形態では、隆起部分42の形状は、調節孔41の縁形状に沿ったものになっているが、必ずしも調節孔41の形状に合わせる必要はなく、省略してもよい。
【0026】
以上のように、第1の実施形態によると、揮散装置10の蓋体2の周壁22と天壁24の間にスリット26を設けたため、この部位が周壁22と天壁24の間の不連続部分として機能し、容器1の開口部に対向した天壁24に浸透した油性成分が周壁22に伝わり難くすることができる。これにより、周壁22の膨潤による膨張を抑制でき、蓋体2の脱落を防止することができる。周壁22の膨潤の問題を考慮するとスリット26はできるだけ多く設けた方がよいが、蓋体2の剛性を保つ必要があるため、スリット26の数および長さは適宜調整する必要がある。
【0027】
また、本実施形態によると、調節板4を蓋体2の凹所24a内に保持せしめる保持爪25に対向する位置にスリット26を設けたため、保持爪25に対向する周壁22の部位における膨潤を抑制でき、この部位における周壁22の剛性を保つことができ、保持爪25が調節板4から外れ難くすることができる。これにより、蓋体2の天壁24に薬剤の油性成分が浸透した場合であっても、調節板4が脱落し難くすることができる。
【0028】
さらに、本実施形態によると、蓋体2の周壁22の内面と天壁24の内面をつないだリブ23が無い位置、すなわちリブ23に対して周方向にずれた位置にスリット26を設けたため、比較的剛性の低い周壁22の部位がさらに油性成分の浸透によって膨張して軟化する不具合を防止でき、周方向に沿って平均的に周壁22の剛性を保つことができる。
【0029】
図6は、第2の実施形態に係る揮散装置の蓋体112を示す斜視図であり、図7は、第2の実施形態に係る揮散装置の調節板114を示す斜視図である。
第2の実施形態の揮散装置は、複数の揮散孔121を有する蓋体112と、複数の調節孔141を有する調節板114と、を備えている。本実施形態の揮散装置は、蓋体112の揮散孔121の形状が蜘蛛の巣状であり、調節板114の調節孔141の形状が蜘蛛の巣状であり、調節板114の上面に隆起部分を持たない。これ以外の構成は、上述した第1の実施形態の揮散装置10と略同じであるため、第1の実施形態の揮散装置10と同様に機能する構成要素には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0030】
本実施形態の揮散装置も、蓋体112の周壁22と天壁24の間に複数のスリット26を備えている。このため、第2の実施形態に係る揮散装置においても、第1の実施形態の揮散装置10と同様の効果を奏することができる。
【0031】
以上、いくつかの実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
揮発性を有する薬剤を収容した容器の開口部の縁に嵌合する環状に連続した周壁と、
揮散孔を有して前記周壁の軸方向の一端に連続し、前記開口部に対向した天壁と、
前記周壁と前記天壁の間に設けた不連続部分と、
を有することを特徴とする揮散装置。
[2]
前記不連続部分は、前記周壁の前記一端につながる前記天壁の外周部に沿って該天壁を貫通して設けられたスリットであることを特徴とする[1]に記載の揮散装置。
[3]
前記スリットは、前記外周部に沿って等間隔で複数設けられていることを特徴とする[2]に記載の揮散装置。
[4]
前記揮散孔の開度を調節する調節板と、
前記調節板を前記天壁に対して移動可能に保持した保持爪と、をさらに有し、
前記スリットは、前記保持爪に対向する位置に設けられていることを特徴とする[2]または[3]に記載の揮散装置。
[5]
前記周壁の内面および前記天壁の内面を一体につないだリブをさらに有し、
前記スリットは、前記リブに対して周方向に外れた位置に設けられていることを特徴とする[2]乃至[4]のいずれか一項に記載の揮散装置。
【符号の説明】
【0032】
1…容器、 2…蓋体、 4…調節板、 10…揮散装置、 21…揮散孔、 22…周壁、 22b…内壁、 23…リブ、 24…天壁、 24a…凹所、 25…保持爪、 26…スリット、 41…調節孔、 42…隆起部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7