(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定するものではない。またその要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。さらに使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0014】
<熱接着テープの全体構成の説明>
図1は、本実施の形態が適用される熱接着テープ1について示した断面図である。
図示する熱接着テープ1は、基材2と、基材2の一方および他方のそれぞれの表面側に設けられた接着層3とを備える。なお以後、説明の便宜上、図中一方の表面側である上部の接着層3を接着層3a(第1の接着層)と言い、図中他方の表面側である下部の接着層3を接着層3b(第2の接着層)と言うことがある。なお図示はしていないが、
図1において、接着層3の基材2とは逆の表面側に剥離ライナー等を備えていてもよい。
【0015】
熱接着テープ1は、加熱圧着することで被着体を接合させる。具体的には、例えば、被着体がガラスクロスであったときには、ガラスクロスを製造する製造工程において、長尺のガラスクロスを巻き取ったロール状の原反の端部同士を接合する等の用途に用いられる。このときロール状の原反の端部同士で熱接着テープ1を挟み、そして加熱しつつこの箇所を押圧する。これにより接着層3が硬化し、熱接着テープ1を介してロール状の原反の端部同士が接合される。つまり本実施の形態の熱接着テープ1は、加熱圧着を行なわないと、被着体を接合させることができず、粘着力により被着体を接合させる粘着テープとは異なるものである。
【0016】
本実施の形態の熱接着テープ1は、全体の厚さが、100μm以上250μm以下であることが好ましい。熱接着テープ1の厚さが100μm未満であると、剪断力に対する強度を保持しにくくなる。ここで、剪断力とは、熱接着テープの表面に沿う方向の力である。
また熱接着テープ1の厚さが250μmを超えると、熱接着テープ1を巻回させてロール状の製品にするときに過度にロールの径が大きくなったり、シワが入りやすくなる。また熱接着テープ1の製造工程において溶剤が残存しやすくなったり、接着層3表面に凹凸ができやすく外観が悪化しやすくなる。
【0017】
<基材>
基材2は、接着層3を形成する支持体となるものである。そして基材2は、熱接着テープ1全体の機械的強度を確保する機能が求められるとともに、熱接着テープ1が貼り付けられる被着体に対し追従し、柔軟にその形状を変化することができる機能が求められる。
【0018】
本実施の形態において、基材2は、不織布からなる。即ち、基材2は、不織布を構成する繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものである。本実施の形態において、不織布を構成する繊維は、特に限られるものではない。例えば、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維等が使用できる。
【0019】
また基材2は、不織布であることから、繊維間に多数の開口部Hを有する。そのため詳しくは後述するが、接着層3を基材2に形成する際に、接着層3を構成する成分が、この開口部Hに侵入する不織布を選択するのが好ましい。その結果、図示するように、基材2の一方の表面側に設けられた接着層3aと、基材2の他方の表面側に設けられた接着層3bとは、不織布が有する開口部Hを通して接合し、開口部H中に接合部3cを形成する。
本実施の形態では、この接合部3cが生じることにより、基材2と接着層3との密着性が向上するとともに、基材2自身の層割れを防ぐことができ、接着層3が本来有する凝集力を十分に発現することが可能となる。なお図では、開口部Hの全てに接合部3cが形成されているが、必ずしもその必要はなく、接合部3cは、一部の開口部Hに形成されていれば足りる。
【0020】
接着層3を基材2に形成する際に、接着層3を構成する成分が、この開口部Hに侵入するためには、不織布の目付量が40g/m
2以下であることが好ましい。不織布の目付量が40g/m
2を超えると、開口部Hの大きさが小さくなりすぎ、接着層3を構成する成分が開口部Hに侵入しにくくなる。その結果、接合部3cが形成されにくくなり、接着層3の接着力が十分に得られない。また不織布の目付量は、5g/m
2以上であることがさらに好ましい。不織布の目付量が5g/m
2未満であった場合、基材2の搬送性が悪くなったり、接着層3a(第1の接着層)に基材2を貼り合せる作業が困難になる。また、接着層3を基材2に形成した後の熱接着テープ1の強度が低下するおそれがある。
また基材2の厚さは、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0021】
<接着層>
接着層3は、加熱することで硬化し、その際に加圧されることで熱接着テープ1と被着体との間で接着力を発揮させる機能層である。
本実施の形態では、接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、フェノール樹脂、過酸化物、およびフェノール樹脂架橋剤を含む。
【0022】
アクリルニトリル−ブタジエンゴムの構造は特に限られるものではない。例えば、直鎖状のアクリルニトリル−ブタジエンゴムおよび分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムの何れも使用することができる。ただし本実施の形態では、分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムを使用することがより好ましい。
分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムは、接着層3に対し適度な柔軟性を付与すると同時に極めて高い凝集力を付与することができる。本実施の形態において使用される分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムは、アクリルニトリル−ブタジエンゴムの中でも、重合温度が25℃〜50℃で製造されるホットラバーに分類されるもので、例えば、下記化1式で表される。
【0024】
また下記化2式の一般式(1)は、直鎖状のアクリルニトリル−ブタジエンゴムの構造式である。ここでm、nは、1以上の整数である。化1式で表される分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムは、一般式(1)におけるブタジエンの2重結合が開裂し、そこにさらに一般式(1)で表される構造が結合したものである。つまり化1式で曲線で表したそれぞれの線は、それぞれが一般式(1)で表される構造を有している。
本実施の形態では、分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムとして、例えば、重量平均分子量(Mw)が30万のものを使用することができる。
【0026】
フェノール樹脂は、接着層3に対し熱硬化性、耐熱性、接着性を付与する。本実施の形態で用いられるフェノール樹脂は、特に限られるものではないが、酸触媒下においてフェノール類とホルムアルデヒドを合成させたノボラック樹脂を好適に使用することができる。またフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール、ハロゲン化フェノール、アリールフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ビスフェノールA、多価フェノール、これらの誘導体などが挙げられる。また、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
過酸化物は、熱接着テープ1の加熱時において、熱分解し、発生した遊離ラジカルによりアクリルニトリル−ブタジエンゴムを架橋する。
ここで、本実施の形態では、分解することに起因して酸を発生させる過酸化物を好適に使用することができる。すなわち、この過酸化物が接着層3に含まれていると、熱接着テープ1が加熱されたときに接着層3が硬化する速度が向上する。具体的には、本実施の形態の熱接着テープ1を加熱すると、上述したように、まず、過酸化物が熱分解し、発生した遊離ラジカルによりアクリルニトリル−ブタジエンゴムが架橋される。この際、遊離ラジカルはアクリルニトリル−ブタジエンゴムから引き抜いた水素と反応し、酸を生成する。次いで、この酸によりフェノール樹脂とフェノール樹脂架橋剤との反応が促進されフェノール樹脂の架橋が起こりフェノール樹脂の硬化が促進されることで、接着層3が硬化する速度が向上する。
【0028】
その一方で、本実施の形態の接着層3に含まれる過酸化物は、室温環境下等の熱接着テープ1を加熱していないときには、分解が起こりにくく、酸を発生しにくい。また、過酸化物自体は、フェノール樹脂の反応に直接影響しない。そのため、熱接着テープ1を加熱していないときには、フェノール樹脂が硬化しにくい。
【0029】
また、過酸化物は、半減期温度が130℃以上であって170℃以下であることが好ましい。
ここで、半減期温度とは、1分間過酸化物を加熱したときに、過酸化物が分解することで過酸化物の濃度が加熱直前の濃度から半減する温度を意味する。
【0030】
過酸化物の半減期温度が170℃よりも高い場合、過酸化物を加熱したときに過酸化物が分解する速度が遅く酸が発生しにくい。この場合、熱接着テープ1を加熱したときのフェノール樹脂の硬化が促進されにくい。
過酸化物の半減期温度が130℃よりも低い場合、過酸化物を加熱していないときであっても過酸化物が分解して酸が発生しやすくなる。この場合、熱接着テープ1の保管時等の熱接着テープ1を加熱していないときであっても、フェノール樹脂の硬化が進行しやすくなる。
【0031】
また、接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに過酸化物を0.5質量部以上5質量部以下含んでいることが好ましい。
過酸化物が0.5質量部未満であると、この過酸化物から発生する酸の量が少なく、熱接着テープ1を加熱したときのフェノール樹脂の硬化が促進されにくい。
また、過酸化物が5質量部を超えると、過酸化物を加熱していないときに過酸化物が徐々に分解することで発生する酸の量が多くなる。この場合、熱接着テープ1の保管時等の熱接着テープ1を加熱していないときであっても、フェノール樹脂の硬化が進行しやすくなる。
【0032】
分解することに起因して酸を発生させる過酸化物としては、ジアシルパーオキサイドやパーオキシエステルを好適に使用することができる。また、本実施の形態では、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、日油株式会社製のナイパー(登録商標)BMTやパーロイル(登録商標)L等が挙げられる。また、パーオキシエステルとしては、例えば、日油株式会社製のパーブチル(登録商標)OやパーブチルZ等が挙げられる。
【0033】
フェノール樹脂架橋剤は、熱接着テープ1を加熱したときに、フェノール樹脂と付加縮合反応を起こし、フェノール樹脂をより短時間で硬化させる。フェノール樹脂架橋剤は、フェノール樹脂の架橋促進剤、硬化剤とも呼ばれる。フェノール樹脂架橋剤としては、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)、メチロールメラミンおよびメチロール尿素等が挙げられる。また、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。なお本実施の形態では、このうち、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)を好適に用いることができる。
【0034】
なお接着層3は、本実施の形態の要旨の範囲内において、他の樹脂やゴム等をさらに含んでいてもよい。また、後述する塗布液である接着層用溶液を塗布する際の塗布性を向上させるために増粘剤や、発泡を抑制し外観の荒れを抑制するための消泡剤をさらに含んでいてもよい。
【0035】
<熱接着テープの製造方法>
図2は、熱接着テープ1の製造方法について説明したフローチャートである。
まず剥離ライナーおよび目付量が40g/m
2以下の不織布からなる基材を準備する(ステップ101:剥離ライナー・基材準備工程)。
【0036】
次に接着層3を塗布するための接着層用溶液を作製する(ステップ102:接着層用溶液作製工程)。この接着層用溶液は、上述したアクリルニトリル−ブタジエンゴム、フェノール樹脂、過酸化物、およびフェノール樹脂架橋剤を含み、これらを所定の溶媒に投入後、撹拌したものである。
【0037】
そして剥離ライナーに接着層用溶液を塗布し、塗布膜を形成する(ステップ103)。
さらに、この塗布膜を乾燥させることで、剥離ライナーの上に接着層3a(第1の接着層)が形成される(ステップ104)。このステップ103〜ステップ104の工程は、剥離ライナーに接着層用溶液を塗布し、第1の接着層を形成する第1の接着層形成工程として捉えることができる。
次に剥離ライナーに形成された接着層3a(第1の接着層)に基材2の一方の表面側を貼り合せる(転写する)。(ステップ105:貼り合せ工程)
【0038】
次に基材2の他方の表面側に接着層用溶液を塗布し、基材2の他方の表面側に塗布膜を形成する(ステップ106)。このとき接着層用溶液が、
図1で説明したように、基材2を構成する不織布の開口部Hに侵入する。
さらにこの塗布膜を乾燥させることで、基材2の他方の表面側に接着層3b(第2の接着層)が形成される(ステップ107)。このステップ106〜ステップ107の工程は、基材2の他方の表面側に接着層用溶液を塗布し、第2の接着層を形成する第2の接着層形成工程であると把握することができる。
【0039】
ステップ103〜ステップ107の工程により、基材2の両面に接着層3(接着層3a、接着層3b)が形成され、さらに
図1で説明したように不織布の開口部H中に接合部3cが形成される。
なおここでは基材2に接着層3bを形成する際に、基材2の上に直接接着層3bを形成したが、別の剥離ライナーに接着層3bを形成した後、基材2に転写してもよい。また接着層用溶液を基材2の両面に同時に塗布し、接着層3aおよび接着層3bを同時に形成してもよい。
以上の工程により全体の厚さを、100μm以上250μm以下とし、本実施の形態の熱接着テープ1を製造することができる。
【0040】
以上詳述した形態によれば、基材2として不織布を用いることにより、開口部Hに接合部3cが生じ、これにより剪断力に対して十分な強度を有する熱接着テープ1を提供することができる。
【0041】
また、被着体を熱接着テープ1に加熱圧着する際には、接着層3に含まれる過酸化物が分解して酸が発生するが、この酸がフェノール樹脂とフェノール樹脂架橋剤との硬化を促進する。そのため、接着層3が硬化する速度が向上し、熱接着テープ1は、短時間で被着体に接着する。
その一方で、熱接着テープ1を加熱していないときには、過酸化物の分解が起こりにくく酸が発生しにくいため、接着層3の硬化が進行しにくい。そのため、熱接着テープ1を使用せずに保管している間、熱接着テープ1の接着力が失われにくい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定するものではない。
【0043】
図1で示す熱接着テープ1を作製し、評価を行った。なお実施条件および評価結果を下記表1に示す。
〔熱接着テープ1の作製〕
(実施例1)
本実施例では、基材2として、目付量が5g/m
2、厚さが30μmの不織布を用いた。またこの不織布の繊維は、比重1.38のポリエステルからなるものを使用した。具体的には、JX ANCI株式会社製のミライフT05(登録商標)を使用した。
【0044】
そして基材2の一方の表面側に接着層3aを以下のようにして形成した。
まず溶剤として酢酸エチルを用い、この溶剤に分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴム、フェノール樹脂、過酸化物、およびフェノール樹脂架橋剤を投入し撹拌することで溶解させ、固形分濃度40質量%の接着層用溶液を作製した。このとき分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムとしては、日本ゼオン株式会社製のNipol(登録商標)1001LGを用いた。またフェノール樹脂としては、荒川化学工業株式会社製のタマノル(登録商標)531を用いた。なお、タマノル531にはフェノール樹脂架橋剤として、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)が9質量%含まれる。また、分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムとフェノール樹脂との質量比率は、100/120とした。また過酸化物としては、日油株式会社製のナイパーBMTを用いた。
【0045】
下記化3式の一般式(2)は、ナイパーBMTの構造式である。また、下記化4式の一般式(3)は、ナイパーBMTを加熱して分解させたときの反応式であって、ナイパーBMTの一部の構造である過酸化ベンゾイルが分解したときの反応式である。一般式(3)における過酸化ベンゾイルを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してフェニルラジカルが過酸化ベンゾイルに対して2当量生成し、各々のフェニルラジカルは、安息香酸になる。つまり、過酸化ベンゾイルを熱分解すると、この過酸化ベンゾイルに対して酸が2当量発生する。また、一般式(2)におけるナイパーBMTの他の一部の構造であるベンゾイル−m−メチルベンゾイルペルオキシドを熱分解すると、このベンゾイル−m−メチルベンゾイルペルオキシドに対して酸が2当量発生する。また、一般式(2)におけるナイパーBMTのさらに他の一部の構造であるm−トルオイルペルオキシドを熱分解すると、このm−トルオイルペルオキシドに対して酸が2当量発生する。すなわち、ナイパーBMTを熱分解すると、このナイパーBMTに対して酸が2当量発生する。
なお、ナイパーBMTの半減期温度は、131℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを3質量部含むようにした。
【0046】
【化3】
【0047】
【化4】
【0048】
そして剥離ライナーの上に接着層用溶液を塗布し、乾燥させることにより接着層3aを形成した。
次に接着層3aに基材2を貼り合せた。
続いて基材2の他方の表面側に接着層用溶液を塗布し、乾燥させることにより接着層3bを形成した。そして熱接着テープ1全体の厚さを140μmとした。
以上の工程により本実施例の熱接着テープ1を作製した。
【0049】
(実施例2〜6)
実施例1に対し、表1に示すように変更を行なった以外は、実施例1と同様にして熱接着テープ1を作製した。
つまり実施例2、3、6では、接着層3に含まれる過酸化物の種類を変更したものを使用した。具体的には、実施例2では、日油株式会社製のパーブチルOを使用した。下記化5式の一般式(4)は、パーブチルOとしての2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドの構造式である。一般式(4)における2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルが2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドに対して1当量生成し、このラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーブチルOを熱分解すると、このパーブチルOに対して酸が1当量発生する。なお、パーブチルOの半減期温度は、134℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーブチルOを3質量部含むようにした。
【0050】
【化5】
【0051】
また実施例3では、日油株式会社製のパーブチルZを使用した。下記化6式の一般式(5)は、パーブチルZとしてのt−ブチルベンゾイルペルオキシドの構造式である。一般式(5)におけるt−ブチルベンゾイルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルがt−ブチルベンゾイルペルオキシドに対して1当量生成し、このラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーブチルZを熱分解すると、このパーブチルZに対して酸が1当量発生する。なお、パーブチルZの半減期温度は、167℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーブチルZを3質量部含むようにした。
【0052】
【化6】
【0053】
また実施例6では、日油株式会社製のパーロイルLを使用した。下記化7式の一般式(6)は、パーロイルLとしてのジドデカノイルペルオキシドの構造式である。一般式(6)におけるジドデカノイルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルがジドデカノイルペルオキシドに対して2当量生成し、各々のラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーロイルLを熱分解すると、このパーロイルLに対して酸が2当量発生する。なお、パーロイルLの半減期温度は、下限値を下回る116℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーロイルLを3質量部含むようにした。
【0054】
【化7】
【0055】
また実施例4、5では、接着層3に含まれる過酸化物の量を変更した。具体的には、実施例4では、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを0.4質量部含むようにした。また実施例5では、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを6質量部含むようにした。
【0056】
(比較例1〜6)
実施例1に対し、表1に示すように変更を行なった以外は、実施例1と同様にして熱接着テープ1を作製した。
つまり比較例1では、接着層3に過酸化物が含まれていない。
また、比較例2では、過酸化物の替わりとしての安息香酸が接着層3に含まれている。
また、比較例3では、過酸化物として、日油株式会社製のパーヘキシル(登録商標)Iを使用した。下記化8式の一般式(7)は、パーヘキシルIとしてのt−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートの構造式である。一般式(7)におけるt−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートを加熱すると、ラジカルおよび二酸化炭素が生成するが、酸は発生しない。なお、パーヘキシルIの半減期温度は、155℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーヘキシルIを3質量部含むようにした。
【0057】
【化8】
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1〜6および比較例1〜3についての評価として、保管前の熱接着テープについての接着力の評価(保管前接着力評価)、および、保管前の熱接着テープについての不溶解分の評価(保管前不溶解分評価)を行った。また、保管後の熱接着テープについての接着力の評価(保管後接着力評価)、および、保管後の熱接着テープについての不溶解分の評価(保管後不溶解分評価)を行った。
【0060】
〔保管前接着力評価の方法〕
実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについての接着力の評価として、熱接着テープに剪断力を加え、これに対する接着力を評価した。
具体的には、2枚のガラスクロスを用意し、この2枚のガラスクロスで熱接着テープを挟み、加熱圧着により、2枚のガラスクロスを熱接着テープで接合した。評価に使用したガラスクロスの厚さは0.17mm、破断強度は約300N/10mmである。
なお、2通りの加熱圧着の条件により、ガラスクロスを熱接着テープで接合したものを準備した。具体的には、160℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で20秒間押圧を行ってガラスクロスを熱接着テープで接合したものと、170℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で10秒間押圧を行ってガラスクロスを熱接着テープで接合したものとを準備した。
【0061】
そして、作製した被着体である2枚のガラスクロスを引張速度200mm/分で引っ張り、この条件においてガラスクロスと熱接着テープとの間に剥がれが生じる前にガラスクロスが破壊されるか否かで剪断力に対する接着力の評価を行なった。即ち、接着力については、ガラスクロスと熱接着テープとの間で剥がれが生じる前に、ガラスクロスが破壊されたときは剪断力がガラスクロスの破断強度より大きいことを意味するため、このときに合格の評価とし、剥がれが生じたときに不合格の評価とした。
【0062】
〔保管前不溶解分評価の方法〕
また、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについての、加熱圧着時において接着層が硬化する速度の評価として、加熱圧着後における熱接着テープの不溶解分を評価した。ここで、熱接着テープの不溶解分とは、熱接着テープの全重量に対する、熱接着テープのうちの溶剤に溶解していない分の重量の割合を意味する。
酸とフェノール樹脂とが反応して生成する生成物は、溶剤に対して不溶の性質を有する。そのため、加熱圧着後における熱接着テープの不溶解分が多いほど、加熱圧着時においてより多くの酸が発生し、反応が進行したと考えられる。加熱圧着時において発生した酸の量が多いほど、接着層が硬化する速度がより速まる。
【0063】
加熱圧着後の熱接着テープの不溶解分の具体的な評価方法として、まず、ポリエチレンテレフタレートからなる剥離ライナーを2枚用意し、この2枚の剥離ライナーで熱接着テープを挟み、加熱圧着により、2枚の剥離ライナーを熱接着テープで接合した。
なお、加熱圧着の条件は、保管前接着力評価における加熱圧着の条件と同様のものとした。すなわち、160℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で20秒間押圧を行って剥離ライナーを熱接着テープで接合したものと、170℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で10秒間押圧を行って剥離ライナーを熱接着テープで接合したものとを準備した。また、不溶解分評価では、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについて、基材が含まれていないものを用いた。
【0064】
続いて、熱接着テープから剥離ライナーを剥がし、剥離ライナーを剥がしたこの熱接着テープの重量を測定し、測定値をW1とした。なお、熱接着テープの重量としては、およそ0.1g〜0.2gのものを用いた。
その後、この熱接着テープを溶剤としての10g〜20gのメチルエチルケトンに浸漬し、ミックスローターで24時間攪拌させた。続いて、ステンレスメッシュを用いて溶液を濾過し、熱接着テープの不溶解分を抽出した。ステンレスメッシュは、100meshのものを用いた。なお、このメッシュの未使用時における重量を、重量W2とする。
その後、熱接着テープの不溶解分が残存しているメッシュを、防爆型乾燥機により80℃の環境下で乾燥させ、その後放冷した。続いて、このメッシュの重量を測定し、測定値をW3とした。そして、((W3−W2)/W1)から算出される不溶解分を評価した。なお、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについて、加熱圧着前の不溶解分は、何れも0%であった。
【0065】
〔保管後接着力評価の方法〕
また、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについての、一定期間の保管後における接着力について評価した。
具体的には、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについて、これらの熱接着テープの作製後、80℃の環境下で1週間保管した。そして、保管前接着力評価の方法と同様の条件での加熱圧着により、2枚のガラスクロスを保管後の熱接着テープで接合し、被着体である2枚のガラスクロスに対して剪断力を加え、これに対する接着力の評価を行った。
【0066】
〔保管後不溶解分評価の方法〕
さらに、熱接着テープを加熱圧着せずに保管しているときにおける接着層の硬化の程度を評価するために、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについての、一定期間の保管後における不溶解分を評価した。
熱接着テープの保管後における不溶解分が多いほど、保管時に、接着層に含まれる過酸化物からより多くの酸が発生し、反応が進行していると考えられる。保管時に多くの酸が発生するほど、加熱圧着前において接着層が硬化する程度が大きくなる。
【0067】
熱接着テープの保管後における不溶解分の具体的な評価方法として、実施例1〜6および比較例1〜3の熱接着テープについて、これらの熱接着テープの作製後に80℃の環境下で1週間保管し、この保管後の熱接着テープの重量をW4とした。
その後、保管前不溶解分評価の方法と同様の方法により、ステンレスメッシュを用いて熱接着テープの不溶解分を抽出した。ただし、保管後不溶解分評価では、保管時において酸が発生した量を評価するため、保管前不溶解分評価とは異なり、加熱圧着していない熱接着テープの不溶解分を抽出している。
そして、メッシュの未使用時における重量を重量W5、熱接着テープの不溶解分が残存しているメッシュの重量を重量W6として、((W6−W5)/W4)から算出される不溶解分を評価した。
【0068】
〔評価結果〕
接着力の評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜6の熱接着テープ1については、いずれの条件による加熱圧着で作製したものも、保管前の接着力、1週間保管後の接着力のそれぞれに対し全て合格であった。
また、実施例1〜6の熱接着テープ1については、いずれの条件による加熱圧着で作製したものも、保管前の不溶解分が大きく増加しており、加熱圧着時の接着層の硬化が促進されていると考えられる。さらに、1週間保管後の熱接着テープについての不溶解分の増加が抑制されており、保管時の接着層の硬化が進みにくくなっていると考えられる。
【0069】
対して比較例1および比較例3では、保管前の熱接着テープについて、接着層で凝集破壊が起こり熱接着テープの剥がれが生じた。また、この比較例1および比較例3では、保管前の熱接着テープについて、加熱圧着後の不溶解分が殆ど増加しなかった。
これについて、比較例1では、過酸化物をそもそも用いておらず、また比較例3では、過酸化物は用いているもののこの過酸化物は分解することに起因して酸を発生させない。そのため、この比較例1および比較例3では、いずれも、熱接着テープの加熱圧着の際に酸が発生せず、フェノール樹脂の架橋が十分に進行しておらず、接着層の硬化が不十分であり、これにより、被着体に対する熱接着テープの接着力が十分に得られなかったものと考えられる。
【0070】
また比較例2では、保管前の熱接着テープについての接着力については合格であったが、1週間保管後の熱接着テープについて、被着体で界面破壊が起こり熱接着テープの剥がれが生じた。また、この比較例2では、保管前の熱接着テープについて、加圧圧着後における不溶解分が大きく増加したが、その一方で、1週間保管後の熱接着テープについての不溶解分が大きく増加していた。
これは、熱接着テープを1週間保管している間に、安息香酸とフェノール樹脂とが反応してフェノール樹脂の架橋が進行し、接着層の硬化が進行したものと考えられる。そして、この接着層の硬化が十分に進んだ後に被着体を熱接着テープに加熱圧着しても、被着体に対する熱接着テープの接着力が十分に得られなかったものと考えられる。
【0071】
実施例1〜6および比較例1〜3の結果により、熱接着テープ1の接着層3に、分解することに起因して酸を発生させる過酸化物を含有させることが必要であると確認された。