特許第6897312号(P6897312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897312
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】潤滑剤劣化検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20210621BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20210621BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20210621BHJP
   F16C 19/54 20060101ALI20210621BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20210621BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20210621BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20210621BHJP
【FI】
   G01N33/30
   F16C19/06
   F16C19/52
   F16C19/54
   F16C33/66 Z
   F16N29/00 D
   G01M13/04
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-101687(P2017-101687)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-197668(P2018-197668A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 武信
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−092511(JP,A)
【文献】 特開2003−166696(JP,A)
【文献】 特開2016−217485(JP,A)
【文献】 特開2012−136987(JP,A)
【文献】 特開2018−187703(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/188314(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0179388(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/30,
G01N 1/22,
G01M 13/04,
F16C 19/06,19/52,19/54,
F16N 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受を回転可能に納める筐体と、
前記筐体の外部に設置され、前記転がり軸受内の潤滑剤の劣化により発生する気体を検出するガスセンサと、
前記筐体の内部の気体を前記ガスセンサに導入する内部気体導入管と、
前記筐体の外部の気体を前記ガスセンサに導入する外部気体導入管と、
前記内部気体導入管による前記ガスセンサへの気体導入と前記外部気体導入管による前記ガスセンサへの気体導入とを、所定時間毎に切り替える制御装置と、
を有し、
所定時間毎に、前記ガスセンサの検出値で前記転がり軸受内の潤滑剤の劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
前記外部気体導入管が切替弁を介して前記内部気体導入管と接続されている請求項記載の潤滑剤劣化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤劣化状態評価方法および潤滑剤劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油やグリース等の潤滑剤により潤滑されている転動装置(転がり軸受、ボールねじ、およびリニアガイド等)等の機械では、潤滑剤が劣化すると、機械にトルクの上昇、摩耗の増加、温度上昇等が生じて、異常発生の原因となる。
潤滑剤劣化の主要な原因としては、熱による分解や酸化反応による劣化(酸化劣化)が挙げられる。潤滑剤が劣化すると、酸の生成、潤滑剤成分の分解に伴う揮発性(低分子量)炭化水素の生成、カルボニル基(ケトン基およびアルデヒド基)等を有する化合物の生成、および潤滑膜の厚さ低下に伴う被潤滑部品の摩耗量の増加等が生じる。
【0003】
そのため、劣化の結果として生じる摩耗の量、酸量、炭化水素の揮発量、およびカルボニル基等を有する化合物量を測定することにより、潤滑剤の劣化状態を判定することができる。
従来は、稼動中の転動装置から定期的に潤滑剤を採取して、例えば以下に示す方法で潤滑剤の劣化状態を検査している。その方法とは、原子吸光分析法等で金属の定量を行うことで摩耗量を測定する方法、「ASTM D3242」に示される全酸価試験法により酸量を測定する方法、赤外分光分析法により1710cm-1付近のカルボニル基に起因する吸光度を測定する方法である。
【0004】
なお、潤滑剤の化学的な劣化は、(1) パーオキシラジカル→(2) ハイドロパーオキサイド→(3) カルボニル化合物→(4) 重合体(ガム)および低級脂肪酸の順に進行する。上述の酸量を測定する方法は(4) の段階で劣化を検出する方法である。
しかしながら、定期的に潤滑剤を採取してその劣化状態を検査する方法では、検査と検査の間に急激に劣化が進んだ場合に異常の発生を防止することができない。そのため、転動装置内の潤滑剤の劣化度合いを常時監視できるようにすることが求められている。
【0005】
特許文献1には、転がり軸受の潤滑剤の劣化状態を常時検出できる装置として、軸受内に存在する炭化水素、硫化水素、およびアンモニアの少なくともいずれかの気体を検出するガスセンサを備えた潤滑剤劣化検出装置が記載されている。具体的には、シールド板を有し、潤滑剤によって潤滑されている転がり軸受のシールド板の円板部に開口部を設け、この開口部に上記ガスセンサの筐体を取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4029604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された転がり軸受の潤滑剤劣化検出装置では、シールド板に直接ガスセンサを取り付けているため、軸受の運転時に発生する振動や熱によって誤作動する恐れがある。つまり、特許文献1に記載された潤滑剤劣化検出装置には、潤滑剤劣化の判断の正確性という点で改善の余地がある。
この発明の課題は、転がり軸受の潤滑剤の劣化状態を高い正確性で判断できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明の第一態様は、下記の構成要件(1) および(2) を満たす潤滑剤劣化状態評価方法を提供する。
(1) 転がり軸受を回転可能に納める筐体と、筐体の外部に設置され転がり軸受内の潤滑剤の劣化により発生する気体を検出するガスセンサと、筐体の内部の気体をガスセンサに導入する内部気体導入管と、を備えた潤滑剤劣化検出装置を用いる。
(2) 内部気体導入管によるガスセンサへの気体導入を所定時間毎に行い、ガスセンサの検出値により、転がり軸受内の潤滑剤の劣化状態を評価する。
【0009】
この発明の第二態様は、下記の構成要件(11)と(12)を満たす潤滑剤劣化検出装置を提供する。
(11)転がり軸受を回転可能に納める筐体と、筐体の外部に設置され転がり軸受内の潤滑剤の劣化により発生する気体を検出するガスセンサと、筐体の内部の気体をガスセンサに導入する内部気体導入管と、筐体の外部の気体をガスセンサに導入する外部気体導入管と、内部気体導入管によるガスセンサへの筐体内気体の導入と外部気体導入管によるガスセンサへの筐体外気体の導入とを、所定時間毎に切り替える制御装置と、を有する。
(12)所定時間毎に、ガスセンサの検出値で転がり軸受内の潤滑剤の劣化状態を検出する。
【発明の効果】
【0010】
この発明の潤滑剤劣化状態評価方法および潤滑剤劣化検出装置によれば、転がり軸受を回転可能に納める筐体の外部にガスセンサが設置されるため、ガスセンサが転がり軸受の運転時に発生する振動や熱の影響を受けにくい。よって、転がり軸受に直接ガスセンサの筐体を取りつけて使用する潤滑剤劣化検出装置よりも、転がり軸受の潤滑剤の劣化状態を高い正確性で判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態の潤滑剤劣化検出装置を示す概略構成図である。
図2】第一実施形態の潤滑剤劣化検出装置の第一状態での気体の流れを説明する図である。
図3】第一実施形態の潤滑剤劣化検出装置の第二状態での気体の流れを説明する図である。
図4】第二実施形態の潤滑剤劣化検出装置を示す概略構成図である。
図5】第二実施形態の潤滑剤劣化検出装置の第一状態での気体の流れを説明する図である。
図6】第二実施形態の潤滑剤劣化検出装置の第二状態での気体の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
【0013】
[第一実施形態]
<構成>
図1に示すように、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置10は、筐体1と、ガスセンサ2と、内部気体導入管3と、外部気体導入管4と、切替弁5と、オイル除去フィルタ6と、活性炭フィルタ7を有する。
筐体1は、円筒部11と、中心穴121を有する円板状部12,12Aとで構成されている。筐体1に、二つの転がり軸受8が回転可能に納められている。
二つの転がり軸受8は、内輪81、外輪82、玉(転動体)83、保持器84、およびシールド板(非接触シール)85で構成された密封型深溝玉軸受であり、潤滑剤で潤滑されている。円筒部11の内周面の軸方向両端部に、二つの転がり軸受8の外輪82を嵌める溝111,112が形成されている。
【0014】
円板状部12Aは、シールド板85と対向する位置に、軸方向に貫通する貫通穴122を有する。
二つの転がり軸受8は、外輪82を各溝111,112に嵌めることで、軸方向に間隔を開けて円筒部11に固定されている。円筒部11の軸方向両端は、円板状部12,12Aで塞がれている。二つの転がり軸受8の内輪81に嵌合された回転軸9が、中心穴121を貫通して円板状部12,12Aの外側に延び、図示されない回転装置に接続されている。
【0015】
ガスセンサ2は、筐体1の外部に設置され、転がり軸受8の内部に存在する潤滑剤の劣化により発生する気体としてアルデヒド(カルボニル化合物)のみを検出する、定電位電解式センサを有する。また、ガスセンサ2は、排気口と、リアルタイムにアルデヒド濃度を表示する表示装置を備えている。
内部気体導入管3は、横管31、エルボー管32、縦管33、エルボー管34、横管35、横管36、および横管37からなる。横管31の一端部31aは、円筒状のゴム部材15を介して円板状部12Aの貫通穴122に挿入されている。つまり、横管31の一端部31aと貫通穴122との隙間が、ゴム部材15で密封されている。
【0016】
横管31の他端と縦管33の一端がエルボー管32で接続されている。縦管33の他端と横管35の一端がエルボー管34で接続されている。横管35の他端と横管36の一端との間にオイル除去フィルタ6が介装されている。横管36の他端と横管37の一端との間に切替弁5が介装されている。横管37の他端にガスセンサ2が接続されている。縦管33に吸引ポンプ38が接続されている。
【0017】
外部気体導入管4は、第一の縦管41および第二の縦管42からなる。第一の縦管41の一端が気体取込口となっていて、第一の縦管41の他端と第二の縦管42の一端との間に活性炭フィルタ7が介装されている。第二の縦管42の他端が切替弁5に接続されている。これにより、外部気体導入管4が切替弁5を介して内部気体導入管3と接続されている。第一の縦管41に吸引ポンプ43が接続されている。
【0018】
切替弁5はコントローラ51により駆動制御される。コントローラ51は、所定時間毎に切替弁5を駆動して、切替弁5で横管37と接続する配管を横管36または第二の縦管42に切り替える。つまり、切替弁5とそのコントローラ51は、内部気体導入管3によるガスセンサ2への気体導入と外部気体導入管4によるガスセンサ2への気体導入とを、所定時間毎に切り替える制御装置である。
オイル除去フィルタ6は、気体中のオイルミストを除去するセラミックスフィルタである。
【0019】
<動作>
潤滑剤劣化検出装置10の動作を図2および図3を用いて説明する。
ここでは、一例として、コントローラ51による切替弁5の制御を以下に示すように行う。
転がり軸受8の回転開始と同時に、吸引ポンプ43を作動するとともに、第二の縦管442と横管37とを切替弁5で接続して9分間保持する(第一状態とする)。その後、吸引ポンプ43を停止し吸引ポンプ38を作動するとともに、切替弁5を駆動して、横管36と横管37とを切替弁5で接続して1分間保持する(第二状態とする)。その後、この第一状態と第二状態を繰り返す。
【0020】
これにより、転がり軸受8の回転開始から9分間は、図2に示すように、筐体1の外部の気体が、外部気体導入管4から切替弁5、横管37を通ってガスセンサ2に導入される。この導入された気体は、外部気体導入管4に設けた活性炭フィルタ7を通った気体である。筐体1内の気体はガスセンサ2に導入されない。
【0021】
次に、9分経過後に切替弁5が駆動して、横管37と横管36とが切替弁5により接続され、図3に示すように、筐体1内の気体が、内部気体導入管3を通ってガスセンサ2に導入される。この導入された気体は、オイル除去フィルタ6を通った気体である。筐体1外の気体はガスセンサ2に導入されない。この状態が1分間継続する。
そして、この9分間の外部気体導入管4による気体(筐体1の外部の気体)のガスセンサ2への導入(図2に示す状態)と、1分間の内部気体導入管3による気体(筐体1の内部の気体)のガスセンサ2への導入(図3に示す状態)が繰り返される。
【0022】
よって、回転中に転がり軸受8内の潤滑剤から発生した気体が9分間、筐体1内に溜まり、この筐体1内に溜まった気体が、次の1分間、ガスセンサ2に導入されて、そのアルデヒド濃度が検出される。そして、これらが繰り返される。つまり、ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が、連続的ではなく、所定時間毎に間欠的に行われる。また、10分毎に、最初の9分間は、ガスセンサ2に活性炭フィルタ7を通ったきれいな気体が導入されて、ガスセンサ2がクリーニングされる。
【0023】
また、筐体1の内部の気体は、オイル除去フィルタ6でオイルミストが除去された後に、ガスセンサ2に入り、ガスセンサ2でアルデヒドの濃度が検出されて、その結果が表示される。
潤滑剤劣化検出装置10のガスセンサ2で検出されるアルデヒド濃度は、転がり軸受8内の潤滑剤の劣化が生じる前には0に近い値を示し、潤滑剤による焼き付きが発生する少し前に緩やかに上昇した後、急激に上昇する。そのため、ガスセンサ2で検出されたアルデヒド濃度が上昇し始めたタイミングで、転がり軸受8の内部の潤滑剤が劣化したことが検知できる。
【0024】
<作用、効果>
この実施形態の潤滑剤劣化検出装置10によれば、ガスセンサ2が、転がり軸受8が回転可能に納められた筐体の外部に設置されているため、転がり軸受8の運転時に発生する振動や熱の影響を受けにくく、誤作動や故障が発生しにくい。よって、転がり軸受に直接ガスセンサの筐体が取りつけられている潤滑剤劣化検出装置よりも、転がり軸受の潤滑剤の劣化状態を高い正確性で判断することができる。
【0025】
また、内部気体導入管3にオイル除去フィルタ6を設けているため、ガスセンサ2は、転がり軸受8の運転時に発生するオイルミストの影響を受けにくく、誤作動や故障が発生しにくい。そのため、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置10によれば、ガスセンサの気体導入口と筐体の気体導出口とが直接配管で接続されている潤滑剤劣化検出装置よりも、転がり軸受の潤滑剤の劣化状態を高い正確性で判断することができる。
【0026】
オイル除去フィルタ6の代わりに、湿式集塵機や静電式オイルミスト除去装置を設置してもよい。
さらに、ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が、連続的ではなく、所定時間毎に間欠的に行われるため、ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が連続的に行われる場合と比較して、以下の利点がある。
【0027】
ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が連続的に行われると、筐体1の内部が負圧になり、回転軸9と円板状部12,12Aの中心穴121との隙間などから、外部の気体が筐体1内に混入する可能性が高くなる。この混入した気体がガスセンサ2に導入されて、検出値のノイズとなる。
そして、外部気体導入管4からガスセンサ2へ筐体1の外部の気体が導入されている間に、転がり軸受8内の潤滑剤の劣化により発生した気体(以下、「劣化起因気体」と称する。)が筐体1内に溜まるため、劣化起因気体の筐体1内での濃度が高くなった状態で、筐体1内の気体がガスセンサ2に導入される。よって、局所的に転がり軸受8の軌道面が高温になって発生するような極微量の劣化起因気体も検出し易くなる。
【0028】
また、ガスセンサ2に活性炭フィルタ7を通ったきれいな気体が導入されて、ガスセンサ2がクリーニングされるため、ガスセンサ2の検出感度が向上できる。
また、ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が連続的に行われると、転がり軸受8の回転中に、転がり軸受8内の油(グリースの場合は基油)が蒸発して、ガスセンサ2やオイル除去フィルタ6に悪影響を及ぼす可能性があるが、間欠的に行われるとこのような悪影響を及ぼすことが防止できる。
【0029】
また、ガスセンサ2への筐体1内の気体の導入が連続的に行われると、転がり軸受8内の油が蒸発または微細化して外部に漏れる量が多くなることが懸念されるが、間欠的に行われると外部に漏れる量が低減できる。これにより、転がり軸受8内の油の減少を抑制できるため、軸受潤滑寿命の点で有利になる。
【0030】
[第二実施形態]
<構成>
図4に示すように、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置10Aは、筐体1Aと、ガスセンサ2と、内部気体導入管3Aと、外部気体導入管4と、切替弁5と、オイル除去フィルタ6と、活性炭フィルタ7を有する。
筐体1Aは、円筒部11Aと、中心穴121を有する二つの円板状部12とで構成されている。筐体1Aに、二つの転がり軸受8が回転可能に納められている。円筒部11Aの軸方向中央部に、軸と直交する方向に貫通する貫通穴113が形成されている。
二つの転がり軸受8は、内輪81、外輪82、玉(転動体)83、保持器84、およびシールド板(非接触シール)85で構成された密封型深溝玉軸受であり、潤滑剤で潤滑されている。円筒部11Aの内周面の軸方向両端部に、二つの転がり軸受8の外輪82を嵌める溝111,112が形成されている。
【0031】
二つの転がり軸受8は、外輪82を各溝111,112に嵌めることで、軸方向に間隔を開けて円筒部11Aに固定されている。円筒部11Aの軸方向両端は、円板状部12で塞がれている。二つの転がり軸受8の内輪81に嵌合された回転軸9が、中心穴121を貫通して円板状部12の外側に延び、図示されない回転装置に接続されている。
ガスセンサ2は、筐体1Aの外部に設置され、転がり軸受8の内部に存在する潤滑剤の劣化により発生する気体として、アルデヒド(カルボニル化合物)のみを検出する定電位電解式センサである。ガスセンサ2は、リアルタイムにアルデヒド濃度を表示する表示装置を備えている。
【0032】
内部気体導入管3Aは、縦管39、エルボー管34、横管35、横管36、および横管37からなる。縦管39の一端部39aは、円筒状のゴム部材15を介して円筒部11の貫通穴113に挿入されている。つまり、縦管39の一端部31aと貫通穴113との隙間が、ゴム部材15で密封されている。
縦管39の他端と横管35の一端がエルボー管34で接続されている。横管35の他端と横管36の一端との間にオイル除去フィルタ6が介装されている。横管36の他端と横管37の一端との間に切替弁5が介装されている。横管37の他端にガスセンサ2が接続されている。横管35に吸引ポンプ38が接続されている。
【0033】
外部気体導入管4は、第一の縦管41および第二の縦管42からなる。第一の縦管41の一端が気体取込口となっていて、第一の縦管41の他端と第二の縦管42の一端との間に活性炭フィルタ7が介装されている。第二の縦管42の他端が切替弁5に接続されている。これにより、外部気体導入管4が切替弁5を介して内部気体導入管3Aと接続されている。第一の縦管41に吸引ポンプ43が接続されている。
【0034】
切替弁5はコントローラ51により駆動制御される。コントローラ51は、所定時間毎に切替弁5を駆動して、切替弁5で横管37と接続する配管を横管36または第二の縦管42に切り替える。つまり、切替弁5とそのコントローラ51は、内部気体導入管3Aによるガスセンサ2への気体導入と外部気体導入管4によるガスセンサ2への気体導入とを、所定時間毎に切り替える制御装置である。
オイル除去フィルタ6は、気体中のオイルミストを除去するセラミックスフィルタである。
【0035】
<動作>
潤滑剤劣化検出装置10Aの動作を図5および図6を用いて説明する。
ここでは、一例として、コントローラ51による切替弁5の制御を以下に示すように行う。
転がり軸受8の回転開始と同時に、吸引ポンプ43を作動するとともに、第二の縦管442と横管37とを切替弁5で接続して9分間保持する(第一状態とする)。その後、吸引ポンプ43を停止し吸引ポンプ38を作動するとともに、切替弁5を駆動して、横管36と横管37とを切替弁5で接続して1分間保持する(第二状態とする)。その後、この第一状態と第二状態を繰り返す。
【0036】
これにより、転がり軸受8の回転開始から9分間は、図5に示すように、筐体1Aの外部の気体が、外部気体導入管4から切替弁5、横管37を通ってガスセンサ2に導入される。この導入された気体は、外部気体導入管4に設けた活性炭フィルタ7を通った気体である。筐体1A内の気体はガスセンサ2に導入されない。
【0037】
次に、9分経過後に切替弁5が駆動して、横管37と横管36とが切替弁5により接続され、図6に示すように、筐体1A内の気体が、内部気体導入管3Aを通ってガスセンサ2に導入される。この導入された気体は、オイル除去フィルタ6を通った気体である。筐体1A外の気体はガスセンサ2に導入されない。この状態が1分間継続する。
そして、この9分間の外部気体導入管4による気体(筐体1Aの外部の気体)のガスセンサ2への導入(図5に示す状態)と、1分間の内部気体導入管3Aによる気体(筐体1Aの内部の気体)のガスセンサ2への導入(図6に示す状態)が繰り返される。
【0038】
よって、回転中に転がり軸受8内の潤滑剤から発生した気体が9分間、筐体1A内に溜まり、この筐体1A内に溜まった気体が、次の1分間、ガスセンサ2に導入されて、そのアルデヒド濃度が検出される。そして、これらが繰り返される。つまり、ガスセンサ2への筐体1A内の気体の導入が、連続的ではなく、所定時間毎に間欠的に行われる。また、10分毎に、最初の9分間は、ガスセンサ2に活性炭フィルタ7を通ったきれいな気体が導入されて、ガスセンサ2がクリーニングされる。
【0039】
また、筐体1Aの内部の気体は、オイル除去フィルタ6でオイルミストが除去された後に、ガスセンサ2に入り、ガスセンサ2でアルデヒドの濃度が検出されて、その結果が表示される。
潤滑剤劣化検出装置10Aのガスセンサ2で検出されるアルデヒド濃度は、転がり軸受8内の潤滑剤の劣化が生じる前には0に近い値を示し、潤滑剤による焼き付きが発生する少し前に緩やかに上昇した後、急激に上昇する。そのため、ガスセンサ2で検出されたアルデヒド濃度が上昇し始めたタイミングで、転がり軸受8の内部の潤滑剤が劣化したことが検知できる。
【0040】
<作用、効果>
第二実施形態の潤滑剤劣化検出装置10Aによれば、第一実施形態の潤滑剤劣化検出装置10と同じ作用、効果が得られる。
また、筐体1Aの気体導出口(貫通穴113)が円筒部11Aの軸方向中央部にあるため、筐体1の気体導出口(貫通穴122)が円板状部12Aにある第一実施形態の潤滑剤劣化検出装置10と比較して、回転軸9と円板状部12Aの中心穴121との隙間を通って混入する外部の気体の影響を受けにくく、検出値のノイズが少なくなるという点で有利である。
【0041】
[その他]
上記各実施形態では、外部気体導入管4が切替弁5を介して内部気体導入管3,3Aと接続されている。しかし、外部気体導入管4を内部気体導入管3,3Aとは独立にガスセンサ2に向かう配管とし、内部気体導入管3,3Aと外部気体導入管4にそれぞれ開閉弁を設け、両開閉弁を制御することで、内部気体導入管3,3Aによるガスセンサ2への気体導入と外部気体導入管4によるガスセンサ2への気体導入を切り替えてもよい。
【0042】
また、活性炭フィルタ7を設けずに、筐体1,1Aの外部の気体をそのままガスセンサ2に導入してもよい。その場合、図2および図5の状態で、筐体1,1Aの外部の気体に含まれるアルデヒド濃度がガスセンサ2で検出されるため、内部気体導入管3、 3Aからの気体のガスセンサ2での検出結果に筐体1,1Aの内部の気体が及ぼす影響を調べることができる。
【0043】
さらに、外部気体導入管4からの気体導入を行わずに、単に所定時間毎に内部気体導入管3,3Aからガスセンサ2への気体導入を行ってもよい。その場合でも、劣化起因気体の筐体1,1A内での濃度が高くなった状態で、筐体1,1A内の気体がガスセンサ2に導入されることで、局所的に転がり軸受8の軌道面が高温になって発生するような極微量の劣化起因気体が検出し易くなる効果が得られる。また、その場合には、潤滑剤劣化検出装置10,10Aは外部気体導入管4および切替弁5を備える必要はない。
【符号の説明】
【0044】
1 筐体
1A 筐体
11 筐体の円筒部
11A 筐体の円筒部
111,112 溝
113 円筒部の貫通穴(筐体の気体導出口)
12 筐体の円板状部
12A 筐体の円板状部
121 円板状部の中心穴
122 円板状部の貫通穴(筐体の気体導出口)
15 ゴム部材
2 ガスセンサ
3 内部気体導入管
3A 内部気体導入管
31 横管
32 エルボー管
33 縦管
34 エルボー管
35 横管
36 横管
37 横管
38 吸引ポンプ
39 縦管
4 外部気体導入管
41 第一の縦管
42 第二の縦管
43 吸引ポンプ
5 切替弁
6 オイル除去フィルタ
7 活性炭フィルタ
8 転がり軸受
81 内輪
82 外輪
83 玉
84 保持器
85 シールド板
9 回転軸
10 潤滑剤劣化検出装置
10A 潤滑剤劣化検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6