(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896825
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ロングシート
(51)【国際特許分類】
B61D 33/00 20060101AFI20210621BHJP
B61D 1/04 20060101ALI20210621BHJP
B60N 2/015 20060101ALI20210621BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20210621BHJP
【FI】
B61D33/00 A
B61D1/04
B60N2/015
B60N2/90
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-200517(P2019-200517)
(22)【出願日】2019年11月5日
(65)【公開番号】特開2021-75069(P2021-75069A)
(43)【公開日】2021年5月20日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 英謙
(72)【発明者】
【氏名】菅野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】辻 和樹
(72)【発明者】
【氏名】森 優智
(72)【発明者】
【氏名】蒔山 敦史
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第105480243(CN,A)
【文献】
特開平05−139303(JP,A)
【文献】
韓国登録実用新案第20−0349470(KR,Y1)
【文献】
実開昭60−179568(JP,U)
【文献】
特開2016−016673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 33/00
B61D 1/04
B60N 2/015
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両における側構体内壁に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートであって、
側構体に固定するシートフレームと、当該シートフレーム上に固定される座クッションと、当該座クッションの上方で前記側構体内壁に固定される背ずりクッションとを備え、
前記シートフレーム及び前記座クッションは、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されていること、
前記背ずりクッションは、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されていること、
前記側構体には、車体外板を補強する補強骨に連結されたフレーム受け部材を備え、前記フレーム受け部材は、前記側構体内壁に当接する前記シートフレームの基端部と連結されていること、
前記フレーム受け部材は、スペーサ部材を介して前記シートフレームの基端部と連結されていること、
を特徴とする鉄道車両用ロングシート。
【請求項2】
鉄道車両における側構体内壁に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートであって、
側構体に固定するシートフレームと、当該シートフレーム上に固定される座クッションと、当該座クッションの上方で前記側構体内壁に固定される背ずりクッションとを備え、
前記シートフレーム及び前記座クッションは、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されていること、
前記背ずりクッションは、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されていること、
前記側構体には、車体外板を補強する補強骨に連結されたフレーム受け部材を備え、前記フレーム受け部材は、前記側構体内壁に当接する前記シートフレームの基端部と連結されていること、
前記フレーム受け部材は、前記側構体内壁の前記背ずりクッションを固定する位置まで延設されていること、
を特徴とする鉄道車両用ロングシート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記背ずりクッションには、背ずり表皮と、当該背ずり表皮に被覆された背ずりクッション部材と、当該背ずりクッション部材の裏面に固定された背ずり裏当板とを備え、前記側構体内壁への固定手段とは別に、前記背ずり裏当板に係合手段が形成されていること、
前記側構体内壁には、前記係合手段と係合する被係合手段が形成されていることを特徴とする鉄道車両用ロングシート。
【請求項4】
請求項3に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記係合手段は、前記背ずり裏当板の左右側端部に形成された突起部又は凹ボタンからなり、前記被係合手段は、前記側構体内壁に形成され前記突起部が嵌装される嵌装孔又は前記凹ボタンに嵌装される凸ボタンからなることを特徴とする鉄道車両用ロングシート。
【請求項5】
請求項1に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記側構体内壁には、前記スペーサ部材を挿通させる挿通孔が形成されていること、前記座クッションの室外側端縁部は、前記挿通孔を覆って前記側構体内壁に当接していること、
を特徴とする鉄道車両用ロングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用ロングシートに関し、詳しくは、主に通勤電車等の鉄道車両における側構体内壁(車体内壁)に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、通勤電車等の鉄道車両における側構体内壁に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートでは、車内が乗客で混雑しているにもかかわらず、座席の定員に満たない人数しか腰掛けられていないことが多かった。そのため、 着座者に一人ずつの各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるような鉄道車両用ロングシートが求められていた。
【0003】
上記課題を解決するため、例えば、特許文献1には、
図9、
図10に示すように、車体内壁101に取付け固定される所要長さのシートフレーム102上に、表皮103aとパッド103bを一体モールド成形することで一人ずつの座席単位で各々着座者をホールドする凹凸付き立体形状を呈する状態に製作したシートクッション(座クッション)103を列設してなる鉄道車両用ロングシート100が、開示されている。
【0004】
このシートクッション103は、一人ずつの座席単位ごとに個々に独立して一体モールド成形により製作され、各シートクッション103は着座者の尻部を包み込むように上面中央部104が丸く凹んで、その左右両側部105が該尻部を左右からホールドすべく滑らかに盛り上がって前後方向に亘る土手のような凸状形とされている。
【0005】
また、シートフレーム102は、略L字形状をなすプレス鋼板製の複数個のブラケット102aと、これらブラケット102aの前方張り出し部前端と後側立上がり部上端とに溶接固定してそれぞれ水平に横架した角鋼管製の横長な前側貫材102b及び後部上側貫材102cと、この前側貫材102b上面とブラケット102aの上面に溶接固定して載架されたシェル106とを主体として構成されている。
【0006】
また、シートクッション103と別体に製作したシートバッククッション(背ずりクッション)107が、シートフレーム102の後部立上がり部102d前面に取付けられている。また、シートバッククッション107の裏当板108には、上下一対ずつのフックスプリング(板ばね)108a、108bが取付けられている。これら上下一対ずつのフックスプリング108a、108bをシートフレーム102の後部上側貫材102cの掛止部に弾性的に押込んで上下から挟圧する状態に掛止することで、該シートバッククッション107の上端部107aが窓枠101sの下側の車体内壁101に接合し、下端部107bがシェル106の上端折曲縁部106a及びシートクッション103の上端縁部103cに前側から覆い隠す状態に接合して取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−154061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された上記鉄道車両用ロングシート100では、シートクッション103とシートバッククッション107とを取り付けるシートフレーム102が、複数の部材から構成され、各部材を溶接等によって固定する構造であるので、部品点数が増加して重量が過大となりやすく、また、各部品の組付けに時間がかかって、コスト増につながりやすいという問題があった。
また、シートクッション103は、一人ずつの座席単位ごとに個々に独立して一体モールド成形により製作されているので、製作上の手間が多くかかりコスト増につながりやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになると共に、軽量化が容易となり、組付け・製作等にかかる手間を低減できる鉄道車両用ロングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両用ロングシートは、以下の構成を備えている。
(1)鉄道車両における側構体内壁に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートであって、
側構体に固定するシートフレームと、当該シートフレーム上に固定される座クッションと、当該座クッションの上方で前記側構体内壁に固定される背ずりクッションとを備え、
前記シートフレーム及び前記座クッションは、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されていること、
前記背ずりクッションは、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、側構体に固定するシートフレームと、当該シートフレーム上に固定される座クッションとを備え、また、シートフレーム及び座クッションは、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されているので、シートフレーム及び座クッションの製作及び組付けを簡素化でき、軽量化にも寄与できる。また、座クッションの上方で側構体内壁に固定される背ずりクッションを備え、背ずりクッションは、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されているので、背ずりクッションを小型化、軽量化できると共に、背ずりクッションを目印として、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになる。さらに、背ずりクッションは、一人ずつの座席単位ごとに製作しても、腰部が当たる座クッションと異なり単純な形状で形成でき、製作等にかかる手間や費用を低減できる。
【0012】
よって、本発明によれば、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになると共に、軽量化が容易となり、組付け・製作等にかかる手間を低減できる鉄道車両用ロングシートを提供することができる。
【0013】
(2)(1)に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記背ずりクッションには、背ずり表皮と、当該背ずり表皮に被覆された背ずりクッション部材と、当該背ずりクッション部材の裏面に固定された背ずり裏当板とを備え、前記側構体内壁への固定手段とは別に、前記背ずり裏当板に係合手段が形成されていること、
前記側構体内壁には、前記係合手段と係合する被係合手段が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、背ずりクッションには、背ずり表皮と、当該背ずり表皮に被覆された背ずりクッション部材と、当該背ずりクッション部材の裏面に固定された背ずり裏当板とを備え、側構体内壁への固定手段とは別に、背ずり裏当板に係合手段が形成され、また、側構体内壁には、係合手段と係合する被係合手段が形成されているので、背ずりクッションを側構体内壁に固定する際、予め係合手段を被係合手段に係合させることによって、側構体内壁に対する背ずりクッションの固定位置のバラツキを低減できる。そのため、側構体内壁に隣同士互いに離間して配置されている背ずりクッションの、配置上の精度及び見栄えを向上させることができると共に、側構体内壁に対する背ずりクッションの組付け等にかかる手間を低減でき、コスト低減につなげることができる。
【0015】
(3)(2)に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記係合手段は、前記背ずり裏当板の左右側端部に形成された突起部又は凹ボタンからなり、前記被係合手段は、前記側構体内壁に形成され前記突起部が嵌装される嵌装孔又は前記凹ボタンに嵌装される凸ボタンからなることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、係合手段は、背ずり裏当板の左右側端部に形成された突起部又は凹ボタンからなり、被係合手段は、側構体内壁に形成され突起部が嵌装される嵌装孔又は凹ボタンに嵌装される凸ボタンからなるので、背ずり裏当板の左右側端部に突起部又は凹ボタンを設け、側構体内壁に突起部が嵌装される嵌装孔、又は凹ボタンに嵌装される凸ボタンを設けるという簡単な構造で、側構体内壁に対する背ずりクッションの位置精度をより一層向上させることができる。そのため、側構体内壁に対する背ずりクッションの組付け等にかかる手間を簡単な構造で低減でき、より一層コスト低減につなげることができる。
【0017】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記側構体には、車体外板を補強する補強骨に連結されたフレーム受け部材を備え、前記フレーム受け部材は、前記側構体内壁に当接する前記シートフレームの基端部と連結されていることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、側構体には、車体外板を補強する補強骨に連結されたフレーム受け部材を備え、フレーム受け部材は、側構体内壁に当接するシートフレームの基端部と連結されているので、乗客が着座したときにシートフレームにかかる荷重を、フレーム受け部材を介して車体外板を補強する補強骨に伝達して、側構体内壁に対する負担を軽減しつつ、シートフレームの支持構造を簡素化させ、軽量化させることができる。
【0019】
(5)(4)に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記フレーム受け部材は、スペーサ部材を介して前記シートフレームの基端部と連結され、前記側構体内壁には、前記スペーサ部材を挿通させる挿通孔が形成されていること、
前記座クッションの室外側端縁部は、前記挿通孔を覆って前記側構体内壁に当接していることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、フレーム受け部材は、スペーサ部材を介してシートフレームの基端部と連結され、側構体内壁には、スペーサ部材を挿通させる挿通孔が形成され、また、座クッションの室外側端縁部は、挿通孔を覆って側構体内壁に当接しているので、スペーサ部材を挿通させる挿通孔を塞ぐ部品を省略して、組付け・製作等にかかる手間を低減しつつ、外観上の見栄えを担保することができる。
【0021】
(6)(4)又は(5)に記載された鉄道車両用ロングシートにおいて、
前記フレーム受け部材は、前記側構体内壁の前記背ずりクッションを固定する位置まで延設されていることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、フレーム受け部材は、側構体内壁の背ずりクッションを固定する位置まで延設されているので、乗客が着座したときに背ずりクッションにかかる荷重を、フレーム受け部材を介して車体外板を補強する補強骨に伝達して、背ずりクッションの固定構造を簡素化させつつ、軽量化させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになると共に、軽量化が容易となり、組付け・製作等にかかる手間を低減できる鉄道車両用ロングシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両用ロングシートの概略斜視図である。
【
図7】
図1に示すA−A断面図における変形例である。(A)は、背ずりクッションの背ずり面が下方へ行くほど車両内方へ直線状に傾斜して形成された背ずりクッションの変形例1を示し、(B)は、背ずりクッションの背ずり面が車両内方へ湾曲状に突出して形成された背ずりクッションの変形例2を示す。
【
図8】
図1に示す背ずりクッションの変形例3の単品図である。(A)は、正面図を示し、(B)は、(A)に示すE−E断面図を示す。
【
図9】特許文献1に開示された車両用ロングシートの主断面図である。
【
図10】
図9に示すシートクッションの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本実施形態に係る鉄道車両用ロングシートについて、図面を参照しながら詳細に説明する。具体的には、本実施形態に係る鉄道車両用ロングシートの構成を詳細に説明した上で、本鉄道車両用ロングシートを製作し鉄道車両の側構体に組み付ける組付け方法を簡単に説明する。また、本鉄道車両用ロングシートの背ずりクッションの変形例を説明する。
【0026】
<本鉄道車両用ロングシートの構成>
まず、本鉄道車両用ロングシートの構成について、
図1〜
図5を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る鉄道車両用ロングシートの概略斜視図を示す。
図2に、
図1に示すA−A断面図を示す。
図3に、
図2に示すB−B断面図を示す。
図4に、
図2に示すC矢視図(正面図)を示す。
図5に、
図4に示すD−D断面図を示す。
【0027】
図1〜
図5に示すように、本実施形態に係る鉄道車両用ロングシート10は、鉄道車両20における側構体内壁11に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートであって、側構体1に固定するシートフレーム2と、当該シートフレーム2上に固定される座クッション3と、当該座クッション3の上方で側構体内壁11に固定される背ずりクッション4とを備えている。ここでは、側構体1に窓部8が形成されているので、背ずりクッション4は、窓部8を輪郭する窓枠81の下方で側構体内壁11に固定されている。側構体内壁11は、床板7から天井まで延設され、客室を区画する化粧板(側板)を構成している。
【0028】
また、シートフレーム2及び座クッション3は、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されている。シートフレーム2は、例えば、アルミ系部材からなり、前後方向へ押出成形可能な中空部221を有する一定断面で形成されている。ここでは、シートフレーム2は、大人10人が横に並んで腰掛けられる長さに延設されているが、腰掛ける人数は適宜設定することができ、その人数に応じて所要の長さに延設すればよい。
【0029】
また、シートフレーム2は、上下方向に起立し前後方向へ帯板状に延設された基端部21と、基端部21の上下中間部から室内側の斜め上方へ傾斜状に突出された座クッション受け部22とを備えている。基端部21と座クッション受け部22とは、一体に形成されている。座クッション受け部22は、中空部221が室外側で上下方向へ円弧状に拡張して、基端部21と連続状に繋がっている。座クッション受け部22の中空部221には、傾斜状に配置された補強リブ222が複数形成されている。また、座クッション受け部22における室内側端縁部223は、円弧状に形成されている。なお、シートフレーム2の前端部23と後端部24には、側構体内壁11に固定された袖仕切り部9が接続されている。また、シートフレーム2の下端部には、図示しないヒータ装置が締結されている。
【0030】
また、座クッション3には、座表皮33と、当該座表皮33に被覆された座クッション部材34と、当該座クッション部材34の裏面に固定された座裏当板35とを備えている。座裏当板35には、座クッション受け部22に固定する固定手段36が形成されている。座クッション3の固定手段36には、例えば、帯状に形成された一対の面状ファスナ等を用いることができる。
【0031】
ここでは、座クッション3は、大人5人が横に並んで腰掛けられる長さに延設されているが、腰掛ける人数は適宜設定することができ、その人数に応じて所要の長さに延設すればよい。また、座クッション3の室内側端縁部32は、座クッション受け部22の室内側端縁部223を、上部から側部まで被覆するように、略L字状に形成されている。また、座クッション3の座面は、室内側端縁部32から室外側へ向けて徐々に上方へ変位する隆起部331と、隆起部331より室外側に移動するに従って下方へ変位する窪み部332とを備え、前後方向で一定断面に形成されている。したがって、座クッション3の座面に隆起部331と窪み部332とを備えて座り心地を向上させつつ、座クッション3の座面を前後方向で一定断面に形成するので、座クッション3を一人ずつの座席単位ごとに成形する必要がなく、製作上の手間を低減できる。
【0032】
また、本鉄道車両用ロングシート10は、座クッション3の上方で側構体内壁11に固定される背ずりクッション4を備え、背ずりクッション4は、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されている。背ずりクッション4は、座クッション3とも離間して配置されている。ここでは、背ずりクッション4は、正面視(
図2のC矢視)で横長の長方形状に形成されているが、必ずしも長方形状に限る必要はない。また、背ずりクッション4の厚さは、略一定に形成されているが、必ずしも厚さ一定に限る必要もない。なお、背ずりクッション4の横幅寸法の大きさは、着座者の背中を支持できる程度の大きさであれば良く、座クッション3において一人ずつの座席単位に必要な横幅寸法より小さく形成することができる。
【0033】
また、背ずりクッション4には、背ずり表皮41と、当該背ずり表皮41に被覆された背ずりクッション部材42と、当該背ずりクッション部材42の裏面に固定された背ずり裏当板43とを備えている。また、背ずりクッション4には、背ずり裏当板43の上端部及び下端部等に装着され側構体内壁11へ固定する固定手段6(61)とは別に、背ずり裏当板43に係合手段51が形成され、また、側構体内壁11には、係合手段51と係合する被係合手段52が形成されている。係合手段51と被係合手段52とが係合することによって、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の位置決め手段5(51、52)を構成する。なお、背ずりクッション4の固定手段6には、例えば、帯状に形成された一対の面状ファスナ61、62等を用いることができる。
【0034】
ここでは、係合手段51は、背ずり裏当板43の上下方向中間部で左右両側端部に形成された突起部51aからなり、被係合手段52は、側構体内壁11に形成され突起部51aが嵌装される嵌装孔52aからなるが、必ずしもこれらに限る必要はない。なお、突起部51aは、鍔付きの円筒ピン又は角筒ピン等に形成され、鍔部が背ずり裏当板43に固着されている。また、嵌装孔52aは、円筒ピンが嵌る円形孔又は角筒ピンが嵌る角孔等に形成されている。また、円筒ピン又は角筒ピンは、面状ファスナ61、62のフック部とループ部とが係合する以前に、円形孔又は角孔に係合する長さに形成されている。
【0035】
また、側構体1には、車体外板12を補強する補強骨13に連結された複数のフレーム受け部材14を備え、各フレーム受け部材14は、スペーサ部材15を介して側構体内壁11に当接するシートフレーム2の基端部21と連結されている。また、側構体内壁11には、スペーサ部材15を挿通させる挿通孔111が形成されている。挿通孔111は、上下方向に細長い長方形状に形成されている。また、座クッション3の室外側端縁部31は、窪み部332より上方へ変位し、側構体内壁11に形成された挿通孔111を覆って側構体内壁11に当接している。なお、フレーム受け部材14は、スペーサ部材15を介さずに、側構体内壁11に当接するシートフレーム2の基端部21と連結されてもよい。
【0036】
また、フレーム受け部材14は、例えば、ハット断面形状に形成され、上下方向に延設されている。フレーム受け部材14は、側構体内壁11の背ずりクッション4を固定する位置まで延設されていることが好ましい。また、シートフレーム2の基端部21の上端部及び下端部には、ボルト締結穴が形成され、フレーム受け部材14の天頂部にボルト締結されている。シートフレーム2の基端部21とフレーム受け部材14との間に装着するスペーサ部材15は、締結するボルトのネジ部が貫通する貫通孔を有する円盤状又は矩形状のワッシャでよい。
【0037】
<本鉄道車両用ロングシートの製作・組付け方法>
次に、本鉄道車両用ロングシートを製作し鉄道車両の側構体に組み付ける組付け方法を簡単に説明する。
【0038】
まず、フレーム受け部材14を複数製作する。フレーム受け部材14は、鋼板をプレス成形して、ハット断面形状に形成する。また、フレーム受け部材14の天頂部に、シートフレーム2の基端部21を締結するボルトと係合するナット部16と、スペーサ部材15とを固定する。また、フレーム受け部材14を、前後方向に所定の間隔で配置し、側構体1の車体外板12を補強する補強骨13に、其々溶接等によって固定する。また、側構体内壁11は、スペーサ部材15を挿通させる挿通孔111を形成した上で、側構体1に固定する。側構体内壁11には、背ずりクッション4の突起部51aが嵌装される嵌装孔52aを形成する。また、側構体内壁11には、背ずりクッション4を固定する面状ファスナ62を装着する。
【0039】
次に、シートフレーム2を製作する。シートフレーム2は、例えば、アルミ系部材を用い、前後方向へ押出成形することによって、所要の長さに一体成形する。また、シートフレーム2の基端部21には、前後方向で所定の間隔で配置されたフレーム受け部材14のナット部16と対向する位置に、ボルト挿通孔を形成する。シートフレーム2の基端部21を、側構体内壁11に当接した状態で、スペーサ部材15を介してフレーム受け部材14のナット部16にボルト締結する。また、座クッション受け部22には、座クッション3を固定する固定手段36(例えば、面状ファスナ)を装着する。
【0040】
また、座クッション3と背ずりクッション4とを製作する。座クッション3は、例えば、合成繊維からなる座表皮33と、発泡ウレタンからなる座クッション部材34と、樹脂板又は金属板からなる座裏当板35とを一体モールド成形法によって製作する。また、背ずりクッション4は、同様に、合成繊維からなる背ずり表皮41と、発泡ウレタンからなる背ずりクッション部材42と、樹脂板又は金属板からなる背ずり裏当板43とを一体モールド成形法によって製作する。また、座クッション3の座裏当板35には、座クッション受け部22に固定する固定手段36(例えば、面状ファスナ)を装着する。また、背ずりクッション4の背ずり裏当板43には、側構体内壁11に固定する面状ファスナ61と、側構体内壁11に形成された嵌装孔52aと嵌装させる突起部51aを固着する。
【0041】
さらに、座クッション3の室内側端縁部32が、座クッション受け部22の室内側端縁部223を上部から側部まで被覆し、座クッション3の室外側端縁部31が、側構体内壁11に形成された挿通孔111を覆って側構体内壁11に当接するように、座クッション3を座クッション受け部22に固定する。また、背ずりクッション4の突起部51aを側構体内壁11に形成された嵌装孔52aと嵌装させた状態で、固定手段6(面状ファスナ61、62)同士を係合させて、背ずりクッション4を側構体内壁11に固定する。すなわち、背ずりクッション4を側構体内壁11に固定する際、予め突起部51aを嵌装孔52aに嵌装させることによって、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の固定位置のバラツキを低減できる。その結果、背ずりクッション4は、一人ずつの座席単位ごとに隣同士互いに位置精度よく離間して、見栄え良く配置される。
【0042】
<本鉄道車両用ロングシートの背ずりクッションの変形例>
次に、本鉄道車両用ロングシートの背ずりクッションの変形例について、
図6〜
図8を用いて説明する。
図6に、
図4に示すD−D断面図の変形例を示す。
図7に、
図1に示すA−A断面図における変形例を示す。(A)は、背ずりクッションの背ずり面が下方へ行くほど車両内方へ直線状に傾斜して形成された背ずりクッションの変形例1を示し、(B)は、背ずりクッションの背ずり面が車両内方へ湾曲状に突出して形成された背ずりクッションの変形例2を示す。
図8に、
図1に示す背ずりクッションの変形例3の単品図を示す。(A)は、正面図を示し、(B)は、(A)に示すE−E断面図を示す。
【0043】
前述したように、背ずりクッション4には、側構体内壁11への固定手段6とは別に、各背ずりクッション4の位置決め手段5を備えるため、背ずり裏当板43に係合手段51が形成され、また、側構体内壁11には、係合手段51と係合する被係合手段52が形成されている。この係合手段51と被係合手段52は、
図5に示す構成に限らない。例えば、
図6に示すように、係合手段51は、背ずり裏当板43の左右両側端部に形成された凹ボタン51bからなり、被係合手段52は、側構体内壁11に形成され凹ボタン51bが嵌装される凸ボタン52bからなるものでも良い。なお、凹ボタン51bと凸ボタン52bは、面状ファスナ61、62のフック部とループ部とが係合する以前に、凹部と凸部が係合する長さに形成されている。上記凹ボタン51bと凸ボタン52bからなる位置決め手段5Bによれば、凹ボタン51bと凸ボタン52bとが係合・離脱するときの着脱感があり、背ずりクッション4の組付け操作を簡単に行うことができる。
【0044】
また、前述したように、背ずりクッション4は、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されている。また、
図1、
図2に示す背ずりクッション4では、その厚さが略一定に形成されているが、必ずしも厚さ一定に限る必要はない。例えば、
図7(A)に示すように、着座者の背中が当たる背ずり面4B1が、下方へ行くほど車両内方へ直線状に傾斜して形成された背ずりクッション(変形例1)4Bでも良い。この場合、背もたれ角度を拡大できることによって、座り心地の改善につなげる利点がある。また、例えば、
図7(B)に示すように、背ずり面4C1が車両内方へ湾曲状に突出して形成された背ずりクッション(変形例2)4Cでも良い。この場合、背中を当てたときの弾力性を高めることによって、座り心地を改善できる利点がある。
【0045】
また、
図8に示すように、背ずり面4D1の座席中央部4D11が車両外方へ湾曲状に窪み、座席両端部4D12、4D13が車両内方へ突出して形成された背ずりクッション(変形例3)4Dでも良い。この場合、着座者を座席中央に座るように誘導できると共に、着座者の背中を座席両端部4D12、4D13から包み込むことによって、座り心地を改善できる利点がある。
以上、本鉄道車両用ロングシートの各種変形例について説明したが、本願発明の要旨を変更しない限り、上記変形例以外にも様々な変形が可能なことは言うまでもない。
【0046】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両用ロングシート10によれば、側構体1に固定するシートフレーム2と、当該シートフレーム2上に固定される座クッション3とを備え、また、シートフレーム2及び座クッション3は、複数人が並んで腰掛けられる所要の長さに延設され、前後方向で其々一定断面に形成されているので、シートフレーム2及び座クッション3の製作及び組付けを簡素化でき、軽量化にも寄与できる。また、座クッション3の上方で側構体内壁11に固定される背ずりクッション4を備え、背ずりクッション4は、一人ずつの座席単位ごとに製作され、隣同士互いに離間して配置されているので、背ずりクッション4を小型化、軽量化できると共に、背ずりクッション4を目印として、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになる。さらに、背ずりクッション4は、一人ずつの座席単位ごとに製作しても、腰部が当たる座クッション3と異なり単純な形状で形成でき、製作等にかかる手間や費用を低減できる。
【0047】
よって、本実施形態によれば、着座者に各座席単位の位置を明確に認識させることができて、定員人数が確実に腰掛けられるようになると共に、軽量化が容易となり、組付け・製作等にかかる手間を低減できる鉄道車両用ロングシート10を提供することができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、背ずりクッション4には、背ずり表皮41と、当該背ずり表皮41に被覆された背ずりクッション部材42と、当該背ずりクッション部材42の裏面に固定された背ずり裏当板43とを備え、側構体内壁11への固定手段6(61)とは別に、背ずり裏当板43に係合手段51が形成され、また、側構体内壁11には、係合手段51と係合する被係合手段52が形成されているので、背ずりクッション4を側構体内壁11に固定する際、予め係合手段51を被係合手段52に係合させることによって、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の固定位置のバラツキを低減できる。そのため、側構体内壁11に隣同士互いに離間して配置されている背ずりクッション4の、配置上の精度及び見栄えを向上させることができると共に、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の組付け等にかかる手間を低減でき、コスト低減につなげることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、係合手段51は、背ずり裏当板43の左右側端部に形成された突起部51a又は凹ボタン51bからなり、被係合手段52は、側構体内壁11に形成され突起部51aが嵌装される嵌装孔52a又は凹ボタン51bに嵌装される凸ボタン52bからなるので、背ずり裏当板43の左右側端部に突起部51a又は凹ボタン51bを設け、側構体内壁11に突起部51aが嵌装される嵌装孔52a、又は凹ボタン51bに嵌装される凸ボタン52bを設けるという簡単な構造で、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の位置精度をより一層向上させることができる。そのため、側構体内壁11に対する背ずりクッション4の組付け等にかかる手間を簡単な構造で低減でき、より一層コスト低減につなげることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、側構体1には、車体外板12を補強する補強骨13に連結されたフレーム受け部材14を備え、フレーム受け部材14は、側構体内壁11に当接するシートフレーム2の基端部21と連結されているので、乗客が着座したときにシートフレーム2にかかる荷重を、フレーム受け部材14を介して車体外板12を補強する補強骨13に伝達して、側構体内壁11に対する負担を軽減しつつ、シートフレーム2の支持構造を簡素化させ、軽量化させることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、フレーム受け部材14は、スペーサ部材15を介してシートフレーム2の基端部21と連結され、側構体内壁11には、スペーサ部材15を挿通させる挿通孔111が形成され、また、座クッション3の室外側端縁部31は、挿通孔111を覆って側構体内壁11に当接しているので、スペーサ部材15を挿通させる挿通孔111を塞ぐ部品を省略して、組付け・製作等にかかる手間を低減しつつ、外観上の見栄えを担保することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、フレーム受け部材14は、側構体内壁11の背ずりクッション4を固定する位置まで延設されているので、乗客が着座したときに背ずりクッション4にかかる荷重を、フレーム受け部材14を介して車体外板12を補強する補強骨13に伝達して、背ずりクッション4の固定構造を簡素化させつつ、軽量化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、主に通勤電車等の鉄道車両における側構体内壁に沿って横長に設置されて、複数人が並んで腰掛けられる鉄道車両用ロングシートとして利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 側構体
2 シートフレーム
3 座クッション
4 背ずりクッション
5 位置決め手段
6 固定手段
10 鉄道車両用ロングシート
11 側構体内壁
12 車体外板
13 補強骨
14 フレーム受け部材
15 スペーサ部材
21 基端部
31 室外側端縁部
41 背ずり表皮
42 背ずりクッション部材
43 背ずり裏当板
51 係合手段
51a 突起部
51b 凹ボタン
52 被係合手段
52a 嵌装孔
52b 凸ボタン
111 挿通孔