特許第6896465号(P6896465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896465
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20210621BHJP
   F02D 41/12 20060101ALI20210621BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   F02D45/00 358
   F02D41/12
   F01N3/24 R
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-52924(P2017-52924)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155190(P2018-155190A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌吾
【審査官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−197834(JP,A)
【文献】 特開2000−097014(JP,A)
【文献】 特開2013−007375(JP,A)
【文献】 特開2015−048791(JP,A)
【文献】 特開2015−117621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F02D 41/12
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガスを浄化する触媒の推定温度が閾値を下回る状態で燃料カット条件が満足されたとき、内燃機関への燃料供給を遮断する燃料カットを実行する内燃機関制御装置であって、
前記燃料カットの開始から第1の所定期間が経過するまでの間は初期値の温度補正値を示しかつ前記第1の所定期間の経過後から第2の所定時間が経過するまでの間は前記初期値から漸減する補正係数を導出する導出手段、および
前記導出手段によって導出された補正係数に基づいて前記推定温度を補正する処理を燃料カット状態において実行する補正手段を備え
前記補正係数は、前記燃料カットの開始からの経過時間および前記燃料カットの開始後に前記内燃機関を通過した空気量の少なくとも一方に基づいて調整され、
補正後の前記推定温度として、前記燃料カットの開始から第1の所定期間が経過するまでの間は、前記推定温度に前記初期値の温度補正値を加算したものを適用し、かつ、前記第1の所定期間の経過後から前記第2の所定時間が経過するまでの間は、前記推定温度に前記補正係数を用いて前記初期値から漸減する温度補正値を加算したものを適用する、内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関制御装置に関し、特に、燃焼ガスを浄化する触媒の推定温度が閾値を下回る状態で燃料カット条件が満足されたとき、内燃機関への燃料供給を遮断する燃料カットを実行する、内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置の一例が特許文献1に開示されている。この背景技術によれば、エンジンのシリンダ部分のガス温度は、エンジンの運転状態に基づいて推定される。触媒の入口におけるガス温度は、推定されたシリンダ部分のガス温度とシリンダ部分から触媒に至るまでのガス流路の熱伝達特性とに基づいて推定される。触媒の温度は、推定された触媒の入口におけるガス温度とこれに対する触媒の温度の応答特性とに基づいて推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4513416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料カット中は、触媒に供給される空気と触媒中の未燃燃料とが反応し、その反応熱で触媒の温度が上昇する。しかし、特許文献1では、触媒の反応熱による温度上昇が考慮されないため、燃料カット直後の触媒温度の上昇を推定できない。すると、断続的に燃料カットを実行した場合には、実触媒温度>推定触媒温度となる。
【0005】
触媒保護のためには、実触媒温度>閾値となったときに燃料噴射量を増量して触媒温度を下げたいところであるが、断続的に燃料カットを行うような場合は、実触媒温度>閾値であるにも関わらず、推定触媒温度≦閾値となってしまい、燃料噴射量を増量できず、結果的に触媒を保護することができない。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、燃料カット状態での加熱によって触媒が劣化する懸念を軽減することができる、内燃機関制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る内燃機関制御装置は、燃焼ガスを浄化する触媒の推定温度が閾値を下回る状態で燃料カット条件が満足されたとき、内燃機関への燃料供給を遮断する燃料カットを実行する内燃機関制御装置であって、燃料カットの開始から第1の所定期間が経過するまでの間は初期値の温度補正値を示しかつ第1の所定期間の経過後から第2の所定時間が経過するまでの間は初期値から漸減する補正係数を導出する導出手段、および導出手段によって導出された補正係数に基づいて推定温度を補正する処理を燃料カット状態において実行する補正手段を備え、補正係数は、燃料カットの開始からの経過時間および燃料カットの開始後に内燃機関を通過した空気量の少なくとも一方に基づいて調整され、補正後の推定温度として、燃料カットの開始から第1の所定期間が経過するまでの間は、推定温度に初期値の温度補正値を加算したものを適用し、かつ、第1の所定期間の経過後から第2の所定時間が経過するまでの間は、推定温度に補正係数を用いて初期値から漸減する温度補正値を加算したものを適用する
【発明の効果】
【0008】
補正係数は、燃料カットの開始から所定期間に初期値を示しかつ所定期間の経過後に初期値から漸減する。燃料カット状態において、触媒の推定温度は、このような補正係数に基づいて補正される。
【0009】
燃料カットは、こうして得られた推定温度が閾値を下回る状態で燃料カット条件が満足されたときに実行される。これによって、燃料カット状態での加熱に起因して触媒が劣化する懸念を軽減することができる。
【0010】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この実施例の車両の要部構成の一部を示すブロック図である。
図2】この実施例の車両の要部構成の他の一部を示すブロック図である。
図3図1に示すECUの動作の一部を示すフロー図である。
図4図1に示すECUの動作の他の一部を示すフロー図である。
図5】(A)は燃料カットモードと燃料噴射モードとの間での状態遷移の一例を示す波形図であり、(B)は実触媒温の変化の一例を示す波形図であり、(C)は推定触媒温の変化の一例を示す波形図である。
図6図1に示すECUの動作のその他の一部を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1および図2を参照して、この実施例の車両10は、4ストローク型のエンジン(内燃機関)12を動力源として備える。気筒14に設けられた燃焼室16には、吸気弁18を介して吸気管32が接続され、排気弁20を介して排気管36が接続される。なお、図1では単一の気筒14しか示していないが、エンジン12は複数の気筒14を有する。吸気管32は、吸気弁18の上流の位置で各気筒14に分岐する。
【0013】
吸気管32には、大気から粉塵を分離するエアクリーナ34と、バルブモータ42によって開度が調整される単一のスロットルバルブ38と、吸気管32に燃料を噴射するべく各気筒14に割り当てられた燃料噴射装置40とが設けられる。スロットルバルブ38よりも下流でかつ燃料噴射装置40よりも上流の位置(吸気管32の分岐位置)には、空気流量を平準化するためのサージタンク44が設けられる。なお、吸気管32の圧力は、吸気管圧力センサ48によって検知される。
【0014】
イグニッションキー(図示せず)によってIGオン操作が行われると、ECU58は、エンジン12を始動するべく図2に示すリレー68をオンする。バッテリ70の電力はオン状態のリレー68を介してスタータ72に供給され、スタータ72はバッテリ70の電力によってクランキングを実行する。これによって、エンジン12が始動する。
【0015】
アイドル状態では、スロットルバルブ38は、アイドル状態を維持できる開度を示すように、バルブモータ42によって調整される。エアクリーナ34を経た吸入空気の量は、スロットルバルブ38によって規定され、燃料噴射装置40の燃料噴射量は、理論空燃比を示す混合気が生成されるように調整される。
【0016】
この状態からアクセルペダル(図示せず)が踏み込まれると、ECU58は、バルブモータ42を駆動する。スロットルバルブ38はバルブモータ42によって開かれ、これによって、理論空燃比を保ちつつ吸入空気量および燃料噴射装置40の燃料噴射量が増大する。
【0017】
混合気は、吸気弁18が開かれたときに燃焼室16に供給される。供給された混合気は、コンロッド24を介してクランクシャフト26と結合されたピストン22が上死点に達する直前に、点火プラグ30によって点火される。ピストン22は、混合気の爆発によって上下動し、これによってクランクシャフト26が回転する。クランクシャフト26にはフライホイール28が装着され、クランクシャフト26の回転数つまりエンジン12の回転数のぶれはフライホイール28によって抑制される。また、エンジン12の回転数は、ロータリエンコーダ46によって検知される。
【0018】
クランクシャフト26の回転力は、図2に示すトルクコンバータ60および無段変速機62を介して、ドライブシャフト(図示せず)に伝達される。これによって、車両10が前進または後進する。クランクシャフト26の回転力はまた、ベルト64を介してオルタネータ66の回転軸66sに伝達される。回転軸66sの回転力は電力に変換され、変換された電力はバッテリ70に蓄えられる。
【0019】
図1に戻って、混合気を燃焼した後の空気つまり燃焼ガスは、排気弁20が開かれたときに燃焼室16から排出され、排気管36を介してマフラー50に供給される。マフラー50に設けられた触媒52は、燃焼ガスに含まれる一酸化炭素,炭化水素および窒素酸化物を酸化・還元し、水,二酸化炭素および窒素を生成する。車両10からは、こうして浄化されたガスが排出される。ただし、一酸化炭素,炭化水素および窒素酸化物を完全に酸化・還元できる訳ではなく、一酸化炭素,炭化水素および窒素酸化物の各々の一部は浄化ガスに混在する。
【0020】
排気管36のうち触媒52の上流側の位置には主酸素センサ54が設けられ、排気管36のうち触媒52の下流側の位置には補助酸素センサ56が設けられる。ECU58は、主酸素センサ54および補助酸素センサ56の各々によって検知された酸素濃度に基づいて、燃料噴射量を理論空燃比に対応する量に調整する。
【0021】
車両10が坂を下り始めたときや交差点で減速するときにアクセルペダルから足が離されると、ECU58は、燃料カット条件が満足されたとみなし、燃料カットモードに遷移する。これによって、燃料噴射装置40からの燃料の噴射が停止される。車両10が停止する前にアクセルペダルが再度踏み込まれると、ECU58は、燃料噴射条件が満足されたとみなし、燃料噴射モードに遷移する。燃料噴射装置40は燃料を噴射し、これによって車両10が加速する。
【0022】
燃料カットモードに遷移すると、触媒52に供給される空気と触媒52中の未燃燃料とが反応し、その反応熱で触媒52の温度が上昇する。このような温度上昇は、触媒52を劣化させる原因となる。そこで、通常は、動作モードが燃料カットモードおよび燃料噴射モードのいずれであるかに関係なく触媒52の温度を繰り返し推定し、推定温度が十分低ければ(推定温度<閾値THtであれば)、燃料カット条件が満足されるのを待って燃料カットモードに遷移するようにしている。
【0023】
ただし、触媒52の温度を推定するにあたって、触媒52に供給される空気と触媒52中の未燃燃料との反応熱による温度上昇が考慮されなければ、実温度≧閾値THtであるにも関わらず、推定温度<閾値THtとなり、意に反して燃料カットモードに遷移するおそれがある。
【0024】
そこで、この実施例では、図3図4に示す温度推定処理によって触媒52の温度を推定し、こうして得られた推定温度を参照して図6に示す燃料カット制御処理を実行するようにしている。なお、これらのフロー図に対応する制御プログラムは、メモリ58mmに記憶される。
【0025】
図3を参照して、ステップS1では、エンジン12の運転状態を検出する。ステップS3では、検出された運転状態に対応するマップを参照して触媒52の温度を推定する。ステップS5では、動作モードが燃料噴射モードから燃料カットモードに遷移したか否かを判別し、判別結果がNOであれば今回の温度推定処理を終了する一方、判別結果がYESであればステップS7に進む。
【0026】
ステップS7では、温度補正値をエンジン12の運転状態に応じて異なる値に初期化する。ステップS9では、タイマ58tmのリセット&スタートを実行する。ステップS11ではタイマ58tmの測定値が2秒以下であるか否かを判別し、ステップS13ではタイマ58tmの測定値が15秒以下であるか否かを判別する。
【0027】
ステップS11の判別結果がYESであれば、ステップS15に進み、補正係数を“1”に設定する。ステップS11の判別結果がNOでかつステップS13の判別結果がYESであれば、ステップS17に進み、補正係数を“0.8”に設定する。ステップS15またはS17の処理が完了すると、ステップS19で温度補正値を更新する。
【0028】
更新された温度補正値は、更新前の温度補正値に補正係数を掛け算した値を示す。更新が完了すると、ステップS21に進む。一方、ステップS11の判別結果およびステップS13の判別結果がいずれもNOであれば、ステップS15〜S17の処理を実行することなく、ステップS21に進む。したがって、温度補正値は、燃料カットモードに遷移してから2秒間は初期値を示し、続く13秒の間に漸減し、その後は同じ値を維持する。
【0029】
ステップS21では、ステップS3で推定された触媒温に温度補正値を加算して、推定触媒温を補正する。ステップS23では、動作モードが燃料カットモードから燃料噴射モードに遷移したか否かを判別し、判別結果がNOであればステップS11に戻る一方、判別結果がYESであれば今回の温度推定処理を終了する。
【0030】
したがって、動作モードが図5(A)に示す要領で変化した場合、推定触媒温は図5(C)に実線で示す要領で変化する。つまり、推定触媒温は、図5(B)に示す実触媒温の変化に沿うように変化する。なお、図5(C)において、燃料カットモードに遷移した後の期間に注目すると、破線がマップから推定された触媒温の変化を示し、破線から実線までの大きさが温度補正値の変化を示す。
【0031】
図6を参照して、ステップS31では推定触媒温が閾値THtを下回るか否かを判別し、ステップS35では燃料カット条件が満足されたか否かを判別する。ステップS31の判別結果がNOであれば、ステップS33で燃料噴射モードに遷移する。ステップS31の判別結果およびステップS35の判別結果がYESであれば、ステップS37で燃料カットモードに遷移する。ステップS31の判別結果がYESで、ステップS35の判別結果がNOであれば、ステップS39で燃料噴射モードに遷移する。ステップS33,S37またはS39の処理が完了すると、今回の燃焼カット制御処理を終了する。
【0032】
以上の説明から分かるように、ECU58は、燃料カットの開始から2秒間に初期値を示しかつ2秒経過後に初期値から漸減する補正係数を導出する(S7~S19)。ECU58はまた、導出された補正係数に基づいて触媒52の推定温度を補正する処理を燃料カット状態において実行する(S21)。エンジン12への燃料供給を遮断する燃料カットは、こうして得られた推定温度が閾値THtを下回る状態で燃料カット条件が満足されたときに実行される。これによって、燃料カット状態での加熱に起因して触媒52が劣化する懸念を軽減することができる。
【0033】
なお、この実施例では、燃料カット時間を参照して補正係数の値を調整するようにしている。しかし、燃料カット中にエンジン12を通過した空気量(=GA)を参照して補正係数の値を調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 …車両
12 …エンジン
16 …燃焼室
32 …吸気管
36 …排気管
52 …触媒
54 …主酸素センサ
56 …補助酸素センサ
58 …ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6