特許第6897347号(P6897347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897347
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】エンジンの冷却用オイル通路構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/10 20060101AFI20210621BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   F02F1/10 D
   F01P3/02 M
   F01P3/02 J
   F02F1/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-113519(P2017-113519)
(22)【出願日】2017年6月8日
(65)【公開番号】特開2018-204580(P2018-204580A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】荒瀬 国男
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−257227(JP,A)
【文献】 実開昭60−100545(JP,U)
【文献】 特開2016−102459(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01477645(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00− 1/42
F02F 7/00
F01P 1/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースにシリンダ及びシリンダヘッドが順次結合され、前記シリンダにはシリンダボアと、このシリンダボアの側方にカムチェーン室がそれぞれ形成され、前記シリンダにシリンダ側冷却用オイル通路が、前記シリンダヘッドにシリンダヘッド側冷却用オイル通路がそれぞれ形成されたエンジンの冷却用オイル通路構造において、
前記シリンダ側冷却用オイル通路は前記シリンダボアの周囲に設けられて、前記シリンダには、前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間に前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていないオイル通路廃止区間が存在し、このオイル通路廃止区間における両側の前記シリンダ側冷却用オイル通路が、前記シリンダヘッド側冷却用オイル通路と連通して構成され、
前記シリンダには、前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていない前記オイル通路廃止区間が複数存在し、このうちの前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間の前記オイル通路廃止区間が最も長く設けられ、
前記シリンダには、前記シリンダヘッドを前記シリンダと共に前記クランクケースに結合するためのスタットボルトを挿通する複数のスタットボルト挿通穴が、少なくとも前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間に互いに離間して設けられ、
前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていない最も長い前記オイル通路廃止区間の両端は、前記スタットボルト挿通穴の中心よりも前記カムチェーン室側に位置付けられ、更に、最も長い前記オイル通路廃止区間の長さは、前記スタットボルト挿通穴の中心間長さの半分に設定されたことを特徴とするエンジンの冷却用オイル通路構造。
【請求項2】
前記カムチェーン室は、シリンダ側冷却用オイル通路の外周の仮想線に接するように設けられたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの冷却用オイル通路構造。
【請求項3】
前記カムチェーン室の一部は、シリンダ側冷却用オイル通路の外周の仮想線よりもシリンダボアの中心側へ膨出して形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの冷却用オイル通路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却用オイルによってエンジンの、特にシリンダを冷却するエンジンの冷却用オイル通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリンダにおけるシリンダボアの周囲にシリンダ側冷却用オイル通路が連続して形成されたエンジンの冷却用オイル通路構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−98723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリンダの横幅寸法を短縮してエンジンの小型化を実現するためには、シリンダの平面視において、シリンダボアと、シリンダボア周囲のシリンダ側冷却用オイル通路と、カムチェーン室と、スタッドボルト挿通穴とを極力詰めて設計する必要がある。ここで、スタッドボルト挿通穴は、シリンダヘッド及びヘッドカバーをクランクケースに結合させるためのスタッドボルトを挿通する穴である。
【0005】
また、シリンダの横幅寸法を短縮するために、シリンダボアとカムチェーン室との間に位置するシリンダ側冷却用オイル通路の幅を狭くしたり、その冷却用オイル通路の一部分のみを狭くしたりする設計が行われることがある。ところが、一般に、冷却用通路の幅は鋳造時に壊れない幅を確保する必要がある。また、冷媒(水やオイル)の流れを考慮したとき、冷却用通路中に冷媒が局所的に流れ難い箇所を形成するのは妥当でない。これらの理由から、シリンダ側冷却用オイル通路の幅を狭くして、シリンダの横幅寸法を短縮することには限界がある。
【0006】
また、特許文献1に記載のように、シリンダにおけるシリンダボアの周囲にシリンダ側冷却用オイル通路を連続して形成した場合には、シリンダの剛性が低下して、万一の場合、シリンダボアが変形する恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、エンジンの小型且つ軽量化を実現できるエンジンの冷却用オイル通路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエンジンの冷却用オイル通路構造は、クランクケースにシリンダ及びシリンダヘッドが順次結合され、前記シリンダにはシリンダボアと、このシリンダボアの側方にカムチェーン室がそれぞれ形成され、前記シリンダにシリンダ側冷却用オイル通路が、前記シリンダヘッドにシリンダヘッド側冷却用オイル通路がそれぞれ形成されたエンジンの冷却用オイル通路構造において、前記シリンダ側冷却用オイル通路は前記シリンダボアの周囲に設けられて、前記シリンダには、前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間に前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていないオイル通路廃止区間が存在し、このオイル通路廃止区間における両側の前記シリンダ側冷却用オイル通路が、前記シリンダヘッド側冷却用オイル通路と連通して構成され、前記シリンダには、前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていない前記オイル通路廃止区間が複数存在し、このうちの前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間の前記オイル通路廃止区間が最も長く設けられ、前記シリンダには、前記シリンダヘッドを前記シリンダと共に前記クランクケースに結合するためのスタットボルトを挿通する複数のスタットボルト挿通穴が、少なくとも前記シリンダボアと前記カムチェーン室との間に互いに離間して設けられ、前記シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていない最も長い前記オイル通路廃止区間の両端は、前記スタットボルト挿通穴の中心よりも前記カムチェーン室側に位置付けられ、更に、最も長い前記オイル通路廃止区間の長さは、前記スタットボルト挿通穴の中心間長さの半分に設定されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリンダには、シリンダボアとカムチェーン室との間に、シリンダ側冷却用オイル通路が形成されていないオイル通路廃止区間が存在するため、カムチェーン室をシリンダボアの中心に接近させることができる。この結果、シリンダの横幅寸法を短縮できるので、エンジンの小型且つ軽量化を実現できる。また、前記オイル通路廃止区間の両側のシリンダ側冷却用オイル通路が、シリンダヘッド側冷却用オイル通路と連通して構成されたので、シリンダ側冷却用オイル通路内のエンジンオイルをシリンダヘッド側冷却用オイル通路に導くことができる。これにより、高温部であるシリンダヘッドを効果的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るエンジンの冷却用オイル通路構造の一実施形態が適用されたエンジンを示す右側面図。
図2図1のシリンダ及びシリンダヘッドを左斜め前方から目視した斜視図。
図3図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に左斜め前方から目視して示す斜視図。
図4図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に右斜め前方から目視して示す斜視図。
図5図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に示す正面図。
図6図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に示す右側面図。
図7図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に示す左側面図。
図8図2のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダと共に示す背面図。
図9図2のシリンダヘッド及びシリンダを示す平面図。
図10図9のシリンダヘッドに形成された複数のシリンダヘッド側冷却用オイル通路を、シリンダ及びシリンダヘッドガスケットと共に示す平面図。
図11図9のシリンダヘッド示す底面図。
図12図11のシリンダヘッド及びシリンダヘッドガスケットを示す底面図。
図13図2及び図10のシリンダに形成された複数のシリンダ側冷却用オイル通路を示すシリンダの平面図。
図14図13のシリンダをシリンダヘッドガスケットと共に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るエンジンの冷却用オイル通路構造の一実施形態が適用されたエンジンを示す右側面図である。本実施形態において、前後、左右、上下の表現は、エンジンが搭載された車両に乗車する運転者を基準にしたものである。
【0012】
図1に示すエンジン10は、例えば自動二輪車に搭載された単気筒エンジンであり、クランクケース11の前方からシリンダアッセンブリ12が前傾して延設されて構成される。このシリンダアッセンブリ12は、シリンダ13とシリンダヘッド14とヘッドカバー15とがクランクケース11の側から順次接合されて構成される。
【0013】
このうちのシリンダ13及びシリンダヘッド14は、これらのシリンダ13及びシリンダヘッド14に形成された後述のスタッドボルト挿通穴28、29(図3及び図9参照)に挿通される図示しないスタットボルトを用いて、クランクケース11の前上面に結合される。
【0014】
図1及び図11に示すように、シリンダヘッド14には、燃焼室17が形成されると共に、この燃焼室17に連通して吸気ポート18及び排気ポート19が形成される。
【0015】
吸気ポート18に、エンジン吸気系から混合気(燃料と空気の混合気)が供給される。このエンジン吸気系は、共に図示しないエアクリーナ、スロットルボディ及び燃料インジェクタを有して構成される。これらのスロットルボディ及び燃料インジェクタに代えて、キャブレタであってもよい。また、排気ポート19には、エンジン排気系の図示しない排気管が接続される。このエンジン排気系によって、燃焼室17及びシリンダボア20(後述)内で混合気が、点火プラグ16の点火で燃焼することにより発生する排気が排出される。なお、点火プラグ16はシリンダヘッド14の右側壁に設置される。
【0016】
シリンダヘッド14では、図2及び図3に示すように、上記排気管を排気ポート19に接続して取り付けるための排気管取付面21が設けられる。この排気管取付面21には、排気ポート19を挟んだ上、下のそれぞれの位置に取付用ボルト穴22が形成される。排気管は、図示しない取付ボルトが取付用ボルト穴22にねじ結合されることで排気管取付面21に取り付けられて、排気ポート19に接続される。
【0017】
シリンダ13には、シリンダヘッド14の燃焼室17に連通するシリンダボア20(図3及び図4参照)が形成される。このシリンダボア20内に、図示しないピストンが摺動自在に配設される。シリンダヘッド14の燃焼室17及びシリンダ13のシリンダボア20内で混合気が燃焼することによりピストンが往復運動し、この往復運動がコンロッド(不図示)を介して、クランクケース11に回転自在に支持されたクランクシャフト30(図1)の回転運動に変換される。
【0018】
上述の燃焼室17への混合気の供給は、吸気ポート18を燃焼室17に対して開閉する図示しない吸気バルブにより制御される。また、燃焼室17からの排気の排出は、排気ポート19を燃焼室17に対して開閉する図示しない排気バルブにより制御される。これらの吸気バルブ及び排気バルブは、シリンダヘッド14及びヘッドカバー15間に設置された図示しない動弁装置により駆動される。この動弁装置は、共に図示しない吸気カム及び吸気アームにより吸気バルブを駆動し、また、共に図示しない排気カム及び排気ロッカアームにより排気バルブを駆動する。
【0019】
図1に示すエンジン10では、吸気バルブと排気バルブが一気筒に2本ずつ設けられる。従って、図2図9及び図11に示すように、シリンダヘッド14では、吸気バルブを挿通する吸気バルブ挿通穴23が2つ、排気バルブを挿通する排気バルブ挿通穴24が2つそれぞれ形成されている。また、1気筒に吸気バルブが2本、排気バルブが2本それぞれ設けられることで、図10及び図11に示すように、シリンダヘッド14では、吸気ポート18と排気ポート19がそれぞれ二股形状に形成される。このうちの排気ポート19は、接続される排気管がフレーム25と干渉しないように、シリンダヘッド14の平面視で、排気管取付面21へ向かって左右方向の片側(例えば右側)へ傾き湾曲して形成される。
【0020】
ここで、排気ポート19の二股部分を符号19Aで示し、排気ポート19の二股分岐部位を符号19Bで示し、排気ポート19の外側の湾曲面を符号19Cで示す。
【0021】
図2図3及び図9に示すように、シリンダ13及びシリンダヘッド14では、動弁装置に動力を伝達するカムチェーン(不図示)を収容するカムチェーン室26がシリンダ13に、カムチェーン室27がシリンダヘッド14にそれぞれ形成されている。このうちのシリンダ13のカムチェーン室26は、シリンダ13及びシリンダヘッド14の平面視でシリンダヘッド14のカムチェーン室27と略同一形状であり、このカムチェーン室27に連通する。また、シリンダ13のカムチェーン室26は、シリンダ13におけるシリンダボア20の側方(例えば左側方)に形成されている。
【0022】
また、図3及び図13に示すように、シリンダ13には、シリンダボア20の周囲に略等間隔で4本のスタッドボルト挿通穴28が、シリンダ13の上下方向に貫通して形成される。更に、シリンダヘッド14では、図9に示すように、シリンダ13の4本のスタッドボルト挿通穴28に対応する位置に、同じく4本のスタッドボルト挿通穴29が、シリンダヘッド14の上下方向に貫通して形成される。このうちのシリンダ13のスタッドボルト挿通穴28は、特に図13に示すように、少なくともカムチェーン室26側(左側)の2本が、シリンダボア20とカムチェーン室26との間でシリンダ13の前後方向に離間して形成されている。
【0023】
ところで、図1に示すエンジン10では、クランクケース11の下部に、エンジンオイルを貯留するオイルパン31が設けられる。このオイルパン31内に貯留されたエンジンオイルは、クラッチカバー32に設置されたオイルポンプ33の駆動により昇圧されてオイルフィルタ34へ導かれる。ここで、クラッチカバー32は、クランクケース11の右側部に配置され、クラッチカバーアウタ35を備える。オイルフィルタ34も、クラッチカバー32に設置されている。また、オイルポンプ33は、クランクシャフト30の回転力により駆動される。
【0024】
オイルフィルタ34で浄化されたエンジンオイルは、クラッチカバー32及びクランクケース11内等の図示しないオイル通路を経てクランクシャフト30、ピストン、カウントシャフト(不図示)、ドライブシャフト(不図示)などへ導かれて、これらのクランクシャフト30等を潤滑する。また、オイルフィルタ34で浄化されたエンジンオイルは、シリンダ13及びシリンダヘッド14内の図示しないオイル通路を経て動弁装置へ導かれて、この動弁装置を潤滑する。更に、オイルフィルタ34で浄化されたエンジンオイルは、クラッチカバー32のオイル流出部36からオイルクーラ37へ導かれ、このオイルクーラ37にて冷却された後、シリンダヘッド14に設けられたオイル流入部38に流入する。
【0025】
オイル流入部38に流入したエンジンオイルは、冷却用オイルとして、シリンダ13及びシリンダヘッド14に連通して形成された冷却用オイル通路40(図3図4)に導入される。これにより、エンジン12において最も高温になるシリンダヘッド14の排気ポート19周囲、点火プラグ16下方及び吸気ポート18下方、並びにシリンダヘッド14及びシリンダ13における燃焼室17の周囲が冷却される。上記冷却用オイル通路40は、シリンダヘッドに形成されるシリンダヘッド側冷却用オイル通路40Aと、シリンダ13に形成されるシリンダ側冷却用オイル通路40Bとが連通して構成される。シリンダヘッド側冷却用オイル通路40は主にシリンダヘッド14の鋳造時における中子により、また、シリンダ側冷却用オイル通路40Bは中子または機械加工により、それぞれ形成される。
【0026】
シリンダヘッド側冷却用オイル通路40Aは、図3及び図4に示すように、第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44、第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45及び第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46を有して構成される。また、シリンダ側冷却用オイル通路40Bは、図3及び図13に示すように、シリンダ13におけるシリンダヘッドとの合せ面55においてシリンダボア20の周囲に不連続に形成されており、第1シリンダ側冷却用オイル通路51、第2シリンダ側冷却用オイル通路52、第3シリンダ側冷却用オイル通路53及び第4シリンダ側冷却用オイル通路54を有して構成される。
【0027】
ここで、シリンダヘッド側冷却用オイル通路40Aのうちの第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43及び第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46は、図5図8に示すように、これらのオイル通路のそれぞれを形成する中子を支持するための中子支持用足により形成された足相当空間を有する。
【0028】
即ち、第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41は、2つの足相当空間47−1を、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43は1つの足相当空間47−3を、第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46は2つの足相当空間47−6をそれぞれ有する。ところが、これらの足相当空間47−1、47−3及び47−6は、図11及び図12に示すように、シリンダ13とシリンダヘッド14との間に配置されるシリンダヘッドガスケット48により閉塞されることで、シリンダ側冷却用オイル通路40Bと連通しないよう構成されている。
【0029】
第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41は、図3図6に示すように、前述のオイル流入部38を流入端とし、点火プラグ16の下方から排気ポート19の右側方及び下方を通って、排気ポート19を少なくとも半周囲んで形成される。この第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41の流出端49が、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42の流入端50に連通する。従って、オイルクーラ37から第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41内に流入して、この第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41内を流れる冷却用オイルによって、シリンダヘッド14における点火プラグ16の下方並びに排気ポート19の右側方及び下方が冷却される。この第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41は、他のシリンダヘッド側冷却用オイル通路として構成されている。
【0030】
第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42は、図4図7図9及び図10に示すように、吸気ポート18と排気ポート19との間の燃焼室17の上方に、シリンダヘッド14の平面視で三角形状に形成される。この第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42は、特に図9に示すようにシリンダヘッド14の上面に開口しており、この開口が図示しない蓋により閉塞されることで流路が構成される。また、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42の流出端56が第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43の流入端57に連通する。従って、第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41から第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42内に流入して、この第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42内を流れる冷却用オイルによって、シリンダヘッド14における燃焼室17の上方、吸気ポート18の二股部分18A及び排気ポート19の二股部分19Aがそれぞれ冷却される。
【0031】
第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43は、他のシリンダヘッド側冷却用オイル通路であり、図3図5及び図7に示すように、排気ポート19の左側方及び下方を通って、排気ポート19を少なくとも半周囲んで形成される。この第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43の流出端58がシリンダ13の第1シリンダ側冷却用オイル通路51に連通する。従って、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42から第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43内に流入して、この第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43内を流れる冷却用オイルによって、シリンダヘッド14における排気ポート19の左側方及び下方が冷却される。
【0032】
第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、図3図4図5及び図10に示すように、シリンダヘッド14において、シリンダとの合せ面59から排気ポート19の左側の外側湾曲面19Cの外方を通り、ヘッドカバーとの合せ面60と排気ポート19の二股分岐部位19Bの上部までに亘って形成されている。更に、この第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、図2及び図9に示すように、シリンダヘッド14の平面視で、排気バルブ挿通穴24と排気管取付面21に開口する取付用ボルト穴22との間で、シリンダヘッド14の周壁63を囲んで形成される。
【0033】
また、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、上り通路44Aと下り通路44Bとを有し、これらにより長尺状のU字形状に形成される。つまり、上り通路44Aは、シリンダヘッド94におけるシリンダとの合せ面59側の流入端61がシリンダ13の第1シリンダ側冷却用オイル通路51に連通し、排気ポート19の左側の外側湾曲面19Cに沿って上昇し、排気ポート19の二股分岐部位19Bの上方へ至る。また、下り通路44Bは、上り通路44Aに連通し、排気ポート19の二股分岐部位19Bの上方から排気ポート19の左側の外側湾曲面19Cに沿って下降し、上り通路44Aに隣接し、流出端62がシリンダ13の第2シリンダ側冷却用オイル通路52に連通する。
【0034】
ここで、上り通路44A及び下り通路44Bを排気ポート19の外側湾曲面19Cの外方に設けたのは、湾曲形状の排気ポート19では、内側湾曲面に比べて外側湾曲面19Cの方が内面の表面積が大きくなって、排気により温度上昇する傾向が高くなるからである。
【0035】
第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が冷却用オイルを、上り通路44Aによりシリンダ13側からシリンダヘッド14側へ導いた後、下り通路44Bにより再びシリンダ13側に戻すことが可能になったのは、冷却材として水ではなく、粘性の高いオイルを採用したためである。即ち、水と異なり粘性の高いオイルでは、冷却用通路内のオイル中に混入された空気の気泡は、オイルと共に流動するので、冷却用通路内に局所的に滞留することなく良好に排出される。第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が上り通路44A及び下り通路44Bにより構成可能になったのは、上述のようなオイルの特性を利用したからである。
【0036】
上述のように構成された第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44内にシリンダ13の第1シリンダ側冷却用オイル通路51からの冷却用オイルが流れることで、シリンダヘッド14における排気ポート19の左側の外側湾曲面19Cの外方、及びシリンダヘッド14におけるヘッドカバーとの合せ面60と排気ポート19の上方との間が冷却される。これにより、シリンダヘッド14における排気管取付用の取付用ボルト穴22及び取付ボルト、並びにヘッドカバーとの合せ面60とヘッドカバー15との間に配置されるヘッドカバーガスケット64が冷却される。
【0037】
第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45は、図3及び図7に示すように、後述の如く、シリンダ13のカムチェーン室26をシリンダボア20の中心に位置づけるために形成された通路である。この第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45では、流入端65が、シリンダ13の第2シリンダ側冷却用オイル通路52に連通し、流出端66が、シリンダ13の第3シリンダ側冷却用オイル通路53に連通する。前述のオイルの特性(気泡の良好な排出性)を利用して、第2シリンダ側冷却用オイル通路52内の冷却用オイルが、第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45を経由して第3シリンダ側冷却用オイル通路53に導かれるものであるが、第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45内を流れる冷却用オイルによって、シリンダヘッド14が冷却される。
【0038】
第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46は、図3図4図8及び図10に示すように、流入端67がシリンダ13の第3シリンダ側冷却用オイル通路13に連通し、シリンダヘッド14の吸気ポート18の下方を通り、流出端68がシリンダ13の第4シリンダ側冷却用オイル通路54に連通する。流入端67と流出端68は、図13に示す第3シリンダ側冷却用オイル通路53と第4シリンダ側冷却用オイル通路54との間で、シリンダ13の剛性向上を図るためのオイル通路廃止区間(後述)が、シリンダ13の冷却性能確保のために最小限となるように接近して形成される。
【0039】
従って、オイルの特性(気泡の良好な排出性)を利用して、第3シリンダ側冷却用オイル通路53からの冷却用オイルが第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46内を流れ、その後、第4シリンダ側冷却用オイル通路54を流れることで、シリンダヘッド14における吸気ポート18が冷却されて、この吸気ポート18内を流れる吸気(混合気)の充填効率が向上する。
【0040】
図3図4及び図13に示すように、シリンダ13に形成されるシリンダ側冷却用オイル通路40Bが前述の如く不連続に形成されることで、シリンダ13におけるシリンダヘッドとの合せ面55には、第1シリンダ側冷却用オイル通路51と第2シリンダ側冷却用オイル通路52との間に第1オイル通路廃止区間71が、第2シリンダ側冷却用オイル通路52と第3シリンダ側冷却用オイル通路53との間に第2オイル通路廃止区間72が、第3シリンダ側冷却用オイル通路53と第4シリンダ側冷却用オイル通路54との間に第3オイル通路廃止空間73が、第4シリンダ側冷却用オイル通路54と第1シリンダ側冷却用オイル通路51との間に第4オイル通路廃止区間74がそれぞれ存在する。これらの第1〜第4オイル通路廃止区間71、72、73及び74は、シリンダ13のシリンダヘッドとの合せ面55において、シリンダ側冷却用オイル通路40Bが形成されていない区間である。
【0041】
これらの第1〜第4オイル通路廃止区間71、72、73及び74は、シリンダ側冷却用オイル通路40Bがシリンダ13のシリンダヘッドとの合せ面55のシリンダボア20の周囲に連続して形成される場合に比べて、シリンダ13の剛性を向上させ、且つシリンダヘッド14及びシリンダ13における燃焼室17の周囲の冷却性能を確保させるものである。
【0042】
図13及び図14に示すように、第1シリンダ側冷却用オイル通路51は、上流端が、シリンダヘッドガスケット48の流入口75を経て第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43の流出端58に連通し、下流端が、シリンダヘッドガスケット48の流出口76を経て第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44の流入端61に連通する。これにより、第1シリンダ側冷却用オイル通路51は、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43内の冷却用オイルを第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44へ導くと共に、シリンダ13のシリンダボア20の周囲の一部を冷却する。
【0043】
第2シリンダ側冷却用オイル通路52は、上流端が、シリンダヘッドガスケット48の流入口77を経て第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44の流出端62に連通し、下流端が、シリンダヘッドガスケット48の流出口78を経て第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45の流入端65に連通する。これにより、第2シリンダ側冷却用オイル通路52は、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44内の冷却用オイルを第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45へ導くと共に、シリンダ13のシリンダボア20の周囲の一部を冷却する。
【0044】
第3シリンダ側冷却用オイル通路53は、上流端が、シリンダヘッドガスケット48の流入口79を経て第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45の流出端66に連通し、下流端が、シリンダヘッドガスケット48の流出口80を経て第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46の流入端67に連通する。これにより、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路53は、第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45内の冷却用オイルを第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46へ導くと共に、シリンダ13のシリンダボア20の周囲の一部を冷却する。
【0045】
第4シリンダ側冷却用オイル通路54は、上流端が、シリンダヘッドガスケット48の流入口81を経て第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46の流出端68に連通し、下流端がオイル戻し通路82に連通する。このオイル戻し通路82は、シリンダ13の上下方向に貫通して形成されたものであり、冷却用オイルをクランクケース11のオイルパン31へ導く。これにより、第4シリンダ側冷却用オイル通路54は、第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46からの冷却用オイルをオイル戻し通路82へ導くと共に、シリンダ13のシリンダボア20の周囲の一部を冷却する。
【0046】
図13に示すように、前述の第1オイル通路廃止区間71、第2オイル通路廃止区間72、第3オイル通路廃止区間73、第4オイル通路廃止区間74のうちで、第2シリンダ側冷却用オイル通路52と第3シリンダ側冷却用オイル通路53との間に存在する第2オイル通路廃止区間72、つまりシリンダボア20とカムチェーン室26との間に存在する第2オイル通路廃止区間72が最も長く設定されている。
【0047】
この第2オイル通路廃止空間72の両端間の長さP1は、シリンダ13においてシリンダボア20とカムチェーン室26との間でシリンダ13の前後方向に離間して形成された2つのスタッドボルト挿通穴28の中心間長さP2の半分程度に設定される。更に、この第2オイル通路廃止区間72の両端は、上述の如くシリンダボア20とカムチェーン室26の間に形成されたスタッドボルト挿通穴28の中心よりもカムチェーン室26側に偏倚して位置づけられる。
【0048】
また、第2オイル通路廃止区間72が上述のように最大に設定されたことで、カムチェーン室26は、シリンダボア20の中心に近づけて設定され、例えばシリンダ側冷却用オイル通路40B(第2シリンダ側冷却用オイル通路52及び第3シリンダ側冷却用オイル通路53)の外周の仮想線Mと接するように設けられる。更に、図3及び図13に示すように、カムチェーン室26におけるシリンダボア20側の一部は肉抜き処理されて、シリンダ側冷却用オイル通路40B(第2シリンダ側冷却用オイル通路52及び第3シリンダ側冷却用オイル通路53)の外周の仮想線Mよりもシリンダボア20の中心側へ膨出された膨出部83とされている。
【0049】
図10及び図13に示すように、オイルクーラ37(図1)により冷却された冷却用オイルは、矢印Aに示すように、第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42及び第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43を順次流れた後、図13の矢印Bに示すように第1シリンダ側冷却用オイル通路51内を流れ、次に、図10の矢印Cに示すように第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44内を流れる。これらの第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43及び第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44を流れる冷却用オイルによって、点火プラグ16の下方及び排気ポート19の周囲が冷却される。
【0050】
第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44内を流れた冷却用オイルは、図13の第2シリンダ側冷却用オイル通路52内、図10の第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45内、図13の第3シリンダ側冷却用オイル通路53内を順次矢印Dのように流れる。その後、第3シリンダ側冷却用オイル通路53内の冷却用オイルは、図10の第6シリンダヘッド側冷却用オイル通路46内を矢印Eのように流れて吸気ポート18の下方を冷却し、図13の第4シリンダ側冷却用オイル通路54内を矢印Fのように流れてオイル戻し通路82に至り、クランクケース11のオイルパン11に戻される。冷却用オイルが第1シリンダ側冷却用オイル通路51、第2シリンダ側冷却用オイル通路52、第3シリンダ側冷却用オイル通路53、第4シリンダ側冷却用オイル通路54を順次流れることで、シリンダ13及びシリンダヘッド14における燃焼室17の周囲が冷却される。
【0051】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(13)を奏する。
(1)図3図5及び図10に示すように、シリンダヘッド14は、シリンダとの合せ面59から排気ポート19の左側方を通り、ヘッドカバーとの合せ面60と排気ポート19の上部との間までに第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が形成されている。このため、シリンダヘッド14におけるヘッドカバーとの合せ面60を排気ポート19に接近させてエンジン10を上下方向に小型化する場合でも、シリンダヘッド14とヘッドカバー15間に配設されるヘッドカバーガスケット64が排気ポート19からの熱により被る損傷(熱害)を低減でき、シール性を確保できる。この結果、エンジン10の小型化とエンジン10のシール性の向上を共に実現できる。
【0052】
(2)図2及び図9に示すように、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、シリンダヘッド14の平面視で、排気バルブ挿入穴24と排気管取付面21に開口する取付用ボルト穴22との間に形成されている。このため、取付用ボルト穴22を冷却することでこの取付用ボルト穴22にクリープが生ずることを防止でき、この取付用ボルト穴22に取付用ボルトをねじ結合することで締付トルクの低下を抑制できる。この結果、シリンダヘッド14の排気管取付面21と排気管とのシール性を向上させることができる。
【0053】
(3)第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、シリンダヘッド14の平面視で、シリンダヘッド14の周壁63を挟んで形成されている。このため、高温になる排気ポート19の上方の周壁63を冷却できることで、シリンダヘッド14とヘッドカバー15との間に配置されるヘッドカバーガスケット64に与える熱害を低減できる。
【0054】
(4)図5及び図10に示すように、排気ポート19は、接続される排気管がフレーム25と干渉しないように例えば右側に湾曲して形成されて、排気管との接続が滑らかになるように構成されている。この排気ポート19は、外側湾曲面19Cが内側湾曲面に比べて内面の表面積が増大するため、排気によって温度上昇し易くなる。本実施形態では、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が排気ポート19の外側湾曲面19Cの外方に形成されることで、この第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44を流れる冷却用オイルにより排気ポート19を効果的に冷却でき、温度上昇を抑制できる。
【0055】
(5)図3及び図5に示すように、シリンダヘッド14に形成される第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44は、シリンダとの合せ面59から排気ポート19の外側湾曲面19Cの外方を通り、この排気ポート19の上方へ至る上り通路44Aと、この上り通路44Aに連通して排気ポート19の上方からシリンダとの合せ面59まで、上り通路44に隣接して設けられる下り通路44Bとにより、U字形状に形成されている。このため、排気ポート19の外側湾曲面19C及び排気ポート19の上方を、冷却用オイルと積極的に熱交換させることで重点的に冷却することができる。また、排気ポート19の片側である外側湾曲面19Cの外方に第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が形成されることで、シリンダヘッド14の生産性を向上させることができる。
【0056】
(6)図3図4及び図10に示すように、シリンダヘッド14には、第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44の他に、排気ポート19の右側方から下方を通って第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41が形成され、排気ポート19の二股部分19Aの上方に第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42が形成され、排気ポート19の右側方から下方を通って第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43が形成されている。このように排気ポート19の周囲が第1〜第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、42、43及び44により囲まれたので、これらの冷却用オイル通路内を流れる冷却用オイルによって、排気ポート19の冷却性能を向上させることができる。しかも、排気管取付面21に開口する上、下の取付用ボルト穴22を共に冷却できるので、排気管の締付トルクの低下をより一層抑制できる。
【0057】
(7)シリンダヘッド14には、上述のように排気ポート19の周囲に第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路42、第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路43及び第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路44が形成されている。このため、排気ポート19内を流れる排気と第1〜第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、42、43及び44内を流れるエンジンオイル(冷却用オイル)との熱交換効率が向上する。
【0058】
従って、エンジン10の冷機始動時にエンジンオイル(冷却用オイル)の温度が低く粘性が高い場合には、このエンジンオイル(冷却用オイル)は、第1〜第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路41、42、43及び44内を流れ難くなるので、排気ポート19内の排気により加熱され易くなり、早期に温度上昇する。この結果、エンジン10の冷機始動時における暖機性能を向上させることができる。
【0059】
(8)図3及び図13に示すように、シリンダ13には、シリンダボア20とカムチェーン室26の間に、シリンダ側冷却用オイル通路40Bが形成されていない第2オイル通路廃止区間72が存在するため、カムチェーン室26をシリンダボア20の中心に接近させることができる。この結果、シリンダ13の左右の横幅寸法を短縮できるので、エンジン10の小型且つ軽量化を実現できる。
【0060】
(9)第2オイル通路廃止区間72の両側の第2シリンダ側冷却用オイル通路52と第3シリンダ側冷却用オイル通路53とは、第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45により連通して構成されている。このため、第2シリンダ側冷却用オイル通路52内の冷却用オイルを第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路45に導くことができ、これにより、高温であるシリンダヘッド14を効果的に冷却できる。
【0061】
(10)図13に示すように、シリンダ13には、シリンダボア20とカムチェーン室26との間に、シリンダ側冷却用オイル通路40Bが形成されていない第2オイル通路廃止区間72が存在する。このため、カムチェーン室26が、第2シリンダ側冷却用オイル通路52及び第3シリンダ側冷却用オイル通路53の外周の仮想線Mに接するように、このカムチェーン室26をシリンダボア20の中心に接近させることができる。従って、シリンダ13におけるシリンダボア20の周囲の肉厚を必要な寸法に確保しつつ、カムチェーン室26をシリンダボア20の中心に接近させて、シリンダ13の左右の横幅寸法を短縮し、エンジン10を小型化できる。
【0062】
(11)シリンダ13において、第2オイル通路廃止区間72の長さP1は、シリンダボア20とカムチェーン室26との間に位置する2つのスタッドボルト挿通穴28の中心間長さP2の半分程度に設定されている。更に、第2オイル通路廃止区間72の両端は、シリンダボア20とカムチェーン室26間に位置するスタッドボルト挿通穴28の中心よりもカムチェーン室26側に位置づけられている。これらの結果、上記スタッドボルト挿通穴28とカムチェーン室26との間の肉厚寸法Lと、シリンダ13におけるシリンダボア20周囲の冷却性能とを確保しつつ、シリンダ13の左右の横幅寸法を短縮して、エンジン10を小型化できる。
【0063】
(12)カムチェーン室26には、第2シリンダ側冷却用オイル通路52及び第3シリンダ側冷却用オイル通路53の外周の仮想線Mよりもシリンダボア20の中心側へ膨出した膨出部83が形成されている。これにより、シリンダ13においてシリンダボア20と膨出部83との間の肉厚寸法Tが、シリンダ13において必要なシリンダボア20の周囲の肉厚寸法の範囲内にあれば、シリンダ13の軽量化を実現できる。
【0064】
(13)シリンダ13のシリンダヘッドとの合せ面55には、シリンダボア20の周囲に第1シリンダ側冷却用オイル通路51、第2シリンダ側冷却用オイル通路52、第3シリンダ側冷却用オイル通路53及び第4シリンダ側冷却用オイル通路54が形成されている。更に、このシリンダヘッドとの合せ面55には、第1シリンダ側冷却用オイル通路51と第2シリンダ側冷却用オイル通路52間に第1オイル通路廃止区間71が、第2シリンダ側冷却用オイル通路52と第3シリンダ側冷却用オイル通路53間に第2オイル通路廃止区間72が、第3シリンダ側冷却用オイル通路53と第4シリンダ側冷却用オイル通路54間に第3オイル通路廃止区間73が、第4シリンダ側冷却用オイル通路54と第1シリンダ側冷却用オイル通路51間に第4オイル通路廃止区間74がそれぞれ存在する。このため、シリンダ13及びシリンダヘッド14における燃焼室17の周囲の冷却性能を確保しつつ、シリンダ13の剛性を向上させてシリンダ20の周囲の変形を防止できる。
【0065】
シリンダ13におけるシリンダボア20の周囲の変形が防止されることで、シリンダ13とシリンダヘッド14間のシリンダヘッドガスケット48のシール不良を回避できるので、シリンダボア20の内圧の吹き抜けによるエンジン10の故障を防止できる。更に、シリンダ13におけるシリンダボア20の周囲の変形が防止されることで、ピストンリングの追従不良やエンジンオイルの消費量の増加を防止できる。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、本実施形態では、エンジン10が単気筒エンジンの場合を述べたが、吸気バルブ及び排気バルブが1気筒毎に2本ずつ設けられた多気筒エンジンに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…エンジン、11…クランクケース、13…シリンダ、14…シリンダヘッド、15…ヘッドカバー、17…燃焼室、19…排気ポート、19A…排気ポートの二股部分、19C…排気ポートの外側湾曲面、20…シリンダボア、21…排気管取付面、22…取付用ボルト穴、26…カムチェーン室、28…スタッドボルト挿通穴、40…冷却用オイル通路、40A…シリンダヘッド側冷却用オイル通路、40B…シリンダ側冷却用オイル通路、41…第1シリンダヘッド側冷却用オイル通路(他のシリンダヘッド側冷却用オイル通路)、42…第2シリンダヘッド側冷却用オイル通路、43…第3シリンダヘッド側冷却用オイル通路(他のシリンダヘッド側冷却用オイル通路)、44…第4シリンダヘッド側冷却用オイル通路(シリンダヘッド側冷却用オイル通路)、44A…上り通路、44B…下り通路、45…第5シリンダヘッド側冷却用オイル通路、48…シリンダヘッドガスケット、52…第2シリンダ側冷却用オイル通路、53…第3シリンダ側冷却用オイル通路、59…シリンダとの合せ面、60…ヘッドカバーとの合せ面、63…シリンダヘッドの周壁、64…ヘッドカバーガスケット、71…第1オイル通路廃止区間、72…第2オイル通路廃止区間、73…第3オイル通路廃止区間、74…第4オイル通路廃止区間、83…膨出部、M…仮想線、P1…長さ、P2…中心間長さ
図1
図2
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図10
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