【実施例】
【0060】
以下、比較例、実施例、及び試験例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
実施例、比較例、及び試験例において用いられた、抗ヒトTSLP受容体抗体は、国際公開第2015/020193号に記載の製法又はそれに準じた方法により製造された抗体であり、その具体的作製手順を参考例に示す。
なお、表における「−」は未添加であることを示す。
【0061】
《参考例:完全ヒト型抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7−27の作製》
本実施例で用いた完全ヒト型抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7−27(以下、抗体Aと略記することもある。)の重鎖をコードする塩基配列を配列番号2に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号1に、該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を配列番号4に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号3にそれぞれ示す。
【0062】
国際公開第2015/020193号に従い、抗体Aの重鎖と軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクター(Lonza社)を構築した。さらに、CHOK1SV細胞(Lonza社)にトランスフェクションすることにより抗体の安定発現株を取得し、抗体を発現させた。培養上清をプロテインAカラム(GEヘルスケアジャパン社)及びイオン交換クロマトグラフィーで精製し、完全ヒト型抗体の精製抗体を得た。精製した抗体Aのアミノ酸修飾を分析した結果、精製抗体の大部分において、重鎖C末端のリジンの欠失が生じていると推定された。
【0063】
《実施例1:至適pHの選定による安定化効果》
抗体Aを含む液剤について、pHが製剤の安定化に及ぼす影響を評価した。
【0064】
本検討では、pHの効果を評価するために、試料No.A1〜No.A5の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表1−1の通りである。
【0065】
【表1-1】
【0066】
液剤の安定性を評価するために、各試料の熱加速試験(40℃2週間及び25℃4週間保存)を行った。そして、熱加速前後における抗体の品質を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0067】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、10mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.8組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは蛋白質量換算で50μgとなる注入量(例:10mg/mLの場合は5.0μL)とし、分析時間は30分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0068】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにPropac WCX10 IEC用カラム(Dionex)を接続し、移動相Aラインに20mmol/L MES pH6.0、移動相Bラインに20mmol/L MES、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。表1−2のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は40℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0069】
【表1-2】
【0070】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0071】
本実施例で得られたSEC、IECの評価結果を
図1−1、
図1−2、
図1−3に示す。SEC多量体については、40℃2週間保管品を除き、特に高pHほど増加傾向となった(
図1−1)。一方、SEC分解物については、特に低pH側ほど増加傾向となった(
図1−2)。IECメインピークについては、pH5〜6付近で最も減少が少なく、最安定となった(
図1−3)。以上の結果を総合的に判断し、pH5〜6付近が至適pHであると確認できた。
【0072】
《実施例2:アルギニンによる多量体の増加抑制効果》
抗体Aを含む液剤について、アルギニンによる多量体の増加抑制効果を評価した。
【0073】
本検討では、アルギニンの添加量が異なる試料No.B1〜No.B4を調製した。各評価試料の処方は以下の表2−1の通りである。
【0074】
【表2-1】
【0075】
調製した表2−1の各試料について、スピンカラムを用いて濃縮し、B1−2〜B1−4、B2−2〜B2−4、B3−2〜B3−4、B4−2〜B4−4の各試料を調製した。各試料の処方は表2−2に示す通りである。
【0076】
【表2-2】
【0077】
《比較例1》
ニコチンアミド、マンニトール、トレハロース、グリシンを含む試料No.B5〜No.B8を調製した。各評価試料の処方は以下の表2−3の通りである。
【0078】
【表2-3】
【0079】
調製した表2−3の各試料について、スピンカラムを用いて濃縮し、B5−2〜B5−4、B6−2〜B6−4、B7−2〜7−4、B8−2〜B8−4の各試料を調製した。各試料の処方は表2−4に示す通りである。
【0080】
【表2-4】
【0081】
これらの各試料をサイズ排除クロマトグラフ法(SEC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0082】
[サイズ排除クロマトグラフ法]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、10mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.8組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、濃縮性検討では、蛋白質量換算で100μgとなる注入量とした。分析時間は30分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は20℃に設定した。
【0083】
SECで検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0084】
本実施例及び比較例で得られたSECの評価結果(多量体ピーク%の増加分)を
図2に示す。アルギニンを含む処方(B2、B2−2〜B2−4、B3、B3−2〜B3−4、B4、B4−2〜B4−4)においては、主薬濃度の増加に伴う多量体増加は顕著に抑制された。一方、アルギニンを含まない処方(B1、B1−2〜B1−4)や、ニコチンアミド、マンニトール、トレハロース、グリシンを含む処方(B5、B5−2〜B5−4、B6、B6−2〜B6−4、B7、B7−2〜B7−4、B8、B8−2〜B8−4)においては、主薬濃度増加に伴う多量体増加は抑制されなかった。本結果より、アルギニンによる、主薬濃度増加時の多量体増加抑制効果を確認することができた。
【0085】
アルギニン濃度の違いによる、多量体増加抑制効果への影響は認められなかった(B2、B2−2〜B2−4、B3、B3−2〜B3−4、B4、B4−2〜B4−4)。
【0086】
《実施例3:アルギニン、ヒスチジン、pHによるHIC親水性ピークの増加促進効果》
抗体Aを含む液剤について、アルギニン、ヒスチジン、pHがHIC親水性ピークの増加に与える影響を評価した。
【0087】
本検討では、アルギニン、ヒスチジン、pHの影響を評価するために、試料No.C1〜No.C9の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表3−1の通りである。
【0088】
【表3-1】
【0089】
液剤の安定性を評価するために、各試料の保管安定性試験(5℃5ヶ月間保存)を行った。そして、保管後の抗体の品質を、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0090】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC−10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表3−2のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0091】
【表3-2】
【0092】
HICで検出された、酸化体の指標である親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0093】
本実施例で得られたHICの評価結果を表3−3に示す。
【0094】
【表3-3】
【0095】
アルギニン添加処方(C2、C4、C6、C7)においては、非添加(C3、C5)及びソルビトール添加処方(C8、C9)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0096】
また、pH7.0のアルギニン添加処方(C6)においては、pH6.0のアルギニン添加処方(C4)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0097】
また、ヒスチジン添加処方(C1)においては、リン酸添加処方(C3)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0098】
《実施例4:実験計画法による処方の検討》
抗体Aを含む液剤について、pH及びアルギニン濃度について、処方を検討した。
【0099】
本検討では、アルギニン及びpHの効果を評価するために、実験計画法に基づき、試料No.D1〜No.D18の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表4−1、表4−2の通りである。
【0100】
【表4-1】
【0101】
【表4-2】
【0102】
溶液製剤の安定性を評価するために、各試料の熱加速試験(40℃1週間保存)を行った。そして、熱加速前後における抗体の純度を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0103】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、20mmol/Lリン酸、1mol/L NaCl pH6.5組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、蛋白質量換算で50μgとなる注入量とした。分析時間は40分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0104】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにPropac WCX10 IEC用カラム(Dionex)を接続し、移動相Aラインに25mmol/Lリン酸 pH6.0、移動相Bラインに25mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。分析時間は80分間で、表4−3のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は35℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0105】
【表4-3】
【0106】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC−10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表4−4のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0107】
【表4-4】
【0108】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピーク、及びHICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0109】
本実施例で得られたSEC、IEC、HICの評価結果を表4−5に示す。
【0110】
【表4-5】
【0111】
また、本結果をもとに要因スクリーニングの統計解析を行い、実験計画法ソフトウェアであるDesign−Expert(Stat−Ease,Inc.製品)を用いて、各指標の寄与度を示すp値を算出した結果を表4−6に示す。
【0112】
【表4-6】
【0113】
本結果より、安定性指標であるSEC、IEC、HICの全評価項目につき、安定化効果に寄与の大きかったアルギニン濃度、pHについて、実験計画法ソフトウェアであるDesign−Expert(Stat−Ease,Inc.製品)を用いて、満足度を最大化する範囲を解析した結果を
図3−1(リン酸添加処方群)、
図3−2(ヒスチジン添加処方群)に示す。
【0114】
本結果より、リン酸添加処方においてはpH5.5〜5.7、アルギニン濃度0(但し、無添加を除く)〜210mmol/L、ヒスチジン添加処方においてはpH5.3〜6.0、アルギニン濃度0(但し、無添加を除く)〜210mmol/Lの範囲において、安定であることが示唆された。
【0115】
《実施例5:界面活性剤による不溶性微粒子の生成抑制》
抗体Aを含む液剤について、界面活性剤による、ストレス負荷後の不溶性微粒子の生成抑制効果を評価した。
【0116】
本検討では、界面活性剤であるポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188(プルロニック F68)の効果を評価するために、試料No.E1〜No.E18の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表5−1、表5−2の通りである。
【0117】
【表5-1】
【0118】
【表5-2】
【0119】
液剤の安定性を評価するために、各試料のストレス負荷試験を実施した。各試料に対し、−80℃⇔5℃サイクルの凍結融解を3回実施後、150rpm 24時間の振とうを加え、1,000lux 24時間の条件で保管を実施した。そして、ストレス負荷後における試料中の不溶性微粒子数を、光遮蔽粒子計数法により評価した。
【0120】
[光遮蔽粒子計数法]
1.5mLプラスチックチューブに0.7mLのサンプルを入れ、真空乾燥機で25℃ 75Torrの条件で2時間脱気した。脱気後、HIACラボ型液中パーティクルカウンターを用いて、Tareボリュームを0.2mL、Samplingボリュームを0.2mL、Run回数を2回(但し、最初の測定は破棄)に設定し、測定を実施した。
【0121】
また、界面活性剤濃度及び主薬濃度が蛋白質へ与える影響を評価するため、試料E1〜E10については、試料を25℃で4週間保管し、保管後のサンプルを用いて疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)による評価を行った。
【0122】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC−10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム 20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表5−3のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0123】
【表5-3】
【0124】
HICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0125】
本実施例で得られた、不溶性微粒子数の評価結果を表5−4に示す。界面活性剤の添加の有無にかかわらず、ストレス負荷後の不溶性微粒子数の増加が認められたが、界面活性剤を添加した全試料において、不溶性微粒子数の増加は抑制された。
【0126】
【表5-4】
【0127】
本実施例で得られた、HICの評価結果を
図4−1及び
図4−2に示す。ポリソルベート80を含む試料については、ポリソルベート80濃度の増加に伴い、HIC親水性ピークの増加傾向が認められた。一方、主薬濃度30mg/mLの試料(
図4−2)については、主薬濃度10mg/mLの試料(
図4−1)と比較して、HIC親水性ピークの増加が抑制された。
【0128】
《実施例6:アルギニンによる粘度の低減》
抗体Aを含む液剤について、アルギニンによる粘度の低減効果を評価した。
【0129】
本検討では、液剤の粘度におけるアルギニンの効果を評価するために、試料No.F1〜No.F12の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表6−1の通りである。
【0130】
【表6-1】
【0131】
《比較例2》
アルギニン及びpHの効果を評価するため、アルギニン非添加(試料No.F13〜No.F27)及び低pH(試料No.F19〜No.F21)の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表6−2の通りである。
【0132】
【表6-2】
【0133】
調製した表6−1及び表6−2の各試料について、粘度を動的光散乱法(DLS)により評価した。
【0134】
[動的光散乱法(DLS)]
DynaPro Platereader(Wyatt)を用いて、50、60、65、70、75%グリセリン溶液にポリスチレン粒子を添加して得られたみかけの粒子半径から、粘度−みかけの粒子半径のスタンダード・カーブを作成した。その後、高濃度サンプルにポリスチレン粒子を添加してみかけの半径を測定し、グリセリン溶液のスタンダード・カーブから粘度を算出した。
【0135】
粘度の範囲としては、1000mPa・s以下、好適には100mPa・s以下、さらに好適には20mPa・s以下に制御されることが望ましい。
【0136】
本実施例及び比較例で得られた、粘度の評価結果を表6−3及び
図5に示す。アルギニンを添加した試料については、主薬濃度の増加に伴う粘度の増加は抑制されていた。
【0137】
一方で、pHによる粘度への影響は認められなかった。
【0138】
【表6-3】
【0139】
《実施例7:安定性評価》
抗体Aを含む液剤について、安定性を評価した。評価試料の処方は以下の表7−1の通りである。評価試料は、培養及び精製後に当該処方へ緩衝液交換された蛋白質薬液を、表7−1に記載の処方から抗体Aを除いた成分を含む溶液で希釈調製した後、0.22μmフィルターでろ過し、ガラスバイアルへ充填後、打栓及び巻き締めを行うことで調製した。
【0140】
【表7-1】
【0141】
液剤の安定性を評価するために、各試料の保管安定性試験(−20℃12箇月及び5℃12箇月)を行った。そして、保管前後における抗体の品質を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0142】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにTSK guard column SWXL(東ソー)1本及びG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)2本を連結して接続し、20mmol/Lリン酸、1mol/L NaCl pH6.5組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、蛋白質量換算で50μgとなる注入量とした。分析時間は60分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0143】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにMabPac SCX10 IEC用カラム(Thermo)を接続し、移動相Aラインに25mmol/L MES pH6.0、移動相Bラインに25mmol/L MES、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。分析時間は70分間で、表7−2のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は35℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0144】
【表7-2】
【0145】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC−10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表7−3のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0146】
【表7-3】
【0147】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピーク、HICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0148】
本実施例で得られたSEC、IEC、HICの評価結果を表7−4に示す。本処方において、−20℃12箇月及び5℃12箇月保管品いずれも、各指標における品質は好適な範囲内であり、本処方が安定であることを確認できた。
【0149】
【表7-4】