(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように第1実施形態に係る超音波探傷装置10は、検査対象35に対してそれぞれ超音波を送受信可能な複数の圧電素子33を備えるアレイプローブ34と、素子群定義部16と、遅延時間計算部11と、合成信号生成部31と、を備えている。
【0013】
素子群定義部16は、アレイプローブ34を構成する複数の圧電素子33のなかから連続する複数の圧電素子33を素子群13(13
1,13
2,…13
M)として定義し、当該素子群13を構成する複数の圧電素子33の配置情報及び圧電素子33のそれぞれの重み付けに基づいて当該素子群13の基準位置C(
図3(B))を設定し、基準位置C及び予め定めた探傷角に基づいて当該素子群13からの超音波ビームの伝搬経路を演算する。
【0014】
遅延時間計算部11は、素子群13からの超音波ビームが伝搬経路となるように、素子群13を構成する圧電素子33のそれぞれの遅延時間21を計算するものである。
信号受信部23は、圧電素子33のそれぞれが受信した超音波を検出信号25として受信するものである。
合成信号生成部31は、検出信号25を遅延時間21に基づいて合成して伝搬経路を有する超音波ビームについての合成信号として生成するものである。
【0015】
圧電素子33は、セラミクス、高分子フィルム又は複合材料等で、圧電効果により、電圧信号を入力して超音波を出力したり、超音波を入力して検出信号25を出力したりする。さらにアレイプローブ34には、圧電素子33以外に、図示を省略した構成部材として、超音波をダンピングするダンピング材、超音波の発振面に取り付けられた前面板等が、設けられている。
【0016】
本実施形態では、圧電素子33が1次元的に配列されたリニアアレイプローブを採用しているが、適用されるアレイプローブ34に特に限定はない。アレイプローブ34としては、複数個の圧電素子33が所定の間隔で一定のピッチで配列しているものであれば適宜採用される。
【0017】
適用可能なアレイプローブとして、具体的には、リニアアレイプローブの奥行き方向に圧電素子33を不均一な大きさで分割した1.5次元アレイプローブ、圧電素子33が2次元的に配列されたマトリクスアレイプローブ、リング状の圧電素子33が同心円状に配列されたリングアレイプローブ、リングアレイプローブの圧電素子33を周方向で分割した分割型リングアレイプローブ、圧電素子33が不均一に配置された不均一アレイプローブ、円弧の周方向位置に素子を配置した円弧状アレイプローブ、球面の表面に素子を配置した球状アレイプローブなどが例示される。
さらに本実施形態は、これらのアレイプローブの種類に関係なく複数組合せて使用したタンデム探傷に適用することもできる。また上記のアレイプローブは、コーキングやパッキングにより気中、水中を問わず利用可能なものも含まれる。
【0018】
なお、本実施形態において配置が省略されているが、アレイプローブ34の検査対象35への設置に際し、楔を介在させることにより、指向性の高い角度で超音波を入射させることができる。この楔としては、超音波が伝搬可能で音響インピーダンスが把握されている等方材が採用される。具体的には、アクリル、ポリイミド、ゲル、その他の高分子などが挙げられ、前面板と音響インピーダンスが近いか同じである材質を用いることもでき、検査対象35と音響インピーダンスが近いか同じ材質を用いることもできる。また、段階的もしくは漸次的に音響インピーダンスを変化させる複合材料を用いてもよく、その他の材料も適用することができる。
なお、このような楔内の多重反射波が探傷結果に影響を与えないように、楔内外にダンピング材を配置したり、山型の波消し形状を設けたり、多重反射低減機構を備えたりする場合もある。
【0019】
またアレイプローブ34の検査対象35への設置に際し、接触インピーダンスを軽減させることを目的として、音響接触媒質38(
図3)を介在させる場合がある。
音響接触媒質38は、例えば水やグリセリン、マシン油、ひまし油、アクリル、ポリスチレン、ゲル等が例示されるが、これらに限定されることはなく、減衰を抑制しつつ超音波を伝搬させるものであれば適宜採用することができる。
【0020】
素子駆動部18は、アレイプローブ34を構成する圧電素子33の各々に任意波形の電圧信号を印加し、圧電素子33を駆動させ超音波を出力させる。この電圧信号の波形は、サイン波、のこぎり波、矩形波、スパイクパルス等が考えられ、正負両極の値をもつバイポーラでもよいし、正負どちらか方振りのユニポーラでもよい。また、正負どちらかにオフセットを付加してもよい。また、波形は単パルス、バーストもしくは連続波など印加時間や繰り返し波数を増減させることもできる。
【0021】
第1実施形態において、素子駆動部18が、複数の圧電素子33の各々を駆動させる順番は、配列に無関係でランダムであり特に限定されない。また圧電素子33を駆動させる駆動遅延時間も、欠陥判定を左右するような影響が画像に載るような混信が、検出信号25に発生しない限り任意である。
【0022】
素子群定義部16は、アレイプローブ34を構成する複数の圧電素子33のなかから規定数Nの連続する複数の圧電素子を素子群13(13
1,13
2,…13
M)として定義した情報を保持している。さらに素子群定義部16は探傷角及び探傷深さの情報を保持する。探傷角及び探傷深さの情報に代えて、素子群定義部16が素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々に対応する焦点位置F(F
1,F
2,…F
M)を定義した情報を保持するように構成しても構わない。
【0023】
さらに素子群定義部16は、
図3(B)に示すように、素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々に対応する基準位置C(C
1,C
2,…C
M)を定義した情報も保持する。この基準位置Cは一般には素子群中心とも呼ばれ、各実施形態の説明においては素子群13の座標重心位置に設定されているが、特に座標重心に限定されるものではない。本実施形態においては特に、素子群13の位置や素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する各圧電素子33の(例えば配列ピッチPや配列順といった位置関係などの)配置情報に加えて、各圧電素子33の開口幅(重み付け)に基づいて基準位置Cを決定している。すなわち、素子群定義部16には、素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する各圧電素子33の配置に関する情報、および各圧電素子33の開口幅(重み付け)に関する係数がそれぞれ入力可能に構成される。ここで、圧電素子33のそれぞれの開口幅とは、圧電素子33のそれぞれが送信または受信する超音波信号の割合、すなわち重み付けを示すものであり、それぞれの圧電素子33の送信出力を調整するか、あるいはそれぞれの圧電素子33が受信した信号のゲインを調整することによって適宜設定することができる。
【0024】
圧電素子33の配置情報と各圧電素子33の重み付けに基づいて、素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々に対応する基準位置Cが定まると、それぞれの基準位置Cと予め定めた探傷角(入射角や屈折角)及び焦点深さに基づいて素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々に対応する焦点位置F(F
1,F
2,…F
M)が定まる。
【0025】
素子群定義部16は、素子群13に配列する圧電素子33のうち超音波を出入力させる一つ又は二つの圧電素子の組み合わせに基づいて検査対象35内の焦点位置Fを経由する超音波の伝搬経路14を演算する。この伝搬経路14の演算は、検査対象35及び音響接触媒質38の表面形状や密度等を基にして、実行される。
【0026】
図2(A)に示すように、素子群13を構成するN個の圧電素子33のうち、いずれか一つ(図は1番)を送信素子とし、この送信素子を含む全ての圧電素子を受信素子に設定した場合、N通りの伝搬経路14を設定することができる。さらに、全ての圧電素子を順番に送信素子とした場合、素子群13において、N×N通りの伝搬経路14が設定されることになる。
【0027】
計算部11は、それぞれの伝搬経路14に基づいて、圧電素子33の組み合わせにおける、超音波の遅延時間21を計算する。伝搬経路14の飛程は、超音波の到達時間に対応するものである。ここで、基準位置Cに設定した圧電素子33を送信素子及び受信素子として組み合わせた伝搬経路を基準とした場合、この基準となる伝搬経路とその他の伝搬経路14との差分が遅延時間21に相当する。なお、この基準となる伝搬経路は、同じ圧電素子33を送信素子及び受信素子に組み合わせることに限定されることはなく、任意の位置の一つ又は二つの圧電素子の組み合わせた伝搬経路を基準に採用することができる。
計算部11で計算された超音波の遅延時間21は、対応する圧電素子33の組み合わせに関連付けて、保存部に保存される。
【0028】
素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する圧電素子33からそれぞれ送受信される超音波を計算部11で計算した遅延時間21にしたがって合成した合成波は、基準位置C(C
1,C
2,…C
M)の素子群13(13
1,13
2,…13
M)からの予め定めた探傷角の超音波ビームとなる。ここで、素子群13(13
1,13
2,…13
M)からの超音波ビームは、各圧電素子33から広がるように伝搬する超音波を合成した指向性を有する合成波である。本実施形態においてはこの超音波ビームの伝搬経路を予め定めた探傷角(入射角や屈折角)にしたがう基準位置C(C
1,C
2,…C
M)からの経路と定義しており、この伝搬経路は焦点Fに至る。なお、超音波ビームの伝搬経路については、素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々に対応する基準位置C(C
1,C
2,…C
M)および焦点位置F(F
1,F
2,…F
M)に基づいて定義してもよい。
【0029】
このように、素子群13(13
1,13
2,…13
M)に関する基準位置Cを定めるための基準位置設定ルールや、合成波である超音波ビームの伝搬経路を定めるのに関する伝搬超音波ビーム設定ルールを予め定義し、これらの基準位置設定ルールや伝搬超音波ビーム設定ルールに基づいて素子群13(13
1,13
2,…13
M)の基準位置Cと素子群13(13
1,13
2,…13
M)からの超音波ビームの伝搬経路を定めることで、それぞれの素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する複数の圧電素子33からの超音波の合成波である超音波ビームを、それぞれ指向性を有する1つの伝搬経路の波のように取り扱うことができる。
【0030】
信号受信部23は、各圧電素子33に入射した超音波が圧電効果により電圧信号に変換された検出信号25(
図3(A))を受信するものである。
圧電素子33から音響接触媒質38及び検査対象35に入射した超音波は、まず検査対象35の表面で大きく反射・散乱され、その後、検査対象35の表面に開口するき裂や内部に存在する介在物等の欠陥によって反射・散乱される。このように、反射・散乱された超音波は、アレイプローブ34に配列する圧電素子33の各々に入射し、各々から出力される検出信号25が、対応する信号受信部23のチャンネルに個別に受信される。
【0031】
強度検知部26は、受信された検出信号25の電圧波形をA/D変換よってデジタルデータ化するものである。なお強度検知部26は、検出信号25を増幅させる機能や、所定周波数の成分のみを抽出するフィルタ機能を有してもよい。なお、デジタルデータ化された検出信号25は、受信した圧電素子33のチャネル情報と受信時間とを関連付けさせてデータ記憶部(図示略)に記憶される。
【0032】
図2(A)(B)(C)の右側には、特定した一つ又は二つの圧電素子33を送信素子及び受信素子とした場合に出力される検出信号25のタイムチャートU(a,b)を示している(ここで、aは送信素子の番号、bは受信素子の番号を表す)。
【0033】
生成部31は、素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する圧電素子33がそれぞれ受信した超音波を計算部11で計算した遅延時間21にしたがって合成する。すなわち、生成部31は、これらの各圧電素子33が出力した超音波に関する検出信号25を、対応する圧電素子33の組み合わせに関連付けて保存されている遅延時間21だけ、時間軸方向にシフトさせる。さらに、このように遅延処理した検出信号25の群を、素子群13を単位として合成し、第1合成信号41(
図2(D))を生成する。つまり、第1合成信号41は、検出信号25を遅延時間21に基づいて合成することで得られる、基準位置C(C
1,C
2,…C
M)の素子群13(13
1,13
2,…13
M)からの、予め定めた探傷角で定まる伝搬経路を有する超音波ビームに関する合成波となる。なお、この素子群13(13
1,13
2,…13
M)を単位とする検出信号25の合成は、上述した加算平均する方法が適用される場合の他に、その他の周知方法も適用することができる。
【0034】
ここで、本実施形態においては素子群13を構成する各圧電素子33についてそれぞれ重み付け(すなわち開口幅)を設定している。上述の通り、この重み付け(開口幅)については、各圧電素子33から送信する超音波の出力を調整することで反映させるほか、各圧電素子33からの送信超音波の出力を圧電素子33毎には変えずに、各圧電素子33が受信した信号のゲインを調整することで反映させることができる。このように各圧電素子33が受信した信号のゲインを調整して各圧電素子33の重み付け(開口幅)を調整する場合には、生成部31は、各圧電素子33が受信した超音波の検出信号25に対し、しそれぞれ重み付け(開口幅)となるゲインの調整を行ない、ゲインが調整された検出信号25を遅延時間21にしたがって合成して第1合成信号41とする処理を行なう。なお、各圧電素子33への重み付け(開口幅)を各圧電素子33から送信する超音波の出力の調整により行う場合には、生成部31は圧電素子33がそれぞれ受信した超音波に関する検出信号25をゲインの調整を行わずに遅延時間21にしたがって合成する処理を行なえばよい。
【0035】
図3(B)に示す、基準位置Cと焦点位置Fとを結ぶラインは、素子群13から検査対象35に入射し同じ軌跡で反射する第1合成信号41に相当する超音波ビームのビームライン(伝搬経路)を表している。
図3(B)および(C)では、素子群13を構成する圧電素子33の数(規定数N)を5、各圧電素子33の重み付け(開口幅)をいずれも100%とした場合を例示している。
【0036】
圧電素子33の配置情報と各圧電素子33の重み付けに基づいて定められ基準位置Cは、超音波ビームの音響接触媒質38への入射位置に相当する。なお
図3(B)の例では、圧電素子33の各中心位置座標にそれぞれの重み付け(いずれも100%)を乗じて加重平均する基準位置設定ルールにより基準位置Cの座標を定めている。
【0037】
基準位置Cにおいて入射角αで音響接触媒質38に入射した超音波ビームは、検査対象35との界面で屈折し、検査対象35内に屈折角βで入射する。なお、入射角α及び屈折角βは、音響接触媒質38や検査対象35の表面の法線方向に対する、第1合成信号41に相当する超音波ビームのビームラインの角度で定義している。ここで、これらの基準位置Cにおける入射角α及び検査対象内35内の屈折角βにより定まる超音波ビームのビームラインの向きを探傷角と総称する。
【0038】
図3(C)は、素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する圧電素子33を、重み付けを一定(すなわち例えば100%)としたまま1ピッチずつシフトさせて定義した複数の素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々において生成される第1合成信号41(41
1,41
2,…41
M)に相当する超音波ビームのビームライン(伝搬経路)を示している。すなわち、第1合成信号41(41
1,41
2,…41
M)はいずれも等しい入射角α及び屈折角βを有し、したがって、これらの第1合成信号41(41
1,41
2,…41
M)に相当する超音波ビームのビームラインは、互いに平行で探傷角が等しく、かつ、素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する圧電素子33が1ピッチずつずれていくに連れて素子群中心である基準位置Cが圧電素子33の配列の1ピッチ分(距離P)ずつずれた離散的な配置となる。なお、素子群13(13
1,13
2,…13
M)を構成する圧電素子33の数である規定数Nは
図3(B)と同様いずれも5であり、上述のように各圧電素子33の重み付けの値は等しいので、素子群13
1,13
2,…13
Mを構成する各圧電素子33の重み付けの合計値も素子群13
1,13
2,…13
Mにかかわらず等しい値(一定)となる。
【0039】
次に、
図4を用いて、電素子33の配列の1ピッチ分(距離P)ずつずれた2つの第1合成信号41
n、41
n+1の間に超音波ビームのビームライン(伝搬経路)を設定して得られる第2合成信号42
nについて以下に説明する。
【0040】
図4(A)に示すように、2つの第1合成信号41
n、41
n+1はそれぞれ、素子群13
n、13
n+1からの超音波ビームについての合成信号であり、
図3(B)の例と同様に素子群13
n、13
n+1をそれぞれ構成する圧電素子33の数(規定数N)を第1規定数である5、各圧電素子33の重み付け(開口幅)をいずれも100%として素子群13
n、13
n+1の基準位置C
n、C
n+1を設定し、素子群13
n、13
n+1の基準位置C
n、C
n+1及び予め定められた探傷角(入射角αや屈折角β)に基づいて伝搬経路が設定されている。
【0041】
このとき、素子群13
nまたは素子群13
n+1を構成する圧電素子33を素子群13
n+0.5と設定する。素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33の数(規定数N)は第1規定数である5より1多い第2規定数である6となる。さらに、例えば、素子群13
n+0.5を構成する6つの圧電素子33のうち両端の圧電素子33の重み付けを50%とし、他の4つの圧電素子33の重み付けを100%に設定する。このように素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33の数である規定数Nを第1規定数より多い第2規定数とするとともに、素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33のそれぞれの重み付けを同じ値から変化させることにより、素子群13
n+0.5の基準位置C
n+0.5は素子群13
n、13
n+1の基準位置C
n、C
n+1の中間の位置に設定される。
【0042】
素子群13
n+0.5の基準位置C
n+0.5の位置が定まると、予め定められた探傷角(入射角αや屈折角β)と探傷深さに基づいて焦点位置F
n+0.5が定まる。ここで、素子群13
n、13
n+1からの超音波ビームの探傷角とからの素子群13
n+0.5からの超音波ビームの探傷角は同一である。したがって焦点位置F
n+0.5は、圧電素子33の配列の1ピッチ分の距離Pよりも短い距離だけ焦点位置Fを配列方向に移動させた仮想的な位置に設定される。なお、実施形態において、焦点位置F
n+0.5は、素子群13
n、13
n+1からの超音波ビームの焦点位置F
n、F
n+1のいずれからもちょうど距離P/2だけ離れた中央位置に設定されているが、素子群13
n+0.5の規定数Nや素子群13
n+0.5を構成する各圧電素子33の重み付けをそれぞれ適切に設定することで1ピッチ分の距離Pをさらに細かく刻んだ位置に設定することもできる。なお、素子群13
n+0.5の規定数Nを第1規定数から変えずに各圧電素子33の重み付けの値だけを調整して基準位置C
n+0.5の位置を素子群13
n、13
n+1の基準位置C
n、C
n+1の間の位置に設定しても構わない。また、素子群13
nや13
n+1の各圧電素子33の重み付けの合計値と、素子群13
n+0.5を構成する各圧電素子33の重み付けの合計値(あるいは平均値)については、素子群13
n、13
n+0.5、13
n+1の規定数Nによらず等しくすることが好ましい。しかしながら素子群13
n、13
n+0.5、13
n+1毎の各圧電素子の重み付けの合計値や平均値を厳密に等しくする必要はなく、重み付けの合計値や平均値が探傷結果に影響しない程度の予め定めた範囲内になるようにすればよい。例えば上述の素子群13
n+0.5を構成する6つの圧電素子33の重み付けについては、一端の圧電素子の重み付けを40%や60%、他端を50%としてその他の中央の4つを100%に設定するなどとしても構わない。素子群13
n、13
n+0.5、13
n+1毎の圧電素子33の重み付けの合計値や平均値のずれの許容度は検査対象の材質や構造、また検知しようとする欠陥の最小サイズなどによるが、平均値で±50%程度は許容されることが多く、平均値がこの範囲内に入れば一般的には十分であると考えられる。
【0043】
基準位置をC
n+0.5とした素子群13
n+0.5の焦点位置F
n+0.5が定まると、設定された焦点位置Fを経由する素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33のそれぞれからの超音波の伝搬経路14を演算させる。この超音波の伝搬経路14の演算は、素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33のそれぞれを対象として、
図2を参照して示した手法と同様に、素子群13
n+0.5に配列する圧電素子33のうち超音波を出入力させる一つ又は二つの圧電素子の組み合わせに基づいて検査対象35内の焦点位置F
n+0.5を経由する超音波の伝搬経路14として演算される。この超音波の伝搬経路14の演算は、検査対象35及び音響接触媒質38の表面形状や密度等を基にして実行される。
【0044】
計算部11は、それぞれの超音波の伝搬経路14に基づいて、同様に素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33の組み合わせにおける、超音波の遅延時間21を計算する。計算部11で計算された超音波の遅延時間21は、素子群13
n+0.5の対応する圧電素子33の組み合わせに関連付けて同様に保存部に保存される。
【0045】
生成部31は、素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33がそれぞれ受信した超音波についても同様に計算部11で計算した遅延時間21にしたがって合成する。すなわち、生成部31は、信号受信部23のチャンネルの各々で受信された検出信号25を、対応する圧電素子の組み合わせに関連付けて保存されている遅延時間21だけ、時間軸方向にシフトさせる。さらに、このように遅延処理した検出信号25の群を、素子群13を単位として合成し、第2合成信号42(
図4(A))を生成する。つまり、第2合成信号42は、検出信号25を遅延時間21に基づいて合成することで得られる、基準位置C
n+0.5の素子群13
n+0.5からの、予め定めた探傷角で定まる伝搬経路を有する超音波ビームに関する合成波となる。
【0046】
図4(B)は、素子群13
nや13
n+1などを構成する圧電素子33を1ピッチずつシフトさせた複数の素子群13
n、13
n+1、…からの超音波ビームの各々について生成される第1合成信号41(41
1,41
2,…41
M:実線)に相当するビームラインに加え、素子群13
n+0.5を構成する圧電素子33を1ピッチずつシフトさせた複数の素子群13
n+0.5からの超音波ビームの各々について生成される第2合成信号42(42
1,42
2,…42
M:破線)に相当するビームラインを示したものである。
【0047】
図5(A)(E)は、互いに1ピッチずれた規定数N=4で構成される素子群13
n,13
n+1を示している。この場合、駆動する圧電素子33の開口幅(重み付け)が全て100%に設定されるため、各々の検出信号25からは、100%の寄与率ということで、生成部31で処理された第1合成信号41が生成される。このとき第1合成信号41のビームラインは、既述したように、定義された焦点位置F
n,F
n+1のそれぞれを貫くように設定される。
【0048】
次に
図5(B)(F)では、素子群の一端に位置する圧電素子の開口幅(重み付け)を75%に設定し、他端に位置する圧電素子の開口幅(重み付け)を25%に設定している。この両端に位置する圧電素子の開口幅(重み付け)は、駆動する全ての圧電素子の開口幅(重み付け)の合計が一定値となるように設定する必要がある。これは、検査対象に規定される第1合成信号41及び第2合成信号42の全てのビームラインによる欠陥の検出感度を平準化するためである。
【0049】
この場合、生成部31において、開口幅(重み付け)100%同士の圧電素子の組み合わせに対応する検出信号25は100%の寄与率で処理され、それ以外の圧電素子の組み合わせに対応する検出信号25は二つの開口幅(重み付け)の値を積算した値の寄与率を与えるよう重み付け係数が与えられ、第2合成信号42が生成される。
このとき第2合成信号42のビームラインは、定義された焦点位置F
n,F
n+1よりもP/4だけ配列方向に平行移動した位置を貫くように設定される。
【0050】
次に
図5(C)(D)は、駆動する全ての圧電素子の開口幅(重み付け)の合計が一定値になることを保ちつつ、両端に位置する圧電素子の開口幅(重み付け)をさらにP/4ずつ増減させた例である。
それぞれの場合において、対応する重み付け係数が保持部に保持されている各圧電素子の開口幅(重み付け)に基づいて検出信号25が処理されて、第2合成信号42が生成される。この第2合成信号42のビームラインは、定義された焦点位置F
nよりもP/2,3P/4だけ配列方向に平行移動した位置を貫くように設定される。
【0051】
なお、上述の説明において、両端に位置する圧電素子の開口幅(重み付け)をP/4ずつずらした例を示したが、ずらす量について特に限定はない。
これにより、検査対象35の内部画像は、第1合成信号41とこの第1合成信号41から仮想的に導かれた第2合成信号42とに基づいて描画されるために、画素密度が高く空間分解能に優れている。
【0052】
描画部36は、複数の素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々を単位に生成部31で生成される第1合成信号41及び第2合成信号42に基づいて、検査対象35の内部を画像化する(
図4(C))。
第1合成信号41及び第2合成信号42の時間軸は、検査対象35の座標空間に規定されたビームラインの飛程に対応している。そして、第1合成信号41及び第2合成信号42の波形の強度に応じて、ビームライン上の画素の輝度を設定することにより、画像が形成されることになる。
【0053】
各実施形態においては、第1合成信号41とこの第1合成信号41から仮想的に導かれた第2合成信号42とに基づいてビームラインが細密に設定されるために、検査対象35の内部画像は、画素密度が高く空間分解能に優れている。
この描画部36は、上述した検査対象35の内部画像の他に、検出信号25の波形(
図3(A))、第1合成信号41及び第2合成信号42のビームライン(
図4(B))、超音波の伝搬経路14(
図2)、仮想伝搬経路、素子群の基準位置C、焦点位置F等を表示することができる。
【0054】
このような描画部36は、デジタルデータを表示できるものであればよく、所謂PCモニタ、テレビ、プロジェクタ等が考えられ、ブラウン管のように一度アナログ信号化してから表示させるものでもよい。また、設定した条件に応じて音や発光によりアラームを生じさせたり、タッチパネルとして操作を入力したりする所謂ユーザインタフェース機能を有してもよい。
【0055】
(第2実施形態)
次に
図6を参照して本発明における第3実施形態について説明する。なお
図6において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
第2実施形態に係る超音波探傷装置10は、素子駆動部18に接続する素子群13を、圧電素子の配列を1ピッチずつシフトさせながら、リニアスキャンする切替部37をさらに備えている。
【0056】
第2実施形態では、一組の第1合成信号41及び第2合成信号42が得られる毎に、駆動される素子群13が1ピッチずつ連続的にスイープされることになる。
これにより、素子駆動部18及び信号受信部23における制御チャンネルは、素子群13を構成する圧電素子33の数の分だけ設けられればよいために、回路を簡素化することができる。
【0057】
(第3実施形態)
次に
図7を参照して本発明における第3実施形態について説明する。なお
図7において
図6と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
第4実施形態に係る超音波探傷装置10における素子駆動部18は、素子群13から出力する超音波ビームの入射角度θ及び焦点深度dから計算される駆動遅延時間22に基づいて、圧電素子33を駆動して超音波を出力する。
【0058】
計算部12では、ビーム定義部17で定義されている条件に従って駆動遅延時間22を計算する。この駆動遅延時間22は、駆動させる圧電素子33の素子群13における相対位置に対して固有の値となるために、素子駆動部18の制御チャンネルに関連付けて、記憶部に保持される。
図8(A)に示すように、超音波ビームの照射は、初期の素子群13
1を構成する圧電素子33の配列を、駆動遅延時間22に基づくタイミングで駆動する。これにより、超音波ビームが焦点に向けて収束しながら照射される。
【0059】
さらに、
図8(B)〜(C)に示すように、1ピッチずつシフトさせた素子群13
2,…13
Mに対しても同様に、構成する圧電素子33の配列を、駆動遅延時間22に基づくタイミングで駆動する。これにより、超音波ビームを収束点とともにリニア移動させることができる。
そして、
図9に示すように、生成部31では、この駆動遅延時間22が加算された遅延時間21に基づいて、第1合成信号41及び第2合成信号42を生成する。
【0060】
次に
図10に基づいて、実施形態に係る超音波探傷方法について説明する(適宜
図1,5,7,8参照)。
まず、アレイプローブ34を構成する複数の圧電素子33のなかから規定数Nの圧電素子を素子群13(13
1,13
2,…13
M)として定義する。さらにこの素子群13に対応する焦点位置Fを定義する(S11)。そして、このように定義した素子群13及び焦点位置Fの情報をデータ保持する。
【0061】
次に、素子群13に配列する圧電素子33のうち超音波を出入力させる圧電素子の組み合わせに基づいて検査対象35内の焦点位置Fを経由する超音波の伝搬経路14(
図2)を演算する(S12)。
そして、それぞれの伝搬経路14に基づいて前記圧電素子の組み合わせにおける超音波の遅延時間21を計算する(S13)。
【0062】
次に、圧電素子33を駆動し超音波を出力させる(S14)。
そして、検査対象35で内部反射する超音波を検出したそれぞれの圧電素子33が出力する検出信号25(
図2)を受信する(S15)。
【0063】
次に、遅延時間21に基づいて検出信号25の群を合成した第1合成信号41(41
1,41
2,…41
M)(
図2(D),
図3)を生成する(S16)。
さらに、仮想処理により第2合成信号42(42
1,42
2,…42
M)(
図4)を生成する(S17)。
【0064】
そして、1ピッチずつシフトさせて定義した複数の素子群13(13
1,13
2,…13
M)の各々において生成される第1合成信号41及び第2合成信号42に基づいて検査対象35の内部を画像化(
図4(C))する(S18,S19,END)。
【0065】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の超音波探傷装置によれば、現実的に生成させた第1合成信号と仮想的に生成させた第2合成信号とにより、アレイプローブを構成する圧電素子のサイズをそのままにして、欠陥検出の空間分解能を向上させることが可能となる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
また、超音波探傷装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、超音波探傷プログラムにより動作させることが可能である。
【0067】
以上説明した超音波探傷装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0068】
また超音波探傷装置で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0069】
また、本実施形態に係る超音波探傷装置で実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。