【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ガラス基板物品に、光学コーティング、例えば、ARコーティング、およびETCコーティングの両方を、最初に光学コーティングの、次にETCコーティングの連続工程で、光学コーティングとETCコーティングの施用中に常にその物品を大気に曝露せずに実質的に同じ手法を使用して施すことのできるプロセスに関する。信頼性のあるETCコーティングは、ガラス、透明導電コーティング(TCO)、および光学コーティングの表面に潤滑性を提供する。ガラスと光学コーティングの耐摩耗性は、最新式の2段階プロセスよりも10倍超、またはその場での1工程プロセスによるETCコーティングのないARコーティングよりも100〜1000倍良好である。その上、ETCコーティングは、設計段階では光学コーティングの一部と考えられ、光学性能を変化させないように設計される。
【0008】
光学コーティングとしては、反射防止コーティング(ARC)、バンドパスフィルタ、エッジニュートラルミラーとビームスプリッター、多層高反射コーティング、エッジフィルタおよび他の光学目的のためのコーティングが挙げられる("Thin Film Optical Filter,", 3rd edition, H.Angus Macleod. Institute of Physics Publishing Bristol and Philadelphia, 2001を参照)。光学コーティングは、ディスプレイ、カメラレンズ、通信コンポーネント、医療機器と科学機器に、またフォトクロミック用途とエレクトロクロミック用途、光起電装置、および他の要素と装置にも使用できる。ETCコーティングは、光学コーティングと同じ槽内で光学コーティング上に施すことができ、またはETC被覆槽から光学被覆槽を分離する真空封止または遮断弁を備えた別の槽内で施しても差し支えない。
【0009】
その場被覆プロセスの別の実施の形態は、プラズマ支援化学蒸着(PECVD)法であり、ここでは、例えば、制限するものではなく、基板が、示された順序にSiO
2のテトラエトキシシラン(TEOS)前駆体とTiO
2のチタンイソプロポキシド(TIPT)前駆体で連続的に被覆され、SiO
2層が最後の層である、「SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/基板」物品を形成するために、ARCが基板上に堆積される(Deposition of SiO
2 and TiO
2 thin films by plasma enhanced chemical vapor deposition for antireflection coating, C.Martinet, V.Paillard, A.Gagnaire, J.Joseph, Journal of Non-Crystalline Solids, Volume 216, 1997年8月1日, 77-82頁)。ETCコーティングは、例えば、ARCを仕上げた後に、Dow−Corning DC2734および前駆体としての溶媒を含むダイキンDSXを使用して、ARCのSiO
2キャッピング層上に施される。
【0010】
TCOコーティングとしては、ITO(インジウムスズ酸化物)、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、IZO(Zn安定化酸化インジウム)、In
2O
3、および当該技術分野で公知の他の二成分酸化物と三成分酸化物が挙げられる。
【0011】
随意的なコーティングは、屈折率が高い、中位、および低い材料からなる。例示の高屈折率材料(n=1.7〜3.0)は、ZrO
2、HfO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、TiO
2、Y
2O
3、Si
3N
4、SrTiO
3、WO
3である。例示の中屈折率材料(n=1.6〜1.7)は、Al
2O
3である。例示の低屈折率材料(n=1.3〜1.6)は、SiO
2、MgF
2、YF
3、YbF
3である。光学コーティングは、選択された光学機能、例えば、制限するものではなく、反射防止特性を提供するために、少なくとも1つのコーティング周期を含まなければならない。1つの実施の形態において、光学コーティングは複数の周期からなり、各周期は、1つの高屈折率材料と1つの低または中屈折率材料からなる。通常は各周期で同じ材料が使用されるが、異なる周期に異なる材料を使用することも可能である。例えば、2つの周期のARコーティングにおいて、第1の周期はSiO
2のみであり、第2の周期はTiO
2/SiO
2であって差し支えない。この能力を使用して、ARCを含む複雑な光学フィルタを設計することができる。ある場合には、ARCは、ただ1つの材料、例えば、フッ化マグネシウムを50nm超の厚さで使用して堆積させても差し支えない。
【0012】
PVD被覆(ETCの熱蒸発により、スパッタリングされたまたはIAD−FB被覆されたARC)の重要な利点の1つは、基板の温度が100℃未満であり、その結果、化学強化(chemically tempered)ガラスの強度が低下しない「低温」プロセスであることである。「IAD」は「イオンアシスト蒸着(ion-assisted deposition)」を意味し、これは、イオン源からのイオンが、堆積されるときにコーティングに衝突することを意味する。それらのイオンを使用して、被覆前に基板表面をクリーニングすることもできる。
【0013】
1つの態様において、本開示は、その上に光学コーティングを有し、この光学コーティングの上面にクリーニング容易なETCコーティングを有するガラス物品を製造するプロセスにおいて、
光学コーティングおよびETCコーティングの堆積のための少なくとも1つの槽を有する被覆装置を用意する工程、
前記少なくとも1つの槽内に、光学コーティングのための少なくとも1つの供給材料およびETCコーティングのための供給材料を提供する工程であって、光学コーティングを製造するために複数の供給材料が必要な場合、その複数の供給材料の各々が別個の供給材料容器内に提供される工程、
被覆すべき基板であって、長さ、幅、厚さ、および長さと幅(もしくは円形または楕円形の基板については直径)により画成されるガラスの表面間の少なくとも1つの縁を有する基板を提供する工程、
前記槽を10
-4トル以下の圧力に排気する工程、
基板上に少なくとも1つの光学コーティング材料を堆積させて、光学コーティングを形成する工程、
光学コーティングの堆積を停止する工程、
光学コーティングの堆積に続いて、光学コーティングの上面にETCコーティングを堆積させる工程、
ETCコーティングの堆積を停止し、光学コーティングおよびETCコーティングを有する基板を槽から取り出し、それによって、光学コーティングおよびETCコーティングを有するガラス物品を提供する工程、および
この物品を、40%<RH<100%の範囲にある相対湿度RHを有する湿潤環境または空気中において5〜60分の範囲の時間に亘り60〜200℃の範囲の温度で後処理して、ETCコーティングと基体との間の強力な化学結合およびETC分子間の架橋を生成する工程、
を有してなるプロセスに関する。その光学コーティングは、1.7〜3.0の範囲の屈折率を有する高屈折率材料Hと、(i)1.3〜1.6の範囲の屈折率を有する低屈折率材料Lおよび(ii)1.6〜1.7の範囲の屈折率を有する中屈折率材料Mからなる群より選択される1つの材料との交互の層からなる、H(LまたはM)または(LまたはM)Hの順序で配置された多層コーティングであり、各H(LまたはM)または(LまたはM)Hの層の対がコーティング周期と考えられ、各個々の周期におけるH層およびL(またはM)層の厚さが5nmから200nmの範囲にある。別の実施の形態において、光学コーティングは、選択された厚さ、例えば、50nm超まで堆積された、ただ1つの材料、例えば、フッ化マグネシウムである。後処理後、過剰な未結合のETC材料を除去するために、ARコーティングおよびETCコーティングを有する物品を拭くことができる。光学コーティングに化学結合したETCコーティングの厚さは、1nmから20nmの範囲にある。その上、ETCコーティングとARコーティングとの間に強力な化学結合を形成するための後処理後、その物品は、8番のスチールウールと1cm
2の表面積に印加される1kg重の荷重を使用して、5,500回の摩耗サイクル後に少なくとも70°の平均水接触角を有する。
【0014】
1つの実施の形態において、光学コーティングは、高屈折率材料および低(または中)屈折率材料の交互の層からなる多層コーティングであり、各層の高/低(または中)屈折率対がコーティング周期と考えられる。周期の数は1〜500の範囲にある。1つの実施の形態において、周期の数は2〜200の範囲にある。さらに別の実施の形態において、周期の数は2〜100の範囲にある。追加の実施の形態において、周期の数は2〜20の範囲にある。多層コーティングは、100nmから2000nmの範囲の厚さを有する。高屈折率材料は、ZrO
2、HfO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、TiO
2、Y
2O
3、Si
3N
4、SrTiO
3およびWO
3からなる群より選択される。低屈折率材料は、シリカ、溶融シリカ、フッ素ドープト溶融シリカ、MgF
2、CaF
2、YFおよびYbF
3からなる群より選択され、中屈折率材料はAl
2O
3である。ETC材料は、式(R
F)
ySiX
4-yのペルフルオロアルキルシランであり、式中、R
Fは、直鎖のC
6〜C
30ペルフルオロアルキル基であり、X=−Clまたは−OCH
3、y=2または3。このペルフルオロアルキル基は、3nmから50nmの範囲の炭素鎖長を有する。このプロセスの実施の形態において、光学コーティングおよびETCコーティングは、ただ1つの槽内で連続的に堆積され、ETCコーティングは光学コーティングの上面に堆積される。このプロセスの別の実施の形態において、光学コーティングは第1の槽内で堆積され、ETCコーティングは、第2の槽内で光学コーティングの上面に堆積され、これら2つの槽は、その上に光学コーティングを有する基板を第1の槽から第2の槽へ、基板/コーティングを大気に曝露せずに移すための真空シール/分離ロックにより接続されている。さらに別の実施の形態において、第1の槽は、偶数の光学コーティング副槽に分割されており、その数は2〜10の副槽の範囲にあり、ここで、偶数の副槽は、高屈折率材料または低屈折率材料のいずれか一方を堆積させるために使用され、奇数の副槽は、高屈折率材料または低屈折率材料の他方を堆積させるために使用される。
【0015】
被覆されている基板は、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、化学強化ホウケイ酸ガラス、化学強化アルミノケイ酸塩ガラスおよび化学強化ソーダ石灰ガラスからなる群より選択することができ、そのガラスは、0.2mmから1.5mmの範囲の厚さ、選択された長さと幅、または直径を有する。1つの実施の形態において、基板は、150MPa超の圧縮応力および14μm超の層の深さを有する化学強化アルミノケイ酸塩ガラスである。別の実施の形態において、基板は、400MPa超の圧縮応力および25μm超の層の深さを有する化学強化アルミノケイ酸塩ガラスである。
【0016】
本開示は、ガラス基板上に光学コーティングを、その光学コーティングの上面にクリーニング容易なETCコーティングを有するガラス物品であって、そのガラスは、長さ、幅、およびその長さと幅(または直径)により画成されたガラスの表面間の少なくとも1つの縁を有し、光学コーティングは、1.7〜3.0の範囲の屈折率を有する高屈折率材料Hの層と、1.3〜1.6の範囲の屈折率を有する低屈折率材料Lおよび中屈折率材料Mからなる群より選択される材料の層とからなる、H(LまたはM)または(LまたはM)Hの複数の周期からなり、ETCコーティングは、式(R
F)
ySiX
4-yの1つであり、式中、R
Fは、直鎖のC
6〜C
30ペルフルオロアルキル基であり、X=−Clまたは−OCH
3、y=2または3であるガラス物品にも関する。1つの実施の形態において、ETCコーティングはSiO
2層の上面に堆積される。光学コーティングの最後の周期の最後の層がSiO
2ではない場合、20〜200nmの範囲の厚さを有するSiO
2キャッピング層が最後のコーティング周期の上面にあり、ETCコーティングはSiO
2キャッピング層の上面に堆積される。周期の数は2〜1000の範囲にあり、各個々の周期におけるH層とLまたはM層の厚さは、5nmから200nmの範囲にある。基板上の光学コーティングは、100nmから2000nmの範囲の厚さを有する。このペルフルオロアルキルR
Fは、3nmから50nmの範囲の炭素鎖長を有し、結合したETCコーティングの厚さは、4nmから25nmの範囲にある。
【0017】
光学コーティングの密度も、コーティングの信頼性および耐摩耗性において重要である。その結果、1つの実施の形態において、光学コーティングは、イオン源またはプラズマ源の使用によって、被覆プロセス中に緻密化される。そのイオンまたはプラズマは、堆積中および/またはコーティング層が施された後に、その層を緻密化するために、コーティングに衝突する。緻密化された層は、少なくとも2倍の摩耗信頼性または耐摩耗性を有する。