【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
直径0.1mmの硬銅線(HCW)を360℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.1mmの焼鈍材(ACW、引張強度:240MPa、伸び:27%)を銅導体1として用い、表面脱脂、酸活性処理した後、電気めっき法で厚さ1μmの鉄層2を形成し、続いて、電気めっき法で厚さ0.03μmのニッケル層3を形成し、強磁性層4(鉄層2とニッケル層3)を備えた芯線10を得た。鉄めっきは、硫酸鉄めっき液(硫酸第一鉄250g/L、塩化鉄50g/L、塩化アンモニウム30g/L)を用い、ニッケルめっきは、硫酸ニッケルめっき液(硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸15g/L)を用いた。得られた芯線10を、直径の350倍の滑車に120°の角度で接触させながら巻き取り、強磁性層4の径方向Xに隙間Gを設けた。こうして隙間Gを備えた芯線10を得た。
【0043】
[実施例2]
鉄層2の厚さを2μmとした他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0044】
[実施例3]
鉄層2の厚さを3μmとした他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0045】
[実施例4]
銅導体1として、直径0.1mmの硬銅銀合金線(HCAW)を650℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.1mmの焼鈍材(ACAW、引張強度:330MPa、伸び:24%)を用いた他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0046】
[実施例5]
銅導体1として、直径0.1mmの硬銅錫合金線(HCSW)を600℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.1mmの焼鈍材(ACSW、引張強度:300MPa、伸び:25%)を用いた他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0047】
[実施例6]
直径の300倍の滑車を用いた他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0048】
[実施例7]
直径の200倍の滑車を用いた他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0049】
[実施例8]
直径の100倍の滑車を用いた他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0050】
[実施例9]
300℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。焼鈍材(ACW)は、引張強度:280MPa、伸び:15%であった。
【0051】
[実施例10]
280℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。焼鈍材(ACW)は、引張強度:300MPa、伸び:5%であった。
【0052】
[実施例11]
滑車に90°の角度で接触させながら巻き取った。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0053】
[実施例12]
直径の100倍の滑車を用い且つ滑車に90°の角度で接触させながら巻き取った。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0054】
[実施例13]
直径0.05mmの硬銅線(HCW)を360℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.05mmの焼鈍材(ACW、引張強度:280MPa、伸び:18%)を銅導体1とした他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0055】
[実施例14]
直径0.08mmの硬銅線(HCW)を360℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.08mmの焼鈍材(ACW、引張強度:260MPa、伸び:22%)を銅導体1とした他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0056】
[実施例15]
直径0.12mmの硬銅線(HCW)を360℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.12mmの焼鈍材(ACW、引張強度:240MPa、伸び:28%)を銅導体1とした他は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0057】
[比較例1]
不活性ガス雰囲気で焼鈍しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。焼鈍しなかった硬銅線(HCW)は、引張強度:400MPa、伸び:2%であった。
【0058】
[比較例2]
鉄層2の厚さを2μmとした他は、比較例1と同様にして、芯線10を得た。
【0059】
[比較例3]
鉄層2の厚さを3μmとした他は、比較例1と同様にして、芯線10を得た。
【0060】
[比較例4]
280℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍し、且つ直径の400倍の滑車を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、高周波コイル用電線を得た。焼鈍材(ACW)は、引張強度:300MPa、伸び:5%であった。
【0061】
[比較例5]
280℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍し、且つ直径の400倍の滑車に90°の角度で接触させながら巻き取った。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。焼鈍材(ACW)は、引張強度:300MPa、伸び:5%であった。
【0062】
[比較例6]
銅導体1として、直径0.1mmの硬銅錫合金線(HCSW)を600℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍した直径0.1mmの焼鈍材(ACSW、引張強度:300MPa、伸び:25%)を用いた。さらに、直径の400倍の滑車に120°の角度で接触させながら巻き取った。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。
【0063】
[比較例7]
300℃の不活性ガス雰囲気で焼鈍し、且つ直径の350倍の滑車に160°の角度で接触させながら巻き取った。それ以外は、実施例1と同様にして、芯線10を得た。焼鈍材(ACW)は、引張強度:240MPa、伸び:15%であった。
【0064】
[測定と結果]
(隙間とはんだ付け特性)
表1に実施例と比較例で得た芯線10の要素を示した。各芯線10の隙間Gは、顕微鏡(株式会社キーエンス製、VX600型、500倍)で測定した。測定は、軸方向仮想線Y1と径方向仮想線X1とで形成した正方形(0.1mm角)の中に見える隙間Gの数を測定するとともに、その隙間Gの平均幅を測定した。隙間Gの数の測定は、径方向仮想線X1(=芯線の直径)の1/4の長さ以上のものをカウントした。隙間Gが連続又は非連続で枝分かれしているものと認識できる場合は、関連する同一(1つ)の隙間Gと見なした。その結果を表2に示した。
【0065】
はんだ付け時の濡れ応力(mN)とゼロクロスタイム(秒)を、動的濡れ性試験機(株式会社レスカ製、WET−6100型)で測定した。はんだは、Sn−3Ag−0.5Cu(千住金属工業株式会社製)を用い、380℃の温度で試験した。その結果を表2に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1及び表2の結果より、濡れ応力が3.4mN以上でゼロクロスタイムが0.4秒以下の場合には、隙間Gの数が6以上で、隙間Gの数と幅の積が6以上の場合であった。特に好ましいものとして、濡れ応力が3.7mN以上でゼロクロスタイムが0.2秒以下の場合は、隙間Gの数が12以上で、隙間の数と幅の積が12以上の場合であった。こうした結果は、主に隙間Gの数と幅の積が12以上の場合に実現できていた。こうした隙間Gは、表1に示す製造条件で形成することができた。
【0069】
銅導体1の直径の異なる実施例13〜15の芯線10について、実施例1と同様の測定(濡れ応力、ゼロクロスタイム、隙間の数)を行った、実施例13(導体径:0.05mm)では、濡れ応力:1.8mN、ゼロクロスタイム:0.2秒、隙間Gの数:25、隙間Gの幅:1.5mm、数と幅との積:37.5であった。実施例14(導体径:0.08mm)では、濡れ応力:2.9mN、ゼロクロスタイム:0.2秒、隙間Gの数:19、隙間Gの幅:1.0mm、数と幅との積:19であった。実施例15(導体径:0.12mm)では、濡れ応力:4.3mN、ゼロクロスタイム:0.2秒、隙間Gの数:12、隙間Gの幅:1.0mm、数と幅との積:12であった。これらの結果より、濡れ応力(mN)については、単位表面積あたりで割って比較した結果、実施例1(導体径:0.10mm)、実施例13(導体径:0.05mm)、実施例14(導体径:0.08mm)、実施例15(導体径:0.12mm)は、いずれも5.7mN/mm
2付近であった。
【0070】
(高周波特性)
高周波特性をLCRメーター(プレシジョンLCRメーター、4284A、20Hz〜1MHz、Agilent社製)で測定した。測定は、試料長:1.50m、専用ボビン:内径φ67mm、ターン数:5ターンとし、端末は両端半田付けしてテクスチャーと接続して測定した。2種ウレタンを絶縁被覆層5として設けた下記の試料1〜3(高周波コイル用電線20)を用い、周波数を1kHz〜1MHzまで変化させて測定した。
【0071】
試料1:2種ウレタン被覆エナメル銅撚り線(21本/φ0.10mm)
試料2:2種ウレタン被覆エナメル鉄めっき撚り線(21本/φ0.10mm)、隙間G:なし、鉄めっき液(実施例1と同じ鉄めっき液、添加剤なし)、ニッケルめっき液(実施例1と同じニッケルめっき液)、Fe層の厚さ:0.8μm、Ni層の厚さ:0.05μm
試料3:2種ウレタン被覆エナメル鉄めっき撚り線(21本/φ0.10mm)、隙間G:あり、鉄めっき液(実施例1と同じ鉄めっき液、添加剤:サッカリン2m/L)、ニッケルめっき液(実施例1と同じニッケルめっき液)、Fe層の厚さ:0.8μm、Ni層の厚さ:0.05μm
【0072】
図3(A)は試料3の種ウレタン被覆エナメル磁性めっき撚り線の表面写真であり、
図3(B)は試料2の2種ウレタン被覆エナメル磁性めっき撚り線の表面写真であり、
図3(C)は試料1の2種ウレタン被覆エナメル銅撚り線の表面写真である。
【0073】
表3は、インピーダンス結果であり、表4は抵抗損失の結果である。表3及び表4からわかるように、強磁性層4が設けられている場合には、隙間Gの有無にかかわらず、同じ高周波特性を示しており、隙間Gの存在が高周波特性を低下させることはないことが確認された。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】