(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896616
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】アルカリ金属類のヘキサ及びオクタシアノメタレートを用いた固体ナノ複合材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20210621BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20210621BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20210621BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20210621BHJP
C01C 3/11 20060101ALI20210621BHJP
C01C 3/12 20060101ALI20210621BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20210621BHJP
C07F 1/08 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
C07F7/18 M
B01J20/30
B01J20/28 Z
B01J20/02 A
C01C3/11
C01C3/12
G21F9/12 501B
!C07F1/08 CZNM
【請求項の数】39
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-513630(P2017-513630)
(86)(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公表番号】特表2017-530115(P2017-530115A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015070884
(87)【国際公開番号】WO2016038206
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】1458594
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グランジャン,アニエス
(72)【発明者】
【氏名】バール,イヴ
【審査官】
▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−527344(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/049048(WO,A1)
【文献】
FOLCH B,SYNTHESIS AND BEHAVIOUR OF SIZE CONTROLLED CYANO-BRIDGED COORDINATION POLYMER NANOPARTICLES WITHIN H,NEW JOURNAL OF CHEMISTRY,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2008年 1月 1日,Vol.32,P.273-282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
B01J
C01C
G21F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CN配位子を有する金属配位高分子のナノ粒子を含む固体ナノ複合材料を製造するための方法であって、前記ナノ粒子は式[Alk+x]Mn+[M’(CN)m]z−(ここでAlkはアルカリ金属であり、xは1又は2であり、Mは遷移金属であり、nは2又は3であり、M’は遷移金属であり、mは6又は8であり、zは3又は4である)により表され;前記金属配位高分子のMn+カチオンは有機グラフトの有機基R2に対し有機金属結合又は配位結合により結合し、前記有機グラフトは更に、固体担体の少なくとも1つの表面に対し、前記有機グラフトのR1基の前記表面との反応により化学的な結合により付着しており;前記方法において、以下の連続的ステップを行う:
a)固体担体を調製するステップ;
b)前記有機グラフトを前記固体担体の表面に化学的に結合させるステップ;
c)表面に前記有機グラフトが付着した前記固体担体をMn+イオンを含む溶液に接触させ、次いでこれにより得たグラフト化した担体を一回又は複数回洗浄し任意に乾燥させるステップ;
d)ステップc)により得たグラフト化した固体担体を、[M’(CN)m]z−の錯体または塩及びアルカリ金属(Alk)の塩(ここで、前記アルカリ金属(Alk)の塩は、[M’(CN)m]z−の錯体または塩とは明らかに異なる)を含む溶液に接触させ、次いでこれにより得た担体を一回又は複数回洗浄し任意に乾燥させるステップ;及び
e)任意にステップc)〜d)を繰り返すステップ、
f)ここでステップc)及びd)を前記方法の最後のステップとして行う場合、ステップc)においてはステップb)により得られた前記グラフト化した固体担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させ、ステップd)においてはステップc)により得られた前記固体担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させる方法であり、
前記R2が、窒素含有基、酸素含有基、リン酸含有基及び大環状基よりなる群から選択され、
前記R1が、シラン基、カルボキシル基、カルボキシラート基、ホスホネート基、ホスホン酸基、アルケニル基、アルキニル基及び共役ジエン基よりなる群から選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属が、Li、Na又はKであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学的な結合が、共有結合であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記[M’(CN)m]z−の錯体または塩が、式[Alkz][M’(CN)m](ここでAlkはアルカリ金属である)で表される塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記窒素含有基が、ピリジニル基、アミン基、二座ジアミン基及びアミド基よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記二座ジアミン基が、アルキレンジアミン基であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキレンジアミン基が、炭素数1〜10のアルキレンジアミン基であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルキレンジアミン基が、エチレンジアミン基−NH−(CH2)2−NH2であることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸素含有基が、アセチルアセトナート基、カルボキシラート基及びカルボキシル基よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記リン酸含有基が、ホスホネート基又はホスフェート基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記シラン基が、式−Si−(OR3)3(ここでR3は炭素数が1〜6のアルキル基である)で表されるトリアルコキシシラン基であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記トリアルコキシシラン基が、トリメトキシシラン基又はトリエトキシシラン基であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ホスホネート基が、(炭素数が1〜6の)ジアルキルホスホネート基であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
Mn+がFe2+、Ni2+、Fe3+、Co2+、Cu2+又はZn2+であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
M’がFe2+、Fe3+又はCo3+でありmが6である;或いはM’がMo5+でありmが8であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
前記[M’(CN)m]z−が[Fe(CN)6]3−、[Fe(CN)6]4−、[Co(CN)6]3−又は[Mo(CN)8]3−であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前記Mn+カチオンがNi2+カチオン、Cu2+カチオン、Fe2+カチオン又はFe3+カチオンであり、アニオンである前記[M’(CN)m]z−が[Fe(CN)6]3−又は[Fe(CN)6]4−アニオンであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記Mn+カチオンがFe3+カチオンであり、アニオンである前記[M’(CN)m]z−が[Mo(CN)8]3−アニオンであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
前記Mn+カチオンがCo2+カチオン又はNi2+カチオンであり、アニオンである前記[M’(CN)m]z−が[Co(CN)6]3−アニオンであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ粒子が式K[CuIIFeIII(CN)6]又は式K2[CuIIFeII(CN)6]を満たすことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
前記ナノ粒子が、球体又は楕円体の形状を有することを特徴とする請求項1〜20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粒子の寸法が3〜30nmであることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
前記有機グラフトが式R1−L−R2を満たす(ここでLは連結基である)ことを特徴とする請求項1〜22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
前記連結基が、アルキレン基−(CH2)p−(ここでpは1〜12の整数である)であることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記有機グラフトが
2(EtO)−(P=O)−(CH2)2−NH−(CH2)2−NH2 又は 2−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシシランであることを特徴とする請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記担体が以下よりなる群から選択される材料を含むものであることを特徴とする請求項1〜25のいずれか1つに記載の方法:金属酸化物;半金属酸化物;混合金属及び/又は半金属酸化物;金属アルミノシリケート;メタルシリケート及びそれらの混合物;半金属チタネート、金属チタネート及びそれらの混合物;金属カーバイド;半金属カーバイド及びそれらの混合物;金属酸化物及び/又は半金属酸化物の混合物;ガラス;カーボン;並びに2つ以上の上記材料から成るコンポジット材料。
【請求項27】
前記担体が以下よりなる群から選択される材料から成るものであることを特徴とする請求項1〜26のいずれか1つに記載の方法:金属酸化物;半金属酸化物;混合金属及び/又は半金属酸化物;金属アルミノシリケート;メタルシリケート及びそれらの混合物;半金属チタネート、金属チタネート及びそれらの混合物;金属カーバイド;半金属カーバイド及びそれらの混合物;金属酸化物及び/又は半金属酸化物の混合物;ガラス;カーボン;並びに2つ以上の上記材料から成るコンポジット材料。
【請求項28】
前記金属酸化物が、遷移金属酸化物、アルミニウム酸化物、ガリウム酸化物及びそれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項26又は27に記載の方法
【請求項29】
前記半金属酸化物が、シリコン酸化物、ゲルマニウム酸化物、アンチモン酸化物、ヒ素酸化物及びそれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項26〜28のいずれか1つに記載の方法。
【請求項30】
前記担体が以下よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1つに記載の方法:粒子;膜;フェルト;並びにモノリス。
【請求項31】
前記粒子の形状が、顆粒状、ビーズ状、繊維状、管状、及び板状よりなる群から選択されることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記担体が粒子から成る粉末であり0.5〜1mmの粒径を有することを特徴とする請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記担体が50〜500m2/gのBET比表面積を有することを特徴とする請求項1〜32のいずれか1つに記載の方法。
【請求項34】
前記固体担体表面に対する前記有機グラフトの化学的付着(結合)は、水、アルコール類及びそれらの混合物よりなる群から選択される溶媒中の前記有機グラフトの溶液に前記固体担体を接触させることにより行われることを特徴とする請求項1〜33のいずれか1つに記載の方法。
【請求項35】
前記Mn+イオンを含む溶液がMn+イオンを含む1種以上の塩の溶液であり前記溶液の溶媒は水、アルコール類及びそれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜34のいずれか1つに記載の方法。
【請求項36】
アルカリ金属(Alk)の塩及び[M’(CN)m]z−の錯体又は塩を含む前記溶液は水、アルコール類及びそれらの混合物から選択される溶媒の溶液であることを特徴とする請求項1〜35のいずれか1つに記載の方法。
【請求項37】
前記ステップc)及びd)が静的モード若しくはバッチモード又は動的モードにより実施されることを特徴とする請求項1〜36のいずれか1つに記載の方法。
【請求項38】
前記ステップc)及びd)が同一のカラムにおいて実施されることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ステップc)及びd)が1〜10回繰り返し実施されることを特徴とする請求項1〜38のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ金属類のヘキサ及びオクタシアノメタレートを用いた固体ナノ複合材料に関する。
特に、本発明は、金属カチオン、アルカリカチオン並びにヘキサ及びオクタシアノメタレートアニオン、特にヘキサ及びオクタシアノフェレートアニオンから成るCN配位子を有する金属配位高分子のナノ粒子(ここで前記ナノ粒子は固体担体、特に無機固体担体の孔内に化学的に結合する有機グラフトに対して、有機結合により結合する)から成る固体ナノ複合材料に関する。
すなわち、本発明は、プルシアンブルー類似体のナノ粒子を有する固体担体を官能化する方法に関する。
【0002】
本発明に係る方法により調製される材料は、特に溶液等の液体に含まれる鉱物性汚染物質を固定(結合)させるために用いることができる。
本発明に係る方法により調製される材料は、特に液体に含まれる放射性カチオン等の金属カチオンを固定(結合)させるために用いることができる。
本発明に係る方法により調製される材料は、例えば液体に含まれる放射性セシウムの選択的吸着に用いることができる。
本発明の技術分野は、概して鉱物結合剤の分野と定義できる。
【背景技術】
【0003】
動力炉等の核施設、使用済核燃料再処理設備並びに液状廃棄物処理のための研究所、研究センター及び研究ステーションは放射性廃液を排出する。
このような大量の廃液は、環境に対し排出する前に処理、除染しなければならない。
このような廃液に含まれる除去すべき汚染物質は、主に固体粒子及び溶液中に基本的に金属カチオンとして存在する放射性元素である。
現在、このような溶液等の廃液中に存在する放射性元素の抽出と選択的結合には通常、有機イオン交換樹脂が用いられている。
【0004】
このような樹脂には少なくとも2つの欠点がある。すなわち、1つはこのような樹脂の性能が限定的であること、もう1つは、抽出した放射性元素の放射性により、保存条件によっては樹脂が劣化してしまう場合があることが挙げられる。
【0005】
特にこのような有機イオン交換樹脂の欠点を克服する方法を得るためにまず鉱物結合剤が開発され、後にプルシアンブルー類似体に基づくコンポジット結合剤が開発された。これに関し、参照すべき従来技術として特許文献1がある。
【0006】
特許文献1は、M
n+カチオン(Mは遷移金属であり、nは2又は3である)と、[M’(CN)
m]
x−アニオン(M’は遷移金属であり、xは3又は4であり、mは6または8である)とを含むCN配位子を備えた金属配位高分子のナノ粒子を含む固体ナノ複合材料(ここで金属配位高分子のM
n+カチオンは、多孔質ガラス担体の孔内において化学的に結合する有機グラフトの有機基に対して有機金属結合により結合している)を開示している。
【0007】
特許文献1はまた前記固体ナノ複合材料を調製するための方法にも関し、前記方法においては、以下の連続的ステップが行われる:
a)多孔質ガラス担体を調製する;
b)有機グラフトを前記多孔質ガラス担体の孔内に化学的に結合させる;
c)孔内に前記有機グラフトが結合した前記多孔質ガラス担体をM
n+イオンを含む溶液に接触させ、次いでこれにより得た担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させる;
d)ステップc)により得た多孔質ガラス担体を[M’(CN)
m]
x−の錯体の溶液に接触させ、次いでこれにより得た担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させる;
e) ステップd)により得た多孔質ガラス担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させる;
f)任意にステップc)〜e)を繰り返す。
【0008】
すなわち、特許文献1は、プルシアンブルー類似体のナノ粒子を含む固体材料及びその調製方法を開示している。
【0009】
特許文献1に係る固体ナノ複合材料及びその調製方法には多くの欠点がある。
【0010】
特許文献1に係る固体ナノ複合材料の担体は、多孔質ガラス担体、より詳細には相
図SiO
2−Na
2O−B
2O
3の偏析領域に組成を有する分厚いホウケイ酸ナトリウムガラスのホウ酸塩相に化学腐食処理を行うことにより調製される非常に特殊な多孔質ガラス担体に限定されている。
【0011】
特許文献1の開示する調製方法においては非常に特殊な担体を含む特殊な材料のみ調製可能であり、この方法は他の担体を含む材料の調製に転用することができない。したがって、特許文献1の調製方法は汎用的でない。
【0012】
更に、特許文献1においては、前記方法を材料の調製に用いるので、担体に結合した例えばヘキサシアノフェレートナノ粒子などのヘキサシアノメタレートナノ粒子はその構造中にアルカリ性イオンを含まない。
【0013】
しかしながら、構造中にアルカリ金属を含むヘキサシアノフェレートはセシウムなどの抽出性能がより高くかつヘキサシアノフェレートの構造中に侵入した遷移金属を脱塩しない(遊離させない)ことが分かっており、このことは当業者に既知である。
【0014】
実際、アルカリ金属を含むヘキサシアノフェレートの場合、Csの吸着はカリウム等のアルカリ金属を用いたイオン交換によりなされるが、アルカリ金属を用いないヘキサシアノフェレートの使用の場合は、Csの吸着はヘキサシアノフェレートの構造中に存在する遷移金属を用いたイオン交換により部分的になされ、これにより遷移金属が脱塩される。
【0015】
排出標準における論点として、コバルトやニッケルなどの遷移金属の脱塩よりもカリウムの脱塩を行う方がはるかに好ましい。
【0016】
最後に、特許文献1に記載の合成方法は、比較的複雑であり、通常制御された雰囲気下におけるメタノールなどの有機溶剤の使用を要する。
【0017】
したがって、この合成方法は産業上の適用が略不可能である。
【0018】
特許文献2は無機固体多孔質担体に担持された無機固体多孔質濾過膜を備えた担持膜を開示しており、ここで前記担持膜はM
n+カチオン(Mは遷移金属であり、nは2又は3である)とAlk
+y[M’(CN)
m]
x−アニオン(Alkはアルカリ金属であり、yは0、1又は2であり、M’は遷移金属であり、xは3又は4であり、mは6または8である)とを含むCN配位子を含む金属配位高分子のナノ粒子から成り;前記金属配位高分子のM
n+カチオンは前記濾過膜の表面に化学的に結合する有機グラフトの有機基に対し、前記濾過膜の孔内において、任意には前記担体の孔内において、有機金属結合又は配位結合により結合する。
【0019】
特許文献2はまた、以下の連続的ステップを実行する前記担持膜を製造するための方法を開示している:
a)無機固体多孔質担体に担持された無機固体多孔質濾過膜を備えた担持膜を調製するステップ;
b)有機グラフトを前記濾過膜の表面に対し、前記濾過膜の孔内において、任意には前記担体の孔内において、化学的に結合させるステップ;
c)前記有機グラフトがその表面に結合し任意には前記有機グラフトがその孔内において結合した前記無機固体多孔質濾過膜をM
n+イオン含有溶液に接触させ、その後これにより得た担体を1回又は複数回洗浄するステップ;
d)ステップc)により得た前記担体を[M’(CN)
m]
x−の錯体を含む溶液と接触させるステップ;
e)ステップd)により得た前記担持膜を1回又は複数回洗浄するステップ;及び
f)ステップc)〜e)を繰り返すステップ。
【0020】
前記[M’(CN)
m]
x−の錯体は以下の式で表される:(Cat)
x[M’(CN)
m](ここでCatはK、Naなどのアルカリ金属のカチオンよりなる群から選択される、アンモニウム及びテトラブチルアンモニウム(TBA)等の第四級アンモニウム並びにテトラフェニルホスホニウム(PPh
4)等のホスホニウムのカチオンである)。
【0021】
特許文献2はAlk
+y[M’(CN)
m]
x−アニオン(Alkはアルカリ金属であり、yは0、1又は2である)を含むナノ粒子を記載しているが、同文献記載の調製方法における、ステップc)により得た担体を例えばK
4Fe(CN)
6のような(Cat)
x[M’(CN)
m]等の[M’(CN)
m]
x−の錯体のみを含む溶液に接触させるステップd)は再現性がなく、例えば式K
2xCu
1−x[CuFe(CN)
6](xは1より小さい)により表される不定比化合物を得る可能性がないことが分かっている。この場合、金属等のフェロシアン化物の構造におけるケージ内にはCu等の金属が存在し、これはCs抽出ステップにおいてCsとの交換に関与する。また、この溶液中ではCuの脱塩も生じる。xが小さいためこの脱塩作用は大きなものとなるが、これは特許文献2記載の合成方法を用いた場合に当てはまる。このことは、同文献の全実施例により確認されている。
【0022】
更に、この方法は次の点からも汎用的でないと言える。すなわち、この方法は、無機固体多孔質担体に担持された無機固体多孔質濾過膜を備えた担体のみを調製するための方法に過ぎないからである。
【0023】
従って、前記状況の下、以下の特徴を有するCN配位子を含む金属配位高分子のナノ粒子を含む固体ナノ複合材料の調製方法が求められている:すなわち、前記ナノ粒子は式[Alk
+x]M
n+[M’(CN)
m]
z−(Alkはアルカリ金属であり、xは1又は2であり、Mは遷移金属であり、nは2又は3であり、M’は遷移金属であり、mは6又は8であり、zは3又は4である)により表され、前記金属配位高分子のM
n+カチオンは有機グラフトの有機基に対し有機金属結合又は配位結合により結合し、前記有機グラフトは少なくとも1つの有機基において固体担体の少なくとも1つの表面と結合している。
【0024】
上式は[Alk
x]M[M’(CN)
m](ここでMの酸化度は2又は3であり、Alkの酸化度は1である)と略記しうる。
【0025】
さらに、特許文献1記載の方法とは異なり、この方法は、多孔質ガラス担体に限らず組成や形状に関わらずあらゆる担体に適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】国際公開第2010/133689号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2014/049048号パンフレット
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】B.FOLCH et al.,“Synthesis and behavior of size−controlled cyano−bridged coordination polymer nanoparticles within hybrid mesoporous silica”,New J.Chem.,2008,32,273−282.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
よって、本発明に係る方法は簡易であり、信頼性が高くかつ再現性を有しており、また例えば制御された雰囲気下における有機溶媒の使用を不要とするので、好ましくは環境痕跡を軽減する。
【0029】
本発明の目的は特に、上記の必要性と要求とを満たす方法を提供することにある。
【0030】
更に、本発明の目的は、特許文献1及び特許文献2の方法等の従来技術の方法における欠点、欠陥、限界及び短所が無くかつこれら文献記載の方法における課題を解決する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記目的を達成するため、本発明の一態様は、CN配位子を有する金属配位高分子のナノ粒子を含む固体ナノ複合材料を製造するための方法であって、前記ナノ粒子は式[Alk
+x]M
n+[M’(CN)
m]
z−(Alkはアルカリ金属であり、xは1又は2であり、Mは遷移金属であり、nは2又は3であり、M’は遷移金属であり、mは6又は8であり、zは3又は4である)により表され;前記金属配位高分子のM
n+カチオンは有機グラフトの有機基R2に対し有機金属結合又は配位結合により結合し、前記有機グラフトは更に、固体担体の少なくとも1つの表面に対し、前記有機グラフトのR1基の前記表面との反応により化学的に、好ましくは共有結合により付着(結合)しており;前記方法において、以下の連続的ステップを行う:
a)固体担体を調製するステップ;
b)前記有機グラフトを前記固体担体の表面に化学的に付着(結合)させるステップ;
c)表面に前記有機グラフトが付着(結合)した前記固体担体をM
n+イオンを含む溶液に接触させ、次いでこれにより得たグラフト化した担体を一回又は複数回洗浄し任意に乾燥させるステップ;
d)ステップc)により得たグラフト化した固体担体を、例えば式[Alk
z][M’(CN)
m]で表される塩、アルカリ金属Alkの塩等の[M’(CN)
m]
z−の錯体または塩を含む溶液に接触させ、次いでこれにより得た担体を一回又は複数回洗浄し任意に乾燥させるステップ;及び
e)任意にステップc)〜e)を繰り返すステップ、
f)ここでステップc)及びd)を前記方法の最後のステップとして行う場合、ステップc)においてはステップb)により得られた前記グラフト化した固体担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させ、ステップd)においてはステップc)により得られた前記固体担体を一回又は複数回洗浄し乾燥させる。
【0032】
上式において、Alk
+はLi、Na、K等のアルカリ金属の一価のカチオンであり、好ましくはKの一価のカチオンである。
【0033】
上式は[Alk
x]M[M’(CN)
m](ここでMの酸化度は2又は3であり、Alkの酸化度は1である)と略記できる。
【0034】
ここで前記ナノ粒子は「ナノ結晶」ともいう場合がある。
【0035】
またここで「化学的に付着(結合)する」とは、前記グラフトが前記担体の少なくとも1つの表面に対し、すなわち前記担体の外表面に対し任意には前記担体が多孔質のものである場合はその孔内において、共有結合により付着(結合)していることを示す。
実際、多孔質担体の場合、グラフトは孔内において付着(結合)することができる。
ここで「孔内において付着(結合)する」とはすなわち、通常、「前記孔を規定する通孔路の内壁面に対して付着(結合)している」ことを示す。
【0036】
本発明に係る方法は、次の点において上記文献に記載の従来技術の方法とは根本的に異なる。すなわち、ステップd)において、ステップc)により得られたグラフト化された固体担体を、式[Alk
z][M’(CN)
m]で表される塩等の[M’(CN)
m]
z−の塩又は錯体のみを含む溶液ではなく、例えば式[Alk
z][M’(CN)
m]で表される[M’(CN)
m]
z−の錯体または塩と、さらにアルカリ金属Alkの塩を含む溶液に接触させる。もちろん、更に加えるアルカリ金属Alkの塩は、例えば式[M’(CN)
m]
z−で表される塩等の[M’(CN)
m]
z−の錯体又は塩とは明らかに異なる。
【0037】
なお、[M’(CN)
m]
z−の塩又は錯体の性質及び[M’(CN)
m]
z−(シアン酸塩)の塩の溶解の間に供給されるアルカリ金属の量は重要ではない。実際、本発明によれば、シアン酸の錯体又は塩に加えてアルカリ金属の塩を加えた場合、前記シアン酸の錯体又は塩がアルカリ金属の錯体又は塩であるかに関わらず、上述の通り本発明の所望の構造が確実に得られることは事実である。従来技術においては、ステップd)においてアルカリ金属の塩を加えることは記載も示唆もされていない。
【0038】
本発明に係る方法においては、ステップd)においてアルカリ金属の塩を加えることにより、上述の通り定義した次の定比化合物を確実に再現可能に得ることができ:[Alk
+x]M
n+[M’(CN)
m]
z−
他方、上記文献においても同様に確認されていることであるが、化合物の合成においてカリウム塩等のアルカリ金属塩を更に添加しない場合、式Alk
xM
1−x[M
IIM’
III(CN)
6]; Alk
xM
1−x [M
IIIM’
II(CN)
6];Alk
2xM
1−x [M
IIM’
II(CN)
6]; Alk
xM
1−x [M
IIM
’’V(CN)
8](xは1より小さい)で表される不定比化合物が得れる。
【0039】
本発明に係る方法は従来技術の方法における欠点、欠陥、限界及び短所を有していないため、上記各文献記載の方法が有する課題を解決する方法を提供する。
【0040】
本発明に係る方法は既存の確立した方法を用いた包括的かつ全体的に簡易なものであるため、信頼性を有し完全に再現可能なものである。実際、本発明に係る方法により、性質、組成(特に定比的アルカリ金属に関して)及び特性が完全に定義され無作為に変動しない最終製品を調製することができる。
【0041】
本発明に係る方法は、特に有機溶媒を通常用いず水のみを用いるものであり雰囲気の制御を要しないものであるため、環境に対する影響は軽微である。
【0042】
本発明に係る方法により製造される材料はその構造中にアルカリ金属を有しており、そのため従来技術に比べCs等の抽出性能が高い。更に、本発明に係る方法により製造される材料においては、抽出時に行うセシウム等のイオン交換に際しカリウムのみを用い、ヘキサシアノフェレートの構造に侵入する金属M又はM’の塩析が生じない。特に、排出標準の遵守の観点から、遷移金属を塩析(遊離)させることに比してアルカリ金属を塩析させることの方が遙かに有利である。
【0043】
有利には、M
n+はFe
2+、Ni
2+、Fe
3+、Co
2+、Cu
2+又はZn
2+でもよい。
【0044】
有利には、M’はFe
2+又はFe
3+又はCo
3+であってよい(ここでmは6である);有利には、M’はMo
5+であってよい(ここでmは8である)。
【0045】
有利には、[M’(CN)
m]
z−は[Fe(CN)6]
3−、[Fe(CN)6]
4−、[Co(CN)6]
3−又は[Mo(CN)8]
3−であってよい。
【0046】
有利には、M
n+カチオンはNi
2+、Cu
2+、Fe
2+又はFe
3+カチオンであってよく、アニオンは[Fe(CN)6]
3−又は[Fe(CN)6]
4−アニオンであってよい。
【0047】
有利には、前記カチオンはFe
3+カチオンであってよく、前記アニオンは[Mo(CN)8]
3−アニオンであってよい。
【0048】
有利には、前記カチオンは、Co
2+又はNi
2+カチオン及びアニオンであってよく、前記アニオンは[Co(CN)6]
3−アニオンであってよい。
【0049】
好ましくは、前記ナノ粒子は式K[Cu
IIFe
III(CN)
6]又はK
2[Cu
IIFe
II(CN)
6]を満たすとよい。
【0050】
有利には、前記ナノ粒子は、球体又は球状体の形状であってよい。
【0051】
前記ナノ粒子の直径等の寸法は通常3〜30nmである。
【0052】
なお、金属配位高分子のナノ粒子は通常、担体全体に渡り均一の寸法及び形状を有する。
【0053】
ここでアンカーナノ粒子の官能基ともいう有機基R2は、M
n+カチオンとの有機金属結合又は配位結合を形成可能な基である。
【0054】
この有機基R2は以下から選択される:ピリジニル基、アミン基、エチレンジアミン基−NH−(CH
2)
2−NH
2−等のアルキレン(例えば1〜10Cの)ジアミン基等の二座ジアミン基及びアミド基等の窒素含有基;アセチルアセトナート基、カルボキシラート基及びカルボキシル基等の酸素含有(酸化)基;ホスホネート、ホスフェート基等のリン酸含有基;並びに大環状基。
【0055】
有機基R1は、通常は共有結合によるグラフトの担体の表面に対する化学的結合を確実にする基である。この基は使用する担体に応じて選択される。
【0056】
この有機基R1は以下から選択してよい:式−Si−(OR
3)
3(ここでR3は1〜6Cのアルキル基)で表されるトリアルコキシシラン基、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等のシラン基;カルボキシル基;カルボキシラート基;ジアルキル(1〜6C)ホスホネート基、ジエチルホスホネート基等のホスホネート基;ホスホン酸基;エチレン基等のアルケニル基;アセチレン基等のアルキニル基;共役ジエン基。
【0057】
表面が基本的にシリカから成る膜又は担体の場合、グラフトの共有結合を確実にするこの基は、例えば担体の表面のシラノール基に結合するSiO基である。
【0058】
表面が基本的にTiO
2又はZrO
2型酸化物から成る膜又は担体の場合、グラフトの共有結合を確実にするこの基は、例えば担体表面の水酸基と結合するホスホネート基である。
【0059】
前記グラフトは通常、R1基とR2とを連結する連結基Lから成る。
【0060】
よって、有利には、有機グラフトは式R1−L−R2を満たす(ここでLはアルキレン基−(CH
2)
p−(ここでpは1〜12の整数であり好ましくは2〜6の整数である)等の連結基である。
【0061】
好ましい有機グラフトは
2(EtO)−(P=O)−(CH
2)
2−NH−(CH
2)
2−NH
2又は2−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシシランである。
【0062】
有利には、前記担体は以下から選択される材料を含み、好ましくは以下から選択される材料から成る:チタン酸化物、ジルコニア等の酸化ジルコニウム、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物、酸化クロム、酸化コバルト及びモリブデン酸化物、アルミナ等のアルミニウム酸化物、ガリウム酸化物等の遷移金属酸化物等の金属酸化物及びそれらの混合物;シリカなどのシリコン酸化物、酸化ゲルマニウム、アンチモン酸化物及びヒ素酸化物等の半金属酸化物並びにそれらの混合物;混合金属及び/又は半金属酸化物;金属アルミノシリケート;珪酸ジルコニウム、スズケイ酸塩、セリウムケイ酸塩、ムライト型化合物(アルミニウムシリケート)及びコーディエライト型化合物(マグネシウム鉄アルミニウムシリケート)等のメタルシリケート及びそれらの混合物);チアライト、半金属チタネート等の金属チタネート及びそれらの混合物);金属カーバイド;SiC等の半金属カーバイド及びそれらの混合物;金属酸化物の混合物及び/又は半金属酸化物の混合物;ホウケイ酸ガラスの等のガラス;グラファイト、フラーレン及びメソ多孔性カーボン等のカーボン;並びに2つ以上の上記材料から成るコンポジット材料。
【0063】
前記担体は以下
から選択される形状であってよい:
顆粒、ビー
ズ、繊維、カーボンナノチューブ等の管、及び板
等の粒子;膜;フェルト;並びにモノリス。
【0064】
有利には、前記担体はビー
ズ等の粒子から成る粉末であってよく、粒径は0.5〜1mmであってよい。
【0065】
有利には、前記担体は50〜500m
2/g、好ましくは100〜200m
2/gのBET比表面積を有する。
【0066】
実際、担体の比表面積が大きい場合、担体に対するグラフトの付着点を最適化することができ、また担体へのナノ粒子の侵入を最適化することができる。
【0067】
有利には、前記固体担体表面に対する前記有機グラフトの化学的付着(結合)は、水、アルコール類及びそれらの混合物から選択される溶媒中において前記固体担体を前記有機グラフトの溶液に接触させることにより行われる。
【0068】
前記溶液は好ましくは水溶液であり、すなわち、溶媒が水のみを含むものである。
【0069】
有利には、前記M
n+イオンを含む溶液はM
n+イオンを含む1つ以上の塩の溶液であり、前記溶液の溶媒は水、アルコール類及びそれらの混合物よりなる群から選択される。
【0070】
前記溶液は好ましくは水溶液であり、すなわち、溶媒が水のみを含むものである。
【0071】
有利には、式[Alk
z][M’(CN)
m]で表される塩及びアルカリ金属Alkの塩等の(M’(CN)
m)
z−の錯体又は塩を含む前記溶液は水、アルコール類及びそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である。
【0072】
前記溶液は好ましくは水溶液であり、すなわち、溶媒が水のみを含むものである。
【0073】
好ましくは、前記洗浄は水、特に超純水により実施される。
【0074】
有利には、ステップc)及びd)は、例えば同一のカラムにおいて静的モード若しくはバッチモード又は動的モードにより実施される。
【0075】
有利には、ステップc)及びd)は、1〜10回、好ましくは1〜4回繰り返してよい。
【0076】
連続ステップc)及びd)の実施に際して回数を変化させることにより、本発明に係る方法により製造される材料の吸着性能を容易に調製することができる。
【0077】
以下、特に実施例の対象である本発明の実施形態を用いて、本発明に係る方法をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】本発明に係る方法により実施例1として調製された2つの材料の、セシウム(単位:mg/g)に対する吸着能Qと含浸サイクル実施回数(1〜4サイクル)との関係を示すグラフである。 含浸サイクルとは、本発明に係る方法における連続ステップc)及びd)をいう。 第1の材料は、前記含浸サイクルを非連続的な「バッチ」モードにより実施して本発明に係る方法により調製したものである(各サイクル回数に対応する値は右側の黒い棒線により示す)。 第2の材料は、前記含浸サイクルを「カラム」中において連続モードにより実施して本発明に係る方法により調製したものである(各サイクル回数に対応する値は左側の白い棒線により示す)。
【
図2】本発明に係る方法により実施例2として調製された2つの材料の吸着能Q(単位:mg/g)と含浸サイクル実施回数(1〜4サイクル)との関係を示すグラフである。 含浸サイクルとは、本発明に係る方法における連続ステップc)及びd)をいう。 第1の材料は、前記含浸サイクルを非連続的な「バッチ」モードにより実施して本発明に係る方法により調製したものである(各サイクル回数に対応する値は右側の黒い棒線により示す)。 第2の材料は、前記含浸サイクルを「カラム」モードで連続モードにより実施して本発明に係る方法により調製したものである(各サイクル回数に対応する値は左側の白い棒線により示す)。
【
図3】合成を最大7サイクル実施する非連続的態様である「バッチ」モードで前記含浸サイクルを行い本発明に係る方法により調製した実施例2の材料の吸着能Q(単位:mg/g)と含浸サイクル実施回数との関係を示すグラフである。
【
図4】非連続的「バッチ」モードにより前記含浸サイクルを5サイクル行い本発明に係る方法により調製した実施例2の材料のX線回折(XRD)パターンである。 縦軸は回折強度(Lin(counts))を示し、横軸は回折角(2−theta)を示す。
【
図5】非連続的「バッチ」モードにより前記含浸サイクルを5回行い本発明に係る方法により調製した実施例2の材料からのセシウム抽出の反応速度を示すグラフである。 横軸は時間(単位:h)を示す。 縦軸は濃度(単位:meq/L)を示す。 記号Aは塩析したK
+([K
+])の濃度を示す。 記号qは塩析したCu
2+([Cu
2+])の濃度を示す。 記号pは、収着したCs
+([Cs
+])の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明に係る方法の第1のステップは、固体担体を調製することを含む。
【0080】
この固体担体を構成する材料の性質は特に限定されない。
【0081】
通常、この担体は1つ以上の無機鉱物材料から成る。
【0083】
また、前記担体の構造及びそれを構成する材料も特に限定されない。
【0084】
すなわち、前記担体は多孔質であっても非多孔質であってもよい。
【0085】
まず、本書において「多孔質」という文言を前記担体に関連して用いる場合、同文言は担体が孔、空洞、空隙を有していることを意味するものであることを定義する。
【0086】
したがって、この多孔質担体の密度は、体積が大きい固体材料として記載する類似の非多孔質担体の理論密度より少ない。
【0087】
孔は互いに接続されていても独立していてもよいが、本発明の多孔質担体においては、大多数の孔は互いに接続され連通している。このことは本書において「開放気孔」又は「連通孔」ともいうが、本発明に係る方法は、孔が連通していない多孔質担体にも適用できる。
【0088】
本発明に係る担体においては、孔は通常、前記担体の第1表面と前記担体の第2の主表面とを接続する濾過孔である。
【0089】
本発明において、担体の密度が理論密度の約95%以下である場合、通常その担体は多孔質であるとする。
【0090】
前記担体の多孔性は広範囲内を取ることができ、通常25〜50%の範囲であってよい。
【0091】
多孔性は通常、窒素吸脱着分析又は水銀圧入測孔法により測定される。
【0092】
本発明に係る方法において用いる担体の多孔性は、ミクロ多孔性、メソ多孔性又はマクロ多孔性等の単一のタイプとする。
【0093】
あるいは、本発明に係る方法において用いる担体は、ミクロ多孔性(直径等の孔径が概ね2nm未満の場合)、メソ多孔性(直径等の孔径が2〜20nmの場合)及びマクロ多孔性(直径等の孔径が20nm〜例えば最大100nmの場合)よりなる群から選択される複数のタイプの多孔性を同時に有していてよい。
【0094】
この多孔性は、整列的、組織的、メソ構造的なもの等の構造的なものであってよく、またそうで無くてもよい。
【0095】
また、前記担体の寸法は特に限定されず、広い範囲を取ることができる。
【0096】
すなわち、前記担体は、具体的には(最大寸法により定義すると)、50〜100nmのナノ視的寸法、100nm〜1mmの微視的寸法、又は1mmを超える巨視的寸法のものであってよい
【0097】
前記担体は上述の形状のいずれであってもよい。
【0098】
すなわち、前記担体の形状は、
粒子、例えば、球体(ビー
ズ)や球状
体、繊維、特にカーボンナノチューブ等の管、
又は板であってよい。
【0099】
しかしながら、特にカラムを用いて行う連続抽出法において前記担体を用い得るようにするためには、前記担体が粉末を形成する粒子の形状であることが通常好ましい。また、この粉末がカラム内圧力損失を低減させる粒度(粒径)を有することがより好ましい。理想的な粒度は0.5mm〜1mmである。
【0100】
粒子の寸法は、その最大寸法、すなわち粒子が球体又は球状体である場合はそれらの直径により定義する。
【0101】
前記担体のカラム内圧力損失を低減する他の好ましい形状としては5mmの寸法の巨視孔を通常有するモノリスがある。
【0102】
有利には、前記担体は窒素吸脱着法又は水銀圧入測孔法による測定値として50〜500m
2/gのBET比表面積を有し、好ましくは100〜200m
2/gのBET比表面積を有する。
【0103】
通常、前記担体は超純水を用いて1回又は複数回洗浄し、例えばオーブンを用いて120℃で24時間乾燥させ、その後前記方法の残りのステップを行う。
【0104】
以下において説明する前記有機グラフトの化学的付着(結合)ステップ及び前記グラフトに対し前記担体の少なくとも1つの表面において結合するCN配位子を有する金属配位高分子のナノ粒子の調製ステップは、次の点を除きFolchらによる先行技術文献(非特許文献1、特許文献1及び特許文献2)に記載の方法におけるステップと略同様である。すなわち、相違点としては、これら先行技術文献においては、用いる多孔質担体はメソ多孔質シリカ若しくは多孔質ガラスから成る特定の多孔質担体又は特に膜状の担体に限定されていること、また本発明によれば、ステップd)において、ステップc)により得た前記グラフト化した固体担体を、式[Alk
z][M’(CN)
m]により表される塩等の(M’(CN)
m)
z−の錯体又は塩のみを含有する溶液にではなく、
式[Alk
z][M’(CN)
m]により表される塩等の(M’(CN)
m)
z−の錯体又は塩を含有する溶液に接触させ、更にアルカリ金属Alkの塩に接触させることがある。
【0105】
よって、特にこれらステップにおいて用いる試薬及び操作条件並びにナノ粒子の説明及びそのグラフトを介した担体表面への付着について、上記先行技術文献を参照可能である。
【0106】
第一のステップでは、固体担体の少なくとも1つの表面に対する有機グラフト(有機錯体ともいう)の化学的付着(結合)を行う。
【0107】
この付着(結合)は担体の外面に対して行い、前記担体が多孔性である場合、前記付着(結合)はまた担体の孔内において、より正確には孔内壁面に対して行う。
【0108】
このステップは官能化ステップともいう。
【0109】
換言すれば、この第一のステップにおいて、前記担体の少なくとも1つの表面、すなわち外表面に対する有機グラフトの接合を行い、また前記担体が多孔質の場合は任意に、孔内に対する有機グラフトの接合を行う。
【0110】
前記有機グラフトはナノ粒子を付着させるための官能基ともいう有機基R2を含む。
【0111】
ナノ粒子を付着させるための官能基とはM
n+カチオンと有機金属結合又は配位結合を形成することのできる基、すなわちM
n+カチオンを錯体化することができる基である。
【0112】
このような有機基の例は上述の通りである。
【0113】
例えば、特に窒素含有有機基、酸素含有有機基及びリン含有有機基である。
【0114】
好ましい有機基は、二座ジアミノエチレン基(実施例1)である。
【0115】
前記有機基(官能アンカー基)は前記担体の少なくとも1つの表面に直接結合してよく、通常は、前記グラフトの結合基R1の前記表面、より正確には前記表面に存在する基とのとの反応により前記固体担体の少なくとも1つの表面に対し通常は共有結合により通常化学的に結合(付着)する。
【0116】
このように前記グラフトは、官能アンカー基R2ともいう有機基と、前記固体担体の少なくとも1つの表面に対し確実に共有結合させる基R1とを備えている。
【0117】
通常、前記官能アンカー基R2と前記有機グラフトの結合基R1とは、連結アームと、1〜10個の直鎖アルキレン基の炭素原子を有する直鎖アルキレン基、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する−(CH
2)
2−基等のL基とにより連結される。
【0118】
前記グラフトの共有結合を確実にする基は、上述の通り、トリアルコキシシラン基、トリエトキシシラン基及びトリメトキシシラン基等のシラン基並びにジアルキルホスホネート基、ジエチルホスホネート基等のホスホネート基よりなる群から選択され得る。
【0119】
通常、前記シラン基及びホスホネート基は、通常前記担体の表面に存在するヒドロキシル基との前記有機基の反応による共有結合を可能にする。前記担体の表面と前記グラフトとの間における結合により−O−Si結合又は−O−P結合が形成される。
【0120】
前記固体担体の表面が主にシリカから成る場合、前記グラフトの共有結合を確実にする基は延期し自体の表面に存在するシラノール基と反応する。
【0121】
表面が基本的に酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウムから成る担体の場合、ホスホネート基により結合が優先的に形成され、これによりグラフト接合ステップにおける水溶液の使用が可能となる。
【0122】
前記固体担体の表面に対するグラフトの結合(付着)を得るために、この固体担体を、前記担体の表面との反応により前記担体の表面に対して特に共有結合により化学的に結合可能な前記官能アンカー基(結合基)と、任意には前記官能アンカー基と前記結合基とを結合(連結)する結合基Lとを含む化合物に接触させる(ここで「グラフト」は、簡約すれば、付着(結合)前の前記化合物と付着(結合)後の化合物の両方を指す)。
【0123】
上述の通り、この結合基はトリアルコキシシラン基又はジアルキルホスホネート基よりなる群から選択してよく、前記固体担体の表面に存在し得る水酸基と反応する。
【0124】
前記接触は通常、前記固体担体を、官能アンカー基R2、結合基R1及び任意に連結器Lを溶媒に含む前記化合物(グラフト)の溶液と接触させることにより行う。
【0125】
これにより、前記膜及び前記膜担体を溶媒中において2−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシ−シランの溶液、二座アミンホスホネートの溶液又は(CH
3O)
3Si(CH
2)
2C
5H
4Nの溶液に接触させることができる。
【0126】
二座アミンホスホネートを用いる場合の好ましい溶媒は蒸留水又は超純水である。(CH
3O)
3Si(CH
2)
2C
5H
4Nを用いる場合の好ましい溶媒はトルエンである。2−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシ−シランを用いる場合の好ましい溶媒はエタノールである。
【0127】
前記接触は動的モードにより実施してよい。すなわち、前記担体を閉回路を循環する化合物の溶液流と接触させることにより実施してよい。
【0128】
あるいは、前記接触は「静的モード」により実施してもよい。例えば、前記固体担体を前記溶液を含む容器に投入し、溶媒を加熱、任意には加熱還流する。
【0129】
前記接触の時間は通常4〜96時間であり、「動的モード」の場合は96時間、「静的モード」の場合は12〜48時間、例えば24時間である。
【0130】
官能化された(グラフト化された)固体担体は、次いで例えば濾過により溶媒から分離される。
【0131】
接触後、通常、グラフト化された固体担体を蒸留水又は超純水により、次いで任意にアセトンにより、例えば1時間洗浄する。この洗浄時間は動的モードと静的モードのいずれにおいても同様である。
【0132】
次いで任意に、前記グラフト化された固体担体を例えば室温で10時間〜4日間、例えば3日間乾燥させる。
【0133】
この第一のステップが完了すると、エチレンジアミン基等の有機基を有する官能化された固体担体が得られる。
【0134】
次いでCN配位子を有する金属配位高分子を固体担体の表面において成長させる第二のステップを行う。
【0135】
この成長は、2つの連続した、任意には繰り返し行うステップにより実施する。
【0136】
これらステップは本発明に係る方法のステップc)及びd)であり、これら連続ステップは含浸サイクルというサイクルを形成している。このサイクルは任意には繰り返し行う。
【0137】
この連続ステップのうち1つのステップにおいては、まず、前記有機グラフトが表面に結合する前記固体担体を通常金属塩であるM
n+イオンを含有する溶液と接触させる。
【0138】
有利には、この溶液の溶媒は水であってよい。
【0140】
この溶液に含まれる金属塩は、その金属が通常シアノメタレート及びヘキサシアノフェレート等の金属から選択される不溶性の金属塩である。
【0141】
この金属は銅、コバルト、亜鉛、ニッケル及び鉄等のあらゆる遷移金属から選択することができる。よってM
n+イオンはFe
2+、Ni
2+、Fe
3+、Co
2+、Cu
2+及びZn
2+イオンから選択してよい。
【0142】
前記金属塩は例えば、上記金属Mの何れか1つの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩であってよく、任意には水和物であってよい。
【0143】
前記金属塩は例えば硝酸銅であってよい。
【0144】
溶液中の金属塩の濃度は、好ましくは0.01〜1mol/L、より好ましくは0.01〜0.05mol/Lである。
【0145】
使用する塩の量は、更に好ましくは、処理済固体担体に対し約0.1〜1mmol/gである。
【0146】
有利には、M
n+イオンを含む溶液の溶媒は水であってよい。
【0147】
前記接触は固体担体含浸ステップともいい、通常室温で4〜96時間行う。
【0148】
この接触は、「バッチ」モードともいう静的モードにより実施してよく、好ましくは撹拌下で行う。この場合の処理時間は通常12〜96時間である。この接触はあるいは「カラム」モードともいう動的モードにより実施してよく、この場合の処理時間は通常4〜24時間である。
【0149】
この接触完了後、固体担体は、M
n+カチオンが前記グラフトの官能アンカー基に対し有機金属結合又は配位結合により結合している固体担体が得られる。
【0150】
これにより、前記有機基がエチレンジアミン基である場合、窒素原子の1つとM
n+カチオンとの間に結合が形成され、前記有機基がピリジン基である場合、環の窒素とM
n+カチオンとの間に結合が形成される。
【0151】
接触完了後、前記固体担体を洗浄する工程に進む。
【0152】
静的モードの場合、通常、前記固体担体を溶液から取り出して洗浄する。
【0153】
動的モードの場合、固体担体は溶液から取り出さずにそのまま洗浄する。
【0154】
前記洗浄は前記固体担体を1回又は複数回、例えば1〜3回洗浄することを含み、好ましくはM
n+溶液の溶媒と同じ水等の溶媒により行う。
【0155】
この洗浄操作により余分な金属塩の除去が可能となり、所望の組成を完全に備えた安定した製品を得ることができる。
【0156】
次いで任意に乾燥を行うが、必ずしも行わなくともよい。
【0157】
次いで、上記の金属カチオンM
n+と反応した固体担体を(Cat)
z[M’(CN)
m]等の(M’(CN)
m)
z−、好ましくはAlk
z[M’(CN)
m]、より好ましくはK
z[M’(CN)
m]の錯体(塩ともいう)の溶液と接触させ;更にアルカリ金属Alkの塩と接触させる。
【0158】
前記アルカリ金属はLi、Na及びKから選択してよい。
【0160】
前記アルカリ金属の塩は、前記溶液にまた含まれる(M’(CN)
m)
z−の塩又は錯体とは異なる。
【0161】
前記アルカリ金属の塩は、硝酸カリウム等のアルカリ金属Alkの硝酸塩、硫酸塩及びハロゲン化物(塩化物、ヨウ化物、フッ化物)から選択してよい。
【0162】
好ましくは、この溶液の溶媒は水であってよい。
【0164】
固体担体含浸ステップともいう前記接触は通常、室温で2〜96時間行う。
【0165】
この接触は静的モード(又は「バッチ」モード)により実施してよく、この場合の処理時間は通常12〜96時間である。あるいはこの接触は動的モードにより実施してよく、この場合の処理時間は通常2〜24時間である。
【0166】
前記錯体は通常、以下の式を満たす:(Cat)
z[M’(CN)
m]
ここでM’、m及びzは、上述の意味を有し、Catは通常、K及びNaなどのアルカリ金属Alkのカチオン、アンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウム(「TBA」)等の第四級アンモニウムのカチオン、テトラフェニルホスホニウム等のホスホニウムカチオン、(「PPh
4」)よりなる群から選択される一価のカチオンである。好ましい錯体は、式Alk
z[M’(CN)
m]で表される錯体であり、更に好ましくは例えばK
4Fe(CN)
6等のK
z[M’(CN)
m])の錯体である。
【0167】
用いることができる他の錯体は、例えば式[N(C
4H
9)
4]
3[M’(CN)
m]で表される錯体、式[N(C
4H
9)
4]
3[Fe(CN)
6]で表される錯体、式[N(C
4H
9)
4]
3[Mo(CN)
8]で表される錯体及び式[N(C
4H
9)
4]
3[Co(CN)
6]等の式[N(C
4H
9)
4]
x[M’(CN)
m]で表される錯体である。
【0168】
前記溶液中の錯体の濃度は通常0.001〜1mol/Lであり、好ましくは0.001〜0.05mol/Lである。
【0169】
アルカリ金属の塩の濃度は通常0.001〜1mol/Lであり、好ましくは0.001〜0.05mol/Lである。
【0170】
有利には、前記錯体の濃度は前記アルカリ金属の塩の濃度と同様ある。
【0171】
一方、用いる塩の溶液又は用いる[M’(CN)
m]
z−の錯体の溶液は通常、含浸前の固体担体を含む含浸後の担体の質量に対する前記塩又は錯体の質量比が0.1〜5mmol/gとなるように調製する。
【0172】
これにより[Fe(CN)
6]
4−等の錯体のアニオン部分[M’(CN)
m]
z−のM
n+カチオンに対する付着が生じ、また同時に結晶の構造中にアルカリ金属が挿入される。この付着は媒体に応じて比較的強い共有結合型の結合の形成により生じ、またこの付着は通常、定量的である。すなわち、すべてのM
n+カチオンが反応する。したがって、この付着は無作為のものではない。
【0173】
前記錯体又は塩にAlk
z[M’(CN)
m]等のアルカリ金属を任意に存在させること、また特に含浸溶液に添加したアルカリ金属の塩を追加的に存在させることにより、結晶構造全体に渡りアルカリ金属が付着する。
【0174】
このため、錯体に存在させるAlk
z[M’(CN)
m]等のアルカリ金属Alkと含浸溶液に添加するアルカリ金属とを同一のものとする。
【0175】
接触完了後、前記固体担体の洗浄工程に進む。
【0176】
静的モードの場合、通常、前記固体担体を溶液から取り出して洗浄する。
【0177】
動的モードの場合、固体担体は溶液から取り出さずにそのまま洗浄する。
【0178】
前記洗浄は前記膜及び膜担体を例えば1〜3回洗浄することを含み、好ましくは錯体溶液の溶媒と同じ超純水等の溶媒により行う。
【0179】
この洗浄操作はM
n+カチオンに付着(結合)しなかった[M’(CN)
m]
z−の錯体を除去するために行うもので、これにより、放出され得る遊離した未結合の[M’(CN)
m]
z−を含まない担体が得られる。
【0180】
前記固体担体とM
n+金属カチオンとを接触させるステップ、(1回以上の)洗浄ステップ、前記固体担体と[M’(CN)
m]
3−等の[M’(CN)
m]
z−の塩又は錯体及びアルカリ金属塩を含む溶液とを接触させるステップ、及び(1回以上の)洗浄ステップを含む連続ステップは1回のみ行ってもよく、あるいは通常、1〜4回、5回、6回、7回などの1〜10回の回数で繰り返してもよく、これにより前記ナノ粒子の粒径を完全に調整することができる。
【0181】
鉱物結合剤の重量含有率、すなわち不溶性金属ヘキサシアノフェレート及び式[Alk
+x]M
n+[M’(CN)
m]
z−で表されるアルカリ金属の重要含有率は通常、前記固体担体の質量に対し1〜10%である。
【0182】
本発明に係る方法により製造される固体ナノ複合材料は、少なくとも1つの溶液中の金属カチオン等の鉱物性汚染物質を付着(結合)させるための方法(ここで前記溶液は鉱物性汚染物質を付着(結合)させる前記コンポジット固体材料に接触させる)に特に適用可能であるが、これに限らない。
【0183】
本発明に係る方法により製造される材料は、優れた交換能力、優れた選択性、高反応速度等の優れた特性を有しているので、このような使用に特に適している。
【0184】
この優れた効率は、不溶性ヘキサシアノフェレート等の鉱物結合剤の使用量が低減されることにより得られる。
【0185】
更に、本発明に係る方法により調製される材料の固有の構造から得られる優れた機械的強度及び安定特性により、カラム内における材料の調整と前記付着(結合)方法の例えば流動層における連続的実施とが可能となり、そのため、本発明に係る方法調製される材料は複数のステップを含む処理チェーン等の既存の施設に容易に統合可能である。
【0186】
本発明に係る材料が優れた化学的安定性を有しているので、本発明に係る方法により調製される鉱物性汚染物質を付着(結合)させるコンポジット固体材料を用いて処理可能な溶液は非常に広汎に渡り、腐食剤、酸剤その他の薬品さえ含む。
【0187】
特に、本発明に係る方法により製造される材料は非常に広い範囲のpHにおいて用いることができる。例えば、濃度が例えば0.1〜3Mの範囲である窒素水溶液、pH10以下の酸性又は中性溶液を処理可能である。本発明に係る方法により製造される材料により付着(結合)させることが可能な鉱物性汚染物質は、溶液中に存在する金属又はその同位体、好ましくは当該金属の放射性同位体に由来するあらゆる汚染物質を含む。
【0188】
この汚染物質は、好ましくはアニオン錯体、コロイド、カチオン及びこれらの混合物のよりなる群から選択される。
【0189】
好ましくは、前記汚染物質は、Tl、Fe、Cs、Co、Ru、Ag並びにこれらの同位体及び
58Co、
60Co、
55−59Fe、
134Cs、
137Cs、
103,105,105,107Ru等の放射性同位体よりなる群から選択されるものであってよい。前記金属カチオンは特にセシウムCs
+又はタリウムTl
2+である。
【0190】
前記アニオン錯体は例えばRuO
42−である。
【0191】
本発明に係る方法により製造される材料の好ましい使用はヘキサシアノフェレートによるセシウムの選択的付着(結合)であり、この使用は原子力産業において排出される液体のガンマ活性の制御に広く貢献するものである。
【0192】
カチオン等の汚染物質の限界濃度は広範囲に渡る:例えば、いかなる汚染物質についても0.1ピコグラム〜100mg/L、好ましくは0.01mg/L〜10mg/Lである。
【0193】
本発明に係る方法により製造される材料により処理される溶液は好ましくは水溶液であり、付着(結合)させるカチオン等の汚染物質に加えその他のNaNO
3やLiNO
3更にAl(NO
3)
3等の塩を含む溶液並びにその他のあらゆるアルカリ土類金属の可溶塩を2mol/L以下の濃度で含む溶液であってよい。また前記溶液は、上述の通り、酸、塩基及び有機化合物さえ含んでいてよい。
【0194】
また、処理される溶液は、エタノール(無水アルコール)、アセトン若しくはその他の純粋有機溶媒の溶液であってよく、これら有機溶媒の混合物の溶媒の溶液であってよく、又は水とこれら有機溶媒のうち水に対する混和性を有する1つまたは複数のものの混合物の溶媒の溶液であってもよい。
【0195】
このように、本発明に係る方法により調製される材料は、有機樹脂で処理できない溶液を処理することができるという効果を有する。
【0196】
この溶液は、特に原子力産業及び原子力施設から又は原子力産業に関連するその他全ての活動から生じる処理液又は工業廃液その他に存在するものであってよい。
【0197】
本発明に係る方法により調製される材料により処理可能な原子力産業、原子力施設及び放射性核種に係る活動から生じる各種排液は、例えば動力炉で用いる冷却水、放射性同位体に接触するあらゆる洗浄水、樹脂再生に用いる溶液その他のすべての各種排液を含む。
【0198】
本発明に係る方法により製造される材料はまた、他の非核分野における活動、産業分野における活動及びその他の分野における活動にも当然に適用可能である。
【0199】
このように、ヘキサシアノフェレートはタリウムを選択的に付着(結合)させるものであり、この特性を、セメント工場からの廃水を浄化し、またこれら排出物中の毒性の強い元素を除去する又は低減させるために利用することができる。
【0200】
上述の通り、本発明に係る方法により製造される材料を適用した付着(結合)方法は、本発明に係る方法によりナノコンポジット材料を好ましくは粒子として調製するステップ、次いでカラム内における材料の調整ステップ、及び前記材料を前記処理対象溶液により流体化することにより好ましくは流動層を形成するステップを連続的に行うことが好ましく、またこれに限らず前記付着(結合)方法は「バッチ」モードにより非連続的にも行うことができ、この場合は交換のための材料と処理対象溶液との接触は撹拌により行う。カラムによる調整により、大量の溶液を高い流速で連続的に処理することが可能となる。
【0201】
本発明に係る方法により製造される材料で処理される溶液の接触時間は可変であり、「バッチ」処理による連続的操作の場合は1分〜1時間の範囲であり、例えば10分から25時間、好ましくは10分〜24時間である。
【0202】
付着(結合)方法が完了すると、溶液中のカチオン等の汚染物質は本発明に係る固定(交換)ナノコンポジット材料中に吸着されることにより、すなわち前記固体担体にそれ自体結合する前記ナノ粒子によるイオン交換若しくは吸着又は前記ナノ粒子の構造内でのイオン交換若しくは吸着により固定化される。
【実施例】
【0203】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、これら実施例は説明のためのみのものであり本発明を限定するものではない。
【0204】
実施例1
本実施例は、本発明に係る方法を、担体として多孔質ガラスを用い有機配位子としてジアミンを用いた場合に適用したものである。
プルシアンブルー類似体を接合させるための担体として市販の多孔質ガラス(TRISPOR(登録商標))を用いた。これは粒径200〜500μmの顆粒であり、孔径は30nm、比表面積は130m
2/gである。
この多孔質ガラスにフェロシアン化銅カリウム(K
2Cu(Fe(CN)
6))を挿入するための操作モードは次の通りである:
【0205】
1.有機配位子R1−(CH
2)
p−R2のグラフト化
本実施例におけるこのステップ(本発明に係る方法のステップb))のために用いる配位子は、ABCR(他にも供給業者は多数存在するが)により市販の2−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシシランである。
−CAS番号:1760−24−03
−分子式:
3(CH
3O)Si(CH
2)
3NH(CH
2)
2NH
2
−モル質量:222.36g/mol
−構造式:
【0206】
【化1】
【0207】
(ここでR1はトリメトキシシランを示し、R2はジアミン基を示す。)
【0208】
アミン官能基を有するこの配位子の多孔質ガラスの表面に対するグラフト化として、主真空下、担体の粉末10gを250mLのフラスコ中で130℃で16〜20h(一晩)加熱する活性化ステップを行った。
【0209】
活性化ステップ終了後、エタノール250mLと前記配位子1mLをフラスコに投入した。フラスコごとオーブンに入れ60℃で16〜20時間加熱した。反応液を濾過後、グラフト化された粉末を水により、次いでアセトンにより洗浄し、室温で約3日間乾燥した。
【0210】
2.担体に対するフェロシアン化物粒子の含浸
フェロシアン化銅粒子を前記担体内で成長させるため、この第2の合成ステップを行った。
前記により得たグラフトを担体にSi−O−Si結合により結合させた。
この第二のステップでは、まず、第1の反応として、Cu−N結合を形成するため、アミノ化した錯体を銅の塩と反応させ、次いで第2の反応として、第1の反応により得た製品をフェロシアン化カリウムの塩と反応させ化合物(K
2Cu(Fe(CN)
6)を成長させた。
【0211】
本発明において、この化合物の合成を再現可能とするため、第2の反応においてカリウム塩を加えことも必要である。実際、先行技術文献記載の全ての実施例から分かる通り、この合成をカリウム塩類を加えずに行うと不定比化合物K
2xCu
II2−xFe
II(CN)
6が得られる。
【0212】
第1の反応と第2の反応を行うためには、2つの含浸溶液S1及びS2が必要である。
【0213】
第1の反応を行うために必要な第1の溶液S1は銅塩、すなわちCuNO
3(10
−2mol/L)を含むもので、第2の反応を行うために必要な第2の溶液S2はフェロシアン化カリウム塩K
4Fe(CN)
6(10
−2mol/L)とカリウム塩KNO
3(10
−2mol/L)との混合物を含む。
【0214】
含浸サイクルでは、グラフト化した担体を「バッチ」モード又は「カラム」モードにより、まず溶液S1に接触させ、水により洗浄し次いで、第2の溶液S2に接触させる。
【0215】
すなわち、含浸を、グラフト化した担体3gを異なる含浸溶液S1、S2(1L)に連続的に接触させる「バッチ」モード又はグラフト化した担体3gをカラムに投入し含浸溶液S1、S2(1L)を連続的にカラムに通す「カラム」モードにより実施した。
【0216】
各サイクルの後、このように合成した材料の吸着能を測定するため少量の粉末を採取した。このサンプルに対し、0.1mmol/lの硝酸セシウムと1mmol/lの硝酸ナトリウムとの溶液を用いて基準試験を行った。前記材料25mgをCsとNaとを含むこの溶液(50mL)中に投入し、約20時間反応させた。材料の最終的な吸着能を評価するため、反応開始前の溶液と反応終了時の溶液についてCs濃度の分析を行った。この吸着能は次の式で表される:
【0217】
【数1】
【0218】
ここで[Cs]
iは反応開始前のCs濃度を示し、[Cs]
fは反応終了時のCs濃度を示す;Vは溶液の体積を示し、mは用いた材料の質量を示す。
【0219】
図1は、上記のように含浸を「バッチ」モードで行う方法により調製した材料のCs吸着能の測定結果及び含浸を「カラム」モードで行う方法により調製した材料のCs吸着能の測定結果を示す。
【0220】
Cs吸着能は、3サイクルの含浸を「バッチ」モードにより行い調製した材料と「カラム」モードにより行い調製した材料とのいずれにおいても約18mg/gと同様であった。
【0221】
しかしながら、「カラム」モードで含浸を行い調製した材料の吸着能は4回目の含浸サイクルにおいて低下が見られ、このことは「カラム」モードで含浸を行い調製した材料においては生じない、孔の目詰まりという現象が生じていることを示す。
実施例2
【0222】
本実施例は、本発明に係る方法を、配位子の接合によりすでにアミン官能基を備えている市販のシリカゲルを担体として用いた場合に適用したものである。
【0223】
このシリカゲルはSigma Aldrich(R)社より入手可能であり、以下の特性を有している:
・孔径=60Å
・粒径:40〜63μm
・比表面積:550m
2/g
・[NH2]=1mmol/g(9%)
したがって、必要な操作は含浸ステップのみであるが、担体の入手コストが高いため合成の費用も高くなる。
【0224】
フェロシアン化銅カリウムを用いた含浸サイクルを実施例1と同様の条件下、すなわち「バッチ」モードと「カラム」モードのそれぞれにより実施した。
【0225】
Cs抽出試験も実施例1と同様の条件下で実施した。
・「バッチ」モード、「カラム」モードそれぞれの含浸モードの効果
【0226】
「バッチ」モードを実施して上記のように調製した材料のセシウム吸着能の測定結果と「カラム」モードで含浸を行う方法により上記のように調製した材料のセシウム吸着能の測定結果とを比較した。
【0227】
図2は、上記のように含浸を「バッチ」モードで行う方法により調製した材料のセシウム吸着能の測定結果及び含浸を「カラム」モードで行う方法により調製した材料のセシウム吸着能の測定結果を示す。
【0228】
実施例1と同様、Cs吸着能は、3サイクルの含浸を「バッチ」モードにより行い調製した材料と「カラム」モードにより行い調製した材料とのいずれにおいても約40mg/gと同様であった。
【0229】
また実施例1と同様に、「バッチ」モードで含浸を行い調製した材料の4回目の含浸サイクル後の吸着能の方が遙かに高かった。
・含浸回数の効果
【0230】
次いで、含浸を「バッチ」モードで最大7サイクル行い合成を続けた。
図3は、このように調製した材料のセシウム吸着能測定結果と含浸サイクル実施回数との関係を示す。
【0231】
この場合の吸着能には連続的変化が観察されたが、このことは材料の合成に際し含浸サイクルの実施回数を操作することにより容易に所望の吸着能に制御可能であることを示す。
【0232】
この吸着能は、7サイクル実施後には固体1gあたりの吸着セシウム量が90mgと非常に高くなった。
・材料特性の検討
【0233】
本実施例において5サイクルの含浸を「バッチ」モードにより行い上記のように調製した材料について、5サイクル実施後の特性を異なる手法により検討した。
【0234】
図4に示すX線回折パターンは、フェロシアン化銅カリウム(K
2Cu(Fe(CN)
6)とシリカのピークを明らかに示している。
・セシウム吸着の反応速度
【0235】
最後に、本実施例の材料のカラムにおける使用のため、5サイクルの含浸を「バッチ」モードにより行う方法を実施して上記のように調製した材料について動力学試験を行った。
【0236】
この動力学試験は、材料20mgを廃液50mLに異なる反応時間により接触させ撹拌することを含む。
【0237】
図5において、1つの動力学的点が1つの試験に対応している。
【0238】
すなわち、各接触時間ごとに、材料20mgを廃液50mLに接触させて試験を実施した。
【0239】
反応開始前の溶液は、100mg/LのCsをCsNO
3の形で溶解させた超純水から成るものを用いた。反応開始前の溶液におけるCs濃度と接触完了後の反応終了後の溶液をイオンクロマトグラフィにより分析し、これら溶液におけるカリウム及び銅の濃度をイオン結合プラズマ吸着エネルギー分光分析法(ICP−AES:Ionic Coupled Plasma - Adsorption Energy Spectroscopy)により分析した。
【0240】
図5に全動力学的試験の結果を示す。
【0241】
動力学的試験の結果は、この材料のCsの吸着は溶液中のCsと固体のカリウムイオンとの間におけるイオン交換によりもたらされることを明らかに示している。
【0242】
溶液中の銅は塩析しなかった。したがって、本発明に係る方法により調製した本実施例の材料は、本発明に係る方法により調製されない市販の吸着剤と比較して非常に有利な特性を有する。