(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897227
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】紙力増強剤、紙の製造方法、及び紙
(51)【国際特許分類】
D21H 21/18 20060101AFI20210621BHJP
D21H 17/41 20060101ALI20210621BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20210621BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
D21H21/18
D21H17/41
D21H17/67
C08F220/56
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-64281(P2017-64281)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-186725(P2017-186725A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72302(P2016-72302)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井岡 浩之
(72)【発明者】
【氏名】西浦 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 国博
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−196588(JP,A)
【文献】
特開2003−278094(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/164909(WO,A1)
【文献】
特開2015−052194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する、無機填料を対パルプの重量(固形分)で10〜50重量%含有するパルプスラリー用紙力増強剤。
〔1〕その構成成分(1)がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)を含み、
(c)成分がαメチル基不含有不飽和カルボン酸であり、αメチル基不含有不飽和カルボン酸がアクリル酸及び/又はその塩を含む
〔2〕その構成成分(1)における(b)成分の比率が1〜15モル%であり、かつ、(c)成分の比率が1〜10モル%である
〔3〕その1H−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)及び該吸収帯Bの面積(Bs)の合計面積に対する該吸収帯Aの面積(As)の比率[As/(As+Bs)]が12%以上25%未満である
〔4〕その15重量%水溶液(25℃)の粘度が3,000〜30,000mPa・sである
〔5〕その重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)が3.5以下である
【請求項2】
構成成分(1)における(a)成分の比率が55〜97.8モル%である、請求項1の紙力増強剤。
【請求項3】
(b)成分が、第3級アミノ基含有メタクリレート、第3級アミノ基含有メタクリルアミド、第4級塩構造含有メタクリレート、及び第4級塩構造含有メタクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2の紙力増強剤。
【請求項4】
構成成分(1)が、更にαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含む、請求項1〜3のいずれかの紙力増強剤。
【請求項5】
(b’)成分が、第3級アミノ基含有アクリレート、第3級アミノ基含有アクリルアミド、第4級塩構造含有アクリレート、及び第4級塩構造含有アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項4の紙力増強剤。
【請求項6】
構成成分(1)における(b’)成分の比率が0.1〜3モル%である、請求項4又は5の紙力増強剤。
【請求項7】
αメチル基不含有不飽和カルボン酸がアクリル酸及び/又はその塩を含み、かつその占有比率が50モル%以上である、請求項1の紙力増強剤。
【請求項8】
構成成分(1)が更に架橋性モノマー(d)を含む、請求項1〜7のいずれかの紙力増強剤。
【請求項9】
(d)成分が、N,N−ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項8の紙力増強剤。
【請求項10】
構成成分(1)における(d)成分の比率が0.01〜1モル%である、請求項8又は9の紙力増強剤。
【請求項11】
構成成分(1)が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含む、請求項1〜10のいずれかの紙力増強剤。
【請求項12】
(e)成分が(メタ)アリルスルホン酸塩を含む、請求項11の紙力増強剤。
【請求項13】
構成成分(1)における(e)成分の比率が0.05〜2モル%である、請求項11又は12の紙力増強剤。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかの紙力増強剤を、無機填料を対パルプ濃度で10〜50重量%含有する抄紙系内に添加することを特徴とする、紙の製造方法。
【請求項15】
無機填料が、タルク、カオリン及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項14の紙の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15の紙の製造方法で得られる紙。
【請求項17】
紙中灰分が10重量%以上である、請求項16の紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
紙力増強剤、
紙の製造方法、及び
紙に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用紙及び筆記用紙等の紙には、通常、タルクやカオリン、炭酸カルシウム等の無機填料が使用されている。特に炭酸カルシウムは、紙の不透明化、白色化及び平滑化に優れ、印刷適性を高めることから、製紙業界における使用量は年々増加傾向にある。以下、無機填料を多く含む紙を「高灰分紙」という。
【0003】
しかし、高灰分紙は、無機填料の含有量が増えるほど、引張強さや内部強度等が低下する傾向にある。パルプ繊維間に無機填料が多く存在する結果、繊維同士の絡み合いや、水素結合を介した相互作用が阻害されるためであると考えられている。
【0004】
そこで従来、高灰分紙の強度を補う目的で、ポリアクリルアミドやカチオン化デンプン等の紙力増強剤が使用されてきており、種々改良が重ねられている。特に両性ポリアクリルアミドは、そのカチオン性基においてパルプに直接定着し、また、そのアニオン性基が(硫酸バンド等の補助材を介して)パルプに間接定着するため、高い紙力増強効果を奏する。
【0005】
一方、斯界では古紙を原料とするリサイクル紙の需要が依然伸長している。しかし、古紙パルプは短繊維化と劣化が進んだものであるため、両性ポリアクリルアミドが定着し難いとされる。この点、カチオン性基の量を増やすことが考えられるが、そのような両性ポリアクリルアミドは凝集力が強いため、成紙の地合いを乱したり、紙力効果が寧ろ劣ったりする。
【0006】
そこで本出願人は、特許文献1において、所定のパラメータを備える両性ポリアクリルアミドを用いた紙力増強剤が、成紙の地合いを乱さず、かつ、紙力も優れることを示した。しかし、当該紙力増強剤は、前記高灰分紙、特に無機填料として炭酸カルシウムを多く含む紙に適用すると、所期の効果が損なわれる場合があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特開2014−196588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、無機填料を多く含むパルプスラリーに添加した場合であっても、パルプ繊維に定着しやすく、紙力増強効果に優れ、かつ成紙の地合を乱さない、新規な両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、特許文献1の所定パラメータで規定された両性ポリアクリルアミドにおける上記問題を解消するべく検討した。結果、該両性ポリアクリルアミドが無機填料、特に炭酸カルシウムを多く含むパルプスラリーに適用した場合に効果が減少する一因として、両性ポリアクリルアミドのパルプ繊維への定着が著しく妨げられるためであると考えられた。
【0010】
そこで本発明者は、前記パラメータを最適化し、かつ、該文献1には明示的に記載されていない物性条件を特定することによって、前記課題を解決し得る紙力増強剤が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す高灰分紙用紙力増強剤、高灰分紙の製造方法、及び高灰分紙に関する。
【0012】
1.下記要件〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する、高灰分紙用紙力増強剤。
〔1〕その構成成分(1)がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)を含む
〔2〕その構成成分(1)における(b)成分の比率が1〜15モル%であり、かつ、(c)成分の比率が1〜10モル%である
〔3〕その
1H−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)及び該吸収帯Bの面積(Bs)の合計面積に対する該吸収帯Aの面積(As)の比率[As/(As+Bs)]が10〜35%である
〔4〕その15重量%水溶液(25℃)の粘度が2,000〜60,000mPa・sである
〔5〕その重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)が3.5以下である
【0013】
2.構成成分(1)における(a)成分の比率が55〜97.8モル%である、前記項1の紙力増強剤。
【0014】
3.(b)成分が、第3級アミノ基含有メタクリレート、第3級アミノ基含有メタクリルアミド、第4級塩構造含有メタクリレート、及び第4級塩構造含有メタクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記項1又は2の紙力増強剤。
【0015】
4.構成成分(1)が、更にαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含む、前記項1〜3のいずれかの紙力増強剤。
【0016】
5.(b’)成分が、第3級アミノ基含有アクリレート、第3級アミノ基含有アクリルアミド、第4級塩構造含有アクリレート、及び第4級塩構造含有アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記項4の紙力増強剤。
【0017】
6.構成成分(1)における(b’)成分の比率が0.1〜3モル%である、前記項4又は5の紙力増強剤。
【0018】
7.(c)成分が不飽和カルボン酸を含む、前記項1〜6のいずれかの紙力増強剤。
【0019】
8.不飽和カルボン酸がαメチル基不含有不飽和カルボン酸を含む、前記項7の紙力増強剤。
【0020】
9.αメチル基不含有不飽和カルボン酸がαメチル基不含有不飽和モノカルボン酸を含み、かつその占有比率が50モル%以上である、前記項8の紙力増強剤。
【0021】
10.αメチル基不含有不飽和モノカルボン酸がアクリル酸及び/又はその塩を含む、前記項9の紙力増強剤。
【0022】
11.構成成分(1)が更に架橋性モノマー(d)を含む、前記項1〜10のいずれかの紙力増強剤。
【0023】
12.(d)成分が、N,N−ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、前記項11の紙力増強剤。
【0024】
13.構成成分(1)における(d)成分の比率が0.01〜1モル%である、前記項11又は12の紙力増強剤。
【0025】
14.構成成分(1)が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含む、前記項1〜13のいずれかの紙力増強剤。
【0026】
15.(e)成分が(メタ)アリルスルホン酸塩を含む、前記項14の紙力増強剤。
【0027】
16.構成成分(1)における(e)成分の比率が0.05〜2モル%である、前記項14又は15の紙力増強剤。
【0028】
17.前記項1〜16のいずれかの紙力増強剤を、無機填料を対パルプ濃度で10〜50重量%含有する抄紙系内に添加することを特徴とする、高灰分紙の製造方法。
【0029】
18.無機填料が、タルク、カオリン及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記項17の高灰分紙の製造方法。
【0030】
19.前記項17又は18の高灰分紙の製造方法で得られる高灰分紙。
【0031】
20.紙中灰分が10重量%以上である、前記項19の高灰分紙。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る紙力増強剤は、無機填料、特に炭酸カルシウムを多く含むパルプスラリーに適用しても、パルプに定着しやすい。また紙力増強効果も良好であり、かつ成紙の地合の乱れも少ない。かかる効果は、古紙パルプスラリーを用いた場合も同様である。
【0033】
また、本発明に係る紙力増強剤は、無機填料の表面処理剤としても利用でき、得られた被覆無機填料を用いた場合にも、無機填料の過度の凝集を抑制できるため、本発明の紙力増強剤を添加した紙は、紙力(引張強さ、内部強度)に優れ、かつ地合の乱れも少ない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】Fig.1とFig.2はいずれもアクリルアミドとαメチル基含有カチオン性ビニルモノマーからなるポリアクリルアミドの模式図であり、前者はαメチル基含有カチオン性ビニルモノマーユニットが遍在化している様子を、後者は当該ユニットが局在化している様子を示す。
【
図2】アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートからなるポリアクリルアミドの
1H−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲において、該ジメチルアミノエチルメタクリレートが有するαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯A(signal A)と低磁場側吸収帯B(signal B)が出現していることを示す模式図である。
【
図3】
図2において、Signal Aよりも高磁場側にピークが出現しない場合の1H−NMRスペクトルの模式図である。
【
図4】同じ両性ポリアクリルアミドを添加して調製した成紙1及び成紙2の紙中灰分率及び比引張強さの関係図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドは、所定の要件〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕及び〔5〕を全て充足する点に特徴がある。
【0036】
要件〔1〕は、該両性ポリアクリルアミドが、その構成成分(1)にアクリルアミド(a)(以下、成分ともいう。)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)(以下、(b)成分ともいう。)、アニオン性ビニルモノマー(c)以下、(c)成分ともいう。)を含むことを規定する。
【0037】
本発明では(a)成分としてアクリルアミドを用いる。これは、メタクリルアミドに比べて、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果により寄与するからである。
【0038】
構成成分(1)における(a)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果が優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する効果を確保する観点より、通常55〜97.8モル%程度、好ましくは70〜97モル%程度、より好ましくは80〜95モル%程度である。
【0039】
(b)成分としては、αメチル基を含有するカチオン性ビニルモノマーであれば特に限定されず、各種公知のものを使用できる。ここに「αメチル基」とは、ビニル基及びカチオン性官能基を有するモノマーにおいて、該ビニル基のα炭素に結合したメチル基を意味する。
【0040】
【化1】
【0041】
(b)成分としては、例えば、第3級アミノ基含有メタクリレート、第3級アミノ基含有メタクリルアミド、第4級塩構造含有メタクリレート、及び第4級塩構造含有メタクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。後者化合物は、前者と四級化剤との反応によって得られる。該第3級アミノ基含有メタクリレート及び第3級アミノ基含有メタクリルアミドの具体例としては、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド及びジエチルアミノプロピルメタアクリルアミド等が挙げられる。また、該四級化剤としては、例えば、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸及びエピクロロヒドリン等が挙げられる。
【0042】
また、本発明においては、構成成分(1)に、更に各種公知のαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含めることができる。具体的には、第3級アミノ基含有アクリレート及び第3級アミノ基含有アクリルアミドとそれぞれ四級化剤との反応によって得られる第4級塩構造含有アクリレート及び第4級塩構造含有アクリルアミドが挙げられる。該第3級アミノ基含有アクリレート及び第3級アミノ基含有アクリルアミドとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びジエチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。該四級化剤としては前記したものが挙げられる。
【0043】
構成成分(1)における(b’)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果の観点より、通常3モル%未満、好ましくは2モル%未満、より好ましくは1モル%未満である。
【0044】
なお、(b’)成分を用いずに(b)成分のみを用いるほうが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や紙力増強効果の点で好ましい。これは、そのようにして得られる両性ポリアクリルアミドが分子間の会合による粒子化を生じやすいことによって、パルプ繊維により定着するためであると考えられる。
【0045】
(c)成分としては、分子内にアニオン性基を有するビニルモノマーであれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、不飽和カルボン酸や、不飽和スルホン酸が挙げられる。
【0046】
不飽和カルボン酸は、αメチル基不含有不飽和カルボン酸と、αメチル基含有不飽和カルボン酸に分類できる。前者としては、例えば、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。後者としては、例えば、メタクリル酸及びクロトン酸等が挙げられる。これらは塩を形成したものであっても良い。塩を形成する種としては、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩や、トリメチルアミン及びトリブチルアミン等のアミン類、アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、特に紙力増強効果が優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する観点より、αメチル基不含有不飽和カルボン酸(塩)が好ましく、アクリル酸及び/又はその塩がより好ましい。
【0047】
不飽和スルホン酸としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸や、それらの塩等が挙げられる。
【0048】
αメチル基不含有不飽和カルボン酸に占めるαメチル基不含有不飽和モノカルボン酸(好ましくはアクリル酸及び/又はその塩)の比率を50モル%以上とした場合、紙力増強効果及び地合乱れ抑制効果が良好となる傾向にある。
【0049】
構成成分(1)には、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの分子量を大きくし、その紙力増強効果を高める目的で、架橋性モノマー(d)(以下、(d)成分ともいう。)を含めてよい。(d)成分としては、ポリアクリルアミドの製造に用い得る架橋性モノマーであれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。例えば、アリルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド等の1官能モノマー;エチレングリコールジアクリレート、ジアリルアミン、N−メチロールアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等の2官能ビニルモノマー;トリアリルイソシアネート等の3官能ビニルモノマー;テトラアリルオキシエタン等の4官能性ビニルモノマー等が挙げられる。これらの中でも、目的とする両性ポリアクリルアミドに分岐構造及び/又は架橋構造を導入しやすく、その高分子量化を達成し易いことから、前記1官能モノマー及び/又は2官能モノマーが好ましく、特にN,N−ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、N,N−ジメチルアクリルアミドを含むことがより好ましい。
【0050】
構成成分(1)における(d)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化させ、前記ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性、紙力増強効果に優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する観点より、通常、0.01〜1モル%程度、好ましくは0.02〜0.8モル%程度、より好ましくは0.05〜0.6モル%程度である。
【0051】
構成成分(1)には、各種公知の連鎖移動性ビニルモノマー(e)(以下、(e)成分ということがある。)を含めてよい。(e)成分を用いることにより、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化させることができるとともに、その水溶液を低粘度化させることができる。また、該両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙の地合いが乱れるのを抑制する効果も良好になる。(e)成分としては、(メタ)アリルスルホン酸塩(即ち、アリルスルホン酸塩及び/又はメタリルスルホン酸塩)が挙げられ、塩を形成する種としては、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0052】
構成成分(1)における(e)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化し、かつ前記ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が優れ、及び成紙の地合いが乱れるのを抑制する効果を確保する観点より、通常、0.1〜2モル%程度、好ましくは0.15〜1モル%程度、より好ましくは0.2〜0.8モル%程度である。
【0053】
構成成分(1)には、(a)成分〜(e)成分と反応可能な他のモノマーを更に含めてよく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、アクリロニトリル、スチレン類、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル等のノニオン性ビニルモノマーが挙げられる。なお、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は特に限定されないが、通常1〜8程度である。また、前記構成成分におけるノニオン性ビニルモノマーの比率も特に限定されないが、通常は構成成分(1)を100モル%とした場合において、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0054】
要件〔2〕は、構成成分(1)における(b)成分の比率が1〜15モル%であり、かつ、(c)成分の比率が1〜10モル%であることを規定する。
【0055】
(b)成分の比率が1モル%よりも小さいと、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が不十分となる傾向にある。また、15モル%を超えると、該両性ポリアクリルアミドの凝集性が強くなり過ぎ、成紙の地合いが乱れる傾向にある。更に前記同様の観点より、(b)成分の比率は、好ましくは2〜12モル%程度、より好ましくは3〜10モル%程度である。
【0056】
(c)成分の比率が1モル%より小さいと、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が不十分となる傾向にある。また、10モル%を超えると、該両性ポリアクリルアミドの凝集性が強くなり過ぎ、成紙の地合いが乱れる傾向にある。更に前記同様の観点より、(c)成分の比率は、好ましくは1〜9モル%程度、より好ましくは2〜8モル%程度である。
【0057】
要件〔3〕は、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパラメータを定めたものである。具体的には、該両性ポリアクリルアミドの
1H−NMRスペクトルには、0.9ppm〜1.35ppmの範囲に前記(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯A(以下、シグナルAという。)と低磁場側吸収帯B(以下、シグナルBという。)とが出現する。そして、該吸収帯Aの面積(As)及び該吸収帯Bの面積(Bs)の合計面積に対する該吸収帯Aの面積(As)の比率[As/(As+Bs)]が10〜35%である点に特徴がある。なお、該両性ポリアクリルアミドは高分子化合物であるため、シグナルAとシグナルBはいずれもブロードな裾を有する山形の形状となる。
【0058】
ここに、前記ケミカルシフトの範囲(0.9ppm〜1.35ppm)は、内部標準物質として3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)を使用した場合の数値である。
【0059】
また、前記ケミカルシフトの範囲(0.9ppm〜1.35ppm)は本出願人が自発的に定めた範囲であるが、
図2で参照されるように、その上限値(1.35ppm)は、シグナルBの左裾側の極小点(local minimum)を目安に設定した。また、該シグナルBの右裾側の極小点を境として、シグナルAの面積AsとシグナルBの面積Bsとが区画される。また、前記ケミカルシフト範囲の下限値(0.9ppm)は、シグナルAよりも高磁場側に更にピークが出現する場合には(
図2参照)は該シグナルAの右裾側の極小点を目安に設定した。但し、シグナルAよりも高磁場側にピークが出現しない場合においても、該下限値は0.9ppmとする。この場合、
図3で示すように、該シグナルAの右裾とNMRスペクトルのベースラインとの接点(a point of contact)が概ね0.9ppm付近となる。
【0060】
シグナルAとBはいずれも、本発明に係る両性ポリアクリルアミドを構成する前記(b)成分のαメチル基に固有の吸収帯である。そして、該両性ポリアクリルアミドの分子鎖上で前記(b)成分のユニットがより連続し(局在化し)、そのαメチル基におけるプロトンがより隣り合う環境に置かれると、シグナルAの相対強度は大きくなり、シグナルBの相対強度は小さくなる。逆に、該両性ポリアクリルアミドの分子鎖上で前記(b)成分のユニットがより遍在化し、そのαメチル基におけるプロトンが隣接しないような環境に置かれると、シグナルAの相対強度は小さくなり、シグナルBの相対強度は大きくなる。
【0061】
よって、シグナルAとBの全面積におけるシグナルAの面積の比率[As/(As+Bs)]は、これが小さいほど本発明に係る両性ポリアクリルアミドの分子鎖上にカチオン性部位が遍在化していることを意味する。
【0062】
前記比率[As/(As+Bs)]は、市販の
1H−NMR測定機を用いて本発明に係る両性ポリアクリルアミドの
1H−NMRスペクトルを測定し、前記した区画手順に従いAsとBsの積分比を夫々求めることによって、算出可能である。
【0063】
本発明に係る両性ポリアクリルアミドは、特許文献1に記載の発明とは異なり、高灰分紙に適用されるものであり、無機填料、特に炭酸カルシウムを多く含むパルプスラリーの中でパルプ繊維に自己定着させる目的で、前記比率[As/(As+Bs)]は、好ましくは10%以上35%未満程度、より好ましくは12%以上25%未満、より好ましくは15%以上20%未満程度であるのがよい。
【0064】
なお、無機填料が多い、即ちパルプ繊維の比率が相対的に少ない抄紙条件下において、カチオン部位が高度に局在化した両性ポリアクリルアミドを用いると、パルプ繊維の凝集が強くなりすぎると考えられる。この点、本発明では、前記面積比[As/(As+Bs)]を、特許文献1に記載されている値よりも相対的に小さく設定し、かつ、後述の粘度条件及び多分散度条件を最適化したことで、所期の効果が奏されると考えられる。
【0065】
要件〔4〕は、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの水溶液状態における粘度を規定する。本発明に係る両性ポリアクリルアミドは、特許文献1に係る両性ポリアクリルアミドとは異なり、前記面積比[As/(As+Bs)]の値が相対的に小さい。即ち、本発明に係る両性ポリアクリルアミドは、カチオン性部位の局在化がある程度解消されている。その結果、パルプ繊維への自己定着能力が相対的に低下している。更に高灰分紙抄造用のパルプスラリーは無機填料が多く配合されているため、両性ポリアクリルアミドとパルプ繊維との接触点も少ない。そこで本発明では、かかる不足を補う目的で、15重量%水溶液の粘度を2,000〜60,000mPa・sに規定した。こうすることで、本発明の両性ポリアクリルアミドはパルプ繊維と接触しやすくなり、接触点でより多くの水素結合も形成されるため、無機填料を多く含む抄紙条件において、所定の紙力効果を発揮すると考えられる。かかる観点より、該粘度は、好ましくは3,000〜30,000mPa・s程度、より好ましくは4,000〜15,000mPa・s程度である。
【0066】
粘度は各種公知の手段で測定できる。具体的には、細管式粘度計、落球式粘度計、回転式粘度計などが挙げられるが、所定濃度の粘度を直接測定できる点で回転式粘度計が好ましい。測定器具としては、例えば、B型粘度計が挙げられる。測定条件としては、15重量%水溶液、25℃、No.3ローターで6rpm、又はNo.4ローターで6rpmが好ましい。
【0067】
要件〔5〕は、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)、即ち該両性ポリアクリルアミドの分子量分布の広がり(以下、多分散度ともいう)を規定する。特許文献1に記載の紙力増強剤は、高灰分条件の抄紙に付すと、成紙(高灰分紙)の地合乱れや紙力低下を起こす傾向にあったが、その理由の一つに、該紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドの分子量分布が相対的に広く、地合い乱れを起こしやすくする高分子量の両性ポリアクリルアミドや、紙力への貢献度が小さい低分子量の両性ポリアクリルアミドの含有量が多いためであると考えた。そこで本発明では、かかる欠点を補う目的で分子量分布(Mw/Mn)を3.5以下に規定した。当該範囲に限定することでパルプ繊維の過凝集を起こし、成紙の地合い乱れを引き起こす高分子量区分の比率と、パルプ繊維への自己定着性が低く、紙力効果への寄与が比較的低い低分子量区分の比率を少なくすることができる。かかる観点より、該比率は3.5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2.8以下であるのがよい。また、下限値は通常1以上、好ましくは1.5以上である。
【0068】
Mw及びMnは、各種公知の手段で測定できるが、いずれもゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で求めるのが好ましい。
【0069】
本発明に係る紙力増強剤の製法は特に限定されないが、前記したように、該紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドがその分子鎖上でカチオン性部位の局在化を制御でき、規定の粘度、分子量分布を充足させる両性ポリアクリルアミドを製造できる方法であれば、各種公知の重合方法(滴下重合法、同時重合法、多段階重合法等)を採用できる。
【0070】
両性ポリアクリルアミドに要件〔3〕、〔4〕及び〔5〕を充足させるには、例えば、該両性ポリアクリルアミドを構成する全ビニルモノマーを複数のモノマー混合物に分割し、一部の混合物中の(b)成分の使用量を多くしてこれらの混合物を順次反応させたり、或いは、該(b)成分を重合反応中のある時点で反応系内に多く加えたりすることによって、重合反応に関与する(b)成分のある程度濃度が高まるような操作を行うのがよい。
【0071】
また、本発明に係る紙力増強剤の好ましい製法は、以下の態様である。この態様によれば、本発明に係るその分子鎖上にカチオン性部位がある程度局在化した領域を有する両性ポリアクリルアミドをより確実に得ることが可能になる。
【0072】
即ち、当該態様は、アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が5〜87モル%(好ましくは5〜60モル%、より好ましくは10〜40モル%)であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1〜20モル%(好ましくは1〜15モル%、より好ましくは1〜10モル%)であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有することを特徴とする。
【0073】
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)のいずれか一方又は双方には、必要に応じて、αメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含めることができる。
【0074】
また、モノマー混合物(I)には、得られる両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する等の観点より、それぞれに前記アニオン性ビニルモノマー(c)を含めるのが好ましい。
【0075】
また、モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方には更に架橋性モノマー(d)を含められるが、この(d)成分は別途、工程(A)及び工程(B)の途中で反応系内に添加したり、工程(A)及び工程(B)の一方又は双方が完了した後に反応系内に添加したりすることもできる。
【0076】
また、モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)には、前述と同様の観点より、その一方又は双方に更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含めるのが好ましい。
【0077】
モノマー混合物(I)における(b)成分以外の組成は特に限定されないが、得られる両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する等の観点より、モノマー混合物(I)中のモノマー成分の合計割合を100モル%として、通常、(a)成分30〜90モル%程度、(b’)成分0〜15モル%程度、(c)成分0〜40モル%程度、(d)成分0.01〜3モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0〜20モル%程度であり、好ましくは(a)成分40〜85モル%程度、(b’)成分0〜10モル%程度、(c)成分0.1〜30モル%程度又は0モル%、(d)成分0.01〜2.5モル%又は0モル%程度、及び(e)成分0.1〜15モル%程度であり、
より好ましくは(a)成分50〜80モル%程度、(b’)成分0〜5モル%程度、(c)成分1〜20モル%程度又は0モル%、(d)成分0.1〜2モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0.1〜10モル%程度である。
【0078】
モノマー混合物(II)における(c)成分以外の組成は特に限定されないが、得られる両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が優れ、更に成紙の地合が乱れるのを抑制する等の観点より、モノマー混合物(II)中のモノマー成分の合計割合を100モル%として、通常、(a)成分20〜98.8モル%程度、(b)成分0〜15モル%程度、(b’)成分0〜15モル%程度、(d)成分0.001〜1モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0〜1モル%程度であり、好ましくは(a)成分60〜98.8モル%程度、(b)成分0〜10モル%程度、(b’)成分0〜10モル%程度、(d)成分0.01〜0.5モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0.01〜0.5モル%程度であり、より好ましくは(a)成分70〜98.8モル%程度、(b)成分0〜5モル%程度、(b’)成分0〜8モル%程度、(d)成分0.1〜0.4モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0.01〜0.4モル%程度である。
【0079】
また、前記要件〔3〕を充足する両性ポリアクリルアミドを収率良く得るためには、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕は通常25モル%以下(好ましくは8〜24モル%程度、より好ましくは10〜22モル%程度)とするのがよい。
【0080】
また、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)は、いずれも溶液として使用できる。溶媒としては通常、水が好ましく、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の有機溶剤を助溶剤として併用することもできる。また、モノマー混合物(I)及び/又はモノマー混合物(II)が加水分解し易いモノマーを含む場合には、これを防ぐために硫酸を用いることができる。
【0081】
工程(A)及び工程(B)の重合条件は特に限定されない。例えば、重合温度はいずれも通常50〜100℃程度であり、重合時間はいずれも1〜5時間程度である。また、工程(A)及び/又は工程(B)においては、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムのような従来公知の重合開始剤や、該開始剤と亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤とからなるレドックス系重合開始剤、アゾ系開始剤等の開始剤を使用できる。また、その使用量は特に限定されないが、通常、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの全構成モノマーの総重量に対して通常0.01〜2重量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5重量%程度である。
【0082】
なお、工程(A)においては、モノマー混合物(I)を滴下重合させても、同時重合させても、これらを組み合わせてもよい。但し、重合反応を制御しやすいため、滴下重合が好ましい。
【0083】
また、工程(B)においても、モノマー混合物(II)を滴下重合させても、同時重合させても、これらを組み合わせてもよい。但し、重合反応を制御しやすいため、同じく滴下重合が好ましい。
【0084】
また、工程(A)と工程(B)の順序は、両性ポリアクリルアミドの分子鎖上にカチオン性部位がある程度局在化した領域を形成するという目的を達成できる限りにおいて、特に限定されない。例えば、工程(A)を完了させた後に工程(B)を開始したり、工程(B)を完了させた後に工程(A)を開始したりする方法等が挙げられる。また、工程(A)と工程(B)の時間的な間隔は特に制限されず、例えば工程(A)又は工程(B)を完了させた直後にもう一方の工程を開始してもよく、工程(A)又は工程(B)を完了させて一定時間経過した後にもう一方の工程を開始してもよい。また、工程(A)又は工程(B)の開始後、それらが完了する前に同一反応系でもう一方の工程を開始してもよく、この場合はカチオン性部位がある程度遍在化した両性ポリアクリルアミドを得ることが可能になる。
【0085】
また開始剤は、例えば、モノマー混合物(I)及び/又はモノマー混合物(II)に予め含めても良いし、含めなくてもよい。含めない場合には、例えば、工程(A)及び工程(B)の双方に亘り、外部より前記開始剤を反応系内に滴下することが挙げられる。この場合、開始剤は水溶液として用いることができる。
【0086】
本発明に係る紙力増強剤の最も好ましい製法は、モノマー混合物(I)を滴下重合させる工程(A)を完了させた後、同一反応系にモノマー混合物(II)を滴下し、重合させる態様である。この態様では、(b)成分を相対的に多く含むモノマー混合物(I)を工程(A)で重合させることによって、ある程度カチオン性部位の密度の大きなポリアクリルアミド前駆体を一旦製造する。次いで、該前駆体の存在下、(b)成分の量が相対的に少ないか或いはゼロのモノマー混合物(II)を重合させることによって、カチオン性部位がある程度局在化した領域を分子鎖上に有する両性ポリアクリルアミドを容易に得ることができる。また、この態様においては、工程(A)と工程(B)の双方に亘り前記開始剤を反応系に滴下するのが好ましい。
【0087】
本発明に係る両性ポリアクリルアミドのMwは通常、通常500,000〜10,000,000程度、好ましくは1,000,000〜7,000,000程度であり、また、Mnは通常、200,000〜6,000,000程度、好ましくは400,000〜4,000,000程度である。
【0088】
本発明の紙力増強剤は、前述の両性ポリアクリルアミドを含み、水溶液として利用するのが好ましい。また、その固形分濃度は特に限定されないが、通常、0.01〜2重量%程度である。
【0089】
本発明の紙力増強剤には、他の紙力剤を含めてよい。具体的には、カチオン化澱粉、両性澱粉などの変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの変性セルロース、ポリビニルアルコール、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリビニルアミン等が挙げられる。かかる他の紙力剤の混合量も特に限定されないが、本発明の紙力増強剤及び他の紙力剤の合計を100重量%として、通常、0.1〜40重量%程度である。
【0090】
本発明に係る高灰分紙の製造方法は、本発明の紙力増強剤を、無機填料を対パルプの重量(固形分)で10〜50重量%含有するパルプスラリーに添加し、抄紙することを特徴とする。
【0091】
無機填料としては、例えば、タルク、カオリン及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0092】
パルプスラリーとしては、クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、ダンボール古紙、脱墨古紙等の古紙パルプ等が挙げられる。
【0093】
本発明の紙力増強剤の添加量は特に限定されず、紙やパルプスラリーの種類、抄紙条件によって適宜決定すればよいが、通常は、パルプスラリーの重量(固形分)に対し、紙力増強剤中に含まれる両性ポリアクリルアミドの固形分で通常0.1重量%以上であり、好ましくは0.1〜3重量%程度である。また、パルプスラリーには硫酸アルミニウムやサイズ剤、その他の製紙用添加剤を添加してもよい。
【0094】
本発明の高灰分紙は、前述の製造方法で得られる。得られる高灰分紙は、ライナー原紙、中芯原紙、紙管原紙、白板紙、クラフト紙、上質紙、新聞紙等として使用できる。また、該高灰分紙における前記無機填料の含有量は特に限定されないが、通常10重量%以上、好ましくは10〜30重量%程度である。
【実施例】
【0095】
以下、参照例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。尚、各例中、部及び%は特記しない限りすべて重量基準である。各例の物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0096】
実施例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管及び3つの滴下ロート(以下、順にロート1、ロート2及びロート3という。)を備えた反応容器にイオン交換水401.4部を仕込み、該イオン交換水に窒素ガスを直接吹き込むことにより該反応容器内の酸素を除去した後、該イオン交換水の温度を90℃に設定した。
次いで、ロート1に、モノマー混合物(I)として、50%アクリルアミド水溶液79.04部、ジメチルアミノエチルメタクリレート24.37部、80%アクリル酸3.99部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.18部、メタリルスルホン酸ナトリウム0.292部、62.5%硫酸11.91部及びイオン交換水61.42部からなる水溶液を更に硫酸でpH4.5に調整したものを仕込んだ。
次いで、ロート2に、モノマー混合物(II)として、50%アクリルアミド水溶液386.98部、ジメチルアミノエチルメタクリレート10.44部、75%ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物13.27部、80%アクリル酸9.31部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.18部、メタリルスルホン酸ナトリウム0.292部、62.5%硫酸5.10部及びイオン交換水231.16部からなる水溶液を更に硫酸でpH4.5に調整したものを仕込んだ。
次いで、ロート3に、過硫酸アンモニウム0.21部及びイオン交換水180部からなる開始剤溶液を仕込んだ。
次いで、ロート1とロート3のコックを同時に開き、前記モノマー混合物(I)の全量及び前記開始剤溶液の半量をそれぞれ2時間かけて滴下させた。その後直ちにロート2のコックを開き、前記モノマー混合物(II)の全量と、該開始剤溶液の残り半量とを2時間かけて滴下させた。
次いで、反応系を90℃で1時間保温した後、更にイオン交換水562部を仕込むことにより、重量平均分子量121万及び粘度8,900mPa・sの両性ポリアクリルアミド(固形分濃度15.0%)を得た。
【0097】
実施例2〜15
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)及び開始剤溶液を表1に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同じ方法で両性ポリアクリルアミド(いずれも固形分濃度15.0%)を得た。
【0098】
比較例1〜9、11
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)を表1に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同じ方法で両性ポリアクリルアミド(いずれも固形分濃度15.0%)を得た。
【0099】
比較例10
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管及び3つの滴下ロート(以下、順にロート1、ロート2及びロート3という。)を備えた反応容器にイオン交換水276.2部を仕込み、該イオン交換水に窒素ガスを直接吹き込むことにより該反応容器内の酸素を除去した後、該イオン交換水の温度を90℃に設定した。
次いで、ロート1に、モノマー混合物(I)として、50%アクリルアミド水溶液193.00部、ジメチルアミノエチルメタクリレート40.20部、60%ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物24.20部、80%アクリル酸1.40部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.300部、メチレンビスアクリルアミド0.250部、メタリルスルホン酸ナトリウム3.200部、62.5%硫酸19.70部及びイオン交換水168.1部からなる水溶液を更に硫酸でpH4.5に調整したものを仕込んだ。
次いで、ロート2に、モノマー混合物(II)として、50%アクリルアミド水溶液469.00部、80%アクリル酸9.200部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.30部、メチレンビスアクリルアミド0.250部、メタリルスルホン酸ナトリウム0.800部及びイオン交換水212.30部からなる水溶液を仕込んだ。
次いで、ロート3に、過硫酸アンモニウム0.6部及びイオン交換水180部からなる開始剤溶液を仕込んだ。
次いで、ロート1とロート3のコックを同時に開き、前記モノマー混合物(I)の全量及び前記開始剤溶液の半量をそれぞれ2時間かけて滴下させた。その後直ちにロート2のコックを開き、前記モノマー混合物(II)の全量と、該開始剤溶液の残り半量とを2時間かけて滴下させた。
次いで、反応系を90℃で1時間保温した後、更にイオン交換水400部を仕込むことにより、重量平均分子量300万及び粘度8,500mPa・sの両性ポリアクリルアミド(固形分濃度20.3%)を得た。本サンプルをイオン交換水にて15.0%に希釈した粘度を測定すると1,200mPa・sであった。
【0100】
実施例及び比較例について、表2には、モノマー混合物(I)又はモノマー混合物(II)中のモノマー成分の合計割合を100モル%にした場合の各成分のモル比率を、表3には、全モノマー成分を100モル%にした場合の各成分のモル比率をそれぞれ表した。
【0101】
表1〜3中の、化合物を表す記号は以下の意味である。
AM:アクリルアミド(分子量71.1)
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート(分子量157.2)
DML:ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(分子量283.8)
APDM:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(分子量156.2)
DMAEA−BQ:ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物(分子量269.8)
IA:イタコン酸(分子量130.1)
AA:アクリル酸(分子量72.1)
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド(分子量99.1)
MBAA:メチレンビスアクリルアミド(分子量154.2)
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム(分子量158.2)
APS:過硫酸アンモニウム(分子量228.2)
V−50:2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン 二塩酸塩(分子量271.2)
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
<
1H−NMRスペクトルの測定>
実施例1〜15及び比較例1〜11の両性ポリアクリルアミド26.7mgと重水(D
2O)0.8mlとを混合した後、当該混合液に、3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)40.23mgとD2O1.0mlとを混合してなる内部標準液を、マイクロシリンジを用いて1μl滴下し、測定用サンプル(濃度:0.5%)を調製した。
【0106】
次いで、当該サンプルを用い、以下の条件下、
1H−NMRスペクトルを測定した。
【0107】
NMR測定器:400MR AgilentTechnologies製 400MHz
プローブ:AutoX PFG probe(5mm)
プローブ温度:70℃
測定周波数:399.75MHz
測定溶媒:重水(D2O)
パルスシーケンス:presaturation スタンダードパラメーター使用
積算回数:128回
【0108】
<シグナル面積の比率[As/(As+Bs)]の算出>
前記NMR測定器に付属する解析ソフトvNMRJ(Agilent Technologies製)を用い、シグナルの面積<As>及び<Bs>をそれぞれ計算機上で求めた上で、面積の比率[As/(As+Bs)]を算出した。結果を表4に示す。
【0109】
<重量平均分子量>
実施例1〜15及び比較例1〜11の両性ポリアクリルアミドについて、以下の条件下、重量平均分子量及び多分散度(Mw/Mn)を測定した。結果を表4に示す。
【0110】
GPC本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムPWXL1本及びGMPWXL2本(カラム温度40℃。)
溶離液:N/2酢酸緩衝液(N/2酢酸(和光純薬工業(株)製)+N/2酢酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)水溶液、pH4.2)
流速:0.8ml/分
検出器:
RALLS法;ビスコテック社製TDA MODEL301(濃度検出器及び90°光散乱検出器及び粘度検出器の温度はそれぞれ40℃に設定)
【0111】
<粘度>
実施例1〜15及び比較例1〜11の両性ポリアクリルアミドについて、B型粘度計(製品名「ビストメトロン」、芝浦システム社製)を用い、25℃、回転数6rpm、ローターNo.3の条件で粘度を測定した。結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
[紙料の調成]
晒クラフトパルプ(LBKP)をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)が350mlになるよう調成したスラリーを得た。次いで、当該スラリーに芒硝を添加して、その電気伝導度を0.5mS/cmに調節することにより、1%スラリーの紙料1を調製した。なお、当該電気伝導度は、市販の測定器(商品名「pH/COND METER D−54」、(株)堀場製作所製)を用いて測定した。
【0114】
次いで、該紙料1を撹拌しながら硫酸バンド(対パルプ重量1.0%)、カチオン化澱粉(対パルプ重量0.8%)(日本食品化工:ネオタック30T)、実施例1の両性ポリアクリルアミド(対パルプ重量0.3%)の順に添加した後、炭酸カルシウム(対パルプ15%)(奥多摩工業:タマパールTP121)を添加した。得られたパルプスラリーを用いてTAPPI角型シートマシンを用いて成紙坪量が80g/m
2になるように抄紙した。得られた湿紙を定法通りプレス、乾燥し成紙1を得た。実施例2〜15及び比較例1〜11の両性ポリアクリルアミドについても同様に用いて、成紙1をそれぞれ得た。
【0115】
前記紙料1を撹拌しながら硫酸バンド(対パルプ重量1.0%)、カチオン化澱粉(対パルプ重量0.8%)(日本食品化工:ネオタック30T)、実施例1の両性ポリアクリルアミド(対パルプ重量0.3%)の順に添加した後、炭酸カルシウム(対パルプ30%)(奥多摩工業:タマパールTP121)を添加した。得られたパルプスラリーを用いてTAPPI角型シートマシンを用いて成紙坪量が80g/m
2になるように抄紙した。得られた湿紙を定法通りプレス、乾燥し成紙2を得た。実施例2〜15及び比較例1〜11の両性ポリアクリルアミドについても同様に用いて、成紙2をそれぞれ得た。
【0116】
両性ポリアクリルアミドを加えないこと以外はすべて成紙2と同じ方法で成紙3を得た。
【0117】
[比引張強さの測定]
前記成紙1及び成紙2の比引張強さをJIS P 8113に準拠して測定した。比引張強さ等の紙力は添加された両性ポリアクリルアミドの種類だけでなく、紙中の灰分量に大きく影響を受ける。両性ポリアクリルアミドの種類により填料の凝集性、相互作用が異なり紙中への填料の歩留りが変化するため、各種両性ポリアクリルアミドを添加した紙の灰分量は通常同量にはならない。前述の通り、紙力は紙中灰分量に影響を受けるため、両性ポリアクリルアミドの添加による紙力向上効果の差は同等の紙中灰分量に補正したもので比較する必要がある。比引張強さは以下に従って補正した。
同じ両性ポリアクリルアミドを添加して調製した成紙1及び成紙2の紙中灰分率及び比引張強さの関係(
図4)から次式により紙中灰分20%の強度を概算した。結果を表5に示す。
【0118】
Y(20%)=Y
2−a(X
2−20)
a=(Y
2− Y
1)/ (X
2− X
1)
【0119】
Y(20%):紙中灰分20%換算の比引張強さ
X
1:成紙1の紙中灰分率
X
2:成紙2の紙中灰分率
Y
1:成紙1の比引張強さ
Y
2:成紙2の比引張強さ
【0120】
[内部強度の測定]
前記成紙1及び成紙2の内部強度をJ.TAPPI No.18−2に準拠して測定した。比引張強さと同様に紙中灰分20%での内部強度を算出した結果を表5に示す。
【0121】
[地合変動係数の測定]
前記成紙2からの通過光(輝度)を市販の測定器(商品名「パーソナル画像処理システムHyper−700」、OBS社製)に取り込み、輝度分布を統計解析することにより得られた値を、該成紙2の地合変動係数(変動係数)とした。地合変動係数は、その値が小さい程、地合が良好であることを意味する。結果を表5に示す。
【0122】
[両性ポリアクリルアミドの定着率]
前記成紙2と成紙3それぞれの窒素分を、市販の測定装置(製品名「TN−110」、三菱化学(株)製)を用いて求め、該窒素分の値を以下に示す計算式に代入し、両性ポリアクリルアミドの定着率を算出した。結果を表5に示す。
【0123】
定着率(%)=〔(成紙2の窒素分−成紙3の窒素分)÷(実施例1に係る両性ポリアクリルアミドの理論窒素分×該両性ポリアクリルアミドの添加率)〕×100
【0124】
【表5】