特許第6897622号(P6897622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897622
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20210621BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20210621BHJP
   H02K 11/02 20160101ALI20210621BHJP
   H02K 9/00 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   F04B39/00 106Z
   H02K11/02
   H02K9/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-70063(P2018-70063)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-180218(P2019-180218A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安保 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】賀川 史大
(72)【発明者】
【氏名】深作 博史
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/170817(WO,A1)
【文献】 特開2017−180428(JP,A)
【文献】 実開平05−036823(JP,U)
【文献】 特開2018−037480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H01F 27/28,37/00,17/00
F04B 39/00
H02K 9/00,11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、
前記ノイズ低減部は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状のコアと、
前記コアに巻回された第1の巻線と、
前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを覆う環状かつ薄膜状の導電体と、を備え、
前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れており、
前記導電体の外周面には絶縁層が積層され、前記絶縁層の外周面には前記導電体よりも肉厚である金属製の放熱層が積層され、
前記放熱層には、前記導電体における周方向について不連続となるようスリットが設けられていることを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記導電体と前記絶縁層と前記放熱層との積層体は両端において前記導電体が他の層からはみ出しており、はみ出し箇所のみを互いに接合することにより前記導電体が環状をなすことを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項3】
前記放熱層に熱的に接合される放熱部材を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイルの構成として、特許文献1には導電体で覆うことでノーマルモード電流が流れる際に導電体の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させダンピング効果を持たせたチョークコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2017/170817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、導電体において抵抗成分を大きくして熱に変えるためには板状の導電体を薄膜状まで薄くすることになる。この場合、導電体において薄膜状ゆえに発生する熱を速やかに逃がさないと、導電体に固着させたハンダが溶融するなどの問題が生じる。また、近傍にあるコイル巻線の被膜が劣化したり、同じく近傍にあるコアの磁気特性が変化するなどの問題も生じる。
【0005】
本発明の目的は、放熱性に優れたフィルタ回路を有する車載用電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、前記ノイズ低減部は、コモンモードチョークコイルと、前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状のコアと、前記コアに巻回された第1の巻線と、前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを覆う環状かつ薄膜状の導電体と、を備え、前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れており、前記導電体の外周面には絶縁層が積層され、前記絶縁層の外周面には前記導電体よりも肉厚である金属製の放熱層が積層され、前記放熱層には、前記導電体における周方向について不連続となるようスリットが設けられていることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、コモンモードチョークコイルにおける第1の巻線と第2の巻線を跨ぎつつコアを覆う環状かつ薄膜状の導電体が形成されている。また、導電体の外周面には絶縁層が積層され、絶縁層の外周面には導電体よりも肉厚である金属製の放熱層が積層されている。よって、導電体において発生する熱が放熱用の金属板を通して逃がされ、放熱性に優れたものとなる。また、金属製の放熱層には、導電体における周方向について不連続となるようスリットが設けられているので、第1の巻線及び第2の巻線に通電されても、発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく放熱層の内部において誘導電流が周方向に流れることはない。
【0008】
請求項2に記載のように、請求項1に記載の車載用電動圧縮機において、前記導電体と前記絶縁層と前記放熱層との積層体は両端において前記導電体が他の層からはみ出しており、はみ出し箇所のみを互いに接合することにより前記導電体が環状をなすとよい。
【0009】
請求項3に記載のように、請求項1又は2に記載の車載用電動圧縮機において、前記放熱層に熱的に接合される放熱部材を更に備えるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放熱性に優れたフィルタ回路を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車載用電動圧縮機の概要を示す概要図。
図2】駆動装置及び電動モータの回路図。
図3】(a)はコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図、(d)は(a)のA−A線での断面図。
図4】(a),(b)は帯状部材を展開した状態図。
図5】(a),(b)は帯状部材の両端を繋いだ状態図。
図6】(a)はコア及び巻線の平面図、(b)はコア及び巻線の正面図、(c)はコア及び巻線の右側面図。
図7】作用を説明するためのコア及び巻線の斜視図。
図8】作用を説明するためのコモンモードチョークコイルの斜視図。
図9】コモンモードチョークコイルの側面図。
図10】ローパスフィルタ回路のゲインの周波数特性を示すグラフ。
図11】別例のコモンモードチョークコイルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0013】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0014】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0015】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。
【0016】
ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。
【0017】
吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。
【0018】
ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0019】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0020】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0021】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0022】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0023】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。
カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。
【0024】
収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0025】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0026】
図1に示すように、駆動装置24は、回路基板29と、回路基板29に設けられたインバータ装置30と、コネクタ27とインバータ装置30とを電気的に接続するのに用いられる2本の接続ラインEL1,EL2と、を備えている。
【0027】
回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31(図2参照)と、ノイズ低減部32(図2参照)を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるためのものである。
【0028】
次に電動モータ19及び駆動装置24の電気的構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ19のコイル23は、例えばu相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相構造となっている。各コイル23u〜23wは例えばY結線されている。
【0029】
インバータ回路31は、u相コイル23uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル23vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル23wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。各スイッチング素子Qu1〜Qw2は例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。なお、スイッチング素子Qu1〜Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1〜Dw2を有している。
【0030】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル23uに接続されている。そして、各u相スイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体は、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されており、上記直列接続体には、車載用蓄電装置28からの直流電力が入力されている。
【0031】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様である。
【0032】
駆動装置24は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のスイッチング動作を制御する制御部33を備えている。制御部33は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0033】
制御部33は、コネクタ27を介して空調ECU13と電気的に接続されており、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2を周期的にON/OFFさせる。詳細には、制御部33は、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、制御部33は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部33は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換する。
【0034】
ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35を備えている。平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する。ローパスフィルタ回路36は、接続ラインEL1,EL2上に設けられている。ローパスフィルタ回路36は、回路的にはコネクタ27とインバータ回路31との間に設けられている。
【0035】
コモンモードチョークコイル34は、両接続ラインEL1,EL2上に設けられている。
Xコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34に対して後段(インバータ回路31側)に設けられており、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されている。コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とによってLC共振回路が構成されている。即ち、本実施形態のローパスフィルタ回路36は、コモンモードチョークコイル34を含むLC共振回路である。
【0036】
両Yコンデンサ37,38は、互いに直列に接続されている。詳細には、駆動装置24は、第1Yコンデンサ37の一端と第2Yコンデンサ38の一端とを接続するバイパスラインEL3を備えている。当該バイパスラインEL3は車両のボディに接地されている。
【0037】
また、両Yコンデンサ37,38の直列接続体が、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35との間に設けられており、コモンモードチョークコイル34に電気的に接続されている。第1Yコンデンサ37の上記一端とは反対側の他端は、第1接続ラインEL1、詳細には第1接続ラインEL1のうちコモンモードチョークコイル34の第1の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。第2Yコンデンサ38における上記一端とは反対側の他端は、第2接続ラインEL2、詳細には第2接続ラインEL2のうちコモンモードチョークコイル34の第2の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。
【0038】
車両には、車載用機器として例えばPCU(パワーコントロールユニット)39が、駆動装置24とは別に搭載されている。PCU39は、車載用蓄電装置28から供給される直流電力を用いて、車両に搭載されている走行用モータ等を駆動させる。即ち、本実施形態では、PCU39と駆動装置24とは、車載用蓄電装置28に対して並列に接続されており、車載用蓄電装置28は、PCU39と駆動装置24とで共用されている。
【0039】
PCU39は、例えば、昇圧スイッチング素子を有し且つ当該昇圧スイッチング素子を周期的にON/OFFさせることにより車載用蓄電装置28の直流電力を昇圧させる昇圧コンバータ40と、車載用蓄電装置28に並列に接続された電源用コンデンサ41とを備えている。また、図示は省略するが、PCU39は、昇圧コンバータ40によって昇圧された直流電力を、走行用モータが駆動可能な駆動電力に変換する走行用インバータを備えている。
【0040】
かかる構成においては、昇圧スイッチング素子のスイッチングに起因して発生するノイズが、ノーマルモードノイズとして、駆動装置24に流入する。換言すれば、ノーマルモードノイズには、昇圧スイッチング素子のスイッチング周波数に対応したノイズ成分が含まれている。
【0041】
次に、コモンモードチョークコイル34の構成について図3(a),(b),(c),(d)、図4(a),(b)、図5(a),(b)、図6(a),(b),(c)を用いて説明する。
【0042】
コモンモードチョークコイル34は、車両側のPCU39で発生する高周波ノイズが圧縮機側のインバータ回路31に伝わるのを抑制するためのものであり、特に、漏れインダクタンスをノーマルインダクタンスとして利用することでノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)を除去するためのローパスフィルタ回路(LCフィルタ)36におけるL成分として用いられる。即ち、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)に対応可能であり、コモンモード用チョークコイルとノーマルモード(ディファレンシャルモード)用チョークコイルとを、それぞれ、用いるのではなく1つのチョークコイルで両モードノイズに対応可能である。
【0043】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、第1の巻線60と、第2の巻線61と、導電体としての金属薄膜70を備える。
【0044】
コア50は、図3(d)に示すように断面四角形状をなし、図6(a)に示すX−Y平面において全体として長方形状をなしている。図3(d)、図6(a)に示すように、コア50は、内側空間Sp1を有する。
【0045】
図6(a),(b),(c)に示すように、コア50に第1の巻線60が巻回されているとともに、コア50に第2の巻線61が巻回されている。より詳しくは、図6(a)に示すように長方形状をなすコア50における一方の長辺部分が第1の直線部51をなし、他方の長辺部分が第2の直線部52をなしており、第1の直線部51と第2の直線部52とは平行である。第1の直線部51に第1の巻線60の少なくとも一部が巻回されているとともに、第2の直線部52に第2の巻線61の少なくとも一部が巻回されている。両巻線60,61の巻き方向は、互いに反対方向となっている。また、第1の巻線60と第2の巻線61は互いに離れつつ対向している。
【0046】
なお、コア50と巻線60,61の間には、図示しない樹脂ケースが設けられており、樹脂ケースからは図示しない突起が延び、金属薄膜70を当接規制している。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、金属薄膜70は、銅箔よりなる。金属薄膜70の厚さは、10μm〜100μmである。例えば金属薄膜70の厚さは35μmである。薄くするのは、電流(誘導電流)が流れたときに抵抗を大きくして熱に変えるためである。反面、薄くすると強度を保ちにくく形状を保持しにくい。
【0047】
図3(c),(d)に示すように、金属薄膜70は、環状であり、詳細には帯状かつ無端状をなしている。金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61を跨ぎつつコア50を覆っており、詳細には、第1の巻線60の全てと第2の巻線61の全てとコア50の内側空間Sp1(図3(d)、図6(a)参照)の一部を覆うように形成されている。広義には、金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61とコア50の内側空間Sp1(図3(d)、図6(a)参照)のそれぞれ少なくとも一部を覆うように形成されている。内側空間Sp1は、第1の巻線60と第2の巻線61の間にあるとも言え、金属薄膜70は第1の巻線60と第2の巻線61の間において、即ち、内側空間Sp1をはさんで対向する部位同士が離れている。
【0048】
金属薄膜70は、薄膜の内周面と第1の巻線60及び第2の巻線61の外面との間に形成された樹脂層80を有する。
このように、金属薄膜70の外周面には絶縁層91が積層され、絶縁層91の外周面には金属薄膜70よりも肉厚である金属製の放熱層としての金属板90が積層されている。
【0049】
図3(c),(d)に示すように、樹脂層80により、金属薄膜70の強度保持、高剛性とともに絶縁性確保が図られている。樹脂層80は、ポリイミドよりなり、薄い金属薄膜70に対し強度を保ち形状を保持することができる。樹脂層80の厚さは、例えば数10μmである。なぜなら、巻線60,61と金属薄膜70とは、より接近しているのが望ましく、巻線60,61により発生する磁界を金属薄膜70で受けて誘導電流が流れるからであり、接近していると誘導電流が流れやすい。
【0050】
なお、金属薄膜70と樹脂層80とは接着剤(図示略)により接着されている。接着剤は、熱硬化タイプ接着剤(接着剤)でも、熱可塑タイプ接着剤(ホットメルト)でも、感圧タイプ接着剤(粘着剤)でもよい。
【0051】
コモンモードチョークコイル34は、放熱層としての金属板90を備える。金属板90は銅箔よりなる。金属板90は、金属薄膜70の外周面に絶縁層91を介して金属薄膜70の周方向に沿い、かつ、周方向に不連続状態で配置されている。放熱用の金属板90の厚みは、金属薄膜70の厚みよりも厚い。例えば、金属薄膜70の厚さが35μmであれば、放熱用の金属板90の厚みは70μm程度である。放熱用の金属板90により、絶縁層91を介して伝わった熱を放熱しやすくなる。
【0052】
絶縁層91は熱伝導性接着層であり、金属薄膜70と放熱用の金属板90との間の熱抵抗を低減して金属薄膜70で発生した熱を効果的に放熱用の金属板90へ伝えることができる。絶縁層91は、絶縁性・熱伝導性に優れている。放熱用の金属板90は周方向においてスリット状である離間部95を有し、これにより周方向に不連続状態である。その結果、金属薄膜70には周方向に誘導電流が流れるが、放熱用の金属板90に誘導電流が流れることはない。
【0053】
より詳しくは、図4(a),(b)に示すように、金属板90と絶縁層91と金属薄膜70と樹脂層80との積層体は、両端において金属薄膜70が他の層からはみ出しており、図5(a),(b)に示すように、はみ出し箇所のみを互いに溶着等により接合することにより金属薄膜70が環状をなす。広義には、金属薄膜70と絶縁層91と金属板90との積層体は両側において金属薄膜70が他の層からはみ出しており、はみ出し箇所のみを互いに接合することにより金属薄膜70が帯状かつ無端状をなす。これにより、金属薄膜70において誘導電流が流れることになる。また、金属板90は接合されないので周方向において不連続となる。
【0054】
図1における底壁部15aがコモンモードチョークコイル34の放熱部材となり、図3(b)〜図3(d)に示すように、金属板90が底壁部15aに熱的に接合されている。つまり、コモンモードチョークコイル34で発生した熱が底壁部15aに逃がされる。このとき、放熱用の金属板90の離間部95の部位は底壁部15aに接触させない。なぜなら、放熱用の金属板90において、アルミニウム製の底壁部15aを介して周方向に誘導電流が流れないようにするためである。
【0055】
次に、作用について説明する。
まず、図7及び図8を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
【0056】
図7に示すように、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア50に磁束φ1,φ2が発生するとともに漏れ磁束φ3,φ4が発生する。磁束φ1,φ2は互いに逆向きの磁束であり、漏れ磁束φ3,φ4が発生する。ここで、図8に示すように、発生する漏れ磁束φ3,φ4に抗う方向に磁束を発生させるべく金属薄膜70の内部において誘導電流i10が周方向に流れる。
【0057】
このようにして、金属薄膜70において、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電に伴い発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア50を周回するように流れることである。
【0058】
コモンモードにおいては、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア50に同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コモンモード電流通電時は、コア50内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0059】
次に、ローパスフィルタ回路36の周波数特性について図10を用いて説明する。図10は、流入するノーマルモードノイズに対するローパスフィルタ回路36のゲイン(減衰量)の周波数特性を示すグラフである。図10の実線は、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70がある場合を示し、図10の一点鎖線は、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70がない場合を示す。また、図10において、横軸の周波数は対数で示す。ゲインは、ノーマルモードノイズを低減できる量を示すパラメータの一種である。
【0060】
図10の一点鎖線に示すように、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70が存在しない場合には、ローパスフィルタ回路36(詳細にはコモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とを含むLC共振回路)のQ値が比較的高くなっている。このため、ローパスフィルタ回路36の共振周波数に近い周波数のノーマルモードノイズは低減されにくくなっている。
【0061】
一方、本実施形態では、コモンモードチョークコイル34にて発生する磁力線(漏れ磁束φ3,φ4)によって渦電流が発生する位置に導電体よりなる薄膜70が設けられている。導電体よりなる薄膜70は、漏れ磁束φ3,φ4が貫く位置に設けられており、漏れ磁束φ3,φ4が貫くことによって当該漏れ磁束φ3,φ4を打ち消す方向の磁束が生じるような誘導電流(渦電流)を発生させるように構成されている。これにより、導電体よりなる薄膜70がローパスフィルタ回路36のQ値を下げるものとして機能する。従って、図10の実線に示すように、ローパスフィルタ回路36のQ値が低くなっている。よって、ローパスフィルタ回路36の共振周波数付近の周波数を有するノーマルモードノイズも、ローパスフィルタ回路36によって低減される。
【0062】
以上のごとく、コモンモードチョークコイルにおいて帯状かつ無端状をなす金属薄膜70による金属シールド構造を採用することにより、コモンモードチョークコイルとしてローパスフィルタ回路に利用し、コモンモードノイズを低減する。また、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)に対して発生する漏れ磁束を積極的に活用し、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)の低減を兼ね備えた適切なフィルタ特性を得ることができる。つまり、帯状かつ無端状をなす金属薄膜70を用いることで、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)通電時に発生した漏れ磁束に抗う磁束が発生し、電磁誘導によって金属薄膜70に電流が流れ熱として消費される。金属薄膜70は磁気抵抗として働くためダンピング効果を得ることができ、ローパスフィルタ回路によって発生した共振ピークを抑制できる(図10参照)。また、コモンモード電流通電時は、コア内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。さらに、金属薄膜(金属箔)70の内周側には樹脂層(ポリイミド層)80を有することで形状を保持できるとともに巻線60,61との絶縁を確保できる。
【0063】
このようにして、洩れ磁束に抗う磁束が発生する向きに帯状かつ無端状をなす金属薄膜70を設置して、漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させようとして内部に電流が流れ、電力を消費して発熱する。このとき、樹脂層80、巻線60,61における皮膜、コア50の耐熱性が問題となる。
【0064】
コモンモードチョークコイル34で発生した熱Qは、図9に示すように、放熱用の金属板90が底壁部15aに熱的に接合されているので、底壁部15aに逃がされる。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
(1)車載用電動圧縮機11の構成として、電動モータ19を駆動するインバータ装置30を備える。インバータ装置30は、インバータ回路31とノイズ低減部32とを備え、ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34と、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35と、を備える。コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回されるとともに第1の巻線60から離れつつ対向する第2の巻線61と、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を覆う環状かつ薄膜状の導電体としての金属薄膜70と、を備える。金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61の間において対向する部位同士が離れており、金属薄膜70の外周面には絶縁層91が積層され、絶縁層91の外周面には金属薄膜70よりも肉厚である金属製の放熱層としての金属板90が積層されている。金属板90には、金属薄膜70における周方向について不連続となるようスリットとしての離間部95が設けられている。
【0066】
よって、金属薄膜70において発生する熱が放熱用の金属板90を通して逃がされ、放熱性に優れたものとなる。また、金属製の金属板90には、金属薄膜70における周方向について不連続となるようスリットとしての離間部95が設けられているので、第1の巻線60及び第2の巻線61に通電されても、発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく金属板90の内部において誘導電流が周方向に流れることはない。また、金属薄膜70よりも厚い放熱用の金属板90が熱マスとなり、放熱性がよい。
【0067】
(2)金属薄膜70と絶縁層91と金属板90との積層体は両端において金属薄膜70が他の層からはみ出しており、はみ出し箇所のみを互いに接合することにより金属薄膜70が環状をなす。よって、環状の金属薄膜70を容易に製造することができる。
【0068】
(3)金属板90に熱的に接合される放熱部材としての底壁部15aを更に備える。よって、更に放熱性に優れている。つまり、底壁部15aであるアルミ部材に、放熱用の金属板90を熱的に結合させることで、冷媒による冷却も期待できる。
【0069】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
図11に示すように、樹脂層80と金属薄膜70と絶縁層91と金属板90との積層体は樹脂層80を最内層とし、その外周側において金属薄膜70の端部70a,70bを接合し、その外周側に絶縁層91を介して金属板90の端部90a,90bを配置して金属薄膜70が帯状かつ無端状をなし、金属板90が不連続状態で配置された構成としてもよい。
【0070】
○樹脂層80は、ポリイミドの他にも、ポリエステル、PET、PEN等で構成されていてもよい。
○巻線60,61と金属薄膜(導電体よりなる薄膜)70は、それぞれ、別々に(個別に)保持してもよい。
【0071】
○金属薄膜70は、銅箔の他にも、アルミ箔、真鍮箔、ステンレス鋼材の箔等で構成されていてもよい。また、銅などの非磁性金属に限らず磁性金属でもよい。ここで、金属薄膜70は鉄のような磁性金属を用いた場合には誘導電流が流れることに伴いさらに磁束が生じるので悪影響を及ぼす可能性があるので、非磁性金属が好ましい。
【0072】
○金属薄膜70は、コア50の全長(図3(a)でのX方向における全長)にわたり覆うように形成してもよい。
○放熱用の金属板90は、銅に代わり、アルミニウム、ステンレス鋼材等でもよい。
【0073】
○放熱用の金属板90は、図3(c)等に示すごとく周方向において1箇所だけ離間部95を有していたが、周方向において複数箇所にわたり離間部を有していてもよい。
○放熱用の金属板90から放熱部材としての底壁部15aに逃がしたが、放熱用の金属板90から大気に熱を逃がしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
11…車載用電動圧縮機、18…圧縮部、19…電動モータ、30…インバータ装置、31…インバータ回路、32…ノイズ低減部、34…コモンモードチョークコイル、35…Xコンデンサ、36…ローパスフィルタ回路、50…コア、51…第1の直線部、52…第2の直線部、60…第1の巻線、61…第2の巻線、70…金属薄膜、90…金属板、91…絶縁層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11