(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイヤロープの吊り下げ長さから定まる吊り荷の揺れの共振周波数を算出し、操作具の操作に応じてアクチュエータの制御信号を生成するとともに、前記制御信号から前記共振周波数を基準として任意の周波数範囲の周波数成分を任意の割合で減衰させた前記アクチュエータのフィルタリング制御信号を生成し、前記アクチュエータを制御するクレーンであって、
前記操作具の操作によって前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合と前記操作具の操作によらず前記アクチュエータが制御されている自動制御の場合とで、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを異なる設定に切り替え、
前記操作具の操作によって単独の前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合と前記操作具の操作によって複数の前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合とで、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを異なる設定に切り替えるクレーン。
ワイヤロープの吊り下げ長さから定まる吊り荷の揺れの共振周波数と、クレーンを構成する構造物が外力により振動する際に励起される固有の振動周波数と、を合成した合成周波数を算出し、操作具の操作に応じてアクチュエータの制御信号を生成するとともに、前記制御信号から前記合成周波数を基準として任意の周波数範囲の周波数成分を任意の割合で減衰させた前記アクチュエータのフィルタリング制御信号を生成し、前記アクチュエータを制御するクレーンであって、
前記操作具の操作によって前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合と前記操作具の操作によらず前記アクチュエータが制御されている自動制御の場合とで、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを異なる設定に切り替え、
前記操作具の操作によって単独の前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合と前記操作具の操作によって複数の前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合とで、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを異なる設定に切り替えるクレーン。
前記操作具の操作によって前記アクチュエータが制御されている手動制御の場合、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを前記クレーンの作動状態に基づいて設定し、前記操作具の操作によらず前記アクチュエータが制御されている自動制御の場合、減衰させる前記周波数成分の周波数範囲と減衰させる割合とのうち少なくとも一つを予め定められている所定値に切り替える請求項1または請求項2に記載のクレーン。
前記操作具の操作によって緊急停止信号が生成された場合、前記アクチュエータの制御を任意の周波数範囲の周波数成分を任意の割合で減衰させた前記フィルタリング制御信号による制御から周波数成分を減衰させていない前記制御信号による制御に切り替える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のクレーン
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、
図1と
図2とを用いて、本発明の第一実施形態に係るクレーン1について説明する。なお、本実施形態においては、クレーン1として移動式クレーン(ラフテレーンクレーン)について説明を行うが、トラッククレーン等でもよい。
【0025】
図1に示すように、クレーン1は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーン1は、車両2、クレーン装置6を有する。
【0026】
車両2は、クレーン装置6を搬送するものである。車両2は、複数の車輪3を有し、エンジン4を動力源として走行する。車両2には、アウトリガ5が設けられている。アウトリガ5は、車両2の幅方向両側に油圧によって延伸可能な張り出しビームと地面に垂直な方向に延伸可能な油圧式のジャッキシリンダとから構成されている。車両2は、アウトリガ5を車両2の幅方向に延伸させるとともにジャッキシリンダを接地させることにより、クレーン1の作業可能範囲を広げることができる。
【0027】
クレーン装置6は、吊り荷Wをワイヤロープによって吊り上げるものである。クレーン装置6は、旋回台7、伸縮ブーム9、ジブ9a、メインフックブロック10、サブフックブロック11、起伏用油圧シリンダ12、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16、キャビン17等を具備する。
【0028】
旋回台7は、クレーン装置6を旋回可能に構成するものである。旋回台7は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。旋回台7は、円環状の軸受の中心を回転中心として回転自在に構成されている。旋回台7には、アクチュエータである油圧式の旋回用油圧モータ8が設けられている。旋回台7は、旋回用油圧モータ8によって一方向と他方向とに旋回可能に構成されている。
【0029】
アクチュエータである旋回用油圧モータ8は、電磁比例切換弁である旋回用操作弁23(
図2参照)によって回転操作される。旋回用操作弁23は、旋回用油圧モータ8に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、旋回台7は、旋回用操作弁23によって回転操作される旋回用油圧モータ8を介して任意の旋回速度に制御可能に構成されている。旋回台7には、旋回台7の旋回位置(角度)と旋回速度とを検出する旋回用エンコーダ27(
図2参照)が設けられている。
【0030】
ブームである伸縮ブーム9は、吊り荷Wを吊り上げ可能な状態にワイヤロープを支持するものである。伸縮ブーム9は、複数のブーム部材から構成されている。伸縮ブーム9は、各ブーム部材をアクチュエータである図示しない伸縮用油圧シリンダで移動させることで軸方向に伸縮自在に構成されている。伸縮ブーム9は、ベースブーム部材の基端が旋回台7の略中央に揺動可能に設けられている。
【0031】
アクチュエータである図示しない伸縮用油圧シリンダは、電磁比例切換弁である伸縮用操作弁24(
図2参照)によって伸縮操作される。伸縮用操作弁24は、伸縮用油圧シリンダに供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、伸縮ブーム9は、伸縮用操作弁24によって任意のブーム長さに制御可能に構成されている。伸縮ブーム9には、伸縮ブーム9の長さを検出するブーム長検出センサ28と吊り荷Wの重量Wtを検出する重量センサ29(
図2参照)とが設けられている。
【0032】
ジブ9aは、クレーン装置6の揚程や作業半径を拡大するものである。ジブ9aは、伸縮ブーム9のベースブーム部材に設けられたジブ支持部によってベースブーム部材に沿った姿勢で保持されている。ジブ9aの基端は、トップブーム部材のジブ支持部に連結可能に構成されている。
【0033】
メインフックブロック10とサブフックブロック11とは、吊り荷Wを吊るものである。メインフックブロック10には、メインワイヤロープ14が巻き掛けられる複数のフックシーブと、吊り荷Wを吊るメインフックとが設けられている。サブフックブロック11には、吊り荷Wを吊るサブフックが設けられている。
【0034】
アクチュエータである起伏用油圧シリンダ12は、伸縮ブーム9を起立および倒伏させ、伸縮ブーム9の姿勢を保持するものである。起伏用油圧シリンダ12はシリンダ部とロッド部とから構成されている。起伏用油圧シリンダ12は、シリンダ部の端部が旋回台7に揺動自在に連結され、ロッド部の端部が伸縮ブーム9のベースブーム部材に揺動自在に連結されている。
【0035】
起伏用油圧シリンダ12は、電磁比例切換弁である起伏用操作弁25(
図2参照)によって伸縮操作される。起伏用操作弁25は、起伏用油圧シリンダ12に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、伸縮ブーム9は、起伏用操作弁25によって任意の起伏速度に制御可能に構成されている。伸縮ブーム9には、伸縮ブーム9の起伏角度を検出する起伏用エンコーダ30(
図2参照)が設けられている。
【0036】
メインウインチ13とサブウインチ15とは、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16との繰り入れ(巻き上げ)および繰り出し(巻き下げ)を行うものである。メインウインチ13は、メインワイヤロープ14が巻きつけられるメインドラムがアクチュエータである図示しないメイン用油圧モータによって回転され、サブウインチ15は、サブワイヤロープ16が巻きつけられるサブドラムがアクチュエータである図示しないサブ用油圧モータによって回転されるように構成されている。
【0037】
メイン用油圧モータは、電磁比例切換弁であるメイン用操作弁26m(
図2参照)によって回転操作される。メイン用操作弁26mは、メイン用油圧モータに供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、メインウインチ13は、メイン用操作弁26mによって任意の繰り入れおよび繰り出し速度に制御可能に構成されている。同様に、サブウインチ15は、電磁比例切換弁であるサブ用操作弁26s(
図2参照)によって任意の繰り入れおよび繰り出し速度に制御可能に構成されている。メインウインチ13には、メイン繰出長検出センサ31が設けられている。同様に、サブウインチ15には、サブ繰出長検出センサ32が設けられている。
【0038】
キャビン17は、操縦席を覆うものである。キャビン17は、旋回台7に搭載されている。図示しない操縦席が設けられている。操縦席には、車両2を走行操作するための操作具やクレーン装置6を操作するための旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21、サブドラム操作具22等が設けられている(
図2参照)。旋回操作具18は、旋回用操作弁23を操作することで旋回用油圧モータ8を制御することができる。起伏操作具19は、起伏用操作弁25を操作することで起伏用油圧シリンダ12を制御することができる。伸縮操作具20は、伸縮用操作弁24を操作することで伸縮用油圧シリンダを制御することができる。メインドラム操作具21はメイン用操作弁26mを操作することでメイン用油圧モータを制御することができる。サブドラム操作具22は、サブ用操作弁26sを操作することでサブ用油圧モータを制御することができる。
【0039】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、起伏操作具19の操作によって起伏用油圧シリンダ12で伸縮ブーム9を任意の起伏角度に起立させて、伸縮操作具20の操作によって伸縮ブーム9を任意の伸縮ブーム長さに延伸させたりすることでクレーン装置6の揚程や作業半径を拡大することができる。また、クレーン1は、サブドラム操作具22等によって吊り荷Wを釣り上げて、旋回操作具18の操作によって旋回台7を旋回させることで吊り荷Wを搬送することができる。
【0040】
図2に示すように、制御装置33は、各操作弁を介してクレーン1のアクチュエータを制御するものである。制御装置33は、制御信号生成部33a、共振周波数算出部33b、フィルタ部33c、フィルタ係数算出部33dを具備する。制御装置33は、キャビン17内に設けられている。制御装置33は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置33は、制御信号生成部33a、共振周波数算出部33b、フィルタ部33c、フィルタ係数算出部33dの動作を制御するために種々のプログラムやデータが格納されている。
【0041】
制御信号生成部33aは、制御装置33の一部であり、各アクチュエータの速度指令である制御信号を生成するものである。制御信号生成部33aは、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21、サブドラム操作具22等から各操作具の操作量を取得し、旋回操作具18の制御信号C(1)、起伏操作具19の制御信号C(2)・・制御信号C(n)(以下、単にまとめて「制御信号C(n)」と記し、nは任意の数とする)を生成するように構成されている。また、制御信号生成部33aは、伸縮ブーム9が作業領域の規制範囲に近接した場合や特定の指令を取得した場合に操作具の操作(手動制御)によらない自動制御(例えば自動停止や自動搬送等)を行う制御信号C(na)や、任意の操作具の緊急停止操作に基づいて緊急停止制御を行う制御信号C(ne)を生成するように構成されている。
【0042】
共振周波数算出部33bは、制御装置33の一部であり、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16に吊り下げられた吊り荷Wを単振り子として、吊り荷の揺れの共振周波数ω(n)を算出するものである。共振周波数算出部33bは、フィルタ係数算出部33dが取得する伸縮ブーム9の起伏角度を取得し、メイン繰出長検出センサ31またはサブ繰出長検出センサ32からメインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16の繰り出し量を取得し、メインフックブロック10を使用している場合に図示しない安全装置からメインフックブロック10の掛け数を取得する。
【0043】
さらに、共振周波数算出部33bは、取得した伸縮ブーム9の起伏角度、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16の繰り出し量、メインフックブロック10を使用している場合のメインフックブロック10の掛け数から、シーブからメインワイヤロープ14が離間する位置からメインフックブロック10までのメインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)、またはシーブからサブワイヤロープ16が離間する位置からサブフックブロック11までのサブワイヤロープ16の吊り下げ長さLs(n)を算出し(
図1参照)、重力加速度gと吊り下げ長さLm(n)または吊り下げ長さLs(n)とからその共振周波数ω(n)=√(g/L(n))・・・(1)を算出するように構成されている(式(1)においてL(n)は吊り下げ長さLm(n)と吊り下げ長さLs(n)を意味している)。
【0044】
フィルタ部33cは、制御装置33の一部であり、制御信号C(1)・C(2)・・C(n)の特定の周波数領域を減衰させるノッチフィルタF(1)・F(2)・・F(n)を生成し(以下、単にまとめて「ノッチフィルタF(n)」と記し、nは任意の数とする)、制御信号C(n)にノッチフィルタF(n)を適用するものである。フィルタ部33cは、制御信号生成部33aから制御信号C(1)、制御信号C(2)・・制御信号C(n)を取得し、制御信号C(1)にノッチフィルタF(1)を適用して制御信号C(1)から共振周波数ω(1)を基準として任意の周波数範囲の周波数成分を任意の割合で減衰させたフィルタリング制御信号Cd(1)を生成し、制御信号C(2)にノッチフィルタF(2)を適用してフィルタリング制御信号Cd(2)を生成し、・・制御信号C(n)にノッチフィルタF(n)を適用して制御信号C(n)から共振周波数ω(n)を基準として任意の周波数範囲の周波数成分を任意の割合で減衰させたフィルタリング制御信号Cd(n)を生成するように構成されている(以下、単にまとめて「フィルタリング制御信号Cd(n)」と記し、nは任意の数とする)。
【0045】
フィルタ部33cは、旋回用操作弁23、伸縮用操作弁24、起伏用操作弁25、メイン用操作弁26mおよびサブ用操作弁26sのうち対応する操作弁にフィルタリング制御信号Cd(n)を伝達するように構成されている。つまり、制御装置33は、各操作弁を介してアクチュエータである旋回用油圧モータ8、起伏用油圧シリンダ12、図示しないメイン用油圧モータ、サブ用油圧モータを制御できるように構成されている。
【0046】
フィルタ係数算出部33dは、制御装置33の一部であり、クレーン1の作動状態からノッチフィルタF(n)が有する伝達関数H(s)(式(2)参照)の中心周波数係数ω
n、ノッチ幅係数ζ、ノッチ深さ係数δを算出するものである。フィルタ係数算出部33dは、制御信号C(n)のそれぞれに対応したノッチ幅係数ζとノッチ深さ係数δとを算出し、取得した共振周波数ω(n)を中心周波数ωc(n)として、対応する中心周波数係数ω
nを算出するように構成されている。
【0047】
図3と
図4とを用いてノッチフィルタF(n)について説明する。ノッチフィルタF(n)は、任意の周波数を中心として制御信号C(n)に急峻な減衰を与えるフィルタである。
図3に示すように、ノッチフィルタF(n)は、任意の中心周波数ωc(n)を中心とする任意の周波数範囲であるノッチ幅Bnの周波数成分を、中心周波数ωc(n)における任意の周波数の減衰割合であるノッチ深さDnで減衰させる周波数特性を有するフィルタである。つまり、ノッチフィルタF(n)の周波数特性は、中心周波数ωc(n)、ノッチ幅Bnおよびノッチ深さDnから設定される。
【0048】
ノッチフィルタF(n)は、以下の式(2)に示す伝達関数H(s)を有する。
【数1】
【0049】
式(2)においてω
nはノッチフィルタF(n)の中心周波数ωc(n)に対応する中心周波数係数ω
n、ζはノッチ幅Bnに対応するノッチ幅係数ζ、δはノッチ深さDnに対応するノッチ深さ係数δである。ノッチフィルタF(n)は、中心周波数係数ω
nが変更されることでノッチフィルタF(n)の中心周波数ωc(n)が変更され、ノッチ幅係数ζが変更されることでノッチフィルタF(n)のノッチ幅Bnが変更され、ノッチ深さ係数δが変更されることでノッチフィルタF(n)のノッチ深さDnが変更される。
【0050】
ノッチ幅係数ζは、大きく設定するほどノッチ幅Bnが大きく設定される。これにより、ノッチフィルタF(n)は、適用する入力信号において、中心周波数ωc(n)から減衰させる周波数範囲がノッチ幅係数ζによって設定される。
【0051】
ノッチ深さ係数δは、0から1までの間で設定される。
図4に示すように、ノッチ深さ係数δ=0の場合、ノッチフィルタF(n)は、ノッチフィルタF(n)の中心周波数ωc(n)におけるゲイン特性は―∞dBとなる。これにより、ノッチフィルタF(n)は、適用する入力信号において、中心周波数ωc(n)での減衰量が最大になる。つまり、ノッチフィルタF(n)は、入力信号をその周波数特性に従って最も減衰させて出力する。
ノッチ深さ係数δ=1の場合、ノッチフィルタF(n)は、ノッチフィルタF(n)の中心周波数ωc(n)におけるゲイン特性は0dBとなる。これにより、ノッチフィルタF(n)は、適用する入力信号の全ての周波数成分を減衰させない。つまり、ノッチフィルタF(n)は、入力信号をそのまま出力する。
【0052】
図2に示すように、制御装置33の制御信号生成部33aは、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22に接続され、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22のそれぞれの操作量を取得することができる。
【0053】
制御装置33の共振周波数算出部33bは、メイン繰出長検出センサ31、サブ繰出長検出センサ32、フィルタ係数算出部33dおよび図示しない安全装置に接続され、メインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)とサブワイヤロープ16の吊り下げ長さLs(n)を算出することができる。
【0054】
制御装置33のフィルタ部33cは、旋回用操作弁23、伸縮用操作弁24、起伏用操作弁25、メイン用操作弁26mおよびサブ用操作弁26sに接続され、旋回用操作弁23、起伏用操作弁25、メイン用操作弁26mおよびサブ用操作弁26sに対応するフィルタリング制御信号Cd(n)を伝達することができる。また、フィルタ部33cは、制御信号生成部33aに接続され、制御信号C(n)を取得することができる。また、フィルタ部33cは、フィルタ係数算出部33dに接続され、ノッチ幅係数ζ、ノッチ深さ係数δおよび中心周波数係数ω
nを取得することができる。
【0055】
制御装置33のフィルタ係数算出部33dは、旋回用エンコーダ27、ブーム長検出センサ28、重量センサ29および起伏用エンコーダ30に接続され、旋回台7の旋回位置、ブーム長さ、起伏角度および吊り荷Wの重量Wtを取得することができる。また、フィルタ係数算出部33dは、制御信号生成部33aに接続され、制御信号C(n)を取得することができる。また、フィルタ係数算出部33dは、共振周波数算出部33bに接続され、メインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)とサブワイヤロープ16の吊り下げ長さLs(n)(
図1参照)および共振周波数ω(n)を取得することができる。
【0056】
制御装置33は、制御信号生成部33aにおいて、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22の操作量に基づいて各操作具に対応した制御信号C(n)を生成する。また、制御装置33は、共振周波数算出部33bにおいて、共振周波数ω(n)を算出する。また、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dにおいて、制御信号C(n)および旋回台7の旋回位置、伸縮ブーム9のブーム長さと起伏角度および吊り荷Wの重量Wtから、制御信号C(n)に対応するノッチ幅係数ζとノッチ深さ係数δとを算出し、共振周波数算出部33bにおいて算出した共振周波数ω(n)をノッチフィルタF(n)の基準となる中心周波数ωc(n)として対応する中心周波数係数ω
nを算出する。
【0057】
図5に示すように、制御装置33は、フィルタ部33cにおいて、ノッチ幅係数ζ、ノッチ深さ係数δおよび中心周波数係数ω
nを適用したノッチフィルタF(n)を制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n)を生成する。ノッチフィルタF(n)が適用されたフィルタリング制御信号Cd(n)は、共振周波数ω(n)の周波数成分が減衰されているので、制御信号C(n)に比べて立ち上がりが緩やかになり、動作が完了するまでの時間が延びる。
【0058】
具体的には、ノッチ深さ係数δが0に近い(ノッチ深さDnが深い)ノッチフィルタF(n)が適用されたフィルタリング制御信号Cd(n)で制御されるアクチュエータは、ノッチ深さ係数δが1に近い(ノッチ深さDnが浅い)ノッチフィルタF(n)が適用されたフィルタリング制御信号Cd(n)、もしくはノッチフィルタF(n)が適用されていない制御信号C(n)で制御される場合に比べて、操作具の操作による動作の反応が緩慢になり操作性が低下する。
【0059】
同様に、ノッチ幅係数ζが標準的な値よりも比較的大きい(ノッチ幅Bnが比較的広い)ノッチフィルタF(n)が適用されたフィルタリング制御信号Cd(n)で制御されるアクチュエータは、ノッチ幅係数ζが標準的な値よりも比較的小さい(ノッチ幅Bnが比較的狭い)ノッチフィルタF(n)が適用されたフィルタリング制御信号Cd(n)、もしくはノッチフィルタF(n)が適用されていない制御信号C(n)で制御される場合に比べて、操作具の操作による動作の反応が緩慢になり操作性が低下する。
【0060】
次に、制御装置33におけるクレーン1の作動状態に基づく制振制御について説明する。本実施形態において、制御装置33は、クレーン1の作動状態、操縦者の技量や好みに応じたノッチフィルタF(n)のノッチ深さ係数δとノッチ幅係数ζとのうち少なくとも一つを設定する。以下の実施形態において、ノッチフィルタF(n)は、ノッチ深さ係数δをクレーン1の作動状態等に応じた任意の値に設定し、ノッチ幅係数ζを予め定められた固定値に設定するものとするが、ノッチ幅係数ζもクレーン1の作動状態等に応じて任意の値に変更する構成でもよい。また、制御装置33は、共振周波数算出部33bにおいて算出した共振周波数ω(n)のみをノッチフィルタF(n)の基準となる中心周波数ωc(n)として中心周波数係数ω
nを算出しているものとする。制御装置33は、制御信号生成部33aにおいて、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22の操作量に基づいて、任意の操作具の速度指令である制御信号C(n)をスキャンタイム毎に生成しているものとする。
【0061】
制振制御において、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22のうち任意の操作具(以下、単に「操作具」と記す)の操作による手動操作によってクレーン1が作動している場合、制御装置33は、一の操作具に基づいて生成された制御信号C(n)を制御信号生成部33aから取得すると、予め定めた任意の値であるノッチ深さ係数δのノッチフィルタF(n)を設定する。
【0062】
例えば、振動抑制効果を優先させたい自動制御の場合、制御装置33は、0に近い値であるノッチ深さ係数δ(例えばノッチ深さ係数δ=0.3)に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分を大きく減衰させるノッチフィルタF(n)を制御信号C(n)に適用する。これにより、クレーン1は、吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果が高められる。一方、操作具の操作性を優先させたい手動制御の場合、1に近い値であるノッチ深さ係数δ(例えばノッチ深さ係数δ=0.7)に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分の減衰割合を小さくしたノッチフィルタF(n)を制御信号C(n)に適用する。これにより、クレーン1は、吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果よりも操作具による操作性の維持が優先される。つまり、クレーン1は、操縦者の技量や好みに応じた周波数特性のノッチフィルタF(n)によってフィルタリング制御信号Cd(n)を生成することができる。
【0063】
また、一の操作具の単独操作中に他の操作具が更に操作される手動制御の場合、制御装置33は、一の操作具の操作に基づいて生成された制御信号C(n)取得した後に、他の操作具の操作に基づいて生成された制御信号C(n+1)を制御信号生成部33aから取得すると、ノッチ深さ係数δc1であるノッチフィルタF(n1)を複数の操作具が操作される際に適用されるノッチ深さ係数δc2であるノッチフィルタF(n2)に切り替える。さらに、複数の操作具の操作から単独の操作具の操作に変更される場合、制御装置33は、ノッチフィルタF(n2)からノッチフィルタF(n1)に切り替える。
【0064】
例えば、遠隔操作装置等による操作において、一の操作具の操作量が他の操作具の操作量に適用される場合、他の操作具の制御信号C(n+1)の単位時間当たりの変化量(加速度)が大幅に大きくなる可能性がある。具体的には、旋回操作の入り切りスイッチと起伏操作の入り切りスイッチ、および各操作の速度を設定する共通の速度レバーを備える場合、旋回操作の入り切りスイッチが入り状態にされ、任意の速度での旋回動作中に起伏スイッチを入り状態にすると旋回動作の速度設定が起伏操作に適用される。つまり、複数の操作具によって操作を開始した場合、大きな振動が発生する場合がある。
【0065】
制御装置33は、一の操作具が単独で操作されている手動制御の場合、操作具の操作性を優先させるために制御信号C(n)に対して1に近い値(例えばノッチ深さ係数δc2=0.7)のノッチ深さ係数δc1であるノッチフィルタF(n1)を一の操作具による制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n1)を生成する。制御装置33は、他の操作具が更に操作された手動制御の場合、振動抑制効果を優先させるために0に近い値(例えばノッチ深さ係数δc2=0.0)のノッチ深さ係数δc2であるノッチフィルタF(n2)を一の操作具による制御信号C(n)と他の操作具による制御信号C(n+1)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n2)とフィルタリング制御信号Cd(n2+1)を生成する。
【0066】
さらに、制御装置33は、一の操作具と他の操作具による複数の操作から一の操作具による単独操作に変更された場合、操作具の操作性を優先させるためにノッチフィルタF(n2)からノッチフィルタF(n1)に切り替え、一の操作具による制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n1)を生成する。また、制御装置33は、一の操作具と他の操作具とによってアクチュエータを停止させる操作がされた場合、振動抑制効果を優先させるためにノッチフィルタF(n2)を一の操作具による制御信号C(n)と他の操作具による制御信号C(n+1)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n2)とフィルタリング制御信号Cd(n2+1)を生成する。
【0067】
これにより、クレーン1は、一の操作具の単独操作においてノッチフィルタF(n1)を適用することで操作具の操作性の維持を優先したフィルタリング制御信号Cd(n1)を生成することができる。また、クレーン1は、振動が発生しやすい複数の操作具の併用操作においてノッチフィルタF(n2)を適用することで操作具の振動抑制効果を優先したフィルタリング制御信号Cd(n2)とフィルタリング制御信号Cd(n2+1)を生成することができる。
【0068】
また、動作規制範囲に到達する前の自動停止や自動搬送等の自動制御によってクレーン1が作動している場合、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが操作具の操作に基づかない制御信号C(na)を制御信号生成部33aから取得すると、別に予め定めた値であるノッチ深さ係数δc2=0.0のノッチフィルタF(n2)を制御信号C(na)に適用してフィルタリング制御信号Cd(na2)を生成する。
【0069】
例えば、クレーン1は、作業領域の規制による制限や停止位置が設定されている場合、吊り荷がこのような作業領域に進入すると、操作具の操作によらず自動制御の制御信号C(na)に基づいて作動する。また、クレーン1は、自動搬送モードに設定されている場合、所定の吊り荷Wの吊り上げ位置から吊り下げ位置までを、所定の搬送速度、搬送高さで搬送する自動制御の制御信号C(na)に基づいて作動する。つまり、クレーン1は、自動制御により操縦者によって操作されていないので操作具の操作性を優先させる必要がない。従って、制御装置33は、振動抑制効果を優先させるために0に近い値(例えばノッチ深さ係数δc2=0.0)のノッチ深さ係数δc2であるノッチフィルタF(n2)を制御信号C(na)に適用してフィルタリング制御信号Cd(na2)を生成する。これにより、クレーン1は、吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果が最大限に高まる。つまり、クレーン1は、自動制御において振動抑制効果を優先したフィルタリング制御信号Cd(na2)を生成することができる。
【0070】
また、特定の操作具の手動操作による緊急停止操作、または操作具による特定の操作手順による緊急停止操作がされる場合、制御装置33は、任意の操作具の緊急停止操作に基づいて生成された制御信号C(ne)にノッチフィルタF(n)を適用しない。
【0071】
例えば、クレーン1の旋回台7や伸縮ブーム9を即時停止させるために、全ての操作具を一気に中立状態に戻す緊急停止操作が行われる場合、制御装置33は、特定の手動操作が行われたとして操作具の緊急停止操作に基づいて生成された制御信号C(ne)にノッチフィルタF(n)を適用しない。これによりクレーン1は、操作具の操作性の維持が優先され、旋回台7や伸縮ブーム9の停止が遅れることなく即時停止する。つまり、クレーン1は、操作具の緊急停止操作において制振制御を実施しない。
【0072】
以下に、
図6から
図8を用いて、制御装置33におけるクレーン1の作動状態に基づく制振制御について具体的に説明する。クレーン1は、操作具の操作状態に応じて一の操作具の操作による制御信号C(n)、他の操作具の操作による制御信号C(n+1)、または操作具の緊急停止操作による緊急操作時の制御信号C(ne)のうち少なくとも一つの制御信号が生成されているものとする。
【0073】
制御装置33は、単独の操作具による手動制御が実施されると、ノッチフィルタF(n1)の適用工程を実施する。制御装置33は、一の操作具の単独操作により制御信号C(n)が生成されると、予め定めたノッチ深さ係数δc1のノッチフィルタF(n1)を生成して制御信号C(n)に適用する。
【0074】
また、制御装置33は、複数の操作具による手動制御が実施されると、ノッチフィルタF(n2)の適用工程を実施する。制御装置33は、一の操作具の操作に加えて他の操作具の操作により制御信号C(n+1)が生成されると、別に予め定めたノッチ深さ係数δc2のノッチフィルタF(n2)を生成して制御信号C(n)と制御信号C(n+1)に適用する。
【0075】
制御装置33は、自動制御が実施されると、ノッチフィルタF(n2)の適用工程を実施する。制御装置33は、自動制御によって操作具の操作に基づかない制御信号C(na)が生成されると、別に予め定めたノッチ深さ係数δc2のノッチフィルタF(n2)を生成して制御信号C(na)に適用する。
【0076】
制御装置33は、操作具による特定の操作手順による緊急停止操作が行われ、制御信号C(ne)が生成されると、ノッチフィルタF(n)を制御信号C(ne)に適用しない。すなわち、制御装置33は、生成された制御信号C(ne)に基づいて制御を行う。
【0077】
図6に示すように、制振制御のステップS110において、制御装置33は、操作具が操作されている手動制御か否か判定する。
その結果、操作具が操作されている手動制御である場合、制御装置33はステップをステップS120に移行させる。
一方、操作具が操作されている手動制御でない場合、制御装置33はステップをステップS150に移行させる。
【0078】
ステップS120において、制御装置33は、単独の操作具が操作されているか否か判定する。
その結果、単独の操作具が操作されている場合、すなわち、単独の操作具の操作により単独のアクチュエータが制御されている場合、制御装置33はステップをステップS200に移行させる。
一方、単独の操作具のみで操作されていない場合、すなわち、複数の操作具の操作により複数のアクチュエータが制御されている場合、制御装置33はステップをステップS300に移行させる。
【0079】
ステップS200において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n1)の適用工程Aを開始し、ステップをステップS210に移行させる(
図7参照)。そして、ノッチフィルタF(n1)の適用工程Aが終了するとステップをステップS130に移行させる(
図6参照)。
【0080】
図6に示すように、ステップS130において、制御装置33は、操作具による特定の操作手順による緊急停止操作が行われているか否か判定する。
その結果、操作具による特定の操作手順による緊急停止操作が行われている場合、すなわち、緊急停止操作時の制御信号C(ne)が生成されている場合、制御装置33はステップをステップS140に移行させる。
一方、操作具による特定の操作手順による緊急停止操作が行われていない場合、すなわち、緊急停止操作時の制御信号C(ne)が生成されていない場合、制御装置33はステップをステップS110に移行させる。
【0081】
ステップS140において、制御装置33は、緊急停止操作による緊急操作時の制御信号C(ne)を生成する。すなわち、ノッチフィルタF(n1)またはノッチフィルタF(n2)が適用されていない制御信号C(ne)を生成し、ステップをステップS150に移行させる。
【0082】
ステップS150において、制御装置33は、生成された各フィルタリング制御信号に対応する操作弁に伝達し、ステップをステップS110に移行させる。また、制御装置33は、緊急停止操作時の制御信号C(ne)が生成されている場合、緊急停止操作時の制御信号C(ne)のみを対応する操作弁に伝達し、ステップをステップS110に移行させる。
【0083】
ステップS160において、制御装置33は、自動制御が実施されているか否か判定する。
その結果、自動制御が実施されている場合、制御装置33はステップをステップS300に移行させる。
一方、自動制御が実施されていない場合、すなわち、手動制御の制御信号C(n)と自動制御の制御信号C(na)が生成されていない場合、制御装置33はステップをステップS110に移行させる。
【0084】
ステップS300において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n2)の適用工程Bを開始し、ステップをステップS310に移行させる(
図8参照)。そして、ノッチフィルタF(n2)の適用工程Bが終了するとステップをステップS130に移行させる(
図6参照)。
【0085】
図7に示すように、ノッチフィルタF(n1)の適用工程AのステップS210において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δを予め定めた1に近い値(例えばノッチ深さ係数δc2=0.7)のノッチ深さ係数δc1に設定し、ステップをステップS220に移行させる。
【0086】
ステップS220において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc1をノッチフィルタF(n)の伝達関数H(s)(式(2)参照)に当てはめてノッチフィルタF(n1)を生成し、ステップをステップS230に移行させる。
【0087】
ステップS230において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n1)を制御信号C(n)に適用して制御信号C(n)に対応するフィルタリング制御信号Cd(n1)を生成し、ノッチフィルタF(n1)の適用工程Aを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図6参照)。
【0088】
図8に示すように、ノッチフィルタF(n2)の適用工程BのステップS310において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δを予め定めた0に近い値(例えばノッチ深さ係数δc2=0.0)のノッチ深さ係数δc2に設定し、ステップをステップS320に移行させる。
【0089】
ステップS320において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc2をノッチフィルタF(n)の伝達関数H(s)(式(2)参照)に当てはめてノッチフィルタF(n2)を生成し、ステップをステップS330に移行させる。
【0090】
ステップS330において、制御装置33は、手動制御が実施されているか否か判定する。
その結果、手動制御が実施されている場合、制御装置33はステップをステップS340に移行させる。
一方、手動制御が実施されていない場合、制御装置33はステップをステップS350に移行させる。
【0091】
ステップS340において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n2)を一の操作具による制御信号C(n)と他の操作具による制御信号C(n+1)に適用して制御信号C(n)に対応するフィルタリング制御信号Cd(n2)とフィルタリング制御信号Cd(n2+1)に対応するフィルタリング制御信号Cd(n2+1)を生成し、ノッチフィルタF(n2)の適用工程Bを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図6参照)。
【0092】
ステップS350において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n2)を一の操作具に対応する自動制御の制御信号C(na)と他の操作具に対応する自動制御の制御信号C(na+1)に適用して制御信号C(na)に対応するフィルタリング制御信号Cd(na2)とフィルタリング制御信号Cd(na+1)に対応するフィルタリング制御信号Cd(na2+1)を生成し、ノッチフィルタF(n2)の適用工程Bを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図6参照)。
【0093】
このように、クレーン1は、手動制御において、一の操作具が単独で操作されている場合には操作性を優先した制振制御が実施され、複数の操作具が同時に操作されている場合には振動抑制効果を高めた制振制御が実施される。また、クレーン1は、作業領域の規制による自動停止制御や自動搬送制御等を含む自動制御において、振動抑制効果を高めた制振制御が実施される。一方、操作具の操作によって緊急停止信号が生成された場合、操作性を優先した制振制御に切り替えられる。つまり、クレーン1は、操作具の操作状態に応じて、制御装置33において制御信号C(n)に適用するノッチフィルタF(n)を選択的に切り替えるように構成されている。これにより、クレーン1の作動状態に応じた操作性と振動抑制効果を得ることができる。
【0094】
なお、本実施形態の別実施形態として、ノッチ深さ係数δを操作具の操作状態に応じて設定してもよい。制御装置33は、操作具の操作に基づいて生成された制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量(加速度)の大きさに応じて0から1までの間で定めた任意の値であるノッチ深さ係数δc3に設定するように構成されている。また、予め定めた値であるノッチ深さ係数δca=0.0のノッチフィルタF(na)を設定するように構成されている。
【0095】
例えば、制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量が大きくなるにつれて制振抑制効果を高める場合、制御装置33は、予め定めた制御信号C(n)の単位時間当たりの所定の変化量の大きさに対するノッチ深さ係数δを基準として、制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量の大きさに反比例する値であるノッチ深さ係数δc3に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分を減衰させるノッチフィルタF(n)を制御信号C(n)に都度適用する。従って、クレーン1は、吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果が制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量の大きさに比例して高まる。つまり、クレーン1は、制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量が大きくなるにつれて振動抑制効果が優先され、制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量が小さくなるにつれて操作性の維持が優先されるフィルタリング制御信号Cd(n)を生成することができる。これにより、クレーン1の作動状態に応じた操作性と振動抑制効果を得ることができる。
【0096】
次に、
図2および
図9から
図12を用いて、本発明に係るクレーンの第二実施形態であるクレーン34について説明する。なお、以下の各実施形態に係るクレーン34・35は、
図1から
図10に示すクレーン1において、クレーン1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0097】
図2に示すように、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが旋回用エンコーダ27、ブーム長検出センサ28、重量センサ29、起伏用エンコーダ30、メイン繰出長検出センサ31およびサブ繰出長検出センサ32に接続され、旋回台7の旋回位置、ブーム長さ、起伏角度、メインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)(
図1参照)、サブワイヤロープ16との吊り下げ長さLs(n)および吊り荷Wの重量Wtを取得することができる。
従って、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが取得した旋回台7の旋回位置、ブーム長さおよび起伏角度、メインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)およびサブワイヤロープ16の吊り下げ長さLs(n)からクレーン34の作業領域R0における吊り荷Wの位置Pを算出することができる(
図9参照)。
【0098】
図9から
図11を用いて、クレーン34の作動状態に基づく制振制御について説明する。本実施形態において、制御装置33は、クレーン34の作動状態である吊り荷Wの位置Pに基づいてノッチフィルタF(n)のノッチ深さ係数δを設定する。ノッチフィルタF(n)のノッチ幅係数ζは、予め定められた固定値に設定されているものとするが、クレーン34の作動状態に基づいて設定する構成でもよい。
【0099】
図9に示すように、制振制御において、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが、算出した操作具の操作に基づいて生成された制御信号C(n)を制御信号生成部33aから取得するとともに(
図2参照)、クレーン34の作業領域R0における吊り荷Wの位置Pを算出する。さらに、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが、吊り荷Wの位置Pに応じて予め定めた任意の値であるノッチ深さ係数δc4のノッチフィルタF(n4)に設定する。
【0100】
例えば、作業領域R0内における地物100の配置等から振動抑制効果を優先させたい領域(以下、単に「振動抑制領域R1」と記す)が設定されている場合、制御装置33は、振動抑制領域R1において0に近い値であるノッチ深さ係数δc4(例えばノッチ深さ係数δc4=0.3)に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分の減衰割合を大きくしたノッチフィルタF(n4)を生成する。一方、振動抑制領域R1以外の領域において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc4よりも1に近い値であるノッチ深さ係数δc5(例えばノッチ深さ係数δc5=0.7)に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分の減衰割合を小さくしたノッチフィルタF(n5)を生成する。
【0101】
制御装置33は、スキャンタイム毎にフィルタ係数算出部33dで算出される吊り荷Wの位置Pが振動抑制領域R1に含まれていると判断すると、ノッチフィルタF(n4)を制御信号C(n)に適用する。これにより、クレーン34は、振動抑制領域R1において吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果が高まる。制御装置33は、スキャンタイム毎にフィルタ係数算出部33dで算出される吊り荷Wの位置Pが振動抑制領域R1に含まれてないと判断すると、ノッチフィルタF(n5)を制御信号C(n)に適用する。これにより、クレーン34は、振動抑制領域R1以外の領域において、吊り荷Wの共振周波数ω(n)での振動抑制効果よりも操作具による操作性の維持が優先される。つまり、クレーン34は、作業領域R0における地物100の状況に応じた周波数特性のノッチフィルタF(n4)またはノッチフィルタF(n5)によってフィルタリング制御信号Cd(n4)またはフィルタリング制御信号Cd(n5)を生成することができる。なお、本実施形態において、振動抑制領域R1は、地物100の配置から設定されているがこれに限定するものではなく、クレーン34の作業姿勢等から設定してもよい。
【0102】
以下に、
図10と
図11とを用いて、制御装置33におけるクレーン34の作動状態に基づく制振制御について具体的に説明する。クレーン34は、作業領域R0において、振動抑制領域R1が予め定められているものとする。また、クレーン34は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22のうち任意の操作具が操作され、制御装置33によって操作具の速度指令である制御信号C(n)が生成されているものとする。
【0103】
制御装置33は、制振制御における作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程において、任意の操作具の操作により制御信号C(n)が生成されると、作業領域R0における吊り荷Wの位置Pに応じて予め定めたノッチ深さ係数δc4またはノッチ深さ係数δc5のノッチフィルタF(n4)またはノッチフィルタF(n5)を設定して制御信号C(n)に適用する。
【0104】
図10に示すように、制振制御のステップS400において、制御装置33は、作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cを開始し、ステップをステップS410に移行させる(
図11参照)。そして、作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cが終了するとステップをステップS130に移行させる(
図10参照)。
【0105】
図11に示すように、ステップS410において、制御装置33は、作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cを開始し、旋回台7の旋回位置、伸縮ブーム9のブーム長さおよび起伏角度、メインワイヤロープ14の吊り下げ長さLm(n)またはサブワイヤロープ16の吊り下げ長さLs(n)からクレーン34の作業領域R0における吊り荷Wの位置Pを算出し、ステップをステップS420に移行させる。
【0106】
ステップS420において、制御装置33は、取得した吊り荷Wの位置Pが振動抑制領域R1に含まれているか否か判定する。
その結果、取得した吊り荷Wの位置Pが振動抑制領域R1に含まれている場合、制御装置33はステップをステップS430に移行させる。
一方、取得した吊り荷Wの位置Pが振動抑制領域R1に含まれていない場合、制御装置33はステップをステップS460に移行させる。
【0107】
ステップS430において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δを予め定めたノッチ深さ係数δc4に設定し、ステップをステップS440に移行させる。
【0108】
ステップS440において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc4をノッチフィルタの伝達関数H(s)(式(2)参照)に当てはめてノッチフィルタF(n4)を生成し、ステップをステップS450に移行させる。
【0109】
ステップS450において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n4)を制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n4)を生成し、作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図10参照)。
【0110】
ステップS460において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δを予め定めたノッチ深さ係数δc5に設定し、ステップをステップS470に移行させる。
【0111】
ステップS470において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc5をノッチフィルタの伝達関数H(s)(式(2)参照)に当てはめてノッチフィルタF(n5)を生成し、ステップをステップS480に移行させる。
【0112】
ステップS480において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n5)を制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n5)を生成し、作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図10参照)。
【0113】
このように、クレーン34は、作業領域R0内において振動抑制領域R1が定められている場合、振動抑制領域R1におけるノッチフィルタF(n4)のノッチ深さDnが振動抑制領域R1以外の作業領域R0におけるノッチフィルタF(n5)のノッチ深さDnに比べて大きく設定されている。つまり、クレーン34は、地物100の配置等やクレーン34の作業姿勢等から振動を抑制したい振動抑制領域R1を吊り荷Wが通過したり、吊り荷Wを配置したりする場合に振動抑制効果を高めた制振制御が実施される。また、クレーン34は、振動を抑制する必要がない領域を吊り荷Wが通過したり、吊り荷Wを配置したりする場合に操作性を優先した制振制御が実施される。これにより、クレーン34の作動状態に応じた操作性と振動抑制効果を得ることができる(
図11参照)。
【0114】
次に、
図2、
図12および
図13を用いて、本発明に係るクレーン35の第三実施形態であるクレーン35について説明する。
【0115】
図2に示すように、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが重量センサ29に接続され、吊り荷Wの重量Wtを取得することができる。
【0116】
図12と
図13とを用いて、クレーン35の作動状態に基づく制振制御について説明する。本実施形態において、制御装置33は、クレーン35の作動状態である吊り荷Wの重量Wtに基づいてノッチフィルタF(n)のノッチ深さ係数δを設定する。ノッチフィルタF(n)のノッチ幅係数ζは、予め定められた固定値に設定されているものとするが、クレーン35の作動状態に基づいて設定する構成でもよい。
【0117】
制振制御において、制御装置33は、フィルタ係数算出部33dが、算出した任意の操作具の操作に基づいて生成された制御信号C(n)を制御信号生成部33aから取得するとともに、吊り荷Wの重量Wtを取得する。さらに、制御装置33は、制御信号C(n)が生成されると、フィルタ係数算出部33dが、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチ深さ係数δc6のノッチフィルタF(n6)を設定して制御信号C(n)に適用する。
【0118】
例えば、吊り荷Wの重量Wtが増大するにつれて振動抑制効果を高める場合、制御装置33は、吊り荷Wの所定の重量Wtに対するノッチ深さ係数δを基準として、吊り荷Wの重量Wtに反比例する値であるノッチ深さ係数δc6に設定し、共振周波数ω(n)を中心とする周波数成分を減衰させるノッチフィルタF(n6)を制御信号C(n)に都度適用する。これにより、クレーン35は、吊り荷Wの重量Wtが増加するにつれて振動抑制効果が高まる。つまり、クレーン35は、吊り荷Wの重量Wtに応じた周波数特性のノッチフィルタF(n6)によってフィルタリング制御信号Cd(n)を生成することができる。
【0119】
以下に、
図12と
図13とを用いて、制御装置33におけるクレーン35の作動状態に基づく制振制御について具体的に説明する。クレーン35は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21およびサブドラム操作具22のうち任意の操作具が操作され、制御装置33によって任意の操作具の速度指令である制御信号C(n)が生成されているものとする。
【0120】
制御装置33は、制振制御における吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程において、任意の操作具の操作により生成された制御信号C(n)の単位時間当たりの変化量が閾値thよりも大きい場合、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチ深さ係数δc6のノッチフィルタF(n6)を設定して制御信号C(n)に適用する。
【0121】
図12に示すように、制振制御のステップS500において、制御装置33は、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程Dを開始し、ステップをステップS510に移行させる(
図13参照)。そして、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程Dが終了するとステップをステップS130に移行させる(
図12参照)。
【0122】
図13に示すように、ステップS510において、制御装置33は、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程Dを開始し、吊り荷Wの重量Wtを取得し、ステップをステップS520に移行させる。
【0123】
ステップS520において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δを吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチ深さ係数δc6に設定し、ステップをステップS530に移行させる。
【0124】
ステップS530において、制御装置33は、ノッチ深さ係数δc6をノッチフィルタF(n)の伝達関数H(s)(式(2)参照)に当てはめてノッチフィルタF(n6)を生成し、ステップをステップS540に移行させる。
【0125】
ステップS540において、制御装置33は、ノッチフィルタF(n6)を制御信号C(n)に適用してフィルタリング制御信号Cd(n6)を生成し、吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程Dを終了し、ステップをステップS130に移行させる(
図12参照)。
【0126】
このように、クレーン35は、吊り荷Wの重量Wtに応じてノッチ深さDnが定められている場合、慣性モーメントの影響で揺れが収まりにくい重量WtほどノッチフィルタF(n6)のノッチ深さDnが大きく設定されている。つまり、クレーン35は、吊り荷Wの重量Wtに基づいて、揺れが収まりにくい吊り荷Wに対して振動抑制効果を高めた制振制御が実施され、揺れが比較的に収まりやすい吊り荷Wに対して操作性を優先した制振制御が実施される。これにより、クレーン35の作動状態に応じた操作性と振動抑制効果を得ることができる。
【0127】
本発明にかかる制振制御は、第一実施形態において制御信号C(n)に適用するノッチフィルタF(n1)およびノッチフィルタF(n2)と、第二実施形態において制御信号C(n)に適用する作業領域毎のノッチフィルタF(n)と、第三実施形態において制御信号C(n)に適用する吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の基準となる中心周波数ωc(n)を、クレーン1・34・35を構成する構造物が外力により振動する際に励起される固有の振動周波数と、共振周波数ω(n)との合成周波数にすることで、共振周波数ω(n)による振動だけでなく、クレーン1・34・35を構成する構造物が有する固有の振動周波数による振動を合わせて抑制することができる。ここで、クレーン1・34・35を構成する構造物が外力により振動する際に励起される固有の振動周波数とは、伸縮ブーム9の起伏方向および旋回方向の固有振動数、伸縮ブーム9の軸回りのねじれによる固有振動数、メインフックブロック10またはサブフックブロック11と玉掛けワイヤロープとから構成される二重振り子の共振周波数、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16の伸びによる伸縮振動時の固有周波数等の振動周波数を言う。
【0128】
なお、本発明にかかる制振制御において、第一実施形態における一の操作具のノッチフィルタF(n1)の適用工程AおよびノッチフィルタF(n2)の適用工程Bと、第二実施形態における作業領域毎のノッチフィルタF(n)の適用工程Cと、第三実施形態における吊り荷Wの重量Wtに応じたノッチフィルタF(n)の適用工程Dとはそれぞれ別途実施される構成であるが、一の実施形態において合わせて実施する制振制御でもよい。また、本発明にかかる制振制御において、クレーン1・34・35は、ノッチフィルタF(n)によって制御信号C(n)の共振周波数ω(n)を減衰させているが、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドストップフィルタ等の特定の周波数を減衰させるものであればよい。
【0129】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。