特許第6896671号(P6896671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6896671光学コーティングとクリーニング容易なコーティングを有するガラス物品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896671
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】光学コーティングとクリーニング容易なコーティングを有するガラス物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/42 20060101AFI20210621BHJP
【FI】
   C03C17/42
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-49530(P2018-49530)
(22)【出願日】2018年3月16日
(62)【分割の表示】特願2014-544939(P2014-544939)の分割
【原出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-90489(P2018-90489A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年3月16日
【審判番号】不服2020-1393(P2020-1393/J1)
【審判請求日】2020年2月3日
(31)【優先権主張番号】61/565,024
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー モートン リー
(72)【発明者】
【氏名】シアオフォン ルゥ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル シュィ オウヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジュンホン ヂャン
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 金 公彦
【審判官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−171204(JP,A)
【文献】 特表2011−510904(JP,A)
【文献】 特開2004−250784(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/088370(WO,A1)
【文献】 特開平5−238781(JP,A)
【文献】 特開2004−170962(JP,A)
【文献】 特開2003−162999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00-17/44
G02B 1/10- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物光学コーティングと、該酸化物光学コーティングの上面にクリーニング容易な(ETC)コーティングとを有するガラス物品を製造する方法において、
酸化物光学コーティングおよびペルフルオロ化基を有するETCコーティングの堆積のための少なくとも1つの槽を有する被覆装置を用意する工程、
前記槽内に、前記酸化物光学コーティングのための供給材料および前記ETCコーティングのための供給材料を提供する工程であって、前記酸化物光学コーティングを製造するために複数の供給材料が必要な場合、該複数の供給材料の各々が別個の供給容器内に提供される工程、
被覆すべき基板であって、長さ、幅、厚さ、および該長さと該幅により画成されるガラスの表面間の少なくとも1つの縁を有する基板を提供する工程、
前記槽を10-4トル以下の圧力に排気する工程、
前記基板上に前記酸化物光学コーティングの材料を堆積させて、酸化物光学コーティングを形成する工程、
前記酸化物光学コーティングの堆積を停止する工程、
前記酸化物光学コーティングの堆積に続いて、該酸化物光学コーティングの上面に前記ETCコーティングを堆積させる工程であって、前記ETCコーティングを前記酸化物光学コーティング上に遊離OHのない状態で堆積させ、これにより、前記ペルフルオロ化基の架橋および該ペルフルオロ化基と前記酸化物光学コーティングとの結合を与えるようにする工程、
前記ETCコーティングの堆積を停止する工程、
前記槽から前記基板を取り出し、それによって、酸化物光学コーティングおよびETCコーティングを有するガラス物品を提供する工程、および
前記物品を、40%<RH<100%の範囲にある相対湿度RHを有する湿潤環境または空気中において5〜60分の範囲の時間に亘り60〜200℃の範囲の温度で後処理して、前記ETCコーティングと前記基体上に堆積された前記酸化物光学コーティングとの間の強力な化学結合およびETC分子間の架橋を形成する工程であって、この後処理後、前記物品が、8番のスチールウールと1cm2の表面積に印加される1kg重の荷重を使用して、5,500回の摩耗サイクル後に少なくとも70°の平均水接触角を有する、工程
を有してなり、
前記酸化物光学コーティングは、1.7〜3.0の範囲の屈折率を有する高屈折率材料Hと、(i)1.3〜1.6の範囲の屈折率を有する低屈折率材料Lおよび(ii)1.6〜1.7の範囲の屈折率を有する中屈折率材料Mからなる群より選択される1つの材料との交互の層からなる、H(LまたはM)もしくは(LまたはM)Hの順序で配置された多層コーティングであり、各H(LまたはM)もしくは(LまたはM)Hの層の対がコーティング周期と考えられ、各個々の周期におけるH層およびL(またはM)層の厚さが、互いに独立して、5nmから200nmの範囲にあり、
前記ETCコーティングの材料が、
式(RFySiX4-yのペルフルオロアルキルシラン、式中、RFは、ケイ素原子から最大の長さでの鎖の端部まで6〜130の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有する直鎖のペルフルオロアルキルであり、X=Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3であり、y=1または2、および
式[CF3−(CF2CF2O)aySiX4-yのペルフルオロポリエーテルシラン、式中、aは5〜10の範囲にあり、y=1または2、およびXは、−Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3であり、ペルフルオロポリエーテル鎖の全長は、ケイ素原子から最大の長さでの鎖の端部まで6〜130の炭素原子の範囲にある、
からなる群より選択される、
方法。
【請求項2】
前記多層コーティングの前記周期の数が2〜20の範囲にあり、該多層コーティングが、100nmから2000nmの範囲の厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記高屈折率材料が、ZrO2、HfO2、Ta25、Nb25、TiO2、Y23、Si34、SrTiO3およびWO3からなる群より選択され、前記低屈折率材料が、シリカ、溶融シリカ、フッ素ドープト溶融シリカ、MgF2、CaF2、YFおよびYbF3からなる群より選択され、前記中屈折率材料がAl23である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記酸化物光学コーティングに化学結合した前記ETCコーティングの厚さが1nmから20nmの範囲にある、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記酸化物光学コーティングが第1の槽内で堆積され、前記ETCコーティングが第2の槽内で堆積され、これら2つの槽が、前記基板を該第1の槽から該第2の槽へ、該基板を大気に曝露せずに移すための真空シール/分離ロックにより接続されている、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記第1の槽が、2〜10の範囲にある偶数の副槽に分割されており、前記多層コーティングの周期が奇数/偶数の対の副槽内で施され、前記偶数の副槽が、前記高屈折率材料または前記低屈折率材料のいずれか一方を堆積させるために使用され、前記奇数の副槽が、前記高屈折率材料または前記低屈折率材料の他方を堆積させるために使用される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記基板が、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、化学強化ホウケイ酸ガラス、化学強化アルミノケイ酸塩ガラスおよび化学強化ソーダ石灰ガラスからなる群より選択され、該ガラスが0.2mmから1.5mmの範囲の厚さを有する、請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ガラスが、400MPa超の圧縮応力および14μm超の層の深さを有するアルミノケイ酸塩ガラスである、請求項1から7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ETCコーティングの材料が、式(RFySiX4-yのペルフルオロアルキルシラン、式中、RFは、ケイ素原子から最大の長さでの鎖の端部まで6〜130の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有する直鎖のペルフルオロアルキルであり、X=Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3であり、y=1または2である、請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記基板が、前記多層コーティングと前記ETCコーティングの施用の間に空気に曝露されない、請求項1から9いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここにその全てを引用する、2011年11月30日に出願された米国仮特許出願第61/565024号の米国法典第35編第120条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、その上に光学コーティングおよびクリーニング容易なコーティングを有するガラス物品を製造するための改良プロセスに関する。特に、本開示は、光学コーティングとクリーニング容易なコーティングが、同じ装置を使用して連続的に施すことができるプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス、特に化学強化ガラスが、ほとんどとは言わないまでも多くの家電製品の観察スクリーンに最適な材料となってきており、ガラスは、携帯電話、音楽プレーヤー、電子書籍端末および電子手帳などの小型商品、またはコンピュータ、現金自動預入支払機、空港のセルフ・チェック・イン装置および他のそのような電子装置などの大型商品であるかに拘わらず、「タッチ」スクリーン製品にとって特に好ましい。これらの商品の多くには、特に装置が直射日光の下で使用される場合、コントラストと可読性を改善することを目的として、ガラスからの可視光の反射を低減させるために、ガラス上に反射防止(「AR」)コーティングの施用が必要である。しかしながら、ARコーティングの欠点の1つは、不十分な耐引掻き信頼性および表面汚染に対する感受性である。ARコーティング上の指紋と汚れは、ARコーティング表面上で非常に目立つ。その結果、どんなタッチ装置のガラス表面もクリーニングし易いことが極めて望ましい。その結果、多くの装置は、ガラス表面に施されたクリーニング容易な(「ETC(easy-to-clean)」)コーティングを有する。
【0004】
反射防止コーティングおよびクリーニング容易なコーティングの両方を有するガラス物品を製造するための現行のプロセスでは、それらのコーティングが、異なる設備を使用し、その結果、別々の製造運転で施される必要がある。基本的な手法は、ガラス物品を提供し、例えば、化学蒸着(「CVD」)法または物理蒸着(「PVD」)法を使用して反射防止(「AR」)コーティングを施すことである。
【0005】
現在の最新式のプロセスにおいて、被覆装置からの光学被覆(ARコーティングなどの)物品は、ARコーティングの上面にETCコーティングを施すために、別の装置に移される。これらのプロセスでARコーティングとETCコーティングの両方を有する物品を製造できるが、それらのプロセスには、別個の運転を必要とし、要求される余計な取扱いのために歩留まり損失が高い。そして、それらのプロセスによって、AR被覆手法とETC被覆手法との間の余計な取扱いから生じる汚染の結果として、最終製品の信頼性が乏しくなるかもしれない。さらに、光学コーティング上のETCコーティングの最新式の2段階被覆プロセスにより、タッチアプリケーションにおいて引っ掻き傷がつき易いコーティングが形成される。このタッチアプリケーションでは、ユーザが、ある装置のアプリケーションにアクセスして使用するために典型的に指を使用し、次いで、タッチ表面上にヘイズを生じる指の脂や水分を拭き取るために布を使用したがる。AR被覆表面は、ETCコーティングを施す前にクリーニングすることができるが、これには、追加の作業を伴う。追加の工程の全ては、製品コストをより高くする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その結果、同じ基本的手法および設備を使用して、両方のコーティングを施すことができ、それゆえ、製造費用を減少させることが極めて望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ガラス基板物品に、光学コーティング、例えば、ARコーティング、およびETCコーティングの両方を、最初に光学コーティングの、次にETCコーティングの連続工程で、光学コーティングとETCコーティングの施用中に常にその物品を大気に曝露せずに実質的に同じ手法を使用して施すことのできるプロセスに関する。信頼性のあるETCコーティングは、ガラス、透明導電コーティング(TCO)、および光学コーティングの表面に潤滑性を提供する。ガラスと光学コーティングの耐摩耗性は、最新式の2段階プロセスよりも10倍超、またはその場での1工程プロセスによるETCコーティングのないARコーティングよりも100〜1000倍良好である。その上、ETCコーティングは、設計段階では光学コーティングの一部と考えられ、光学性能を変化させないように設計される。
【0008】
光学コーティングとしては、反射防止コーティング(ARC)、バンドパスフィルタ、エッジニュートラルミラーとビームスプリッター、多層高反射コーティング、エッジフィルタおよび他の光学目的のためのコーティングが挙げられる("Thin Film Optical Filter,", 3rd edition, H.Angus Macleod. Institute of Physics Publishing Bristol and Philadelphia, 2001を参照)。光学コーティングは、ディスプレイ、カメラレンズ、通信コンポーネント、医療機器と科学機器に、またフォトクロミック用途とエレクトロクロミック用途、光起電装置、および他の要素と装置にも使用できる。ETCコーティングは、光学コーティングと同じ槽内で光学コーティング上に施すことができ、またはETC被覆槽から光学被覆槽を分離する真空封止または遮断弁を備えた別の槽内で施しても差し支えない。
【0009】
その場被覆プロセスの別の実施の形態は、プラズマ支援化学蒸着(PECVD)法であり、ここでは、例えば、制限するものではなく、基板が、示された順序にSiO2のテトラエトキシシラン(TEOS)前駆体とTiO2のチタンイソプロポキシド(TIPT)前駆体で連続的に被覆され、SiO2層が最後の層である、「SiO2/TiO2/SiO2/TiO2/基板」物品を形成するために、ARCが基板上に堆積される(Deposition of SiO2 and TiO2 thin films by plasma enhanced chemical vapor deposition for antireflection coating, C.Martinet, V.Paillard, A.Gagnaire, J.Joseph, Journal of Non-Crystalline Solids, Volume 216, 1997年8月1日, 77-82頁)。ETCコーティングは、例えば、ARCを仕上げた後に、Dow−Corning DC2734および前駆体としての溶媒を含むダイキンDSXを使用して、ARCのSiO2キャッピング層上に施される。
【0010】
TCOコーティングとしては、ITO(インジウムスズ酸化物)、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、IZO(Zn安定化酸化インジウム)、In23、および当該技術分野で公知の他の二成分酸化物と三成分酸化物が挙げられる。
【0011】
随意的なコーティングは、屈折率が高い、中位、および低い材料からなる。例示の高屈折率材料(n=1.7〜3.0)は、ZrO2、HfO2、Ta25、Nb25、TiO2、Y23、Si34、SrTiO3、WO3である。例示の中屈折率材料(n=1.6〜1.7)は、Al23である。例示の低屈折率材料(n=1.3〜1.6)は、SiO2、MgF2、YF3、YbF3である。光学コーティングは、選択された光学機能、例えば、制限するものではなく、反射防止特性を提供するために、少なくとも1つのコーティング周期を含まなければならない。1つの実施の形態において、光学コーティングは複数の周期からなり、各周期は、1つの高屈折率材料と1つの低または中屈折率材料からなる。通常は各周期で同じ材料が使用されるが、異なる周期に異なる材料を使用することも可能である。例えば、2つの周期のARコーティングにおいて、第1の周期はSiO2のみであり、第2の周期はTiO2/SiO2であって差し支えない。この能力を使用して、ARCを含む複雑な光学フィルタを設計することができる。ある場合には、ARCは、ただ1つの材料、例えば、フッ化マグネシウムを50nm超の厚さで使用して堆積させても差し支えない。
【0012】
PVD被覆(ETCの熱蒸発により、スパッタリングされたまたはIAD−FB被覆されたARC)の重要な利点の1つは、基板の温度が100℃未満であり、その結果、化学強化(chemically tempered)ガラスの強度が低下しない「低温」プロセスであることである。「IAD」は「イオンアシスト蒸着(ion-assisted deposition)」を意味し、これは、イオン源からのイオンが、堆積されるときにコーティングに衝突することを意味する。それらのイオンを使用して、被覆前に基板表面をクリーニングすることもできる。
【0013】
1つの態様において、本開示は、その上に光学コーティングを有し、この光学コーティングの上面にクリーニング容易なETCコーティングを有するガラス物品を製造するプロセスにおいて、
光学コーティングおよびETCコーティングの堆積のための少なくとも1つの槽を有する被覆装置を用意する工程、
前記少なくとも1つの槽内に、光学コーティングのための少なくとも1つの供給材料およびETCコーティングのための供給材料を提供する工程であって、光学コーティングを製造するために複数の供給材料が必要な場合、その複数の供給材料の各々が別個の供給材料容器内に提供される工程、
被覆すべき基板であって、長さ、幅、厚さ、および長さと幅(もしくは円形または楕円形の基板については直径)により画成されるガラスの表面間の少なくとも1つの縁を有する基板を提供する工程、
前記槽を10-4トル以下の圧力に排気する工程、
基板上に少なくとも1つの光学コーティング材料を堆積させて、光学コーティングを形成する工程、
光学コーティングの堆積を停止する工程、
光学コーティングの堆積に続いて、光学コーティングの上面にETCコーティングを堆積させる工程、
ETCコーティングの堆積を停止し、光学コーティングおよびETCコーティングを有する基板を槽から取り出し、それによって、光学コーティングおよびETCコーティングを有するガラス物品を提供する工程、および
この物品を、40%<RH<100%の範囲にある相対湿度RHを有する湿潤環境または空気中において5〜60分の範囲の時間に亘り60〜200℃の範囲の温度で後処理して、ETCコーティングと基体との間の強力な化学結合およびETC分子間の架橋を生成する工程、
を有してなるプロセスに関する。その光学コーティングは、1.7〜3.0の範囲の屈折率を有する高屈折率材料Hと、(i)1.3〜1.6の範囲の屈折率を有する低屈折率材料Lおよび(ii)1.6〜1.7の範囲の屈折率を有する中屈折率材料Mからなる群より選択される1つの材料との交互の層からなる、H(LまたはM)または(LまたはM)Hの順序で配置された多層コーティングであり、各H(LまたはM)または(LまたはM)Hの層の対がコーティング周期と考えられ、各個々の周期におけるH層およびL(またはM)層の厚さが5nmから200nmの範囲にある。別の実施の形態において、光学コーティングは、選択された厚さ、例えば、50nm超まで堆積された、ただ1つの材料、例えば、フッ化マグネシウムである。後処理後、過剰な未結合のETC材料を除去するために、ARコーティングおよびETCコーティングを有する物品を拭くことができる。光学コーティングに化学結合したETCコーティングの厚さは、1nmから20nmの範囲にある。その上、ETCコーティングとARコーティングとの間に強力な化学結合を形成するための後処理後、その物品は、8番のスチールウールと1cm2の表面積に印加される1kg重の荷重を使用して、5,500回の摩耗サイクル後に少なくとも70°の平均水接触角を有する。
【0014】
1つの実施の形態において、光学コーティングは、高屈折率材料および低(または中)屈折率材料の交互の層からなる多層コーティングであり、各層の高/低(または中)屈折率対がコーティング周期と考えられる。周期の数は1〜500の範囲にある。1つの実施の形態において、周期の数は2〜200の範囲にある。さらに別の実施の形態において、周期の数は2〜100の範囲にある。追加の実施の形態において、周期の数は2〜20の範囲にある。多層コーティングは、100nmから2000nmの範囲の厚さを有する。高屈折率材料は、ZrO2、HfO2、Ta25、Nb25、TiO2、Y23、Si34、SrTiO3およびWO3からなる群より選択される。低屈折率材料は、シリカ、溶融シリカ、フッ素ドープト溶融シリカ、MgF2、CaF2、YFおよびYbF3からなる群より選択され、中屈折率材料はAl23である。ETC材料は、式(RFySiX4-yのペルフルオロアルキルシランであり、式中、RFは、直鎖のC6〜C30ペルフルオロアルキル基であり、X=−Clまたは−OCH3、y=2または3。このペルフルオロアルキル基は、3nmから50nmの範囲の炭素鎖長を有する。このプロセスの実施の形態において、光学コーティングおよびETCコーティングは、ただ1つの槽内で連続的に堆積され、ETCコーティングは光学コーティングの上面に堆積される。このプロセスの別の実施の形態において、光学コーティングは第1の槽内で堆積され、ETCコーティングは、第2の槽内で光学コーティングの上面に堆積され、これら2つの槽は、その上に光学コーティングを有する基板を第1の槽から第2の槽へ、基板/コーティングを大気に曝露せずに移すための真空シール/分離ロックにより接続されている。さらに別の実施の形態において、第1の槽は、偶数の光学コーティング副槽に分割されており、その数は2〜10の副槽の範囲にあり、ここで、偶数の副槽は、高屈折率材料または低屈折率材料のいずれか一方を堆積させるために使用され、奇数の副槽は、高屈折率材料または低屈折率材料の他方を堆積させるために使用される。
【0015】
被覆されている基板は、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、化学強化ホウケイ酸ガラス、化学強化アルミノケイ酸塩ガラスおよび化学強化ソーダ石灰ガラスからなる群より選択することができ、そのガラスは、0.2mmから1.5mmの範囲の厚さ、選択された長さと幅、または直径を有する。1つの実施の形態において、基板は、150MPa超の圧縮応力および14μm超の層の深さを有する化学強化アルミノケイ酸塩ガラスである。別の実施の形態において、基板は、400MPa超の圧縮応力および25μm超の層の深さを有する化学強化アルミノケイ酸塩ガラスである。
【0016】
本開示は、ガラス基板上に光学コーティングを、その光学コーティングの上面にクリーニング容易なETCコーティングを有するガラス物品であって、そのガラスは、長さ、幅、およびその長さと幅(または直径)により画成されたガラスの表面間の少なくとも1つの縁を有し、光学コーティングは、1.7〜3.0の範囲の屈折率を有する高屈折率材料Hの層と、1.3〜1.6の範囲の屈折率を有する低屈折率材料Lおよび中屈折率材料Mからなる群より選択される材料の層とからなる、H(LまたはM)または(LまたはM)Hの複数の周期からなり、ETCコーティングは、式(RFySiX4-yの1つであり、式中、RFは、直鎖のC6〜C30ペルフルオロアルキル基であり、X=−Clまたは−OCH3、y=2または3であるガラス物品にも関する。1つの実施の形態において、ETCコーティングはSiO2層の上面に堆積される。光学コーティングの最後の周期の最後の層がSiO2ではない場合、20〜200nmの範囲の厚さを有するSiO2キャッピング層が最後のコーティング周期の上面にあり、ETCコーティングはSiO2キャッピング層の上面に堆積される。周期の数は2〜1000の範囲にあり、各個々の周期におけるH層とLまたはM層の厚さは、5nmから200nmの範囲にある。基板上の光学コーティングは、100nmから2000nmの範囲の厚さを有する。このペルフルオロアルキルRFは、3nmから50nmの範囲の炭素鎖長を有し、結合したETCコーティングの厚さは、4nmから25nmの範囲にある。
【0017】
光学コーティングの密度も、コーティングの信頼性および耐摩耗性において重要である。その結果、1つの実施の形態において、光学コーティングは、イオン源またはプラズマ源の使用によって、被覆プロセス中に緻密化される。そのイオンまたはプラズマは、堆積中および/またはコーティング層が施された後に、その層を緻密化するために、コーティングに衝突する。緻密化された層は、少なくとも2倍の摩耗信頼性または耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1A〜Cは、ガラスまたは酸化物ARコーティングに関するペルフルオロアルキルシラングラフト反応の説明図である。
図2図2は、反射防止コーティングの堆積のための電子ビーム蒸発源20およびETCコーティングの堆積のための熱蒸発源14の両方を収容するIAD−EBボックスの内側を示す図面である。
図3図3は、ETCコーティングの下にあるであろうAR光学コーティング層が、ガラス表面の化学構造および汚れを隔離するためのバリアを提供し、さらに最大コーティング密度を有するAR光学コーティングに化学結合し、被覆表面上の架橋を提供するためのペルフルオロアルキルシランのより低い活性化エネルギー部位を提供して、最良の摩耗信頼性を提供することを示している。
図4図4は、ARコーティングとETCコーティング両方の堆積のためのただ1つのプロセス槽26、基板キャリア22、被覆されていない物品を装填/取出しするためのPVDプロセス槽26の両側にあるロードロック槽25,27、真空シールまたは遮断弁29、システムがどのように構成されるかに応じていずれの方向であっても差し支えない基板移動方向33、および被覆すべきまたは被覆された物品の20での装填/取出しを示す図である。
図5図5は、別体のPVD被覆槽36およびETC被覆槽37、真空シール34を有するロードロック槽35、および基板キャリア32を有するインライン被覆システムの図であり、プロセス方向は、矢印30,33および31により示されている。
図6図6は、一方向通路53で、複数のスパッタ槽56を使用した光学コーティングを、槽54内のETCコーティングと組み合わせたインライン・スパッタコーターであって、50で装填され51で取り出される基板キャリア52も有するコーターの説明図である。このETCプロセスは、蒸発または化学蒸着(CVD)であっても差し支えない。CVDプロセスにおいて、フッ素化材料が不活性ガス、例えば、アルゴンにより運ばれる。CVDは、各ガラス片のための、バルブ制御によりペルフルオロアルキルシラン材料の連続供給により適している。蒸発プロセスにおいて、連続材料供給および均一性制御は難題である。
図7図7は、多層光学コーティングのためのCVD/PECVD被覆槽66、CVDまたは熱蒸発を使用したETC被覆槽68、ロード/ロック槽65,67、真空/分離シール69、およびプロセスの流れの方向を示す矢印63を有するインラインシステムの説明図である。
図8図8は、槽78内における多層光学コーティングおよびその光学コーティングの上面のETCコーティングの形成のための槽76におけるALD、ロード/ロック槽75,77、真空/分離シール79、およびプロセスの流れの方向を示す矢印を使用したインラインシステムの説明図である。このシステムは、基板の両面に光学コーティングおよびETCコーティングを配置することができる。
図9図9は、0番のスチールウール、1cm2の表面積に印加される1kgの力を使用した5,500回の摩耗後の多層光学コーティングおよびETCコーティング両方を有するイオン交換後のガラス基板の写真である。図9の書込みは、識別番号である。
図10図10は、光ファイバ210を有するAR−ETC被覆GRINレンズ212、および例えば、202におけるように光ファイバをラップトップまたはタブレットに接続する、または204におけるようにメディアドックに接続する、組合せの使用のいくつかの説明図200である。
図11図11は、堆積中の重要なCVD工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
紫外線(「UV」)、可視線(「VIS」)および赤外線(「IR」)用途のための反射防止または防眩コーティングなどの光学コーティングを形成するために、高屈折率材料と低屈折率材料の交互の層を使用することができる。光学コーティングは、プラズマ蒸着(「PVD」)、電子ビーム堆積(「e−ビーム」または「EB」)、イオンアシスト蒸着−EB(「IAD−EB」)、レーザアブレーション、真空アーク蒸着、熱蒸発、スパッタリング、および当該技術分野で公知であろう他の方法を含む様々な方法を使用して堆積させることができる。ここでは、PVD法を例示の方法として使用する。光学コーティングは、高屈折率材料(「H」)および低屈折率材料(「L」)の少なくとも一方の層からなり、低屈折率層の全てまたはいくつかにおいて、中屈折率材料(「M」)を低屈折率材料の代わりに使用しても差し支えない。多層コーティングは、複数の交互の高屈折率層と低屈折率層、例えば、HL,HL,HL・・・・など、またはLH,LH,LH・・・・などからなる(L層の少なくとも1つを中屈折率層Mが置き換えることができるという条件で)。一対のHLまたはLH層は、「周期」または「コーティング周期」とも呼ばれる。多層コーティングにおいて、周期の数は、2〜20周期の範囲にある。SiO2の随意的な最後のキャッピング層を、最終層としてARコーティングの上面に堆積させても差し支えない。典型的に、キャッピング層は、使用される場合、最後のARコーティング周期の最終層がSiO2ではない場合に加えられ、そのキャッピング層は20nm未満の厚さを有する。最後の随意的なコーティング層、または最後の周期の最後の層がSiO2層である場合、キャッピング層は随意的である。ETCコーティング材料は、熱蒸発、化学蒸着(CVD)または原子層堆積(ALD)によって、光学コーティングの上面に堆積させることができる。
【0020】
1つの実施の形態において、本開示は、第1の工程において、多層光学コーティングがガラス基板上に堆積され、その後、同じ槽内でETCコーティングの熱蒸発および堆積が行われる、プロセスに関する。1つの実施の形態において、第1の槽から第2の層への多層被覆基板の移送が、2つの機能性コーティングである多層コーティングとETCコーティングの施用の間に基板が空気に曝露されない様式でインラインで行われるという条件で、多層光学コーティングが第1の槽内でガラス基板上に堆積され、それに続いて、第2の層内でETCコーティングの熱蒸発と多層コーティングの上面への堆積が行われる。光学コーティングとETCコーティングの施用が別個の槽内で行われる場合、被覆槽は、被覆されている基板が、大気に曝露されずに、一方の層から他方の槽に動かせるように真空封止によって接続されており、基板の装填/取出し槽が入口/出口側で、接続側の真空ロックと、他方の側で開いたロックにより、被覆槽に接続されている。このようにして、未被覆基板は、被覆槽内で真空を維持しながら、装填および/または取出しを行うことができる。光学コーティングの堆積に関して、堆積の様式のバリエーションを使用しても差し支えない。1つのバリエーションにおいて、被覆されている各光学コーティングの材料について、別の被覆槽を使用してもよい。このバリエーションには、光学コーティング、特に多周期コーティングに要求される周期の数に応じて、より多くの槽が必要であり、非常に大型の基板、例えば、一方の寸法が0.4メートルより大きい基板を被覆する場合にのみ、望ましいであろう。別のバリエーションにおいて、各周期が、高屈折率材料と低屈折率材料からなる多周期コーティングでは、各周期は別個の槽内で施され、この第2のバリエーションの利点は、多周期の光学コーティングが施されており、その材料がシステムをより急速に進行するときに、槽の数が最小となることである。別の実施の形態において、全てのコーティングが、ただ1つの槽内で基板に施される。これらのプロセスは、PVD、CVD/PECVD、およびALD被覆システムに適用できる。1つまたは複数の槽のサイズおよび被覆されている基板のサイズに応じて、1つまたは複数の基板をその槽内で同時に被覆することができる。
【0021】
1つの実施の形態において、クリーニング容易な(「ETC」)コーティング材料は、ペルフルオロ化基を含有する選択されたタイプのシラン、例えば、式(RFySiX4-yのペルフルオロアルキルシランであり、式中、RFは、直鎖のC6〜C30ペルフルオロアルキル基であり、X=−Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3、y=2または3。これらのペルフルオロアルキルシランは、Dow−Corning社(例えば、フルオロカーボン2604および2634)、3M Company社(例えば、ECC−1000およびECC−4000)、およびDaikin Corporation社、Ceko社(韓国)、Cotec−GmbH社(Duralon UltraTec材料)およびEvonik社を含む多くの製造供給元から購入することができる。図1A〜Cは、(RFySiX4-y部分を使用したガラスまたは酸化物ARコーティングとの例示のシラングラフト反応を表す図である。図1Cは、ペルフルオロアルキル−トリクロロシランがガラスにグラフト化された場合、シランのケイ素原子は、(1)ガラス基板または基板上の多層酸化物コーティングの表面に三重に結合(3つのSi−O結合)し得るか、または(2)ガラス基板に二重に結合され、隣接するRFSi部分に1つのSi−O−Si結合を有し得る。
【0022】
図2〜8に示されるように、ETC被覆プロセスは、最後の工程であり得、光学被覆槽に組み合わせられるか、または光学コーティングがインラインシステムで施された後に続く槽内での別のプロセスであり得る。ETC被覆プロセスの時間は、非常に短く、真空を壊さずに、新たな光学コーティングの上に1〜20nmの範囲の硬化コーティング厚のペルフルオロアルキルシランコーティング材料を提供する。
【0023】
ETC被覆方法は、クリーニング容易な(「ETC」)コーティングであって、フルオロアルキルシラン、ペルフルオロポリエーテルアルコキシシラン、ペルフルオロアルキルアルコキシシラン、ペルフルオロアルキルシラン−(非フルオロアルキルシラン)コポリマー、およびフルオロアルキルシランの混合物からなる群より選択されるETCコーティングを光学コーティングの上面に施す工程;および施されたコーティングを硬化させ、それによって、光学コーティングとETCコーティングとの間のSi−O結合によってETCコーティングを光学コーティングに結合させる工程を含む。このETCコーティング材料は、先に列挙した会社などの製造元から得られる。施されたままのETCコーティングは、光学コーティングの全表面を覆い、緻密なETC被覆率を提供するために、10nmから50nmの範囲の厚さを有する。1つの実施の形態において、ETCコーティングは、式(RFySiX4-yのペルフルオロアルキルシランであり、式中、y=1または2、RF基は、ケイ素原子から最大の長さでの鎖の端部まで6〜130の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有するペルフルオロアルキル基であり、Xは、−Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3である。別の実施の形態において、光学コーティングに結合したETCコーティングは、式[CF3−(CF2CF2O)aySiX4-yのペルフルオロポリエーテルシランであり、式中、aは5〜10の範囲にあり、y=1または2、およびXは、−Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3であり、ペルフルオロポリエーテル鎖の全長は、ケイ素原子から最大の長さでの鎖の端部まで6〜130の炭素原子の範囲である。ここで、ナノメートル(「nm」)で表される炭素鎖の長さは、0.154nmの炭素−炭素単結合の長さに、鎖の最大長に沿った炭素−炭素結合の数をかけた積であり、1nmから20nmに及ぶ。さらに別の実施の形態において、光学コーティングに結合したETCコーティングは、式[RF−(CH2bySiX4-yのペルフルオロアルキル−アルキル−アルコキシシランであり、式中、RFは、10〜16の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有するペルフルオロアルキル基であり、−(CH2b−はアルキル基であり、bは14〜20の範囲にあり、y=2または3、およびXは、−Cl、アセトキシ、−OCH3、または−OCH2CH3である。ETCコーティングは、光学コーティングの全表面を覆い、緻密な被覆率およびより良好な信頼性を提供するために、10nmから50nmの範囲の厚さまで施されなければならない。しかしながら、室温、約18〜30℃で、または空気中におけるここに指定されたような高温での「自然な硬化」後、ただ1つの単層が光学コーティングに化学結合しており、余計な未結合のETCは、例えば、拭き取りによって、光学的透明度を改善するために、除去しても差し支えない。光学コーティングに化学結合したETCコーティングの最終的な厚さは、ETC材料の分子量に応じて、1〜20nmの範囲にある。「自然な硬化」のための相対湿度は少なくとも40%である。「自然な硬化」方法は費用がかからないが、それには、典型的に、適切な硬化が生じるのに3〜6日間要する。その結果、50℃超の温度でETCコーティングを硬化させることが望ましい。例えば、硬化は、40%<RH<100%の範囲の相対湿度RHの湿潤環境または空気中において5〜60分の範囲の時間に亘り60〜200℃の範囲の温度で行うことができる。1つの実施の形態において、相対湿度は60%<RH<95%の範囲にある。
【0024】
PVDプロセスにおいて、少量の濃縮ETC材料がボートまたは坩堝から熱蒸発され、薄い10〜50nmの均一なETCコーティングが、基板上の光学コーティングの新たに調製された上面に凝縮される。SiO2層は、通常光学コーティングの最終層であるか、または光学コーティングのキャッピング層として施される。何故ならば、SiO2層は、最高の表面密度を提供し、また層は遊離OHのない状況で高真空下(10-4〜10-6トル)で堆積されるためにフッ素化基の架橋を提供するからである。遊離OH、例えば、水の薄層(ガラスまたはAR表面上の)は、フッ素化基が金属酸化物または酸化ケイ素表面との結合を妨げるので、有害である。堆積装置の真空が破壊された場合、すなわち、その装置が大気に開かれた場合、水蒸気を含有する、環境からの空気が入り、SiO2上に、もしくはSiO2または他の金属酸化物であろうとなかろうと、上面のAR光学コーティング層に存在するペルフルオロアルキルシラン部分が、水分およびコーティング表面と反応して、最終的な光学層表面であるSiO2キャッピング層、または他の金属酸化物層上のSi+4と化学結合を形成し、空気に一度曝露されると、アルコールまたは酸を放出する。PVDにより堆積した表面は、無垢であり、反応性表面を有する。例えば、光学コーティングの最終層である、PVDにより堆積したSiO2キャッピング層において、結合反応は、図3に示されるように、複雑な界面化学構造を有するガラス上よりも、ずっと低い活性化エネルギーを有する。
【0025】
図6に示されるようなインライン・スパッターシステムにおいて、コーティング層の数は限られ、直線運動方向にある標的の数により制御される。これは、所定の光学コーティング設計、例えば、制限するものではなく、2、4または6層のARコーティングの大量生産に適している。ETC材料は、熱蒸発またはCVDのいずれかによって、ARコーティングの上面に被覆することができる。CVD方法を使用して、基板の両面にETCを堆積させる。ほとんどの場合、光学コーティングの面のみが、ETCコーティングを必要とする。
【0026】
イオンアシスト電子ビーム堆積も使用でき、小型と中型のガラス基板、例えば、槽のサイズに応じて、約60mm×60mmから約180mm×320mmの範囲の顔面寸法を有する基板を被覆するために特有な利点が提供される。その利点には以下のことがある:
・ ETCコーティングの接着、性能および信頼性に影響するかもしれない表面汚染(水または他の環境の)がないので、ETCコーティングの施用に関する表面活性化エネルギーが低い、新たに堆積されたAR光学コーティングがガラス表面上にある。光学コーティングの完了の直後にETCコーティングを施用すると、フルオロカーボン官能基間の架橋が改善され、耐水性が改善され、数千回の拭き取りの後の接触角性能(より大きい疎油性と疎油性の接触角)が改善される。
・ コーティング周期時間を大幅に減少させて、コーターの利用率と処理量を向上させる。
・ 光学コーティングのより低い活性化エネルギーのために事後の熱処理またはUV硬化が必要なく、これにより、このプロセスが、加熱が許されない事後のETCプロセスに適合する。
・ PVDプロセスを使用して、基板の他の位置への汚染を避けるために、選択された領域のみにETCを被覆することができる。
【0027】
唯一の欠点は、体積とサイズである。図4は、処理量を向上させる解決策に対するインラインプロセスを提供した。部品の装填/取出しが最小になる。真空を破壊せずに、2つのリング形の大型堆積源および連続供給熱蒸発源を10〜20回までの運転に使用できる。ETC材料の熱蒸発は、同じ槽内での他のPVDプロセスと容易に組み合わせることができか、または何らかの理由により、例えば、槽のETC材料の蒸気汚染を避けるために、光学被覆槽で、ETCコーティング材料を使用できない場合、熱蒸発を別の隣接する槽内で行うことができる。
【実施例】
【0028】
実施例1:
4層の基板/SiO2/Nb25/SiO2/Nb25AR光学コーティングを、そのサイズ(長さ(L)、幅(W)、厚さ(T))が約115mmL×60mmW×0.7mmTである、60片のGorilla(商標)(コーニング(Corning Incorporated)社から市販されている)上に堆積させた。そのコーティングは、PVD法を使用して堆積させ、約600nmの厚さを有した。(ARコーティングの厚さは、被覆される物品の使用目的に応じて、100nmから2000nmの範囲であり得る。1つの実施の形態において、ARコーティングの厚さは400nmから1200nmの範囲であり得る。)ARコーティングの堆積後、5nmから20nmの範囲の炭素鎖長を有するペルフルオロアルキルトリクロロシラン(Optool(商標)フルオロコーティング、Daikin Industries社)を使用した熱蒸発によって、ARコーティングの上面にETCコーティングを施した。ARコーティングとETCコーティングの堆積は、図2に示されるような、ただ1つの槽内で行った。その中で、ARコーティングをガラス基板上に堆積させた後、ARコーティング源材料を遮断し、ETC材料を熱的に蒸発させ、AR被覆ガラス上に堆積させた。被覆プロセスの被覆サイクル時間は、部品の装填/取出しを含め、73分間であった。その後、表1に示された様々な摩耗サイクルで表面を摩耗する前後で、3つのサンプルについて、水接触角を測定した。摩耗は、3,500、4,500および5,500サイクルについて、0番のスチールウールおよび1cm2の表面積当たり1kg重の荷重で行った。表1のデータは、このサンプルが非常に良好な摩耗特性と疎水性を有することを示している。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例2:
この実施例において、実施例1に使用したのと同じペルフルオロアルキルトリクロロシランコーティングを、ラップトップコンピュータや他の装置に接続するための光ファイバに使用される、図10に示されるような光コネクタのためのグリンレンズ上に被覆した。
【0031】
ETCコーティングは、高温またはエネルギー環境(プラズマなどの)で異なる前駆体を送り込むことによって各層が堆積される化学蒸着(CVD)法によって堆積させることもできる。CVDは、活性化(熱、光、プラズマ)環境におけるガス状反応体の解離および/または化学反応を含み、その後、安定な固体生成物が形成される。堆積は、それぞれ、粉末または膜の形成をもたらす加熱表面上/その近傍で生じる均一気相反応および/または不均一化学反応を含む。図11は、蒸気前駆体供給システム300、堆積槽/反応器302および排ガス処理システム304である、システムの3つの主要部を示している;図11は、丸括弧(1)から(7)で図11に列挙されたCVDプロセスの7つの主要工程をさらに示している。その工程は:
(1)蒸気前駆体供給システム300内での活性ガス状反応体種の生成。
(2)反応槽へのガス状種の輸送。
(3)ガス状反応体が、中間体種、黒丸●を形成する気相反応を経る;
(a)反応器内の中間体種の分解温度より高い温度で、均一気相反応310が生じることができ、ここで、中間体種(3a)はその後の分解および/または化学反応を経て、気相内で粉末312と揮発性副生成物313を形成する。この粉末は、基板308の加熱表面上に収集され、結晶化中心312aとして作用するかもしれず、副生成物は、堆積槽から去るように輸送される。堆積した膜は、接着が不十分かもしれない。
【0032】
(b)中間体相の解離温度より低い温度では、境界層306(基板表面に近い薄層)を横切る中間体種(3b)の拡散/対流が生じる。これらの中間体種は、その後、工程(4)〜(7)を経る。
(4)加熱された基板308上のガス状反応体の吸収、および不均一反応322が気固界面(すなわち、加熱された基板)で生じ、これによっても、堆積種と副生成物種が生じる。
(5)堆積物は、322として加熱された基板表面に沿って拡散し、結晶化中心312a(粉末312と共に)を形成し、次いで、結晶化中心312aの成長318が行われて、326として示されたコーティング膜を形成する。
(6)ガス状副生成物は、拡散または対流によって境界から除去される。
(7)未反応のガス状前駆体および副生成物は、堆積槽から去るように輸送される。
【0033】
CVDプロセスにおいて、希釈されたフッ素化ETC材料が、不活性ガス、例えば、N2またはアルゴンにより搬送され、槽内で堆積される。ETCコーティングは、光学コーティングの堆積に使用したのと同じ反応器内で、または交差汚染またはプロセスの適合性が懸念される場合には、光学コーティング反応器に直列に接続された次の反応器内で堆積させることができる。図5、6および7は、光学コーティングの堆積のための複数の槽およびETCコーティングの堆積のための別個の槽の使用を含む、複数の被覆槽を使用するシステムを示している。CVDまたは熱蒸発によるETC堆積は、図6に示されるようにCVD光学コーティング積層体と組み合わせても差し支えない。
【0034】
ETCコーティングは、図8に示されるように、原子層堆積(ALD)プロセスと組み合わせても差し支えない。このALD法は、前駆体ガスと蒸気の基板表面上への交互パルス操作と前駆体のその後の化学吸着または表面反応に依存する。反応器は、前駆体のパルス間に不活性ガスでパージされる。実験条件を適切に調節することによって、そのプロセスは飽和工程により進行する。そのような条件下で、成長は安定であり、厚さの増加は、各堆積サイクルにおいて一定である。自己制限成長機構により、大面積で正確な厚さの共形薄膜の成長が促進される。異なる多層構造の成長も容易である。これらの利点のために、ALD法は、次世代の集積回路を製造するマイクロエレクトロニクス産業にとって魅力的となる。ALDは一層ずつのプロセスであり、それゆえ、ETCコーティングの施用に非常にうまく適している。光学コーティング積層体の形成後、ペルフルオロアルキルシランパルスが蒸発させられ、N2により搬送され、物品または基体上に凝縮する。この後、ペルフルオロアルキルシランと反応して、物品の上面の酸化物層と強力な化学結合を形成する水のパルスが続く。副生成物はアルコールまたは酸であり、これらは、反応槽からポンプで吸い出される。ALDによるETCコーティングは、光学層積層体と同じ反応器内で堆積させても、または光学コーティングの形成後に異なるインライン反応器内で堆積させても差し支えない。CVDまたは熱蒸発によるETC堆積は、図7に示されるように、ALD光学コーティングと組み合わせても差し支えない。
【0035】
ここに記載されたAR/ETCコーティングは、多くの市販の物品に使用できる。例えば、結果として得られるコーティングは、テレビ、携帯電話、電子タブレット、および電子書籍端末および日光の下で読める他の装置を製造するのに使用できる。AR/ETCコーティングには、反射防止ビームスプリッター、プリズム、ミラーおよびレーザ製品;光ファイバおよび通信用コンポーネント;生物学および医療用途に使用するための光学コーティング、および抗菌表面に用途が見出されている。
【0036】
本発明を限られた数の実施の形態に関して説明してきたが、本開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示された発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態が想起できることが認識されよう。したがって、本発明の範囲は、付随の特許請求の範囲によってのみ制限されるものとする。
図1
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