特許第6896873号(P6896873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6896873加工グラファイト積層体、その製造方法および加工グラファイト積層体用レーザー切断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896873
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】加工グラファイト積層体、その製造方法および加工グラファイト積層体用レーザー切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20210621BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20210621BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   B23K26/38 Z
   B23K26/00 N
   B32B18/00 C
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-544469(P2019-544469)
(86)(22)【出願日】2018年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2018032388
(87)【国際公開番号】WO2019065084
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2020年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-190939(P2017-190939)
(32)【優先日】2017年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森川 尚展
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−182890(JP,A)
【文献】 特開2011−093745(JP,A)
【文献】 特開平06−024872(JP,A)
【文献】 特開2005−287877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/00
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト積層体を、レーザーによって切断する工程を含み、
上記グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、
上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、
上記レーザーの波長は、10nm以上、1100nm以下である、加工グラファイト積層体の製造方法。
【請求項2】
上記レーザーの波長は、300nm以上、600nm以下である、請求項1に記載の加工グラファイト積層体の製造方法。
【請求項3】
上記レーザーの加工点出力は、4W以上、70W以下である、請求項2に記載の加工グラファイト積層体の製造方法。
【請求項4】
上記レーザーのビーム径は、5μm以上、50μm以下である、請求項2または3に記載の加工グラファイト積層体の製造方法。
【請求項5】
上記樹脂層が、熱可塑性樹脂層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の加工グラファイト積層体の製造方法。
【請求項6】
2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、
上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、
上記2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている、加工グラファイト積層体。
【請求項7】
上記樹脂層が、熱可塑性樹脂層である、請求項6に記載の加工グラファイト積層体。
【請求項8】
上記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリエステル樹脂層である、請求項7に記載の加工グラファイト積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工グラファイト積層体、その製造方法および加工グラファイト積層体用レーザー切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトシートは電気伝導度が高く、耐熱性および熱伝導性に優れ、かつヤング率も非常に高いことから、電極、配線、センサ、振動板、反射板および放熱材等への応用が期待されている。また、複数のグラファイトシートを貼り合わせたグラファイト積層体が用いられることもある。このようなグラファイト積層体は、パンチングによる切断によって所望の形状およびサイズに加工され得る。
【0003】
ところで、特許文献1には、基板の上にグラフェンを形成するグラフェン形成工程と、グラフェンの所望の加工箇所にパルスレーザーを照射する加工工程とを備えるグラフェンの加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パンチングによって得られたグラファイト積層体には改善の余地があることを、本発明者は独自に見出した。そこで、本発明者は、パンチングに代わるグラファイト積層体の加工方法を検討した。
【0006】
一方、上述のような従来技術は、原子層1層分の厚みを有するグラフェンを対象とした微細加工技術である。従って、当該従来技術を、グラフェンに比べて厚いグラファイト積層体を加工するために適用することは困難であった。
【0007】
本発明の一態様は、層間剥離が抑えられた加工グラファイト積層体の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法は、グラファイト積層体を、レーザーによって切断する工程を含み、上記グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記レーザーの波長は、10nm以上、1100nm以下である。
【0009】
また、本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体用レーザー切断装置は、レーザーの波長が10nm以上、1100nm以下であり、上記加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは10μm以上、100μm以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、層間剥離が抑えられた加工グラファイト積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の外観および断面を示す図である。
図2】実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の断面を示す図である。
図3】実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の端部を示す図である。
図4】剥離性の評価方法の概要を説明する図である。
図5図3における被覆率の算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、説明の便宜上、同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0014】
以下では、レーザーまたはパンチングによって切断する前のグラファイト積層体を単に「グラファイト積層体」と称し、切断されたグラファイト積層体を「加工グラファイト積層体」と称する。
【0015】
〔1.加工グラファイト積層体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る加工グラファイト積層体の製造方法は、グラファイト積層体を、レーザーによって切断する工程を含み、上記グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記レーザーの波長は、10nm以上、1100nm以下である。
【0016】
グラファイトシートは優れた熱伝導性を有する。従って、技術常識からは、グラファイトシートに対してレーザーを照射しても熱が拡散しやすいため、グラファイトシートを所望の形状に切断することは困難であると想定されていた。そのため、従来、パンチングによってグラファイトシートを加工することが一般的であった。しかしながら、本発明者が検討したところ、この場合、パンチング用の刃が、グラファイトシートを打ち抜いた後、元の位置に戻る際、グラファイトシートの端部がめくれる場合があった。そして、これにより、加工グラファイト積層体の各層が剥離し易くなる場合があった。そこで本発明者が鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定の波長のレーザーによってグラファイト積層体を加工することが可能であり、しかも層間剥離が抑制された加工グラファイト積層体を得られることを見出した。
【0017】
<1−1.グラファイト積層体>
まず、上記製造方法による切断の対象であるグラファイト積層体について説明する。当該グラファイト積層体は、少なくとも、2枚のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含む。すなわち、グラファイト積層体は、グラファイト層、樹脂層、グラファイト層がこの順に積層された構造を最小単位として含む。グラファイト積層体は、この最小単位からなるものであってもよい。あるいは、グラファイト積層体は、この最小単位の外側に、グラファイト層および/または樹脂層がさらに積層されたものであってもよい。
【0018】
グラファイト積層体の最外層は、グラファイト層であってもよく、樹脂層であってもよい。また、グラファイト積層体の両面における最外層が、グラファイト層または樹脂層であってもよい。または、グラファイト積層体の一方の最外層がグラファイト層であって、もう一方の最外層が樹脂層であってもよい。
【0019】
グラファイト層および樹脂層は交互に積層されていてもよい。グラファイト層および樹脂層がそれぞれ1層ずつ交互に積層されていてもよい。または、2層以上のグラファイト層および樹脂層が交互に積層されていてもよい。1層のグラファイト層および2層以上の樹脂層、または2層以上のグラファイト層および1層の樹脂層が交互に積層されていてもよい。
【0020】
グラファイト積層体全体の層の数は、3以上、19以下であることが好ましく、5以上、13以下であることがより好ましい。全体の層の数が上記範囲であれば、グラファイト積層体は、より優れた熱伝導性および機械的強度を示す。また、グラファイト積層体に含まれるグラファイト層の数は、2以上、10以下であることが好ましく、4以上、7以下であることがより好ましい。グラファイト積層体に含まれる樹脂層の数は、1以上、9以下であることが好ましく、3以上、6以下であることがより好ましい。
【0021】
グラファイト積層体の厚みは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。グラファイト積層体の厚みが50μm以上であれば、グラファイト積層体は、より優れた熱伝導性および機械的強度を示す。
【0022】
グラファイト層は、グラファイトシートからなり得る。グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であることが好ましく、20μm以上、50μm以下であることがより好ましい。グラファイト層1枚あたりの厚みが10μm以上であれば、比較的少ない層数にて厚いグラファイト積層体を形成することができる。グラファイト層1枚あたりの厚みが100μm以下であれば、より高い熱伝導率を示すグラファイト積層体を形成することができる。
【0023】
グラファイト層の密度は、1.80g/cm以上2.26g/cm以下であることが好ましい。グラファイト層内部に欠損または空洞が生じて密度が低下すると、グラファイト積層体を切断した際にその欠損または空洞を基点としてバリが生じやすくなる。このような観点から、グラファイト層の密度は1.80g/cm以上であることが好ましく、1.85g/cm以上であることがより好ましく、1.99/cm以上であることがさらに好ましい。
【0024】
グラファイト層の熱伝導率は、高ければ高いほど好ましい。近年の電子機器の省スペース化および高性能化に伴い、集積回路から発生する熱を筐体全体に広げる材料が必要とされている。そのため、グラファイト層は、銅(400W/mK)と同等以上の熱伝導率を示すことが好ましい。グラファイト層の熱伝導率は、500W/mK以上であることが好ましく、600W/mK以上であることがより好ましく、800W/mK以上であることがさらに好ましく、1000W/mK以上であることが特に好ましい。
【0025】
グラファイト層の電気伝導度は、集積回路等から発生する熱を放熱する観点から、5000S/cm以上であることが好ましく、6000S/cm以上であることがより好ましく、7000S/cm以上であることがさらに好ましく、8000S/cm以上であることが特に好ましい。
【0026】
樹脂層は、熱可塑性樹脂層または硬化性樹脂層であり得る。樹脂層は、接着層または保護層であり得る。樹脂層の1枚あたりの厚みは、1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上15μm以下であることがより好ましい。樹脂層の1枚あたりの厚みが20μm以下であれば、グラファイト層同士の間の伝熱を阻害することなく良好に熱を伝達することができる。樹脂層の1枚あたりの厚みが1μm以上であれば、グラファイト層と樹脂層との間の接触熱抵抗を低減することができ、効率的に熱を伝達することができる。また、樹脂層の1枚あたりの厚みが1μm以上あれば、樹脂層が良好な接着性または保護性を示し得る。また、樹脂層の1枚あたりの厚みが上述した範囲であれば、グラファイト積層体の熱伝導率を、理論値に近い値にすることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アイオノマー、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、AAS(アクリロニトリル−アクリル−スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ACS(アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体)、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体)、エチレン−塩化ビニル共重合体、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EVA系樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂)、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)、ポリ酢酸ビニル、塩素化塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、ノルボルネン樹脂、プロピオン酸ビニル、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、TPX(ポリメチルペンテン)、ポリブタジエン、PS(ポリスチレン)、スチレン無水マレイン酸共重合体、メタクリル樹脂、EMAA(エチレン−メタクリル酸共重合体)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリ塩化ビニリデン、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、セルロース系樹脂、ナイロン6、ナイロン6共重合体、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、共重合ナイロン、ナイロンMXD、ナイロン46、メトキシメチル化ナイロン、アラミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、POM(ポリアセタール)、ポリエチレンオキシド、PPE(ポリフェニレンエーテル)、変性PPE、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PSO(ポリサルフォン)、ポリアミンサルフォン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PAR(ポリアリレート)、ポリパラビニルフェノール、ポリパラメチレンスチレン、ポリアリルアミン、芳香族ポリエステル、液晶ポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、EPE(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド系樹脂)、PVF(ポリビニルフルオライド)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0028】
なかでも、熱可塑性樹脂層としては、芳香族を含む材料(例えば、ポリエステル系樹脂、またはポリエチレンテレフタレート等)を用いることが好ましい。当該構成であれば、グラファイト層の平面と略平行に熱可塑性樹脂層が整列するため、積層時にグラファイト層が乱されにくい。それゆえ、理論値に近い熱伝導率を有するグラファイト積層体を得ることができる。なかでも、熱可塑性樹脂層は、熱可塑性ポリエステル樹脂層であることが好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移点が50℃以上である熱可塑性樹脂を用いれば、グラファイト積層体の中に空気が入り込むことを、より良く防ぐことができる。また、ガラス転移点が50℃以上である熱可塑性樹脂を用いれば、熱可塑性樹脂層の強度が強く、かつ、熱可塑性樹脂層の特性にバラツキが生じ難くなる傾向を示す。このようなガラス転移点を有する材料としては、PET、PSおよびPC等が挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂層の弾性率は、特に限定されないが、切断時の厚みのバラツキを抑えるという観点から、100MPa以上であることが好ましい。
【0031】
硬化性樹脂層に含まれる硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリレート樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタン樹脂、加水分解性シリル基を有するポリエーテル樹脂等が挙げられる。
【0032】
<1−2.切断工程>
上記製造方法は、グラファイト積層体をレーザーによって切断する工程を含む。本明細書において、当該工程を切断工程とも称する。上記製造方法においては、特定の波長のレーザーによってグラファイト積層体を焼き切る。それゆえ、後述の図3の(a)に示すように、グラファイト層の端部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆された加工グラファイト積層体を得ることができる。従って、上記製造方法によれば、層間剥離が抑制された加工グラファイト積層体を得ることができる。
【0033】
レーザーの波長は、10nm以上、1100nm以下であることが好ましく、300nm以上、600nm以下であることがより好ましく、350nm以上550nm以下であることがさらに好ましい。波長が1100nm以下であれば、レーザーの熱の拡散が抑えられるため、グラファイト積層体を切断することができる。また、波長が10nm以上であれば、ある程度の出力を確保したうえでグラファイト積層体を切断することができる。なお、レーザーによる切断に要する時間が長いと、熱の影響によって焼けおよびバリが生じ易い傾向にある。波長が300nm以上、600nm以下であれば、切断に要する時間がより短縮されるため、焼けおよびバリが抑えられた加工グラファイト積層体を得ることができる。
【0034】
このような波長のレーザーとしては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、YVO(イットリウム・四酸化バナジウム)レーザー、ファイバーレーザーおよび半導体レーザーが挙げられる。なかでも、波長が300nm以上、600nm以下である場合にも比較的高出力を出すことができるYAGレーザーが好ましい。
【0035】
レーザーの波長が300nm以上、600nm以下である場合、さらに以下の加工条件が好ましい。
【0036】
レーザーの加工点出力は、4W以上、70W以下であることが好ましく、4W以上、65W以下であることがより好ましい。加工点出力が4W以上であれば、グラファイト積層体を素早く切断できる。加工点出力が70W以下であれば、熱の影響を抑えられる。従って、加工点出力が4W以上、70W以下であれば、加工速度を高めて、かつ、焼けおよびバリが抑えられた加工グラファイト積層体を得ることができる。加工点出力は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定され得る。
【0037】
また、レーザーのビーム径は、5μm以上、50μm以下であることが好ましく、7μm以上、50μm以下であることがより好ましい。ビーム径が5μm以上であれば、グラファイト積層体を素早く切断できる。ビーム径が50μm以下であれば、熱の影響を抑えられる。従って、ビーム径が5μm以上、50μm以下であれば、焼けおよびバリが抑えられた加工グラファイト積層体を得ることができる。
【0038】
レーザーの周波数は、10kHz以上、250kHz以下であることが好ましく、10kHz以上、240kHz以下であることがより好ましい。周波数が10kHz以上であれば、加工速度を速くできる。周波数が250kHz以下であれば、パルスエネルギーが高くなるため、より厚みのあるグラファイトシートを切断できる。
【0039】
焼けおよびバリを抑制して、かつ、厚みのあるグラファイトシートを切断するには、レーザーはパルスレーザーであることが好ましい。レーザーのパルスエネルギーは、0.10mJ以上、1.30mJ以下であることが好ましく、0.13mJ以上、0.90mJ以下であることがより好ましい。パルスエネルギーが0.10mJ以上であれば、グラファイトシートをより速く切断できる。パルスエネルギーが1.30mJ以下であれば、焼けおよびバリを抑制しながら切断できる。
【0040】
レーザーのエネルギー密度は、50mJ/mm以上、10000mJ/mm以下であることが好ましく、50mJ/mm以上、8000mJ/mm以下であることがより好ましい。エネルギー密度が50mJ/mm以上であれば、より厚みのあるグラファイトシートを素早く切断できる。エネルギー密度が10000mJ/mm以下であれば、焼けおよびバリを抑制しながら切断できる。エネルギー密度は、パルスエネルギーをビーム径で除することによって算出される。
【0041】
レーザー加工速度は、2mm/s以上、200mm/s以下であることが好ましく、2mm/s以上、180mm/s以下であることがより好ましい。レーザー加工速度が2mm/s以上であれば、生産性を損なわない時間で切断できる。レーザー加工速度が200mm/s以下であれば、より厚みのあるグラファイトシートを切断できる。レーザー加工速度は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定され得る。
【0042】
<グラファイト積層体の作製工程>
上記製造方法は、さらにグラファイト積層体を作製する工程を含んでいてもよい。グラファイト積層体は、市販のグラファイトシートおよび樹脂製フィルムを積層することによって作製されてもよい。この際、グラファイトシートと樹脂製フィルムとを強固に接着させるためには、グラファイトシートと樹脂製フィルムとの積層物を加圧することが好ましい。また、加圧と同時に加熱を行うことが好ましい。加熱による接着層の軟化、および、加圧の効果によって、グラファイト積層体内への空気の侵入を抑制することができる。これによって、グラファイトシート同士の間の接触熱抵抗を低減できる。
【0043】
また、グラファイトシートとしては、天然黒鉛、高分子原料を熱処理して得られるグラファイトシートおよび高配向熱分解グラファイトが挙げられる。グラファイトシートの中でも、熱伝導性および機械強度の観点から、高分子原料を熱処理して得られるグラファイトシートが特に好ましい。上記製造方法は、高分子原料からなるフィルム(以下、高分子フィルムとも称する)を熱処理してグラファイトシートを得る工程を含んでいてもよい。
【0044】
高分子原料は、芳香族高分子であることが好ましい。この芳香族高分子は、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの高分子原料からなるフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。特に好ましい高分子原料として芳香族ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレンおよびポリパラフェニレンオキサジアゾールを例示することができる。特に高分子原料は芳香族ポリイミドであることが好ましい。酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)とからポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは、高分子原料として特に好ましい。
【0045】
高分子フィルムを、不活性ガス中または真空中にて予備加熱することによって、炭素化を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、またはアルゴンと窒素との混合ガスが好ましく用いられる。予備加熱は、通常1000℃程度で行う。予備加熱温度までの昇温速度は特に限定されないが、例えば5〜15℃/分である。予備加熱の段階では高分子フィルムの配向性が失われないように、膜面にフィルムの破壊が起きない程度の垂直方向の圧力を加えることが好ましい。
【0046】
上記の方法で炭素化されたフィルム(以下、炭素化フィルムとも称する)を高温炉内にセットし、グラファイト化を行なうことが好ましい。炭素化フィルムのセットは、冷間静水圧プレス材(CIP材)またはグラッシーカーボン製の基板に挟むことによって行われることが好ましい。また、グラファイト化を2400℃以上で行うことによって、得られるグラファイトシートの膜面方向の熱伝導率を500W/mK以上にすることができる。
【0047】
グラファイト化における最高温度は、好ましくは2400℃以上、より好ましくは2600℃以上、さらに好ましくは2800℃以上である。得られたグラファイトシートをアニーリングの形で再熱処理してもよい。このような高温を作り出すには、通常、グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュール熱を利用して加熱を行う。グラファイト化は不活性ガス中で行われ得る。不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えてもよい。処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化できるが、例えば3700℃以下、特に、3600℃以下または3500℃以下であっても、優れたグラファイトシートが得られる。
【0048】
上記最高温度での保持時間は、例えば、10分以上、好ましくは30分以上であり、1時間以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、通常、10時間以下、特に5時間以下であってもよい。
【0049】
〔2.加工グラファイト積層体〕
本発明の一実施形態に係る加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている。当該加工グラファイト積層体は、上述の加工グラファイト積層体の製造方法によって得られるものであり得る。以下では、〔1.加工グラファイト積層体の製造方法〕において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を省略する。
【0050】
上述のようなレーザーを用いてグラファイト積層体を焼き切る際、レーザーの熱によって、グラファイト積層体の樹脂層に含まれる樹脂の一部が融けてグラファイト層の間から出る。または融けた樹脂がさらに炭化または黒鉛化される。本明細書では、このように樹脂が炭化して炭素元素に富んだ状態のものを炭化物と称する。また、樹脂が黒鉛化したものを黒鉛化物と称する。それゆえ、加工グラファイト積層体では、グラファイト層の端部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆され、各グラファイト層の端部が一体化する。このような加工グラファイト積層体の端部の一例を後述の図3の(a)に示す。2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されていることにより、層間剥離が抑えられる。層間剥離とは、加工グラファイト積層体に含まれるいずれかのグラファイト層および樹脂層の間の剥離を指す。
【0051】
本明細書において、「2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている」は以下のよう算出された被覆率が20%以上であることを意図する。まず、レーザーによって切断した断面を含む任意の領域(横640μm×縦490μm)を、正面から走査型電子顕微鏡を用いて観察する。ここで、グラファイト層同士の境界に平行な方向を横、垂直な方向を縦とする。本明細書において、被覆率は、上記のように観察された領域中のグラファイト層同士の境界の横方向の長さの合計に対する、樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている境界の横方向の長さの比を意図する。すなわち、(640μm×境界の数)で表される長さに対する、樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている境界の横方向の長さの比が20%以上である。「樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている境界」とは、上記のように観察された領域中のグラファイト層同士の境界のうちの、樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている領域を指す。被覆率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、最も好ましくは100%である。後述の図5の(a)では、被覆率が73%である。被覆率の、より具体的な算出方法は、後述の実施例にて説明する。
【0052】
なお、被覆している物質は、樹脂、炭化物および黒鉛化物のいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。樹脂、炭化物、黒鉛化物およびそれらの混合物は組成がほぼ同じであるため、被覆している物質が樹脂、炭化物、黒鉛化物およびそれらの混合物のいずれであるのか判別し難い場合もある。
【0053】
好ましくは、加工グラファイト積層体に含まれるグラファイト層の端部の全部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている。すなわち、加工グラファイト積層体においては、各グラファイト層の端部が一体化していることが好ましい。換言すれば、加工グラファイト積層体の端部において層状構造が不明瞭になっていることが好ましい。これにより、層間剥離をより抑えることができる。
【0054】
加工グラファイト積層体においては、端部の焼けの幅が、300μm未満であることが好ましく、100μm未満であることがより好ましい。本明細書において、「焼け」とは、レーザーの熱によって黒く変色した領域を指す。焼けの幅は後述の実施例に記載の測定方法によって測定され得る。
【0055】
〔3.加工グラファイト積層体用レーザー切断装置〕
本発明の一実施形態に係る加工グラファイト積層体用レーザー切断装置は、レーザーの波長が10nm以上、1100nm以下であり、上記加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは10μm以上、100μm以下である。当該加工グラファイト積層体用レーザー切断装置は、上述の加工グラファイト積層体の製造方法において使用され得るものである。すなわち、当該加工グラファイト積層体用レーザー切断装置は、上述の加工グラファイト積層体を製造するために使用され得るものである。それゆえ、上述した〔1.加工グラファイト積層体の製造方法〕および〔2.加工グラファイト積層体〕で説明した各種事項は、本発明の一実施形態に係る加工グラファイト積層体用レーザー切断装置にも適宜援用し得る。
【0056】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法は、グラファイト積層体を、レーザーによって切断する工程を含み、上記グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記レーザーの波長は、10nm以上、1100nm以下である。
【0058】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法では、上記レーザーの波長は、300nm以上、600nm以下であってもよい。
【0059】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法では、上記レーザーの加工点出力は、4W以上、70W以下であってもよい。
【0060】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法では、上記レーザーのビーム径は、5μm以上、50μm以下であってもよい。
【0061】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体の製造方法では、上記樹脂層が、熱可塑性樹脂層であってもよい。
【0062】
また、本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは、10μm以上、100μm以下であり、上記2枚以上のグラファイト層の端部の少なくとも一部が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている。
【0063】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体では、上記樹脂層が、熱可塑性樹脂層であってもよい。
【0064】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体では、上記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリエステル樹脂層であってもよい。
【0065】
本発明の一態様に係る加工グラファイト積層体用レーザー切断装置は、レーザーの波長が10nm以上、1100nm以下であり、上記加工グラファイト積層体は、2枚以上のグラファイト層とその間に挟まれた樹脂層とを含み、上記グラファイト層1枚あたりの厚みは10μm以上、100μm以下である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔(1)剥離性の評価〕
<製造例1>
長さ20m、幅250mm、厚み75μmのポリイミドフィルム(カネカ製ポリイミド、アピカルAH)を外径150mmの円筒状炭素質芯に巻きつけた。電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理することによって、このポリイミドフィルムに炭化処理(炭素化)を施した。引き続いて、超高温炉を用いてアルゴン雰囲気下で2800℃まで昇温した後、その最高温度で1時間保持することによって、炭素化されたフィルムをグラファイト化した。その後、グラファイト化したフィルムを冷却することによって、長さ18m、幅225mm、厚み40μmのグラファイトシートを得た。
【0068】
<実施例1および比較例1>
上記グラファイトシートおよびPETシート(厚み5μm)を所望のサイズに切断し、次いで、これらを1枚ずつ交互に積層した。なお、グラファイトシート5枚およびPETシート4枚を用いて、最外層がグラファイトシートとなるように積層した。得られた積層体に対して加圧(3MPa)および加熱(270℃)を同時に行うことにより、各層を接着させた。これにより、5層のグラファイト層および4層の樹脂層からなるグラファイト積層体を得た。当該グラファイト積層体は、長さ260mm、幅210mm、厚み170μmであった。
【0069】
上記グラファイト積層体を、YAGレーザー(波長532nm)または裁断プレス(パンチング)を用いて切断することによって、長さ70mm、幅14mm、厚み170μmの加工グラファイト積層体の個片を得た。YAGレーザーによって得られた加工グラファイト積層体を実施例1、裁断プレスによって得られた加工グラファイト積層体を比較例1とした。
【0070】
<評価方法>
実施例1および比較例1の加工グラファイト積層体それぞれの剥離性を評価した。図4は、剥離性の評価方法の概要を示す図である。長さ70mm、幅14mm、厚み170μmの加工グラファイト積層体1の片面に、長さ71mm、幅15mm、厚み5μmのアクリル系両面テープ2を貼り付けた。この際、加工グラファイト積層体1がアクリル系両面テープ2からはみださないように貼り付けた。さらに、加工グラファイト積層体1の、アクリル系両面テープ2が貼り付けられていないもう一方の面に、長さ71mm、幅15mm、厚み70μmのPET製保護フィルム3を貼り付けた。この際も、PET製保護フィルム3から加工グラファイト積層体1がはみださないように貼り付けた。これにより、図4の(a)に示すように、アクリル系両面テープ2/加工グラファイト積層体1/PET製保護フィルム3からなる複合体5を得た。
【0071】
剥離性を有する、幅100mm、厚み40μmのPETフィルム4からなるロールからPETフィルム4を繰り出した。そのPETフィルム4に、22mm間隔で100個の複合体5を貼りつけた。この際、図4の(b)に示すように、複合体5のアクリル系両面テープ2側をPETフィルム4に貼り付けた。これにより、複合体5が貼り付いているPETフィルムロールを得た。
【0072】
図4の(c)に示すように、PETフィルムロールから、複合体5が貼り付いたままのPETフィルム4を繰り出した。そして、PETフィルム4から剥離した複合体7を受取台6上に受け取った。この複合体7の加工グラファイト積層体1の端部を目視で観察した。この加工グラファイト積層体1の端部において、層間剥離による折れ曲がりの有無を観察した。
【0073】
<評価結果>
評価結果を以下に示す。
比較例1:折れ曲がり(層間剥離) 23個
実施例1:折れ曲がり(層間剥離) 0個
以上のように、特定の波長のレーザーによって切断した加工グラファイト積層体では、層間剥離が抑えられることがわかった。
【0074】
また、実施例1および比較例1の加工グラファイト積層体の端部を観察した。図1は、実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の外観および断面を示す図である。図1の(a)に示すように、実施例1の加工グラファイト積層体10を点線に沿って、鋏を用いて切断した。その点線における断面を矢印の方向から観察した図が、図1の(b)である。なお、図1の(b)の矢印はレーザーによって切断された端部を指している。図1の(c)は、比較例1の加工グラファイト積層体20の外観を示している。図1の(b)と同様に、比較例1の加工グラファイト積層体20の断面を観察した図が、図1の(d)である。図1の(d)の矢印は、裁断プレスされた端部を指している。図1の(b)に示すように実施例1では端部の層状構造が不明瞭になっている。これに対し、図1の(d)に示すように比較例1では端部の層状構造が明瞭である。そのため、実施例1では層間剥離が抑えられたと考えられる。
【0075】
図2は、実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の断面を示す図である。図2の(a)は、図1の(b)をさらに拡大した図である。加工グラファイト積層体10は、グラファイト層11および樹脂層12が交互に積層されて形成されている。同様に、図2の(b)は、図1の(d)をさらに拡大した図である。加工グラファイト積層体20は、グラファイト層21および樹脂層22が交互に積層されて形成されている。また、図2の(c)および(d)は、それぞれグラファイト層11およびグラファイト層21を拡大した図である。
【0076】
図3は、実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体の端部を示す図である。図3の(a)および(b)はそれぞれ、図1の(b)および(d)の矢印方向から走査型電子顕微鏡を用いて端部を観察した図である。図3の(a)に示すように実施例1では各グラファイト層が樹脂、炭化物、黒鉛化物またはそれらの混合物によって被覆されている。これに対し、図3の(b)に示すように比較例1では端部の層状構造が明瞭である。
【0077】
図5は、図3に示された領域の被覆率の算出方法を説明する図である。図5の(a)および(b)は、図3の(a)および(b)と同じ領域を示しており、その領域のサイズは横640μm×縦490μmである。図5の網掛け部分は、グラファイト層同士の、横方向に連続した観察可能な境界(すなわち、被覆されていない境界)を示している。実施例1および比較例1に係る加工グラファイト積層体は5層のグラファイト層を有するため、グラファイト層同士の境界の数は4である。よって、図5の(a)および(b)それぞれに含まれるグラファイト層同士の境界の横方向の長さの合計は640×4μmである。この場合、被覆率は以下のように算出される。
被覆率={1−(網掛け部分の横方向の長さの合計)/(640×4)}×100
この式に基づいて算出した被覆率は、実施例1では73%、比較例1では3%であった。
【0078】
〔(3)加工性の評価〕
<実施例2〜12および比較例2〜4>
寸法が約210mm×260mmであり、厚み20〜50μmであるグラファイトシートと、これと同じ寸法であり、厚み約10μmであるPETシートとを1枚ずつ交互に積層した。なお、グラファイトシート5枚およびPETシート4枚を用いて、最外層がグラファイトシートとなるように積層した。得られた積層体に対して加圧(3MPa)および加熱(270℃)を同時に行うことにより、各層を接着させた。これにより、5層のグラファイト層および4層の樹脂層からなるグラファイト積層体を得た。なお、グラファイトシートは、上述の製造例1と同様にして得られたものである。
【0079】
上記グラファイト積層体を、後述の表1または2に示す加工条件にてレーザーを用いて切断することによって、実施例2〜12および比較例2〜4の加工グラファイト積層体を得た。なお、加工点出力はコヒレント社製、FieldMAXII−TOPによって測定した。
【0080】
<評価方法>
後述の加工条件にてレーザーを用いてグラファイト積層体の輪郭に沿って外周約170mmを切断するために要した時間を測定した。切断した外周の長さを、切断に要した時間で除してレーザー加工速度を算出した。なお、切断の可否をレーザー加工可否として評価した。
【0081】
また、マイクロスコープにて、レーザー入射面およびその裏面からレーザー加工痕を観察し、黒く変色している領域の幅を測定した。この「黒く変色している領域」を「焼け」と称する。焼けの状態を以下のように評価した。
優:焼けなし。
良:100μm未満の小さな焼けがある。
可:100μm以上、300μm未満の焼けがある。
不可:300μm以上の大きな焼けがある。
【0082】
レーザー加工痕をマイクロスコープで確認することによってバリの大きさを観察した。バリの大きさを以下のように評価した。
良:発生するバリが150μm未満である。
可:発生するバリが150μm以上、250μm未満である。
不可:発生するバリが250μm以上である。
【0083】
<評価結果>
表1および2にこれらの加工グラファイト積層体の加工条件および評価結果を示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
*1:レーザー加工速度を測定していないが、2mm/s以上、20mm/s未満であると推測される。
*2:レーザー加工速度を測定していないが、2mm/s未満であると推測される。
*3:レーザー加工速度を測定していないが、20mm/s以上、40mm/s未満であると推測される。
【0087】
表1および2からわかるように、波長が10nm以上、1100nm以下であるレーザーを用いた場合、グラファイト積層体を加工することができた。また、波長が300nm以上、600nm以下であるレーザーを用いた場合、特に焼けおよびバリを抑えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、電極、配線、センサ、振動板、反射板および放熱材等の分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1、10 加工グラファイト積層体
11 グラファイト層
12 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5