(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897130
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ヨークとシャフトの結合構造
(51)【国際特許分類】
F16D 3/26 20060101AFI20210621BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
F16D3/26 X
F16D1/06 244
F16D1/06 210
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-21498(P2017-21498)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-128077(P2018-128077A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 裕史
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−255533(JP,A)
【文献】
特開2005−48803(JP,A)
【文献】
特開2011−247353(JP,A)
【文献】
特開2008−303980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/26, 1/08, 1/06, 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
十字軸を介して互いに連結された一対のヨークの、少なくとも一方のヨークとシャフトとを締結部材によって結合するヨークとシャフトの結合構造において、
前記シャフトは前記締結部材が貫通する挿通穴を有し、
前記一方のヨークは円筒状のベース部と、該ベース部から二股状に分岐して延び前記十字軸と係合するための一対のアーム部とを有し、
前記一方のヨークのベース部から一対のアーム部にかけて、該ベース部の径方向中心を含み該アーム部の延びる方向と平行な方向に延びたスリットが形成され、
前記一方のヨークのベース部には、軸線方向が該スリットの延びる方向と直交する方向となるように前記アーム部と90度位相を異ならせ、前記締結部材が貫通する貫通孔が形成され、
前記スリットは、前記ヨークの軸線方向において、前記ベース部の端面から少なくとも前記貫通孔を越えた位置まで形成されていること
を特徴とするヨークとシャフトの結合構造。
【請求項2】
前記締結部材により前記シャフトが前記ヨークに締め付けられていることを特徴とする請求項1に記載のヨークとシャフトの結合構造。
【請求項3】
前記シャフト及び前記一方のヨークには、相対回転を防止するためのセレーションが形成されている請求項1又は請求項2に記載のヨークとシャフトの結合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の操舵輪(通常は前輪)を操舵するためのステアリング装置を構成する回転軸同士を、トルク伝達可能に接続する為の継手(カルダンジョイント)を構成するヨークとシャフトの結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置は、ドライバーがハンドル(ステアリングホイール)を操作して、自動車の進行方向を変更しようとしたとき、ステアリングホイールの動きに応じて、操舵輪の向きを変更するためのものである。
【0003】
図6は、このようなステアリング装置100の一例を示している(特許文献1参照)。図示されたステアリング装置100において、ドライバーが操作するステアリングホイール104の動きは、ステアリングシャフト101、自在継手103、中間シャフト102、別の自在継手103を介して、ピニオンシャフト106に伝達される。そして、ピニオンシャフト106に固定されたピニオンとこのピニオンと噛み合っているラック(ピニオン及びラックは何れもハウジング105内に収容されているため図では見えない)とで構成されるラック&ピニオン機構により、ピニオンの回転運動をラックの車両幅方向への直線運動に変換する。このラックの直線運動により、ラック両端に固定された左右1対のタイロッド107、107を押し引きし、左右1対の操舵輪に、上記ステアリングホイール104の操作量に応じて、適切な舵角を付与する様になっている。
【0004】
ところで、上述した様なステアリング装置100においては、ステアリングホイール104が取付けられたステアリングシャフト101の延びる方向と、ピニオンが取付けられたピニオンシャフト106の延びる方向は一致しない。これは、ドライバーがステアリングホイール104を操作し易いためのステアリングシャフト101の延びる方向と、ラックとピニオンの噛み合いを確実に維持するためのピニオンシャフト106の延びる方向が異なるためである。従って、ステアリングシャフト101とピニオンシャフト106とは、少なくとも1つの屈曲点をもって互いに連結されることとなる。図示例では、このような屈曲点が2箇所とされており、各屈曲点には自在継手103が配置されることで、回転力を確実に伝達するようになっている。
【0005】
この様な自在継手103、103として、一般的には十字軸式自在継手が使用されている。
図7は、上述した特許文献1に記載された十字軸式自在継手103の構成を示す図、
図8は
図7のS−S断面図である。
図7に示す様に、十字軸式自在継手103は、それぞれ二股状に形成された第一、第二のヨーク111、112と、これら両ヨーク111、112同士を変位自在に結合する為の十字軸110とから構成されている。従い、第一、第二のヨーク111、112は、二股状とされた部分が互いに90度位相を異ならせた状態で配置されている。
【0006】
そして、第一のシャフト101と第二のシャフト102とのそれぞれの端部を、上記各ヨーク111、112に結合固定している。図中右方に見えるヨーク111はボルト116によりシャフト101に、図中左方に見えるヨーク112はボルト116によりシャフト102にそれぞれ固定され、各シャフト101、102と一体回転するようになっている。
【0007】
図8は、このうち右方の第一のヨーク111のシャフト101への取り付け構造を示す断面図である。ヨーク111の基部112は円筒状とされ、内周面にはセレーション112cが形成されている。基部112の周方向の1箇所には、ボルト116の雄ねじ116aと螺合する雌ねじ112aが形成されている。一方、シャフト101の外周面上にも、上記基部112のセレーション112cと相補形状とされたセレーション101cと、ボルト116の先端と係合するための平坦面101dが形成されている。かかる構成により、ボルト116を締め付けることで、両セレーション101c、112cの嵌合を確実としこの状態を維持することで、ヨーク111とシャフト101の一体回転が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−165184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図8に示すようなヨーク111とシャフト101の連結構造の場合、ボルト116を一方向からねじ込む構造のため、シャフト101の中心とヨーク111の中心とが不一致となったり、周方向の一部にボルト116が位置することでその部分の重量が局部的に重くなるため、回転力の伝達が滑らかに行われず、回転力に強弱が生ずるいわゆる「ふれ回り」が発生する場合がある。かかるふれ回りが発生すると、ドライバーがステアリングホイール104を操作したときの操作フィーリングに影響を与える虞もある。
【0010】
このようなふれ回りを防止するために、ヨークとシャフトとを鍛造等により一体品とする構造も考えられている。かかる構造により部品点数が低減され、部品管理コストや組立てコストが低減可能となる。しかしながら、車の種類によって好ましいシャフトの長さは千差万別であり、これに対応するために多くの種類の一体品を準備するのは、かえって製造コストが向上する場合がある。従って、ヨークとシャフトを別部品とし、ヨークは共通化しシャフトの長さのみを調整して対応することが考えられるが、ヨークとシャフトの結合構造によっては、上述したようなふれ回りが生じてしまう虞がある。
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ふれ回りを低減させることができるヨークとシャフトの結合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)十字軸を介して互いに連結された一対のヨークの、少なくとも一方のヨークとシャフトとを締結部材によって結合するヨークとシャフトの結合構造において、
前記シャフトは前記締結部材が貫通する挿通穴を有し、
前記一方のヨークは円筒状のベース部と、該ベース部から二股状に分岐して延び前記十字軸と係合するための一対のアーム部とを有し、
前記一方のヨークのベース部からアーム部にかけて、該ベース部の径方向中心を含み該アーム部の延びる方向と平行な方向に延びたスリットと、軸線方向が該スリットの延びる方向と直交する方向とされ前記締結部材が貫通する貫通孔とが形成され、
前記スリットは、前記ヨークの軸線方向において、前記ベース部の端面から少なくとも前記貫通孔を越えた位置まで形成されているヨークとシャフトの結合構造。
(2)前記締結部材により前記シャフトが前記ヨークに締め付けられていることを特徴とする(1)に記載されたヨークとシャフトの結合構造。
(3)前記シャフト及び前記一方のヨークには、相対回転を防止するためのセレーションが形成されている(1)および(2)に記載のヨークとシャフトの結合構造。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくとも一方のヨークには、ヨークの軸線方向において、前記ベース部の端面から少なくとも締結部材が貫通する貫通孔を越えた位置までスリットが形成されているため、締結部材を締め付けたときも、ヨークの変形がスリット平面に対し対称となり、ふれ回りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に用いられるヨークを取り出して示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の断面及び正面を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態のヨークを取り出して示す正面図である。
【
図5】
図4のヨークにシャフトが結合された状態を示す側面図である。
【
図6】従来から知られているステアリング装置の1例を示す斜視図である。
【
図7】従来構造のヨークとシャフトの結合構造の1例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
【0016】
図1〜3は、本発明の第1実施形態を示し、
図1では第1のヨークのみを取り出して示し、
図2、3では、第1のヨークと第1のシャフトを結合した状態を図示している。
図2に示すように、本発明の結合構造が適用される自在継手は、従来から知られている自在継手と同様に、第1のシャフト1の端部に固定する一方のヨークとしての第1のヨーク11と、第2のシャフト(不図示:
図7の第二のシャフト102参照)の端部に固定する他方のヨークとしての第2のヨーク(不図示:
図7の第ニのヨーク112参照)と、これら第1のヨーク11と第2のヨークとを変位自在に結合する十字軸(不図示:
図7の十字軸110参照)とを備える。
【0017】
第一のヨーク11は、円筒状のベース部12と、このベース部12の先端(
図1の上方、
図2、3の左方)寄り部分の直径方向で対向する2個所位置から、それぞれベース部12の軸線(
図2のX−X)方向に延びた一対のアーム部13、13とを備える。この第1のヨーク11は、全体を十分な剛性を有する金属(好ましくはJIS機械構造用炭素鋼)に冷間鍛造加工を施すことにより、一体に加工されている。なお、熱間鍛造加工を施すことにより、一体に加工してもよい。
【0018】
円筒状のベース部12の内周面には、
図1から明らかな通り、後述するシャフト1との嵌合をより確実にするためのセレーション12cが形成されている。またベース部12からアーム部13、13にかけては、貫通孔14とスリット15が形成されている。貫通孔14は、後述する締結部材16が貫通するためのものであり、軸線方向が以下に説明するスリット15の延びる方向と直交する方向(
図3の上下方向)となっている。
【0019】
スリット15は、
図1、3から明らかな通り、円筒状のベース部12の径方向中心を含みアーム部13、13の延びる方向と平行な方向(
図3の左右方向)に延びている。そしてこのスリット15は、
図2に示すように、ヨーク11の軸線方向において、ベース部12の端面12bから少なくとも貫通孔14のヨーク先端側までの距離L1を越えた位置まで形成されている。なお、このスリット15の終端面15eは、必ずしもベース部12の端面12bと平行である必要はなく、軸線X−Xに対し所定の角度(例えば60度)で、互いに対称な状態で傾いていてもよい。但し、ベース部端面12bから最も距離が短い終端面15eであっても、ヨーク11の軸線方向において、ベース部端面12bから貫通孔14までの距離L1を越えた位置L2(L2>L1)となっている必要がある。
【0020】
アーム部13、13は、ベース部12の端面12bとは反対側の端部から二股状に延びて形成されている。これらアーム部13、13は互いにほぼ同じ形状を有し、先端側において十字軸(不図示:
図6の十字軸110参照)を支持するための支持穴13aがそれぞれ形成されている。
【0021】
シャフト1は、シャフト本体1aとヨーク11のベース部12と嵌合するための嵌合部1bとを有する。嵌合部1bには、ヨーク11のベース部12の内周面に形成されたセレーション12cと嵌合するためのセレーション1cが形成されている。さらにシャフト1には、後述する締結部材16が貫通するための挿通穴1dが形成されている。
【0022】
締結部材16としてのボルト・ナットのうち、ボルト16aがヨーク11の貫通孔14及びシャフト1の挿通穴1dを貫通し、先端側に設けられているナット16bを締め付けることにより、ヨーク11とシャフト1とを結合する。なお、締結部材としてはナットを使用せず、スリットを介してボルト先端側に位置するヨークの貫通孔にボルトと螺合する雌ねじを形成しておき、この雌ねじが形成されたヨークとボルト頭部との間でシャフトを締め付けるようにしてもよい。また、均一な締め付けを得るために、ヨーク11の貫通孔14とシャフト1の挿通穴1dに対しボルトをすきまバメにすることが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態のヨークとシャフトの結合構造10の、組立て方法及び作用について説明する。
【0024】
本実施形態のヨークとシャフトの結合構造10は、例えば
図6に示すようなステアリング装置において、シャフトとシャフトとを連結している自在継手のうちの、少なくとも一方のヨークとシャフトを結合するために使用される。
【0025】
ヨーク11とシャフト1との結合に際しては、
図2に示すように、先ずヨーク11のベース部12にシャフト1の嵌合部1bを挿入する。このとき、ヨーク11の貫通孔14とシャフト1の挿通穴1dの位相を合わせた状態にしておく。次いで、貫通孔14及び挿通穴1dにボルト16aを貫通させ、ボルト先端側にてナット16bを締め付けてヨーク11とシャフト1とを結合する。
【0026】
このとき、ヨーク11の軸線方向において、ベース部12の端面12bから少なくとも締結部材16が貫通する貫通孔14を越えた位置までスリット15が形成されているため、締結部材16を締め付けたときも、締め付け方向への変形が無理なく生ずるようになっている。また、スリット15に対し貫通孔14の軸線方向が直交していることにより、スリット15の変形がスリット平面に対しほぼ対称となり、ヨーク11に局部的な変形が生ずるのを防止できる。さらに、ヨーク11の軸線回りの変形がスリット平面に対しほぼ対称となっていることにより、シャフト1が回転するときのふれ回りを低減させることができる。このため、ドライバーがハンドルを操作したときも円滑な操作が可能となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態のヨーク11とシャフト1の結合構造10によれば、少なくとも一方のヨーク11には、ヨーク11の軸線方向において、前記ベース部12の端面12bから少なくとも締結部材16が貫通する貫通孔14を越えた位置までスリット15が形成されているため、締結部材16を締め付けたときも、ヨーク11の変形がスリット平面に対し対称となり、ふれ回りを低減することができる。
【0028】
なお、本実施形態においては、ヨークとシャフトとの嵌合面には相対回転をより確実に防止するためのセレーションが形成されているが、締結部材がヨークとシャフトとを貫通していることによりこれら両部材の相対回転は防止されており、セレーションは必ずしも必須のものではない。また、セレーションに代え、嵌合部が、互いに相補形状の異形断面(例えば六角形断面)とされていてもよい。
【0029】
(第2実施形態)
次に、
図4、5を参照して第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は類似の構成については、同一又は類似の符号を付して詳細な説明は省略する。
図4はヨーク21の正面図、
図5はヨークにシャフトを結合させた状態を示す側面図である。本実施形態は、ヨーク21とシャフト20の結合態様が第1実施形態と異なる。
【0030】
ヨーク21のベース部22には、締結部材26が貫通するための貫通孔24、24が一対形成されている。そしてこの貫通孔24の間を通り抜けるように、ヨーク21の軸線方向(
図4の左右方向)にベース部22の中を貫いて延びた受入穴22aが形成されている。この受入穴22aにシャフト20の嵌合部20aが嵌合する。この受入穴22aの内周面とシャフト20の嵌合部20a外周面には、互いに嵌合するセレーションが形成されているのが好ましい。
【0031】
また、ヨーク21のベース部22からアーム部23、23にかけては、第1実施形態と同様、ベース部22の受入穴22aの径方向中心を含みアーム部23、23の延びる方向と平行な方向(
図4の紙面に平行な方向)に延びているスリット25が形成されている。25eはスリット25の終端面を示している。そしてこのスリット25も、第1実施形態と同様、ヨーク21の軸線方向において、ベース部22の端面22bから少なくとも貫通孔24を越えた位置まで延びて形成されている。
【0032】
かかる構成においても、締結部材26を締め付けて、ヨーク21とシャフト20とを結合したときに、締結部材26がシャフト20の両側からシャフト20を締め付けるため、ヨーク21の変形がスリット平面に対し対称となり、シャフト20のふれ回りを低減することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、十字軸継手を形成する他方のヨークとシャフトとの結合構造については説明を省略しているが、十字軸継手を形成する一方のヨークとシャフトとの結合構造と他方のヨークとシャフトとの結合構造は同一であっても、異なっていてもどちらであっても差し支えない。即ち、他方のヨークとシャフトが一体品であっても構わない。ただ少なくともいずれか一方のヨークとシャフトとの結合構造に本発明が適用されることで、シャフトのふれ回りを低減可能となり、他方のヨークとシャフトとの結合構造にも本発明が適用されれば、シャフトのふれ回りがより低減できる。
【符号の説明】
【0034】
1 シャフト
1c セレーション
1d 挿通穴
11 ヨーク
12 ベース部
12b ベース部端面
12c セレーション
13 アーム部
14 貫通孔
15 スリット
16 締結部材
16a ボルト
16b ナット
20 シャフト
21 ヨーク
22 ベース部
22b ベース部端面
23 アーム部
24 貫通孔
25 スリット
26 締結部材
110 十字軸