特許第6897530号(P6897530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6897530ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897530
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/06 20060101AFI20210621BHJP
   C03B 33/095 20060101ALI20210621BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20210621BHJP
   B28D 7/04 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C03B33/06
   C03B33/095
   B28D5/00 Z
   B28D7/04
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-234519(P2017-234519)
(22)【出願日】2017年12月6日
(65)【公開番号】特開2019-99437(P2019-99437A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 隆則
(72)【発明者】
【氏名】干場 健一
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅登
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−235733(JP,A)
【文献】 特開昭51−82309(JP,A)
【文献】 特開2017−77991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/00−33/14
B28D1/00−7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に両端部を有するガラス管を切断してガラス物品を得るガラス物品の製造方法であって、
前記ガラス管を搬送部によって搬送する搬送過程で切断治具にて前記ガラス管の切断を図る切断工程と、
前記切断工程後、前記搬送部にて搬送中の前記ガラス管のうち少なくとも前記切断工程で切断できていないガラス管の少なくとも軸方向一端側を変位用治具にて鉛直方向に沿って変位させることで該ガラス管に衝撃を与える変位工程と
を備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記変位工程において、前記ガラス管の搬送経路に配置された前記変位用治具に前記ガラス管を乗り上げさせた後、該ガラス管を自重で前記搬送部上に落下させることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記変位用治具の上面におけるガラス管搬送方向の少なくとも上流側端部には、ガラス管搬送方向に向かうにつれて鉛直方向上方に傾斜する傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記搬送部は、ガラス管搬送方向に並設され互いに平行な回転軸を有する複数のローラを備え、隣り合う前記ローラ同士がローラ軸方向から見て部分的に重なり合うように配置され、その重なり合うローラの谷間部分で前記ガラス管を保持しつつ各ローラがガラス管搬送方向に移動することで前記ガラス管を搬送するように構成され、
鉛直方向において、前記変位用治具の頂点位置が前記ローラ間の前記谷間部分の下端位置と前記ローラの頂点位置との間に設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記搬送部は、前記ガラス管の軸方向の一端側及び他端側をそれぞれ支持しつつ該ガラス管を軸直交方向に搬送する一対のコンベアを備え、
前記変位用治具は、前記ガラス管の軸方向一端側のみに対応して設けられており、
前記ガラス管の軸方向一端側が前記変位用治具に乗り上げている状態で、前記ガラス管の軸方向他端側が前記コンベア上に載っていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記切断工程において、熱歪みを利用するチルカットによって前記切断治具で前記ガラス管を切断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記変位工程において、前記ガラス管と当接する前記変位用治具に対し、少なくとも鉛直方向成分を含む超音波振動をさせることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記切断工程で前記ガラス管が切断されたか否かを判定する判定部を用い、該判定部でガラス管が切断されていないと判定された場合に当該ガラス管に対して前記変位工程を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記切断工程において、前記切断治具を超音波振動させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法に用いられるガラス物品の製造装置であって、
軸方向に両端部を有するガラス管を搬送する搬送部と、
前記ガラス管の搬送経路に設けられ前記ガラス管の切断を図るための切断治具と、
前記ガラス管の搬送経路において前記切断治具よりも下流側に設けられ、前記搬送部にて搬送中の前記ガラス管の少なくとも軸方向一端側を鉛直方向に沿って変位させる変位用治具と
を備えることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス管を切断してガラス物品を得るガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるガラス物品の製造方法では、軸方向に両端部を有するガラス管を搬送部にて軸直交方向に搬送する搬送過程において、該ガラス管の例えば軸方向端部を切断治具にて切断し、その後、ガラス管の切断面の口焼などの後工程を経て、所望のガラス物品を得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−31199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のガラス物品の製造方法では、切断治具でガラス管を切断できなかった場合に後工程に影響してしまうため、この点においてなお、改善の余地があった。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、切断不良の発生を抑制できるガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、軸方向に両端部を有するガラス管を切断してガラス物品を得るガラス物品の製造方法であって、前記ガラス管を搬送部によって搬送する搬送過程で切断治具にて前記ガラス管の切断を図る切断工程と、前記切断工程後、前記搬送部にて搬送中の前記ガラス管のうち少なくとも前記切断工程で切断できていないガラス管の少なくとも軸方向一端側を変位用治具にて鉛直方向に沿って変位させることで該ガラス管に衝撃を与える変位工程とを備える。
【0006】
上記態様によれば、切断工程後の変位工程において、ガラス管の少なくとも軸方向一端側を変位用治具にて鉛直方向に沿って変位させることでガラス管に鉛直方向成分を含む衝撃を与える。これにより、切断工程でガラス管を切断しきれなかった場合、その切断工程で生じた切断まで至らなかったクラックを変位工程での衝撃によって伸展させて切断予定部位を切断できるため、切断不良の発生を抑制できる。
【0007】
上記ガラス物品の製造方法の前記変位工程において、前記ガラス管の搬送経路に配置された前記変位用治具に前記ガラス管を乗り上げさせた後、該ガラス管を自重で前記搬送部上に落下させる。
【0008】
上記態様によれば、変位用治具に乗り上げたガラス管を搬送部上に落下させたときの衝撃によって、切断治具で切断しきれなかった部位の切断が可能となる。このため、ガラス管の搬送経路に変位用治具を配置するのみの簡易な構成によって、ガラス管の切断不良の発生を抑制できる。
【0009】
上記ガラス物品の製造方法において、前記変位用治具の上面におけるガラス管搬送方向の少なくとも上流側端部には、ガラス管搬送方向に向かうにつれて鉛直方向上方に傾斜する傾斜面が設けられている。
【0010】
上記態様によれば、傾斜面がガラス管の変位用治具への乗り上げを案内するため、ガラス管を変位用治具にスムーズに乗り上げさせることができ、その結果、ガラス管の搬送に与える影響を抑えつつ変位工程を行うことができる。
【0011】
上記ガラス物品の製造方法において、前記搬送部は、ガラス管搬送方向に並設され互いに平行な回転軸を有する複数のローラを備え、隣り合う前記ローラ同士がローラ軸方向から見て部分的に重なり合うように配置され、その重なり合うローラの谷間部分で前記ガラス管を保持しつつ各ローラがガラス管搬送方向に移動することで前記ガラス管を搬送するように構成され、鉛直方向において、前記変位用治具の頂点位置が前記ローラ間の前記谷間部分の下端位置と前記ローラの頂点位置との間に設定されている。
【0012】
上記態様によれば、ローラ間の谷間部分で保持されて搬送されるガラス管を変位用治具に好適に乗り上げさせることができる。
上記ガラス物品の製造方法において、前記搬送部は、前記ガラス管の軸方向の一端側及び他端側をそれぞれ支持しつつ該ガラス管を軸直交方向に搬送する一対のコンベアを備え、前記変位用治具は、前記ガラス管の軸方向一端側のみに対応して設けられており、前記ガラス管の軸方向一端側が前記変位用治具に乗り上げている状態で、前記ガラス管の軸方向他端側が前記コンベア上に載っている。
【0013】
上記態様によれば、ガラス管の一端側のみを変位用治具に乗り上げさせ、ガラス管の他端側ではコンベアに載った状態が維持されるため、他端側でガラス管を搬送しつつ一端側でガラス管を鉛直方向に沿って変位させることができる。
【0014】
上記ガラス物品の製造方法の前記切断工程において、熱歪みを利用するチルカットによって前記切断治具で前記ガラス管を切断する。
上記態様によれば、熱歪みを利用するチルカットを用いたガラス管の切断では、切断する対象となるガラス管の形状によって、切断しきれない切断不良が生じやすい(特に、大径、肉薄のガラス管で切断不良が生じやすい)ため、上記の変位工程を備えることによる切断不良抑制効果を顕著に得ることができる。
【0015】
上記ガラス物品の製造方法の前記変位工程において、前記ガラス管と当接する前記変位用治具に対し、少なくとも鉛直方向成分を含む超音波振動をさせる。
上記態様によれば、超音波振動によってガラス管を鉛直方向に沿って変位させることができ、それにより、切断治具で切断しきれなかった部位の切断が可能となる。
【0016】
上記ガラス物品の製造方法において、前記切断工程で前記ガラス管が切断されたか否かを判定する判定部を用い、該判定部でガラス管が切断されていないと判定された場合に当該ガラス管に対して前記変位工程を行う。
【0017】
上記態様によれば、適切に切断されたガラス管に対しては変位工程させることなく、切断工程で切断しきれなかったガラス管に対してのみ変位工程を行うことが可能となる。
上記ガラス物品の製造方法の前記切断工程において、前記切断治具を超音波振動させる。
【0018】
上記態様によれば、ガラス管を切断する切断治具を超音波振動させることで、ガラス管の切断不良の発生をより好適に抑制できる。
上記課題を解決するガラス物品の製造装置は、上記ガラス物品の製造方法に用いられるガラス物品の製造装置であって、軸方向に両端部を有するガラス管を搬送する搬送部と、前記ガラス管の搬送経路に設けられ前記ガラス管の切断を図るための切断治具と、前記ガラス管の搬送経路において前記切断治具よりも下流側に設けられ、前記搬送部にて搬送中の前記ガラス管の少なくとも軸方向一端側を鉛直方向に沿って変位させる変位用治具とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置によれば、切断不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態のガラス物品の製造装置を側方から見た概略構成図。
図2】同形態のガラス物品の製造装置を上方から見た概略構成図。
図3】(a)(b)同形態の変位用治具の作用を説明するための模式図。
図4】変更例のガラス物品の製造装置を側方から見た概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0022】
まず、本実施形態のガラス物品の製造装置について説明する。
図1及び図2に示すガラス物品の製造装置10は、軸方向に両端部を有するガラス管Gの両端部付近をそれぞれ切断してガラス物品を得る装置である。製造装置10は、管引き成形や粗切などを含む前工程を経て運ばれてくるガラス管Gを軸直交方向(搬送方向Dt)に搬送する搬送部11を備えている。また、製造装置10は、ガラス管Gの搬送経路上に設けられた一対のバーナー12と、搬送経路におけるバーナー12の下流側にそれぞれ設けられた一対のリングカッター13(切断治具)と、搬送経路における一方のリングカッター13の下流側に設けられた変位用治具14とを備えている。なお、図面中のXYZ軸におけるX軸は、ガラス管Gの搬送方向Dtに沿った水平方向を表し、Y軸は、X軸と直交する水平方向(搬送部11の幅方向)を表し、Z軸はXY平面に対して直交する鉛直方向を表している。
【0023】
図2に示すように、搬送部11は、ガラス管Gの搬送方向Dtに沿って並ぶ複数のローラ21を有する一対のチェーンコンベア22a,22bを備えている。一対のチェーンコンベア22a,22bは、搬送直交方向である幅方向(Y方向)において互いに間隔を有して配置されている。一対のチェーンコンベア22a,22bはそれぞれ、ガラス管Gの両端部近傍を支持しつつガラス管Gを軸直交方向(X方向)に搬送する。
【0024】
図1及び図2に示すように、各チェーンコンベア22a,22bを構成する各ローラ21は、Y方向に延びる互いに平行な回転軸21aを有し、各ローラ21の回転軸21aはX方向において等間隔に設定されている。また、各ローラ21の外径は互いに同径である。各ローラ21は、回転軸21aを中心として互いに同方向に回転しながらガラス管Gの搬送方向Dtに移動する。また、各ローラ21は、搬送方向Dtに隣接するもの同士がローラ軸方向(Y方向)から見て部分的に重なり合うように構成されている(図3(a)も参照)。そして、部分的に重なり合うローラ21の谷間部分21bにガラス管GがY方向に沿った姿勢で載置され、その状態で各ローラ21が搬送方向Dtに移動することで、ガラス管Gが搬送方向Dtに搬送される。
【0025】
一対のバーナー12は、各チェーンコンベア22a,22bの幅方向(Y方向)の外側に配置され、各バーナー12の搬送方向Dtの下流側にリングカッター13がそれぞれ配置されている。各バーナー12は、尖鋭な炎によってガラス管Gにおける両端部近傍の切断予定部位Cpを加熱する。このとき、チェーンコンベア22a,22b上のガラス管Gはローラ21によって回転されるため、各バーナー12の炎によってガラス管Gの各切断予定部位Cpの外周全体が加熱される。
【0026】
各リングカッター13は、水槽Wt内の水によって冷却される回転刃である。各リングカッター13は、各バーナー12にて加熱されたガラス管Gの切断予定部位Cpと当接され、この当接によってガラス管Gに生じる傷は、熱歪みによって切断予定部位Cpの全周に伸展する。これにより、ガラス管Gの両端部が切り落とされて、ガラス管Gが所望長さとされる。なお、切り落とされた切断片Gxは回収部(図示略)にて回収される。
【0027】
図2に示すように、一方のリングカッター13の搬送方向Dtの下流側には、支持台23の上面に固定された変位用治具14が配置されている。変位用治具14は、一方のチェーンコンベア22aの幅方向(Y方向)の外側位置に設けられている。また、変位用治具14のY方向における設置位置は、ガラス管Gに対して切断予定部位Cpよりも内側部位(ガラス管Gの軸方向中央側の部位)で当接するように設定されている。
【0028】
図3(a)に示すように、変位用治具14は、搬送部11の幅方向(Y方向)から見て、鉛直方向の上方に突出する頂点14tを有する三角形状をなす。変位用治具14の上面には、搬送方向Dt(X方向)に向かうにつれて鉛直方向上方に傾斜する傾斜面24が、搬送方向Dtの上流側端部から頂点14tにかけて形成されている。また、鉛直方向(Z軸方向)における変位用治具14の頂点14tの位置は、ローラ21間の谷間部分21bの下端21c(ローラ21の外周の交点)の位置とローラ21の頂点21t(鉛直方向上端)の位置との間に設定されている。なお、変位用治具14は、耐熱性に優れた材料(ベークライトなどの耐熱性樹脂)から形成されることが好ましい。
【0029】
次に、ガラス物品の製造方法をガラス物品の製造装置10の動作と共に説明する。
図1及び図2に示すように、前工程から運ばれてくるガラス管Gは、各チェーンコンベア22a,22bのローラ21間の谷間部分21bに載置され、回転軸21a中心に回転しながら搬送方向Dtに移動する各ローラ21によって搬送される。
【0030】
この各チェーンコンベア22a,22bによる搬送過程において、ガラス管Gの両端部近傍の各切断予定部位Cpを各バーナー12及び各リングカッター13を用いて切断する切断工程を行う。同工程では、熱歪みを利用する所謂チルカットにて各切断予定部位Cpを切断する。すなわち、前述のように、バーナー12にてガラス管Gの切断予定部位Cpを加熱した後、当該加熱部位に冷却したリングカッター13を当接させることで生じる熱歪みによって各切断予定部位Cpを切断する。
【0031】
切断工程後、各チェーンコンベア22a,22bにて搬送中のガラス管Gの軸方向一端側を変位用治具14にて鉛直方向に沿って変位させることで該ガラス管Gに衝撃を与える変位工程を行う。同工程では、ローラ21間の谷間部分21bで保持された状態(つまり、谷間部分21bを構成する両側のローラ21の各々と接触する状態)で搬送されるガラス管Gは、変位用治具14の傾斜面24と当接し、ガラス管Gの軸方向一端側(チェーンコンベア22a側)が、傾斜面24の傾斜に沿って鉛直方向上方に変位する。
【0032】
このとき、図3(a)に示すように、ガラス管Gの軸方向一端側が谷間部分21bを構成する両側のローラ21の少なくとも一方と離間する。その後、各ローラ21が搬送方向Dtに移動することで、図3(b)に示すように、ガラス管Gの軸方向一端側は、変位用治具14を乗り越え、自重でチェーンコンベア22a上(ローラ21間の谷間部分21b)に落下する。これにより、ガラス管Gに鉛直方向成分を含む衝撃が与えられる。また、ガラス管Gの軸方向一端側が変位用治具14を乗り越える間、ガラス管Gの軸方向他端側は、チェーンコンベア22bに載ったままの状態にある。このため、ガラス管Gの軸方向一端側を変位用治具14に乗り上げさせながらも、ガラス管Gを搬送する推進力を好適に確保することができる。
【0033】
変位工程を経たガラス管Gは下流側に搬送されて、例えば、切断後の端部の仕上げ加工である口焼き、全長が規定長さになっているか等の合否選別、出荷のための梱包等の後工程等の後工程が実施される。これにより、管状のガラス物品が得られる。
【0034】
本実施形態の作用について説明する。
上記のチルカットを用いた切断工程において、クラックがガラス管Gの切断予定部位Cpの全周に伸展しきらない場合、切断予定部位Cpが切断されていない状態で変位工程に移る。そして、変位工程において、ガラス管Gの軸方向一端側(チェーンコンベア22a側)が変位用治具14に乗り上げた後、チェーンコンベア22a上に落下されて、鉛直方向成分を含む衝撃がガラス管Gに与えられる。これにより、切断工程で生じた切断まで至らなかったクラックが全周に伸展され、切断予定部位Cpが切断されるようになっている。なお、変位工程でガラス管Gに与える衝撃によって、チェーンコンベア22a側の切断予定部位Cpのみならず、チェーンコンベア22b側の切断予定部位Cpも切断することが可能である。
【0035】
なお、変位工程において、ガラス管Gを変位用治具14と接触させるためには、変位用治具14の頂点14tがローラ21間の谷間部分21bの下端21cよりも鉛直方向上側に位置する必要がある。また、変位用治具14の頂点14tは、ローラ21の頂点21t(鉛直方向上端)よりも鉛直方向下側に設定されている。これにより、ガラス管Gの軸方向一端側が変位用治具14に乗り上げるときに、ローラ21よりも上側に変位してしまうことが抑制される。従って、ガラス管Gの軸方向一端側がローラ21を乗り越えて、隣の谷間部分21bに移動し、ガラス管Gの搬送姿勢が搬送部11の幅方向(Y方向に対して)傾いてしまうことが抑制されるようになっている。
【0036】
本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態のガラス物品の製造方法は、ガラス管Gを搬送部11によって搬送する搬送過程でバーナー12及びリングカッター13にてガラス管Gの切断を図る切断工程と、切断工程後、搬送部11にて搬送中のガラス管Gの軸方向一端側を変位用治具14にて鉛直方向に沿って変位させることで該ガラス管Gに衝撃を与える変位工程とを備える。上記態様によれば、切断工程でガラス管Gの切断予定部位Cpを切断しきれなかった場合、その切断工程で生じた切断まで至らなかったクラックを変位工程での衝撃によって全周に伸展させる(すなわち切断予定部位Cpを切断する)ことができる。従って、リングカッター13でガラス管Gを切断できない切断不良の発生を抑制できる。
【0037】
(2)変位工程において、ガラス管Gの搬送経路に配置された変位用治具14にガラス管Gを乗り上げさせた後、該ガラス管Gを自重で搬送部11上に落下させる。上記態様によれば、変位用治具14に乗り上げたガラス管Gを搬送部11上に落下させたときの衝撃によって、リングカッター13で切断しきれなかった部位の切断が可能となる。このため、ガラス管Gの搬送経路に変位用治具14を配置するのみの簡易な構成によって、ガラス管Gの切断不良の発生を抑制できる。
【0038】
(3)変位用治具14の上面には、搬送方向Dtに向かうにつれて鉛直方向上方に傾斜する傾斜面24が設けられている。上記態様によれば、傾斜面24がガラス管Gの変位用治具14への乗り上げを案内するため、ガラス管Gを変位用治具14にスムーズに乗り上げさせることができ、その結果、ガラス管Gの搬送に与える影響を抑えつつ変位工程を行うことができる。
【0039】
(4)搬送部11の各チェーンコンベア22a,22bは、隣り合うローラ21の谷間部分21bでガラス管Gを保持しつつ各ローラ21が搬送方向Dtに移動することでガラス管Gを搬送する。そして、鉛直方向において、変位用治具14の頂点14tの位置は、ローラ21間の谷間部分21bの下端21c(ローラ21の外周の交点)の位置とローラ21の頂点21tの位置との間に設定されている。これにより、ローラ21間の谷間部分21bで保持されて搬送されるガラス管Gを変位用治具14に好適に乗り上げさせることができる。
【0040】
(5)搬送部11は、ガラス管Gの軸方向の一端側及び他端側をそれぞれ支持しつつ該ガラス管Gを軸直交方向に搬送する一対のチェーンコンベア22a,22bを備える。そして、変位用治具14は、ガラス管Gの軸方向一端側のみに対応して設けられており、ガラス管Gの軸方向一端側が変位用治具14に乗り上げている状態で、ガラス管Gの軸方向他端側がチェーンコンベア22b上に載っている。上記態様によれば、ガラス管Gの一端側のみを変位用治具14に乗り上げさせ、ガラス管Gの他端側ではコンベアに載った状態が維持されるため、他端側でガラス管Gを搬送しつつ一端側でガラス管Gを鉛直方向に沿って変位させることができる。
【0041】
(6)切断工程において、熱歪みを利用するチルカットによってガラス管Gを切断する。熱歪みを利用するチルカットを用いたガラス管Gの切断では、切断する対象となるガラス管Gの形状によって、切断しきれない切断不良が生じやすい(特に、大径、肉薄のガラス管Gで切断不良が生じやすい)ため、上記の変位工程を実施することによる切断不良抑制効果を顕著に得ることができる。
【0042】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図4に示すように、変位工程でガラス管Gと当接する変位用治具31を超音波振動させる超音波振動部32を設け、変位工程において、超音波振動部32の駆動によって変位用治具31に対して少なくとも鉛直方向成分を含む超音波振動をさせる態様としてもよい。この態様によれば、超音波振動によってガラス管Gを鉛直方向に沿って変位させることができ、それにより、前段の切断工程で切断しきれなかったガラス管Gの切断予定部位Cpの切断が可能となる。
【0043】
なお、図4に示す例では、リングカッター13を超音波振動させる超音波振動部33を備える。そして、切断工程において、超音波振動部33の駆動によってリングカッター13を超音波振動させることで、チルカット時における切断予定部位Cpのクラックの伸展が促進され、その結果、切断工程で切断予定部位Cpを切断しきれない切断不良の発生を抑制でき、更には切断面も綺麗になる。なお、この超音波振動部33は上記実施形態にも適用可能である。
【0044】
また、図4に示す例では、例えば切断工程後のガラス管Gの端部を撮像する撮像装置(図示略)からの情報に基づいて、切断工程でガラス管Gが切断されたか否かを判定する判定部34を備え、切断工程でガラス管Gが切断されたと判定部34にて判定された場合には、超音波振動部32を駆動せずに当該ガラス管Gに対して変位工程を行わない。そして、ガラス管Gが切断されていないと判定部34にて判定された場合には、超音波振動部32が駆動されて当該ガラス管Gを変位用治具31を介して超音波振動させる。この態様によれば、適切に切断されたガラス管Gに対しては変位工程させることなく、切断工程で切断しきれなかったガラス管Gに対してのみ変位工程を行うことが可能となる。なお、図4に示す態様は一例であり、同例からリングカッター13を超音波振動させる超音波振動部33、及び判定部34を省略してもよい。
【0045】
上記実施形態の変位用治具14を用いる変位工程において、図4に示すような判定部34を適用してもよい。すなわち、切断工程でガラス管Gが切断されたと判定部34にて判定された場合には、変位用治具14が、当該ガラス管Gに対して当接不能な退避位置(例えば、鉛直方向における変位用治具14の頂点14tの位置がローラ21間の谷間部分21bの下端21cよりも下側となる位置)とされる。そして、ガラス管Gが切断されていないと判定部34にて判定された場合には、変位用治具14が、当該ガラス管Gに対して当接可能な位置(図3(a)(b)に示される位置)まで鉛直方向上方に移動され、変位用治具14にて当該ガラス管Gを変位可能な状態となる。このような態様によっても、適切に切断されたガラス管Gに対しては変位工程させることなく、切断工程で切断しきれなかったガラス管Gに対してのみ変位工程を行うことが可能となる。これにより、切断工程で適切に切断されたガラス管Gに対しては、変位用治具14から搬送部11上への落下時に生じうるクラックなどの懸念を払拭できるため、より好適である。
【0046】
・切断工程において、チルカット以外の例えば加熱溶断などの切断手法を用いてガラス管Gの切断予定部位Cpを切断する態様としてもよい。
・変位用治具14をチェーンコンベア22aの幅方向(Y方向)の内側位置(つまり各チェーンコンベア22a,22bの間の位置)に設けてもよい。また、変位用治具14のY方向における設置位置を、ガラス管Gの切断予定部位Cpよりも外側(軸端側)に設定してもよい。これによれば、切断工程でガラス管Gの切断予定部位Cpが適切に切断された場合には、ガラス管Gにおける切断予定部位Cpよりも外側(軸端側)の部位は、切断片Gxとして除去されるため、変位用治具14がガラス管Gと当接されず、切断工程で切断予定部位Cpが切断されなかったガラス管Gに対してのみ変位用治具14を当接させることが可能となる。
【0047】
・チェーンコンベア22b側にも変位用治具14を設け、変位工程において、ガラス管Gの軸方向一端側及び他端側の各々を変位用治具14にて鉛直方向に変位させる態様としてもよい。
【0048】
・上記実施形態における変位用治具14の形状などの構成は例示であり、適宜変更可能である。例えば、搬送部11の幅方向(Y方向)から見た変位用治具14の形状を、上面に水平面を有する台形形状としてもよい。また、変位用治具14を樹脂材料以外の例えば金属材料から構成してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、切断工程においてガラス管Gの両端部近傍をそれぞれ切断するが、これに限らず、例えば、切断工程でガラス管Gの一端側のみを切断する態様や、ガラス管Gの軸方向中央部分の1箇所を切断する態様としてもよい。
【0050】
・上記実施形態の搬送部11の構成は一例であり、適宜変更可能である。また、上記実施形態では、ガラス管Gの搬送方向Dtを水平方向(X方向)と平行としているが、これに限らず、水平方向に対して傾斜した方向であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…ガラス物品の製造装置、11…搬送部、12…バーナー(切断治具)、13…リングカッター(切断治具)、14…変位用治具、14t…変位用治具の頂点、21…ローラ、21a…回転軸、21b…谷間部分、21t…ローラの頂点、22a,22b…チェーンコンベア(コンベア)、24…傾斜面、31…変位用治具、34…判定部、G…ガラス管。
図1
図2
図3
図4