特許第6896998号(P6896998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6896998ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896998
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20210621BHJP
   C08G 63/83 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C08G63/183
   C08G63/83
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-45657(P2016-45657)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160325(P2017-160325A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】孫 澤蒙
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−041947(JP,B1)
【文献】 特開昭51−148794(JP,A)
【文献】 特開昭54−131695(JP,A)
【文献】 特開2004−175838(JP,A)
【文献】 特開2008−201822(JP,A)
【文献】 特開2009−001669(JP,A)
【文献】 特開2009−179659(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/103945(WO,A1)
【文献】 特開2014−058630(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/045995(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/167084(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/073385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 − 63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)〜(III)を満たし、かつ直径10μm以上のマンガン元素を含有する黒色異物が5個/10g以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (I)
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (II)
ゲル化率 ≦ 10.0wt% (III)
(なおゲル化率は、酸素濃度1%の窒素雰囲気下、300℃ で6時間加熱処理した際のゲル化率であり、樹脂組成物0.5gを酸素/窒素濃度1%流通下(流量0.5L/分)、300℃で6時間加熱処理後、20mlのo−クロロフェノール(60℃、1時間)に溶解し、放冷、ろ過後のろ過器の重量増分より、樹脂組成物に対する重量分率を求めたものである。)
【請求項2】
飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量(ΔCOOH)が85.0eq/ton以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
アルカリ金属元素含有量が3ppm以上30ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
溶融比抵抗(290℃、窒素流通下で溶融)が15.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
下記式(IV)〜(VI)を満たし、かつ直径10μm以上のマンガン元素を含有するフィルム黒色異物が5個/10g以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレートフィルム。
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (IV)
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (V)
ゲル化率 ≦ 10.0wt% (VI)
(なおゲル化率は、酸素濃度1%の窒素雰囲気下、300℃ で6時間加熱処理した際のゲル化率であり、樹脂組成物0.5gを酸素/窒素濃度1%流通下(流量0.5L/分)、300℃で6時間加熱処理後、20mlのo−クロロフェノール(60℃、1時間)に溶解し、放冷、ろ過後のろ過器の重量増分より、樹脂組成物に対する重量分率を求めたものである。)
【請求項6】
ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、ポリエステルのIV(固有粘度)が0.4以下の段階で、カラーマシンにて測定したa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物のエチレングリコール溶液を添加し、かつ重縮合反応終了までの段階でリン化合物を添加し、かつその添加量が下記式(VII)、(VIII)を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
20ppm≦Mn元素添加量≦70ppm (VII)
0.60≦Mn元素添加量(mol/t)/P元素添加量(mol/t)≦1.10 (VIII)
【請求項7】
重縮合反応が終了するまでの段階でアルカリ金属化合物を添加し、その添加量がアルカリ金属元素として3ppm以上30ppm以下であることを特徴とする請求項6記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
リン化合物がリン酸であることを特徴とする請求項6または7に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形時に発生するゲル組成物および触媒金属に由来する異物が少なく、成形性に優れたポリエステル樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。しかしながら、溶融成形時に熱劣化・酸化劣化することでゲル組成物が発生し、口金汚れなどの工程汚染が問題となる。さらにフィルム用途などでは、このゲル組成物がフィルム中にて輝点欠点となり、品質が低下する。近年、光学用フィルムなどは品位の要求がますます高くなっており、ゲル組成物の発生を抑制するポリエステル樹脂が望まれている。
【0003】
特許文献1には、金属量とリン量のモル比率を高い範囲に制御し、ゲル組成物を抑制する技術が開示されている。しかしながら、金属量とリン量のモル比率が高いため、耐熱性や耐加水分解性が低下してしまうという課題があった。
【0004】
また、引用文献2,3にも開示されているように、ポリエステルを製造する触媒として、マンガン化合物を使用することは一般的である。触媒として使用する場合、溶媒に溶解して使用することで均一に反応させることができるが、マンガン化合物は徐々に酸化劣化してしまい、酸化マンガンが生成してしまう。この酸化マンガンをポリエステル重合に添加すると、黒色の異物が発生してしまい、成形品の品位低下に繋がることから改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−96280号公報
【特許文献2】WO2010−103945号公報
【特許文献3】特開2000−44665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した従来の課題を解決し、溶融成形時に発生するゲル組成物および触媒金属に由来する異物が少なく、成形性に優れたポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)下記式(I)〜(III)を満たし、かつ直径10μm以上のマンガン元素を含有する黒色異物が5個/10g以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (I)
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (II)
ゲル化率 ≦ 10.0wt% (III)
(2)下記式(IV)〜(VI)を満たし、かつ直径10μm以上のマンガン元素を含有するフィルム黒色異物が5個/10g以下であることを特徴とするポリエチレンテレフタレートフィルム。
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (IV)
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (V)
ゲル化率 ≦ 10.0wt% (VI)
(3)ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、ポリエステルのIV(固有粘度)が0.4以下の段階で、カラーマシンにて測定したa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物のエチレングリコール溶液を添加し、かつ重縮合反応終了までの段階でリン化合物を添加し、かつその添加量が下記式(VII)、(VIII)を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
20ppm≦Mn元素添加量≦70ppm (VII)
0.60≦Mn元素添加量(mol/t)/P元素添加量(mol/t)≦1.10 (VIII)

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融成形時に発生するゲル組成物および触媒金属に由来する異物が少なく、成形性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とジオール成分を重縮合して得られるポリエステル樹脂を指す。
本発明におけるジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸など種々のジカルボン酸成分を用いることができる。その中でも、ポリエステル組成物の機械的特性、耐熱性、耐加水分解性の観点から、芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。特には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が重合性、機械的特性から好ましい。
【0010】
本発明におけるジオール成分としては、各種ジオールを用いることができる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、アダマンジオールなどの各種脂環式ジオールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にもトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。
【0011】
この中で、反応系外に留出させやすいことから、沸点230℃以下のジオールであることが好ましく、低コストであり反応性が高いことから、脂肪族ジオールがより好ましい。さらに、機械的特性の観点からエチレングリコールが特に好ましい。
なお、本発明の効果の範囲を損なわない程度に、他のジカルボン酸やヒドロキシカルボン酸誘導体、ジオールが共重合されていてもよい。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、マンガン元素を含有する異物が5個/10g以下であることが必要である。好ましくは、3個以下であり、異物を含有していないことがさらに好ましい。異物量を上記範囲にすることで、光学フィルム等に供しても問題のない光学欠点の少ない成形体を得ることができる。上記異物とは、触媒として使用しているマンガン化合物が酸化劣化し、酸化マンガンに変異することで発生する黒色異物である。本発明では、マンガン化合物の酸化劣化を防ぐため、窒素パージにて保管、遮光容器での保管、または触媒溶液調整後、触媒溶液の色調が変化しないうちに重合に供することで異物発生を抑制している。この触媒溶液の色調変化・酸化劣化の度合いとして、添加するマンガン化合物のエチレングリコール溶液のa値を測定しており、このa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物の触媒溶液を使用することで、黒色異物を抑制することが可能である。
【0013】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、下記式(I)で表されるように、マンガン元素を20ppm以上70ppm以下含有していることが必要である。
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (I)
下限として好ましくは25ppm以上、より好ましくは30ppm以上である。また、上限としより好ましくは55ppm以下である。上記範囲とすることで、溶融成形時に発生するゲル組成物を抑制できるため成形体の欠点を抑制でき、また溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上する。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、下記式(II)で表されるマンガン元素含有量とリン元素含有量のモル比率が0.70以上1.20以下であることが必要である。
【0015】
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (II)
下限として好ましくは、0.75以上、より好ましくは0.80以上である。また上限として好ましくは1.10以下である。上記範囲とすることで、熱分解・加水分解を抑制することができることから耐久性が向上し、また溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上する。
【0016】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物は、酸素濃度1%の窒素雰囲気下、300℃で6時間加熱処理した際のゲル化率が10.0wt%以下であることが必要である。好ましくは8.0wt%以下であり、さらに好ましくは5.0wt%以下である。上記範囲とすることで、溶融成形時に発生するゲル組成物を抑制できるため成形体の欠点を抑制できる。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量(ΔCOOH)が85.0eq/t以下であることが好ましい。好ましくは70.0eq/t以下、さらに好ましくは60.0eq/t以下である。上記範囲にすることで、耐加水分解性が良好であり、長期耐久性が付与できる。
【0018】
また本発明のポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の含有量が3ppm以上30ppm以下であることが好ましい。上限として好ましくは20ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。上記範囲にすることで、耐熱性を損なうことなく、溶融比抵抗を小さくすることができるため、成形性が向上する。アルカリ金属元素は特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが上げられ、透明性の点からカリウムがより好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、290℃、窒素下で測定した溶融比抵抗が15.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。より好ましくは、10.0×10Ω・cm以下であり、さらに好ましくは8.0×10Ω・cm以下である。通常、フィルムなどを製造する際、静電印加製膜が実施されるが、この溶融比抵抗値が大きいと、静電印加性が損なわれるため、薄膜などの高速製膜が不可となり、生産性が低下する。溶融比抵抗を上記範囲とすることで、静電印加製膜に必要な静電印加性を付与することができる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、溶液ヘイズが2.0%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5%以下であり、1.0%以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、高透明性の求められる光学フィルムや離型フィルム等に供することが可能となる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムは、マンガン元素を含有するフィルム異物が5個/10g以下であることが必要である。好ましくは3個/10g以下であり、フィルム異物を含有していないことがさらに好ましい。フィルム異物量を上記範囲にすることで、光学欠点が少ないため、高透明性の求められる光学フィルムや離型フィルム等に供することができる。フィルム異物とは、上記した異物と同様であり、触媒として使用しているマンガン化合物が酸化劣化し、酸化マンガンに変異することで発生する黒色異物である。
また、本発明のポリエステルフィルムは、下記式(IV)で表されるように、マンガン元素を20ppm以上70ppm以下含有していることが必要である。
【0022】
20ppm≦Mn元素含有量≦70ppm (IV)
下限として好ましくは25ppm以上、より好ましくは30ppm以上である。また、上限としてより好ましくは55ppm以下である。上記範囲とすることで、ゲル組成物による欠点が少なくなるため、高透明性の求められる光学フィルムや離型フィルム等に供することができる。また溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上し、薄膜化や高速製膜が可能となる。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、下記式(V)で表されるマンガン元素含有量とリン元素含有量のモル比率が0.70以上1.20以下であることが必要である。
0.70≦Mn元素含有量(mol/t)/P元素含有量(mol/t)≦1.20 (V)
下限として好ましくは、0.75以上、より好ましくは0.80以上である。また上限として好ましくは1.10以下である。上記範囲とすることで、熱分解・加水分解を抑制することができることから耐久性が向上し、また溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上し、薄膜化や高速製膜が可能となる。
【0024】
さらに、本発明のポリエステルフィルムは、酸素濃度1%の窒素雰囲気下、300℃で6時間加熱処理した際のゲル化率が10.0wt%以下であることが必要である。好ましくは8.0wt%以下であり、さらに好ましくは5.0wt%以下である。上記範囲とすることで、ゲル組成物による欠点が少なくなるため、高透明性の求められる光学フィルムや離型フィルム等に供することができる。
本発明のポリエステルフィルムは、本発明のポリエステル樹脂組成物を用い、製膜することで上記特性を満たすことが可能となる。ポリエステルフィルムの厚みは特に制限しないが、通常の二軸延伸製膜にて得ることができる厚み5μm以上200μm以下であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、溶融比抵抗が低く、成形性が良好なポリエステル樹脂組成物を用いているため、静電印加製膜にて高速化及び薄膜化が可能である。
【0025】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について記載する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応し、ポリエステルを製造するに際して、ポリエステルのIV(固有粘度)が0.4以下の段階で、カラーマシンにて測定したa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物のエチレングリコール溶液を添加し、かつ重縮合反応終了までの段階でリン化合物を添加し、かつその添加量が下記式(VII)、(VIII)を満たすことで得ることができる。
20ppm≦Mn元素添加量≦100ppm (VII)
0.60≦Mn元素添加量(mol/t)/P元素添加量(mol/t)≦1.10 (VIII)
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル交換反応またはエステル化反応し、次いで重縮合反応し、ポリエステルを製造するに際して、カラーマシンにて測定したa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物のエチレングリコール溶液を添加することが必要である。上限として好ましくは、0.4以下であり、さらに好ましくは0.3以下である。また、a値が0とは赤色も緑色も呈していないことを示しており、より0に近いことが異物抑制の観点から好ましい。上記範囲とすることで、マンガン元素を含有する異物を5個/10g以下にすることが可能である。この異物は、マンガン化合物が酸化劣化し、酸化マンガンに変異することで発生する黒色異物である。ポリエステル製造中に触媒として添加するマンガン化合物のエチレングリコール溶液が酸化劣化すると、溶液の色調は徐々に薄桃色から黒褐色へと変化し、異物の要因となる。触媒として使用するマンガン化合物のエチレングリコール溶液の色調が上記範囲を満たすことで、黒色異物のない良好なポリエステル樹脂を製造することができる。本発明においては、マンガン化合物の酸化劣化を防ぐため、窒素パージにて保管や、遮光容器での保管、または触媒溶液調整後、触媒溶液の色調が変化しないうちにポリエステル重合に供することで異物発生を抑制している。本発明においては、このa値によって、触媒溶液の色調変化・酸化劣化の度合いを評価しており、上記範囲を満足することでポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムの黒色異物を抑制することが可能となる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、上記マンガン化合物はポリエステルのIV(固有粘度)が0.4以下の段階で添加することが必要である。上記範囲に添加することで、反応性が良好となり、またポリエステルへの分散性も良好となるため、透明性が高まる。その中でも、エステル交換反応にてポリエステル低量体を得る場合は、反応をより効率的に進行させることができるため、エステル交換反応開始時に添加することが好ましい。また、エステル化反応にてポリエステル低量体を得る場合には、エステル化反応終了時からポリエステルのIVが0.4以下の段階で添加することが好ましく、エステル化反応終了時から、重縮合反応開始までに添加することがより好ましい。エステル化反応は、テレフタル酸などの酸成分による自己触媒反応により、無触媒でも十分に反応は進行し、触媒を含有しているとジオール成分の2量体などの副生成物が増加することから、無触媒で実施し、ポリエステルの粘度が上昇する前に添加することで、耐熱性を損なうことなく、マンガン化合物の分散性が向上し高透明性を発現することが可能となる。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、マンガン化合物の添加量は下記式(VII)を満たすことが必要である。
20ppm≦Mn元素添加量≦100ppm (VII)
下限としてより好ましくは25ppm以上であり、さらに好ましくは30ppm以上である。上限としては70ppm以下がより好ましく、さらに好ましくは55ppm以下である。上記範囲とすることで、溶融成形時に発生するゲル組成物を抑制できるため成形体の欠点を抑制でき、また溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上する。
【0028】
マンガン化合物は、特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。
また、マンガン化合物のエチレングリコール溶液は、2wt%以上10wt%以下で調整することが好ましい。上記範囲とすることで、ジエチレングリコールなどの副生成物を抑制することができる。マンガン化合物のエチレングリコール溶液の調整及び保管時は、窒素雰囲気下とすることや遮光容器を用いることで、マンガン化合物の酸化劣化を抑制することが可能である。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応が終了するまでの段階で、リン化合物を添加することが必要である。リン化合物の添加時期として、より好ましくは、エステル交換反応及びエステル化反応終了後から重縮合反応開始までの間である。上記範囲に添加することで、反応を遅延させることなく、効果的にポリエステルに熱安定性を付与することができる。
【0030】
リン化合物の添加量には特に制限を設けないが、添加量の下限としては、リン元素量として10ppm以上であることが好ましい。より好ましくは15ppm以上であり、さらに好ましくは20ppm以上である。添加量の上限としては、リン元素量として100ppm以下であることが好ましい。より好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。この範囲にすることで、重合の遅延を起こすことがなく、樹脂組成物の熱安定性を良好にすることができる。
【0031】
リン化合物としてはリン酸、トリメチルホスフェート、トリメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、フェニルホスホン酸ジメチルなどが挙げられ、溶融成形時に発生するゲル組成物を抑制できる点から、リン酸が特に好ましい。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、下記式(VIII)で表されるマンガン元素添加量とリン元素添加量のモル比率が0.60以上1.10以下であることが好ましい。
0.60≦Mn元素添加量(mol/t)/P元素添加量(mol/t)≦1.10 (VIII)
下限としてより好ましくは、0.65以上、さらに好ましくは0.70以上である。また上限としてより好ましくは1.00以下である。上記範囲とすることで、熱分解・加水分解を抑制することができることから耐久性が向上し、また耐熱性が向上することからゲル化を抑制することが可能である。さらに、溶融比抵抗も小さくなることから成形性が向上する。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応が終了するまでの段階でアルカリ金属化合物を添加することが好ましい。アルカリ金属化合物の添加時期として、より好ましくは、エステル交換反応及びエステル化反応終了後から重縮合反応開始までの間である。上記範囲に添加することで、耐熱性を損なうことなく、ポリエステル樹脂組成物の溶融比抵抗を低下させることができる。
【0034】
アルカリ金属化合物の添加量は、アルカリ金属元素として3ppm以上30ppm以下であることが好ましい。上限としてより好ましくは20ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。上記範囲にすることで、耐熱性を損なうことなく、溶融比抵抗を小さくすることができるため、成形性が向上する。アルカリ金属元素は特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが上げられ、透明性の点からカリウムが特に好ましい。また、アルカリ金属化合物は、特に限定しないが、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などが挙げられ、透明性の点から水酸化物および酢酸塩が好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル組成物の製造に用いられる触媒は公知のエステル交換触媒、重縮合触媒、助触媒を用いることができる。例えば、重合触媒としてはアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、エステル交換触媒及び助触媒としては、マンガン化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、コバルト化合物、亜鉛化合物、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、末端封鎖剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤またはその他の添加剤等を必要に応じて配合しても良い。
【0037】
以下、本発明におけるポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレートが仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーをスネークポンプにて徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0038】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、カラーマシンにて測定したa値が0以上0.5以下であるマンガン化合物のエチレングリコール溶液、アルカリ金属化合物、重縮合触媒、リン化合物を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240〜255℃に保つことが好ましい。
【0039】
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリマーを冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得る。
【0040】
ポリエステル樹脂組成物を180℃で3時間真空乾燥し、窒素雰囲気下で押し出し機に供給する。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化する。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、ポリエステルフィルムを得る。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、溶融成形時に発生するゲル組成物および触媒金属に由来する異物が少なく、成形性に優れたものである。したがって、フィルム、繊維、成形体など各種用途に好適に用いることができ、特に本発明のポリエステルフィルムは高透明性の求められる光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【実施例】
【0042】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0043】
(1)ポリエステル樹脂組成物の固有粘度(IV)
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
【0044】
(2)ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960)) 。
【0045】
(3)ポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムのマンガン及びリン含有量
ポリエステル樹脂組成物またはポリエステルフィルムを溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0046】
(4)ポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムのアルカリ金属含有量
原子吸光法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度型180−80、フレーム:アセチレン空気)にて定量を行った。
【0047】
(5)マンガン化合物エチレングリコール溶液の色調
マンガン化合物のエチレングリコール溶液をシャーレに液深1cmとなるように入れ、カラーマシン(スガ試験機(株)製:SM−T45)にてa値を測定した。
【0048】
(6)ポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムのゲル化率
ポリステル樹脂組成物またはポリエステルフィルムを凍結粉砕機(Sprex CertiPerp社製)にて粉砕し、ステンレスビーカーに0.5g秤量した。真空乾燥機を用いて、50℃で2時間真空乾燥した後、酸素/窒素濃度1%流通下(流量0.5L/分)、300℃で6時間加熱処理を行った。これを、20mlのo−クロロフェノールで、160℃で1時間溶解し、放冷した。この溶液を、ガラスフィルター(柴田科学(株)製、3GP40)を使用してろ過し、ジクロロメタンにてガラスフィルターを洗浄した。ガラスフィルターを130℃で2時間乾燥し、ろ過前後のろ過器の重量の増加分より、ポリエステル重量(0.5g)に対する重量分率を求め、ゲル化率(%)とした。
【0049】
(7)ポリエステル樹脂組成物の湿熱処理評価(ΔCOOH)
ポリエステル樹脂組成物を飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH)を算出した。
なお、処理装置は次の加熱処理装置を使用した。
PRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製) 。
【0050】
(8)ポリエステル樹脂組成物の溶融比抵抗
ポリエステル樹脂150gを純水置換した50φ試験管に入れ、180℃で3時間真空乾燥した。その後、290℃、50分窒素流通下で溶融し、電極を溶融ポリマーに挿入した。電極間に5000Vの電圧を加えたときの電流量から抵抗値を算出することで溶融比抵抗を求めた。
なお電極は、銅板(22cm)2枚の間にテフロン(登録商標)のスペーサーを挟み、銅板間が9mmとなるように作成した。
【0051】
(9)ポリエステル樹脂組成物の溶液ヘイズ
ポリエステル樹脂組成物2gを20mlのフェノール/1,1,2,2,テトラクロロエタンの3/2(容積比)混合溶液に溶解し、光路長20mmのセルを用い、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製 HZ−1)によって積分球式光電光度法にて分析を行った。
【0052】
(10)ポリエステル樹脂組成物の異物量
ポリエステル樹脂組成物10gをオーツカ光学(株)製ENV−Bを用いて黒色異物をマーキングした。マーキングした黒色異物について、SEM(日立製電界放射型走査電子顕微鏡:型番S−4000)にて異物を観察、EDX(堀場製作所製:型番SuperXerophyS−779XI)にて含有金属分析を実施することで、マンガン元素を含有し、直径が10μm以上ある異物数を計測した。
【0053】
(11)ポリエステルフィルムのフィルム異物量
ポリエステルフィルム10gをオーツカ光学(株)製ENV−Bを用いて黒色異物をマーキングした。マーキングした黒色異物について、SEM(日立製電界放射型走査電子顕微鏡:型番S−4000)にて異物を観察、EDX(堀場製作所製:型番SuperXerophyS−779XI)にて含有金属分析を実施することで、マンガン元素を含有し、直径が10μm以上ある異物数を計測した。
【0054】
(実施例1)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0055】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、三酸化二アンチモン0.013重量部(アンチモン元素として109ppm)、リン酸0.011重量部(リン元素として35ppm)、水酸化カリウム0.0008重量部(カリウム元素として5ppm)、マンガン化合物としてカラーマシンにて測定したa値が0.15である酢酸マンガン4水和物0.02重量部(マンガン元素として45ppm)の5wt%エチレングリコール溶液を添加した(この時のポリエステルのIVは0.33であった)。
【0056】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
この得られたポリエステル樹脂組成物を180℃で3時間真空乾燥し、窒素雰囲気下で押し出し機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0057】
実施例1で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
【0058】
(実施例2〜7、比較例1〜3)
マンガン化合物の添加量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表1に示す
実施例2にて得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに供することができる物性を有していた。
実施例3〜6で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
実施例7にて得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率は低く、溶融比抵抗も低いことから成形性も良好であった。また、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに供すことのできる物性を有していた。
比較例1で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物を添加していないため、ゲル化率・ΔCOOH・溶融比抵抗が増加した。
比較例2で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物の添加量少ないため、ゲル化率・ΔCOOHが増加した。
比較例3で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物の添加量が多いため、ΔCOOH・溶液ヘイズが増加した。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例8〜12、比較例4,5)
リン酸の添加量を表2の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
実施例8で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率は低く、溶融比抵抗も低いことから成形性も良好であった。また、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに供すことのできる物性を有していた。
実施例9〜11で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
実施例12で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率は低く、溶融比抵抗も低いことから成形性も良好であった。また、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに供すことのできる物性を有していた。
比較例4で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、Mn元素含有量とP元素含有量の比が大きいため、ゲル化率、ΔCOOHが増加した。
比較例5で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、リン酸の添加量が多く、Mn元素含有量とP元素含有量の比が小さいため、重合が遅延しCOOH・ΔCOOHが増加、溶液ヘイズも増加した。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例13〜18)
水酸化カリウムの添加量を表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表3に示す。
実施例13で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率・ΔCOOHは良好であり、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに供することができる物性を有していた。
実施例14〜17で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
実施例18で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、異物はなく、成形性も良好であることから、光学フィルムや離型フィルムに供することができる物性を有していた。
【0063】
【表3】
【0064】
(実施例19〜23、比較例6)
添加するマンガン化合物のエチレングリコール溶液のa値を表4の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表4に示す。
実施例19〜22で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
実施例23で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、成形性・ゲル化率・ΔCOOHは良好であり、光学フィルムや離型フィルムに供することができる物性を有していた。
比較例6で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物のエチレングリコール溶液のa値が高いため、異物およびフィルム異物が増加した。
【0065】
(実施例24)
添加するリン化合物をリン酸からリン酸トリメチルに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表5に示す。
実施例24で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、成形性・ΔCOOHは良好であり、異物もないことから光学フィルムや離型フィルムに供することができる物性を有していた。
【0066】
(比較例7)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0067】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、三酸化二アンチモン0.013重量部(アンチモン元素として109ppm)、リン酸0.011重量部(リン元素として35ppm)、水酸化カリウム0.0008重量部(カリウム元素として5ppm)、酢酸カルシウム1水和物0.014重量部(カルシウム元素として33ppm)の5wt%エチレングリコール溶液を添加した(この時のポリエステルのIVは0.33であった)。
【0068】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
この得られたポリエステル樹脂組成物を180℃で3時間真空乾燥し、窒素雰囲気下で押し出し機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表4に示す。
比較例7で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物を使用していないため、ゲル化率・溶液ヘイズが増加した。
【0069】
(比較例8)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0070】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、三酸化二アンチモン0.013重量部(アンチモン元素として109ppm)、リン酸0.011重量部(リン元素として35ppm)、水酸化カリウム0.0008重量部(カリウム元素として5ppm)、酢酸マグネシウム4水和物0.018重量部(マグネシウム元素として20ppm)の5wt%エチレングリコール溶液を添加した(この時のポリエステルのIVは0.33であった)。
【0071】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
この得られたポリエステル樹脂組成物を180℃で3時間真空乾燥し、窒素雰囲気下で押し出し機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表5に示す。
比較例8で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、マンガン化合物を使用していないため、ゲル化率・溶液ヘイズが増加した。
【0072】
(実施例25)
テレフタル酸ジメチル101.0重量部、エチレングリコール64.6重量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。内容物を150℃で溶解した後、マンガン化合物としてカラーマシンにて測定したa値が0.15である酢酸マンガン4水和物0.025重量部(マンガン元素として55ppm)の5wt%エチレングリコール溶液、三酸化二アンチモンを0.03重量部添加し撹拌した。240℃まで昇温しながらメタノールを留出させ、所定量のメタノールが留出した後、リン酸0.016重量部(リン元素として43ppm)、水酸化カリウム0.008重量部(カリウム元素として5ppm)を加え、エステル交換反応を終了した。
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得た。
この得られたポリエステル樹脂組成物を180℃で3時間真空乾燥し、窒素雰囲気下で押し出し機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムの特性を表5に示す。
【0073】
実施例25で得られたポリエステル樹脂組成物及びポリエステルフィルムは、ゲル化率が低く、異物もないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、耐加水分解性も良好であり、溶融比抵抗が低いことから成形性も良好であった。
【0074】
【表4】