(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の濃縮度に対応して前記複数の可燃性毒物入り燃料棒のそれぞれに内蔵される可燃性毒物の第1の濃度を前記第2の濃度より増加させたことを特徴とする請求項4に記載の軽水炉用燃料集合体。
【背景技術】
【0002】
一般に、軽水炉用燃料および軽水炉の炉心においては、1運転サイクルの最後(以後EOC:End of Cycle)に余剰反応度がゼロになるように燃料が設計され、原子炉が運転される。
【0003】
沸騰水型軽水炉(以後BWR)では、例えば酸化ガドリニウムなどの可燃性毒物の中性子吸収能力がEOCで無くなるように濃度調整がなされる。
【0004】
BWRのプラント第1運転サイクルの炉心である初装荷炉心の場合に、一部の少数割合の燃料の可燃性毒物を意図的に燃え残し、残りの燃料で余剰反応度不足を補いつつ、炉心の熱的特性を改善する例もある。
【0005】
加圧水型軽水炉(以後PWR)では、ケミカルシム中のホウ酸濃度がEOCでゼロになるように濃度調整がなされる。
【0006】
核分裂性物質の濃縮度は、目標の取出燃焼度(ここでは達成燃焼度と同義)などに応じてその値が調整され、無駄に高い濃縮度は用いられない。
【0007】
軽水炉の使用済み燃料中には、ウラン同位体、プルトニウム同位体およびマイナーアクチニドが含まれており、それらは内部被爆をもたらす点で有害である。その有害の程度を示す上で、潜在的放射性毒性を指標としている例がある。またマイナーアクチニドの中では、炉停止後10年程度まではキュリウム244(以後、Cm244)が最も有害度が大きくなっている。
【0008】
軽水炉の燃料として、軽水炉使用済み燃料を再処理して得られるプルトニウムの酸化物とウラン酸化物の双方を、ひとつのペレットに含む燃料として用いる軽水炉がある。また、ウラン酸化物中のウラン235を天然ウランより高い濃縮度で含む混合酸化物燃料(MOX燃料)を用いる例がある。
【0009】
上記のようなMOX燃料で母材に濃縮ウランを用いる場合において、軽水炉で用いられた濃縮ウランを再処理して得られたプルトニウムを用い、その母材のウラン濃縮度を最大17%まで高めて複数回繰り返し用いる例もある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る軽水炉用燃料集合体、軽水炉炉心、軽水炉用燃料集合体製造方法およびMOX燃料集合体製造方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0022】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る軽水炉炉心の構成を示す平面図である。軽水炉炉心40は、複数の軽水炉用燃料集合体30および複数の制御棒5を有する。以下は、BWRの場合を例にとって説明する。
【0023】
軽水炉用燃料集合体30は、互いに並列に格子状に配列されており、全体としてほぼ円形の軽水炉炉心40の形状を形成している。また軽水炉用燃料集合体30は、一部、軽水炉炉心40の周辺に配されているものを除いては、各4本ずつで1組の正方状の格子を形成し、それぞれの正方状の格子の中央には、制御棒5が挿抜可能に配されている。なお、後述するように、軽水炉用燃料集合体30の本数は、炉心の出力等の基本仕様に基づいて設定される。たとえば、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の場合を例にとると、燃料集合体本数は872体、燃料集合体1体当たりのウラン金属質量は172kgである。
【0024】
図2は、第1の実施形態に係る軽水炉用燃料集合体の構成を示す平断面図である。軽水炉用燃料集合体30は、複数の軽水炉用燃料棒10、複数の可燃性毒物入り燃料棒20、2本のウォータロッド25、およびチャンネルボックス31を有する。
【0025】
白抜きで示す複数の軽水炉用燃料棒10と斜線で示す複数の可燃性毒物入り燃料棒20とは、互いに並列に格子状に配列されている。また、配列の中央には、運転時に内部に冷却材が流れる2本のウォータロッド25が配されている。格子状の配列は、断面がほぼ正方形の四角柱の形状を形成しており、径方向外側に設けられたチャンネルボックス31内に収納されている。
【0026】
なお、
図2には軽水炉用燃料集合体の代表的な例として、10×10配列で円筒状のウォータロッドを有する場合を示したが、これに限定されない。これより少ない配列数でもこれより多い配列数でもよい。また、たとえば断面が四角形のウォータロッドでもよい。また、可燃性毒物入り燃料棒20の数および配置も、
図2に示したものに限定されない。
【0027】
可燃性毒物入り燃料棒20は、可燃性毒物として、たとえばガドリニアすなわち酸化ガドリニウムを含む。可燃性毒物の濃度は、たとえば4.0%である。
【0028】
図3は、第1の実施形態に係る軽水炉用燃料棒の構成を示す部分立断面図である。軽水炉用燃料棒10は、燃料ペレット11およびこれを収納する被覆管12を有する。被覆管12の下端は下部端栓13により、また上端は上部端栓14により閉止され、内部が密閉されている。被覆管12の材質は、BWRの場合は、たとえばジルカロイ−2である。また、PWRの場合は、たとえばジルカロイ−4である。なお、被覆管の材質は、これに限定されず、たとえばシリコンカーバイド(SiC)製でもよい。
【0029】
燃料ペレット11は、たとえば二酸化ウランの粉末を焼結した円柱状であり、上下に積層されている。ウランの濃縮度は、燃料集合体平均で5%である。以下、ウランの濃縮度とは、ウラン中のウラン235の濃縮度を意味するものとする。
【0030】
なお、燃料ペレット11は、二酸化ウランに限定されず、炭化ウランあるいは窒化ウランでもよい。上下に積層された燃料ペレット11の上方には、上部プレナム15が形成され核分裂生成物のガスの貯留空間を形成している。また、上部プレナム15内には、燃料ペレット11を下方に抑えるバネ16が設けられている。
【0031】
図4は、本実施形態と従来技術を示す比較例の諸元の比較表である。基本的に、炉心の運用に関しては、本実施形態は、比較例すなわち従来の代表的な例と同様である。すなわち、炉心の1運転サイクルの運転期間はいずれもたとえば13か月、燃料集合体の炉心から取り出す際の平均燃焼度すなわち平均取出燃焼度(燃料集合体平均)はいずれもたとえば45GWd/t、燃料集合体の炉心装荷後の第1運転サイクル終了時の燃焼度は10.4GWd/tである。以下、本実施形態による軽水炉用燃料集合体と比較される比較例による燃料集合体を、便宜的に通常型ウラン燃料集合体と呼ぶこととする。
【0032】
濃縮度については、通常型ウラン燃料集合体では、集合体平均でたとえば3.8%である。これに対して、本実施形態における軽水炉用燃料集合体30においては、通常型ウラン燃料集合体より高い値でたとえば5.0%である。ただし、可燃性毒物の濃度は、通常型ウラン燃料集合体と同じでたとえば4.0%である。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体30は、従来技術の代表例としての通常型ウラン燃料集合体に比べて、ウラン燃料の濃縮度を増加させている。なお、ウランの濃縮度は、5.0%の例を示したが、これに限定されない。後述するように、その効果が得られるものであれば、5.0%を超える濃縮度、あるいは5.0%未満の濃縮度であってもよい。
【0034】
以下に、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体30、軽水炉炉心40の作用等について説明する。
【0035】
図5は、第1の実施形態に係る軽水炉用燃料集合体および比較例による通常型ウラン燃料集合体についての、燃焼度の増加に対する無限増倍率の変化の比較を示すグラフである。横軸は、それぞれの燃料集合体の燃焼度(GWd/t)であり、0(GWd/t)は炉心に装荷した時点を示す。縦軸は、燃料集合体1体あたりの無限増倍率k∞である。無限増倍率は、それぞれの燃料集合体の燃料、構造材等の材料、組成等が決まることにより決定される。
図5は、燃料集合体を炉心に装荷して原子炉の運転サイクルの4運転サイクルにわたり炉心内で照射された後に、炉心から取り出す場合の例を示している。
【0036】
まず、破線で示す従来の燃料集合体の比較例の場合について説明する。燃料集合体の燃焼度が増加するとともに、第1運転サイクルにおいては、核分裂性物質であるウラン235が消費され、その分、無限増倍率k∞は低下していくが、可燃性毒物が中性子を吸収して消費され減少すること、および超ウラン元素のうちの核分裂性核種が生成されることによる無限増倍率k∞の増加の効果が大きく、差し引き、無限増倍率k∞は増加し、第1運転サイクルの末期に最大値約1.22となる。すなわち、第1運転サイクルの末期に可燃性毒物が全量消費される。第2運転サイクル以降は、超ウラン元素のうちの核分裂性核種の生成はあるが、無限増倍率k∞は核分裂性物質であるウラン235の消費にしたがって単調に減少する。
【0037】
図5は、1体の燃料集合体に注目した無限増倍率k∞の変化を示しているが、炉心内には、燃料装荷直後の第1運転サイクル目の燃料集合体、第2運転サイクル目の燃料集合体、第3運転サイクル目の燃料集合体、および最終の運転サイクルである第4運転サイクル目の燃料集合体がそれぞれ存在している。すなわち、無限増倍率k∞が1.0未満のものから1.0より大きなものまでが存在する。この結果、炉心全体としては、1.0より大きなあるレベルの無限増倍率k∞が確保される。
【0038】
炉心全体の体系が決まることにより炉心外への中性子の漏えい等が評価可能となり、無限増倍率k∞およびこれらの要因を考慮することにより、有効増倍率keffが決まる。この結果、BWRの場合であれば炉心の制御棒全引抜状態、あるいはPWRの場合であればホウ酸濃度ゼロ状態での反応度すなわち余剰反応度ρexは、概念的には、次の式(1)により算出される。
ρex=(keff−1)/keff ・・・(1)
【0039】
比較例が示す従来の技術においては、炉心の各運転サイクルの末期、たとえば
図5の場合では、第1運転サイクルないし第4運転サイクルのそれぞれの運転サイクルの末期に、式(1)で示す余剰反応度ρexが、限りなくゼロとなるように、各核燃料集合体の濃縮度(燃料集合体平均)が設定される。この濃縮度は、たとえば
図4に示す3.8%である。
【0040】
次に、実線で示す本実施形態による軽水炉用燃料集合体30の場合について説明する。
図4に示すように、本実施形態による軽水炉用燃料集合体のウランの濃縮度は、通常型ウラン燃料集合体のウランの濃縮度より高く、
図4で示す例では5.0%である。濃縮度が通常型ウラン燃料集合体より高いため、
図5に示すように、本実施形態の場合は、無限増倍率k∞が、比較例よりたとえば燃焼初期では約0.05大きくなっている。
図4に示すように、本実施形態の場合も、可燃性毒物の濃度は比較例と同じであるので、軽水炉用燃料集合体30の燃焼度の増加にしたがって、比較例と同様に、第1運転サイクル末期に可燃性毒物が全量消費されることにより無限増倍率k∞が最大となり、第2運転サイクル以降は核分裂性物質であるウラン235が消費され無限増倍率k∞は低下していく。
【0041】
したがって、軽水炉用燃料集合体30を軽水炉炉心40から取り出す最終の運転サイクルである第4運転サイクル終了時においても、無限増倍率k∞は、比較例の場合よりも大きく、この結果、式(1)より明らかなように、余剰反応度ρexも、従来の比較例の場合よりも大きくなる。すなわち、従来は、余剰反応度ρexが限りなくゼロに近いレベル、すなわち実質的にゼロであるのに対して、本実施形態では余剰反応度ρexが、たとえば2%Δkなどの正のある値となる。
【0042】
以上のように、運転期間、平均取出燃焼度燃焼度、燃料取替割合などを比較例と同じ条件とし、ウランの初期の濃縮度を比較例よりも高い値として運転する場合、比較例に比べて、燃料中のウラン235の巨視的核分裂断面積や巨視的中性子捕獲断面積が燃焼を通じてより大きいという状態が維持される。この結果、燃料中のウラン235に吸収される中性子の割合が多くなる。また、中性子が、マイナーアクチニドの元の核種であるプルトニウム核種やマイナーアクチニド核種に吸収される割合が小さくなる。すなわち、プルトニウムやマイナーアクチニドがより大きい質量数の核種に変換されにくくなる。このようにして、使用済み燃料中のマイナーアクチニドの生成が、従来に比べて減少することになる。
【0043】
図6は、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体製造方法のうち主に設計方法の手順を示すフロー図である。
【0044】
まず、運転サイクル期間、取出燃焼度等の条件の設定を行う(ステップS01)。たとえば、1運転サイクルを13か月、集合体の平均取出燃焼度を45GWd/tなどの条件設定を行う。
【0045】
次に、ウランの初期の濃縮度を設定する(ステップS02)。これに基づいて、軽水炉炉心40における所定の運転サイクル末期までの軽水炉用燃料集合体30の燃焼計算を行う(ステップS03)。燃焼計算の結果に基づいて、運転サイクルを通じて、余剰反応度ρexが正であり、かつ、運転サイクル末期の余剰反応度ρexについて、次の式(2)が成立するか否かを判定する(ステップS04)。
|運転サイクル末期の余剰反応度ρex−所定の値|<ε ・・・(2)
【0046】
ここで、所定の値は正の値であり、運転サイクル末期に確保する余剰反応度である。また、εは両者の一致を判定するための十分に小さな値の正の数である。解析による余剰反応度の解析と実機の誤差は0.3%Δk以下程度であり、設計解析では余剰反応度が少なくとも0.3%Δk程度以上は残るように、燃料要素と炉心を構成することが有効である。
【0047】
したがって、所定の値を、0.3%Δkより大きな値たとえば2%Δkなどとすることが有効である。
【0048】
式(2)が成立しないと判定された場合(ステップS04 NO)は、ステップS02で初期のウランの濃縮度の設定を修正し、ステップS03以下を繰り返す。
【0049】
式(2)が成立すると判定された場合(ステップS04 YES)は、初期のウランの濃縮度を決定する(ステップS05)。次に、決定されたウランの濃縮度を有する軽水炉用燃料集合体30を製造する(ステップS06)。
【0050】
燃料集合体の炉心からの取り出し時に燃料集合体に残留するウラン235の濃度は、比較例の初期ウラン濃縮度が3.8%の場合には、約0.6wt%であり1wt%を下回っている。1運転サイクルの運転長さに合わせて運転サイクル終了時に余剰反応度がちょうどゼロになるように設計された軽水炉の通常型ウラン燃料集合体の使用済み燃料には、このように一般に1wt%程度のウラン235が残留することが知られている。
【0051】
したがって、マイナーアクチニドを低減するためには、軽水炉炉心40の運転サイクル終了時の余剰反応度をゼロより大きくする代わりに、炉心の使用済み燃料中のウラン235の濃度が1wt%を上回るようにすることによってもよい。すなわち、燃焼度や運転条件を考慮してウランの初期の濃縮度を設定し、1運転サイクル終了時に、炉心の使用済み燃料中のウラン235の濃度が1wt%を上回るようにすることによっても、マイナーアクチニドを低減することができる。
【0052】
本実施形態による効果を、燃焼モンテカルロ法コードMVPで解析評価した結果を、以下に比較例と併せて示す。
【0053】
図7は、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体および比較例による通常型ウラン燃料集合体についての、運転サイクル末期におけるマイナーアクチニド(MA)の全体質量の比較を示すグラフである。横軸はそれぞれのケースを、縦軸は、それぞれの場合における運転サイクル末期におけるマイナーアクチニド(MA)の全体質量の初期重金属質量に対する割合(PU)を示す。
【0054】
図7に示す例では、本実施形態の場合におけるMAの質量割合は、比較例におけるMAの割合の91%である。すなわち、本実施形態の場合、従来技術である比較例に比べると、MAの生成が、全体で約10%程度低く抑えられている。
【0055】
図8は、運転サイクル末期におけるAm243の質量の比較を示すグラフである。横軸はそれぞれのケースを、縦軸は、それぞれの場合における運転サイクル末期におけるAm243の質量の初期重金属質量に対する割合(PU)を示す。
【0056】
図8に示す例では、Am243の質量割合は、比較例における質量割合の約62%である。MAの代表例として示したAm243は、長期的にMA中で大きな存在割合を占めることになる核種である。このため、この核種が減ることで、潜在的放射性毒性が大きく低下する。
【0057】
図9は、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体および比較例による通常型ウラン燃料集合体についての、運転サイクル末期におけるCm244の質量の比較を示すグラフである。横軸はそれぞれのケースを、縦軸は、それぞれの場合における運転サイクル末期におけるCm244の質量の初期重金属質量に対する割合(PU)を示す。
【0058】
図9に示す例では、本実施形態の場合におけるCm244の質量割合は、比較例における質量割合の約51%である。すなわち、本実施形態の場合、従来技術である比較例に比べると、Cm244の質量がほぼ半減している。Am243とともにMAの代表例として示したCm244は、中性子の発生および発熱の大きい核種である。このため、この核種が減ることで、潜在的放射性毒性の低下だけでなく再処理までの輸送での除熱や再処理工程での除熱対策が容易になるメリットもある。
【0059】
図10は、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体の運転サイクル末期の超ウラン元素全質量の比較例による通常型ウラン燃料集合体に対する比の、ウランの初期の濃縮度への依存特性を示すグラフである。
【0060】
図10に示すように、ウランの初期の濃縮度を、従来技術である比較例における3.8%から、約20%まで変化させた場合に、これに応じて超ウラン元素の合計量は減少する。具体的には、初期の濃縮度を10%にした場合は、約0.94と約6%、約20%にした場合は、約0.82と約18%減少する。
【0061】
図11は、本実施形態に係る軽水炉用燃料集合体の運転サイクル末期の全マイナーアクチニド質量の比較例による通常型ウラン燃料集合体に対する比の、ウランの初期の濃縮度への依存特性を示すグラフである。
【0062】
図11に示すように、ウランの初期の濃縮度を、従来技術である比較例における3.8%から、約20%まで変化させた場合に、前述のように、これに応じてマイナーアクチニドの合計量は減少する。具体的には、ウランの初期の濃縮度を10%にした場合は、約0.76と約24%、約20%にした場合は、約0.63と約37%減少する。
【0063】
このように、ウランの初期の濃縮度を増加させることによって、超ウラン元素全質量およびマイナーアクチニドの合計量は、一様に減少し、潜在的放射性毒性が大きく減少する。
【0064】
以上のように、ウランの初期の濃縮度を増加させることによって、超ウラン元素全質量およびマイナーアクチニドの合計量は、一様に減少し、潜在的放射性毒性が大きく減少する。また、マイナーアクチニドが減少することにより、将来分離変換の対象になるマイナーアクチニドを減らすことができ、分離変換に必要な群分離型再処理工場、マイナーアクチニドの添加を行う燃料工場、あるいは高速炉の容量を減らすことができ、それらの建設コストを減少できるメリットがある。
【0065】
以上のように本実施形態によれば、初期濃縮度を比較例より増加させるほど使用済み燃料中のマイナーアクチニドを減少させることができ、マイナーアクチニド由来の潜在的放射性毒性を、分離変換することなく低減することができる。
【0066】
[第2の実施形態]
本第2の実施形態は、第1の実施形態に基づいた実施形態である。
【0067】
図12は、軽水炉用燃料集合体の運転サイクル末期のウラン235質量の初期重金属質量に対する比の、初期ウラン濃縮度への依存特性を示すグラフである。燃焼計算の結果である
図12が示すように、ウランの初期の濃縮度が増加するにしたがって、運転サイクル末期のウラン235の質量の初期重金属質量に対する比も増加する。たとえば、ウランの初期の濃縮度が比較例の3.8%の場合には、約0.006、すなわち前述のように約0.6wt%である。また、ウランの初期の濃縮度が10%の場合には、約0.05すなわち5wt%、ウランの初期の濃縮度が20%の場合には、約0.15すなわち15w%である。
【0068】
図13は、第2の実施形態に係るMOX燃料集合体製造方法の手順を示すフロー図である。
【0069】
まず、軽水炉用燃料集合体30の製造を行う(ステップS06)。次に、軽水炉炉心40に当該軽水炉用燃料集合体30を装荷し、その運転サイクル末期、すなわち、たとえば
図5の場合は、第4運転サイクル終了までの間、軽水炉炉心40内で燃焼させる(ステップS11)。
【0070】
運転サイクル末期に軽水炉用燃料集合体30を軽水炉炉心40から取り出し、再処理により、ウランを抽出、分離する(ステップS12)。ここで、抽出されたウラン(燃焼後抽出ウラン)は、従来の比較例における残留ウラン235が約0.6%であるのに比べて、最初の濃縮度の高さに応じて、これより高い残留ウラン濃縮度を有する。
【0071】
次に、たとえば、再処理過程で得られたプルトニウムと混合させて、混合酸化物燃料(MOX燃料)を製造し(ステップS13)、これを用いて、MOX燃料集合体を製造する(ステップS14)。この際、ウランの濃縮度が高いほど、混合させるプルトニウムの核分裂性核種の富化度は低くて済む。
【0072】
すなわち、通常のように劣化ウラン(ウラン濃縮度0.2ないし0.3wt%)や天然ウラン(ウラン濃縮度0.7wt%)、あるいは通常型ウラン燃料集合体の再処理により得られたウランを母材として用いる場合に比べ、燃焼後抽出ウランのウラン235の濃度が高いため、プルトニウムの富化度は低くすることができる。
【0073】
このように、軽水炉燃料を再処理してMOX燃料として用いる場合、再処理して回収される回収ウランをMOX燃料に使うことにより、回収ウラン中のウラン235を廃棄することなく活用することができる。また、プルトニウムの富化度を低くできることから、超ウラン元素の量を低減させることができる。
【0074】
この結果、マイナーアクチニド由来の潜在的放射性毒性を低減することができる。
【0075】
さらに、MOX燃料を用いる炉心、例えばプルサーマル炉のボイド係数(負値)の絶対値を小さくすることができ、ボイド率が影響する過渡的な事象の時間的応答を緩和することができる。
【0076】
以上のように燃料要素として未燃焼時にプルトニウムを含む混合酸化物燃料において、使用済み燃料を再処理して得られる回収ウランをMOX燃料の母材として用いることにより、残留したウラン235を有効に利用することができる。
【0077】
[第3の実施形態]
図14は、第3の実施形態による軽水炉用燃料集合体と比較例による通常型ウラン燃料集合体との仕様の比較表である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。第1の実施形態では、軽水炉用燃料集合体の集合体平均のウラン濃縮度を、通常型ウラン燃料集合体よりも高めているが、本第3の実施形態における軽水炉用燃料集合体30においては、通常型ウラン燃料集合体よりウラン濃縮度を高めるとともに可燃性毒物の濃度も高くしている。
図14に示す例では、ウラン濃縮度が4.8%であり、可燃性毒物濃度は、5.5%である。このように、ウラン濃縮度を高めた程度に応じて、可燃性毒物濃度も増加させている。
【0078】
図15は、第3の実施形態に係る軽水炉用燃料集合体および比較例による通常型ウラン燃料集合体についての、燃焼度の増加に対する無限増倍率の変化の関係の比較を示すグラフである。
図5に、本第3の実施形態の場合を追加したものである。破線は第1の実施形態で述べた比較例の場合、点線は第1の実施形態の場合、実線は本実施形態の場合を示す。
【0079】
実線で示す本実施形態の場合には、燃焼度が0GWd/tのときには、無限増倍率k∞は第1の実施形態の場合と同程度の値となっている。これは、可燃性毒物の濃度を第1の実施形態よりも大きくするとともに、可燃性毒物入りの燃料棒の本数を減らしているためである。この場合は、無限増倍率k∞のピークが第2運転サイクルの中間時点に出ている。すなわち、可燃性毒物は、比較例や第1の実施形態の場合のように、第1運転サイクル終了時点に消費しつくされず、第2運転サイクルの中間時点まで存在している。可燃性毒物が消費され尽くした後には、比較例や第1の実施形態の場合と同様に、無限増倍率k∞は単調に減少する。このときの無限増倍率k∞のピーク値は、比較例の場合の無限増倍率k∞のピーク値と同程度の値である。
【0080】
このように、本実施形態では、第1の実施形態と同様にウラン濃縮度を高め、さらに、可燃性毒物の濃度を高めた結果、第1の実施形態のように無限増倍率k∞のピーク値が従来例に比べて増加することなく、従来例の同程度の値に納まる。たとえば、新燃料を取り扱う場合であっても、炉内で照射した場合の無限増倍率k∞のピーク値を有するものとして管理する場合がある。このような管理方法においても、本実施形態における軽水炉用燃料集合体30は、従来と同様な管理のもとで取り扱うことが可能である。
【0081】
また、第1運転サイクル末期の無限増倍率k∞の値が小さくなることから、各運転サイクル末期の炉心の余剰反応度も、第1の実施形態に比べて低下する。なお、可燃性毒物の濃度は炉心の集合体の出力ピーキングの許す範囲で実施例よりも少ない濃度で構成することも可能であり、その場合は各運転サイクル終了時の余剰反応度は、その分増加することになる。
【0082】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0083】
たとえば、実施形態では、BWRの場合を例にとって示したが、これに限定されず、軽水炉はPWRの場合であってもよい。また、実施形態では、ウラン燃料の場合を例にとって示したが、混合酸化物燃料(MOX燃料)を用いた場合にも同様に適用可能である。
【0084】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。